卒業式の晩、20人程の仲間で、ススキノへと繰り出した。途中、トル

コ(当時)組とクラブ組とに別れ、居酒屋『八坪』で午後10時に合流する

ことを決めた。英次はクラブ組に回った。クラブへ行った連中はほろ酔い気

分で、トルコに行った連中はスッキリした顔で戻って来た。それから朝まで

宴は続いた。

 そして19843月下旬、英次は東京へと旅立った。19歳の春だった。(了)

翌朝、早く目を覚ますと、親父も母も、まだ家にいた。

「親父、母さん、俺、進学するわ」

「どういう風の吹き回しだ。まあいい。その代わり札幌の大学には行くな。

東京へ行け。仕送りはしてやる」

親父は、かねてから、

大学に行くなら家を出ろと言っていた。

「わかった。俺、理系元々駄目だし、もう理系の授業も受けてないから、私

立になるけど」

「構わん。金が少なかったら、バイトでもしろ」

「わかった」

 担任の堂前は、大喜びだった。

「よく決心したなあ、川嶋。お前なら行ける。頑張れ」

「はい。」

 それから、英次は猛勉強をした。英語と国語は学年でもトップクラスだったので、それを維持すれば良かった。問題は、歴史だった。英次は三年では日本史を選択していたので、日本史で挑むしかなかった。そして、日本史は間に合わなかった。

2月から1か月ほど、英次は東京にいた。最初は安宿を泊まり歩き、受験が全部済むと、東京の私大に進学していた兄貴のアパートで世話になった。

 結局、英語と小論文と面接しかない、ほどほどの大学の英語学科に英次は合格した。9校ぐらい受験したが、日本史がある大学は全部駄目だった。

「おい、英次。D大に受かったのは、新聞発表で見たけど、後はどうだったんだ?」

フクが札幌に戻った英次に、早速問いかけてきた。フクもサルもバンブーも、札幌の大学に受かっていた。

「後はって。それだけさ」

 それから職員室に報告に行くと、英次は教師達に取り囲まれた。

「川嶋、浪人しろ。お前なら絶対、早慶に行ける」

「いや、俺、D大に行きます。俺、年食(ねんく)いだし、親にも散々迷惑かけてきたんで、もう金は出してもらいたくないっす

「川嶋。落ち着いて、考えろ。早慶に行けば、必ずいいところに就職出来る」

 英次はもう一度、あの時と同じことを言った。

「いいところって、どんなところですか?」(続く)

