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 「私の精子でぼろ儲けしたのです」 97人の子が誕生 33歳白人男性の精子はなぜ「大人気」だったのか

生殖補助医療が進んでいる。学生時代に精子バンクに精子を提供していたディラン・ストーン=ミラー(33/以下、敬称略)には、彼の精子で生まれた子どもが97人以上いるという。子どもがいることを知ってから、ディランの人生は一変した。一体、何が起こったのか。

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■「子どもを授けてくれてありがとう」

 2020年10月のある日、新しい職場の初日だった。

 コロナ禍で、ディランはマスクをつけてオフィスに入り、新しい同僚やクライアントに挨拶をした。30分ほど経った頃、インスタグラムに、まったく知らない女性からメッセージが届いた。

“I want to thank you for the gift of the children.(子どもを授けてくれてありがとう)”

 一瞬戸惑ったが、すぐに意味がわかった。スマホで彼女のプロフィルをタップすると、自分とよく似た女の子の写真が出てきたのだ。

「見た瞬間、自分の子だとわかりました。その瞬間気持ちが込みあがってきて、涙が出そうになりましたが、新しい職場の初日で涙を流すと奇人と思われるので必死に涙をこらえ、平静を保ちました」

■自分の精子で子どもを産んだ40人の母親たち

 午後、ディランは彼女にメッセージを送った。すると、彼女は「40人の母親」と連絡を取り合っていることがわかった。その40人は全員、ディランの精子を使って子どもを作ったという。

 ディランは精子提供の際、〈オープンID〉を選んでいた。子どもの出自を知る権利を尊重したためだ。

「最初の子どもが18歳になるまで、つまりあと10年間は連絡が来ないと思っていました」

 なぜ、予想より早く連絡があったのか。ディランは、その女性にどうやって自分を追跡したのか聞いた。すると、精子バンクから提供された数少ない情報からたどったという。ファーストネーム、出身都市、両親の仕事だ。

ディランの父親は犯罪心理学者で、アトランタでその専門家をリサーチすると、父親の写真が見つかった。女性はその父の目を見て、精子提供者はその息子だろうと認識したという。フェイスブックで父親を見つけると、そこにディランもつながっていた。女性は、ディランのインスタグラムを数カ月フォローしていたという。

「私の精子でぼろ儲けしたのです」 97人の子が誕生 33歳白人男性の精子はなぜ「大人気」だったのか

「私の精子でぼろ儲けしたのです」 97人の子が誕生 33歳白人男性の精子はなぜ「大人気」だったのか© AERA dot. 提供

「遺伝子検査はしていませんが、誰が見ても私の子どもだと思うでしょう。とても似ているのですから」

 女の子の写真を見て、ディランは血族関係特有の親近感だけではなく、プライドさえ感じた、と語る。

「まるで自分自身を別の次元で見ているような気持ちでした」

■精子バンクは「ぼろ儲け」

 精子提供者としてディランを選んだオーストラリアの母親が、2017年にフェイスブックグループを作った。現在、そのグループに47人の母親が参加しており、グループに参加する条件は「ディランが精子提供者であること」。参加の際にはディランに関する情報について、口頭テストが行われる。

 昨年12月12日の時点で、ディランの精子を使って誕生した子どもの数は92人とザイテックスから知らされたが、報告されていない子どもが5人いることがわかり、実際把握できているのは97人だ。

「精子バンクに子どもの誕生を報告するのは40%程度といわれているので、実際は200人を優に超えているかもしれません。ザイテックスは私の精子でぼろ儲けをしたのです」

 ディランは1回の提供で100ドルを受け取ったが、提供した精子は5~8個のバイアル瓶に分けられる。精子バンクから購入する側は、そのバイアル瓶1つに5千ドルから1万6千ドルを払うのだから、ぼろ儲けと言われても仕方ないだろう。

■精子が大人気だった理由とは

 なぜ、ディランの精子はそこまで人気があるのか。

「自分の精子を買った人に聞いたことがありますが、人それぞれでした」

 両親が博士号を持っていることを理由に挙げた人もいれば、血の半分がユダヤ系であることを理由に挙げる人もいた。またサッカーをしていたことや楽器を弾くことを理由に挙げる人もいた。健康である証明書を持っている人が限られていることを理由に挙げる人もいた。

