音楽アルバムをメインに自己満足レビュー。
自分の持ってるCDをデータベース化するのが一応の目的。
基本的にいいと思ったものしか書かない&褒めちぎる主観レビューです。
満(かなり甘め)=自分が満足した度合い(10点満点) 薦(甘め)=人に薦められるかどうか(10点満点)
★10点満点仕様です。点数自体はあまり参考にしない方がいいです。
目安ですが、時々下方修正したりはしています。悪しからず。
移転しました。http://bluecelosia.hateblo.jp/うん、移転しました。今後ともよろしくお願いします。こちらの記事は気分次第であちらにも書き直しつつ挙げていきます。たぶん。
1. De underjordiske2. Feigdefugl ★3. I mulm og moerke4. Malum5. Volverite6. Naar solen blekner bort (Troll cover)7. Gandferdノルウェーのブラックメタルバンドによる2作目フルレングス。デジパックで歌詞ブックレットはありません。つけてほしかったな、この世界観をブックレットで眺めたかった。これぞブラックメタル!私はこういうブラックメタルをずっと聴きたかった。待ち焦がれていた。そんなポエミーな感情を抱いてしまうほど、この作品は「ブラックメタルとは何ぞや?」という問いに的確な音を放り込んできてくれます。曰く、Immortalのような吹雪吹き荒ぶ極寒のトレモロリフと荒ぶるブラストビート。曰く、初期Satyricon、Shadowthrone辺りの彼らの持つ妖美でうっすらと立ち上るシンセワーク。この辺りはLunar Auroraとも共振する妖艶さを湛えています。曰く、EnslavedやThyfing辺りのヴァイキング風の勇壮な盛り上がり。そもそもTrollのカバーをしているわけですが、このバンドのドラマーはTrollにもいたりするわけですし、G&VoはDodsfallにも参加していたり二人ともAstarothのメンバーでもあるので、要するにノルウェイジャンブラックに骨の髄まで浸かっている真性の方々なわけですよ。その為か、ノルウェーの気高いブラックメタルの血にほんのりとRawな凶暴性を滲ませているので、物凄くかっこいいです。アルバム全編、これでもかというくらい(ブラックメタルとして)キャッチーで冷たい美メロを掻き鳴らしてくれるので、私感無量。雪が降り積もる鬱蒼とした森の中を走り抜けるかのような世界観が広がるこの感じ。彼らの音はそういう意味で色彩豊かで、非常にイマジネーションを刺激されます。Voは中音域主体のがなり声に朗々としたクリーンもヴァイキング風に入れたり呪詛っぽく呟いたりもするタイプ。気が遠くなるようなアンビエンスにフォーキーなフレーズを織り交ぜて幻想的な空間を演出しながらトレモロをまとわりつかせるブラックメタルM-1、最初期Satyriconか初期Emperorのようなシンフォな空気を凶悪なブリザードで切り裂くM-3、じっくりとリフを紡いでヴァイキング風に勇壮に盛り上げながらも幻惑的なシンセを配置する個性的なM-4、凶悪なブラストビートとブリザードリフでImmortalのような音像を持ちながらもトールキンの世界か!と突っ込みたくなるフォーキーなシンセが不思議と溶け合う作品のハイライトM-5、原曲にかなり忠実な冷たいシンセワークが堪能できるノイジーなM-6、Lunar Auroraみたいにはじまったかと思えば急にMoonsorrowのような大作ヴァイキングブラックに変貌してトレモロが天空へ舞い上がるような錯覚を覚える約10分の大曲M-7と、どこをどう切り取ってもノルウェイジャンブラック。王道の冷たいトレモロギターがこれでもかと味わえるM-2がお気に入り。突っ走り気味のリヴァーヴがかかったドラムの感じも、非常に◎。ツタツタするドラムとクリーントーンのギターのパートの美しさから急にノイジーなトレモロが唸りを上げる展開までまさしく垂涎。ツボを押されすぎて昇天してしまいます。ここ何年かで、「あ、ブラックメタルだ」って一番感動したアルバムかもしれません。奇を衒ってないんですよ。はっきり言えば、今作よりエクストリームな作品・バンドはいくらでもあるし、山ほどいます。ですが、「あ、ブラックメタルだ」ってブラックメタラーの多くが頷けるアルバムって早々ないんです。退廃的ではなく、雪山のように冷たい。機械的に殺伐としたブルータリティではなく、人の体温が伝わってくるような凶暴性。革新的ではないにしろ、懐古的でもない。要は、この作品は多くのブラックメタラーがまさに聴いてみたかった「あ、ブラックメタルだ」な非の打ちどころのないアルバムだと私は思います。(2016年発表)満:★★★★★★★★★★ (10/10)薦:★★★★★★★★★★ (10/10)
何と言うことでしょう!遂にこの時が・・・!新譜も年内にリリースするそうですし、タイミングとしてまさに絶好ですね!Evokenさんありがとう!バンドの方じゃないよ!
1. Above Sacred Ground2. Descent into Madness3. Abyssal Depths4. Medusa5. The Ritual6. Succubus7. Demiurge8. Bestial Visions9. Temple of the Damned ★10. Seanceスウェーデンのデスメタルバンドによる初フルレングス。ペラい1枚物のクレジットカードが入っていますが、これがなかなかどうしてかっこいいです。惜しくも解散してしまった先鋭的なデスメタルバンドであるMorbus ChronのVoだったRobert Anderssonが新たに始動させたのがこのTemistoです。とは言え、メンバーの詳細は不明で、クレジットされているのはElias Scharmerなるプロデューサー。そのため、パーマネントなのはRobertだけで、彼が全ての演奏も担っているのかゲストを入れているのか、実際のところはわかりません。その音楽性は、Morbus Chronとは異なり残虐で陰惨なデスメタル。解散直前のMorbus Chronにあった70年代プログレあるいはサイケのような音像ではなく、懐古的ですらあるスウェディッシュデスに徹しています。とは言え、要所要所で聴ける静寂パートやインスト曲では叙情的で美しい側面もあるため、Morbus Chron(特に初期)のファンも納得できるはず。類似するバンドとしては初期のTriblationはじめ、Degial、さらにNecrowretch辺りが挙げられます。何より素晴らしいのが、悲壮感溢れる極寒のメロディー。それが切迫感溢れる演奏と合わさりと生まれる緊張感が最大の武器になっています。ツタツタ叩かれるドラムが主軸ですが、時折暴走気味にブラストが入ったりするのがなかなかにクール。ブラストと言ってもエクストリームな今っぽい感じでなく、非常に味わい深い感覚なので物足りないと思う人はいるかと思いますね。深いリヴァーヴがかけられた絶叫Voはなかなかに陰影に富んでいて、陰惨極まりない音楽性にも非常に合った感じでかっこいいですね。Morbus Chron在籍時のようなヒステリックさは健在ですので、安心して聴けるかと。逼迫するギターリフから立体的に組み上げられていく寒々しいM-1、一転どことなくDissectionのようなメロブラ感を漂わせながらも突撃してくるオールドデスM-2、勇壮なテンポに寒々しいトレモロをかけ黒々とした空虚感を叩きつけるM-3、美しいメロディーを挟みながらも狂ったようなソロで襲いかかってくる妖艶なM-4、陰鬱とした森の中に取り残されるようなギターインストM-5、暴走するドラムに乱反射するギターが美しいどことなくDsO的爆走感を持つM-6、派手なギターによる演奏から徐々に静寂に沈み込んでいくMorbus Chronを彷彿とさせるインストM-7、前曲を引きずったような繊細な出だしからどんどん狂気を増して狂った絶唱&暴走に雪崩れ込むM-8、余韻たっぷりに幕を下ろす短めのインストM-10となかなかに渋い作品。何気にリフがコロコロと変わっていく薄らとプログレ感も持ったM-9が大好き。この曲はまさにDismemberやDesultory辺りから続くスウェデス!って感じで非常にいぶし銀でかっこいいです。しっかりと抑揚もあって何気に聴きどころが多いのも◎。Voのドスの効いた調子も素晴らしいですね。北欧デスメタルが好きな方にはたまらないアルバムではないかと思います。非常に邪悪で陰惨ですが、それが故の美しさもあるのでデスメタルの入門作としても、私はオススメできますね。何気にプロダクションも良いのですが、それが音の良さや個性を殺いでるわけでなく、むしろ増幅させているので。邪悪な美しさに満ちた暗黒デスの逸品。(2016年発表)満:★★★★★★★★★ (9/10)薦:★★★★★★★★★ (9/10)