「英次。料理の命は、包丁捌きじゃねえ。味だ」

「俺の味つけに問題があるんですか?もっと修行しますから」

「いや、無理だ。お前の舌はタバコでいかれちまっている。コックにとって

、舌ほど大切なものはねえ」

「それなら、今日からタバコ止めます」

「手遅れだ。舌が元に戻るまで3年以上は軽くかかる。それでも、戻らない奴

もいる。思えば、教えた俺が悪かった。すまん、英次。お前がこれほどの器

になるとは、その時気がつかなかったんだ」

「マスター。俺の夢だ。コックは俺の夢だ」

英次は涙声になっていた。

 「英次、今日いっぱいで、お前は頸だ。二度と店に顔を出すんじゃねえ」

「マスター・・・」

英次は涙声で哀願した。

「英次、もう一度だけ言う。今日いっぱいでお前は頸だ。出て行け」

英次はもう、反論しなかった。黙って、帰り支度を始めた。そして店の扉

を開けようとすると、マスターがもう一度、英次に声をかけた。

 「英次、コックだけが人生じゃねえ。お前はまだ若い。クスリも止められ

たじゃねえか」

「うん、マスター。俺、頑張るよ」

「英次、楽しかったな。ありがとう。」

 英次は店を出ると、チャリンコでバンブーの下宿へと向かった。

「何だ、英次。遅かったじゃねえか」

隆は煩い奴だ。

「ああ、ちょっとあってな。酒くれ」

「今日はホワイトなんだけど」

サルが気まずそうに言う。

「何でも構わねえ。早くよこせ」

そう言って、ホワイトのボトルをサルから取り上げると、英次はそれを生の

まま、がぶ飲みした。

 「おい、英次、大丈夫かよ」

バンブーが心配そうな顔で英次を見上げる。

「いいから、いいから。今日は飲むぞ」

英次はそう言って、ホワイトをまたがぶ飲みした。

やがて英次は、酔い潰れて眠った。目を覚ますと、フクもサルももう帰った

ようでいなかった。

 「英次、やっと起きたか。大丈夫か?チャリンコで帰れる?」

「ああ、もう醒めた。バンブー、迷惑かけたな。したっけ」

そう言うと英次は階下に降り、チャリンコで蛇行運転しながら家へ向かった

。家へ帰ると、真っ先に2階に上がり、夢も見ない深い眠りについた。

(続く)

また、いつもの生活が始まった。英次は放課後になると、<ボギー>で2時間だけ働き、それから、バンブーの下宿へ向かうようになった。バンブーも実家は札幌ではなく、寮を飛び出した下宿生だった。英次が着く頃には、隆とサルがいつも、もういた。本当は、風呂付のマンションに住んでいる隆とサルのところの方が快適だったのだが、隆のマンションは遠すぎ、サルは姉ちゃんと住んでいたので駄目だった。

  「英次、待ちくたびれたぞ」

隆がとんがった唇で言う。3人はすでに、すっかり慣れた口調で英次を呼び捨てるようになっていたが、英次にはそれなりに敬意を払っており、英次が到着するまで決して酒に手をださなかったのだ。

  「おお、今日はオールドか」

英次はうれしそうに言った。

 ”しかし、こいつら金持ってんなあ”

バンブーはあまり金を持っていなかった。酒はもっぱら、たくさん小遣いをもらっているフクとサルが調達していた。英次は、学食で昼飯を食う金、500円を毎日母から貰うだけで、バイトをしていたこともあり、それ以外の小遣いは一切、与えて貰えなかった。昔、金をくすねていたことの罰でもあった。それでも金がなくなると、まだ寮に残っている奴と弁当を売買した。相場は30円だった。

 3人はオールドを生で飲んだ。コップなんかなかったので、回し飲みだ。タバコはバンブーと英次しか吸わなかった。生で飲むと、さすがに回った。バンブーは酒が入ると、気が大きくなるタイプだった。隆は、が体がでかいこともあり、日に日に強くなっていった。サルだけは、一口しか飲めなかった。こうして短い宴が終わると、英次はチャリンコを飛ばし家へ帰るのだった。心地よい酔いにそよ風が相俟って、とても気分が良かった。


 秋も深まり、寒さが身に染みるようになったころ<ボギー>でのバイトを切り上げた英次が、バンブーの下宿へ向かおうと支度していると、突然、マスターに呼び止められた。

  「おい、英次。ここに座れ」

マスターはいつになく神妙な顔つきをしていた。

  「何すか、改まって」

  「お前、進学しろ。コックは諦めるんだ」

  「何ですか? 俺、上達したじゃないですか? 俺の唯一の夢なんですよ」

  「いいか、英次。お前の包丁捌きは俺も驚くほど上達した。微妙な火加減も上手くなった。ハンバークの蒸し方は俺より上だ」

  「なら、何で?」(続く)

