人声天語 (文春新書)/坪内 祐三
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 坪内さんの文春新書「人声天語」は、タイトルだけみるとつぼファンとしては、朝日新聞の天声人語を皮肉ったものかと期待したが、実際は、少しゆるめ坪流時事コラムであった。月刊文芸春秋に連載したコラムであるが、「天声人語」よりも数倍興味深い内容だし、そろそろ坪さんには、週刊文春の名物コラムの連載を担当してもらいたいと思っている。たまたま週刊文春で「コラムの歴史 名物連載50年分」という特集であり、次にここに名を連ねるのは誰だろうかと考えていたが、どう考えても坪さんしかいないと勝手に結論に達した。
 朝日新聞は日本一購読数を誇る大新聞であり、それがゆえに注がれる視線も厳しい。特に顔といってもいい「天声人語」に関しては少しでも表現がおかしかったり主張に偏りがあると一般読者に限らず知識人からも槍玉に上げられる。彼らが書くそういう文を幾度となく目にしてきた。しかし書き手にとって実はそういう批判が朝日新聞という原稿料が高いとも言われる新聞からのオファーをなくすことで自分の首をしめている。もうそれほどの力はないにしろ天声人語は新聞で最も親しまれ読まれている代表格なのである。そういうことも踏まえて「人声天語」を書いた坪さんは読んだらわかると思うが、天声人語も引用しているし、「AERA」の記事も、なにかと騒がしい「週刊現代」も新聞、雑誌、本という活字メディアを押さえてそこから発するコラムは今を見事に風刺している。坪さんこそ活字界の声天語人だ。
新書大賞〈2009〉
¥609
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 ミステリー、ライトノベル、文庫、漫画、絵本などジャンル別に年度末にランキング本が出版される。そんなランキング本が隆盛する書店なかで、一番好調な新書にだけそういった類の本がなかった。実は地味ながら月刊中央公論に毎年、新書大賞というものがあって楽しみにしていたが、このたび中央公論から1冊にまとめられて出版された。「新書大賞2009」である。正直、月刊中央公論の新書紹介ページでは物足りなさがあり、待ちに待った1冊である。おそらくこの新書大賞はどこの出版社も手をつけたかったに違いないが、新書でランキング本が出せるのは御三家であり、月刊誌の実績からいっても中公しかない。ただランキング本はどうしても内容が軽くなるということとデメリットがあり、歴史ある中公新書から考えてもそのギャップがあったのかなかなか実現されなかった。だがようやく重い腰を上げてくれた。いまや新書の出版点数は年々増加し、創刊も相次ぎ、いまや雑誌でも小説でもない新書が時代を映す鏡であると思う。
 新書の今後のますますの躍進が期待されるし、その記録と歴史を残す意味でも新書大賞は毎年の出版を切望
する。
プリンセス・トヨトミ/万城目 学
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 おくりびと」のアカデミー賞外国語映画賞受賞をはじめ、邦画の興行が絶好調。実はその陰には原作が、すなわち映画監督に映像化してみたいと思わせる面白い日本の小説があることを忘れてはならない。「おくりびと」ももとは主演の本木雅弘が「納棺夫日記」(青木新門)を読んで感銘を受け映画化を滝田監督に要望したことから始まった話。昔から、映画と小説は切り離せないもので、特にここ最近書店で評判を呼んだ小説がことごとく映画化されているのは事実で、一例を挙げれば、4月に発表が迫った本屋大賞の歴代受賞作と第2位の計8作品はすべてメディア化されている。おそらく昨年の受賞作「ゴールデンスランバー」も映像化されるものも時間の問題だろう。このことはそれだけ日本のエンターテイメント小説が面白く映像化しやすいこと証明していると思う。
 4月18日から映画公開される「鴨川モルホー」の万城目学も映像化されやすい娯楽小説を書かせたら今、注目の作家で、新刊「プリンセス・トヨトミ」もその期待に充分応える傑作であった。
 舞台は大阪。会計検査院の役人がまず登場する。副長は仕事に厳しく頼れるリーダー「鬼の松平」。転属して2ヶ月の仏ハーフだけど日本語しかしゃべれない美人キャリアウーマン「ゲンズブール旭」調査官、小柄でおちょこちょいだけど特異な感性をもつ「ミラクル鳥居」。大阪出張で訪れた3人は毎年、数億のもの巨額の運営資金が流れこむ謎の社団法人OJOと遭遇。一体なんために、そしてその目的とは何か。その法人が存在する大阪の商店街で育った2人少年少女、茶子と大輔。その父・幸一はOJO代表にして大阪国の総理大臣。大阪国?大阪が全停止という前代未聞の事態で明らかになる豊臣秀吉から隠し続けてきた大阪の裏の歴史。濃いキャラクターの調査員と大阪国を守る人たちが繰り広げられる物語はとても痛快で爽快です。この前代未聞の驚天動地のエンターテイメント小説が、早急に映画になることを切望する。