1. All Equal (feat BEE2)2. No Escape (from Balkan)3. Free.mp3 (The Pirate Bay Song)4. One More Time5. Boom! (feat Dzambo Agusev)6. Red Carpet (feat Manu Chao)7. Riot Fire (feat Benji Webbe) ★8. Alarm Song9. Hay Liberdad (feat La Pegatina)10. 24000 Baci (feat. Roy Paci) ボスニア=ヘルツェゴヴィナのバルカン/スカ/レゲエ/パンクバンドによる8作目フルレングス。初聴きです。ブックレットは黄色いこのジャケットそのままなテイスト。彼らDubioza Kolektivは今、欧米圏ではなかなか流行っているバンドらしいです。今度Hostessから日本盤も発売されるようですが、私が買ったのは輸入盤。一聴き惚れでした。彼らの音を端的に表現するならば民族レゲエパンク。民族音楽要素は根底にあるバルカンミュージックという東欧の民族音楽。バルカン音楽の中でもロマに分類されるジプシー音楽を源泉にしているようです。そこにパンクの性急さやアグレッション、レゲエのグルーヴ、ヒップホップのビート感などを掛け合わせた北米や西欧では生まれ得ない独自の音楽性を持っています。英語で書かれた歌詞は強烈に欧米や自国の情勢、情報社会を皮肉ったものが主軸で、かなり辛辣に書かれています。例えばM-3“Free Mp3”では違法DLなどに対して(だと思われますが)、“Pirate Gang Of File Shere-Wood”などと揶揄したり根本のリークに対して“Robin Hoods”と言ったり。また、「この世界には自由なんてない」と声高に叫ぶ曲もあったりして、今時珍しいくらい政治的な主張が強いバンドとしても有名なよう。肝心の音楽はと言えば、これまた絶品で前述のレベルミュージックを違和感なく折衷しているセンスの良さや抜けのいいプロダクションのおかげか、非常にカッチリしています。それでいて陽気なテンション&キャッチーなコーラスで突っ走るものだから大体の人はノるはず。今作はゲストも豪華であり、SkindreadのBenji WebbeやManu Chao、Bee2といったかなりアクの強い人選で脇を固めています。レゲエやスカの比重は結構高いのですが、ラウドロックからの影響も濃いので重たいハードなロックが好きな人にもオススメしやすいのも◎ですね。Voはなかなか味のある節回しで、民族的な歌唱法で歌われています。そのためか、ほぼ英語詞にもかかわらずあまりそうと聴こえないのが面白いところ。ラーガみたいな怪しいグルーヴで横ノリで揺らすパーティーチューンM-1、ダークで重たいハードなギターにサックスが絡むラウド&レゲエロックM-2、とぼけたリズムでキャッチーなコーラスと執拗に韻を踏むヒップホップ的な畳み掛けが癖になるM-3、絢爛にサックスが要所要所で吹き荒れる電子的な処理も非常にクールな性急なパンクソングM-4、バルカンビートにバングラを合わせてメロコアっぽい疾走感でミックスさせるモッシュサークルを煽るであろうM-5、こちらもシャカシャカしたバングラのリズムにブロステップなどを組み込みさらに高速四つ打ちで踊らせるM-6、ダブステップ×レゲエというかなり面白いことをさらっとやらかしている陽気かつ闘争心を煽るレベルソングM-8、哀愁のジプシー音階で踊れる気持ちいい軽妙なM-9を引きずったまま不思議な哀感でアルバムの幕を下ろす高速ジプシーパンクM-10と面白い作品です。サックスが喧騒を呼び込むM-7がお気に入り。このアルバム、全曲が異様にキャッチーなのですが輪をかけて耳に残るのがこれ。歌詞も「今すぐ暴動起こせ」とアジる内容で、中盤から挟まれるラウドな展開にもニンマリできます。サックスソロもかなりカッコ良くてキマっております!一回聴けば謎の中毒性で嵌ってしまう面白い作品でした。即効性もある上に、聞けば聞くほど根底のルーツミュージックの深みが顔を出す厄介な作品でもあります。エンターテイメントとしても完成されている上に主張的な強さもしっかり残っている。こういう音楽はどこの国であっても強いですね。人気なのも頷けます。民族音楽要素の強い作品をお探しの諸氏には自信を持って薦められます。(2016年発表)満:★★★★★★★★★ (9/10)薦:★★★★★★★★★☆ (9.5/10)
1. To Deliver Us All2. Salient3. Monolith of Internecion4. An Asylum for Penitence ★5. Corporeal Form6. Contagion7. Paths to Obliteration8. Corruptor 9. The Undying SeasonUSのメロディック/テクニカルデスメタルバンドによる2作目フルレングス。波打つように印字されている歌詞がかっこいいシックなブックレットがついています。皆さん、Cryptopsyは好きですか?好きですよね。私も好きです。このバンドSolium Fatalisは、何とそんなCryptopsyから二人も在籍しているバンドです。え、誰と誰って?ちょっと落ち着きましょう、鼻息荒いですよ。天下の鬼神ドラマーFlo Mounierさんと若手ながらも前作でその存在感を魅せつけたベースOlivier Pinard君です。はい、このバンドはFlo閣下の別プロジェクトと呼んで差支えないです。この二人にExecrecorというメロデスバンドのギターとVo、それに謎のギタリストを加えたのがこのバンド。その音楽性ですが、物議をかもしたCryptospyの「The Unspoken King」の路線に若干近く、非常にスッキリしたテクニカルデスと冷え切ったブラックメタル寄りのメロディーを折衷したスタイル。その為、聞かせどころは案外Floの異様なドラム(充分手数足数多いけれども)と言うよりは叙情的なメロと機械的なアグレッションなのかな、と思います。故に、ブルータルデスのえぐみは少ないので、Cryptopsyの怒涛の暴虐性を期待する諸氏には不向き。メロディーも冷たいブラックメタルのような感じで好みはありますが、特筆すべきところがあまり見当たらないのはマイナスかも。要するに、Cryptopsy組のサイドプロジェクトかなという印象を払拭するだけの驚きは自分にはなかった。とは言え、ツインリードの華々しい空気というか、メロデス然とした佇まいはちゃんとあるので、聞くに堪えないという感じでは全然全くもってないのでご安心を。ドラムもさすがのFloさんらしい激烈なブラスト地獄ではありますが、プロダクションとの兼ね合いもあってか、こちらでは比較的すっきりした味わいかなと思います。Voは威圧的なグロウルで押して押して押しまくるタイプ。むしろこのバンドでこそクリーンを歌わせればまた差異を図れたんじゃなかろうかと。不気味なサイレンの音に導かれるように暴走をはじめながらも合間にテクニカルなソロを挟むM-1、ミドルテンポで揺らすように迫ってきながらもソロの華麗さと共に一気にギアを上げるM-2、凄まじいブラストに厳つい咆哮が絡みメロディックに畳み掛ける獰猛なM-3、決して暴走しないリズムの中で荒れ狂うブラストにかっちょいいリフがまとわりつくM-5、冷たいブラッキンなリフに怒濤のブラストがつんざくメロディックブラックのような味わいのM-6、一転ゴリッとしたベースでドライヴィンに突っ走ってくれるテクニカルデスM-7、メロディアスなイントロをなかったことにするように超絶ドラムに焦点を当てたM-8、悠然と進軍する壮大な前半からやたら暴走するベースがおかしいM-9と駆け抜けるような作品。とろみのあるギターでゆったりとはじまるM-4がお気に入り。この曲は比較的ストレートに聴かせてくれるメロデスでして、Floのドラムも曲にしっかり添えたもので素晴らしいと思います。トレモロの冷たいギターメロディーも美味、ハイピッチに絞り上げるようなグロウルもかっこいいです。中盤の美しいブレイクダウンも聴かせどころで、その後に来る疾走パートも良いですね。さすがの出来ではありますが、Flo Mounier率いるデスメタルバンドという期待値には惜しくも届かないというか。それこそCryptopsyの「The Unspoken King」での振り切りをこちらで発散すべきだったんじゃないかとやっぱり思います(2回目)。ただ彼のドラムでメロディアスなデスメタルを叩くというこちらの試みは貴重ではあるので、聴く価値は大いにあります。(2015年発表)満:★★★★★★★★☆ (8.5/10)薦:★★★★★★★★☆ (8.5/10)
1. The Hymn2. Pagan Orphans Of Black Sun3. Enter The Infernal Darkness4. Sinister Ecstasy5. Immortal Black Chaos6. Grotesque Feast7. Hellstorm8. Under The Spell ★日本のメロディックデスメタルバンドによる初フルレングス。髑髏マスクをつけたメンバーのライヴ写真と歌詞のブックレットがついてます。というかこの髑髏マスクがどえらいかっこええんですけど。Intestine Baalismという国産メロデスの名バンドがありまして、そこのメンバーであるNonaka氏を中心としてTerror SquadのVoやQomolangma Tomatoのベース、RoseRoseや妖精帝國で叩いていたドラムや鐵槌のギターなど、錚々たる面子で結成されたこのバンド。メンバー編成から窺い知れるのは、大半がハードコア畑出身の人であるということ。しかしながらその音楽性は、90年代のスウェーデンのメロデスバンドのような、あの湿った叙情という。Nameless Oneのレビューでも触れたのですが、最近の国産メロデスはいいバンドが多いです。その中でも個人的に最も「あ、好き」となったバンドはこのAnother Dimensionだったりします。音はハイファイではありません。もう、完璧にあの時代のイェテボリ産メロデスの空気感に近づけてはいます。何なんですか、Sunlight Studioで録ったんですか!ってくらい、あの時代の音が好きな人は狂喜乱舞するはず。向こうのバンドでも今時ここまで徹底しているバンドはそんなにいないのではないか、くらい。