毛糸屋にて
街を歩いていたら「閉店セール」の垂れ幕を出している毛糸屋がありました。垂れ幕は今時珍しい模造紙に手書きで「最大50%OFF(selected items)」、加えて「Cash Only(現金のみ)」クレジットカードが使えないなんて、ここもコロナショックによる倒産パターン?なんてことを思いつつ店内に入ると、天井までぎっしり積まれた毛糸の山に埋もれるように、老婆が1人ポツンと座っていました。彼女の前には、手作り感溢れる飛沫防止用のクリアボードのついたて。どこから見始めようと悩んでいると、男の人が入ってきて、「子供に頼まれてたクマの手作りキットのお金持って来た。現金だけなんだよね?」「・・・・クマじゃなくてトナカイです」そんな会話を横で聞きながら毛糸の棚を見ていたけど、セール品がどこにもない。まさか全品半額?!もってけドロボーパターンですか?なんてうまい話の訳ないか、とウロウロしていたら、やっとセール品を発見。でも棚と天井の隙間にほんの数種類のみ。狭い店内に1万玉くらいありそうなのに、「selected items(一部商品)」と事前に言われていたものの、ちょっとselected過ぎやしません?それでもアンゴラ混の毛糸が2ポンド65が1ポンドに下がっていたので、4玉取り、レジに持って行きました。「これください。この店いつ閉まるんですか?」「来月末まで。私癌になっちゃって、もう体力的にギリギリで。今日も1時に店閉めて抗がん剤打ちに行くの。この店のオーナーはさっさと閉店させたいみたいで『あと3か月分の家賃払ってくれないなら、クレジットカードの機械も使用禁止』って持ってかれちゃって。だから現金のみでごめんなさいね」「そうですか大変ですね。いやあ、これだけの毛糸を置いている毛糸屋ってなかなか無いから残念です。今はオンラインで買う人増えちゃってるでしょ」「でも色は実物を見ないと分からないもんよ」「本当そう。勿体ないなあ。私全部欲しいわ」「だったらあなた、この店買いなさいよ!!!」目をくわっと見開き、おばあちゃんパワー突如炸裂。「私、隣のドーセット州に住んでるから無理です」「あらそ」「じゃお会計お願いします。これ1玉1ポンドですよね」すると老婆は、私が跡継ぎを速攻断ったのが気に食わなかったのか、「あなたがそう言うなら、そうしましょ。私も反論はしたくないですし」おいおい、私はズルして安く買おうなんて微塵も思っていませんが?!「いやいやいやいや、1ポンド、ってあそこに赤で書いてありますけど」「だからいいのよ、あなたたがそう言うなら」「ここ!ここに書いてます!」ピョンピョン跳ねて指さす私。なんせ値札は天井近く。「分かりました、確認させてもらいましょ」「やっぱ疑ってんじゃん!!」「あら、本当だ。そっかあなたのは50グラムだから1ポンドだわ。ごめんなさいねー、私100グラムの方で計算してた」老婆ーーーー!!!他にマスクに使えそうなゴム紐と、スペイン産のちょっといい毛糸を2玉。「おばあさん、グッドラック」の気持ちを込めて総額13ポンド、現金でお支払いしました。にほんブログ村