と、言うわけで、ようやく仕事が落ち着いてまいりました。

さすがに転職して半年くらいは、しっかりやっとかないとねー。

いやはや、もう放置しまくりで、誰も読んでないでしょうが。


東京生活も半年経過しました。

最初は新宿で買い物ひとつするのに困ったものでしたが、いつの間にやらいろいろ探索しまくっていて。

まあそれなりに困らない程度に地理に詳しくなれました。


大阪に帰るのはあと1~2年後になりそうなんですが、まあせっかくの上京生活なんで、愉しんでやっていければと思います。





さて、とりあえず、ドラキュラの3話目を久々に更新しました。

が!!同時進行で、別のところにも乗せることになりました。

ブログで小説書くのって、簡単だけど、難しくもあるので・・・。


半年振りにマサキやフミカをいじってみると、ますますマサキのエロ化が進んでいて、これには自分もビックリです。フミカは僕の中では予想通りなんですが。

どうせならこのままパンツ大好き少年として自立していって欲しいと願う今日この頃。

まあ、肝心なところ以外は小学生レベルですからね。彼の場合は。18禁にならない程度でやってくれるでしょう。


お馬さんのほうは、自分が中山や東京競馬場に足を運べたこともあり、またも大幅な加筆修正が必要になってしまいました。いつか美浦に行けたら、栗東との違いなんかも書けるはずなので、やっぱりまだまだ知識も技量も足りないままスタートしてしまったせいで、道のりはさらに困難に・・・。ああ、やばい。


とりあえず、時間のある間に、ドラキュラ書き上げるぞー。

マサキに抱えられて、夜空のフライトも、まあ慣れたと言えば慣れてきた。

いつもは適当に、本当に散歩って感じ。

だから、こんな風に、目的地があるというのは、初めてじゃなかろうか。

しかも、それは、あたしの学校だ。

まさか夜中の3時に、パジャマにジャンパーを羽織って、マサキと二人で学校に行くことになるとは思わなかった。

「フミカさあ、やっぱり寒くね?」

まだ4月の終わりだ。夜は、結構寒い。

「気にしてくれるのは嬉しいんだけど・・・」

こらえようのない怒りの感情が、ふつふつと沸いてきていた。

「どっかの覗き魔がいなけりゃあ、ちゃんと服着て来れたのにねっ!」

「別にフミカのヌードに興味はないって言ってるだろ?」

しれっと言い放つマサキ。

確かに、コイツは、裸に興味はないのかもしれないけど。

下着に興味があるというのなら、よっぽど変態以外の何者でもないではないか。

スカートなんか履いていようものなら、ほぼ100%めくるか覗くかしてくる。

見た目が中学生、ヘタしたら小学生にも見えかねない風貌なればこそ出来る芸当だ。

「アンタにパンツ、ガン見されるのが分かってて、着替えなんて出来るワケないでしょーが」

「いいじゃん、見て減るものでもなし・・・それに、フミカの下着は最近凝ってきてるから、見てて楽しいぞ」

ニヤリと笑う顔が、本当に卑怯極まりない。

イタズラ好きの男の子の笑顔に、本気で怒るに怒れないのだ。

「まだ殴り足りないようね、この変態」

とは言うものの。

・・・見られるのが分かってて、ヘンな下着なんて履ける訳ないでしょーが!!

なんて絶対口には出来ない事を考えながら、あたしは右手をゲンコツにしてマサキの目の前に振り上げてはみるけど。

それはポーズでしかないことは、もうマサキにも分かってるはず。

「ちょ・・・ちょっと待て!落っとこしたらどーすんだよ!」

慌てる様が、実にわざとらしい。

大体、あたしが本気で殴ったところで、本当は痛くもかゆくもないはず、なのだ。

「それを言うなら『落っことす』でしょ・・・」

言葉尻を取りながら、本当は、マサキに抱きつかなくても、落ちないんじゃないかなって思っている。

地上でマサキに抱きつく程度の軽い力で、空を飛んでいる間落ちないというのは、重力とかを無視しすぎだと思うのだ。

足は宙ぶらりんの状態なのに、飛ぶ方向に平行に体が向いているのも、明らかにおかしい。

でも。

ま、お姫様みたいで、役得な気がするから、いーかなっ!

