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『異郷生活者たち』The Exiles

  ロンドン出身のケント・マッケンジー(1930-80)による記録映画『異郷生活者たち』The Exiles(1961)は、1950年代にアメリカ南西部の居留地を離れ、カリフォーニア州ロサンジェルス、バンカーヒルに定住した数人のネイティヴ・アメリカンの金曜の夕方から朝にかけての14時間を扱っている。
 1958年1月に撮影開始され、1961年4月に私的に初上映された。主な撮影機材は35ミリ・アリフレックスで、ほとんどの音声は別録音もしくはアフレコだ。「ヒルX」Hill Xと先住民特別居留地の場面はミッチェルNCで撮影され、同時録音された。
 ヴェネツィア映画祭とサンフランシスコ映画祭でプレミア上映された後、1961年5月に、冒頭のアメリカン・インディアンを被写体とするエドワード・S・カーティスの初期写真の序が付け加えられた。
 1964年にパテ・コンテンポラリーが配給権を取得したが、16ミリで非商業上映されるにとどまった。
 2008年にUCLAにより35ミリで復元され、チャールズ・バーネットの『羊屠殺者』Killer of Sheep(1977)を2007年にヒットさせた北米Milestone Filmsは『異郷生活者』のUCLA映画・TVアーカイヴによる2006年の復元版を2008年2月のベルリン映画祭で初上映し、ニューヨークのIFCセンターで7月11日に商業公開した。
 Milestoneは出演者の消息を探したがほとんど情報は得られなかった。主要登場人物の1人ホーマー・ナイシュは、マッケンジーが亡くなって2か月後の1980年7月5日に亡くなっていた。

 
 『異郷生活者』予告編(英語)

 
 『異郷生活者たち』は、映画作家・批評家トム・アンダーセン(1943年生まれ)がヴィデオ・エッセイ『ロサジェルスが自ら演じてみせる』Los Angeles Plays It Itself(日本上映題『演技する都市 ロサンゼルス』。2003)で引用したことから再発見された。
 
  『異郷生活者たち』公式サイト(英語)

  『異郷生活者たち』DVDはMilestoneより2009年11月17日に発売された。

偽映画乞食-異郷生活者

 特典として、ケント・マッケンジーの3本の短編、『バンカーヒル 1956』Bunker Hill - 1956(1956)、『イヴァンと父』Ivan and His Father『モリーナのための技能』A Skill for Molina(1964)を収録。

 [2009年11月26日付記]英国BFIから2010年3月22日に『異郷生活者たち』のDVDが発売された。
 [2014年2月3日付記]『異郷生活者たち』が第6回恵比寿映像祭で2014年2月7日、12日、14日に上映される。この機会に、本記事の表記等を一部改めた。以下に、別のブログに掲載したことのある記事を再編集して転載する。


 金曜の午後4時、急坂のケイブルカー「エンジェルズ・フライト(天使の飛翔)」のあるロサンジェルスのバンカー・ヒルのグランド・セントラル・フード市場で、若いアパッチ族の妊婦イヴォン(イヴォン・ウィリアムズ)が店を見て回る。彼女は買い物袋を抱え、坂を上り、家に帰る。

 イヴォンの家には、彼女の夫、ワラパイ族のホーマー(ホーマー・ナイシュ)と、寝そべって雑誌を読む彼の友人の男と、ベッドに寝ているアートという男がいる。

 イヴォンは夕食を作る。彼らと同居するメヒコ(メキシコ)人のトミー(トム・レノルズ)とチョクトー族のクリフ(クリフォード・レイ・サム)ともう1人の男がやって来る。仕事のない彼らは毎日のようにこの家で過ごす。

 夜になり、イヴォンは2本立ての映画を観に行き、男たちはこの界隈のインディアンが集まる大きなバー、カフェ・リッツに行く。トミーとホーマーとクリフは、次々に顔なじみに挨拶して、奥の席につくと、若い女給のアンをからかい、酒を飲む。

 そこにジカリラ・アパッチ族の知人リコ(リコ・ロドリゲス)が来る。ホーマーはリコと一緒に店を出て、ポーカーをしに行く。

 ホーマーはコロンバインという店に立ち寄った後、リコに酒屋で酒を買わせる。店の外で待つ間、ホーマーは両親からの手紙と写真を見る。
 ホーマーの両親は妹たちと一緒に先住民特別居留地でのどかに暮している。

