ほんのにちようび

ほんのにちようび

心に残った本のあらすじと感想をつづります。

(時に映画、マンガ、音楽などについても)

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書店勤務の友人がこの間、「うちのチェーンの売り上げはこのところ毎年3~4%ずつ落ちている」と言っていた。日販が書店に対して買い切り制を導入するかも、なんていうニュースも出ていたし、書店を取り巻く状況はどんどん厳しくなっているようだ。


でも、書店もいろんな試みをしているんだなあ、と思ったことがふたつ。


1つはTSUTAYAが代官山に出店した「蔦屋書店」。

CCCが現状に危機感を感じて打ち出した新タイプの書店だ。3つの建物に分かれていて、それぞれ1階は旅行・料理・文具+スタバのどちらかというと女子向けフロア、車・建築・デザインなどのどちらかというと男子向けフロア、文学メインの読書好きフロア、というつくりになっている。2階は渡り廊下でつながっていて、CDやDVDのレンタルができるようになっているところがTSUTAYAらしい。


2階中央はふかふかのソファがあるカフェになっていて、すでに休刊になった雑誌や今も続く雑誌のバックナンバー(平凡パンチ、明星時代の「Myojo」など。ジャンルもさまざま)が読めるようになっている。このカフェはかなり魅力的だったけど、いかんせん行ったのが日曜日だったため満席。しかも誰も席を立つ気配がない(笑)。中央にあるカウンターも本を積み上げて作ってあるというこだわりぶりが素敵だ。


この「蔦屋書店」がほかの書店と違うところは、まず全ジャンルを網羅していないこと。コミックや参考書、おしゃれでない実用書などは意図的においていないようだ。雑誌のバックナンバー(それもかなり前、1980年代のものなどまで)が豊富においてあり、実際に買うこともできること。また、旅行フロアには実際にコンシェルジェがいて、旅行の予約までできること。棚の並びも面白く、たとえば旅行の「韓国」の棚には旅行本だけでなく、韓国料理の本、韓国コスメの本から、「シュリ」「猟奇的な彼女」のような映画DVDも置いてあるのが面白い。ヴィレッジヴァンガードのおしゃれハイクラス版と言った感じだ。


まあ、個人的には(自分には興味のない)車関連がやたら充実してるなあ、とか、文芸コーナーは正直それほど買いたい!と思わせるつくりではなかったなあ(個人的に「鳩よ!」のバックナンバーを期待していたので、見つからなかったのが残念)とか、自分向きではない点もいくつか感じたけど、近所にあったら頻繁に通うだろう店であることは間違いない。


2つめは各書店が出している熱いフリーペーパー。

これはそれぞれのチェーンがやっているというわけでもなく、熱意のある書店員有志が作って、勤めている書店に置いているという感じだ。三省堂書店の有楽町で前から「ブンブンコ通信」というフリペ(しかもオール手書きで小学校時代の学級通信みたいなやつ)を出していたのだけど、最近は他チェーンのフリペまで集めておいてあるようになった。こないだもらってきたのは啓文社コア福山西の「明日読む本は、これにしよう!」、精文館書店中島新町店「次読むならコレにしやぁ~」、丸善津田沼店「読書日和」、啓文堂書店多摩センター店「クロネコ通信」など。各書店員の熱いおススメ本が書いてあって、かなり読書欲が湧いてくる。


去年サンフランシスコに行ったとき、市内のどこを探しても「ボーダーズ」「バーンズ&ノーブル」などの大型書店がなかったことが忘れられない。書店がなくなったら、街のどこで心を休めればいいのだろう。厳しい時代だと思うけど、書店にはなんとか頑張ってほしい。


