kyupinの日記 気が向けば更新

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kyupinの日記 気が向けば更新 (精神科医のブログ)
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ツムラ漢方防風通聖散と小林製薬のナイシトールZ

 

最近、ツムラ62、防風通聖散エキス顆粒の供給停止のアナウンスがあった。以前もツムラの漢方薬がさまざまな理由で供給が滞る話を紹介している。

 

 

上のリンク記事の中でも防風通聖散の話が出てくる。以下は抜粋。

 

新型コロナパンデミックの際、風邪症状に有効な漢方薬の需要が爆発的に増した。その際、ツムラは生産ラインをこれらの漢方薬に動員したため、風邪と関係がないか薄い漢方薬の生産量が減り納入が難しい時期が続いたのである。

特にうちの病院では防風通聖散(ツムラ62)が不足する事態になった。防風通聖散は、一般に便秘に処方される。やせ薬としても人気が高いため、全国的にはそこそこ処方される漢方薬である。実際、効能効果には、肥満症、むくみが挙げられている。

今回、ツムラ防風通聖散を購入できない時期、クラシエやオースギの防風通聖散に変更して処方してみたところ、ツムラに比べオースギの防風通聖散の方が、便秘に関してはより効くことがわかった。患者さんがそう言っていたからである。

 

ツムラの国内の工場は茨城県と静岡県にあるらしく、2011年の東北地方太平洋沖地震の際には茨城県の工場が被災して、いくつかの漢方薬が不足する事態になった。

 

今回の供給停止措置は復旧が早く、5月中旬には解除されるらしい。

 

元々、防風通聖散は便秘の薬だが、肥満症にも効果があるとされている。だから、多くの便秘症向けの漢方の中でも人気があるのである。今回の供給停止措置には、小林製薬の紅麹事件が関係しているように思われる。上に挙げたツムラのお知らせにも、4月から急激な需要増があり、生産能力が追いつかないと記載されている。

 

実は、小林製薬はナイシトールZと言う防風通聖散を含む市販薬を発売している。

 

 
上のリンクには以下のように記載されている。
 
ナイシトールZは18種類の生薬を配合した漢方処方
「防風通聖散」を用いた、肥満症を改善するお薬です。
【製品特徴】
・内臓脂肪を分解燃焼し、肥満症を改善します
・脂肪を燃やし、余分な脂質を便と一緒に押し出します
・生薬量最大の28,000mg処方を用いた濃縮エキス!
※日本薬局方防風通聖散エキス内
 
つまり、ナイシトールZを服薬していた人が、小林製薬の紅麹事件により不安を感じ、ツムラ防風通聖散に流れたのではないかと。ツムラの方も防風通聖散は良く売れる漢方薬なので、早急に対応し一時供給が滞るが、約1か月くらいで増産可能な体制が整うと判断しているのであろう。
 
参考

 

 

 

28歳くらいの梅毒の患者

今回の記事は、僕がまだ31歳頃遭遇したものである。驚愕すべき臨床体験。

 

ある28歳の男性患者さんは、梅毒に罹患後、症状が出たものの中核病院で治療を終えていた。その時は既に梅毒トレポネーマは体内にはなかった。

 

この患者さんの不思議なことは、まだ感染後2年くらいしか経っていない上、梅毒に対する抗生剤治療も完全に終わっているのに、精神が既に荒廃していたことである。

 

いつも保護室で診察していたが、いつも無苦慮にへらっとした印象で、よくポケットに大便を詰め込んでいた。おかげで指と爪の間には便がつまり悪臭を放つような状態である。

 

統合失調症の人にも弄便が診られることがあるが、実際にはそのレベルまで荒廃する人は稀であり、そう診られるものではない。過去ログに便だらけになる患者さんの話をアップしている。

 

 

このセンテンスの最も器質性疾患っぽい(つまり統合失調症らしくない)ポイントは、「へらっとした印象」だと思う。

 

とにかく、回復する見込みがなかった。

 

ところが、民間精神病院は自院の重症の精神病患者は、他病院に転院させにくいと言う心理が働く。

 