 「あいつほど上手い奴が何でまた?追突でもされたのか?」

「逆だ。大麻でラリっていたらしい。それで、蛇行運転しながらセンターラ

インはみ出して、トラックと正面衝突した」

「どこで調達したんだ?大麻。奴の兄貴はまだ務所の中だろ」

ジーンの兄貴は再犯だったので実刑を食らっていた。

「兄貴の舎弟から安値で手に入れてたみたいなんだ。俺も詳しいことはわか

んねえが」

「通夜はいつだ?」

「明日の晩だ。来られるか?」

「ああ、バイト休んで行く」

 翌晩、英次は学ランのまま、通夜に赴いた。他に適当な服がなかったか

らだ。くだらねえ奴らばかり集まっていた。英次は、便所で一服すると、座

敷に上がった。弔辞は高1時の担任、権藤が読み上げた。

「シンイチロウ(ジーン)は、シンイチロウは・・・」

そう言うと、権藤はもう言葉になら無くなった。大粒の涙を流している。島

竹と英次の瞳からは一滴の涙もこぼれなかった。

 通夜は終わった。

「なあ、島竹、一杯行くべ」

「お前、学ランじゃねえか」

「着替え、持って来ている」

 それから、島竹と英次は中島公園で地下鉄を降りた。

「おい、英次。何で中島公園なんだ。ススキノに行くべ」

英次は静かなところで飲みたかった。ススキノの喧騒は今日に限っては御

免だった。だから、客の少ない『ラブ・イン・スプーン』に向かったのだ。

「へえ、こんな店、あったんだ。ここなら落ち着いて飲めそうだな」

竹島はビールを注文した。英次はソルティー・ドックにした。そして、ひと

しきり、お互いの近況を報告し合うと、島竹がぼそっと、呟くように英次に

言った。

 「なあ、英次。本当に悲しいと、涙って出ないもんなんだな」

「そうだな。俺もおんなじこと思ったよ」

その晩、島竹と英次は閉店の午前4時まで飲み続けた。吐いては飲み、吐いては飲みを繰り返した。『ラブ・イン・スプーン』のマスターは、たびたび英次達に帰るように促したが、2人は、頑として聞き入れなかった。そして、店が閉まり、ヘロヘロになって外に出ると、もう外は白み始めていた。

 「じゃあ英次、したっけな。」

「ああ、したっけ。」

 1983年のある夏の日、ジーンは雲になった。(続く)


こうして1学期が終わり、夏になると、英次は『ボギー』でまた6時間ほど、働くようになった。時々、仲間達と飲みに出かけた。だが、もう既に常飲者ではなくなっていた英次は、誘いを断ることもあった。とにかく、『ボギー』で料理を覚えることが、今の英次にとっては大切だった。だが、タバコだけは手放せなくなっていた。

 「英次。包丁捌き、上達したなあ。」

マスターが嬉しそうに言った。英次は、ハンバーグやシチュー、ポークソテ

などの手の込んだ料理も任されるようになった。マスターは新しい皿洗いを

雇い、自分はコーヒー入れとサーブに徹した。時々考え込むような仕草を見せ

るのが、ちょっと気に掛かったが、英次は懸命に働いた。

 「英次ちゃん。このシチューの味つけ、ちょっと濃いわよ」

ある日、出勤前のホステスにふと言われた。

「すいません。ちょっと、塩、胡椒振りすぎたかなあ」

「そう?わたしはちょうどいいけど」

別のホステスが英次を庇う。

「とにかくもっと勉強します」

 2学期が始まった。また、『ボギー』でのバイトは2時間に短縮された。

次は3年になっても、席次はトップだった。特に英語と国語は学年を通し

ても、群を抜いていた。大して勉強はしなかったが、英次は集中力が高く、

短時間で多くのことを覚えることが出来た。

担任の堂前はしきりに英次に進学を勧めたが、英次は決して首を縦に振るこ

とはなかった。

夏のある日の暑い日曜日、英次の家の電話が鳴った。

「英次、電話よ。島竹君だって。早く、降りて来なさい」

母が大声で英次を呼んだ。

 「何だ、島竹か。しばらくぶりだなあ。今、何やってるの?」

「サンローゼでウェイターやってる。そんなことより、英次。いいか、落ち

ついて聞けよ。ジーンが事故って、死んだ」

「何だって?」

英次は母に話しを聞かれないようにするため、居間のドアを開け、玄関先

まで電話のコードを引っ張って、扉を閉めた。(続く)

