El Despacho Desordenado ~散らかった事務室より~

El Despacho Desordenado ~散らかった事務室より~

2015年1月4日から「Diario de Libros」より改名しました。
メインは本の紹介、あとその他諸々というごっちゃな内容です。
2016年4月13日にタイトル訂正。事務机じゃなくて「事務室」です(泣)。

もし、本ブログ記事内で張られたリンクが切れていてつながらない場合はコメントでお知らせください。コメントは全ての記事で受け付け、かつ即公開される仕様ではございませんので、気兼ねなくお教えいただければ幸いです。どの記事でも構いませんが、当該記事にコメントをつけていただければありがたいです。

黒田龍之助さんといえば言語に関する様々な方面での著作の多いことで有名です。このブログでも何冊か紹介しましたし、これからも紹介すると思います。

今回はそんな氏の原点ともいえる、ある語学学校について回想した本を紹介します。その名も『ロシア語だけの青春 ミールに通った日々』。

 

ロシア語に興味を持った高校生・黒田龍之助が勧められて入った「ミール・ロシア語研究所」は、代々木の雑居ビル「平和ビル」に教室を構える入門科・予科・本科・研究科に分かれた昔気質の学校。

カリキュラムは、ひたすら発音・暗唱。教科書の文を予習で覚えて、教室では時に口頭で露文和訳、和文露訳。ウダレーニエ(英語のアクセントにちかいもの)をあえて不自然に聞こえてでも強め、長めに発音しなければなりません。東多喜子先生の言う通り「音を作る」と評された指導方針ですが、「発音はネイティブに習うより、日本人の専門家から指導されたほうがいい。」(p.24)との黒田先生の指摘には深く納得しました。ネイティブが聞き取れればそれでいーじゃん、ではイカンのです。

 

ミール・ロシア語研究所は知る人ぞ知る学校だったようです。黒田さんが通訳のバイトでご一緒したプロ通訳は最初キビシク接していましたが、ミールで習っていると聞くや態度が一変。自分もミールで習った、才能あるわと励ましたそう。実力を鍛えてくれる学校だったのです。

個人的には、角田安正さんが生徒、そして講師としてミールに居たのに驚きました。原文が英語の『菊と刀』の訳がロシア文化も対照しての深い洞察に基づいたものに仕上がった原点がここにあったのかと考えると、その偉大さが分かります。

 

どの学校にもある出会いや別れもミールならではのものが。高校生から社会人までみんな同じ方法で愚直に学んでいました。後にロシア文学の大家となる大学生・貝澤哉さんとも出会う一方、優秀で親切だったのにあっさりとやめてしまうエリートもいました。

 

 彼女だけではない。このような優秀なタイプにかぎって、実にきっぱりとロシア語に見切りをつけてしまう。もちろん多喜子先生も残念がるのだが、外国語は本人のやる気がなければ、誰も強制できない。去りゆくうしろ姿を見送るしかないのである。

 わたしは考えた。

 優秀でないわたしにできるのは、止めないことだけだな。

(p.60)

 

今、プーチー・プーによる笑えない笑い話より笑えない戦争がただでさえ遠い国をますます、ソ連よりも遠い国にしています。それ以前にこの21世紀では教師が身を削って生徒に寄り添って教える教育スタイルが消えつつあります。ミール・ロシア語研究所もその流れに逆らえませんでした。そんな学校が2013年まで存在できたこと自体奇跡に近いものがあります。

それでも、ひとつの学校を軸にした「ロシア語が勉強したいだけのヘンな高校生」(p.164)の青春は、何があっても色あせないでしょう。

 

 

-¿En Londres hace tan mal tiempo siempre como así? ¿Cuándo es el verano?

-Es una cuestión algo difícil de contestar. El verano pasado fue el miércoles.

