【古代出雲王朝の復活!!】

 

 

「出雲大社の参道の旅館の娘さんがメジャーデビューした」という話を聞いたのは、中学の時によく耳を傾けていた地元のラジオ放送だった。

へえ、隣町から芸能人が出たのかとうれしいようなちょっぴり不思議な感情。

「こんな田舎から芸能人なんてほんまかいな?」

まあ出ても一時だろうなと思った。


 

県外の誰かを出雲大社に案内する時は決まって入口の鳥居の前に立ち、ある方向を指さす。

「あの参道の右側の竹野屋という旅館が竹内まりやの実家だよ」と説明して冒頭の中学の頃の自分のラジオのエピソードをよく話す。

「山下達郎も来たのかな?」「そりゃそうだろう」とそんな会話がありながら出雲大社への道を歩いていく。

 

 

「まるで古代!」

大人になった自分が久しぶりに参った時そんな感想を持った。参道は高く茂る松の木の間を歩いていく。

やがて遠くにそびえる薄く靄がかかった山が見えたと思うと、その山をバックにしてお社のバッテンだけが緑の上にちょこんと見えた。それは一般の神社の感覚より、だいぶ高い所に見えていて巨大な何かを感じさせ、ゾワゾワと心が騒ぎ出し、なんだか古事記の世界へいざなわれるようなタイムスリップ的感覚に陥った。

 

 

 

先日松江に帰ったある夜の事だ。

昼間の猛暑から打って変わって涼しげな月が出ていたので深夜に散歩した。

実家から下駄の音をカランと小さく鳴らして歩くと、シーンと虫の音に導かれるように坂道を下り、小さなトンネルを抜け、この辺りを流れる用水路まで歩いた。

用水路には、水路に沿ってガマの穂が生えている。因幡の白ウサギが皮をむしり取られて痛がって泣いているときに、通りかかったオオクニヌシノミコトが真水で洗ってガマの穂で寝るといいと言ったそのガマの穂だ。

昼間は魚が飛び跳ねたり、亀が親子で口を出していたり、蛇が飛び込んだりと、生命の源を感じさせるその水路だが、夜は虫の音と共にたまにポチャンと静かだ。

群生するガマの穂を通してのぞき込むと水路に月が静かに揺れていた。

するといきなり、その月の横に人の顔が出た。

「誰!?」横を振り向く。

そこには何とオオクニヌシノミコトがいた。

 

伝説の通り白い大きな袋を持ち、あの古代装束、そしてやけにいい男、あの国宝級イケメンと呼ばれるあの兄ちゃんにそっくりだ。

「あんた、オオクニヌシノミコト?」

「いかにもそうだ!」

ニカっと笑い白い歯が月にキラリ、不覚にもクラッときた。

「君は今、シマネジェットフェスという祭事で、日本中、世界中の人を集めようとしていると聞くが本当かい?」

「ああ、そうだ!」

「では君に頼みがある。」

「えっ!」

満面の笑みをたたえ、アイドルにも似たその顔が力強く言い放つ。

「古代出雲王朝を復活させてくれないか?」

「古代出雲王朝!?」

「そうだ、かつてこの国に君臨したスーパー王朝、古代出雲王朝だ。復活させて独立するんだ。」

「いや、自分は、自分の王朝を持つとか、そこまで考えてはいない。」

「はは、君が僕の義父のスサノオにばかり肩入れしている事は知っている。だから、君は肝っ玉が小さい。彼は豪傑だったが結局はこの国を統一できなかった。」

「肝っ玉が小さいかどうかは知らないが、統一、復活云々にオレは興味ない!」

不覚にも声が荒がってしまった。

 

そこを狙っていたのか、自分のしゃべりが終わるかどうかで彼はこう出た。

「じゃあ勝負しよう!」

「あほらしい!」ときびすを返し戻ろうとすると、彼はすかさず自分の正面に回りこみ通せんぼをするので、構わず右を抜けようとすると、彼も右、左に抜けようとすると彼も左、だんだんラグビーの様になってきて、「そう言えば、もうすぐラグビーのワールドカップだな」なんて全然関係ないことを頭によぎらせながら、「いい加減にしてくれ!」

