ブルージェットの空からブログ|プライベートジェットの機長・航空会社社長ブログ
ビジネスジェット・プライベートジェットのパイロット兼航空会社社長から、日々のフライトで接した出来事や、航空業界へのメッセージを皆様にお伝えしていきます。思わぬところからの可能性を信じて…
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リノ・エアレース 2023 ~ 優勝と深い悲しみ ~

最も歴史あるナショナルチャンピオンシップエアレースのリノでの開催は59年目の今年が最後になった。

現地時間9月17日  T-6 ゴールドクラスの決勝がスタートした。

ぶっちぎり、クリスは少し余裕をもってエンジンを全快にしていないのがわかった。

無事にチェッカーフラッグを通過して、優勝3連覇でレースは終わった。

「ダウン!ダウン!」叫び声が聞こえた。

優勝のクリスと2位のニックメイシーが空中で衝突墜落して死亡した。

リノエアレースは、その後のジェットクラスとアンリミテッドクラスのレースは中止で幕を閉じた。

観客はいなくなったが、レース関係者や各チームは静まり返ってその場に残った。

スタンドの灯りが消えない。20時30分を時計の針は指していた。

大きな格納庫で、それぞれのクラスのチーム関係者1000人近くが表彰式に集まった。

クリスの妻と家族、監督のブライアンは既にクレイレイシーのリアジェットでロサンゼルスに飛んで行った。

チーム関係者全員失意に正常な精神状態でなく、2位で衝突したニックのチームは全員表彰式を辞退した。

最後墜落したN57418と一緒にリノに飛んできたレースペース機のパイロットでコンドールスコードロンの

ロブとマイクと僕とチーフメカニックのリック、そして元ディズニーパイロットのお爺さんスチィーボで集まった。

既に全米でニュースが流れていた。日本での報道はほとんどなかった。

次のレースをクリスから引き継ぐ気持ちで創ったオリジナルヘルメットに安全の祈りを込めた。

チームメイトが何を探しているのかと思ったら、「タケのママがお守りに作ったクッションあったよ」泣けてきた、

クリスとの最後の飛行はほとんど僕が操縦してリノまで向かった。

一瞬クリスに操縦を交代して撮影した最後の機内の写真。

前方を飛行するロブと、マイクが撮影してくれたクリスと飛ぶ最後の写真

クリスからリノ到着後に「タケ、お前はホンダジェットの帽子をかぶれ!」プレゼントされた。

ホンダエアクラフトがホンダジェットエリート2をスポンサーとして参加していた。

決勝前日の夜、リノ限定100本の腕時計を買った。クリスは39番、リックはリノ開催の64番

僕は独立記念日の飛行を夢見て74番

数日前にリックからメールで「クリスマスにマイクに19番の時計を僕とタケからとプレゼントする」と連絡がきた

マイクはエアラインパイロットだがT-6を購入して同じコンドールのカラーリングにした。

リックのマイクと僕に今後のコンドールスコードロンとチームの復活の願いを感じた。

バロンと呼ばれた男「サイクス」を引き継ぎバロンズリベンジの名をチームにつけた

クリスだったら、「チャンピオントロフィーとってこい!!!」そう言うだろう。

5人でそう話して表彰式に向かった。

表彰台でチャンピオントロフィーをクリスの代わりに受け取ると

会場全員のスタンヂィングオーベーションの拍手が長い時間続いた。

会長が宣言する「ナショナルチャンピオンシップは終わらない、次の開催地候補を選定している」

優勝トルフィーを抱えながら涙が止まらなかった。

10月14日無事にクリスの追悼式がバンナイス空港で大勢の人が集まり米空軍も参加して執り行われた。

帰国してHONDAのホンダジェットの教官としての飛行が連続しながらブログが書ける心境にはならなかった。

クリスはカティーと1年前に出会って6週間で再婚して今年での引退を考えていた。

子供がいないので僕を息子のように大切にしてくれた。

墜落後にチーフメカニックのリックがチーフの大切なTシャツを破ってゴミ箱に捨てた。

僕はそれを拾ってリックに怒った「お前のせいじゃない、世界一の飛行機を作ったんだ」

「リック、このTシャツは俺がもらう」

決勝前にレースを先導するペース機で飛ぶロブが撮影した記念の1枚

次の日の朝、ピットにトロフィーを置き空を見上げると鳥がクリスの墜落現場の上空で編隊飛行をしていた。

いつもクリスが運転する後席に僕が座りトラックで走っていた。クリスを後席に乗せて4人で帰った。

リノからの帰り、マイクが運転しリックが助手席で、トップガン2の撮影地を走ってロサンゼルスに向かった。

HONDAの教官をして事務所に帰るとクリスの妻のカティーから手紙が届いていた。

彼女はロサンゼルスで約400人もの従業員を抱える会社の社長でカトリックの女性で活発的な負けず嫌い。

手紙を読んで胸が熱くなった。

「LOVE」という文章の中に僕に飛んでほしい気持ちが伝わった。

今回の最後のレースはメインスポンサーが僕のブルージェットとカチィーの会社であった。

リーダーが突然不在になった記念飛行と追悼飛行を行う退役軍人の組織

教会などの寄付で運営する、アメリカの飛行機の素晴らしい文化

仲間たちと「必ず帰って来いよ」固い握手をしてきた。

ここで飛ぶ事に利益と言うものはない。凄腕パイロット達は何を伝えるのか。

2028年ロサンゼルスでオリンピックが開催される。

T-6を買って、1機だけ色をブルーにして、独立記念日の飛行や追悼飛行で魂を西の空へ

飛行機を通じて日米の友好関係を実現してみたい。

悲しみは永遠に消せない。明日への希望を胸に

クリスの冥福を祈る。

 

bluejet

 

 

 

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