冬茶のレポートいつもより少し遅れてしまいましたがやっていきたいと思います

前回春茶レポートで紹介した濁水渓の様子は水量が減って大変という話でしたが写真のように今回は逆です(下がほぼ同じアングルの春の濁水渓)

前回春の状況をおさらいをすると、2022年の冬茶から春茶に至るまでの半年間雨が全然降らないという未曽有の事態でした

 

今年の冬茶はその現象とは逆に春茶以降はずっと雨が降るという状況となりました

 

このブログでも度々伝えてきましたが、極端な気候に悩まされるという近年の台湾を体現するような一年

 

しかも今年は台風も4年ぶりに上陸したので泣きっ面に蜂です

 

これは大変な状況になったぞ、とドン引きしつつも内心こういう逆境に燃える自分もいます

実際見ていく中で明らかに台風の風の影響を受けてしまった茶葉もちょくちょく見かけました

 

強風によって茶葉同士が擦れあってしまい傷口の影響で味わいに鮮度感がなくもっさりガサガサしたような特徴があります

 

いくら高海抜で条件がいい茶園だとしてもそういうのは避けるべきです

 

次に考えるべき良い茶葉が生まれるであろう条件はやはり管理です

 

このブログやセミナー等でも耳にタコができるくらい何度も強調して言いますが、近年不安定な気候条件にあって最も重要なのは茶園管理です

 

有機肥料や化学肥料という単純な話だけでなく、いつどのタイミングで何をするべきか、天候と茶樹の状況を細かく観察しながらひたすら小さなプラスを積み重ねる作業こそ重要なのです

 

地味な作業の話なので、よくよく茶農家の日頃の生活態度や言動などからも信用の是非を確かめたりもします

雨が多い時は春の干ばつとは反対に排水性のいい茶園が有利

 

根腐れを起こしにくい環境を持つというのが大切になります

 

根は人間の胃腸と同じく養分を吸収する為に健康である必要があるからです

そんなこんなで色んな角度からサンプルを集め、友人たちと意見を交わしながら今年の冬茶を選んでいきました

 

今年の冬茶の特徴としてどれも全体的に穏やかな味わいというのが上げられると思います

 

冬茶は春茶と違い繊維の割合が多めの為、熱湯をしっかり使うことや抽出時間を春よりも10秒前後長めにすることでいい抽出ができます

 

熱湯で且つ抽出時間長めだと渋味が出やすくなるのでは?と思う方もいると思いますが、今年の冬茶で良質なものであればそういった心配は必要ないと思われます

 

グラム数も春よりも1~2g多め使うことも美味しく飲むコツです

ざっくりと今年の冬茶の状況を説明したところで、最後に実際仕入れたお茶たちの紹介をして最後にしたいと思います

 

冬の高山茶シリーズ

 

杉林渓高山茶 留龍頭

  • 産地:杉林渓留龍頭
  • 製茶時期:2023 年 10 月下旬(冬茶)
  • 焙煎時期:なし
  • 品種:青心烏龍
  • 発酵度:軽発酵

留龍頭は龍鳳峡よりも面積は少なく生産量も限られていますが、肥沃な土壌と高い海抜を持った杉林渓でも屈指のエリア。口に含むと良質なアミノ酸を感じる味わい。それでいてしつこさや重みはなくすっきりな爽やかさと甘み。軽発酵由来の新茶の新鮮な味わいがこれぞ高山茶と思わせてくれる銘茶。龍なので来年の干支茶

 

梨山武陵高冷茶

  • 産地:梨山武陵付近
  • 製茶時期:2023 年 10 月下旬(冬茶)
  • 焙煎時期:なし
  • 品種:青心烏龍
  • 発酵度:軽-中発酵数ある梨山のサンプルから選び抜いた冬の寒気をちゃんと受けた冬の梨山。国営武陵農場からは少し離れた周りを原生林に囲まれた単独茶園。冬茶特有の穏やかさの中に梨山らしい高い香気と甘味を備えています。いつもより高めの温度と多めの茶葉を使い、しっかりと中の香味を引っ張ることが更に美味しく味わうコツです