BGM:The show/Kerris Dorsey

ブログ開設初日にまとめた私のオールタイムベストにも、その後ずいぶん追加したいものが出てきました。

このあたりで一度まとめなおします。2012年3月現在の私のオールタイムベストは以下の通りです。 


 1 なくしてしまった魔法の時間/安房直子  
 2 十二歳はいちどだけ(他、十二歳シリーズすべて)/薫くみこ
 3 新撰組血風録/司馬遼太郎
 4 こころ/夏目漱石
 5 ノルウェイの森/村上春樹
 6 パーフェクトブルー/宮部みゆき
 7 きらきらひかる/江國香織
 8 錦繍(あるいは「彗星物語」)/宮本輝
 9 後宮小説/酒見賢一
10 天の瞳/灰谷健次郎
11 詩のこころを読む/茨木のり子
12 塩狩峠/三浦綾子
13 智恵子抄/高村光太郎
14 不道徳教育講座/三島由紀夫
15 恋/小池真理子
16 しゃべれどもしゃべれども/佐藤多佳子
17 クリムゾンの迷宮/貴志祐介
18 橋のない川/住井すゑ
19 言語姦覚/筒井康隆
20 一握の砂/石川啄木
21 今夜、すべてのバーで/中島らも
22 放送禁止歌/森達也
23 変?/中村うさぎ
24 人間の絆/サマセット・モーム
25 壬生義士伝(あるいは「蒼穹の昴」)/浅田次郎
26 キッチン(のなかの「ムーンライト・シャドウ」)/吉本ばなな
27 雷桜/宇江佐真理
28 猫のゆりかご/カート・ヴォネガット・Jr

29 長くつ下のピッピ/リンドグレーン

30 三銃士/アレクサンドル・デュマ

31 レ・ミゼラブル/ヴィクトル・ユーゴー

32 幸福な食卓/瀬尾まいこ

33 クライマーズ・ハイ/横山秀夫

34 樅の木は残った/山本周五郎

35 愛するということ/エーリッヒ・フロム

36 人間の土地/サン=テグジュペリ

37 ためらいの倫理学(あるいは「先生はえらい」)/内田樹

38 DIVE!/森絵都

39 アラビアの夜の種族/古川日出男

40 袋小路の男/絲山秋子

41 青い城/モンゴメリ

42 BOX!/百田尚樹

43 花と火の帝/隆慶一郎

44 食堂かたつむり/小川糸

45 本格小説/水村美苗

46 船に乗れ!/藤谷治
 
 本日のBGM: The beginning/絢香

去年はちょっと読書量が少なめ。全体的に不作の年でした。

総読書数:166冊


[2011年のベスト10冊]

空白の5マイル/角幡 唯介
 ・・・あらゆる秘境が探検し尽されたこの現代において、どの探検家も足を踏み入れたことのない5マイルの秘境がチベットにある…。そんな秘境に大学の探検部に所属する作者が挑戦した記録がこの本。私も旅は好きな方だけど、こんな命をかけた旅はちょっとごめんだ。でも、そう言いつつも、後ろを振り返らず無謀な挑戦を繰り返す作者がどこかうらやましくもあり、謎が解明されていく展開から目が離せない。


デフヴォイス/丸山 正樹
 ・・・これまでなかなかスポットが当たることがなかった聾唖者の生活を描いた作品。家族に聾唖者がいたせいで、“ネイティブ”に近い形で手話を操ることができる主人公は、ある日、手話通訳士として法廷通訳を頼まれることになる。大きな事件がなくても、ディテールのリアルさと巧みな心理描写で十分楽しめるのだけど、途中から一気に話が展開してにわかにミステリーの様相を帯びてくる。と思ったら、松本清張賞最終候補作だったのね。これがデビュー作とのことで、2作目が今から楽しみ。もし2作目が本作と同等の水準だったら、ポスト藤原伊織も夢ではないと思う(個人的にはミステリーじゃない作品を書いてほしいけど)。


ヤマノミ/国分 拓
 ・・・NHKの報道局ディレクターとして、アマゾンのヤマノミ族に潜入取材をした作者の記録。同名でNHKのドキュメンタリーとしても放映されたようだ。私たちの常識ではちょっと想像できない行為が、彼らの生活の中ではごく普通に行われている。その空間には神が存在している、と思わせる。別れの際に、カメラマンが歌った「島唄」(THE BOOMのね)をヤマノミの人々が繰り返し聞きたがった、というくだりが印象的。「辺境にこそ文化の本質が残る、という言葉を思い出した」という作者のことばが心に残った。そういえば、昔ブラジルの日本人村に行ったときのことを話していた先輩が「彼らは、僕らがもう使わなくなった美しい日本語を話していたんだよ」と言っていたなあ。