と彼を押しのけて通ろうとした瞬間、オオクニヌシは、フワッと体をかわし、オレは水路にボチャ~ン!と落ちた。

すると頭の上に、夜の空気に澄んだでっかい笑い声が鳴り響いた。瞬間ムカー!でオレは水路から飛び上がるかのよにオオクニヌシに飛びかかった。

 

すると彼はいつの間にか持っていた長い棒をオレの腹に突き立てる。そしてオレの腹をぐちゃぐちゃかき回して再びオレを水路に落とした。

さすがに痛く「うぎゃあ!」と悲鳴を立てるオレ。オオクニヌシが持つ長い棒からは大量のしぶきが飛び、それが空中で小さな島となる。

 

「どうだい、君のお腹をかきまわして作ったしぶきの島だ」

オオクニヌシはその棒をこちらに掲げながら「これはイザナギイザナミが、世界を作る時、地上をドロドロにしてかき回し、はねたしぶきで島を作ったあの棒だよ!」

 

「なんと!?」何を言っているのかと思ったが、とりあえず空中に浮かぶオレの腹の島に念波を送ってみた。

案の定、思った通りその島は空中を飛びオレの側までやってきたのでオレはその島に飛び乗った。ビュ~ン空高く一気に登ると遠く中海まで見えた。

 

「ちくしょう、オオクニヌシはどこだ?」と

「はは、畜生なんて言葉を使っちゃいけないね」

「何!」見上げると、ちょっと高いところでオオクニヌシもあの白い大袋を背中にしょいながら小さな島に乗っていて、相変わらずオレに微笑みをたたえながら睥睨(へいげい)してやがる。

「古代出雲王朝の復活の話に乗ってくれるかい?」

「そんなのオレは興味がない!」とすかさず下駄を手にしてオオクニヌシに剛速球で投げつけた。「カ~ン」意外にも鬼太郎の下駄ばりに彼の額に直撃したので、逆にびっくりして彼を見守ると、オオクニヌシはそのまま真っ逆さまに落ちていった。

助けた方が良いかもと、今度は急降下で彼を追うが孫悟空の如く助ける事もできずそのままオオクニヌシは宍道湖に落ちていった。

「バッシャ~ン」大きな水しぶきをあげ、月光色の雲まで飛んだ。

白いしぶきでもやができ、それが晴れてきた時、なんとそこには、巨大化したオオクニヌシが宍道湖のど真ん中で、ゴジラ、いや、大魔神の様に立っていた。

 

オレがあっけにとられたその瞬間、オオクニヌシはすばやく手を振り回し空中に浮かぶオレを宍道湖に叩きつけた。「バッシャ~ン」大きな水しぶきのなか急いで立ち上がるとなんとオレも宍道湖の上で巨大化していた。

 

宍道湖に浮かぶ嫁ヶ島をはさみ対峙する巨大生物のオレとオオクニヌシ。

彼の額はパックリ割れ、大粒の血がしたたり落ちていた。

そんなに落ちるとシジミが大丈夫かいなと思いながら、彼の目からは先ほどまでの余裕の表情は消え、何としてもオレに一発浴びせないと気が済まないような表情になっていた。

 

遠く出雲の方から宍道湖の波がキラッと月明かりに揺れた瞬間、二つの巨大生物は湖を走り、ジャンプ一閃でお互いにキックを浴びせようとするが、空振りですれ違い、振り向き様にチョップを浴びせようとすると、オオクニヌシは白い大袋をこちらに向けるやいなや、その中から何かを発射する。「うわ~!」と発射された物がオレの身体にまとわりついたと思ったら、そいつはオレを囓りだした。何だと見ると何匹もの因幡の白ウサギであった。やはり白ウサギはオオクニヌシの味方かと思いながら、なんとかせにゃと頭を巡らせていると、オオクニヌシは剣を抜きオレに斬りかかる。

 