ですが、メロディーの質やここぞとばかりで差し込まれるギターソロの哀愁などは、日本のバンドらしい個性に溢れています。ドラムも意図的だと思いますが、クリアに聴かせるというよりは、ダイナミックに「ドゴッ!」という感じで鈍いし、ハードコア寄りの前のめり感もあるのが非常にかっこいいです。そして私が最も胸撃たれたのはそのメロディー。はっきり言えるのは、Intestine Baalismほど美メロを前面に出したクサさはありません。ですが、甘すぎずに哀愁を織り交ぜた慟哭メロがたまらなく迫ってきます。油断しているとハッとさせるような美メロを差し込むのも心憎い演出。この辺り、プロダクションの功もあるのでしょう。湿った叙情と表現するに相応しいメロウさ。Voはハードコアよりの厳つい咆哮ですが、壮絶極まりない絶唱がこの音には非常によく合います。咆えてるだけでなく、絶妙にメロディーに沿わせているので聴き応えもあります。また、高音絶叫と中音域絶叫、さらに低音のグロウルっぽい濁声、荒っぽいグロウルとなかなか芸達者。不穏なSEに冷たいギターメロディーを這わせたインストM-1、なかなかに渋いギターから絶叫にスイッチしやたらキャッチーなリフで走り出す!涙腺刺激するM-2、スラッシーなビートの上で抑揚をつけて咆哮するVoとメロウなギターメロが激しくも美しいM-3、さらに速度を上げてドカドカ走るドラムとメロウなギターを合わせて冬の叙情を発散させるM-4、掛け合うようなVoと徐々にメロディーを仄かに変化させて正統派っぽい哀愁溢れるソロも飛び出してくる激メロディアスなM-5、抜けのいいスネアの衝動的なビートとブルータルでスラッシーなリフの破壊力がなかなかに効いてくるM-6、壮絶極まりない絶叫を合図にドシャメシャに突っ込んでくる作中最もハーコーっぽいノリで責めてくるM-7とブルータルでなかなかに美味なアルバム。35分は短いぜ!そして最後を〆る怒濤のスピードで押してくるM-8の名曲感たるや。露骨にブラスト踏みはじめるし、血管ブチギレるような咆哮もかっこいいし、何だこれ。ブレイクを挟んで一気に怒濤のパートに突っ込むわけですが、非常にブルータル。後半で聴ける開けたように美しいギターソロの哀感こそが異次元の真骨頂!最後まで美しくも物悲しいメロディーが胸を締めつけてくれる名曲だと思います!いやあ、非常にいいアルバムだと思います。何でスルーしてたんだ自分って思ったくらい。アレか、ジャケが意味不明すぎて手に取るのが怖い系か。実のところ、今年リリースされたメロデスの作品では、最も黎明期の空気に似た作品だと思います。At The Gates、初期In Flames、Dissection、Edge of Sanity辺りの名前に反応してしまう諸氏には是非オススメしたい。北欧の空気感に日本の哀感溢れる叙情性を加えた素晴らしい作品。惜しむらくはもうちょっとボリュームが欲しかったところくらい。(2015年発表)満:★★★★★★★★★ (9/10)薦:★★★★★★★★★ (9/10)
1. Of Acceptance & Unchanging2. Dead Mountain3. Pasijon4. Enervation's End5. Valburga ★6. Beast Beneath the Skin7. Keeper's Encomiumスロヴェニアのアトモスフェリック/ポストブラックメタルバンドによる4作目フルレングス。DVD付限定盤は結構豪華な装丁のデジパックで、かっこいいブックレットもついています。エピック!まず、最初に言っておきたいのは、ポストブラックの中でもDeafheavenの台頭。彼らは前作「Sunbather」で蕩けそうな陽性のブラックメタルという境地に達して人気を博しました。だがしかし、Deafheavenのあの作品よりも前に陽性のメロディーを持つブラックメタルとしては、このDekadentの方が先輩!彼らDekadentは1stアルバムから、ここぞとばかりに明るいメロディーを暴虐ブラックメタルに組み込み、異様な世界観を構築することに成功していて、前作「Venera: Trial & Tribulation」にて完成されたかのように思えました。それほど、前作は傑作と言える出来で、後追いながらも私自身「うおぉ、ポストブラックってすげえ」と震えた記憶があります。前作はそれほどまでに神々しい光り輝くメロディーを持った名盤であるように思います。そしてその流れを受けての今作ですが、個人的好みからすると断然こちらの方が好み。前作ほどの凶悪な音圧は控えめなものの、溢れ出るメロディーの洪水が凄まじい傑作に仕上がっています。そして、曲の押し引きは今作もなかなか凄くて、陽性のメロディーの中で哀愁滲むギターフレーズを盛り込んだりと、より孤高の域に達しております。今作、そこはかとなく全編にブルージーなトーンが覆っているのですね。それが陽光のように降り注ぐトレモロと合わさると、どうしようもなく涙腺が刺激されます。そして何より、メタリックな攻撃性は相変わらず全く殺がれていません。ブラストは踏みっぱなしだし、うねるベースの躍動感、ざらついた基盤のトレモロという3本柱は揺らがず、あくまでギターメロディーの多彩さで幅を広げています。そして何よりやり過ぎなほどの壮大さこそが、このバンド最大の売り。もう最初からクライマックス。シューゲ的ギターノイズをファンタジックなメロディーに塗すという手法を実践して物にしているバンドって個人的には彼らくらいしか思いつかないです。また、彼らの肝にはVoも挙げられます。噛みつくようながなり声は異常にかっこよく、この凶暴極まりないVoがあるおかげでギターの甘さと相克していると思います。バッキングのクリーンVoもなかなかに朗々としていていい対比をつけています。アンビエントなシンセに清廉なギターが絡み一気にディストーションをぶち上げていくやたら壮大なM-1、お日様キモチイイッなメロディーの下であらゆる生物が息絶えてるかのような対比が見事なブラックメタルM-2、わかりやすいトレモロ吹雪を撒き散らしてからアーアーコーラスで昇天させられるポストブラックM-3、一転ストレートなブリザードブラックを繰り広げてさらりとブルージーなギターを織り交ぜつつ徐々に飛翔していくようなM-4、大河のように芳醇な美メロに暴虐なメロブラを浸していく後半の美しいトーンも格好良しなM-6、まるでマイブラのような幾重にも重ねたトレモロとディレイの大海をグロウルが獰猛に泳ぐ光り輝くM-7と恍惚に浸れる約45分。イントロの清いハープのようなギターにやられるM-5がお気に入り。ばたついたブラストと合わさるとこういうギターでも途端にブラックメタルへと変貌するというのが何とも面白い。この曲でも聴ける、不思議なVoエフェクトのおかげで、吹き荒れる暴風の中で咆えてる感が出ているのも彼らの特色ですね。そして終盤に炸裂するピュアメタルのようなギターソロも、世界観を全く壊すことなく美しいです。いやあ、私感動いたしました。綿密に作り込まれた音世界こそ、このバンドの真骨頂。哀愁と恍惚が入り乱れる怒濤の洪水にしてやられて下さい。それこそ、Deafheavenが好きな人にこそ是非聴いて頂きたい一枚です。オススメ!ちなみにBandcampでは、過去作品が全てNMPです、現在。(2015年発表)満:★★★★★★★★★★ (10/10)薦:★★★★★★★★★★ (10/10)
1. Safe House2. 電気の花嫁(Demian)3. England4. bIg HOPe5. ショッピングモールの怪物 (Shopping Mall Monster)6. Metropolis7. フランケンシュタイン(Frankenstein)8. Glass Shower9. X-MAS ★10. ATOM日本のポストロック/アートロック/サイケデリックロック/フォークロックバンドによる2作目フルレングス。紙ジャケで一枚の歌詞ポスターが封入されています。割と絶賛されていた前作は、個人的にはまずまずといった出来でした。素朴なArcade Fireといった趣きで、そこからはみ出る個性が感じにくかったというのが大きな要因だったと思います。約1年ぶりに到着したこの作品は前作のはまりきれない印象を脱ぎ捨てるくらいに飛躍していました。まず前作と大きく違うのが、全体的にエレクトリックギターを主軸にしたギターメロディーが太くなったこと。これにより、Vo三船氏のファルセットの美しさが際立ち、より壮大な音に仕上がりました。反面、前作の持っていた凍てつく冷たさは溶け、どこか暖かみのある音に。この辺りは賛否分かれそうですが、暖かみのあると言っても凛とした冷たい空気感はしっかり残っています。カナダ・モントリオール録音とのことですが、その影響下もあるかもしれませんね。彼らの曲は非常に歌謡曲的でもあり、どこかはっぴいえんどの系譜にある気さえしていたのですが、今作でそういう思いは一層深まりました。音は非常に海外で録音したのだというスケールがあるのですが、歌はより素朴。この対比こそが、彼らの最も大きな武器であり、ファロワーから脱却しつつある証左になる気がします。何より今作は非常に曲がいいです。ミドルテンポ主体で、軽やかな曲はほんの2曲程度ですが、実に調和が取れていて聴き疲れしません。走行時間も約45分とちょうどいい感じ。彼らの壮大さを担うのは、実はドラムだと思っています。物凄くロックンロール然としているのですね。抜けが良く図太いため、肉体的な躍動感を一手に担っています。この躍動感こそが神聖な歌とギターの雰囲気をより強調した役割を持っています。今作でも様々な楽器が使われており、華やかでカラフルです。Voのファルセットは磨かれており、非常に美しい。