なんてこっぱずかしい事を思ってみたりしてる間に、学校に着いていた。


もちろん玄関の扉には鍵がかかっているけど、マサキにかかれば鍵なんて何の役にも立たない。

それは悲しくも、あたしが一番よく分かっている。

「はい、不法侵入開始~」

マサキは嬉しそうに開錠すると、ずかずかと校舎に入っていく。

「へ~、これがフミカの学校かあ」

その表情と行動から、興味津々な様子が伺える。

「そんな珍しいモノなんてないよ?普通科の学校なんだし」

「いやいや。素晴らしいところじゃないか」

マサキの足取りが軽い。

素晴らしい?・・・そんな大した学校ではないんだけど。

適当な教室の扉を開けると、マサキは深呼吸をして、感極まった表情で。

「処女の香りが充満してる。ここに住めたら天国だな」

「・・・お願いだから、犯罪者にはならないでね、マサキ」

あたしはがっくりと額を手で押さえた。

「そんなことよりも、とりあえず、音楽室に行こうよ」

「うーん、俺としてはまだあと30分はこの空気を吸ってからにしたいもんなんだが」

本気か冗談か分かりかねる発言をするので。

「もう、先にあたし行ってるからね!」

ふくれて、あたしが音楽室へと廊下を歩みだすと。

「・・・まあ、フミカが行きたいって言うんなら、しょーがないなぁ」

そんなあたしの横を、ふわりと飛んで、すり抜けていくマサキ。

あ・・・そうか。

さては、あたしがビクビクしていると思って、彼なりに音楽室に向かうように仕向けたんだな。

やっぱり、あの幼い表情とは裏腹に、200年生きてるだけはある。

「ちょっと!待ってよ、マサキ!」

あたしはマサキの後を追った。


そして、音楽室の前。

扉はもちろん鍵がかかっていた。

月明かりだけが頼りの暗い建物の中で、ドラキュラと二人で学校の探索。

しかもその理由は、音楽室にいるかもしれない幽霊を探すっていうんだから。

どんだけファンタジーな事になってるんだ、あたしの人生は。

なんて考えていると、ちょっと怖さがなくなってきた。

もちろん、そう思えるのは、隣にいるマサキの存在が非常に大きいわけで。

「ありがとね、マサキ」

なんて、照れくさくなるセリフを言ってみた。

「ん?」

扉の鍵が、カチリを開く音がする。

「そうかそうか。ようやく俺様に血を吸わせる気になってきたんだな」

「い・・・いや、それはないから」

すっかり忘れていたことを、あっさり言われてしまったので、慌てて否定する。

最近めっきりそういうことを言わなくなってきたと思ってたのに。

あたしの血は、特別なものらしい。

何が特別なのかも、あたしには分からない。

そう言えば、出会って間もない頃は毎日のように『血を吸わせろ』と言っていたものだけど、最近は全く言わなくなったな。

・・・なにか、あったのかな?

相変わらず、この少年の様なドラキュラは、つかみどころがないままだ。


「さーて、ではでは、幽霊さん、いらっしゃーい」

いつもの通りの余裕の表情で、マサキは勢いよく扉を開いた。

・・・ピアノの音は、聞こえない。

しん・・・とした空気だけが、あたし達の周りを包む。

「なんだ、誰もいないじゃん」

マサキはずかずかと中に入っていく。

あたしはと言うと、ちょっとやっぱり怖くなって、扉の前でお留守番。

「ふむ、ピアノ、ねえ」

おもむろに、マサキはピアノの蓋を開いた。

「・・・・・・」

急に、マサキの表情が変わる。

「ど、どうしたの?」

真剣になったときのマサキの表情は、凛々しくもある。

だけど。

・・・怖いのだ。それは。

「いや、別に」

マサキの表情は、すぐに戻った。・・・良かった。

「別にって・・・何かあったの?」

「うーん、あまりにも簡単すぎて、馬鹿馬鹿しくなってきた。フミカ、帰ろうぜー」

「簡単って・・・」

あたしが次の言葉を選んでいる間に、マサキは結論を出した。

「とりあえず、フミカの言う幽霊の正体、見たり、だな」

ぽいっと、何かをあたしに投げてきた。

不意打ちだったので、落としかけるけど、何とかしっかり掴んでみると。

「あ・・・」

それは、何の変哲もない、ただの、テープレコーダー。

まさか・・・。そう思いながら、再生ボタンを押してみる。

・・・このメロディは。

・・・風香ちゃんのピアノの旋律が、流れてくるではないか!

