ひいくんの読書日記

ひいくんの読書日記

ひいくんが、毎日の通勤電車の中で読んでいる本を紹介します。
通勤時間は30分ほどなので、軽い読物がほとんどです。

今年1年で読んだ本は目標の120冊(毎月10冊)には大きく届かない88冊でした。

その上、このブログに感想を掲載できたのは、『猫の傀儡』(4月6日読了、4月24日ブログ掲載)が最後となってしまいました。

 

実は、今年の4月に転職し、新しい職場での仕事をスタートしました。

新しい職場は、人間関係も良好で、仕事の内容にもやりがいを感じることができる恵まれた職場です。

また、この職場は会社にとっても初進出した分野なので、

一日も早くこの職場を軌道に乗せようと会社全体で応援していただきましたし、職場もそうした思いに満ちていました。

そのためついつい生活が仕事中心になってしまい、読書量も激減し、ブログの更新からも遠ざかってしまいました。

 

仕事の方は職場全体の努力の甲斐もあって、半年ほどで順調に進むようになりました。

秋には少し時間的にも余裕ができ、本を読む時間もとれるようになったので、そろそろブログも再開しようかと思っていました。

ところが、そうした折も折うれしい悲鳴ですが、コロナ明けということで、

仕事の量が急増し、またまた忙しくなってしまい、ブログを再開できないまま、大晦日を迎えることになりました。

 

このような状態のブログにもかかわらず、4月以降も多くの皆さんに訪れていただきました。

本当にありがとうございました。

 

もちろん、読書量は減ったものの、海外ミステリの文庫を中心に読書は続けています。

現在は『カラス烏殺人事件』(サラ・ヤーウッド・ラヴェット)を読んでいます。

 

 

最近、『全力少年』(スキマスイッチ)を聞いて、仕事だけではいけないと改めて気づきました。

 

 

……

遊ぶこと忘れてたら老いて枯れんだ 

ここんとこは仕事オンリー 笑えなくなっている

……

 

老いて枯れてしまわないように、来年はできるだけ早くこのブログを再開しようと思っています。

猫町に暮らす野良猫ミスジは、失踪した先代順松の後を継いで“傀儡師”となります。
人を遣い、人を操り、のために働かせるのが傀儡師です。
さっそく、履物屋の飼い猫から、花盗人の疑いを晴らしてほしいと依頼があり、ミスジ狂言作者阿次郎を連れ出します。
次々依頼をこなす一匹と一人は、やがて、順松失踪の意外な真相にたどりつきます。
時代ミステリーの傑作です。

7編の短編が収録された連作短編時代ミステリです。
猫の傀儡
白黒仔猫
十市と赤
三日月の仇
ふたり順松
三年宵待ち
猫町大捕物

物語は、猫町と呼ばれている米町〔よねちょう〕に住む2歳のオス猫ミスジが失踪した傀儡師順松の後継に選ばれる場面から始まります。
そして、傀儡猫町二丁目おっとり長屋に住む売れない狂言作者で24歳の阿次郎とされます。
物語は傀儡師となったミスジが依頼された事件を傀儡阿次郎を使って解決する形で進行します。

各編では、大きな銅物問屋隠居殿様に献上するはずだった朝顔の鉢を壊したとされた隣の小さな履物屋に飼われているキジトラ猫キジから疑いを晴らしてほしいとミスジが依頼される「猫の傀儡」、三日月烏から白い仔猫を助けたミスジが、帳面問屋に飼われているトラ猫クロ助とクロ助をかわいがっていた隣の両替商おけいが行方を探してほしいと依頼される「白黒仔猫」、風呂屋主人が殴られてけがを大けがをし、年老いて餌をとれなくなった赤爺というに餌をやっていた十市が犯人として捕らえられますが、十市無実を信じる幼馴染の野良猫デンから真犯人を探してほしいとミスジが依頼される「十市と赤」、が惨殺される事件が相次ぐ中、子どもにもてあそばれていたを助けたミスジが、そのから最近、飛び道具で撃たれて殺されるがいるという話を聞き、それらの事件のつながりに気づく「三日月の仇」とミスジ阿次郎が真実を明らかにする猫をめぐるさまざまな事件が描かれます。
そして、最後の3編(「ふたり順松」、「三年宵待ち」、「猫町大捕物」)は一つの物語で、ミスジが助けた白い仔猫飼い主で、先代傀儡師と同じ名前の辰巳芸者順松と、順松飼い主だった根付師雨月も失踪していたことを知ったミスジ阿次郎順松失踪の真相に迫ります。