けれど自分は三船氏の地声で歌うところが好きで、この比重も高まってほしいなあということを思わなくもないです。虚無的な歌詞から「今夜は戦争に持ってこいの陽気だ」と歌われる序曲M-1、The Velvet Undergroundの「毛皮のヴィーナス」のような音が徐々に開けてコーラスへ繋がるM-2、祝福のホーンが高らかに鳴り響くポストロック然としつつも牧歌的なM-3、透き通るようなピアノとストリングスが真に美しくファルセットと溶け合う壮大な希望の歌M-4、若干フィルスペクター調の分厚いギターサウンドが聴ける軽やかなM-5、シンセポップな序盤に手拍子が混じり躍動的ながらも破滅的でもある歌詞を歌うM-6、今作中最も激しいビートが聴けるロックンロールながらも歌い出すとどことなくはっぴぃえんどを思わせるM-7、しっとりと残響を響かせながら寂しげに歌われるM-8、印象的なギターフレーズが図太いドラムに合わせて淡々と迫ってくるM-10と凄く丁寧に作られた歌物アルバム。これはもう、シティポップス的なムードを漂わせたM-9の名曲感が素晴らしいわけで。シンセが緩やかに流れていく中でやけっぱちながらも背を押してくれるんですよね。凄くメッセージ性がある。「ダメなら壊してしまえ」ってすがる相手に言うってのは物凄く勇気がいることだと思うんですよね。物凄く優しい歌がサックスの切ないフレーズによく合っています。メロ部分の地声が物凄く格好いいです。もっとこういうパートを増やしてくれてもええんですよ!日本語ロックの新しい系譜になれる気がする素晴らしいアルバムだと思います。ここまでスケールの大きいインディーロックというのも、実のところ世界的に見ても非常に希有な例で。彼らは全くこじんまりしていない、これからもっと大きくなれそうな期待感を漂わせた作品だと思います。(2015年発表)満:★★★★★★★★★ (9/10)薦:★★★★★★★★★ (9/10)
1. INTRODUCTION2. D.A.R.K. ★3. ANTARES4. EVOKE5. GHOST6. ILLUMINATI7. ETERNITY8. FALLEN9. BEAST10. INVADER11. COSMOS12. MELANCHOLIC13. MOON 日本のロックバンドによる7作目フルレングス。何故燃えるピアノかはよくわかりませんが、黒と金のゴージャスなブックレットです。私が買ったのは通常盤。前作「GALLOWS」で一気にモダンなロックへとシフトした彼らですが、今作はその路線の延長上にあると思います。個人的に彼らで一番好きな作品は「INFERIORITY COMPLEX」でして、その次に「THE AVOIDED SUN」が来ます。この2作に共通するのは、叙情派ニュースクールHCの要素をV系ロックに盛り込むという、希有なバランス感があったことだと思います。今作のテーマはタイトルずばりの「闇」であり、彼らなりの邪悪さを構築しようとしたのだと思います。実際蓋を開けてみると、そういう邪悪で妖艶なロックがずらりと敷き詰められてはおりますが、ブラックメタルやドゥームメタル、ネオクラスト等が持つべったりと張り付くような闇ではありませんし、Dir en greyのようなテイストとも全く違っていることを明記しておきます。彼らの音楽性は、非常にスマートです。スポーティーと言ってもいいです。故に、ドロドロした曲であっても沈み込みすぎることはなく、聴かせどころははっきりわかるし、キャッチーです。その要素が、今作は非常に強く露出した形で、間口は今まで以上に広がったと言っていいでしょう。Lynch.と言えば憂いに満ちた叙情的なメロディーラインなのですが、今作は叙情が耽美に取って代わられ、よりVロック然としています。ここは賛否分かれるでしょう、私も正直「何もLynch.がやらんでも・・・」と最初は思いましたけど、聴いているうちに気にならなくなってきました。今作の肝は、今まで以上に“歌う”Voであり、スクリームよりもクリーンの比重が過去最高レベルに大きいです。葉月氏のクリーンは艶やかでいて力強くて結構好きなのですが、陶酔系ではあるので好き嫌い分かれると思います。それでも、以前より癖は取れたような。今作では、清春っぽい歌い回しも増えていて、そういう曲ではシャッフルビートだったりしているのが面白いですね。彼のハイピッチスクリームはやっぱりかっこいいです。期待感を煽る不穏な銀盤×アンビエントのインストM-1、従来のLynch.っぽい重低音とメロディーを共存させたM-3、激キャッチーながらもかなり重く煽ってくるシングルM-4、Lynch.流ロカビリーらしいベースラインが効いたメロディアスなM-5、一昔前のV系のような妖しいメロディーラインと絶叫がせめぎ合う耽美なM-6、亡くなった家族への悔恨と義憤を歌った性急ながらもバラードの余韻を与えるLynch.らしいM-7、さらにメロディーに寄った儚げな女心を歌ったっぽいポップなM-8、一転ブレーキを外してリフで押しまくるエモっぽいコーラスも聴けるM-9、スラップの効いたベースに合わせて激しくドラムとスクリームが荒れ狂うM-10、ここにきてかなりスマートにDjentをかまして歌謡的なメロディーに縺れ込む神秘的なM-11、美麗なクリーントーンのギターとディストーションが憂いの対比を生み出すミドルバラードM-12、ポジティヴな余韻を与えるメロディアスに疾走するM-13と今の彼らをパッケージした作品となっています。重たいギターとピアノの対比が美しいM-2がお気に入り。この曲のリフはメタルコアっぽくてかっこいいです。決して速い曲ではなく、むしろスローなのですが非常に曲がよくできていて飽きません。耽美なコーラスと重厚なメロの対比も素晴らしい。後半にかけてスクリームが被さるのも◎。ギターソロもデカダンで◎。充実作なれど、賛否分かれる作品かなあと思います。ただここにきて、Lynch.の個性はやっぱりロック然としていることだなと再確認しました。音は激しくメタリックなのにメタルとは言い難い、衝動的なれどハードコアとも違う。そういう中庸なバランス感がうまく発散された好盤だと思います。(2015年発表)満:★★★★★★★★☆ (8.5/10)薦:★★★★★★★★☆ (8.5/10)
1. Demiurg2. 3583. Their ★4. Hochpolungオーストリアのブラックメタルバンドによる2作目フルレングス。初聴です。厚紙っぽいですがいい質感のかっこいいブックレットが封入されています。白いアートワークでいい感じですね。音楽の都ウィーンで有名なオーストリアから、面白い作品が出ました。彼らAmestigonは知る人ぞ知るアトモスフェリック/デプレッシヴブラックだそうですが、非常に気品溢れる作品が今作。デプレッシヴブラックメタル、通称鬱ブラックはそのジャンルの特性上陰にこもる暗い自殺系メロディーや淡々と反復するそれこそ精神崩壊しそうな曲展開を持つことで有名。ですが、このAmestigonは違います。4曲で約58分という拷問のような長さですが、全くだれを感じさせない素晴らしい曲構成を持っています。メロディーこそ鬱ブラック由来の沈み込むような陰鬱さに満ちていますが、曲は非常に起伏が激しいです。1曲平均約15分なわけで、大作志向な音楽性はフューネラルドゥームとも合致します。が、フューネラルドゥームとも違います。あそこまで死にたくなる感じでもないので、間口そのものは広いような広くないような。今作最大の特徴は、そのメロディーの芳醇さ。冷たく、時に荘厳さに満ちていて非常に空間を意識した音作りの中で美麗なメロが炸裂しています。デプレなれど、内で完結している類の暗さではないのですね。ただ、鬱を誘発する類ではあるので健やかな時に聴くのが一番です。ギターメロディーの良さをより引き立てているのが荒ぶるベースのグルーヴと多彩なドラムパターン。この2つは非常に図太く、シャリシャリしたものが多い中で音圧も出しているし、迫力があります。トレモロ主体のシャリシャリと凍り付いた空間を作り上げるようなギターにうっすらとシンセが被さる様は、多くのブラックメタラーにとって喝采物ではないでしょうか。Voは強烈な高音域のがなり声と低音のがなり、朗々と響き渡るクリーンとだいぶ多彩。クリーンは味付け程度ですね、バックのコーラス隊の可能性もありますね。しっとりと聴かせる鈍いアルペジオから徐々にスペーシーな雰囲気を盛り込んでいき王道的なブラックメタルの疾走へ雪崩れ込み宗教的なコーラスへと繋がっていくM-1、宇宙的なギターの旋律から一気に爆縮するブラッキンなパートから急降下して奈落のアンビエントパートに叩き落としてフューネラルドゥーム的に〆るM-2、揺らすようなビートと浮遊感のあるギターに絶叫が被さりインダストリアルブラックの様相を曝け出す爆走と冷たく不気味で美しい静寂とを自在に行き交うM-4とどこまでいってもアンホーリー!約20分の最も長い表題曲M-3がお気に入り。いやあ、たまんないですね。この非常に面倒くさい感じ。この曲に関してはわかりやすい爆走は少なく、基本的にはミッドテンポなのですが、メロディーが神々しくて非常にいいです。神々しくも沈み込むような薄闇を湛えているのもいい。ブリブリしたベースのおかげでより美麗さが引き立っているのも◎。9分過ぎた辺りからはじまる流麗に弾き倒されるギターソロも美しく、何やら異国的な味わいがあるのもいいです。ドローンノイズのようなアンビエントパートも案外しっかり聴き応えあります。ノイズの下から躍り出てくるようなブラックメタルパートと美しいギターの終幕も流れとして完璧。思わぬ収穫の素晴らしい作品だと思います。ただ長さ故に人にはあまり薦められないのですが、こういう面倒臭い作品が好きな諸氏には是非とも聴いていただきたい。思わぬダークホース的に感動した作品でした。(2015年発表)満:★★★★★★★★★ (9/10)薦:★★★★★★★★ (8/10)