「な、なにこれ!?これが幽霊の正体!?」

「ま、そういうことみたいだな」

何の興味も沸かないと言わんばかりに、マサキは続ける。

「どっかの誰かが、ご丁寧に音楽室にわざわざ来た挙句、ピアノの蓋をあけて、迷惑にも夜中に音量を大きくして聞いてた。ってことになるな」

なんという迷惑なお話だろう。

「だ・・・誰よ!それ!」

思わず、あたしの語気が強まってきた。

「それは分からないけど」

それをあっさり受け流して、またもマサキは真剣な表情になる。

「フミカ、がんばって、そいつを探してくれない?」

「え・・・?」

いつもそうだ。彼の真剣な表情は、それだけで、あたしの思考を鈍らせる。

「多分、そいつ、憑かれてるぜ・・・?こっち側のヤツに、な」

今回だけは、マサキの真剣な顔が、崩れることはなかった。

今日で大阪とお別れです。

明日の夕方くらいには東京です。





いままでありがとう大阪!


これからよろしくおねがいします東京!



当分忙しくなるので放置続きますが、ごめんなさい。

ピアノには、誰もいなかった。

いなかったはずなのだ。

暗かったからといって、見間違えたということはありえない。

それなのに。

確かに、ピアノの旋律が、風香の弾いていたメロディが、あたしの耳には響いていた。

しかも、それは、あたしだけではなく、隣にいた風香にも、はっきりと聴こえていた。

・・・空耳な訳がないじゃない!!