私のお気に入りは、冒頭の表題作「猫の傀儡」です。
ミスジ傀儡師としての最初の事件が描かれます。
大きな銅物問屋隠居が丹精込めて育て、旗本の殿様に献上するはずだった百両の価値があるという変わり朝顔の鉢が、ある朝割られているのが見つかり、庭にいた隣の小さな履物屋に飼われている3歳のキジトラ猫キジ犯人(猫?)だと疑われます。
キジから疑いを晴らしてほしいと依頼されたミスジ阿次郎をその銅物問屋に連れて行きます。
隠居から話を聞いた阿次郎は、この事件が原因でその殿様との間で進んでいた18歳になる孫娘おさやの縁談が白紙に戻ったことを知ります。
阿次郎の察しと勘の良さが際立つ謎解きミステリの秀作です。
、それぞれの恋物語も幸せな結末を予感させて終わる素敵な1編です。


ミステリとしては、犯人とその動機というフーダニット〔whodunit〕ホワイダニット〔Whydunit〕2つの謎を解く謎解きミステリです。
また、猫の視点で人間のそれぞれの生き様を描く人情物時代小説でもあります。

さらに、ミスジ阿次郎というという種を超えたバディ小説でもあります。

このミステリ時代小説の組み合わせが絶妙で、読み応えがある時代ミステリに仕上がっています。

 

 

表紙には、にまつわる様々な言葉やことわざを絵で表現した歌川国芳の『たとゑ尽の内』が使われています。
左上の絵が゛猫叱るより猫を囲え”、左下の絵が゛猫も食わない”、右中の絵が゛猫舌”とされています。

 


 [2023年4月6日読了]

この作品は、あられちゃん、または、しゅばるんままさんに教えていただきました。
あられちゃん、または、しゅばるんままさんのブログ『青い鳥み~つけた♪』はこちらです。

 

 

日頃ふらふらしているのに、なにやら事件を見つけては猫のごとき目聡さで首をつっこむ猫丸という風変わりな名前の“先輩”が、どうにも理屈の通らない謎を得意の饒舌をふるいながら解き明かす連作ミステリです。

5編の短編が収録された連作短編ミステリです。
ねこちゃんパズル
恐怖の一枚
ついているきみへ
海の勇者
月下美人を待つ庭で

各編は、
出版社に勤務する八木沢行寿区民ホールの前のスタンド式電光看板で見つけた暗号らしきものとそれに関連して不思議な行動をする外国人をめぐる謎を猫丸先輩推理する「ねこちゃんパズル」、オカルト系雑誌オカルト月報』の編集部に送られてきた心霊写真特集への投稿と思われるものの担当の藤田譲にはその投稿の意図がわからない1人の男性が写った1枚の写真の真の意味を編集部でバイト中の猫丸先輩推理する「恐怖の一枚」、バイト先の憧れの先輩平尾彩音と初のお出かけでラジオ番組の公開収録に出かけた柿原悟が、番組の収録の開始を待つ間にお互いが最近出くわした不思議な出来事について話していると、前の席でその話を聞いていた猫丸先輩がその出来事の意味を推理する「ついているきみへ」、大型台風が接近中なのにケチなオーナーの意向で開店した海の家に取材で訪れた猫丸先輩が、その海の家バイトリーダー貝塚尚洋が遭遇した事件のを解く「海の勇者」、亡くなった園芸好きの母親に代わり、蕾をつけた庭の月下美人の開花を見届けようとする今野克也が、その庭で遭遇した不可思議な出来事について猫丸先輩推理する「月下美人を待つ庭で」とバラエティに富んでいます。