困ってるひと/大野 更紗
 ・・・20代半ば、難民問題に取り組むアクティブな大学院生の作者が、ある日突然原因不明の難病に。その難病がこれまた超レアな難病で、とつぜんおしりから(穴ではなく臀部から)大量の液体が流出したりする。そんな難病ライフを、ユーモアを交えながら記録する作者はただ者ではない。きっと極限まで行って、ちょっと達観したんだろうなあ。ちなみにこの作者の方、知人の大学の先輩だというから世間は狭い。


正義のミカタ/本田 孝好
 ・・・「Missing」が面白くて注目し、以後新作が出るたびにがっかりさせられてきた(←ごめんなさい)本田孝好。この正義のミカタは久々に振り切れてて、読んでてわくわくした。いじめられっこの主人公が大学で「正義の味方研究部」に入部し、少しずつ変わっていく…のだけど、最後がちょっと…。ラストが違えばもっと評価が高かったのにちょっと残念だけど、それでも読む価値あり!


望郷の道/北方 謙三
 ・・・人生相談の回答でことあるごとに「ソープへ行け!」とのたまってきた北方謙三先生。そのネタがあまりに有名すぎて、今まで著作を読む気になれなかったのだけど、読んでみたらびっくりするほど面白かった。今まであなどっていてごめんなさい。賭場を仕切る女カリスマと、船頭として名をはせる男カリスマが結ばれるも、とある事件で故郷を追われ、台湾で裸一貫から菓子屋を創業。その波乱万丈ぶりたるや、大河ドラマ並みの読み応え。また主人公夫婦のキャラクターがとても魅力的で、惹き込まれる。


信玄の軍配者/富樫 倫太郎
 ・・・トガリンの軍配者シリーズ第2弾。足利学校で学んだ3人の軍師が、北条早雲、武田信玄、上杉謙信のもとでそれぞれ活躍する様子を描いている。この3人の、べたべたしていないけどあつい友情が泣かせるんです。3作目の「謙信の軍配者」ももう出てるから早く読まなくちゃ。


コトリトマラズ/栗田 由起
 ・・・前から面白い話を書くなあ、と思っていた栗田さんの、今回の作品は私の嫌いな不倫もの。しかも大して大きな出来事は起こらない。なのにこんなに読ませるなんて!淡々としている筆致なのに、細かい心理描写に都度共感させられる。


サラマンダー殲滅/梶尾 真治
 ・・・映画にもなった「黄泉がえり」の作者の初期のころの作品らしい。地球外の惑星が舞台のSFもの、という少し現実離れした内容も、海外滞在時に読んだせいか難無く入っていけた。主人公はテロで夫と子どもを亡くし、ショックのあまり意識を失ったままの美しい未亡人、静香。父親が劇薬を使って彼女の辛い記憶を消し、意識をとり戻させる。夏目郁楠という軍人が彼女に思いを寄せる。こいつがまた新しいタイプの超自己中ヤローなのだが、面白くて目が離せない。ところどころ現れるちょっと突飛な設定も面白く、ラストはありがちでない感動をもたらしてくれる。


ベイジン/真山 仁
 ・・・関係者が事前にこの本を読んでいたら、福島原発の事故を防ぐことができたのでは? こんなリアルな原発小説が、事故の2年も前に出ていたなんて! 日本企業の技術者が、中国の現地スタッフと協力して原発を建設するのだけど、日本企業の思惑、政治家の思惑、国家の思惑が絡まり合い、不完全な状態で操業を開始せざるを得なくなり…。その後の原発の制御不能状態は、まるで震災後のニュースを見ているかのようだ。


[番外]

ふがいない僕は空を見た/窪 美澄
 ・・・男子高校生の「性」と「生」。最初のエロい部分を変えれば違う賞も狙えたのでは?と思うけど、あの部分があるからこその幅の広さや懐の深さも感じられるので一概にない方がいいとも言えないか。2作目をぜひ読んでみたいと思えたので番外に。

去年はちょっとした読書会(?)みたいなのに参加していたこともあり、ふだんよりたくさん本を読みました。


総読書数:207冊


[2010年のベスト10冊]

船に乗れ!/藤谷治 →殿堂入り

 ・・・これはぶっちぎりで2010年ベスト。ここ5年を振り返ってもいちばん良かったんじゃないかというぐらい、私の好みどまんなかです。中高一貫校の音楽科に通う生徒たちの青春小説。音楽に打ち込む日々の豊かなディティールと、残酷なまでの青春の痛みの描写が素晴らしい。