「これは君の好きなスサノオ義父からいただいたヤマタノオロチの大刀だ!くらえ!」

これはやばいとオレは背後にひっくり返り、頭の上の宍道湖大橋をもぎ取って頭上で受けた。

「バキ~ン」火花が水郷祭の花火の様にあがる。すかさず立ち上がるオレに向かって再び彼が大上段から振り下ろしてきたので、オレは宍道湖大橋を水平に持ち替え、チョウっとオオクニヌシの腹を打った。

 

「それまで!」天のどこからか聞こえてきた。

気がつくと、オオクニヌシの大刀も自分の脳天をとらえていて、頭の一部から血が滴っていた。ああ~、オレの血まで滴ってシジミ大丈夫かなと思いながら、二人は剣を納めるというか、オレは宍道湖大橋を元の場所にくっつけた。

やれやれとびしょ濡れになった身体を見ると、いつの間にかウサギは消え、オオクニヌシもいなかった。ハッと宍道湖の空高くに光が遠ざかっていくので、もしやあれかと思って見ていると。

「セイジ!古代出雲王朝の復活をヨロシクな!」という声が聞こえてきた。

自分の身体もいつの間にか元にもどっていて、再び用水路に戻り、傷口に因幡の白ウサギのまねをしてガマの穂をあてながら家に戻って寝た。

 

朝起きると傷口はすっかり治っていた。用水路に行ってみるとまたもの凄い猛暑で昨夜の静けさは全くなかった。

「オオクニヌシノミコトはああ見えて結構いい奴だったなあ」

と思う反面、

「古代出雲王朝の復活か、うん、頑張ろう!」と思った。

 

 

 

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*

 

冬の時計

 

 

旅にでるのさ。

どんな猛威が吹き荒れてもお構いなしさ

コロナ?そんなもんフンだゼ。

なんたってオレの身体には、地上最強の菌がいつも

ファイティングポーズをとっているからね。

それにワクチンももうすぐじゃないか。

この戸を開けるときっと吹雪だろう。

たぶんあまりの寒さにブルっとして、威勢のいい事ばかり言うもんじゃないなと後悔するかもしれない。

しかしオレは行かねば。

飛び切りの女に会うために。

あばよ!壁の振り子時計。

オレが寒さでじっとしている時も、この部屋で動いていたのは君だけだった。

いつぞやも、しばらくぶりに帰ってきた時、静まり返った朝の光の中で、君だけがカチカチ動いていた。

あわてふためいていた数日前の自分と、ホッとしている今の自分を見たたんだなと思うと、やあっと照れくさい感じがしたよ。知ってたかな、オレは君を尊敬しているんだ。

そのたたずまいにあこがれているんだ。

しばらく会えないが、今度会う時は成長する姿を

見せられたらいいなと思っているよ。

時代が変わっても変わらないかっこよさを手に入れたいんだ。

 

 

ロケットから見た月はまるで石の剥製だ。

オレはここで生まれて育った。

月面ステーションから広がる巨大なガラスの町。

月面マンション、月面ショッピングセンター、

そして今、地球の子が両親に盛んにおねだりしているのが月面遊園地と月面植物園だ。

地球の1/6の引力の中で、植物はジャックと豆の木のように伸び、ひまわりは5階建てのビルぐらいある。

この調子だと月に大気が生まれるのも早いのかもしれない。

ガラスの町の中央には、巨大な振り子の時計台がある。

人類は埋め込まれたチップのおかげで、可視による時間の確認はもはや必要ない。

身体に流れている超微弱な電流があらゆる情報を頭に絶えず送ってくれている。

だけどやはり人にはこんなレトロなモニュメントが必要なんだろう。

その証拠に時計台の下に立つと、不思議と落ち着くのだ。

宇宙がビッグバンで生まれた時から、時間が動き出した。

その瞬間から過去がどんどん量産されている。

その流れの超先っぽにオレ達はいるのだ。

見上げたら、時計台の上に地球がでっかく見えていた。

 

 

東京に出てきてまだ何年目かの冬、

振り子時計が捨てられていた。

電信柱の横で、昨夜の雪が四角い胴体に積もっていた。

しゃがみこんで、ガラスの部分を指で叩いたりしてみる。

古いが形がちょっとタイプじゃねえなあ。

タイプじゃねえとは、当時オレは原宿の50’sショップで働いていた。その影響で、急にアンティークに対する目が肥えて、面白いものがあると手に入れるようになっていた。

道端に落ちている物、粗大ごみも立派にその収集の範囲内で、おやっと思うゴミの固まりがあれば、一つ一つを目で吟味した。

それにしても、古い振り子時計をこんな無造作に捨てるなんて。形には興味を持たなかったが、その事が少し引っ掛かった。

 

 

その夜、深夜に目が覚めた。

6畳の部屋の真ん中に誰かが寝ていた。

窓からの薄明かりに目を凝らす。

誰かじゃなく何かだ、四角い長方形。

時計だ!