その理由は、民間精神病院は常に一定数の処遇困難な患者を持っていて、ある種の民間精神科病院全体で苦労を分かち合うという暗黙の了解のようなものがあるためである。そもそも自分の病院でここまで悪化した患者を他病院に押し付けるのは気の毒というのもあるし、心証も悪く今後の病院間の関係にも影響する。それが簡単に許されるなら、自分の病院は精神医療の楽な良いとこ取りだけしている感じになる。

 

そのようなこともあり、余程の理由がないと、この記事に出てくるような重症の患者さんは他病院に転院などさせられない。

 

当時、この男性患者は、時間的には梅毒の四期のはずはないが、何らかの免疫的な脆弱性があり、このような荒廃に至ったのかもと思っていた。それが正しいかどうかはともかく、梅毒の最終病態はこのようなイメージだったからである。

 

既に四期の梅毒患者はなかなか診られない年代になっていたこともある。

 

そして、「梅毒の四期であるはずはないのに、極めて特殊な病態を呈している」とのことで中核病院か、あるいはもう少し施設が整っている大規模な民間病院に転院させることになった。そのあたりは、僕は主治医ではなかったので経緯の詳細は知らない。

 

その患者さんはその後も経過は良くなかったらしい。「この良くなかったらしい」という期間は数ヶ月であり、その後の詳細は全く知らないのである。

 

その後、僕は毎週リエゾンをするようになった。僕は医療観察法の仕事とリエゾンは非常に縁があり、延べのリエゾンの経験年数は精神科医のキャリアから比してもかなり多いほうだと思う。そのようなこともあり、稀な症例を経験している。

 

その梅毒患者さんに極めて似た症例を後に数度、リエゾンの現場で経験することになったのである。例えば、この梅毒の男性患者さんに似た病態のある女性の基礎疾患はSLEであった。

 

今から考えると、その若い梅毒の患者さんは身体疾患に由来するカタトニアだったと思う。

 

カタトニアはGoogle検索すると狭い範囲の概念しか記載されていないので、それは違うだろうと思うかもしれないが、こういう病態もカタトニアと言って良いのである。ポイントはカタトニアは症候群であり、原疾患は必ずしも同じ疾患ではないことであろう。

 

このように考えると、当時の治療のベストの選択肢はECTであった。病状の規模的に1択と言って良かった。

 

しかし、当時それを見抜くことができず治療機会を逸してしまい、しかも他院に送ってしまったのである。

 

彼は、今も残念に思う患者さんの1人である。

 

「花粉症とクロルフェニラミンOD6㎎錠発売中止の話」への読者さんのメッセージ

 

 

上記の3月12日の記事に関して、不正確な部分があり読者さんからメッセージを頂いています。読者さんの了解を取り、以下にアップしました。(青の部分)

 

kyupin先生のブログをいつも楽しみに読んでおります、ありがとうございます。

私は保険薬局の薬剤師で、精神神経科の処方せんも応需しているので、ブログで勉強させていただいております。

2024年3月12日のブログ「花粉症とクロルフェニラミンOD6㎎錠発売中止の話」の抗ヒスタミン剤のトータル1日薬価についての考察は、興味深いものでした。

後半にあった「これ(クロルフェニラミン2㎎錠)はたくさん飲めるが、OD錠ではない」の記述について、メールいたします。

文中のOD錠の語は、徐放錠が正確かと思います。

ODはOrally Disintegratingの略で、OD錠は口腔内崩壊錠の意味になります。

2023年7月に販売中止となった抗ヒスタミン剤は、d-クロルフェニラミンマレイン酸塩徐放錠6mg「武田テバ」です。

今は、先発品のポララミン錠2mgも、その後発品「武田テバ」、同「NIG」も流通が滞っておりますので、皮膚炎に対しては、アタラックスに切り替えた処方せんも見るようになりました。

   アタラックス錠(規格10mg/25mg、ヒドロキシジン塩酸塩、分子量447.83)
   アタラックス−Pカプセル(規格25mg/50mg、ヒドロキシジンパモ酸塩、分子量763.27)