1. Channelling Consciousness2. Black Embrace3. Edafio I4. The Piercing Conjuctions Of The Sinister5. Cordially Baneful ★6. Through Lunar Wombs7. Vibrating Crossroads8. Arch Of Exceedanceギリシャのブルータル/アヴァンギャルド/カオティックブラックメタルバンドによる2作目フルレングス。初聴です。ブックレットは割としっかりした装丁で、歌詞と禍々しいイラストが描かれています。正式なタイトルは「Adversarial Paths: The Sinister Essence」です。ギリシャからDeathspell Omegaへの回答というか、フレンチブラックへの憧憬がまざまざと刻み込まれた作品です。つまり、冷涼な吹雪のような冷たさではなく、無明の闇と荘厳で退廃的な暗黒の冷たさを主軸としたブラックメタル。今流行りの感じではありますね。流行に乗っているとは言えど、質そのものはしっかりしています。オリジナリティという点ではそこまで強烈ではありませんが、「いきなりそんな展開にしますのか」というエグイ展開を爆走に絡ませてくる辺りは、カオティックでありアヴァンギャルド。トレモロを吹き荒れるジリジリしたノイジーなギターが中心にいますが、そこに冷ややかで宗教的なシンセやSEが被さってくるので、雰囲気は満点。彼らがプログレッシヴブラックとは言い難い最大の理由が、奇妙奇天烈な曲展開だと言えます。曲展開は非常に強引で、インダストリアル的な折衷の仕方をしているため、無機質。かと言って機械的と感じさせないのは、彼らの個性ですね。ドラムはかなり複雑なことをやっていると思います。基盤は王道のブラストビート。ですが、曲がいきなり展開を変えたりひねったりするので、それに合ったドラミングで骨格を担っています。また、ハイハットが多めで結構甲高いシャンシャンという響きが、また宗教的なニュアンスを漂わせます。Voも厳つく咆哮するタイプで邪悪でよく伸びます。単純に格好いいです。妖しげで荘厳なアンビエントSEのM-1を叩き潰すような重たいリフ捌きから徐々にリズムを変えていく退廃的でBehemothみたいなM-2、バタバタしたビートで要所要所に爆走を織り交ぜていくブルータルでアンホーリーなM-3、執拗に爆走と小休止を繰り返し混沌へ叩き込むM-4、まるでMardukのような暴走感を強めるシンプルなブルータルブラックからドゥーミーに〆られるM-6、ざらついたスローパートから爆走に雪崩れてロッキンなグルーヴに変化していく様がなかなか格好いいM-7、デスメタリックなリフの上で絶叫を繰り広げて奈落に引きずり込まれてパタパタした疾走で終わるM-8と真っ黒い曲が並びます。若干MayhemのようなリフからはじまるM-5がお気に入り。血反吐を吐き散らかすようながなり声が異様に迫力があって、うっすら神聖なシンセが被さってくるのもいいですね。かと言って安易なシンフォニックでないバランス感が素敵だと思います。耳に障るギターのキュイーンって音も無性に格好いいです。面白いアルバムだと思います。とにかく黒くて、ブツブツ下を向いてしまうようなそんな暗さがある作品です。全くメロディアスではないのでオススメはしづらいですが、カオティックなブラックメタルが好きならまずまずいけるのではないかと。(2015年発表)満:★★★★★★★★☆ (8.5/10)薦:★★★★★★★ (7/10)
1. Ninja Untouchables / Untouchable Glory2. Avenge Me!3. Drinkers, Inc.4. My Evil Eye5. Tuck Your T-Shirt In6. Ride The Night7. She Thing ★8. Witching Mania9. James Joints10. Raging Skies11. I Will Haunt You12. After The FireUKのスラッシュメタルバンドの5枚目フルレングス。物凄く凝ったブックレットがついています。中身がもう本当、素晴らしい。唐突な日本語も出てくるあのPVのテイストがそのまま描かれています。最高に楽しい!まず見てくださいよこのアートワーク。最高じゃないですか。超高速のスラッシュメタルを次から次へと放り込む稀代のUKスラッシャーも早5作目、中堅どころかベテランの域に突っ込んできたわけですが、言い切ります。今作は最高傑作です。テーマは80年代B級映画だそうで、先行公開されたM-1のPVからもわかるように、80年代B級カルト映画の怪しげな空気がムンムン。前作も映画的世界観がありましたが、今作ではより進化。お前らどんだけカンフー好きやねん。陽気でお馬鹿なノリで激烈にブルータルなスラッシュチューンを放り込んでくるのがもうたまらん。ザクザクしたリフも全く衰えがなく、全曲異様に速いという彼ららしい潔さ。爽快感たっぷりな速度も、今作で極まった感すらあります。風格ありますよ。私はダークなものが基本的には好きですが、ここまで突き抜けた陽気も大好きで、思い切りが大事なのですよね。この苛烈なまでにドライヴィンなのは、ドラムの思い切りの良さにあるというのは否定できないと思います。王道スラッシュビートも勿論ありますが、ブラスト紛いの凄まじい速度で迫ってくるのが、非常に衝動的で迫力あります。どの曲も全力でぶっ叩かれるため、一切速度に揺らぎが見えなく、それでいて非常に多彩なパターンを刻んでいるため、リフと相まってどの曲もスピード狂なのに金太郎飴になっていません。息切れもしないのは、31分とタイトな走行時間のおかげかも。叫ぶだけでなく歌えるVoとしても定評ありますが、今作でも健在。むしろこの速さに振り落とされないでしっかり曲を掌握できてるのは地味に凄いと思う。先行カットされたアホなPVも記憶に新しいキャッチーなGama Bomb節が濃厚に味わえるM-1、超高速にリフを刻み倒すベイエリア的なジャンキーM-2、ロッキンなノリが楽しいベースもブリブリして気持ちいいグルーヴですっ飛ばすM-3、少しダークな色合いをつけたリフで凄まじい速度で駆け抜けるM-4、印象的なコーラスでライヴ映えもしそうな若干ファンキーなM-5、最初から暴走気味の外れたようなビートでけたたましく突っ込むコーラスがNWOBHMっぽくもあるM-6、キャッチーなリフと小刻みなビートで突っ込んでくる陽気なM-8、ほんの少しチューニングをローにしてるのかマイナー感が憎いコミカルなM-9、正統派なイントロが一瞬で崩壊してどこまでも螺子の外れた暴走特急と化すM-10、ここにきてSlayer愛を漂わせるような凄まじいブラストと邪悪なギターが素晴らしいM-11、ご機嫌でガッチリしたグルーヴからやっぱり最後とばかりにどんどんスピードが上がっていく掛け合いもかっこいいM-12ととにかくはえーの何のって。やっぱりあまりに速すぎるM-7がお気に入り。この曲の歌詞はたぶん「遊星からの物体X」とか色々混ざってるんですけど、あれのシリアスさとかは微塵も感じられない素晴らしさがあります。ギターソロも美麗ながらもやっぱり速いのであっという間に終わります(笑)コーラスの金切り声も素敵ですよ。とにかく速いことしか伝わっていないと思いますが、とにかく速いんです。そしてアホなんです。でも愛すべきアホなんです。大好きです。という素晴らしい名盤だと思います。スピード狂の皆々様は、これを聴かずして何を聴くのでしょうか。それくらい速いスラッシュメタルを聴きたければこれを聴きましょう。(2015年発表)満:★★★★★★★★★★ (10/10)薦:★★★★★★★★★★ (10/10)
1. Conceived Through Vermination2. Portrait Of A Soiled Innocence3. Dead Festering Drainage4. The Bone Sculpture5. Obstinacy To Heal The Malformed ★6. Mortifying Carnality7. Repugnance Enshrined In Deformity8. Ignominious Atonementイタリアのブルータルデスメタルバンドによる3枚目フルレングス。しっかりしたブックレットですが、前作の猟奇的な感じとも少し違いますね。モノは猟奇的なのですが、全体的にアートワークも淡い仕上がりに。前作が各所で話題を掻っ攫った人外ブルデスの新作ということもあって、かなり期待しておりました。個人的に前作は「ブルデス界のReign In Blood」的位置付けがあって、ブルデスに凶悪なまでのスピード感と最高にSICKな音圧でもって君臨した名盤だと思います。そして今作ですが、路線は前作とほぼ全く変わっておりません。チョーキング多用の頭おかしい系ギターと完全に人間やめた速度のブラスト、厳つくありながら凡百のブルデスバンドとは一線を画した聴きやすい低音グロウル/ガテラルと、奇跡的なバランスは健在。ですが、どうも私としては煮え切らない印象が始終付きまとっている一枚でありました。その理由はおそらくプロダクション。前作の突き抜けた猟奇的で湿り気ありながらもクリアで凄まじい音圧のプロダクションと違い、今作はどことなくこもった感じになってしまっています。影響で、彼らの代名詞でもあるスココココッ!とやたら抜けのいいスネアの威力が控えめに。