阿里山金萱冬茶

  • 産地: 阿里山大窯
  • 製茶時期: 2023年 11 月中旬(冬茶)
  • 品種: 金萱
  • 発酵度:軽 -中発酵
  • 焙煎度:軽焙煎 
  • 焙煎方法:電気焙煎安定して高いレベルの品質をずっと提供してくれている阿里山の篤農家による極上金萱です。コンテストでも常に上位入賞を獲り続けられるのは手抜きのない真摯な茶園管理の賜物といえます。冬茶特有の寒気の恩恵が柔らかで甘みのある味わいを与え、ひと口で金萱とわかるはっきりとした乳香が多くの金萱好きを魅了します

ここからは焙煎茶シリーズ

 

杉林渓自然生態茶

  • 産地:杉林渓
  • 製茶時期:2023 年 9 月上旬
  • 品種:青心烏龍
  • 発酵度:中発酵
  • 焙煎度:中焙煎
  •  焙煎方法:電気焙煎雨天が多くウンカの効果を出す難易度の高い今年の気候にあって非常に傑出した蜜香系烏龍です。はっきりとした蜜の香りが最大の魅力でありつつも、全体の香味の土台を支えるのは青心烏龍がもたらす奥行きある良質な味わい。何煎飲んでも熟れた果実のような香味が蜜香と相乗効果を発揮し杯を進ませくれます

龍鳳白露

  • 産地: 杉林渓龍鳳峡
  • 製茶時期:2023 年 9 月中旬
  • 品種: 青心烏龍
  • 発酵度:軽-中発酵
  • 焙煎度:重焙煎 
  • 焙煎方法:電気焙煎

龍鳳峡の茶園の中でもここ数年間コンテストで複数回の優勝と上位入賞を総なめする超腕利き茶園の原料を入手しました。コンテストで安定して好成績を収められ る最大の理由は手間とコストをかけた茶園管理と高い製茶技術です。重焙煎により余分な水分を飛ばし良質で芳醇な味わいをより鮮明に濃縮することに成功しました。龍なので来年の干支茶

 

凍頂烏龍茶 熟香

  • 産地: :鹿谷郷永隆村
  • 製茶時期:2023 年 4 月下旬(春茶)
  • 品種: 青心烏龍
  • 発酵度:中発酵
  • 焙煎度:中焙煎 
  • 焙煎方法:電気焙煎

凍頂烏龍茶ならではのまったりとしたコクと発酵と焙煎で生まれた甘く香ばしい香りが特徴。茶葉の状態に合わせ焙煎を調整し元の味わいの長所を残すように仕上げを行いました。凍頂茶区の中でも特に良質な土壌から生まれた特有の甘みはこれぞ正統派凍頂烏龍茶。飽きることなく最後まで美味しく飲み続けられるお茶です

 

最後は紅茶

 

紅玉紅茶

  • 産地:松柏嶺
  • 製茶時期:2023 年 10 月下旬(冬茶)
  • 品種:紅玉(台茶 18 号)
  • 発酵度:高発酵
  • 焙煎度:なし

久方ぶりの紅玉の登場。目を瞑っても紅玉と分かるはっきりとした品種香、それでいて刺激的なメンソール臭はなくとても飲みやすいです。台湾紅茶と言えばまず紅玉の名前が上がる不動の人気品種。華やかな香りと甘み、そして大葉種紅茶特有の ボディ、その三者のバランスが綺麗に取れた良質な紅玉です

 

 

2023年がもうすぐ終わります

 

大変な気候に見舞われた一年でしたが久しぶりの台湾に行くことができ、いいリスタートを切れた実りある一年でした

 

来年また台湾に行き今度はどんな素晴らしいお茶に出会えるのか楽しみです

 

来年は辰年、それではよいお年を!

龍×龍セット

 

笑門来福!

 

北の茶縁日和に出店してきます!