目の前に起こった現実を信じることができないまま、あたし達は学校を離れた。

明日から、どんな風に学校に行けばいいのやら。

彼女と何も会話らしい会話も出来ない状態で別れたことを、少し後悔して。

「・・・はあ」

深夜2時。いつもの時間。あたしはお風呂から上がった体を上気させて、バスタオルで体を包んで部屋に戻ってきた。

しばらく、絨毯の上にそのまま座って、ぼんやりと今日のことを思い浮かべる。

・・・やっぱり、どう考えても、空耳ではないし、誰もいない中でピアノは弾かれていた。

これが夢ならいいんだけど、まぎれもない現実だ。

.「・・・はあ」

ため息しかつきようがない。

あたしは箪笥から下着を取り出す。

誰もいない部屋ではあるけれど。

カーテンもちゃんと閉まっているけれど。

あたしはバスタオルを外さずに、おそるおそる下着をつける。

窓に背を向けて、用心に用心を重ねて、パジャマを着ようとしたとき。


「ため息ばっかだな、今日のフミカは」

突然の少年の声が、当然のように。

・・・もう、これにも慣れた。

慣れたくはないんだけど。

「・・・相変わらず、ノックとかしないよね、マサキは」

プライベートもへったくれもありゃしない。

背を向けたまま、さっさとパジャマを全部着てしまって、あたしはベッドに横たわった。

ほとんど毎日のように、彼はあたしの部屋に勝手に入ってくる。

しかも、入ってくるところはドアではなく、一軒家の2階にあるあたしの部屋のベランダの窓から。

「それだけここが、俺にとってお気に入りの場所って事じゃん」

・・・またそーいう、嬉しくなるようなことを言う。

顔がにやけてしまうのがバレたくないから、あたしは顔を枕にうずめたまま。

少年は勝手にカップを取り出して、ポットのお湯を注いでいる。

「おっ、フォションかー。なかなかいい物買ってきたなー」

昨日彼のために買ってきた、アールグレイの香りが漂ってくる。

リプトンのティーパックだと文句を言ってくるから、仕方なく買ってきてあげたのだ。

・・・全く、最近はもう、あたしの部屋の物の配置まで覚えてしまったものだから。

部屋の主になんの断りもなく、勝手に使いたい放題しやがって。

「アンタさあ、そのカップ、いつも誰が洗ってると思ってるのよ?2人分をバレないように洗うのだって、一苦労なんだからね」

ふくれっ面をわざと見せ付けるために、ベッドに横たわったまま、少年を見た。

「ふーん、じゃあこれからはカップ持参のほうがいい?」

あたしの膨れた頬をあっさり受け流す様は、相変わらず、いいとこ中学生ぐらいにしか見えない。

紅茶の葉を入れた網をカップから外して、彼は瞳を閉じてその香りを嗅ぐ。

「うーん、まあまあだな、まあこんなちゃっちい網じゃしょうがないか。・・・やっぱティーポットも持参しよっかな」

そんな仕草が、やたらと様になっているのは、やっぱり彼の年齢が200歳を超えているからだろうか?