あの捨てられていた振り子時計だ。

するといきなり振り子時計は跳ね上がり、針がクルっと一回りすると、ギィーっと振り子の扉が開き、大工の棟梁のようなねじり鉢巻きの小人のおっちゃんが現れた。

「おう、あんなところに捨てるなんてふてえ野郎だ、全くひでえよな」

おっちゃんはキセルをくわえてたばこに火をつけた。

「おう、申し遅れたなあ、オレは時計の妖精よ。

昼間は同情してくれてありがとよ。人に同情されるほど落ちぶれているつもりじゃねえんだが、ちょいと嬉しかったから、時間旅行にでも連れてってやるべかと思ってよ」

おっちゃんはキセルを口から外すと、オレにたばこの煙を吹きかけた。

 

 

真っ青な空にしろっぽい地球がすれすれに浮かんでいる。

気がつくとオレは丘の上に立っていた。

周りを見回すと、遠くのある一面に鮮やかな黄色が広がっている。ひまわり畑だった。

その背後には都市が見える。

巨大なビル群に並んででっかい観覧車が建ち、それらを縫って超急角度の曲線を持つジェットコースターが何重も見える。凄い、都市と遊園地が融合している。

 

 

さっきから気がついていたが、なんだか体が妙にフワフワするゼ。軽くその場でぴょんぴょん跳ねるだけで1mぐらい浮き上がる。

よし!と勢いよく駆け出すと最初の一歩でいきなり5mくらい先に飛び出したので、おお~っと速度感覚が合わず、前のめりにつまずきゴロゴロゴロ転ぶが、なんだか大地をバウンドしている感じだったので、そのバウンドのリズムを読みながら地面に手をつき立ち上がったつもりが、その勢いでそこからさらに3mくらい空中に飛び、着地した。

なんだこの引力は!

おもしれえ!

それにしてもこの場所は一体どこだ?

地球がでかく見えるという事は、ここは月なのか。

すると耳元でバタバタ音がする。

うわっと避けると、でっかい団扇くらいの蝶々が周りを飛んでいた。蝶の飛ぶ先を見ると、あのひまわり畑だ。

数歩進んだせいか、案外近くに見えている。

それにしてもあのひまわり、ビルの3階か5階くらいありそうだゼ。

だがこの引力ならば、あそこまでジャンプできるかも。

3段飛びのような要領で大地を駆けるとひまわり畑がどんどん近づいてくる、そして、おりゃあ!っと大地を蹴って飛びあがった。

逆バンジーのように体が浮き上がり、ひまわりの花をかすめる、蝶と一緒にでっかいミツバチが花の上を飛び回っているのが見えた。

よっしゃあ、街に行ってみよう。

ひまわり畑を分断するように、街に向かう一本道があった。

そこをダッシュで抜けると遠くに見えていたあの都市が目の前にあった。

 

 

「待て!」

振り返ると、3mくらいの人間がそこにいた。

おおっ!ここは人までがでかいのか。

白いタイトなジャンプスーツのような服を着ている

その人間はオレを見るやいなや、空中につぶやいた。

「地球人発見、スパイ発見!至急応援頼む」

言い終わると指先から電磁波のようなものを出しはじめた。

「ちょっと待て、オレはスパイではない!」

3mの男は無表情にオレを見下す。

「今この、地球からの独立戦争の最中、地球人がいるとしたら捕虜の脱走か、スパイのどちらかでしかない!」

電磁波がジジっとなる。

あの電磁波で感電させ身動きできないようにするつもりじゃなかろうか。

オレはすかさず身をひるがえし、ひまわり畑に飛び込んだ。

入るとそこは日の光が届かないジャングルのようだ。

根本から根本へ跳ねながら走るが、せっかくの引力がうまく使えない。

辺りはだんだん騒々しくなり、ひまわり畑の根元にライトが一斉に浴びせられた。

「いたぞー!」という声がする中、オレは何が何だかわからないまま、とにかく捕まっちゃあいけないと右往左往するが、分け入ってくる連中の包囲が縮まりつつあるのを感じ焦る。

