達人がレーニン、ヒトラーから読み解く国際政治のダイナミズム
http://gendai.net/articles/view/book/132630
(12)国際政治 推薦者・佐藤優氏(作家・元外務省主任分析官)
国際政治がわかる本の選択は、作家で元外務省主任分析官の佐藤優氏にお願いした。タレント本から宗教書、国際政治の専門書まで、驚異的なスピードで読みこなしていく「インテリジェント・マスター」の佐藤氏が推薦するのは、最初にレーニン、次がヒトラー。解説を読むと、なるほど、世界の行く末が見えてくる。
<「帝国主義論」レーニン著、角田安正訳>
20世紀初めの第1次「世界帝国主義戦争」直前の国際関係における世界資本主義経済の全体像を俯瞰(ふかん)。資本主義は帝国主義によって支えられなければ立ち行かなくなるため、資本主義国は帝国主義に向けてまい進せざるを得ないと説く歴史的論文。さらに、帝国主義列強間で戦争が起きる原因は、後進の社会主義国が世界の再分割を要求するためとも。
「ソブリン・クライシス(国家債務危機)が起きかねない状況で、主要国は、他国を食い物にして自国が生き残ろうとする帝国主義的傾向を強めている。日本も品格のある帝国主義国として生き残りを真剣に模索しなくてはならない」(佐藤優氏)
(光文社 571円)
<「わが闘争(上・下)」アドルフ・ヒトラー著、平野一郎・将積茂訳>
言わずと知れた人類史上最悪の独裁者が信条をつづった政治哲学書。
その根源をなすのはアーリア人種(ドイツ民族)至上主義だ。人類を「文化創造者」「文化支持者」「文化破壊者」の3種類に分け、アーリア人種のみが文化創造者たりえ、文化破壊者として憎むべき民族こそユダヤ人だと罵倒する。議会制民主主義をはじめ、拝金思想やマルクス主義など、打倒すべきすべてのものがユダヤ人の世界支配の陰謀から派生していると説いたナチズム運動のバイブル。
「国民が無能だから、そこから選ばれた国会議員が無能なのは当たり前だ! これから必要なのは独裁者として振る舞う覚悟をもった指導者だ! というヒトラーの言説にだまされてはならない。関西方面、特に大阪人にとって必読の書」
(角川書店 上800円 下705円)
<「決断できない日本」ケビン・メア著>
本年3月、「沖縄の人々はごまかしとゆすりの名人」発言をしたとの報道で更迭された米国務省の元高官が、一連の騒動の真相と、日本政治に対する米政府の本音を明かした日米関係本。
沖縄に赴任していた総領事時代や、大震災時の「トモダチ作戦」の調整役を担った際のエピソードを紹介しながら、日本のリーダー、政治家の優柔不断さや対応能力を批判する。
「米国南部出身のアッパラパーなメアのオッサンが日本部長をつとめているくらいだから、米国の外交官のレベルもたいしたことはない。アメリカがドラえもんのジャイアンのような、お人よしだが頭はあまりよくない人たちの集団であることがよくわかる」
(文藝春秋 780円)
<「日本の国境問題 尖閣・竹島・北方領土」孫崎享著>
元外交官で現在は防衛大教授である外交と国防の大家による日本の領土問題解説本。
多くの日本人は、日米安保条約によって米国が領土問題でも守ってくれると思っている。が、米国は、北方領土は日本が管轄していないので安保条約の対象外、竹島は韓国領との認識、尖閣諸島については中立の立場だという。各領土問題のこれまでの歴史と経緯をおさらいする一方で、各当事国の主張はもちろん、係争地の帰属に重大な影響を与える米国の態度や思惑まで検証しながら、平和的解決の道を考察する。
「国際情報局長、駐イラン大使など外務省の幹部をつとめたにもかかわらず、孫崎氏は尖閣問題に関しては中国政府の立場を尊重し、竹島問題に関しては韓国寄りの姿勢を鮮明にする。日本外務省が幅広い人材を擁していることがわかる」
(筑摩書房 760円)
<「ロシア 苦悩する大国、多極化する世界」廣瀬陽子著>
多極化へと進む冷戦後の世界の構図をロシアの動向から読み解く国際政治本。
01年に発足したブッシュ政権による米国一極的支配を志向した外交政策に、多極的世界を追求した中ロが警戒。その緊張は、08年のグルジア紛争でピークを迎える。米ロ間の緊張は09年のオバマ大統領による「リセット」宣言まで続いたという。ロシアの対イスラエルや対NATO、そして対日本まで、その外交政策や国内諸問題への対処など、旧ソ連の立ち位置から世界を眺める。
「福島第1原発事故で日本を助けるというそぶりをしながら、ロシアの権益を拡大しようとするメドベージェフ政権の“素顔”がよくわかる。また、日本では詳しく報道されないロシアとグルジアが本気で喧嘩をしている実情についても詳しく書かれている」
(アスキー・メディアワークス 743円)
<「暗闘 スターリン、トルーマンと日本降伏(上・下)」長谷川毅著>
太平洋戦争の終結時、米国とソ連は同盟国でありながら相互に不信感を抱いていた。その両国が競争した結果としての原爆とソ連の参戦が日本の降伏決定に及ぼした影響を考察。
米日ソの複雑な国際関係と国内政治力学との緊密な結びつきを描き出し各賞を受賞した名著である。
「日本の降伏に対して与えた米国の原爆投下とソ連の参戦はどちらの方が大きな意味をもったかについて、資料を徹底的に読み込んで論じる。米国もソ連も自国の利益しか考えないとんでもない帝国主義国であるということが浮き彫りになる」
(中央公論新社 上1143円 下1048円)