 ザイテックスでドナーのリクルーターを担当するローレイン・オケリー氏は、選ばれるドナーの特性についてこう回答した。

■理系の男性が好まれる

「physical characteristics(身体特性)については、自分の兄弟などに男性がいる場合は、その男性に似た人を選ぶ傾向があります。家族に男性がいない場合は、外見が自分の好みの男性や、子どもにもそういう外見になってほしいと思う男性を選ぶ傾向があります。身長は180~190センチが最も好まれます。人種は自分と同じ人種を選びます。白人女性の場合は白人男性です。アジア系の女性の場合、白人男性を選ぶことも多いです」

 次いで、重要なポイントは“それまでのキャリア”だという。

「理系の男性が圧倒的に好まれます。プログラミングができるとか数学が得意であるとか。趣味も重要です。楽器を弾いているなど音楽の趣味がある人も好まれます。

 またhealth historyについて、他の条件が同じであれば、祖父母までの病歴が書かれているドナーが選ばれる傾向にあります。

 ですから、選ばれる基準として、重要な順序は、ドナーの外見、人種が同じくらい重要で、次にキャリア、趣味、病歴、ということになります」

 ディランは健康な白人男性で、両親ともに博士号を持ち、プログラマーだった。そして、間違いなく大人気のドナーだった。彼を超える人気ドナーがいる可能性があるが、彼は自身の子どもが100人近くいる、という現実に誠実に向き合おうとしている。

■子どもに父親のことを尋ねられ…

 冒頭の、ディランにインスタグラムでメッセージを送った女性には、娘が2人と息子が1人で、子どもが3人いる。なぜディランに連絡を取る必要があったのだろうか。

「彼女が自分の頭のいい、好奇心旺盛な子どもを育てるのに、遺伝上の父親としての私に関する情報が2ページ分しかないことが原因です。子どもに父親のことを尋ねられ、子どもの好奇心を満たすだけの情報がなかったと、本人から聞きました

■自分が誰かを理解してもらう

 自分の父親についての情報があまりに少ないのは、子どもにとってはよくないとディランは考えた。その女性から直接会ってほしいと言われて同意したのは、自分が誰であるのかを理解してもらうためだったという

 共通するDNAにより家族に自分自身を見ることを、遺伝子ミラーリング(genetic mirroring)という。ディランは、自分の子どもが自分に会うことが重要である理由は、まさにこの遺伝子ミラーリングゆえだと言う。

「母親が自分の子どもの行動に理解できない部分があっても、私の行動を見ることで双方向に納得がいく。子どもも私と会うことで、自分の考えや行動がノーマルだと思えるのです」

 intentional parents(努力して親になろうとしてなった親)の場合、子どもができるまでに何万ドルも使っていることが多い。シングルマザーやレズビアンカップルの場合、自然に任せても子どもはできない。

「intentional parentsの子どもに対する愛情は、非常に強いと私は感じます」

■子どもへの道義的責任を果たしたい

 ディランはすでに26人の子どもに直接会った。

 最初の子どもと会ったのは、インスタグラムでメッセージをもらってから半年後、2021年3月のことだ。会う前にフレンドシップと信頼関係を築くべく、オンラインで何回も話し、お互いの気持ちが「直接会う」と一致した時点で会った。

「会う前は、母親や子どもの期待に応えられるかどうか、プレッシャーを感じすぎて精神的に消耗してしまいました」

 だが、実際に会うとその疲れは瞬間に吹き飛んだ。「パワフルでビューティフル」と表現するほど、感動的な瞬間だったからだ。すでに前から知っているような感覚になり、すぐにお互いを理解することができたと感じた。

 子どもに対して、道義的な責任を果たしたい――。彼は、父親としての責任を果たすため、仕事を辞める決断をする。

(ジャーナリスト・大野和基)

▼「生殖補助医療は進歩している」と言っていいのでしょうね?「子どもに対して道義的責任を果たしたい」どのように責任を果たすのか?せめて、子どもとは定期的に会うようにするのだろうか?それで果たせるのだろうか?仕事さえやめてその責任を果たそうとしているのだろう。これからも悩み続けることになるんでしょうね。そして、子どももまた悩み続けることになるんでしょう。どう考えるのか?非常に難しい問題ですね。