高等教育におけるキャリア教育について、中教審から2件の話題が出ているが、
どうにも的を外している感が否めない。
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職業指導:全大学で導入へ 義務化も視野に--中教審、来年度から
毎日新聞
2009年7月14日
◇入社3年内の離職率35.9%
就職後すぐに離職する若者が増えるなど、学生の職業・勤労観形成が課題になっているとして、中央教育審議会大学分科会は、すべての大学や短大で「職業指導(キャリアガイダンス)」の授業を導入する方向で検討を始めた。科目として義務化するか、各大学に努力義務を課すにとどめるかなど、具体的な制度設計を急ぎ、早ければ来年度からの導入を目指す。
同分科会の作業部会が「社会人として必要な資質能力を高めるためにも、職業指導を教育課程に位置付けることが必要」と提案し、14日の会議で大筋了承された。
分科会の委員からは「大学には本来(職業について)何らかの意図を持って入るはず」との意見も出されたが、「将来が見通しにくい社会構造になっている」などとして、入学してから職業意識の形成を図ることや、自分の適性を考えることの必要性を認める意見が大勢を占めた。
1~2年次の選択科目などを想定しており、大学設置基準の改正なども視野に議論する。
【以下、略】
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中教審:職業教育特化の新学校 高卒者を対象に--部会提言
毎日新聞
2009年7月15日
中央教育審議会の特別部会は15日、実践的な職業教育に特化した新しい種類の高等教育機関の整備を求める中間報告をまとめた。「ニート」など若年無業者の増加や、早期離職率の上昇を防ぐ方策として提案しており、さらに具体的な制度設計を進める。
想定しているのは、既存の大学や短大、専門学校などとは別の枠組みで設置する学校。高卒者を対象に受け入れ、実務経験のある教員を中心に、各業種で求められる中堅人材を育てる。
具体的には「実験や実習などの授業を4~5割程度行う」「企業へのインターンシップを義務づける」などのイメージを示し、卒業までの年数は「2~3年」または「4年以上」とした。
【以下、略】
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既存の大学の職業指導を強化する方向性を示す一方で、職業教育に特化した新学校構想を出してくるあたりが、場当たり的な発案と見えてしまう。同じ中央教育審議会からの発信ではあるが、「大学での職業指導強化」が大学分科会
、「新学校構想」が特別部会(たしかキャリア教育・職業教育特別部会
)。仲、悪いのだろうか?
さて、この2件に共通するのは、大学の職業教育が充分ではないという認識だろう。それを新学校設置という方法で補うのか、既存の大学カリキュラムで強化するのかというアプローチの違いかと思う。
しかし、そもそもの問題意識は、早期離職やニートの問題から。
ならば職業教育を強化すれば、早期離職やニートの問題は解決するのだろうか?
現在の大学の状況から言えば、10年前と比較すれば驚くほどキャリア教育や就職支援に力を入れている。
仮に10年前と比較して、離職率やニートが増加しているということであれば、
現在のキャリア教育を強化したところで、本質的な解決にならないのは目に見えているのではないだろうか。
これは個人的な見方であるが、現在の学生に足りないものがあるとするならば、それは職業意識やテクニカルな職業技術ではなく、仕事を行っていく際の忍耐力の方ではないだろうか。現在の就職課・キャリアセンターでは、様々なガイダンスで職業意識を高めさせる工夫をしているが、結局入社してからの仕事というのは大学時代に描くものとは少なからず乖離する。その際にアジャストしていけるのか。その忍耐力を身につけさせる方が、よほど離職率改善には役立つはずである。
では、どうすべきかというと、職業指導に力を入れるのではなく、卒業後に就職する学生が多数いることを前提に、育成する能力を明確にしてカリキュラムを再構築するということである。それは職業指導科目を設置するといった類でなく、発信力強化であればプレゼンを組み込む、コミュニケーションスキルであればグループワークによる授業展開を増やすといった形でカリキュラム全体としてキャリア形成を意識した展開を行うことであろう。今でも研究者養成意識が高く、情報収集能力や論文作成能力に重きが置かれているカリキュラムは多い。実際、授業のまとめとしてレポートを科す科目はどこでも多いだろうが、発表を科す科目はどの程度あるだろうか。
現実には、なかなかカリキュラム全体でシフトさせることは難しく、キャリア科目を設置することで「キャリア教育やっています」といったPRをする大学が多いように感じる。そもそも数コマのキャリア科目で形成できるのはキャリア意識や職業知識であって、会社での業務遂行能力(プレゼン力、分析力、文章力、チームプレー等)ではないだろう。
授業名が「哲学」であっても、グループワークもできれば発表もできる。時には厳しい指導で忍耐力をつけさせることもできる。そうした教育の中身にこそ大学は手を付けていかねばならない。