・・・彼の名前はマサキ。苗字は知らない。

マサキはいつも深夜にあたしの部屋にやってきて、夜明けまでに帰っていく。

そんな彼は、吸血鬼という。

実際に血を吸っているところを見たことがないので、これは彼の言うことではあるけれど。

しかしながら、空を飛び、念力を使い、体に付いた傷が一瞬で癒されるところは拝見させられてしまったので。

まあ、嘘ではないと思われます。はい。

そして、彼に言わせると、あたしの血は特別な物、らしい。

なにがどう特別なのかはさっぱり分からないし、別に知ろうとも思わないのだけど。

その血を吸わせてしまうと困るらしい、化け物の大群に襲われてしまうくらいなのだから、その話も本当のことなんだろう。

あたしが恥ずかしながら自殺を図ったとき、どうせなら血を吸わせろ、といきなりこの部屋にマサキがやって来たのがあたし達の出会い。

結局、マサキと出会って、あたしは自殺なんか考えることをやめた。

それからというものの、何故かずっと、この少年のようなドラキュラとの縁は切れぬままに、半年が経っていた。


「・・・で?なんで今日はため息ばっかな訳?」

相変わらず、熱いはずの淹れたての紅茶をごくごくと飲んでいくマサキ。

「んー・・・」

「なんだよ、はっきりしないな」

「信じてもらえるのか、あたし自信ないんだけど・・・」

横たわった体を起き上がらせて、ベッドの上に座って、枕を抱きかかえた。

「信じるもなにも、話してくれないことには理解のしようもないんだけど」

そりゃまあ、そうなんだけど、さ。

どうもあたしも、どう説明すればいいのか、よく分からない。

「・・・なんだよ、男に告白でもされたか?・・・ああ、そんな物好き、そういないと思うから、それは断るのはどうかと思うぞ」

そんな、失礼な言葉を平気な顔で放ってくるので。

「アンタねっ!」

・・・もちろん、グーパンチ。今日もバッチリ、クリーン・ヒット。

マサキの頭は、なぜかいつもあたしの右手の軌道にとって、都合のいいところにあるものだから。

「いって・・・あのな・・・」

涙目になって顔をしかめる、自称ドラキュラ。

「俺の天才的な頭脳を収めた美しい頭を、毎回毎回、グーで殴るな!グーで!」

「着替えの覗き方だけなら、まあ天才的って認めてあげてもいいけど?」

わざと、にっこりと笑うあたし。右手を握りこぶしのままで上に上げる。

「・・・フミカのヌードには全く興味ないんだけどなー・・・」

それを意に介さず、紅茶を飲み干す少年。

「悪かったわね、ご期待に添えない体で」

「いや、フミカの下着のラインナップは、なかなか俺好みでいいと思・・・ぶっ!!」

「死ね変態」

必殺の右ストレートが、マサキのあご辺りに炸裂した。

「ナ・・・ナイスパンチ・・・」

よろよろとよろめくマサキに、絨毯に少しこぼれてしまった紅茶が染みになる前に、きれいにさせてから。

今日起こった出来事を、洗いざらい、あたしはマサキに説明した。


「・・・ふうん、ま、ピアノの音が二人とも聴こえたっていうんなら、そりゃあ鳴ってたんだろうな」

それほど面白くなさげな表情で、マサキは2杯目の紅茶を飲み干した。

「・・・まあ、そうなんだけど」

「でもさ」

マサキはあたしが口を開いている間に、先を続ける。

「そのフーカ?ってのはそれなりにピアノが上手いんだろ?」

「・・・え?うん、だって、雑誌にも紹介されるくらいだよ?」

「じゃあ、そのピアノを弾いている幽霊ってのは、よっぽど上手いんだな。少なくとも、フーカと同じくらい」

・・・そう言えば、そうだけど。

マサキの着眼点は、あたしとはずいぶん違っていた。

「あの・・・さ、幽霊、っていう部分は、マサキにとってどうでもいい部分・・・なの?」

「どうでもいいんじゃない?俺幽霊って見たことないし」

「え!マサキでも、見たことはないものなの?」

ドラキュラであるマサキなら、幽霊の存在はいて当たり前なものだから、どうでもいい、という意味だと思ってたから。

「幽霊って、生きているモノの魂が、肉体だけ滅んだあとも現世に留まったモノの事だろ?人間的に言うと」

「・・・まあ、幽霊の定義って、そんな感じだと思うけど」

「俺が普段見るのは、死んだ肉体が動く方だからね。魂なんて俺も見えるものではないし、どうでもよくない?」

「そ・・・そう、ね」

なんとか頷きつつも。

死んだ肉体が動く方、を想像してしまって・・・気持ち悪くなってしまった。

「ま、なんにせよ、幽霊っていうのは魂だけで、肉体がないんだから・・・普通に考えたら、ピアノなんて、まず弾けないぜ?」

「そ・・・、そうなの?」

あたしが普通に考えても、そんなこと分からないんだけど。

なんて言葉は、当然伏せておく。

「当然だろ。肉体がないのに、どうやってピアノに触るんだよ?」

「えっと・・・マサキみたいに、念力みたいなので弾くとか?」

「あのな、この俺様でもピアノを念力で弾くなんて、鍵盤のキーを押すだけならまだしも、曲をまるまる弾くとかそんな器用な真似なんぞ出来ないって。それを幽霊なんて中途半端なやつに、出来るわけないだろ?」

マサキ様は、ご自分がお出来になれないことは、他人も出来ないと判断されるお方らしい。

けど、なんとなく、念力でピアノを弾くっていうのは、難しそうではある。

なんて、念力なんて全く使えないあたしが言うのも、変な話であるけれど。

「じゃあ・・・幽霊じゃないとしたら、ピアノは、誰が弾いてたの?」

当然の質問、だった。

けど。

「そんなの分かるワケないだろ」

あっさりと一蹴される。

「もう・・・なによ、それじゃなんの解決にもならないじゃない!」

「なんだよ、俺に解決して欲しいワケ?」

ニヤリと笑うマサキ。

「う・・・」

確かに、マサキは話を聞いてくれただけで、学校のことは彼に何の関係もない。

それに、あたしは、マサキの力が、卑怯なくらい凄いことであるってことを、十分理解している。

だからこそ、あたしに出来ることであれば、マサキの力に頼ることなく、あたし自身の力でやりたい。

でも。

こんな得体の知れない話だと、話は違う。

マサキがいてくれないと、正直心細い気がしてしまう。

どちらかと言うと、むしろあたしではなく、マサキ寄りの話と思えてしまうからだ。


「・・・ま、新しく紅茶を買ってくれたし、そのお礼くらいしないとなー」

そんなあたしの頭の中は、やっぱりこの子憎たらしいドラキュラには透けて見えてしまってるんだろうか?