(「あなたがたのロンドンでは、いつでもこんなに天気が悪いのですか? 夏はいつなんですか?」)

(「どうもお答えするのが難しいですな。去年の夏は水曜日でしたがね」)(p.38)

 

 

『ロシア語だけの青春 ミールに通った日々』

黒田龍之助

現代書館

高さ:18.8cm 幅:13cm(カバー参考)

厚さ:1.5cm

重さ:232g

ページ数:188

本文の文字の大きさ:3mm

『日の丸を掲げたUボート』なる書題を見ると、「ドイツ潜水艦がなぜ日本の旗を?」となってしまうのではないでしょうか。このブログで一番読まれている記事でも取り上げた、呂500と日本で呼ばれることになるU511以外にも、一隻ならぬUボートとその乗組員が日本やその占領地に到達していたのです。

 

本書を概観すれば、遠くドイツから大西洋、喜望峰を回ってインド洋を渡りやってきたUボートが意外に多かったことに驚かされます。節を立て詳細に取り上げられているだけでも5隻。そしてどの艦も波乱万丈を経験しています。

 

最初に日本に渡ったUボート、U511がもたらした影響、遺産の中には戦後日本を支えるものもありました。ドイツから日本に向かう時に積んだ積み荷に加わっていた射出成形機が戦後日本のプラスチック産業の基礎になったとは驚きです。

U862は大戦末期にオーストラリア沿岸部をただ一隻で暴れ回り、その大遠征はUボート史全体から見ても偉業と言えるものでした。この間たまたま見たCSのある番組でも取り上げられていましたね。

後世の冷静な視点で細かく検証していくと伝説が単なる伝説だった判明する一方で致命的な失敗の原因も浮かび上がります。U168は現地女性に紛れ込んでいたスパイから情報が洩れて沈んだのかと思いきや日本側の防諜能力の低さが有力な原因として浮かび上がったり。良かれと思って細かい航路を関係各所に通達したのが原因で、というのが一度や二度ではないという所に学習能力の無さを感じてため息が出ます。

 

乗員など関係者ひとり一人のレベルまで細かく見ると、実に多くのドラマがあったことが分かります。戦争といったどれだけ大きな出来事も、当事者の数と同じだけ事実というか物語というかがあるわけですが、そのうねりの大きさに驚かされ、圧倒されます。

 

最後にはインタビューを二つ掲載。ひとりは呂500の元乗組員、もう一人は海中ロボットを活用した海洋探索で呂500はじめとする艦船を発見した「ラ・プロンジェ深海工学会」代表理事・浦環氏です。海底資源探索や事故沈没船の早急な引き揚げといった応用分野の広さに感心しました。海底に眠る過去を探る試みが未来を支える可能性はもっと広く知られるべきでしょう。

 

 

Inquebrantable

(不撓)

 

 

『日の丸を掲げたUボート』

内田弘樹

イカロス出版

高さ:21cm 幅:15.2cm(カバー参考)

厚さ:1.4cm

重さ:336g

ページ数:226

本文の文字の大きさ:3mm

こんにちは。ようやくこの記事を書けて一安心の、エドゥアルド・ルイスです。

それでは早速、先月買った本リストをはじめます。

 

EVがこれからガソリン車に取って代わるのか否かはさておき、EVが現代の自動車事情を代表する存在であることに異論はないでしょう。子供の目にも映るそうした世相を長年愛されてきたミニカーブランドも反映させてきました。

 

『トミカ歴代名車COLLECTION ⑱ 日産 リーフ』
朝日新聞出版

 

 

 

買うだけ買って溜めといて、いずれ読もうと思っているうちにアニメ化が決まっていた作品。全体的にフィクション作品に触れる機会が減っている私が、一番残念なのかも。

 

『負けヒロインが多すぎる!4』

『負けヒロインが多すぎる!5』

雨森たきび いみぎむる

小学館ガガガ文庫

 

 

 

現代において“神話”は常にアイロニー(皮肉)として使われる単語です。“安全神話”のように。

アメリカ合衆国第35代大統領ジョン・F・ケネディはスキャンダルや失策も結構知られているのに尊敬・崇拝する人が多いのも事実。では実像はどうなのか、そしてなぜ神話となったのか。本書はこうした問いに切り込むようです。

