十になった子供の頃から、やし酒飲みだったわたしは、やし酒を飲むことしか能がなかった。父は町一番の大金持ちだったので、五十六万本のやしの木がはえたやし園をくれ、わたし専属のやし酒造りの名人を雇ってくれた。わたしは、毎日、百五十タルのやし酒を午後二時前には飲みほし、夕方からさらに七十五タルのやし酒を朝までに飲んでいた。ところが十五年目に突然父が死に、その六か月後のある日曜日の夕方、やし酒造りは、木から落ちて死んでしまった。新たなやし酒造りの名人を雇おうと探したが見つからず、死んだやし酒造りを探す旅に出た。
めっちゃ好みでした。
多和田葉子さんが、エッセイでピックアップされていたので気になっていました。
解説によると「クレオル英語」で書かれているそうです。
もうねぇ、なんてゆーか、ウソクソ話にもほどがあるというか、神話とか民話とかのありえへん話、代々伝わるほら話を全部ぶっこんだような、めっちゃおもしろいお話でした。
死んだやし酒造りの名人が住むという「死者の町」目指して旅にでるのですが、その場所がわかりません。
”ジュジュ”という鳥やトカゲに変身できたり、妻を木の人形に変えたり(旅の途中、ヤバくなると妻を人形に変えてポケットに入れ逃げるのダ。意外と愛妻家?)できる呪術というか魔法みたいなのを身に着けて、自ら”神々の<父>”と名乗り、まずはある老人(神)のもとを訪ねます。
しかし、老人は、やし酒造りの居場所を教える代わりに「死神」を連れてこいと命じます。
そして、首尾よく「死神」を捕まえたのに、老人に逃げられ次の町へ。。。
その町の長は、奇妙な生物に誘拐された娘を連れ戻してくれたら教えると交換条件を持ち出します。
誘拐犯は、美しく”完全な”紳士で、市場でその男を見かけた娘は、男の忠告も聞かずついて行ってしまい、囚われの身に。
おい、誘拐ちゃうんかい。
しかし、この男の美しさは全て借り物で、帰る途中、それぞれの持ち主に借り賃を払い、借りていた部分を返していきます。
左足、右足、腹・アバラ骨・胸、両腕、首、頭の外皮と肉を返し、とうとう「頭ガイ骨」だけに。。。
他にも、文面だけでは想像できないような未知の生物が続々と登場して、あまりにも荒唐無稽すぎて、ホラー嫌いでビビりな私も、あっけにとられ、まったく恐怖を感じませんでした。
この後、助け出した娘と結婚するのですが、妻の親指から男の子:ズルジルが生まれ、町一番の乱暴者で、その邪悪な性格のため町の人々から相談をうけ、一計を案じた父親であるやし酒飲みが、焼き殺してしまいます。
しかし、焼け跡の灰の中から……。
その後も、妻と二人、旅を続けるやし酒飲み。
「幽霊島」、「不帰(かえらじ)の天の町」(名前はステキだけど、「この町は、神に弓引く者だけが――残虐な、貪欲な、非情な生物だけが――住んでいる町なのだ」って、それってニンゲンのこと?)、「誠実な母」の棲む「白い木」の中で暮らし、「赤い婦人」に連れられて「赤い町」へと旅は続きます。
「森林の生物」界に君臨する最大の実力者:「幻の人質」=「ギブ・アンド・テイク」の罠から逃れたり、王子殺害の濡れ衣を着せられるも、賢い王様のおかげで、死刑を免れたりと、波瀾万丈の旅は続きます。
そして、道中、いつの間にか妻が予言者になってます。
これがまた、よく当たることと言ったら。。。
途中では、「死」を売り「恐怖」を貸与して、「死」は売っちゃったから「死なない」し「恐怖」も感じないなんて、都合の良いセッティングもおもしろくて、無敵や~ん。
あまりにもいろいろな出来事が次から次へと起こりすぎて、2回読んだけど、ストーリィの流れに必然性を見つけられず、次のページに進んだら、前の出来事を覚えとられへん。
だってねぇ、間髪入れずに変な出来事、変わった出来事、おかしな出来事の連続やねん。
まるで息つく暇もないジェットコースター仕様です。
で、そこに、なにか教訓だとか寓意だとか戒めだとかが、あるかと言うと……。
んー、特には見当たらんような。
いや、ちょっとはあるかな。
でも、たいしたことないよ。
でも、めっちゃ楽しいねん。
最終的に、やし酒造りの名人に再会することはできたのですが、やはり死んだ人間を連れ帰ることはできなくて、代わりに卵を一個もらいます。
この卵が、また最強スペックで、大飢饉から人々を救い……。
しかしながら雨は、三か月間、いつものように整然と、降りつづき、その後飢饉は、二度とおこらなかった。
おしまいは、こんな感じです。