「フミカ、久しぶりに夜の散歩に行くか」

「え?」

「そう言えば、俺、フミカの学校は行ったことなかったなぁ。今日はそっちに行ってみるか」

「・・・マサキ、いいヤツだねぇ」

「言っとくけどな、散歩だからな。散歩」

「はいはーい」

あたしは嬉しくて、つい、顔がにやけて崩れてしまったのも忘れていた。

・・・あまり可愛くないって自分で思うから、マサキには見せたくないんだけど。

「まったく、いっつもそうやって笑ってくれてたら、お願いされても聞きやすいんだけどなー」

なんて、ぶつくさとマサキが言うものだから。

やっぱり、あたしは、恥ずかしくなって、彼から顔を背けてしまった。



世界が、灰色だ。

あ、そうか。この世界は、あたしの過去だ。

過去の世界を思い出したとき、それはモノクロ調になるってことは、昔っからの不文律だもんね。

あたしは空から辺りを見渡している。

夢の世界は便利なものだ。あたしは一人で空を飛んでいた。

見慣れた風景。子供のころ、住んでいた街並み。


犬を引いて散歩している、白いワンピースを着た、小学生くらいの女の子がいた。

・・・あたしだ。

小さいあたしは、ボロボロと大粒の涙を流して、泣いていた。

そうか。あの時だ。

あれは散歩してるんじゃない。

お別れをしようとしているんだ。


あたしが拾ってきた子犬。

公園でうずくまって、野ざらしにされていた。

親に絶対だめって反対されて、それでも頑張って説得して、飼うのを許してもらって。

そうだ。あの時、引越しすることになってたんだ。

子犬は連れて行けなかったんだ。

引越しの前の、最後の、お別れの散歩。

泣きながら、お父さんが一緒に行くって言ったのを、頑として一人で行くって言って聞かなかったっけ。

お父さんに任せたら、きっともう、あの子は帰ってこないって思ったから。

ギリギリまで、一緒にいたかったんだ。

最後に、家に帰ってから鎖を離したとき、あの子はずっとその場を離れなかった。


あの子犬は今なにしてるんだろう?

お腹、すかせたら、きっと、気づくよね。

きっと、誰か、いい人に拾われてるよね?

まさか、保健所に連れてかれて・・・なんてことは、ないよね?

そう言えば、あの子犬、名前、付けてたんだけど・・・。

なんて名前だったっけ?