芥川賞を取らなかった名作たち (朝日新書)/佐伯 一麦
¥819
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芥川賞を受賞した作品はたしかに注目されるし読みたいと思うが、全文掲載される月刊文芸春秋にはもうひとつ楽しみがある。選評である。その選評によってその作品の魅力がさらに浮き出ることもあるし、苦し紛れでぱっとしない選評もある。選考過程での選考委員の作家たちの白熱した議論と各自の文学論とが選評に込められ、候補作とは別に選考委員同志の戦いもある。

 佐伯一麦氏の新書「芥川賞を取らなかった名作たち」には歴代選考委員の作家の選評がときおり引用されている。芥川賞史上最も酷評された洲之内徹の「棗の木の下」。史上稀にみる3作も有力作品が出揃った第45回芥川賞選考会。そして吉村昭の一旦決定した後に受賞取り消しとなった歴史的な事件が起こった第46回選考会。
文学賞の乱発ですこしばかり賞と名の付くものにいやけがさしていた頃に、読んで歴史がある文学賞は候補作含め、振り返ってみる価値が大いにあると感じた。

 アカデミー賞外国語賞受賞した「おくりびと」。私はどうしても職業柄、文学作品を思い浮かべてしまうのだが、これまた偶然にも少し前に話題を呼んだ直木賞受賞作の「悼む人」。どちらも共通していることは日本人の死生観を扱っている点である。ほぼ同時期に評価された、この死について真摯に向き合った両作品から私はなにかのメッセージが込められているように感じる。

 もともと日本人が教養として身につけていた死生観は完全に失われている。こういう話になると論理というよりも感覚的になってしまい、なんの根拠もないのだが、文学で見直され、映画で評価された日本人の死生観をいま一度考えるべきときにきているようでならない。それが日本再生のきっかけになる根本的な思想であるかもしれないし、死という危険を伴った地震や飢えの予見かもしれない。ただ作品を通じて、死という人間の原点の思想を哲学者や専門家以外の一般のわれわれが考え直す契機となったといえる。

おくりびと (小学館文庫)/百瀬 しのぶ
¥460
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悼む人/天童 荒太
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 派遣村閉村で一息ついたと思われた派遣切り問題だが、パナソニックの工場閉鎖による1万5千人の人員削減が発表され一息どころかさらなる深みに転落してしまったといえよう。運不運で片付けてしまっていいものだろうか。昨年末、日経新聞で「最悪の年になるしれない」と竹中平蔵氏の言葉通り、派遣切り問題が派遣村からトヨタ、パナソニックといった日本を代表する大企業までにも、いとも容易く伝染し、マスコミに発表され、この問題をますます加速させている。2009年製造業派遣雇用問題もあり、本日のNHKでも特集があるように今、最も関心があり市民が、社会が、政治が早急に対策を発動する問題である。

 「反貧困」の著者湯浅氏は派遣村村長であった社会活動家で、貧困現場で奉仕する実務家だ。彼のような底辺の人の側に立ち、社会に対して提言する人材が、この増大し続ける派遣切り問題にもはや追いついていない。人材が不足している。彼のような市民活動家がもっと必要だし、もう政治にも期待できないから、社会を動かす市民が力を出して立ち上げらなくてはならないときがきている。

反貧困―「すべり台社会」からの脱出 (岩波新書)/湯浅 誠
¥777
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もうご存知かと思うが、テレビの短いCMで登場する「豆しば」という豆でもない、犬でもない不思議な生き物が話題を集めているようだ。このキャラクターは、あの「リラックマ」や「まめゴマ」「こげパン」などを生んだ主婦と生活社の「キャラさがしランド」という雑誌から注目され、いまでは「豆しば」本をはじめ、携帯ストラップ、ぬいぐるみ、∞エダマメ(豆しばバーション)まで発売されているらしい。この豆しばの人気の秘密に、軽くへコンだりしたときに、豆だけに豆知識を教えてくれることにあるようだ。