すると「おい、すっとこどっこい!」上の方から声がする。

見ると、ねじり鉢巻きのおっちゃんが、茎の途中からニュっとでている葉っぱにのって、こちらに手を伸ばしていた。すかさずジャンプして、おっちゃんの手につかまり、葉っぱの上に引き上げてもらった。

真下を見ると、白いでっかい人間達が駆け回っている。

「おう、しょっぱい思いさせてわるかったな」

おっちゃんは苦虫を嚙み潰したような顔でキセルにたばこを詰める。

都市の方からは、サイレンがでっかくのろしのように響き渡っていた。拡声音で「緊急事態発生!地球人スパイ潜入!」と聞こえてくる。

「おうおう、けったいな場所になりやがって。

昔は、天国みてえなところだったんだ。

全く、驚き桃の木山椒の木だゼ」

真下がざわざわしだした。

「見つけたぞー!」と声の方向を見ると、白い男の胸元から小型のミサイルのようなのが発射され、葉っぱの根元がスパッとつらぬかれる。

万事休す、落下のその瞬間、おっちゃん、フーっとたばこの煙をオレに吹っ掛けた。

「うわ--------------------------!」

落下を感じながら意識が遠のく中、おっちゃんの声がした。

「めんぼくねえ!」

 

 

ドサッと目を開けるとベッドの中だった。

もう随分日が高かった。

6畳の部屋の真ん中に目をやると時計はいない。

やべー!バイト行かなきゃと大急ぎで外に出ると、

電信柱の脇には、他のゴミと一緒に回収されたのか、振り子時計はなかった。

「おっちゃんありがとう!」

そうつぶやいてバイトに行った。

 

捨てられている冬の時計のガラスの部分を叩くと、たまに時空を超える時があると言う。

 

*

 

【ギターズ】

 

 

(おりゃあ!来い来い来い!

頭の中に電光を走らせようとすったもんだしている四畳半の部屋がある。

9階建てのマンションの9階のベランダに建つプレハブ部屋だ。

ベランダが広かったので、越して来た時に建てた。

いや、建てたかったから、越して来たというのが正しい。

毎日、ちょっとした“傷だらけの天使”の気分を味わっている。

部屋の扉には、部屋の惨状を聞いた女の方から頂いた

“中二部屋”と書かれたボードが掛かっている。

ガラッと開けると、さすがにピンクレディのポスターはないが、まさしくガキの部屋だ。

自分の所蔵品とギターウルフ関係、マンガや本、CDとレコード、そしてラックの横には、無造作に立てかけられたギター達が、おっと、ここでは愛蔵ギターと言わなければ、自分と数多くのライブを戦ってきた彼らに失礼だ、とは言っても、いまさら愛蔵なんて言葉をよく使えるなとギターに怒られるくらい、メンテもせずに置きっぱなしにしてある。

それらの怒りのギターが毎夜ささやくのをオレは耳にしたので、記録する事にした。)

 

ギブソンSG スタンダード レッド(1994購入)と

ギブソンSG スタンダード ホワイトwith ポイズンアイビーサイン(1997購入)

 

「おいちょっとおめえら、そんなに寄りかかんなよ!この中で一番高級なオレ様が、なんで、てめえらの体重を一身に引き受けなければならないのだ!見ろこの鉄の補強、強そうだろう。これはあのバカセイジがステージでオレ様を投げやがるから、ここんとこがパカっと割れちまったんだ。でもよ、あいつその時、現場の親方だったから、一人で残業すると若い衆をみんな帰らせた後に、現場の片隅でこっそり鉄を加工してオレを修理してやんの。