私のお気に入りは、最終話「月下美人を待つ庭で」です。
を病気で亡くしたばかりの今野克也が語り手となって進行します。
が亡くなる直前まで病床で気にしていた月下美人に蕾がつき、克也は新しい庭園灯をホームセンターで買ってきて、月下美人の鉢のそばに設置します。
ところが月下美人の開花が近づいたここ数日、毎日、真夜中に若い男が庭に侵入します。
3日目の夜に玄関先までその闖入者を追いかけていったものの逃げられてしまった克也の前に猫丸先輩がひょっこり現れます。
そして、見知らぬ若者たち克也の庭にやってくる理由を解き明かします。
猫丸先輩の理路整然とした鮮やか推理が見事な秀作です。
この作品の収録作の中では、最もコミカルな味わいが控えめで、読み終えた後にちょっと素敵な気分になれる1編でした。


まさに副題(‟猫丸先輩の妄言”)どおりの妄言ともいえる猫丸先輩の推理の面白さを堪能できる1冊でした。
15年ぶりの短編集で、復活した猫丸先輩の今後の活躍が楽しみになりました。

 

 

表紙のイラストは、絵本作家でイラストレイターの早川世詩男さんです。
表題作「月下美人を待つ庭で」をイメージしたもののようで、月下美人の蕾とそれを見る黒猫が描かれています。
早川世詩男さんのウェブサイトページはこちらです。→https://www.gallery-h-maya.com/artists/hayakawayoshio/

 [2023年4月5日読了]

猫丸先輩シリーズ”のこれまでの作品を紹介したページは、次のとおりです。
第1作『日曜の夜は出たくない』(https://ameblo.jp/hiikun-book/entry-12443943350.html) 
第2作『過ぎ行く風はみどり色』(https://ameblo.jp/hiikun-book/entry-12486181627.html
第3作『幻獣遁走曲 猫丸先輩のアルバイト探偵ノート』(https://ameblo.jp/hiikun-book/entry-12501131415.html
第4作『夜届く 猫丸先輩の推測』(https://ameblo.jp/hiikun-book/entry-12496815525.html
第5作『とむらい自動車 猫丸先輩の空論』(https://ameblo.jp/hiikun-book/entry-12503552168.html

ペットショップで売れ残っていた一匹の成猫
日に日に値段が下げられ、見向きもされず、諦めていたの前に一人の男性が現れます。
誰かに愛されたかったおじさまの、心温まる日々を紡いだ物語です。

22編の短編が収録された連作短編集です。
1話 おじさまと猫
2話 ひとりぼっち
3話 ねこの名前
4話 おじさまお買い物をする
5話 スーパーミラクルカリカリ
6話 猫を飼ったんだ
7話 お休みふくまる
8話 おやすみおじさま
9話 もみもみふくまる
10話 おじさま目覚める
11話 ふくまるのお留守番
12話 おかえりにゃさい
13話 忠猫ふくまる
14話 うちの子が一番
15話 ふくまると黒いの
安心安全設計
端から攻めるにゃ
透明な壁から見えるもの
君の可愛い猫
君に約束
出会いと別れ
ふくまると一緒

ペットショップで売れ残ってしまった一匹のエキゾチックショートヘア、1歳と成猫になり、値段が32万円から9万円に下げられても、客からはかわいくないと言われ、見向きもされないため、買われることをあきらめていました。
ところが、ある日、店にイケメンの紳士が現れます。
店員に‟プレゼントですか?”と尋ねられたは‟私が欲しくなったのです”と答えます(「1話 おじさまと猫」)。
こうしてイケメンの紳士おじさま”と誰かに愛されたかった猫の物語がスタートします。

おじさまの背景は最初は全く明かされません。
物語が進むにつれて徐々に明らかになっていく構成なので、あまり紹介してしまうとネタバレになってしまいますので、紹介は少しだけにしておきます。

