「生きる」を考える

斎場にて人生の終焉を見送る 元介護職 兼 介護支援専門員の日常

埋葬・火葬許可証、分骨証明書が必要な訳

 70代男性T様の火葬があった。

 葬儀社で葬儀を終えてから斎場へも遺族は子供を含め30人来ていた。

 炉前で故人へのお別れをするのにも冗談を言っては笑い合い、時間がかかっていた。

 他にもお別れをして火葬の順番を待つ故人、遺族があるので、私は会を進めなければならなかった。

 だが私が口上を述べようにも、近くで遺族同士での話が止まらない様子だったが、私は半ば強制的に進めた。

 そして終わってもその場を動こうとしない遺族を、引率して来た葬儀社アシスタントに促して控室へ誘導してもらい、30人皆に続いて歩いてもらうよう、斎場職員も遺族を促しながら火葬棟を出てもらった。

 1時間位経つ頃、アシスタントが火葬棟へ火葬の火が消えているか確認に来た。消えていたら間もなく収骨に呼ばれるので、遺族に準備の為の声掛けをする為だ。

 その時にアシスタントと少し話すと、式場でもなかなか棺の蓋を閉められず、大変だったとの事。そして火葬中だったその時は遺族はまだおしゃべりしながら食事が長引いているので、もしも火が止まっていたら遺族を少し急かさないと、収骨に移動するのもまた時間がかかってしまうと困惑気味だった。

 ちょうど、後から火葬が始まった人の方が先に火葬が終わったので、順番は逆になるが、そちらを先に収骨に入ってもらう事にして、他社アシスタント同士でも情報を共有してくれて有難かった。

 T様の収骨を私が担当するになったので、こちら主導で進めようと心に決めた・・のだが、なかなかそうはいかなかった。

 喪主はT様の奥様だった。

 持って来た骨壺に入りきれず、娘様が何とか入れられないかと言われるので、お骨を小さく砕く程たくさん入れる事は出来る旨を伝えると、喪主様が「砕かず残っている骨をこのままで」と言われ、骨壺は閉める事になった。

 壺を包んでいる間に、娘様が少し持ち帰りたいと骨を一つ取った。喪主様がいいと言われたので、証明書は骨壺に対してのみ発行されているので、最終的にはこの壺に入れるようにと説明し、了承を得た。

 残った骨はどうなるのかと喪主様に尋ねられ、供養塔に収められると答えると「安心しました」と言って収骨室を出られた。

 あとは締めの挨拶をするばかり・・なのに、娘様が収骨場から離れない。

 少し・・いや、だいぶ待って、遺族の一人が

「これ、ずっと待ってなきゃダメですか?」と聞いてきた。傍に居た喪主様に「先に締めましょうか」と話して締めの挨拶をし、喪主様御一行様が火葬場を後にされた。

 収骨室の中に残った娘様とお子様が、紙袋に体全体の骨を入れている。少し離れた入口近くにご主人と思われる方が黙って立っていて、私と暫く目を合わせ、どうすることも出来ないという表情だった。

 娘様家族が火葬場を出る時に、他の職員が「分骨証明書が要るのでは?」と言った。責任者に説明すると責任者が娘様を追いかけ、証明書の発行手続きを促した。

 

 人が亡くなると死亡診断書に基づき、市区役所、町村役場から火葬許可証、斎場使用許可書が発行される。火葬許可証は火葬後には埋葬許可証として収骨をした骨壺の中身を証明するものとなり、墓や納骨堂に収める際に管理事務所に提出するものである。

 これとは別に、手元に置いておきたい、喉仏だけ本願寺に収める等、別の場所で保管又は別の場所に収める場合には、葬儀社や自前で骨壺を用意する事も可能だ。その場合、一壺に一通、もしくは収める場所一ヵ所に一通、斎場受付で分骨証明書の発行を受ける必要がある。

 仮にその時は手元に置いておく為だけに持ち帰ったとしても、将来的にどこかに収めなければ、人骨を勝手に蒔いたり埋めたりするのは違法行為にあたる。

 樹木葬、海洋散骨をうたう業者は、行政の許可を受けて決められた場所で行っている。

 

 娘様は、手元用に湯飲みの大きさの分骨壺を買い求め、T様の里へ持ち帰る骨用との2枚分、分骨証明書発行の手続きをされた。

 分骨証明書は収骨をしたその時にしか発行されないので、帰宅した後や後日では発行してもらえない。

 あのまま証明書を出さずにあの量の骨を持ち帰っていたら取返しのつかないことになるところだった。

 娘様の帰り際に気付いてくれた職員に感謝だ。

 勉強になった。