本格小説/水村美苗 →殿堂入り

 ・・・恋愛小説部門の2010年ベスト。英語もろくに話せないままアメリカに渡り、アメリカ人のお抱え運転手から億万長者へと成功していった東太郎という男。常に孤独な影を背負った彼は、日本での重い過去を振り切るように渡米したのだった。そんな彼の激動の半生が周囲の人によって語られていくのだが、その構成の巧みさといったら。物語自体も実に重厚で、まさに「本格小説」の名にふさわしい。


花と火の帝/隆慶一郎 →殿堂入り

 ・・・隆慶一郎の未完の遺作。後水尾天皇に向けられた徳川家の陰謀と、天皇の尊厳をかけて戦う八瀬童子(天皇の駕籠をかつぐことを許された人→天皇の側近)たち。歴史小説というよりは伝奇小説という方が近いかな? インド人とか呪術とか色々出てきて、キャラの濃い人たちが戦いまくります(笑)。


空飛ぶタイヤ/池井戸潤

 ・・・トラックで死亡事故を引き起こした運送会社の社長が、自分のせいにされた事故の原因が実は車両の欠陥にあったと知り、大手自動車会社のリコール隠しに対して徹底的に立ち向かう話。このあとしばらく池井戸潤にはまった。基本的には弱い立場の人が巨悪に立ち向かう話ばっかりなんだけど、わかっててもやっぱりスカっとするんだよなあ。


永遠のゼロ/百田尚樹

 ・・・この人はとにかくうまい。浅田次郎に匹敵する(いや、超えるかも)泣かせの才能があるな。特攻隊ものという鉄板の「泣かせ」テーマなんだけど、予想外のラストなんかもしくまれていたりして、とにかく脱帽。2011年も目が離せません。


リテイク・シックスティーン/豊島ミホ

 ・・・「女による女のためのR-18文学賞」(ちょっとエッチな小説)で受賞してデビューしたのに、その後は基本的に「冴えない青春」ばっかり書いてた豊島ミホ。そんな彼女の真骨頂であり、休筆宣言前最後の作品がこれ。27歳無職の主人公が、冴えない青春を取り戻すためにタイプスリップする話。やりなおしたって、変えられないこともある。


早雲の軍配者/富樫倫太郎

 ・・・北条早雲の軍師となるべく、難関で知られる足利学校へ送られることになった主人公の、刺激的な出会いと成長の話。軍師の話なのに、やっと卒業して軍師デビュー!ってとこで終わっちゃうんだよなあ、と思ってたら、やっぱり続編が出るみたい。富樫倫太郎も今後注目したい作家です。


最後のプルチネッラ/小島てるみ

 ・・・最高の喜劇役者の称号「プルチネッラ」を得るべく競う、名門出の御曹司と貧困層出身の少年。そこに大いなる輪廻転生のストーリーが溶け合う。(途中まで結構分かりにくいんだけど)クライマックスで訪れるカタルシスはちょっと他の作品では味わえないものです。


俺俺/星野智幸

 ・・・この世がみんな自分と似た考えの持ち主だったら、生きやすいのか、生きにくいのか!?まず、手始めに自分以外の「俺」があとふたりこの世に現れる。3人の俺は見事に意気投合するのだが・・・。アイデアが新鮮で面白かった。錆びた頭が刺激を受けました。


オリガ・モリソヴナの反語法/米原万里

 ・・・ロシア語同時通訳の第一人者であった米原万里さんの実体験をベースにしたと思われる話。プラハのソビエト学校で、ものすごくキャラの立っているダンスの教師だったオリガ・モリソヴナ。教え子だった志摩は、成人後に彼女の半生を調べる旅に出るのですが・・・。こんな話は、共産主義社会を身をもって体験した米原さんじゃないとちょっと書けないでしょうね。ソ連の歴史を知るという意味でもかなり充実した本です。


[番外]

猫を抱いて象と泳ぐ/小川洋子
 ・・・完全に小川洋子ワールド。本当の姿を見せない伝説のチェス・プレイヤーのお話。「先生の愛した数式」が好きな人はきっと好きだろうな。基本的に淡々としているのですが、たまにはこんな深い味わいを残す本もいいものです。