 

『ケネディという名の神話 ―なぜ私たちを魅了し続けるのか』

松岡完

中公選書

こんにちは。百人一首を一部覚え始めている、エドゥアルド・ルイスです。きっかけはもちろん、今年のNHK大河ドラマ『光る君へ』。百人一首の歌人のうち7人が出ているので、人物関係暗記の助けにもなるかとメモに書いてテーブルに置いています。

そんな枕から今日は『NHK大河ドラマ・ガイド 光る君へ 前編』を紹介。あらすじは第一回から第十九回まで収められています。

 

もちろん出演者紹介・インタビューも充実。多彩な出演者の役への意気込みや解釈が読み応えあります。

面白いのが藤原行成役の渡辺大知さんの書にまつわる話。ご本人は「書道は苦手」(p.82)と仰ってましたけど、題字・書道指導の根本知(ねもとさとし)さんから見ると「驚いたのは藤原行成役の渡辺大知さんの書のうまさです。行成は字で評価されている人。渡辺さんは指先が器用で、リズム感覚もよく、すぐにお手本どおりに書いてくれます。」(p.144)いやぁ、本人からだけだと、わからないものなんですなぁ(笑)。こうした裏方のコメントにも面白い発見があるのは、平安時代という時代劇全体から見ても珍しい題材なのもあるのでしょう。

 

そんななじみの薄い時代ですから、時代考証担当の倉本一宏さんの記事はドラマを深読みするうえで必読。登場人物FUJIWARA多過ぎ問題の歴史的起源や平安人なりのソーシャルディスタンスの取り方など、よく解ります。結婚観についての記事は武士の時代と全く違う「婿取り婚」がキーワード。夫婦別姓とか男女対等そうに見えますけど、妻の実家側の経済的負担が一方的な割に子供は夫の姓を名乗るなど結構厳しい。この構造では打毬後に汗拭きながらのボーイズトークの論理が貴族の男子として正しくなってしまいます。「まひろがあんなショック受けるのはどうなの?当時はあれが普通だったんでしょ?」とはウチの母で確かにその通りなんだけど、ほら、どんな常識も改めて言葉にするとショック大きいもんだから……。

あとこの場で書いとくと『源氏物語』は「あくまで空想上の話」(p.202)。プレイボーイの代名詞・光源氏は、プレイボーイ性も含め、沙織殿とおなじく、フィクションの産物です! 現実と混同されるようになったのは時代が遠くなったからか、紫式部の筆力が偉大過ぎたからか……。

 

「プレイバック大河ドラマ」は1976年放送の『風と雲と虹と』。平将門と藤原純友が主人公です。加藤剛も緒形拳もカッコイイよなぁ。荒々しさが武士っぽいですが、時系列としては紫式部よりも前。まぁ武士の時代への道はいったん首チョンパされたってことで。こちらも吉永小百合さんや草刈正雄さんの回想が収められています。

 

そんな『光る君へ』、平安時代だからさぞ穏やか、女性主人公だからさぞむせるような平和へのメッセージてんこもり、とか、そんな見てない内からの妄想は捨ててしまえ!なのは第一回から視聴している方ならご存じでしょう。あの路線で行くと思います。後の時代に成立した百人一首だって「宮中での勢力関係がここにも反映しているようで、興味深い。」(p.127)ってなもんですし。

 

 

El que recopiló Ogura Hyakunin Isshu, antología de cien wakas por cien poetas, fue Fujiwara no Teika.

(百人の歌人の百首を集めた選集『小倉百人一首』を編んだのは藤原定家であった。)

 

 

『NHK大河ドラマ・ガイド 光る君へ 前編』

NHK出版

高さ:25.7cm 幅:18.4cm(カバー参考)

厚さ:1.1cm

重さ:500g

ページ数:219

本文の文字の大きさ:3mm