   効能又は効果(ともに)
   蕁麻疹、皮膚疾患に伴う瘙痒(湿疹・皮膚炎、皮膚瘙痒症)
   神経症における不安・緊張・抑うつ

末筆ながら、kyupin先生のご健勝をお祈り申し上げます。

 

なお、クロルフェラミンは眠い薬だが向精神薬を飲みなれている人にはあまり眠くならない。かなり重症なアレルギーの人で、アレグラ(フェキソフェナジン)やザイザル(レボセチリジン)で全然効かない人はクロルフェニラミンを希望する。特に医療関係者はそうである。

 

そのような人に、クロルフェニラミンは眠くならないですか?と聴くと、時間が経てば慣れていくと言う。

 

市販の睡眠改善薬にドリエルという薬があるが、これは抗ヒスタミン薬の眠さの副作用を利用したものである。主な成分はジフェンヒドラミン塩酸塩で、これも時間が経てば慣れる傾向がある。ドリエルとクロルフェニラミンは同じような薬といえる。

 

 

ドリエルやクロルフェラミンのような抗ヒスタミン系の薬を睡眠薬として服薬することは推奨されない。新しいタイプの睡眠薬、デエビゴ、ベルソムラ、ロゼレム(市販されていない薬)のようなタイプがずっとマシだと思う。

 

 

風格のあるサバトラ猫

 

体が大きく風格あるサバトラ猫。少しわかりにくいかもだが、右耳がカットされていてオス猫である。多くの地域猫の耳のカットを見ていると、平均してオス猫の方が体が大きいのがわかる。

 

 

最初こんな風に近づいてきた。

 

 

目つきは鋭いけど、周囲の猫との様子を見ると性格は穏やかだった。

 

 

サバトラとは、シルバーグレーの毛にブラックの縞模様があるネコである。キジトラはよく見るが、サバトラはさほど多くはない。珍しいかどうかは知らない。

 

 

僕の目の前を悠々と歩いていく。実に落ち着いている思った。

猫には個性があり、いつも落ち着きなく動きが多い猫と、このように落ち着いている猫もいる。

 

 

お腹に少し白い部分がある。このように腹のところに白い毛が少しだけ入っているサバトラは、サバ白と呼ばれるらしい。

 

このサバとは魚のサバである。またサバトラは正式な猫の種を言っているわけではない。

 

クリニックで自立支援法の診断書をあまり勧めない理由

民間の精神病院は基本、外来患者さんに自立支援医療(自立支援法)を勧める。しかし、心療内科及び心療内科クリニックではあまり勧めないことが多いと思う。

 

なぜそう思うかと言えば、クリニックから転院してくる患者さんがその制度を知らないことが稀ならずあるからである。

 

診断書は書くこと自体は簡単で、近年はクリニックはほぼ電子カルテになっているので一層、容易になった。コピペで済む部分が大きいからである。

 

昔はクリニックに通う患者さんは平均して働いている人が多いことや、主治医が自立支援法の診断書を書くのが面倒だからではないかと思っていた。(実際、かつて精神科病院ではそのように言われていた)

 

また、積極的に書かない理由として、公的機関に提出することにより、患者さんが精神科に通院していることが他人に漏れてしまうなど、精神科のスティグマを利用する悪質なアドバイスもあったと思われる。公的機関がそのようなことを外部に漏らすのは違法行為である。普通、心配するには及ばない。

 

就労して年収がある程度あると除外されたり支払い上限が設定されるので、年収が高ければ高いほど自立支援法を受ける意味が薄れる。また年収が高いと、3割負担が1割負担になったとしても、その人にとって大した差ではないと思う人もいるかもしれない。(思う人は主治医)

 

そのようなこともクリニックであまり勧めない理由の1つだと思われる。

 

市町村民税が235000円以上、年収だと833万円以上では自立支援法は対象外になるが「重度かつ継続」だと自己負担上限が2万円であった。ただし、令和6年4月からはこの2万円の上限がなくなる。(この特例措置は令和9年3月31日まで延長されたとのことです。訂正します)

 

 

 

ただし、外来治療で自己負担が2万円までかかることはまずない。デイケアに毎日来て、訪問看護も受けるような人は自己負担2万円の打ち止めに達する可能性がある。精神科は医療費が安いからである。(自費で支払ったとして、外来だけで月20万円に達することはほぼないと言う意味)。