おじさまは今は一人暮らしで、以前、を飼いたいと言っていたので、を飼うことにしたようです(「2話 ひとりぼっち」)。
おじさまを‟ふくまる”と名付けます(「3話 ねこの名前」)。
初めて猫を飼うことになったおじさまと、ペットショップの狭いケージから出ての生活に困惑するふくまるの様子がユーモラスに描かれていきます。

私のお気に入りは、第1巻発売時にボーナスとして収録された7話の最後の2話「出会いと別れ」と「ふくまると一緒」です。
出会いと別れ」の主人公は、おじさまの元に行く前にふくまる(もちろん、そう名付けられる前のことですが…)のことを気にかけていたペットショップ女性店員です。
読み終えた後に心が少し暖かくなる素敵な1編です。

ふくまると一緒」はふくまると暮らすようになって、少しづつ変わり始めたおじさまの様子が描かれます。
心の変化を子どもたちに見透かされて動揺するおじさまの様子も面白かったです。
今後の展開に期待を持たせる最終話でした。

既に10巻まで刊行されているようなので、順次、読んでいきたいと思っています。

 

 

表紙には、ふくまるを抱き抱えるおじさまが描かれています。

 [2023年4月2日読了]

日常のふとした裂け目に入りこみ心が壊れていく女性、秘められた想いのたどり着く場所、ミステリの中に生きる人間たちの覚悟、生活の中に潜むささやかな謎を解きほぐす軽やかな推理など優美なたくらみに満ちた九つの謎を描く傑作ミステリ短編集です。

9編の短編が収録されています。
溶けてゆく
紙魚家崩壊
死と密室
白い朝
サイコロ、コロコロ
おにぎり、ぎりぎり

俺の席
新釈おとぎばなし

各編は、東京で就職し、一人暮らしを始めた人付き合いがあまり得意でない美咲が職場でのストレスから好きな漫画に少しづつのめり込んでいく「溶けてゆく」、名探偵とその助手の両手が恋をしているが遭遇した事件を描く「紙魚家崩壊」と「死と密室」、少年名探偵に心の内を見抜かれた経験を若き日のことを千恵子が思い出す「白い朝」、出版社に勤める千春が出会った不思議な出来事を描く「サイコロ、コロコロ」と「おにぎり、ぎりぎり」、ひとりの女性の秘めた思いを描く「」、平日の朝、偶然にも日常とは異なる行動をすることになったが遭遇する奇妙な体験を描く「俺の席」、作家である“わたし”が『カチカチ山』の真相に迫る「新釈おとぎばなし」と、ホラー色の濃いもの(「溶けてゆく」、「俺の席」)から謎解きミステリ色の濃いもの(「紙魚家崩壊」、「死と密室」)までバラエティに富んでいます。

私のお気に入りは、第1話「溶けていく」と最終話「新釈おとぎばなし」です。
溶けていく」の主人公の美咲は、短大を卒業して就職した東京で一人暮らしを始めたばかりです。
もともと人付き合いがあまり得意でなかった美咲は、職場でのストレスを子どものころから好きだった漫画を描くことで癒そうとします。
しかし、仲が良かった父親が急死し、その死に目に間に合わなかったことをきっかけに、美咲の精神は少しづつ壊れていきます。
切ない哀しさと奇妙な味の謎が見事に融合した秀作です。

新釈おとぎばなし」は作家の“わたし”がおとぎばなしについてミステリ雑誌に文章を書くという設定で始まります。
その文章を書くにあたっての“わたし”の思考過程が描かれる前半と、本編ともいえる『カチカチ山』の真相が描かれる後半で構成されています。
後半ではおじいさんから通報を受けた探偵役ウサギおばあさん殺人事件の真相に挑みます。
カチカチ山』で描かれる凄惨な婆汁の真相をウサギが見事に解き明かす過程は圧巻です。
作者の本領が発揮された本格ミステリの1編です。

 

 

表紙のイラストは、銅版画家謡口早苗さんです。
表題作「紙魚家崩壊」をイメージした作品でしょうか、崩壊する洋館が描かれています。

 [2023年3月30日読了]