 ホーマーとリコは長いトンネルの中を歩き、リコのアパートに行く。リコの6人の家族たちはTVを観ている。リコは妻から3ドルをもらい、ホーマーと出かける。

 リコとホーマーは、男たちがポーカーをしている部屋に入り、ゲームに加わる。

 その頃、イヴォンは1人で映画を観ている。

 カフェ・リッツでは、トミーが、アイリッシュとプエブロ族の混血娘クラウディン(クラウディン・パーカー)をナンパする。クリフは、ピマ族とマリコパ族の混血娘メリー(メリー・ドナヒュー)をナンパして連れて来る。

 彼ら4人は踊り明かすため、店を出て車に乗る。トンネルの中、クリフは酒を飲みながら運転する。ほかの3人も酒を回し飲みする。

 イヴォンは1本目の映画を観終える。休憩時間になっても彼女は席を立たない。(彼女が観る映画は、シドニー・サルコウ監督、スターリング・ヘイドン主演の1957年の西部劇『アイアン・シェリフ』The Iron Sheriffだ)。

 ポーカーをしていたホーマーは負けがこんでくると突然、席を立ち、出て行く。リコもあとを追う。

 クリフは給油所で車を停める。クリフは助手席にいるメリーにガソリン代1ドル50セントを払わせる。
 メリーが手洗いからなかなか出てこないのでトニーが呼びに行くが、やはり彼女は出てこない。トニーは車に戻り、メリーを残して車は行ってしまう。

 リコと共にもう1人の男の駐車した車の中で酒を飲んでいたホーマーは車を降り、1人で酒場に入る。リコはホーマーにリッツに戻ろうと言うが、彼は聞き入れない。ホーマーは客の1人と喧嘩を始め、リコは1人で出て行ってしまう。

 映画館を出たイヴォンは靴屋や宝飾店やブティックや写真館のショーウィンドウを眺める。彼女は幼い頃の居留地での生活よりロサンジェルスでの生活のほうが気に入っている。だが彼女が願っていた結婚と家庭は結局得られなかった。彼女は夜道を歩いて、ピマ族の女友達マリリンのアパートに行く。

 ホーマーは駐車した知人の車の後部座席で酒を飲んでいる。酒場は午前2時に閉店となり、大勢のインディアンが表に出てくる。
 彼らの大半は車で街を見下ろす「ヒルX」Hill Xと呼ばれる丘に向かう。彼らは伝統的なインディアンの太鼓のリズムに合わせ、歌い、踊る。トミーとクリフとクラウディンも車でやって来る。ホーマーも別の車でやって来る。

 イヴォンはベッドに寝そべって、マリリンの家族写真を見る。

 トミーは無理やりクラウディンにキスしようとして拒まれ、彼女を殴り、立ち去る。

 クラウディンは車の助手席で仮眠し、朝を迎える。丘の上の車は2台だけだ。ホーマー、トニー、クリフ、メリーは同じ車に乗り、丘を降りる。

 6時頃、イヴォンはマリリンと並んでベッドで寝ている。イヴォンは目を覚まし、窓の外を見つめる。


 エドワード・S・カーティスは、1868年2月16日、ウィスコンシン州ホワイトウォーター生まれ。1900年にモンタナ州の平原インディアン、ブラックフット族のサン・ダンス集会に招かれたのをきっかけに、インディアン写真家として本格的な活動を始めた。
 1907年に民族誌『北米インディアン』The North American Indianの第1巻を出版。以後、23年をかけ全20巻の大作として完成させた。
 記録映画『首狩り族の地で』In the Land of the Head Hunters(1914) を監督。フラハティの『極北のナヌーク』Nanook of the North(1922)に8年先駆け、カナダ、ブリティッシュ・コロンビア州のクワクワカワク族を記録した。

 『首狩り族の地で』は修復され、Milstoneから教育用および家庭視聴用DVDが発売される予定だ。

 カーティスは1922年にロサンジェルスに移住し、写真館を開設。セシル・B・デミルの『十誡』The Ten Commandments(1923)の撮影助手を務めた。1952年10月19日に死去した。

 ミッシェル・ピクマル編、エドワード・カーティス写真『インディアンの言葉』(紀伊國屋書店、1996)、『ネイティヴ・アメリカンの教え』(ランダムハウス講談社文庫、2007)をも参照のこと。