 

年収が概ね400万から833万の間の人は上限が1万円になる。これは1割負担で1万円なので、つまり自費で10万円と言う意味である。クリニックの場合、デイケアをしていることがほとんどないため、月に来院する日が1日か2日の人が多く、1万円はまず超えない金額である。

 

自立支援法を受けない場合は3割負担になるので、高価な薬を処方されている人は結構支払わないといけないケースもあると思われる。例えばジスバルなどである。

 

 

上記から抜粋。

今回、遅発性ジスキネジア治療薬が新発売された。ジスバルという商品名で白のカプセルである。40㎎の1剤型しかなく、かなり薬価が高い。1カプセル約2331円もするため、1か月で7万円もかかる。しかも適宜増減でき80㎎まで投与可能なので14万円までかかりうる。

 

ジスバルを処方されるような人は自立支援法を受けるべきだ。薬だけ切り取って計算してみても、21000円負担と7000円負担は大差である。自己負担上限が低い人はなお良い。

 

年収290万から400万くらいの人は月の自己負担上限が5000円まで下がる。大雑把に言えば、それ以下は上限2500円である。地方の民間精神科病院で外来通院する人のほとんどは、上限が5000円か2500円である。

 

だから自立支援法を受けると、月間で5000円か2500円以上は窓口で支払う必要がない。

 

精神医療費が比較的安価なこともあるので、クリニックではさほど影響がないと思うかもしれないが、3割負担が1割負担になることは結構大きいと思う。月間6000円支払うところが2000円になるからである。

 

たまに、民間の精神科病院から転院してくる長期通院中の人が自立支援法を受けていないことがある。これはたぶん、その人の年収的に、その人にとってたいした負担ではないと主治医が判断していると思った。つまり患者さんを見て判断しているのであろう。

 

あるいは、長期に通院しそうにない患者さんは、自立支援法診断書を書いたとして、診断書料金と診断書を書く労力が無駄になることもある。これも勧めないのは、患者さんを見て判断していると思う。

 

細かすぎて微妙な点を挙げれば、自立支援法は通院する病院と院外薬局が決まってしまうので、本人が転院したいと思う時、それを病院に伝えなくてはならない。言わないで転院したとしても、自立支援法も引っ越しになるので、結果的に伝わってしまうのが患者さんにストレスと言うか気になることであろう。(地方により、2つの病院を指定できることあるらしい。あるクリニックに通院し、他の病院のデイケアに通うのは自立支援法でも可能)

 

しかし前病院やクリニックがある場合、紹介状がないと診ないという病院やクリニックもあるので、そこまで自立支援法の有無は関係しない。

 

自立支援法は、基本、精神科の薬に限られているため、例えば、甲状腺剤は精神疾患に適応がないので認められない。うつ病や双極性障害の治療マニュアル的には使う場面があるが除外されているのである。同じ理由で抗癌剤やリウマチなど膠原病の薬、降圧剤などもそうである。

 

一方、便秘薬はたいていの向精神薬で副作用として挙げられているので、安価な便秘薬であれば認められる。一方、アミティーザやリンゼスは高価なので不可である。

 

この辺りの線引きはかなりローカルな面があり、地方によれば認められているところもあると思われる。

 

このような話が出るのは、既に予算的に自立支援法が継続できるか怪しくなっているからだと思う。これは精神医療そのものも破綻しかねない話である。

 

かつて、外来で麻酔下ECTを実施し1ヵ月の外来医療費が軽く100万を超え、自立支援法のチェックの先輩精神科医から苦情が来たのは今は昔の話である。なぜ100万を超えたかと言うと、当時まだ麻酔下ECTが「まるめ」ではなかったからである。(麻酔をするだけで大変な額)。

 

この話は2000年以前の話だが、査定はされず、今後は入院させて麻酔下ECTをするように注意を受けた。更に、自立支援法は高額医療を想定していないと言われたのである。

 

このように、自立支援法も厳格な運用をすべき時代が来ているのである。

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