 例えば、幸子さんが会社の部長のギャグが寒すぎるとへこんだとき、「ねえ知ってる 地球上の最低気温の記録は南極ロシア基地で観測されたマイナス88.3度なんだって」と助言し、また幸子さんが憧れの先輩にさりげなくアピールしているのにいまだに名前すら覚えてもらっていないと嘆いたとき「ねえ知っているニューランドのスチーブンイワサザイという鳥は発見された年に絶滅したんだよ」という。その豆知識が励ましているのか馬鹿にしているのかどっちにも取れるし、それがなんのアドバイスにも役にも立たないというところに豆しばのおかしさとかわいさがある。そんなに悩むことはないのか大丈夫とちょっと楽になって笑う幸子さんを見ているとなんだかこちらの心も楽になったような気がする。
 この豆しばがこれまでヒットしたゆるキャラと違うのは、豆の種類が、枝豆、黒豆、コーヒー豆、ピスタチオなどあるように、それぞれに豆しばがいて同じ豆しばでも種類によって色形が違ってたくさんいるところ。豆しば大図鑑が載っていてそちらを見ていても楽しめる。豆はタンパク質が豊富で栄養満点、ダイエットにもいいし、これから豆しばとともに豆ブームがくるかもしれない。


 
アフリカにょろり旅 (講談社文庫)/青山 潤
¥630
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膨大な量の新刊が出版されている。読みたい本は単行本で読みたいところだが、金銭的にも時間的にも余裕がないため全部は無理で、それならと文庫になったら読もうと思っているとそれもあっという間にやってきてしまう。文庫になったら読む本リストを作ってせっせとまだまだかと待ちわびている。ところが同時に新刊も出版され続けているから、ついうっかりしていると見過ごしてしまう。どのタイミングでいつ文庫になるのかも決まりはないから計画的に狙った文庫を購入するのは難しい。
 この文庫になったら読む本リストに2年という短いスパンで手にできた本がある。「アフリカにょろり旅」である。この本はエンタメノンフという新ジャンルが書店にでき始め、その面白さに賛同する書店が増えていた頃に突如として現れた冒険記で、他の多くの書店で次々に新設していくエンタメノンフ棚を私は横目で見ながら棚の都合上、設置を断念せざるをえなかった辛い思いが蘇った。この「アフリカにょろり旅」の文庫化は私にとって、エンタメノンフへの思いを再び掻き立ててくれた。
 それはこの本がなによりもエンタメノンフの魅力を余すことなく体感できる傑作であるからだ。幻のうなぎを獲るという目的で向かっのたアフリカの地。命をかけてうなぎ捕獲に奔走する2人の珍道中。これぞまさに研究者の姿であってすべての研究者の鏡である。
生声CD付き [対訳] オバマ大統領就任演説/CNN English Express編
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オバマ大統領就任演説 CD Book/小坂 恵理
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CD2枚付[完全保存版]オバマ大統領演説/コスモピア編集部
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 読めない漢字本とオバマ本。日本の首相とアメリカ大統領によって書店の店頭はいつになく賑わっている。ある意味、政治に対する期待の表れかもしれない。この100年に1度の世界恐慌を日本の首相には皮肉たっぷりに批判的な態度で、アメリカ大統領には救世主として歓迎ムードで注目している。関連本の出版ラッシュが続き、その勢いは止まらない。オバマ大統領就任演説集はこの2日間で朝日出版社、ゴマブックス、コスモピアと出版された。なにが違うのかとお客様にたずねられても、演説の内容が各社違っているわけもないし、ほぼ同じといっていい。こうなってくると、もうなんでもありで、歴代大統領の演説をつけたり、入試問題に出るとか出ないとか、店頭で繰り返す流しているオバマ大統領の声が早くも鬱陶しくなってきている。アメリカ人が熱狂するのはわかるけど、日本人が熱狂するのはどうなんでしょう。オバマ大統領には友好的な態度をとり、わが日本の麻生さんにはまたなにかしでかすのではないかと心配している。日本人なら日本の首相と行く末を案じるべきだ。麻生首相名演説集の出版を望む。

定額給付金を図書カードで支給する。そんな自分のところの業界の経済効果しか考えていない書店員である私だが、実際、定額給付金の使い道を考えたとき、私はすべて本代になると予想できる。それなら「私には図書カードで支給してくれてもかまいません」という本好きまだまだ生き残っているもので、定額給付金が支給された折には喜び勇んで書店に駆け込んできてもらいたいものだ。
 景気刺激策として、賛否両論の定額給付金。私の考える定額給付全額図書カード支給はあながち暴論ではないことを裏づける証拠がある。そう、日本も現在のオバマ大統領のような支持率が高かった小泉首相がかつて言った「米百表の精神」である。いまは米を買うよりも将来の子供達の教育や可能性投資に目を向けること。まさに図書カードによって、本を買ってもらうことは子供たちにとっては知の底上げ、教育再生にもつながるのではないだろうか。だけど本は有害図書もあって条件がついてしまう。「定額給付金図書カード支給。有害図書禁止条件付」