私の耳が完全に彼らの音に馴れてしまったせいもあるのでしょう、期待値を飛び越えることができなかった惜しいアルバムという印象。要所要所、的確に押さえてくるフレージング等はさすがの貫録なのです。ドラムも相変わらず凄まじいスピード感ですし。Voを浮き立たせるプロダクションなのかな、と少し思いました。前作の渾然一体感が薄れてしまっているのが寂しさを感じさせます。巧みにテンポをスイッチさせて暴虐性を増幅させるM-1、目まぐるしく追いかけてくるような苛烈なストップ&ゴーを繰り返すM-2、ほんのり重厚なダウンを織り交ぜてくる歯切れのいいVoも聴けるM-3、テクニカルなリフ捌きの下でめちゃくちゃ速いブラストが拝めるM-4、極悪なスラムでどん底に叩き落としてくれる超人的なグラヴィティブラストに酔い痴れるM-6、少しロック的なノリのギターとブラストビートの応酬と言う変わり種M-7、最後の一押しに怒濤のブラストビートとチョーキングを聴かせてくれてホラーなSEで〆るM-8とメロディなど糞喰らえな一枚。邪悪なイントロから怒濤のブルデスに雪崩れ込むM-5がお気に入り。ベースのぐいぐいくる感じでなかなかに心動かされるいい曲だと思います。アルバムの中で最も腹が燃えたぎる灼熱感がありますね。惜しさが随所で目立つ一枚だと思いましたが、私のプロダクションの好みがもろに出たなあ、と。彼らのようなバンドの場合、アルバム毎の個性を出すために録音で差をつけるってこともあるのだと思いますが、今回は自分にとって完全裏目に出ました。ただ、彼らのVoワークが好きな人には結構たまらないのかもしれません。今作よりは間違いなく、前作の方が自分は好みです。前作が好きすぎたというのが今回はまりきれない大きな要因だったかな、と。(2015年発表)満:★★★★★★★ (7/10)薦:★★★★★★★★ (8/10)
1. We Sold Our Souls for Metal2. Archangel3. Sodomites4. Ishtar Rising5. Live Life Hard!6. Shamash7. Bethlehem's Blood ★8. Titans9. Deceiver10. Mother of Dragons11. You Suffer(Naplm Death Cover) [Bonus]12. Acosador Nocturno [Bonus]13. Soulfly X [Bonus]ブラジルのグルーヴメタル/スラッシュメタル/ヘヴィロックバンドによる10作目フルレングス。宗教的なアートワークが描かれたブックレットで結構かっこいいです。とは言えマックスは相変わらずラフな格好ですね(笑)この2年ほどの間、Soulflyの前作を皮切りに、Killer Be Killed、Cavalera Conspiracyとしてアルバムを立て続けに発表してきたMax Cavalera。メタル界屈指のワーカホリックっぷりを知らしめるこのSoulflyの10枚目の作品は、前作のグルーヴ路線をより推し進めた作品となっています。スラッシュ寄りの音楽性はCavalera Conspiracy、エクストリーム寄りの音楽性はKiller Be Killedで発散されているからか、今作はニュアンスとしては初期のニューメタル/ラウドロック路線を強めている印象を受けました。スラッシュメタル然とした曲もありますし、スピード感は前作よりあるものの、作品全体を覆う神秘的なタッチのおかげで幾分賛否が分かれる気がしますね。個人的には大いに気に入っていますが、「Conqueror」~「Enslaved」辺りのエキゾチックなスラッシュメタル路線を期待すると肩透かしに合う気がします。が、元々Soulflyは様々な音楽要素を盛り込むことを是としてきたバンドであるので、問題ない気がします。今作のコンセプトは宗教的や神学的モチーフを源泉としており、リアリズムに根差した前々作や前作、Killer Be Killedとはまた違った世界観を持っており、こういうきな臭いものは私は大好きです。前作より加入のZyon君のドラミングはよりパワフルになっていて、ツアーで鍛えられた感が漂っております。確かに前任者やIggorと比べられるのも無理からんことですが、徐々に仕上がってると思います。今作でもMarc Rizzoのギターは冴え渡っており、作品モチーフと相まってよりエキゾチックなギタープレイを発散しています。反面、Maxのギターはスラッシーなリフも織り交ぜつつ最近のトレンドでもあるグルーヴィーなギタープレイが主軸。厳つい咆哮は相変わらずの格好良さで素敵ですね。直線的なビートで一気にシンガロングできるヘヴィなスラッシュメタル曲M-1、ゆったりしたギターで開放的な空間を作り出して円を描くようなグルーヴを叩きつけるM-2、大地を揺らすような図太いドラムに引きずられて重厚な世界観を練り上げてくるヘヴィロックM-3、さらにディープに沈み込むグルーヴに壮絶な咆哮を乗せるM-4、かなりラフに突っ込んでくる甲高い客演VoとMaxの咆哮が絡むハードコア然としたM-5、宗教的なメロディーを紡ぐギターと怒りをぶつけるVoのユニゾンが心地よい空間を生み出すM-6、テンポ良くグルーヴィーに疾走するシンプル&キャッチーなM-8、一気に爆走スイッチを入れるドラミングとスラッシーに切り込むらしさ溢れるスラッシュメタルM-9、Cavalera一族総出のような客演で爆走しまくる気が狂ったようなファストナンバーM-10、有名な1秒ソングのカバーM-11、M-9の歌詞と言語を変えるだけでエキゾチックな情緒を増したM-12、恒例の静謐でスピリチュアルなインスト10作目M-13と結構充実作。邪悪なリフにトランペットがまとわりついておっぱじまるM-7が凄い好き。こういうセンスをさらりと織り交ぜるのもMaxの柔軟性の表れだと思います。曲自体も無心で踊れるような腰にクるグルーヴでかなり酔い痴れますね。Marcのエキゾチックなソロから速度を上げていく様がなかなかかっこええです。歌詞もベツレヘムの受難に悪魔的モチーフを絡めたもので、結構血生臭いです。Soulflyの柔軟性がこれでもかと充満したいいアルバムだと思います。それ故、未だにスラッシュメタルの英雄Max Cavaleraを求める人には不向きだとも思います。こういった方向でのエクストリームな追求も相当に質が高い一枚ですね。意外にこういうの、うまくやれてるバンドって早々いないですしね。(2015年発表)満:★★★★★★★★★ (9/10)薦:★★★★★★★★ (8/10)
1. Apep2. Frostbiten3. Kall(elsen)4. Skoll5. Primum Frigidum ★6. Polcirkelns Herre7. Fimbulvinter8. Må Det Aldrig Töa9. Vinterland10. Vit Maktスウェーデンのメロディックブラックメタルバンドによる2作目フルレングス。なかなかいい紙使ったブックレット封入デジパックですね。ジャケットがカッコいいです。歌詞は読めません。英語じゃないもの!さて昨今、退廃的だの鬱的だのそんなブラックメタルが増えたとお嘆きのあなた。そんなあなたにうってつけのバンドが彼らIstappでございます。このバンドは近頃にしては珍しいほどの猛吹雪で凍てつかせるブラックメタルを信条としており、Metallumの歌詞傾向を見る限り、冬とかそういうものをテーマに持ったバンドであります。一貫してますね。名門Metal Bladeから華々しくデビューを飾った彼らの前作は、結構好評でこっそり日本盤も出たりしておりました。そんな彼らですが、現在はMetal Bladeを離れて自主制作のようですが、今作はTrollzoneとかいうレーベルから出しています。メンバーも一新されており、中心人物のFjalarさんとリードVoのIsar氏の二人になっている模様。音楽性は前作とさほど変わらず、依然トレモロピッキングを主体とした、メロディックブラックメタルを繰り広げています。それでも少しヴァイキングメタル寄りになったかな。吹雪が猛る中でメロウなギターフレーズを織り交ぜたり、かなりメロディックな側面も強めています。前作にもあったブラスト主体のアグレッションはしっかり保持されたままです。このドラムが生なのか打ち込みなのかはわからないくらいには気にならないです。ただ、自主制作のせいか致し方ないのですが、ほんのりプロダクションは悪くなっているのでご注意を。まあ、この程度の録音は逆に吹雪の中演奏している感があるので◎になるのがブラックメタルのいいところですね。メロディー自体は物凄く独自性があって、叙情的なれどどこか耳に引っかかる奇妙なフレーズで魔術的でもあります。それに乗っかるハーシュなVoのかっこよさは前作よりいいと思います。合間に入るクリーンな勇壮パートはヴァイキング臭を一気に強めてくれますね。悠然としたトレモロギターでいきなり猛吹雪に突っ込んでいくメロディックブラックM-1、冷たくも勇壮なジリジリしたギターに絶叫を被せて朗々としたコーラスに雪崩れ込むM-2、直球なヴァイキング然とした勇猛な佇まいに痺れるM-3、印象的なリフにスタスタと小気味いいブラストを交える激キャッチー&パンキッシュなM-4、揺らすようなリズムに邪悪なリフを合わせてずらしたようなリズムが面白い凝った展開のM-6、王道的なブラッキンなメロディーに凶悪なVoメロディーをぶつけるアンセムになるM-7、叙情的かつ邪悪で冷たいメロディーで凍てつく冬の恐怖を体現したかのようなヴァイキングブラックM-8、再びキャッチーなリフで雪崩のようなプロダクションと共に突っ込んでくるM-9、激メロウなリフでスタスタドラムと合わさって冷え切った世界を貫き通して終わるM-10と、ブラックメタルってこうだよね!こうだよね!猛然と冷たいリフに耳を吹きさらしてくれるM-5がお気に入り。この曲はメロディーもいいし、歌の歯切れもいいし、何よりコーラスがいいのです。クリーンとグリムの掛け合いがかなりドラマティック!うっすらと冷え込む大河のような音もいいですね。そして終盤の美しすぎるシンセアンビエントのクサい余韻!たまらん!この曲でも聴けますが、囁くようなVoが完全に凍り付いた感じで素敵だと思います。かなりいいアルバムだと思います。ブラックメタルが好きでこういうのが嫌いな人はそうそういないような気がします。メジャーレーベルから離れたからか、やりたいことが一貫していてマッシヴになりきっていないところも◎ですね。これから本格的に寒くなる冬のお供に一枚どうでしょうか。(2015年発表)満:★★★★★★★★★ (9/10)薦:★★★★★★★★★ (9/10)
