あなたの眠る海が
光を生みながら打ち寄せる
砂にあがった 小さな桜色の貝殻を
数分毎に揺らしながら
潮騒は 風にうたう
風は 地を渡ってゆく
高い防潮堤に遮られても
もういちど 逢いたい
PHOTO 山本てつや
祈りの日に
2024年3月11日、祈りの日を迎えました。
今年もこの詩群に再掲リクエストをくださった貴女に感謝いたします。
くりかえし伝え続けるようにとの励ましは私の支えです。
この耳に今も残る『私たちを忘れないで』という声。
私は今年もその声に背中を押されてこの詩群を再掲しようと思います。
あの日から13年目を迎えた被災地の浜に思いを馳せて
14時46分18秒…心合わせてお祈りいたしましょう。
逢いたくても もう逢えない人を想う多くの心たちに
深い深い慰めがありますように。
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【 あなたを忘れない 】
遠く あの海のうえを過ぎた風は
潮の匂いを含んだまま
いま私にふく
遠く あの木々の間を吹き抜けた風は
針葉樹のアロマを含んだまま
いま私にふく
遠く あの頬をそっと撫でた風は
あなたの涙を含んだまま
いま私にふく
いま 私にふく
2012年 いわき市浜通りにて PHOTO HIDE
春まだ浅い あなたの海に
それでも 凍った光の結晶は躍り
水底から運ばれてきた貝殻たちが
小さく はしゃぎ声をたてている
三月の海は 哀しいけれど
あの人は今日も 店先に魚と烏賊ゲソを干し
売れた干物よりも多い数のゲソをおまけに付けて
照れくさそうに笑うだろう
受難節の三月十一日
城壁のような堤防に狭められてゆく海岸線の手前で
本当に欲しいのは 思い出よりも今なんだと
ルフランする あなたの声
2012年 浜風商店街にて PHOTO HIDE
【 初めての被災地訪問 】
仮設住宅集会所、ふれあい交流の場「ほっこりカフェ」で
そこに住むご婦人方20名ほどとお茶をいただきながら過ごした。
「あんたはどこから来たの?」
テーブル向かいの方が声をかけてくださる。
「世田谷のサザエさん美術館がある街からです。駅前にサザエさん一家の銅像が建ってるんですよ。」と答える。
「波平さんの大事な一本毛が盗まれただろ? 前にTVで騒いでたっけ。見たよ。」
「そう、そう」と頷くみなさんの笑顔。
「あの毛、何十年かすれば、いい値がつくお宝になるべなぁ~。」
すかさず入ったジョークに爆笑。
新来の私たちを和ませようと配慮してくださるお気持ちが温かい。
前日から福島入りしていたミュージシャンの渡辺さんが
「今日も歌わせてもらおうかなぁ~。」と立ち上がってギターを持つ。
向かいのご婦人が私に言う。
「すごくいい歌でさ、感動するよ。昨日、私ら、泣いちゃったもんなぁ。」
カフェを運営しておられる牧師先生方が大きく頷きながら
おどけた身振りで涙拭き用ティッシュの大箱を各テーブルに配り始めるので
また大爆笑。
渡辺さんのギターの弦が弾かれた途端、皆の心がしんとする。
≪父の日 母の日≫
お母さん有難う 尊い命を
お父さん有難う 大きな愛を
私を父と母の子供にしたのは神さまです
お母さん 言うこと聞かずにごめんね
お父さん 生意気ばかりでした
お母さん ガミガミ小言がうるさい
お父さん 少しは分かって欲しい
それでも 父と母の子供にしたのは神さまです
お母さん どんなに心配かけたろう
お父さん たくさん叱られました
お母さん有難う もう一度言います
お父さん有難う 言葉にできない
曲が終わった。
最初に涙拭き用ティッシュの箱に手を伸ばしたのは私だった。
皆さんがそれを見て大きく泣き笑いする。
「ほら、やっぱり泣いたな~」
向かいのご婦人が潤んだ温かい目で私をからかう。
私はもう我慢できずに隣のご婦人の肩に顔をつけておいおい泣いてしまう。
「な、泣いてしまうだろ?この歌聞いたとき、
私は嫁にいく時に送り出してくれた母さんのこと思い出すよ。」
母と同世代であろうその方はそう言いながら、
まるで子どもにするように優しく私の頭を撫でてくださった。
それからしばらくの間、その方と話す。
お嫁に来た時の話やら、お義母さまとの事、初めて夫婦喧嘩した話やら。
失った家での幾つもの思い出を語ってくださるままにお聞きした。
「あんた、結婚してるの? そう、子どももいるの?
結婚はいいことばかりじゃないけどねえ。我慢するも、我慢しないも大事さ。」
私たちは頷き合いながら大笑いする。
でも…
私たちは話題の中心になっていたご主人が無事かどうかには触れない。
震災を生き抜いて一緒にこの仮設で暮らしておられるのかどうか。
私たちはそれには一切触れずに笑い合った…。
それが、私たちが出逢った初めての日。
仮設住宅からの帰路に高速から見た夕日 PHOTO HIDE
瓦礫の中に凛と立つ 祈る葦たち
あのひとは 彼らをそう呼ぶ
祈る葦たちは内なる声に聞き 日々を生きる
捕れた秋刀魚を開き
味醂に付けて一夜を待つ
一夜を待ち 一日を生きる
いつのまにか冷えるようになった夕暮れの頃
葦たちは店を閉めて住家である仮設に帰る
そこで温かい魚汁をすすり
不器用な仕草で愛し合う
とっぷり暮れた秋の夜
濃藍に浮かび上がる山並みのシルエット
そして その向こうの海のうえには 丸い丸い月
PHOTO 山本てつや
✿14時40分になりました。
状況の許される方はご一緒に心合わせ祈りましょう。