原稿の字切りについて。


コピペすると下書き段階では整っているのに、公開すると字切りがおかしくなってしまいます。

お見苦しい点もあろうかとは思いますが、ご容赦ください。こちらでは対処のしようがありません。

また、どなたか解決策を知っている方がおりましたら、教えてください。


eder-pixy

 店内は明るく、酒もちゃんと置いてある。隆とサルと杉はビールを、英次はソルティー・ドックを注文した。

 「そんなにビクつくなって。バレたら、停学食らうだけだ。3人ともバツなしだろ?」

「でも川嶋さん、いや英次は・・・」

隆が躊躇いながら言う。

「俺は学校外で活動していたからな。実はバツついてねえんだ」

 杉が2杯目で便所に駆け込み、吐いた。臭い息で戻って来た。

こいつは使えねえな

英次は直感した。英次はソルティー・ドックを7杯飲んだところで、椅子からひっくり返った。

「大丈夫?」

サルが心配そうに問いかける。

「バカ、何言ってんだ。これからが本番だ。ホワイト、ダブルのロックで」

店員は訝しげな眼差しで英次を見やったが、何も言わなかった。

 「なあ、隆。1学期の終業式には、停学者が全員戻って来る。行きたい奴みんな集め

て繰り出さねえか?」

「うん、いいよ、英次」

隆はやっと英次と呼ぶようになっていた。終業式の朝、英次のクラスだけ卒業アルバムに

載せる記念撮影を済ませていなかったので、唯一、中庭ではなく教室で記念撮影をした。


そして夜、20人ほどの大群でススキノへと繰り出した。

また、絡まれた。台詞はあの時と同じだった。

 「男同士で飲んでて、楽しいのかねえ。」

ボンジャが真っ先に突っ掛かった。ホワイトの空ボトルで、奴らの1人の頭をかち割った

のだ。そいつは血を流してもんどりうって倒れた。つまらねえことに、それで終わりだっ

た。奴らはテーブルの端っこに座っている英次の姿を見つけると、頭をかち割られた奴を

抱え、逃げ出したのだ。

「な~んだ。つまんねえの」

ボンジャが呟くように言った。

「おい、ボンジャ、ほどほどにしておけよ」

英次がそう言うと、ボンジャは静かになった。

 帰り際、信号を渡っていると、

「赤点がなんだ」

と叫ぶ奴がいた。そいつはバンブーと呼ばれていた。

「おい、バンブー。高校生だとバレちまうじゃねえか」

誰かが言った。途端にバンブーはおとなしくなった。気の小さい奴だった。(続く)

「てめえ、尤もらしいこと言ってんじゃねえよ」

教室内は静まり返った。そして、その一言で、堂前の説教も終わった。

「川嶋君、僕はそんなつもりで言ったんじゃないんだ。わかってくれ」

ボンクラ坊主の息子のボンクラが、近づいて来て言い訳をする。

「うるせえ、鈍ら坊主。お前なんかが、余計な口出すな」

結局、事件は収束したが、1名の退学者と1名の無期停学者、それに8名の停学者を出した。量刑は、全員公平に裁かれた。英次は停学者の下宿を回った。

「ボンジャがあそこで叩きつけなきゃなあ」

奴らは口々に愚痴を言った。

こいつら、責任転嫁してやがる

英次は面白くなかった。それでも黙って話しを聞いてやった。

 

英次の席の横には隆という奴が座っていた。

何だか、おどおどした奴だなあ

と英次は思っていたが、話しを聞いてみると、結構面白い経歴を持っていた。隆は、北海道下偏差値ナンバー1の高校に落ち、その足でトルコ(当時)に飛び込み初体験を済ませていた。そして、高校に入ると全く勉強をしなくなり、私立文系クラスに落ち着いたのだ。だが奴は、進学希望者だった。高2の時、授業をさぼってボーリングに出かけ坊主にされたこともあるそうだ。

なかなか使える奴かもしんねえな

英次はそう感じた。

 「なあ隆、今度飲みに行かねえか?」

英次はもう常飲者ではなくなっていたが、時々親の目を盗んだりしては、ビ

ルを飲んでいた。『ボギー』には、2時間だけだが相変わらず通っていたし

店がひけると、マスターに奢ってもらうこともあった。タバコは止められな

なっていた。

 「わかった、川嶋さん。でも2週間程、時間をくれないか?」

「いいけど、どうして?」

後にわかったことだが、隆は酒を飲んだことがなく、練習したのだという

隆の実家は金持ちで、札幌の南郊外に家を構えており、狭い札幌でも北に

位置する学校に通うことはちょっと困難だったので、札幌の北にあるマン

ョンで1人暮らしをしていた。英次は、チャリンコで35分かけて学校に通

ていた。

 「それから川嶋さん。サルも連れていっていいか?」

「サルって誰?」

「ほら、窓際の一番後ろに座っている奴。高2の時から一緒なんだ。」

 サルは見るからにボンボンだった。やはり、サルの家も金持ちで、北海道最北端の稚内に実家があり、寮には最初から入らず、中島公園のマンションに姉ちゃんと一緒に住んでいた。