1. Wind of Ether ~エーテルの福音~2. 黎明を告ぐ者3. 紫電のセンチュリオン4. 静寂の森、極光の空5. 灼熱のジャガーノート6. 蒼い羽衣と一角獣 ★7. 禁忌の園に咲く花8. アダマンタイトの蹄鉄9. 勇進のゲイレルル10. 月影を映して11. 旅人のトロイメライ日本のエピック/メロディックデスメタルバンドによるフルレングス。しっかりした装丁のブックレットには作品世界観の概要が書かれており、ライナーには各曲の解説もあったりします。GyzeやThousand Eyesらのおかげで、日本のメロデスが俄かに活気づいている気がする昨今でありますが、個人的に彼らNameless Oneは大げさに言うと“メロデスとは何ぞや”というものが見事にパッケージングされた存在になりそうな気がしています。各曲タイトルからは、日本のアニメ/RPG/ライトノベルなどいわゆるオタク文化からの影響も柔軟に吸い上げていることが窺えますし、手に取るのを躊躇する方もおられるかもしれない。が、待ってほしい。そもそもメタルの曲名は真面目に訳すと大体こんなもんではなかろうか(暴言)。ということは置いておいて、肝心の音楽性はと言えば、本当に“メロデスとは何ぞや”なのです。Arch EnemyやChildren of Bodomらをはじめとする北欧メロデスの持つ叙情性、アグレッションに日本らしい歌謡曲を下地に敷いたクサいメロディーが花開きそうな彼らの個性。彼らの骨格にあるのは、紛れもなくツインリードギターで、どちらも素晴らしいメロディーの引き出しをお持ちで。最初から流麗なソロも弾きはじめるし、全力でぶつけてくるんですよねえ・・・。無論、スラッシーな刻みも入れたりしますし、曲によって本当に多彩なフレーズを弾きまくりです。ピュアメタルにも通じる華々しいギターフレーズをアモット兄ばりに泣きもぶっこんで入れてくる様は、これからが非常に頼もしいですね。ドラミングもタイトでソリッドな音が小気味よく、適度にブラストを挟んできたりと飽きさせない工夫があります。Voは高音域の咆哮が主体ですが、グロウルもあったりします。グロウルはまだエグみが個人的に足りないですが、高音シャウトの噛みつくような格好良さはなかなかのものがあります。フォーキッシュに風が駆け抜けるようなインストM-1、いきなりメロメロなギターが華々しく登場するエピカルなM-2、突進気味のドラミングに流麗なツインリードが噛みつくようなVoと応酬を繰り広げるM-3、少しテンポを落としメロウなギターを挟んでからスラッシーに疾走してくるM-4、表題通り熱く滾るようなデスラッシュにオリエンタルなメロディーを振りかけたM-5、印象的なリフで切なく曲を盛り上げるドラマティックなM-7、横ノリのような心地よいグルーヴから正統派っぽい疾走感を絡めてくるメロデスラッシュM-8、勇壮でクサいギターメロディーでコール&レスポンスも映えるM-9、いきなり泣きのギターを弾きまくるドラマティックなプログレッシヴさも柔軟に放射する今作ハイライトM-10、ザクザクしたリフで開放的なメロを追いかけるある意味エンドロール的でもある王道メロデスナンバーM-11とこれぞメロデス!スラッシーなドラムにやたらキャッチーなリフが素晴らしいM-6がお気に入り。ここでは何故かSlayerみたいな音を入れてみたりしていますが、適度な疾走感が気持ちいい。コーラスで丁寧にメロディーを追うところもドラマティックで◎。後半のメロディアスなフレーズが悶絶物のクサさ!いいものだ!これで1stですが、前作EPの頃とは比べものにならないくらい、曲が良いです。ただまあ、彼ら自身の“これ!”という個性はまだまだ鍛えられそうで、完全体とは言えないとは思います(いい意味で)。これほどのメロディーの引き出しは昨今の新人では卓越しているレベルではありますね。個人的には、もっと和を打ち出した日本っぽいというか東洋っぽいメロディーをこのスピード感に乗せて聴いてみたくはあります。とは言え、今後がまだまだ期待できる伸び代が大いある一枚ですので、間違いなくお薦め!(2015年発表)満:★★★★★★★★☆ (8.5/10)薦:★★★★★★★★★ (9/10)
1. Swinelord2. New Temples3. Rites4. XI: For I Am the Fire ★5. Hanging Feet6. Old Lies7. We Use Your Dead as Vessels8. Askrådareスウェーデンのハードコア/ブラックメタル/スラッジメタルバンドによる2作目フルレングス。怪しげな儀式の模様を収めたブックレットがついています。禍々しいですね。憎悪の嵐に身を晒す準備はできているか!?自らを“ブラックスラッジ”と標榜する彼らは元々の背景に、ハードコアを持っているバンド。IctvsやAlpnistをはじめとするネオクラスト勢ともしっかりとリンクしながらも、独自の音楽性を持っています。それが、“音塊”と形容するしかない、ノイジー極まりない鬼気迫った演奏。基本的な音楽性は、前作とほとんど変わっていません。今作ではベースラインを強調して、ほんの少し厚みを増したかな、程度。ただプロダクションはがらりと変わっていて、よりやりすぎなくらいにギターノイズを叩きつけてきます。だのに、全ての楽器が異様に生々しく聴こえてくるというミキシングの妙技。彼らの音楽性は、禍々しいバンド名とも重なる、狂気に蝕まれた絶叫そのものであり、ブラックメタルの狂性、スラッジメタルの酩酊、ハードコアの衝動を叩きつける感じ。このブラックメタル/スラッジメタル/ハードコアの要素は、3つが分離しているわけではなく、ほとんどごちゃ混ぜで揉みくちゃにされているわけですね。乱反射するかのようなトレモロ吹き荒れるギターパートなどは、Deathspell Omega辺りのフレンチブラック勢を吸収したかのような退廃的な空間を作り出しています。そこにスラッジの汚泥が如き酩酊感で音をかき混ぜて前後不覚にさせてくるこの感覚。スウェーデンのブラックメタルの王道的な世界観とは明らかに異質で、かの国らしい叙情性もあるにはあるが、アメリカ辺りの陰鬱なブラックに近いと言えば近い。ざっくり言えば、Deathspell Omega×Eye Hate God×Convergeとするとある意味わかりやすいかもしれません。前作との大きな違いは、時折天にも昇るような美しいメロディーが顔を出すこと。それが余計に憎悪を浮き立たせるという凄まじさ。前作でも聴けた、原初的でありながら呪術的パターンを刻むかのような荒々しいドラミングも健在。今作ではよりパワフルになっていて、順当なアップデートを果たしているよう。特筆すべきはVoだと思います。徹頭徹尾、発狂しております。グロウルだのスクリームだのといった技術的範疇にない、あまりに病んだ本能的な絶叫を聴かせてくれます。クリーンも少し出てきますが、これはこれで発狂した後の何とも居心地の悪さが漂う仕様。発狂パートの凄味だけで言えば、Anaal NathrakhのVitriol閣下にも届きうるカリスマ性を持っています。前作からの地続きであることを窺わせる衝動的なブラッケンドハードコアM-1、リズミカルに叩かれるドラムが一癖ある邪悪なメロディーがやけにかっこいいM-2、のた打ち回るような絶叫と雑音が一斉に雪崩れ込み脈を止める永いアンビエントで〆るM-3、特徴的な儀式リズムでドンドコと這い回る“これこそがブラックスラッジ”とでも言うような陰鬱で暗黒的なM-5、ロックンロール的なノリなのに清々しさよりも陰に籠る鬱陶しさが支配するM-6、爆走と酩酊を巧みに入り乱れさせる気味の悪い福音コーラスへ繋がるM-7、ダークアンビエントな序盤から讃美歌のように朗々と歌われるクリーンパートの中盤を抜けて悲痛な絶叫と溶け合っていく不可思議な長尺ナンバーM-8と聴いていると体力を根こそぎ持っていかれる約50分。ブラックスラッジな泥濘パートからポストロックかと思しき美しい闇に心持っていかれるM-4がお気に入り。この曲はポストブラックを彼らなりに構築した曲だと思います。むしろ、彼ら自身ポストブラックと被るように出てきたバンドではあるのですが、デプレブラのようなメロディー感を持ちながらスラッジの重苦しさを体現するこの曲は、まさしくThis Gift Is A Curseそのものといったところ。死後を思わせるような美しさも癖になりますね。前作も、個人的にはかなり気に入った作品ではあるのですが、今作は優にその基準を飛び越えていきました。聴いていると常に毛穴がぶわっと開くような、いてもたってもいられなくなるような、そういう感覚はハードコアだなあと思いますが、誰にでも薦められる代物というわけでもありません。ですが、溢れ出る憎悪の嵐を堪能したいという奇特な方には是非オススメしたい。(2015年発表)満:★★★★★★★★★☆ (9.5/10)薦:★★★★★★★☆ (7.5/10)
