先日、須山伯爵のtweetで「最近の映画音楽で、頭に残る楽曲がない」と言う様な主旨の呟きがされていました。なるほどなと思い、自分のVTR作成の時の事を書き留めたいと思います。
まず、通常のテレビ番組の音のつけ方を説明しますと、僕らディレクターが作ったVTRに音効さんと言う方々が音楽をつけてくれて、スタジオでミックスします。
だから、音効さんの腕というか、センスが物凄く左右するんですね。
ここで、プロレスの作業の話をすると、音効さんを雇う予算はまずないので、ディレクターが自ら選曲する事になります。
あと、最近は機械が優秀なので、編集した後、音声のタイムラインに音を乗せる事が出来、SEなんかあわせると何本にもなるトラックだけをOMFと言うファイルに書き出せるので、それをスタジオのミキサーに流し込めば、オペレーターがミックスしてくれる流れになっています。
元々僕が会場でVTRを流し出したのは、橋本真也さんのこZERO-ONEからで、その頃は、一応、作品にも合う感じのアップテンポや、マイナー進行の曲を選んでましたが、最近の会場VTRの流れは変わってきてます。沢山の団体でプロジェクターを使った演出がされていますが、最近の流れは、叙情詩的な作りになっています。NOAHさんなんかは、説明に徹した作りにはなっていますが…。
僕の選曲が明らかにかわったのは、アメリカのドラマ「コールドケース」が放送されてからです。アメリカは殺人の時効がないので、昔の殺人事件を追う課の話なのですが、この番組の選曲が秀逸。事件を追って過去の話になると当時の映像に切り替わって、当時流行っていた曲がBGとして流れます。ここで、郷愁を煽るのと、その歌詞が内容と合致するところがこの番組の素晴らしいところです。
この演出をなんとかプロレスに取り入れられないかと試行錯誤して現在に至っております。まあ、元はマーティン スコセッシュ監督とかがグッドフェローズとかでやり出した演出で、宮崎駿監督の風立ちぬとかもそうです。まあ、流行りなんですが。
僕の選曲のしかたは、取材の後、テーマを決めて選曲にかかります。選手の主張や、テーマと合致する曲を探して擦り切れるまで曲を聴き込むのですが、少し前は外国曲を多用してました。実は、外国曲も歌詞と内容を合わせていたのですが、普通、初見で聞いたら誰もわからないですよね。わかる人だけわかればいいや、くらいに思っていたのですが、最近は皆さんが聞き覚えのある曲をなるべく選曲しています。これは擦り込みと、先ほど少し話した郷愁感を煽ると言うものです。
曲を聴き込むと言うのは、曲の進行を頭に叩き込むと言う事で、大体、Aメロ、Bメロと進んで、サビが来るところで、VTRも盛り上げると言う作りになります。そうするために、フレーム単位で編集します。もちろん、リズムでカットかえたりもしています。そのあたり大切で、気持ちよくみれないんですね。ダラっと曲つけているわけではないんです。あと、ナレーションとインタビューでテンポも上げて行きます。何で、インタビューなのか?なんでナレーションなんだか?本人の気持ちまでナレーションで言ったらバカなんですね。
8/31に行われたアイスリボンのセミのVTRを例に言うと、前日の30日、藤本選手がダンプ選手との前哨戦終了後「今は土砂降りでもいつか晴れるから、皆で虹を見ましょう」と涙ながらに選手達に訴えたコメントを聞いて、ゆずの「雨のち晴レルヤ」に決めました。具体的に歌詞を書くと著作権にひっかかるので、あえて載せませんが、世羅選手の事、アイスリボンと言う団体、ダンプ選手との事とオーバーラップして聴けると思います。序章で使っている曲はドヴォルザークの「新世界より」でこれは「雨のち晴レルヤ」でも使われていてる事と、この闘いから新世界へとの意味で使用しまいた。
世羅選手の件は実は想定外だったので、後から「Beautiful World -PLANiTb Acoustica Mix-」を使用。ここはさらにマイナー進行させたかったので、アコギバージョンで行きましたら思ったよりハマり、「雨のち晴レルヤ」がアップテンポで、つなぎのショックが少し大きかったかもしれません。これは当初の撮影計画から変わってしまったからです。まあ、インタビュー物としてはそこが聞き手としては面白いところではありますが…。もちろん、こちらも歌詞ありきです。
と、いつもよりも長く書いてしまったかもしれませんが、会場一発勝負(その後、サムライで流れることもありますが)で、歴史にも残らないVTR群ですが、こんな事、考えながら作ってます。次回、見ていただける機会がありましたら、少し色々な事、想像してみていただけると良いかなと。
PS 年末、TBSチャンネルでやっていた「悪魔のようなあいつ」は子供の時見たきりで久々にみたら、本編の内容と、最後に沢田研二が弾き語る「時の過ぎ行くままに」がリンクして素晴らしかった!阿久悠さんの作詞、長谷川和彦さんの脚本、この様な作品が今後、日本のテレビドラマで生まれてほしいです