 「いいよ別に。それからな、隆、川嶋さんは止めろ。英次でいい」

「わかった」

 それから2週間後、隆とサルと英次、それにやはり高2の時から一緒だという、うんこ垂れの杉も加わって、ススキノへと繰り出した。

 英次は何となく知っている店は嫌だと思ったので、ひとしきりススキノをぶらつくと、ススキノからほど近い中島公園に向かった。そしてその道すがら、『ラブ・イン・スプーン』の看板を見つけた。

何だか茶店みたいな店だなあ

と英次は思ったが、試しに入ってみることにした。(続く)

 2回目の2年も終業式を迎えようとしていた。高3のクラスは、私立文系、私立理系、国立文系、そして国立理系の4カテゴリーに分けられていた。就職組は大概私立文系を選択していた。英次も大学には行く気がなかったし、理系は不得意だったので私立文系を選択した。関根が、黒板の右横の壁にクラス分けをした紙を貼り出した。みんな、食い入るように見つめる。英次は一目見るなり、

関根の野郎、謀ったなと思った。

あの時、暴動を起こしかけた奴らが全員同じクラスに固められたのだ。他のクラスからも素行不良の奴らが数多く集められている。担任はこの学校の卒業生でもある若手教師、堂前に押しつけられた。

 英次は、

面白いことになるかも知れないなと感じていた。そして案の定、面白いことになった。

 

英次の入った3E組は、学校創設以来、最悪のクラスと呼ばれた。

呼ばれるにふさわしい活躍をしてやろうじゃねえか

英次はそう思った。

 まず1学期の前半、バスケットボールの授業でちょっとした競り合いになり、名前も忘れた奴と揉めた。教室に戻ってくると、他のクラスの素行不良者も集まって来ていた。

「英次、どうしたんだ?」

「何こいつがねえ・・・」

と英次は言うと、水の入ったバケツを頭にひっ被せた。そいつは逆上したが、

教室の後ろの面子を見て諦めた。こんなことは日常茶飯事だった。

そして1学期の終盤、事件が起きた。訳のわからねえことを口走る変な宗教

家をリンチにかけたのだ。最初は、沢森とのタイマンだった。だが他の奴らが次々と加わり、リンチへと発展していったのである。英次は机に座り遠巻きに見ていたが、古出(ふるいで)が手を出そうとすると、止めた。英次の学校は、タバコであろうと、飲酒であろうと、喧嘩であろうと、3回見つかるとアウトだった。1回目は2週間の停学、2回目は無期停学、そして、3回目で退学となるのだ。加えて古出は、英次と同じ留年組だった。

「古出、止めろ。今度やったらアウトだぞ。」

英次のその言葉に古出は躊躇った。だが、他の仲間達が、英次の忠告をかき消した。

「番長、番長、お願いしますぜ」

半分、からかうような調子だった。

いい気になった古出は、ついに手を出した。そして、身長1m85cmのボンジャが、宗教家を肩まで持ち上げ、床に叩きつけた。それで、終わりだった。宗教家は鎖骨を折った。

それまで、少々の喧嘩には目を(つむ)ってきた堂前も、今度ばかりは許さなかった。

「お前らなあ、喧嘩はタイマンでやれ。リンチは最も卑怯な行為だ。」

全員が教室で立たされ、説教が続いた。退屈だった英次は、

「俺、ちょっと様子見てきますわ」

と言い残し、保健室へ行った。宗教家は涙を流しながら、呪文のような言葉を唱えていた。

薄気味悪い奴だぜ

英次は教室に戻った。するとボンクラ坊主の息子のボンクラが何事か演説していた。英次はしばらく聞いていたが、途中でキレた。(続く)