DINER/平山夢明

 ・・・私、基本的に残酷な殺しの描写とか、スプラッタとかダメなのです。この本は殺し屋だけが利用できる絶品ダイナー(食堂)の話で、あらゆる変人殺人者がやってきて、食事しながら人を殺しちゃったりするので、読んでて相当気分が悪くなります。それなのに、そんな私でも最後まで一気に読んでしまった、この面白さは一体何なのだろう?すごく不思議な作品。



KAGEROU/齋藤 智裕
¥1,470
Amazon.co.jp
★☆


珍しく流行りに乗って読んでみました。

水島ヒロについてはあんまり興味がなかったんだけど、私の大好きな版元のひとつであるポプラ社が「八百長で受賞」などというセコイことを本当にしたのかどうか、自分の目で確かめてみたくて。


世間で酷評されているほど、ストーリーはひどくなかったです。

起承転結もちゃんとあるし(←何様?笑)。


たぶん、自殺についてつらつら考えているときに思いついちゃったんだろうな。自殺する人を止められないのなら、せめて死後の体を病気の人のために提供してもらえたらいいのに、って。そして、その勢いに乗って、「自殺しようとしている中年男性の前に、全国ドナー・レシピエント協会の職員が現れて、“死ぬ前に臓器を提供してください”ともちかける話」を書こう!って決意しちゃったんだろうな。


というわけで、ストーリーは思いのほかちゃんとあるのですが、いかんせん感情移入が全く出来ません。

登場人物がなぜその行動・感情の動きに至ったかという経緯がまるで分からない上に、40歳の主人公も、協会職員の青年であるキョウヤも、20歳のヒロインもすべて話し方が同じ。人物の書き分けが出来ていないのを補うため(キャラづけ?)なのか、自殺願望を持つ主人公がなぜか意味不明なオヤジギャグをたびたび言うのですが、これがまたまったく効果をなしていない。全体的にリアリティが極めて希薄なのです。


いっそ、主人公はスイスのインターナショナルスクールで死ぬほどいじめられたトラウマを持つ元俳優、などとしたほうがよっぽどリアリティが出てよかったんじゃないかしら。


気になるポプラ社の八百長疑惑については、はっきりしたことは分かりませんが、この本を心の底から「大賞に値する」と評価したのであれば、ポプラ社小説大賞にはもはや存在意義がないと思います(実際今回をもって終了とし、「ポプラ社小説新人賞」にリニューアルするらしいですが)。今回のことが八百長であったとしても、なかったとしても、いずれにせよポプラ社の凋落を示す出来事のようで、ファンとしてはとても残念です。


BGM: Goodbye Happiness / 宇多田ヒカル

私の人生にいちばん大きな影響を与えた『ノルウェイの森」が映画化されたので、公開初日にいそいそと見てきました。


内田樹さんのブログ記事 を事前に読んで、それほど素晴らしい出来ではないだろうなあと予想がついたのと、原作を何十回と読んでいる自分にはどうしても違いが目についてしまうだろうなあと分かっていたので、あまり期待はしないようにしつつ。


恐れていた通り、やたらと性的なシーンばかりが印象に残る映画になっていて、とても残念。もともと原作もそういう場面が多いけれど、各登場人物のディティールが丁寧に描きこまれているからこそ、ただのエロ小説で終わらないあんなにも豊かな小説になったというのに。原作の性的なシーンは「生きる」ことの象徴であり、相手との「対話」であり、ときには「癒し」の意味合いを持つ深い行為だったのに、映画版ではただの発情期の女性たちが主人公と寝ることによって性的欲求不満を解消しているようにしか見えない。


一緒に見に行った相方(原作未読)は「それぞれの登場人物がどうしてお互いに惹かれあっていくのかよくわからなくて、感情移入が出来なかった」と言っていました。なるほどその通りで、主人公と直子が東京を歩き回る中でお互いに心を開いていく過程や、突撃隊の笑い話、永沢さんのエピソード、緑の父親と主人公の交流を見て緑の心が動く場面、火事を見ながら気持ちが高揚して思わず口づけを交わしてしまうシーン、レイコさんが病んでいくきっかけとなった少女との出会い、主人公とレイコさんが行った音楽葬など、重要なエピソードがことごとく削られているために、登場人物たちはなぜそんなに悩み、何に苦しんでいるのかがよく分からない。レイコさんなんて、完全に欲求不満のおばさんにしか見えません。


