日曜は勝手にショートショート
Amebaでブログを始めよう!
1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 最初次のページへ >>

【24】ショック

母を亡くしたショックから私は声が出なくなった。

母は交通事故で死んだんだと思っていたが、実は生きていた?

父が嘘をついていた?

母は突然現れたが、幼い頃に写真で見た母とそっくりだった。

その写真はいつの間にかどこかに行ってしまったけど。

「カナエ」と母は言った。「お母さんよ」

でも、私のお母さんは死んでしまった。

私は混乱していた。

でも、母が死んだということは、父が言っていただけ。

母は死んでいなかった?

「久しぶり。抱きしめてもいい?」

もしも母に会えたら抱きついて「お母さん」と何度も叫びたいと思っていた。

でも現実に死んだと思っていた母が現れると。

私は母に背を向けると反対方向に走り出した。

「待て」父の声。

振り向くと母の横に父が立っていた。

「こういうショック療法でも声は出ないんだな」と父は悲しそうに言った。

「ごめん、この人はお母さんじゃない、お母さんの妹だ」

 

 

【23】夢

朝、ユキがめざまし時計を持って、居間に来た。

「おはよう」と父と母。

「おはよう」ユキは時計を両親に見せて、

「あの、時計が、えっと」

「時計がどうした」父が珈琲を飲みながら尋ねた。

「あの、あ、ヒロシが二段ベッドの下で夜中に急に叫び出したの。

最初うめき声をあげてたんだけど、やがて「お母さん、お母さん、お母さん」って何度も早口で言って

そして「助けて、助けて、助けて」って叫ぶのよ。

怖かった」

「ヒロシ、怖い夢でもみたのかな」と母。

「そっちが夢じゃないのか」と父は笑った

「ヒロシが叫び声をあげているという夢をユキが見たんじゃないのか」

「そう言えば」と母。「ヒロシ、夜中に私のベッドに入ってきたわ。

ユキ、夢見たんだわ」

「夢じゃないから。ヒロシの声に驚いてめざまし時計落としたの。

ヒロシのせいで壊れたの」

「うーん」と父はめざまし時計を受け取ってしげしげと見た。

「壊したのごまかしてる」

「ちがう、ちがう、ほんとだってば」

「じゃ、何時頃かわかる」母がユキの顔をじっと見つめて聞いた。

「ヒロシは3時頃来たのよ」

「おい、この時計」と父が怖い顔をした。「4時で止まってる」

「あれはほんとだった」ユキが遠くを見る目で言った

「あの声は夢じゃなかった」

「じゃあ、いったい」と父が怖い顔のままで言った。

「ベッドの下にいたのは誰だ」

 

【22】母

キキーッ、ドン!

 

私は突き飛ばされて意識朦朧としていた。

小学生の私を助けるために身代わりに車にはねられたのは、母。

母は私の身代わりになって車にひかれて死んでしまった。

 

そう思ってた。

 

でも不意にその時の様子がはっきりと頭に浮かんだ。

小学生の時に私の身代わりとなって車にはねられたのは、男性だったのだ。

私の知らない、男性。

父から母は交通事故でなくなったという話と、小学校の時事故にあったということが、

私の頭の中で混ざり合ってしまっていたのだ。

私を助けてくれた人は病院に運ばれたが、軽傷ですんだ。

 

となると、母はもっとずっと前に交通事故でなくなったのだろう。

記憶に残っていないということは、きっと私がとても小さい時になくなったのに違いない。

 

今私は高校生だ。

母がいなくても父が男手一つで育ててくれた。

私は健康に育ったが、唯一声を出すことができない。

声を出せないのは精神的なものらしい。

母をなくしたショックで声が出なくなったというのがお医者さんの見立てだ。

 

月一回通院していて、今日がその日だった。

病院に着いたが、病院の玄関に1人の女性が立っていた。

「大きくなったわね、カナエ」とその女性は言った。

どこかで見たことのあるような女性。

「私のこと、わかる? あなたのお母さんよ」

 

(終)

【21】焼肉食べ放題

弟の誕生日だったので、家族で焼肉の食べ放題に行った。

カタコトの日本語を使う中国人らしき従業員が注文を聞きに来た。

次々と肉を注文した後で、

「大丈夫かな、ちゃんと理解できたかな」と父がぼそりと言った。

「大丈夫よ。でもあんな感じの留学生とかやとって人件費減らしてるから食べ放題でも安いんじゃない?」と母が言った。

肉が次々と届けられると、家族四人は大歓声をあげた。

次々と肉を焼いては食べ、焼いては食べる。

父はビールのお代わりを頼んだ。

「おいしいね」弟はいつもの倍くらい食べていた。

私もいつも以上に食べていた。辛いタレよりもレモン汁であっさり食べるのがおいしいと思った。

「こんなにおいしいのに千円台で食べ放題って、嘘みたい」

「でも、ちょっとどんな肉か気になるわね」母もいつもより食べながら言った。

「中国人がたくさん雇われてるから犬の肉かもよ」父がビールを飲みながらにやりとした。

「うそー」

「中国では犬を食うというからな」

肉を食べすぎた弟が「そんなことないワン!」と言った。

家族は顔を見合わせて笑った。

「ヒロシったら」

「ユキ、この鶏肉もうまいぞ。あ、でも骨、あった」

そう言うと父は口からカエルの足をペッと出した。

(終)

【20】交通事故

キキーッ、ドン。

私の身体は車にはねられ、宙に飛んだ。

ボンネットの上にたたきつけられ…。

 

「はい」

看護師さんに名前を呼ばれて、目が覚めた。

あわてて立ち上がると、ひざの上の雑誌が床に落ちた。

となりにすわっていた小学生くらいの女の子が雑誌を拾って渡してくれた。

私はありがとうと言いたかったが、声が出なかった。

彼女は父親のひざに抱きついた。

 

病院を出て、家に向かって歩き出す。

イヤな夢だった。

交通事故で車にぶつかった衝撃は、リアルだった。

夢のことを考えていて、カバンを病院に忘れてきたことを思い出した。

今来た道を病院に向かって早歩きで戻る。

その時、さっきの女の子が父親の手を離れて道路に飛び出すのが見えた。

あぶない!

私は女の子に向かって走り出した。

女の子を突き飛ばすと

キキーッ、ドン。

私の身体は車にはねられ、宙に飛んだ。

ボンネットの上にたたきつけられ…。

 

「大丈夫、おじさんは命に別状ないそうだ」

病院に向かう救急車を見ている私に父は言った。

「あのおじさんは、お前が病院で雑誌を拾ってあげたおじさんだったな。

お前が車にひかれるところを助けてくれたんだ。

よかったな、カナエ」

 

 

 

※原稿用紙の作品を読んでみたら

自分でも意味がわからなかった笑

これは偶数番が声を出せない女の子が主人公のショートショートもどき、

奇数番が別のショートショートもどきで、

みつけた古ぼけた原稿用紙にかわりばんこに書いたものです。

説明すると、連作なので夢をみた私=声を出せないカナエだと思わせて

実は女の子がカナエだったという叙述トリック?だったんですね。

説明ないとわからない…。

一応看護師さんに名前を呼ばれた私が「はい」と答えているのが伏線です。

 

2017年4月に1作ずつ書いて、

27まで書いて一応完結しているので、また載せます。

1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 最初次のページへ >>