・・・思い出せないなあ。

「・・・だったのよ!!おかしくない、フミカ!?」

うるさいなあ。

あたしを呼ぶ声が聞こえる。

今、思い出そうと必死になってるのに。

「もう、聞いてる!?フミカってば!!」

あ、ダメだ。

急激に世界が消えていく。

真っ白になって、あたしは、目を覚ました。






「・・・うん、聞いてるって」

一応ね。と心の中で付け加えた。

「絶対、絶対、ぜ~ったい、おかしいって!!そう思わない!?フミカ!?」

お昼休みの食事後の、たわいないお喋りに花が咲く教室。

あたしの机を挟んで、向かい合わせで声を大にして、熱弁を奮う彼女。

「・・・うん、まあ、ね」

勢いに圧倒されて、一応、肯定するものの。

ワイワイガヤガヤな教室の中では、あたし以外、そんな勢いがあることも知らないんじゃなかろうか。

「これはねえ、絶対、幽霊よ。間違いない」

ぐっと拳を握り締めて、断言してくる、わが友人、松沢風香。

ちなみに、あたしの名前は、松本史香。

出席番号が続いているばかりでなく、最初の漢字も同じなら、最後の漢字も同じで、イニシャルまでH.Mで一緒。

高校2年生になって、クラスが変わって、彼女と友人になるのに時間はかからなかった。

「幽霊、ねえ・・・」

「もう、フミカ、信じてないでしょ!?」

普段は大人しくて、清楚な感があるのだが、相当に興奮している。

それもまあ、起こったことを考えたら、一応理解はできる。


起こったことが、現実であるのなら。


「でもさ」

それを、現実に起こり得ないと思うから、だろう。

「フーカ、たぶん寝ぼけてたんじゃないかな?毎日練習しすぎて、疲れてたんだよ、きっと」

今あたしが寝ぼけてしまってたのは、永遠の秘密にしておこう。

「そんなことないって!いくらなんでも、自分の毎日練習してる曲を、誰もいないところで聴く訳ないじゃない!」

瞬間的な、否定ではあるけれど。

「毎日練習して耳に入ってるからこそ、空耳って起こるんじゃないかなあ?」

「・・・う・・・まあ、そうかもしれないけど・・・」

お、我ながら、なかなかいい事言った。

「多分そうだよ、フーカさあ、発表会前で、疲れてるんだって」

風香は、ピアニストだ。今の姿こそ興奮してしまって普通の女子高生だが、実は雑誌でも紹介されているくらい、全国的な腕前を持っている。

一度ピアノを弾いている姿を見たけれど、それはもう、普段とは明らかに態度から違っていて、びっくりした。

「うーん、でもさぁ」

それでも、彼女の懸念は消えない。

「あたしがびっくりして音楽室に入ったら、リドが開いてたんだよ!?」

「リドって?」

「あ、ピアノの蓋のこと。暗かったから、よく見えなかったけど、椅子には誰も座ってなかったもん!でも、ピアノから音はするんだよ!?」

・・・彼女が言っていることを、頭の中で思い浮かべてみた。


夜の7時。一人でやっていた練習が終わって、音楽室の鍵を閉めた彼女。

辺りも暗いし、早く帰ろう、と鍵を職員室に戻したところで、忘れ物に気づいて音楽室に戻ると。

暗い音楽室の中から、彼女の練習しているピアノの曲が流れている。

恐る恐る、彼女が音楽室のドアを開けてみると・・・。

真っ暗闇の中、誰もいないはずのピアノが、彼女の曲を生き写したかのように、演奏をしている・・・。


思わず、ぞっとした。

けれど、ここでビクつくのも格好悪い。

「・・・そんなの、ありえないよ」

精一杯がんばって、普通に声を出す。

「あたし、幽霊とか、そういうの、まったく、信じてないもん」

そう言ってから、あたしは心の中で、自分の言葉をすかさず否定しそうになったけど。

「じゃあ、フミカ・・・今日練習終わるまで、一緒にいて~!」

言うと同時に、風香は強烈にあたしに抱きついて、泣きついてきた。

はいはい、と彼女の頭を撫でてやる。

けど、心の中では。

・・・あいつは・・・幽霊ではない、よね。少なくとも。

まったく別のことを考えていたので、さっきの子犬の名前は、もうどうでもよくなっていた。






風香のピアノは、本当に上手い。

ピアノなんか全く分からないあたしでも、聴き惚れてしまうくらい、彼女の腕は確かなものだ。

これならお金をとってもいいんじゃないだろうかと、素直に思える。

ひと時の優雅なピアノの旋律が終わると、あたしは何回目かの拍手をした。

「さすがだねー、フーカのピアノは本当に聴いてて飽きないもん」

あたし一人だけでこの音を独占しているという事で、余計に上機嫌になれる。

「やめてよー、実は2回くらいミスってるしね、下手な演奏を聴かせてごめんなさい、ってくらい」

照れながら風香は椅子から離れた。

「そろそろ、帰ろうか」

「だね」

彼女に促されて、あたしも腰を上げた。