公式サイト 

https://www.chaenbiyori.com/home

 

開催日:9月22日(金)23日(土)10:00~16:00

場所:北海道神宮頓宮(※北海道神宮に行ってしまわないように)

 

北海道で初お披露目する新茶も登場します

 

TeaBridgeは3Fブースにありますので是非試飲しに来てください

 

3年ぶり台湾現地での仕入れは想像以上の怒涛の日々でした
 
言い訳がましくも春茶レポートが遅れたのもそのせいです💦
 
今回は2ヶ月近くに及ぶ滞在で得た春茶の状況をまとめたいと思います
 
今年の特徴は圧倒的に水不足でした(写真は濁水渓)
昨年冬から3月末にかけて一切雨が降らないという異常気象
 
ここ数年冬から春までの間に何度かそういう気候を経験していますが、今回は茶業だけでなく台湾全体の全ての農作物に深刻な影響が出る史上希に見る干ばつと報道がありました
 
その為例年に比べ約10日から半月近くの遅れが出ると同時に、大減産を余儀なくされる茶園も出てきました
 
水不足が深刻な茶園では春茶を諦めそのまま刈り落としを選ばざるをえない茶園もある程でした
 
前半戦の4月に摘みが始まる茶区や早生品種では特に水不足の影響を受けたケースが多かったです
写真に見られるように一つの茶園の中に成長速度がバラバラでサイズも大小混在する現象は多くの茶園で見られました
以前にもこのブログで紹介した公孫葉という状態で、製茶する際に非常に厄介な原料です
 
なので今回の仕入れは主に3点を考慮して探す方針にしました
 
①遅れがあまり出ていない茶園
②原料が比較的均一な茶園(公孫葉でない)
③長年に渡り優れた管理をしている茶園
 
①と②に関しては日照時間が少なく湿度の高い茶園に見られる傾向
 
単純な話で水不足の環境であれば普段から湿度の高い環境を持った茶園が強いという話ですね
写真の茶園のような日陰の時間が長く周りを森林に囲まれた茶園、傾斜が少ない茶園は水分流出が比較的少なく、生長も健全なところが多かった印象です
 
そしてそれと共に重要なのが土壌の深さと茶樹の根の張りの深さです
 
土壌表面に水が無ければ根は地中深くに水を求めます。元々深い主根を持っている茶樹は有利です
 
逆に土壌が浅かったり、礫のような水をキープしにくい土壌では困難です
現地の人々と意見を交わしたところ、今年は番仔田がチャンスがあるだろうという話になりました
 
番仔田は昔から水不足には強いと定評のある茶区の一つ(但し雨が多いのには弱い)
 
実際他の茶区の収量が例年の6割程度なのに対して番仔田は減産の影響が少ない傾向でした
 
番仔田は一つの例ですが、シンプルに水不足に陥りづらい環境では遅れの幅や収量、生長のバラツキも少ないのが見て取れました
 
そしてその上でもっとも重要なのが茶園管理です
一つの肥料を取り上げて管理が良いとは言えませんが、それでも敢えて具体的にあげるとすれば写真のような土豆(ピーナッツ殻)は有機肥料の中でも高価で香りなどにも影響があると言われています
 
質の良い肥料を与えることは当然ながら、タイミングや不足している栄養分をどう診断し適切に補っていくかなど、茶園管理は実に多くの観察と経験が必要になる奥深い仕事
 
製茶技術の方に目がいきがちですが、実際は良い原料あってこその製茶技術であり、全ての工程でもっとも上流にある良質な原料という条件を超える重要なものはありません

雨がなく春茶前の追肥が効かない状況(水分がなければ分解しない)では長年の管理が差を分けます

 

茶園管理に関しては話しきれないほどに多くのことがありますが、長文になりすぎますので一旦ここまでで

 

ここからは後半戦の5月のお話

 

4月20日にまとまった雨が降ったおかげもあって5月に入ると徐々にその効果が表れてきました

4月前半で見たバラつきのある茶園と違って春らしい芽揃いのいい茶園もチラホラ出てきました

 

あとは時間との問題でそれはつまり節気です

 

例年よりも遅れ過ぎている茶園とそこまでではない茶園、特に立夏(今年は5月6日)が一つの目安

 

立夏を過ぎると節気の上では夏となり、夏の太陽になると春茶の味わいに変化が訪れ(夏茶よりの味わいに…)、緯度や海抜がそこまで高くない茶区は特に要注意になります

 

当たり前ですが茶樹も果物やその他の作物と同じように旬や成熟があるのです
 

ゆえに最初にあげた3点が揃うというのは今年の状況下においては簡単なことではありません

 

仕入側においてもどのタイミングでどこの茶区茶園のものを仕入れるかが日々更新されていく感覚です

 

冒頭で話した怒涛の日々というのはまさに刻々と変わりゆく状況にどれだけ対応できるかを問われる日々だったように思います

そして今回も多くの縁によって救われました

 

