最初に、これだけは言っておきたい。
いまの情勢で、テレビや新聞等でいわゆる「経済評論家」なる普段何してるんだかわからない胡散臭い職業を名乗るコメンテーターが、もし「中国経済は安定している」「上海の株価は今後も上昇を続ける」などと発言しているのを聞いたなら、そいつの顔と名前を覚えておくことをお勧めします。
今後未来永劫、そいつの言うことは一切信用してはいけません。そいつは詐欺師か、とんでもない無能か、もしくは中国共産党のスピーカーです。
さて、先週あたりからちらほらニュースになっている上海株式市場の情勢ですが、わたしが知る限り特にテレビでは踏み込んだ説明がほとんどありません。
これは日本のマスコミが中国に媚びているというよりは、番組を作っている連中がろくに経済のことなんか知らないからでしょう。
馬鹿には期待するだけ無駄です。
いま中国経済で起こっていることは、実はひどく単純です。
中国共産党「やべぇ、不動産バブルが弾けそう……」
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国営放送「これからは株だ! みんな株を買うんだ!」
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釣られた中国の個人投資家(経済って食べ物ですか? みたいな人たち)が一斉に株式市場に殺到
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株価爆上げ
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人民「ヒャッハー! もっと! もっと利益を! 信用取引(ようは借金)だー!」
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株価更に爆上げ
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中国市場の信用取引額がいよいよとんでもない額に
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中国共産党「さすがにやべぇ、今日から信用取引に規制かけっから」
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人民「ひぎぃ! 借金返せなくなる! 売りだ! 残らず売れ!」(一斉にパニック売り)
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株価大暴落 (←ここが先週前半)
概ねこんな感じ。
通常先進国の市場では、海千山千のトレーダーやプロの証券会社社員が大量に居て、素人がパニック売りした銘柄を底値で買い、将来的に値上がりしたところで売って大儲けしたりして市場は調整されます。
ですが投資家の大半が成金の素人である中国では、こうして極端から極端に容易に振れてしまうのです。
株は為替などと違い、損をする人がいればそのぶん得をする人がいるようなゼロサムな性質のものではありません。株価が暴落すれば、その株を所有する人、その株を売る人、発行する企業、全員が等しく損をします。
そしてこれも為替とは違い、株価が高くても直接的な弊害は一切ありません。
急激な円高は輸出企業が壊滅しますし、急激な円安は国内物価の高騰を招きます。ですが株価については高騰しても一切何の問題もないのです。せいぜいが反発による株価下落が懸念されるのみ。
極論すれば、株価というものは高ければ高いほどよいことなのです。
その国の平均株価が暴落するような事態になった場合、その国の政府は何かしらの株価対策を取る必要性に迫られます。ここで政府が事態を傍観したり対策を誤ると、結果として経済が大打撃を受けます。民主党政権での株価低迷や90年台初頭の日本のバブル崩壊がいい例です。
市場で株価が暴落した場合の対策としては具体的にどのようなものがあるのでしょうか。
ここでは代表的な先進国として日本の対策を挙げてみます。
日本の株価対策1 長期金利の引き下げ
定期預金や普通預金に大金を預けておいても雀の涙ほどの利息もつかない、となれば、大金を持っている人ほどもっと利ざやのいい運用先を探します。
そういったいわば「死んでいる金」が株式市場に流れ込み、株がどんどん買われ、結果として株価が上昇します。
日本の株価対策2 法人税率引き下げ等の企業優遇策
株式とはいわばその企業への投資です。業績のよい企業の株は将来的に値上がりが望めるため多くの投資家が買い求め株価は上昇し、逆に業績の悪い企業は売られるので下落します。
すべての企業に対して公平に減税等でサポートすれば、企業の業績が良くなり、結果として株価が上昇します。
他にも色々あるでしょうが、代表的なのはこの2つです。
なんともまぁ、風が吹けば桶屋が儲かるではありませんが迂遠な方法ですよね。
ですが経済とは生き物です、無理に強権を振るおうものなら誰にも予測のできない反発を招くことになる。政府が経済に直接強権を振るった結果どうなるか、といういい例がジンバブエであり戦時中の大日本帝国です。
上記の方法は確かに迂遠ではありますが、堅実に効果を発揮し、民主党政権の「注意深く見守る」政策により一時は9000円を割り込んでいた日経平均株価は数年で20000円台まで回復。日本経済は息を吹き返します。
90年台初頭のバブル崩壊では、当時の橋本龍太郎内閣総理大臣が2の対策を決定的に誤りました。
最悪のタイミングでの消費税増税と超緊縮財政というダブルパンチで、企業の業績に大ダメージを与えてしまったのです。
国の借金が国民一人当たりいくらで1秒ごとにいくら増えていく、などとスタジオに大掛かりな金額リアルタイム表示の時計まで作って、マスコミが盛んに煽り立てていた時期です。
度を越した緊縮財政の一環として、税金の投入で救えるはずだった山一証券の破綻を傍観したことが直接の引き金となり、一気に信用不安が拡大。株価は連日大暴落し、バブルが崩壊します。
