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コーマック・マッカーシー『ブラッド・メリディアン 』は2010年のベスト作であることは、誰が何と言おうが、もう決まっている。

で、東浩紀『クォンタム・ファミリーズ 』。またしても傑作。国内部門は『クォンタム~』でもいいかな、という気分になってきました。

『クォンタム~』については高橋源一郎氏や大森望氏も絶賛のようですが、なんといっても、圧倒的なテクノロジー情報やイマジネーションをはち切れんばかりにぶち込んだ並行世界SFでありながら、家族の愛を求める人間味にあふれた物語に仕上げられているところが素晴らしい。同時に、著者・東浩紀の、意外なほどの、と形容してもいいと思う、エンターテインメント精神が発揮された作品であることに、正直、驚いた。ヴァイオレンス&セックスもしっかり完備してます。

気になっている人は、『クォンタム~』が、村上春樹『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド 』(新潮社)からインスピレーションを得ている作品であることは、ご存知であろう。
複数の並行世界を跨ぐ『クォンタム~』のほうがはるかに複雑であるが、いま、村上春樹『1Q84』(新潮社)が進行中であることも、なにやら面白い符合ではないだろうか。
かたや、そうであったかもしれない過去、かたや、もしかすると別の現在と未来。そして、両作品が、「男女」の「親子」の愛の物語であることも共通している。平野啓一郎『ドーン 』(講談社)のテーマと通底していることも興味深い。まさに時代性ですね。

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『クォンタム~』には、登場人物が村上春樹作品へのシンパシーを語るシーンもあり、村上春樹オマージュ的なニュアンスも色濃く感じられるものとなっている。
というわけで『クォンタム~』は、村上春樹ファンにもゼッタイのおすすめ。そして間違いなく近年の国内SFの白眉です。 (BJ塚本)

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私の家では何も起こらない 』(メディアファクトリー)というタイトルはもちろんウソで、この丘の上の古い一軒家を訪れた人間は誰もが、怖い思いをすることになる。というのは幽霊がいっぱい住みついているから。いわゆる幽霊屋敷。
(特定はされていないが気分としてはやはりイギリスの)この幽霊屋敷を舞台に、手を変え品を変えて幽霊話の短篇を繰り広げているのが、恩田陸初の幽霊小説『私の家では何も起こらない』だ。

幽霊になった事情がいろいろならば、幽霊の登場の仕方もさまざまで、実に確信犯的な幽霊バラエティ。身も凍る怖さとはちょっと違うファンタジックで愉しい幽霊小説です(実際にユーモラスな短篇まで揃っている)。ちなみにスプラッタ風味は抑え気味なので、血しぶきと生首が飛び交う小説が苦手な人も、きっといけます。

『私の家では何も起こらない』は怪談専門誌『幽』での連載をまとめたものだが、単行本刊行にあたり「われらの時代」というエッセイ風味の物語が加えられている。これがまた絶品。読むとまた最初から読み直したくなるという効能もあり、実際、私は2回半、読んじゃいました。

先週、その作者・恩田陸さんにインタビューさせていただいた。インタビュアーは、おなじみ杉江松恋さん。というわけで、【Book Japan】の作家インタビューの次回は、恩田陸さん登場と相成ります。内容は当然ですが、幽霊屋敷小説偏愛インタビューです。乞うご期待! (BJ塚本)

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秋山真之が世界の最先端の兵術を学ばんとアメリカに留学した時代のわずか50年前のアメリカは、まだこんなんだった、19世紀半ばの裏アメリカ物語。
コーマック・マッカーシー『ブラッド・メリディアン 』。
その物語の概ねのところは一言で書ける。
インディアンを虐殺して頭皮を剥ぎ(酋長クラスは生首も)、インディアンに悩まされている自治体に買い取らせる賞金稼ぎの一隊、その極悪非道の日々を描いたものである。
と、これだけです。