決して自力だけでなんとかなるような状況ではなく、多くの助けがあってこそいいお茶が仕入れられることを改めて実感しました

 

そして台湾ってやっぱりいいなぁと(ごはんも美味しいし)

最後に簡単に新茶のお知らせをして終わりにします

 

まず高山茶シリーズです

 

杉林渓高山茶 番仔田

  • 産地:杉林渓番仔田
  • 製茶時期:2023年5月上旬(春茶)
  • 品種:青心烏龍 
  • 発酵度:軽-中発酵
  • 焙煎度:なし

竹山鎮の杉林渓茶区の中で最大生産量を誇る番仔田。番仔田は土壌が他の茶区よりも深い為、茶樹もしっかり深く根を張ってくれます。その為雨の少ない環境でも強く今年のような乾燥した気候条件では特に有利に働いた産地。十分な日光萎凋によって作られるスペシャルな香味が個性ある傑出した高山茶を生み出しています

 

阿里山高山茶 頂湖

  • 産地:阿里山頂湖
  • 製茶時期:2023年5月上旬(春茶)
  • 品種:青心烏龍  
  • 発酵度:軽発酵
  • 焙煎度:なし

標高 1650M と阿里山茶区の中で最高峰を誇る頂湖。茶園は森林に囲まれている為、土壌の保水力も他とは異なる有利さを持っており他園が大幅に遅れる中、例年通りのタイミングで茶摘みすることが出来た希有の茶園です。標高の高い山の持つ清々しさと透明感と阿里山らしい甘みある香りが実に優雅にマッチしています

 

翠峰高冷茶 慈峰

  • 産地:翠峰慈峰
  • 製茶時期:2023 年 5 月中旬(春茶)
  • 品種:青心烏龍
  • 発酵度:軽発酵
  • 焙煎度:なし

翠峰茶区の中でも数少ない最高 2000M 越えの茶園慈峰。標高の高さに甘んじることなく徹底した茶園管理の良さが最大の強み。台湾茶で好茶を表す代名詞である“回甘(喉の奥から返ってくる甘み)”が本当に素晴らしく、いつまでも余韻に浸ることができます。豊かな土壌と真の高海抜だけが生み出せるパワー系高山茶です

 

続いて品種シリーズです

 

四季春 冬片

  • 産地:松柏嶺
  • 製茶時期:2023年1月上旬(冬片)
  • 品種:四季春
  • 発酵度:軽-中発酵
  • 焙煎度:なし

名間郷はパイナップルでも有名な産地ですが、今回の四季春はまさに青いパイナップルを思わせるような甘い芳香を放っています。四季春の品質が最も良くなる冬片はしっかり寒気が当たり、さらに程良く 発酵を高めたおかげで例年にない味わいが生まれました。煎を重ねても良質な香味をキープし続けられる普通ではない四季春です

 

阿里山金萱茶

  • 産地:阿里山大窯
  • 製茶時期:2023 年 4 月上旬(春茶)
  • 品種:金萱(台茶12号)
  • 発酵度:軽-中発酵
  • 焙煎度:軽焙煎

歴史的な干ばつで大減産する今年の中で奇跡的な金萱が手に入りました。魅力はなんといっても金萱の品種が持つ甘いミルク香。抜群の軽い火入れによって香りと味わいに調和を与えています。一般的に今年は金萱にとって受難の年でしたが例年の品質を上回る傑出した金萱(23 春頭等奨受賞)に出会うことが出来ました

 

凍頂烏龍茶 清香

  • 産地:鹿谷鄉
  • 製茶時期:2023年 4 月上旬(春)
  • 品種 : 迎香(台茶 20 号)
  • 発酵度:軽発酵
  • 焙煎度:なし

迎香は萎凋工程での水分抜きが難しい品種。雨が少なく茶葉の水分率の低い今年にはうってつけの品種。特徴である烏龍の持つコクとまろやかさに迎香の香りがバランスよく発揚しています。凍頂烏龍茶の清香タイプを好まれる方にぴったりで今や欠かすことのできない定番茶の一つ。良質な有機肥料と丁寧な製茶技術の結晶

 

 

それぞれの品種の特徴、または産地の個性がよく出ています

今年のお茶の話を参考にしつつ味わって頂けると嬉しいです