でも、結局のところ私がいちばん違和感を感じたのはリズムとトーンだったように思います。原作はところどころに心温まる話や面白いエピソードが散りばめられていて、だからこそ深刻なシーンとのメリハリがはっきり感じられる作りになってたのに、映画は音楽も含めひたすら陰鬱としてリズムがない。主人公と直子はやたらとせかせか歩き回り、直子は変に甲高い声でしゃべり(若作りのため?)、レイコさんも妙に高い声で(原作はハスキーだった)歌う。主人公も舌足らずで、知性が感じられない話し方をするせいで、原作どおりのセリフが浮いてしまって白々しく感じます。


よかったところを探すのは難しいけれど、緑役の水原希子さんはイメージに近くはつらつとしていてよかった。あと、永沢さん&ハツミさんのカップルも雰囲気があって印象に残りました。また、草原のシーンをはじめ、映像は全般を通して美しかったです。


願わくば、日本人脚本で再度映画化して欲しい…。

BGM: Norwegian Wood/ The Beatles

久々に歴史小説にハマった。

歴史小説といっても隆慶一郎の作品は(もともと脚本家出身ということもあって)かなりエンタテインメント性が高い。


最初に読んだのは『一夢庵風流記』。

一夢庵風流記 (新潮文庫)/隆 慶一郎  ★★★
これは『花の慶次』というマンガの原作にもなっている。前田利益(慶次郎)というカブキ者の戦国武将の、破天荒っぷりを描いた作品。慶次郎の命を狙っていたはずの忍びが、いつの間にか慶次郎に男惚れして家来になってたり、秀吉の命令に逆らったのに逆に「骨のあるやつ」と気に入られたり、前田利家の愛妻まつと熱い愛を交わしたかと思えば、朝鮮で王族の末裔と恋に落ちたり。マンガっぽくて実に痛快。

次に読んだのは『吉原御免状』。

吉原御免状 (新潮文庫)/隆 慶一郎 ★★★☆
 
宮本武蔵に「二十五歳になるまでは決して山を出るな」と、人里はなれた山中で育てられた剣豪の主人公、誠一郎。武蔵の死後、江戸の遊郭・吉原を束ねる人物をたずね、そのまま吉原で暮らし始める。次第に明らかになる誠一郎の正体、吉原の成り立ちに秘められた謎、そして最後にたどり着いたのは御免状という書状に隠された、幕府を揺るがす秘密だった・・・。
この本には、傀儡子(人形遣い)、山伏、陰陽師、説教師、猿楽師、楽人、遊女、巫女などなど、当時定住地を持たないジプシーのような存在だった人々が生き生きと描かれていて、読んでいてとにかく楽しい。隆慶一郎はこのような人たち(「道々の輩(みちみちのともがら)」と呼ばれる)を描くのを終生のテーマとしていたようだ。

そして、絶筆となったこの作品(未完)がまた傑作なのである!

花と火の帝(上) (講談社文庫)/隆 慶一郎 ★★★★
今度は天皇の駕輿丁(天皇が乗ってるカゴをかつぐ人=これも広義の道々の輩)が主人公。徳川秀忠の恐るべき陰謀と、後水尾天皇の悲壮なまでの決意がぶつかる。またこの主人公がすごいんだ。5歳で自ら天狗に弟子入りしちゃうんだから。マンガっぽくて、キャラの立ったキャラクターが入り乱れながらも、確かに歴史のうねりを感じる一級の歴史小説でもある。最後まで読みたかった~。

BGM:They don't care about us/Micheal Jackson




「前に書いてた本のブログまた書いてよ」

という、とってもとっても奇特&貴重な方のリクエストにお答えして、またぼちぼち本のブログを再開することにしました。


まずは2009年の読書を振り返って。


総読書冊数:130冊


[2009年のベスト10冊(順不同)]

歴史の小咄/司馬遼太郎

 ・・・司馬遼太郎と日本史学者・林屋辰三郎が歴史について延々と雑談(?)を繰り広げる対談。

「蘇我氏は高句麗人だった!?」「日本人のメンタリティは鎌倉時代に確立された」「前方後円墳は盾を伏せた形(=不戦、平和の象徴)で、唐へのアピールである(実際、唐から船で来るときに前方後円墳が見えるらしい)」などなど、面白い説が続々出てきて興奮の連続。