テーマはこうだ。見渡す限りの広大な荒野や砂漠のなかの、ほんの豆粒ほどでしかない人間たちは、なぜこんな行為に及ぶのか、そしてなぜこんな世界なのか。このテーマが様々なシーンでカタチを変えて繰り返される。
頭皮剥ぎ隊の参謀格・ホールデン判事(ジャッジ!)のキャラクターが見物だ。冷血無比でありながら、知性にあふれ、森羅万象に通じ、一隊の行為の論理的な裏付けを語り、世界を哲学で捉える、無毛の大男。「地獄の黙示録」でマーロン・ブランドが演じたカーツ大佐を彷彿とさせるホールデン判事。
「地獄の黙示録」といえば、原作は(ベトナムではなく)アフリカの奥地が舞台のジョゼフ・コンラッド『闇の奥 』。『ブラッド・メリディアン』はその西部劇版ともいえるだろう。

そしてなんといっても文体が圧倒的。自然の描写や人間の描写がカンマ(読点)なしでグイグイしかも高密度で繰り広げられるのだ。これが本当に凄い。
「動植物も含めた自然のなかの人間、それがこの物語の世界なのだから——、当然こういう文体になるわけさ、フフフ」とコーマック・マッカーシーが言ったかどうかは知らないが(たぶん言ってませんでしょう)、でもそういう意図であるのは、明白。
おまけに台詞は地の文だし、心理描写もない。「自然の心理描写を書けない以上、当然こういう文体に——」(以下同)、そういうわけです。
黒原敏行さんの訳もまさに全力投球。

というわけで、リーダビリティという言葉があるが、この小説はそんな言葉をはるか超えたところにある。したがって歯応えは、固いです。
ただしそこには、強烈に過酷で残酷で荒々しいなんとも幻想的で魅力的な世界が広がっている。未読のみなさんにはぜひこの世界を味わっていただきたい。
一昨年翻訳刊行で読む者に衝撃を与えた終末小説『ザ・ロード 』を超えるスーパー大傑作です。

今年、これを超える本はあるのだろうか。早くも2010年のベスト本と断言せざるを得ない本が登場してしまいました! (BJ塚本)

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新年早々のうれしいニュース。
辻村深月『ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。 』(講談社)が直木賞の候補に挙げられました。
『ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。』を読み、これは可能性ありだと思って、以前にこのブログでもそれについて書き、昨年最後のインタビューもさせていただいたので、密かに期待はしていました。とはいっても、なにせ初の候補ですからね、そこには当然高いハードルがあるわけですから。

『ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。』については、辻村さんのインタビューや掲載書評をじっくり読んでいただくとして——。
『ゼロ、ハチ~』もさることながら、2008年の末に刊行された『太陽の座る場所 』(文藝春秋)も強力です。こちらは男女の青春群像劇が叙述ミステリの枠で繰り広げられているのですが、『ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。』へとつながる女子小説としての色合いが強く、両作品の関連性は明らか。
どちらかを読んで気に入ったとすれば、あともうひとつも当然読むべきでしょう。ちなみに女の怖さにゾッとさせられる度合いでいうと、『太陽の座る場所』のほうが上です。


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つながり関連でもうひとつ。中田永一の青春恋愛小説第2弾『吉祥寺の朝日奈くん 』(祥伝社)が、相変わらずのストーリーテラーぶり。第1弾『百瀬、こっちを向いて 』と比べると全体の粒ぞろい度では『百瀬~』のほうがやや優れていると思うものの、『吉祥寺の朝日奈くん』はその表題作が頭抜けて面白い。『百瀬~』の4篇、『吉祥寺~』の5篇、全9篇のなかでトップだと思う。

「吉祥寺の朝日奈くん」は、このシリーズのなかの他の短篇にもあるのだが、読者には思いもよらなかった意外な謎が明かされつつ、物語が加速していくパターン。その周到さの組み立てレベルが明らかにワンランク上であるということがひとつ。そして、全9篇中、唯一、恋愛の肉体性に——。ここはこれから読む人のために書かないで おきますけど、要は極めてスリリングな1篇であると保証します。またしてもこの人の掌のなかで弄ばされたか、といった感あり。さすがは中田永一!(そしていつまでこの名前なのか!)