まあ割合気に入ってんだけどな。ちょっと重いけどさ、とは言ってもレスポールほどじゃないさ。」

 

「まあいいわね、あんたなんて修理してもらっているだけましよ。言っとくけど私だって高級さはあんたと同じなんですけど。1997年のクランプスの全米ツアーで活躍したのが私よ。その証拠にここを見ておくれ。後3日でツアーが終わるというセントルイスのリハ終わりに、ポイズンアイビーにサインをもらっちゃたんだから。でもその後が大変、日本凱旋ライブでセイジの奴が興奮しまくって私を弾くものだから、案の定、ひびが入っちゃってさ。ライブ中にセイジがチューニングしてたらネックが折れてきて気高い私がお辞儀するみたいになっちゃって恥ずかしいったらありゃしなかったわ。それにしてもあのツアーは楽しかった。クランプスはもちろんだけど、ゴリーズのダニーのバンド″ドールロッヅ“との珍道中が最高だった!そろそろセイジは私を修理してくれるんじゃないかしら。何かボンドを買ってたみたいだし」

 

ダンエレクトロ ロングホーン(1996購入)

 

「フン、傷だらけのみんなにはわるいけど、見てくれよこの星がちりばめられた僕のボディを。セイジはリンクレイ好きだからね、一生僕の事を大事にしてくれるって、この間まで思ってたんだ。なのにあいつ最近ガーゼのドラムの人とノイズユニット“ジェットヒミコ”ってのを始めやがったんだ。そのユニットであいつは3本もギターを背負うのだけど、そのうちの一本が僕なんだ!僕の見た目がカッコいいから使っているのだろうけど、いい迷惑だ。もしも僕のボディに傷でも入ったら一生恨んでやる。おとなしくリンクレイ弾いてろ!」

 

グヤトーン Guyatone LG-350T CUSTOM(1987購入)

 

 

「皆の衆、なんだかペラペラうるさいの。わしは今、瞑想にふけっとるのじゃ。

何じゃと?わしの事を聞きたい?それならば少し。

わしは70年代に生まれて、別の名をシャープ5とも言う国産のギターじゃ。出た当時は貴公子と呼ばれたり、今は王様とも呼ばれたりしとるよ。最初の主人は金に困って渋谷のファイヤー通りにあったピンクフラミンゴという古着屋にわしを売りにだしたんじゃ。そこに原宿の仕事帰りに立ち寄った今の小僧が、わしを見て一発で気に入ったらしいのじゃ。確か小僧がバンドを始めたばかりの頃じゃったのう。側には最初のドラムがいたからのう。お前らが、どんな音楽を奏でられたかは知らんが、あの小僧はオレのボディでボトルネックをこすったりしてたのう、おまけに椅子に座って、デルタブルースばかり弾いとったようだが、だんだんガチャガチャやりだしたとたん、わしはケースに入れられてしばらく世の中には出とらん。それからじゃ、わしが瞑想にふけるようになったのは。うだうだ考えても、世の中なるようにしかならんからな。いずれ、またわしを弾きたくなる時がくるじゃろう。」

 

ギブソン SG Junior(2000贈呈)

フランプトン ストラトキャスター(1982購入)

 

「ギブソンSGレッドさん、みんなを支えてくださってありがとうございます。一番下でさぞきついのではないですか。Juniorの僕はネックが一番細くて、とてもとてもあなたのようなたくましさはありません。しかもひょっとしてこの中では僕が一番高級なのかも、失礼、グヤトーンさんがいらっしゃいましたね。

僕は、ある方から直々にご主人様にプレゼントされました。丁度、ギターウルフのUFOロマンテッィクスのツアーの時で、水戸のライブの日でした。それ以来、僕を必ず丁寧に扱ってくださいます。ライブなどという野蛮な、身の毛がよだつ場所に連れて行かれたことは一度もありません。僕がいつも行くのは、コーヒーの香りとたまにカップラーメンに匂いが漂うレコーディングスタジオでしか、ご主人様は僕を弾きません。そういう事なので、ギブソンSGレッドさん、あなたの頑丈なお身体で、僕をいつも支えてくださいね。」

 