1. V2. No Way Out3. Army Of Noise4. Worthless5. You Want A Battle? (Here's A War)6. Broken7. Venom8. The Harder The Heart (The Harder It Breaks)9. Skin10. Hell Or High Water11. Pariah ★12. Playing God13. Run For Your Life14. In Loving Memory15. Raising HellUKのヘヴィメタルバンドによる5作目フルレングス。このジャケのホログラムっぽいのはデラックス盤用の特別ジャケットみたいです。マウスパッドみたいな質感。今さら説明もそんなにいらなそうな、新世代メタルのトップバンドの一翼を担うバンドです。新世代と言えど、もう5枚もアルバムを出す中堅といったところ、安定感があります。コマーシャルなポップロックも盛り込んだ前作でほぼほぼ否定論がでておりましたが、私は好きな曲も多く、何だかんだ言って彼らのアルバムでは結構聴いておりました。今作では初作、2枚目を手掛けたプロデューサーを起用しており、メンバー変更も重なってか、「初心に返る」的なニュアンスを漂わせておりましたが、蓋を開けてみれば初心と言うよりは集大成に近いと思います。自身のバンド名にも刻印されている「V」を象徴的にあしらったアートワークからも、相当の自信が窺えます。また、アルバム表題の刺々しさのイメージとも合致した、成熟していながらも攻撃的な作風となっております。個人的には、彼らの最高傑作と言ってもいいのではないかと思ったりします。今作で最も向上しているのは、あまり評判の芳しくなかったドラム。今作ではプロダクションの向上も手伝ってか、かなり豪胆で抜けのいいアグレッシヴなドラムを披露しています。メロディーは確かに1stには及ばないのですが、厳しいUKの音楽業界をこの音楽性で生き残ってきた彼ららしい、HR/HMにメタルコアやエモを巧く折衷したスマートな強靭さをさらに練り上げている感じ。今作はメロディーの美しさよりも、3rd~4th辺りのキャッチーさを昇華したところに照準を合わせているよう。それでいて前作ほどの節操なさを感じさせないのは、今作を作るにあたっての焦点が絞りこめているからかな、と思います。つまり、タフな自分たちを磨き上げていくという点。メロディーの芳醇さよりも、リフの格好良さの方が今作は目立ちます。その為、バラードはほぼ1曲でメロディーを封じ込めているような印象を受けます。そういうところに、賛否分かれるのは致し方ないかもしれませんが、自分のようなライトなファンには特に問題なかったです。反面、Mattのエモな歌唱法はますますタフになっていて、シャウトのここぞとばかりのあざとさもカッコいいですね。不穏で感情的なSEのM-1からシャウトをぶっ放して爆走していくブルータルなM-2、さらに攻撃的なドラムとリフの応酬で重戦車が疾走していくようなM-3、スロウに落としてフロアを揺らしていく重厚なM-4、ライヴでの大合唱が目に浮かぶようなアンセミックな熱いM-5、その熱さを爆発させるようなスラッシーで突進してくるM-6、熱を冷ますかのように美しいギターメロディーが天へ昇り詰めるパワーバラード表題曲M-7、統制された重厚なテンポから開放的なコーラスへ繋がるM-8、シュレッディングの華麗なギター捌きを披露してくれるキャッチーなM-9、歯切れのいいメロから若干ダンサブルとさえ言えるフロア向けの揺らすドラムが心地よいM-10、壮大なギターメロディーから幕を上げるドラマティックなメロディーにうっとりできるM-12、わかりやすいキャッチーな前半からどんどん崩壊して凶悪なエクストリームメタルに変貌するM-13、何故かデモVerのドラマティックなギターが美しく迫ってくるM-14、これも本編に漏れたのがみんな謎に思っている流れるようなVoとリフの絡み合いが楽しいM-15と凄く充実したアルバムだと思います。本編ラストにグッとアルバムを引き締めてくれる疾走曲M-11がお気に入り。この曲のドラムのバスの入り方が物凄く好みで、やたらかっこいいです。そういえば各楽器とも、メロディアスな部分の下から躍り出るようにエクストリームなものが飛び出てくる感じで統一性あるんですよね。終盤の高速シュレッドをかましてくるソロもグッとくるね!1st至上主義にはやっぱりごめんなさい、なアルバムではありますが、彼らの辿ってきた変遷を考えるとこれほど美味しいアルバムもないのではないかと思います。1st~4thの要素を自然な形でミックスして吐き出しているので、どのアルバムが好きかでも聴きどころが変わるいい作品だと思います。そういう意味でも、売れている中堅バンドらしい、非常にスマートな聴き応えある作品。(2015年発表)満:★★★★★★★★★ (9/10)薦:★★★★★★★★★ (9/10)
1. I Feel Love (Every Million Miles)2. Buzzkill(Er)3. Let Me Through4. Three Dollar Hat ★5. Lose The Right6. Rough Detective7. Open Up8. Be Still9. Mark Markers10. Cop & God11. Too Bad12. Impossible WinnerUS/UKのガレージロック/ロックンロールバンドによる3枚目フルレングス。厚手のしっかりした紙によるブックレットがついています。ご存知、Jack White(ex-White Stripes,The The Raconteurs)とAlison Mosshert(The Kills)を中心に据えたバンドで、他のメンバーもJackの右腕でもあるJack Lawrence(The Raconteurs)やDean Fertita(Queens Of The Stone Age)も名うてのミュージシャンです。どうしてもJack Whiteのサイドプロジェクト的な見られ方をされがちですが、このバンドは最も暴力的かつ攻撃的な音像をしており、メンバーそれぞれの噛み合い方が凄まじく合致したバンドでもあります。その理由は、聴いているとわかるのですが、それぞれがパーマネントな母体を持っているが為に、お互いの音楽性がフラットになるからではないかと思ったりします。要は、本能的で暴力的なロックンロールを演奏するのが、非常に楽しそうなんですよね。ちなみに当のJack Whiteはギタリストとして有名ですが、このバンドではドラムを叩いており、初作から聴けるどっしりした泥臭いドラミングを披露しております。今作ではよりリズムチェンジの切り替えもカッチリしていて、時折暴走染みたように乱打しまくったり、さらに激しくなっています。個人的にこのバンドで一番好きなのが、Dean Fertitaの官能的なギター。QOTSAではベースを担当しているからか、鬱憤を晴らすかのように卓越したギターテクニックを晒しています。オルガンもDeanが担当していますが、今作では控えめ。あくまでギタリストDean Fertitaがこのバンドでは信条のよう。妖艶でありながら引き攣れたようなチューニングで、かつパワフルでブルージーな味わいが美味。この辺りのギターワークから、今作はLed Zeppelinのようと評されているようです。また、今作はAlisonのVoを前面に押し出しており、JackのVoは数曲で官能的な絡みをAlisonと繰り広げたりしています。ルーズなリズムで爆発するようなギターを合わせ持った起爆剤M-1、ファズが高らかに鳴り響く即効性のあるキャッチーなリフが拝めるM-2、淡々としたドラムと歯切れのいい奇妙な節回しのVoが面白いM-3、オルガンがサイケな色合いを響かせてくれるも途中からギターが派手に唸るM-5、演奏は男女の痴話喧嘩のようなVoの掛け合いを引き立てる役割を持ったM-6、アンビエントにも近い静謐なパートからZEPのような激しいギターサウンドを目まぐるしく行き交うM-7、太いベースラインと怠惰なVoの乗り方がKillsの再解釈のようでもあるM-8、忙しないドラムとうねりまくるギターの上で畳み掛けたりわれ関せずと歌ってみたりとやりたい放題なM-9、沈み込むようなチューニングで痙攣するようにオルガンの単音リフが癖になる怠惰なロケンローM-10、強烈な酩酊感を引き起こすギターとリヴァーヴがかかったVoが四方八方から襲いかかってくるM-11、ストリングス混じりにストレートに聴かせるブルージーな味わいが美しいバラードM-12と、相変わらずの濃密な真っ黒なアルバムです。ストーリー仕立ての歌詞をプログレ的に聴かせてくれるM-4がお気に入り。この曲は歌詞がもうめちゃくちゃかっこよくて、それに合わせるように壊れたようなオルガンの音色も耳に残ったかと思えば、いきなりはじまる爆走ロケンローに悶絶できます。そうしてまた静かな西部劇で埃を巻き上げる〆にもうっとりです。今までのアルバムよりも、より強固にThe Dead Weatherというバンドの個性が浮き立ったいいアルバムだと思います。無論、今までで培ったゴシックな空気感もしっかり残っているので、匂い立つように妖艶なロックンロールアルバムが聴きたいという人には是非オススメしておきます。ただ個人的には、こういう音でのJack Whiteが全面Voを取った作品もやっぱり聴きたいな、というのはありまして。(2015年発表)満:★★★★★★★★☆ (8.5/10)薦:★★★★★★★★★ (9/10)