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いま、コーマック・マッカーシー『ブラッド・メリディアン 』(早川書房)を読んでいるところで、もうすぐ終わる。正確に書くと、もうすぐ終わりそうなところを、勿体なくってページを捲るのを躊躇しているような状態。えらいのを読んでしまった。もはやここまでくると確信できているのだが、はやくも2010年ベスト作! 本当に凄い作品だ。

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明日【Book Japan】のおすすめ本書評の掲載は、三浦天紗子さんのFriday新刊チェックですが、そのなかの1冊に、円城塔の新作『烏有此譚(うゆうしたん)』 が含まれています。「わからない」といわれる円城、その新作ははたして「わかる」のか? 乞うご期待! (そうはいいつつ、あの脚注のボリュームを見るに つけ、やっぱり結論は見えているような——) BJ塚本

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【Book Japan】のトップページに「翻訳ミステリー大賞シンジケート」のRSSを表示するマドを作りました(辻村深月さんのインタビューの下です)。翻訳ミステリーファンのみなさまはぜひご注目ください。

同サイトの第1次投票では、以前にこのブロクでも書いたドン・ウィンズロウの『犬の力』が第1位となりました。そうだろう・そうだろう、よし・よし。未読の方はゼッタイに読んでくださいよ。後悔させませんから。

以下はその第1次投票トップ5です。

●投票第1位 『犬の力 』ドン・ウィンズロウ/東江一紀訳 角川文庫

●投票第2位 『ミレニアム1 ドラゴン・タトゥーの女 』スティーグ・ラーソン/ヘレンハルメ美穂・岩澤雅利訳 早川書房

●投票第3位 『ミレニアム2 火と戯れる女 』スティーグ・ラーソン/ヘレンハルメ美穂・山田美明訳 早川書房

●投票第3位 『川は静かに流れ』ジョン・ハート/東野さやか訳 ハヤカワ・ミステリ文庫

●投票第3位 『グラーグ57 』トム・ロブ・スミス/田口俊樹訳 新潮文庫 

【Book Japan】では上記作品のうち『川は静かに流れ』を除いた作品の書評を収めていますので、ぜひお楽しみください。

ちなみに第9位に入ったジム・ケリー『水時計 』の紹介として、【Book Japan】での川出正樹さんの書評が翻訳ミステリー大賞シンジケートに流用で掲載されていることもお知らせしておきます。

翻訳ミステリー大賞シンジケートで本の情報を得て、ご購入については【Book Japan】をご利用ください。
ポイントがゼッタイにおトクですからね。

先週のブロクで採り上げた伊坂幸太郎『SOSの猿』(河出書房新社)がウィークリーランキングで早くもトップになりました。前作『あるキング』(徳間書店)に続き、ファンタジー性の強い作品。といっても『あるキング』の野球神話ほどではないですけどね。『SOSの猿』は伊坂幸太郎お得意の巻き込まれ系、正確には積極巻き込まれ系。出来は新作のほうが上だと思いますが、みなさんいかがでしょう。『SOSの猿 』の書評も収めていますので、ぜひお楽しみください。

『SOSの猿』といえば「孫悟空」が重要な役割を果たしているのですが、諸星大二郎が『西遊妖猿伝』(大傑作!)を「モーニング」で連載中でもあるいま、タイミングのいいことに、中野美代子さんの新しい西遊記研究本『「西遊記」XYZ   ─このへんな小説の迷路をあるく 』が刊行されました。中野さんは西遊記の研究者にして岩波文庫版の翻訳者。奥行きが広大なこの冒険奇譚についての中野さんの考察、とても気になります。 (BJ塚本)

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