「やいやい、レコーディングの主役のオレを忘れてもらっては困るね。しかもこちとら初期のライブはだいたい経験している強者だゼ。そして極めつけの話で言えば、セイジが東京で最初に手に入れたギターがオレだ。世田谷区上馬にあったスクラップハウスという古道具屋で2000円の値札をつけられていたのをセイジが買ったんだ。もともと少年ジャンプの通販のギターだったのだが、最初の購入者がオレをいろいろ改造したせいか、独特で不思議な音色がオレからでるらしいゼ。全くの偶然だろうけどな。

LOVE ROCKのアルバムではJuniorお前と半々くらいの登場だったが、それ以前と以降はだいたいオレがメインだな。セイジの野郎は気合いを入れるとか言ってブルースリーのステッカーをオレに張り付けて、カンフーギター何て呼んだりしてるよ。わるいがオレも、みんなの上によっかからせてもらうゼ。」

 

エピフォンSG G-310 ブラック ギターウルフモデル(2004年)

エピフォンSG G-310 ブラックwithジョーンジェットサイン(2002年)

「みんないろいろ言ってるがオレが今一番の現役バリバリよ。セイジは相変わらずラフでめちゃくちゃだけど、それに耐えるのがオレのステイタスだ。ネックに刻まれた狼の文字は伊達じゃない。ピックアップはフロントを外してリアのみだ。搭載してあるピックアップはオリジナルを外しDIMARZIO/DP222Black D Activafor Xを乗っけてある。つまみは二つで、一つはボリューム、もう一つはオレの体の中に仕込んであるファズのかかり具合を調節するためのものだ。ファズは“サファイアシティ”という曲をCD通りに再現するために搭載したのだが、セイジは使い方が下手すぎて別の曲にもしばしばスイッチを入れちまうんだ。

とりあえずライブで一番目にするのはオレさ。4649!」

 

「そうね、あんたはそうだけど、私も最近また復活したのさ。あんたと同じDIMARZIO/DP222Black D Activafor Xを乗っけてね。たぶんセイジはジョーンジェットのサインが入っている私を一番使いたいはずだけど、随分前にネックが折れてからしばらく寝てたわよ。やっとセイジがこの間、強力なボンドをインターネットで買ってくっ付けてくれたってわけ。またガンガン登場するからヨロシクね。

ジョーンのサインはいつもらったかって?

これは2003年に渋谷クアトロでギターウルフがジョーンジェットの前座をやった時だね。その時セイジはジョーンのベストアルバムの制作に加わったりして有頂天になっててさ。ギターウルフの本番が始まる前にジョーンが楽屋に現れた時、セイジがプリーズ!と勢いと共にもらったのだけど、ちょっとにじんでいるように見えるよね。それは最初シルバーの蛍光ペンでサインを書いてもらったのだけど、シルバーだと何かはっきりしなかった。それでジョーンにもう一回頼んで、上からホワイトでなぞってもらったんだ。本当にジョーンはさっぱりした切符のいいお姉ちゃんだった。そしてかっこいいたらありゃしなかったよ。」

 

エピフォンSG G-310ベース ギターウルフモデルUSA(2004年)

 

「おーい、聞こえるか!メンフィスの倉庫から叫んでいるゾ!見てくれオレの傷だらけの勲章を!ボロボロに見えるって!?ヘイハニー!馬鹿言っちゃあいけない、オレがどれだけアメリカ大陸で大暴れしているかわかるだろう。しかもなぜか音がめちゃくちゃいいんだ。搭載しているピックアップは、SEYMOUR DUNCAN/SH-8b Invader Blackさ。もともと爆音でいいのだけど、アメリカの風土とセイジの汗とビールのせいか、ますます音に迫力がでているんだ。セイジはいつもアンプ直結だけど、音が凄いので、アメリカ人がセイジはなんのディストーションをかましてるんだとうるさく聞いてくるぐらいだ。

とにかく早くまたアメリカで爆音を鳴らしたいゼ!」

 

エピフォンSG G-310 NEW WILD ZERO Sword (WILD ZERO2用)

 

「知り合いの宇宙人がいるんだ。チェストー!」