その後20年以上に渡り、日本は長く暗い不景気のトンネルを彷徨うことになるのです。
緊縮財政による国債発行額の無理な圧縮と、代わりの財源確保としての安易な増税、それがいかに危険なことか、日本は既に経験しているのですよ。
国債残高を「国の借金! 子供たちへの負債!」とまるで壊れたラジオのように垂れ流すくせに、経済政策として必要な税金投入を「税金の無駄だ! バラマキだ!」と鬼の首でも取ったかのように騒ぎ立てる日本のマスコミ。彼らがいかに無知で低脳で無責任で恥知らずなアジテーターかということが本当によく解ります。
ちとヒートアップして話が逸れました、以上は前置き。
日本に限らず一般的な先進国の株価対策は間接的に行われるのが常だ、ということです。
では、先週の終わりに上海市場の大暴落に襲われた中国共産党が何をしたか。
事実のみを列挙します。
中国共産党の株価対策1 下落株の取引停止
特に値下がりの激しかった株を、あろうことか取引停止としてしまいました。
最終的に取引停止になった株は市場全体の半数近くに上ります。
中国共産党の株価対策2 空売りの取り締まり
空売りとはようは借金して株を売る行為です。「後でこの株の金払うから、とりあえず買ったことにして売っておいて」というものです。
例えば100株100万円の株に対し、今手元には無いが後で金払うからと100万円で売る。手元には100万円の現金と、100株分の代金支払い義務が残ります。
1日後には株が値下がりして100株90万円になっていたとすれば、90万円の代金を払えばよいです。手元にはまるまる10万円が利益として残る。
これが空売りです。
逆に株価が上がって100株110万円になったとすれば、110万円を支払わなくてはならないため10万円分損をします。
株価が値上がりするか、値下がりするかを見極めて、利益を出す。「空売り」というと何となく胡散臭いですが、これはれっきとした株式取引のルールに則った商行為です。
それを問答無用で禁止したばかりか、違反者を逮捕すると宣言しました。
中国共産党の株価対策3 大株主の株売却禁止
一定以上の株数を保有する大株主に対して、一定期間、株の売却を禁止しました。
中国共産党の株価対策4 企業や証券会社への買い支えの強制
国営企業や証券会社に対し、取引停止となっていない残り半数の株式を大量に購入するよう強制しました。
無論、共産党政府もガンガン買ってます。
中国共産党の株価対策5 外国人投資家の排除
外国人投資家の株の売買を全面的に禁止しました。
このまま禁止が解除されなければ彼らの持つ大量の株式はそのまま紙くずです。
もう自分でも書いていて唖然とします。無茶苦茶です。
皆でルールに則ってサッカーをしていた場所で突然金属バットで相手チームを殴打し始めたようなものです。
これではとてもじゃないですが先進国の経済取引とは呼べません。ルール無視のデスゲームですよこれ。
とにもかくにも、この対策により暴落を続けていた上海株式市場は少なくとも表面上は株価が上昇に転じます。そりゃそうだ、だって売りたくても売れないんだから株価が下がりようがない。
未だに取引停止対象の株を持つ投資家やその他の株を持つ大株主は売りたくても売れない状況ですし、空売りすれば逮捕されます。信用取引をしていたほとんどの個人投資家は借金の返却期限を迎え破産するしかない。停まった自転車は倒れるしかないのです、というかそも利息すら払えないでしょ。
日本ならともかく、中国人が果たして観念して首を吊りますかね? 死なばもろともと憎き政府相手に大暴動を起こすと思うんですが。
企業や証券会社、そして中国共産党が株価を買い支えるために使った金額は日本円にして300兆円とも400兆円とも言われています。ここ1週間だけで、です。
300兆円、400兆円と言われてもピンときませんが、日本の国家予算(一般会計)が95兆円ですから、どれほどとんでもない額かがわかります。事はもう日本が援助してどうこうとかいうレベルにありません。
さてこの返ってくる当てのほとんどない莫大な額の無駄金は、果たして何処から用立てた金でしょう。
年金資金? 共産党にとって人民の命なんて路傍の雑草と同じとはいえ、さすがにこれは大暴動フラグですよね?
外貨準備? 世界一と大喜びしてた外貨準備金、米国債が3割しかなく、残り7割は虚構じゃないかと話題になってますよね?
よもやじゃんじゃんバリバリ輪転機まわしてませんよね? いくらなんでもこのペースで刷ったら、半年後には額面ではなく重さで取引することになりますよ?
今は滅茶苦茶な強権発動で無理矢理に株価を支えているこのような不自然な状況は、当然ながら長くは続かないでしょう。
買い支えの金が尽きるのが先か、無尽蔵に刷った金でハイパーインフレとなり社会経済が壊滅するのが先か。
はたまた取引停止銘柄を解除した瞬間に大暴落して即死するのか。
少なくとも、このまま市場が安定して上昇を続けるような展望は100%ありえません。素人のわたしですら断言できます。
これだけ政府の強権によるルール無視が行われるとなれば、まともな外国人投資家はたとえ禁止が解除されたとしても二度と中国市場を信用せず、今後絶対に投資は行われないでしょう。胡散臭い山師のような連中ばかりになるでしょうね。胴元が途中で平気でルールを変更するようなギャンブルに、好んで参加するような輩はマトモじゃない。
このような状況で「中国経済は安定している」「株価は今後も上昇を続ける」などと囀るような輩が、詐欺師か、無能か、共産党のスピーカーだということが解っていただけましたでしょうか。
正直、共産党政府も現状どうしたらいいかさっぱり解らない状況でしょう。
毛沢東が数千万人の人民を大虐殺した統制経済の頃から、これっぽっちも進歩していない。
ちょっと前までガッチガチの共産主義社会だった中華人民共和国には、自由経済や株式市場などはまだまだ早すぎたのですよ。
政治で経済を統制する国家、ようは政経分離ができていない国は、経済の混乱により国が滅びます。
ソ連は経済破綻と共に崩壊しました。中国も同じ道を歩み、しかもそれはそう遠い未来ではないのかもしれませんね。