「あたしもこんな楽器なんかを上手く弾けたらなー」

風香のそばに寄って、鍵盤を押さえてみる。

ボーン。トーン。

適当に押した白と黒のキーにあわせて、優しい音が響いてくる。

「フミカも何か楽器やってみたら?楽しいよ?」

「うーん、でもあたし、飽きっぽいからね。毎日真面目に練習するとか、3日でやめちゃうよ」

「フミカは手、細長いし、いい感じなんだけどなぁ」

会話が弾む。

いや、あえて、会話を弾ませている。

少なくともあたしは、昼の話題を思い出さないようにしていた。

「・・・帰ろっか」

ピアノの鍵盤に赤いフェルト布を敷いて、蓋を閉める風香も、同じ思いのような気がする。

むしろ、あたしよりも、話をした張本人だから、その思いは強いんじゃなかろうか。

あたし達は、音楽室の電気を消すと、しっかり鍵をかけたことを確認してその場を去った。


職員室に鍵を戻す。

「さて、帰りますか」

あたしが風香の顔をちらりと見ると。

「・・・」

風香は上目遣いで、あたしを見つめてくる。

「・・・どうしたの?」

「・・・フミカ、もう、まっすぐ帰る?」

「ん?」

「・・・音楽室、一緒に戻ってもらえないかな・・・?」

「え・・・?」

「なんか・・・気になっちゃって、さ・・・」

昨日あったことが、今日もあるかは分からないけど。

彼女にしてみれば、今日異変がなければ、きっと何かの間違いだろう、ということに出来るんじゃなかろうか。

「うん、いいよ、二人いれば大丈夫だし」

「ありがとうー・・・ごめんね・・・」

両手を合わせて頭を下げる風香。

高校生トップクラスのピアニストにここまでお願いされては、断る理由などないというものだ。

それに。

あたしは。

すでに人間じゃないヤツと、若干1名ほど、お知り合いになってしまっている。

切り傷を一瞬で治し、空を自在に飛び回り、念力なんかに手からカミナリをだすわ、挙句の果てに次元を捻じ曲げると、まあ尋常ならざる事の数々を拝見させられてしまっているのだから、今更怖いものなんてありはしない。

ふと、アイツの屈託のない笑顔が、頭をよぎる。

・・・ふんだ。

今にして思えば、200年以上生きているおじーちゃんに、2回もキスされてしまったというのは。

しかも、そんなのを好きなどと思ってしまったというのは。

あたし、あの場の雰囲気に流されてしまっただけではなかろうか?

・・・でも、あの少年のような風貌に加えて、端正な顔立ちは、とても200歳には見えないんだけど!

ほんっとに、見た目のいいヤツは得だよね!!

「・・・フミカ?」

はっと気づくと、心配そうにあたしを見つめる風香。

「あ、あはは・・・なんでもない、なんでもない」

思わず握りこぶしを作ってしまっていたので、慌てて手のひらをひらひらと振った。

「よし、行こっか」

あたしは風香の手を握って、音楽室へと戻った。


午後7時。まだ4月だし、もう完全に夜だ。

廊下も教室も電気は消えているから、わずかに光る月明かりだけが頼りだ。

階段を登って、音楽室へと続く廊下を、あたしと風香はしっかり手を握り合って進んだ。

「誰も・・・いないよね?」

「・・・う、うん」

暗い校舎は、びっくりするほど昼間の騒がしい雰囲気はない。

静寂という音のない空間は、逆に耳鳴りがしそうなくらい、ピーンと張り詰めていた。

何もないはずなのに、緊張する。

あああ、もう、やっぱり帰れば良かった。

なんて、不義理にも、友達を思わないことを思い浮かべたから、かもしれない。


「・・・!」

・・・聞こえる。

ピアノの音が。

風香の顔を見ると、彼女も、あたしを見つめていた。

「・・・き、聞こえる、よね・・・」

顔面蒼白になって、彼女はあたしを、おびえた瞳で。

そんな瞳で見ないでよ。

あたしだって、逃げ出したいのに・・・!

「・・・あたし、音楽室、見てくる」

勇気を振り絞って、あたしは前に進んだ。

・・・幽霊とか化け物とか、そういう類なら、あたしの方が慣れてるはずだもん。

少なくとも、あの時、アイツと二人でいたときに、化け物に実際に囲まれたときに比べたらーー!!

意を決して、あたしは音楽室の鍵を開けた。

でも。

やっぱり、怖い!!

心臓の音が、ピアノの音に重なって、もう訳が分からない。

震える手で、あたしはそっと、扉を開くと。


月明かりに照らされて、誰もいないはずの音楽室のピアノは。

誰もいないはずの椅子が、人が座っているかのように少し引かれていて。

ピアノの蓋は開かれていて、風香の演奏した曲と同じメロディが、確かにそこから流れていたのだーー!!


む、無理。


あたしは風香の手を引き、猛ダッシュで、一目散に。

その場から離れることに必死で。

声を出すのも忘れてしまうくらい、ただただ、あたし達は、逃げ出すだけだった。