サクリファイス/近藤史恵

 ・・・自転車レースを題材に、事故と過去の事件をめぐる謎を追う話。自転車レースという競技そのものがとてもドラマチックで面白いのに(これだけで一冊本が出来そうなぐらい)、衝撃的な事故の衝撃的な真相が解き明かされていくところがたまらない。個人的には恋愛話はなくてもよかったなあ。


ハゲタカ/真山仁

 ・・・私の企業小説に対する食わず嫌いを解消してくれた本。なーんだ、企業小説ってすごい面白いじゃん。でも、それもこれも鷲尾、リン、アランなどの登場人物のキャラが立ちまくって魅力的なおかげ。なんといっても、船場の大店の息子で元ピアニスト志望の人(=鷲尾)があくどい企業買収しちゃうんですから。


1Q84/村上春樹

 ・・・村上春樹にしては珍しいぐらい読みやすくて、一般向けの小説。これまで村上春樹を敬遠していた人はこれを読むとちょっとイメージが変わるかも。とっても読みやすいけれど、気がつくと話はどんどん深いところに入っていって、いつの間にか主人公(青豆)の孤独に自分がシンクロしていく感じ。


自壊する帝国/佐藤優

 ・・・外交官としてソ連に駐在していた佐藤氏が、ソ連が崩壊していくさまを描いたドキュメンタリー的小説。彼が向こうの大学で知り合った学生が思わぬところで独立運動に関わってきたり、彼とソ連の重鎮との手に汗握るやりとりなど、客観的レポートではなく、彼の日々の生活、揺れ動く感情を通してソ連崩壊の様子が感じられたのがとても面白かった。


青い城/モンゴメリ

 ・・・カナダ版負け犬小説。地味でネクラで、男の人とろくにしゃべったこともないまま結婚適齢期を過ぎた箱入り娘の主人公が、ふとしたことから不治の病にかかっていると勘違いし、とんでもない行動にでる。そのとんでもない行動が、とんでもなく感動的な結末を呼ぶ。これぞまさに現代版シンデレラ・ストーリー。


アフリカ・レポート/松本仁一

 ・・・中野美奈子アナがシエラレオネを取材したドキュメンタリーをテレビで偶然見たのをきっかけに、この時期アフリカ本(主に松本仁一もの)を読み漁った。植民地から独立した後のアフリカの病巣がいかに深いか、そのアフリカに対してJICAをはじめとする団体がどのような手を差し伸べているのか、そして今、中国人がどのようにアフリカへ進出しようとしているのか。現地に駐在した松本氏ならではの体験や説得力ある考察、それからアフリカ独自の慣習など、新鮮なことばかりだった。これについてはまた時間のあるときにゆっくり書いてみたい。


BOX!/百田尚樹

 ・・・ボクシングという競技はもともとドラマチックで好きなんだけど、これは「あしたのジョー」に次ぐ傑作。傑出した才能を持った天才型ボクサーが努力型ボクサーに追いつかれたとき、どのような行動に出ると思いますか?ふてくされて辞めてしまうか、努力型をしのぐ努力をしてトップに返り咲くか。この小説はどちらでもなく、その第3の選択肢に私はクリティカルヒットをくらいました。高校生の青春小説としてもおすすめ。


タイム屋文庫/朝倉かすみ

 ・・・会社を辞めて、タイムトラベル小説だけを集めた古本屋兼カフェを開店するアラサー女性。一歩間違えたら自分がやりかねないシチュエーション(笑)。そこに集う人々、古い恋の思い出と新しい出会い、近所のレストランでの料理修行。大きな出来事が起こるわけじゃないけど、心があったかくなるお話。


一夢庵風流記/隆 慶一郎

 ・・・マンガ「花の慶次」の原作らしいです。前田慶次郎(利益)というとんでもないカブキ者の破天荒な一生を描いたお話。「蒼天航路(三国史のマンガ)」の曹操を見ているような、男の子があこがれそうな痛快な話です。これを読んだことが隆慶一郎にはまるきっかけになりました。が、またそれは別のお話。


BGM:Wild horses / Susan Boyle