3月に米国の統合戦力軍(Joint Forces Command)が、"Joint Operating Environment 2010"なる資料を公開しました。

http://www.fas.org/man/eprint/joe2010.pdf

26~29ページに"Peak Oil"に関する記載があります。

遂に、遂に、Peak Oil を戦略・戦術・作戦を立案するにあたって考慮する、と米軍が公に発言しました。

この資料は毎日新聞でも取り上げられています。

毎日新聞(朝刊) 5月5日(水) 3面
「水説 グリーン化進める米軍」

執筆者の同紙編集委員潮田道夫氏はここでピークオイルについて明確に記述していますが、見出しには「ピークオイル」と出てこず、「グリーン化」という違う概念を持ち出しています。こういう細かいところに、表立ってピークオイルについて扱いたがらない既存メディアの態度がにじみ出ています。

F/A-18の試験飛行が実施されたと、4月26日(月)の日経朝刊7面に載りました。

「バイオ燃料 米軍が導入 - 戦闘機で音速飛行試験成功」

「音速飛行」とありますが、亜音速なのか、遷音速なのか、ぎりぎり超音速なのか、この記事だとはっきりわかりません。

このブログ上で以前書きましたが、米軍部はピークオイル対策としての脱石油化に向け具体的に努力しています。その一端が1月29日に公開されたQDR(4年に1回ペンタゴンが国防政策を見直した結果の報告書)にも記載されています。

http://www.defense.gov/QDR/QDR%20as%20of%2029JAN10%201600.pdf

PDFファイルの後ろから18番目ないし19番目のページ(ページ番号87-88)に、F/A-18が菜種油由来の燃料でエンジンを試験していることが書かれています。明確にそう書いていませんが、おそらく菜種油から作ったジェット燃料と石油由来のジェット燃料を半分ずつ混ぜたものを試験しているのだろうと私は思います。

同じページに、強襲揚陸艦1隻がガスタービン・電動モーターハイブリッド推進式に改造されたことが書かれていますが、少しずつ米海軍が脱石油化に向けて実験を進めていることが伺えますね。

週刊ダイヤモンド 2009年12月26日・2010年1月2日 新年合併号 に「地球 環境ビジネスの潮流」と題された特別抗告企画のページがあります。

198ページに、ピークオイルについてもろに掲載されています。

掲載されているのは Association for the Study of Peak Oil & Gas (ASPO) の"2007 Base Case"ですよ。ASPOのbase case を日本のメディアが定期刊行物上で取り上げるのを見たのは、私は初めてです。

どうも、日経といい、週刊ダイヤモンドといい、2009年12月に国際エネルギー機関が発表したWorld Energy Outlookに刺激されているように私には思えます。

本日の日経朝刊27面にビル・エモット氏の投稿が掲載されています。氏の発言という形をとって、ピークオイルが正面から日経紙上で取り上げられました。

2007年11月10日の#373から進展して、ようやく明確に取り上げられるようになりました。

日経だけではないのかもしれませんね。大手メディアの路線転換は。

はっきり言っておきますが、北海油田はとっくにピークを過ぎてますからね。イギリス人はピークオイルを実感しています。この問題については、イギリス人の発言を軽く見ない方がいいですよ。

昨年の9月には、同じく International Herald Tribune 紙上で、メキシコ市で起こった停電が報じられました。

記事はメキシコ市民の抗議運動に関する記述が中心で、停電の詳しい原因については書いてなかったのですが、私から見ると2点挙げたくなりますね。

(1) 火力発電所への燃料供給がどうなったか
(2) 火力発電所を維持整備する公的資金がどうなったか

メキシコの電力事業が公営かどうか存じませんが、公営だとしたら、国営石油公社の不振によって(2)が起こり得ますね。

同時に(1)も起こり得ますね。国産の燃料供給源に制約が生じるわけですから。

まだ確証はありませんが、この停電騒ぎもメキシコ油田減退が背後にあると私は想定しています。


もし私の想定が正しいとすると、このまま油田減退が続くとともに国家財政は危機に瀕し、市民生活へのエネルギー供給が脅かされ生活水準の低下が起こるだろうと考えます。

ますます多くのメキシコ人が麻薬組織に協力するようになる可能性があります。生き延びるために非合法組織に身を投じる者が増える可能性がある、というわけです。

こう考えると、アメリカ諜報機関がメキシコを安全保障上の懸念として取り上げたことを素直に理解できますね。

この10カ月ほど、International Herald Tribune なる日刊紙を毎日買っています。New York Times のアメリカ国外版です。記事は概ね New York Times とかぶっています。

今年の4月に、「アメリカの諜報機関が、米国の次なる安全保障上の懸案となる可能性としてメキシコを取り上げた」という内容の記事が載りました。

その後、メキシコの麻薬密輸組織がメキシコ治安維持機構(軍・警察)と争う様子が度々報道されるようになりました。報道の頻度は次第に上がってきています。

麻薬に絡んだ報道を細かく読んでいくと、ミャンマーとメキシコ両国の麻薬密輸組織のつながりが報じられるのに気付いたり、コロンビアにアメリカが介入していることがどうも関連しているらしいことがだんだん推定できるようになってきたりします。

世界のいろいろな地域から、麻薬がメキシコを経由してアメリカへ密輸されると思われるわけです。(もちろん、メキシコ国内で生産されている麻薬でアメリカに密輸されているものもあると考えられます) そしてその組織の活動が以前よりも活発になってきていることが、報道されている範囲の情報だけからでもある程度見当がつきます。

個人的な意見ですが、こういう動向は、「石油輸出国から輸入国への転落の道をメキシコが歩み始めた」間接的な証拠だと私は考えています。正業で富を稼ぎ出す能力が落ちてきていることが背景にあるに違いない、と考えています。

この5年ほど、メキシコは産油量が毎年減少し続けています。

ピークアウトしてしまったのです。

石油産業の専門家は色々今後の開発計画について述べますが、経験則から言うと、いったん下がり始めたら、そのピーク産出量を復活することはまずありません。どんどん下がり、長い時間かけてゼロへと近づいていきます。

人間は開発しやすいおいしい油田を先に開発してしまうのです。残されたものは開発しにくい、単位時間当たりの産出量がそれ以前より劣るものばかりなのが普通です。

メキシコはこれから大変です。決して豊かな経済社会とは言えません。おまけに国家歳入の4割を石油公社からの納付に頼っていたのです。国家財政に穴が開きつつあるわけです。

(独)石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)ウェブサイトに良い資料が載っています。

http://oilgas-info.jogmec.go.jp/report.pl?baitai=2

の19.です。(12月29日現在で。番号は随時変わります) 2009年5月号の記事です。

このまま行くと、2010年代半ば以降に危機が来る可能性が高いですね。

今年はエルニーニョが強力で、世界第2位の砂糖生産国(かつ第1位の消費国)インドが1972年以来の強烈な旱魃に見舞われ砂糖は大減産、普段は輸出国なのですが一気に輸入国になりました。

世界最大の生産国ブラジルも8~11月に長雨が続き、不作です。

あまりニュースになりませんが、メキシコやロシアも不作のようです。

規模が小さくて全世界的な影響はありませんが、北海道の甜菜も不作気味です。東日本は今年の夏は涼しかったですね。あれはエルニーニョのせいなわけです。雨が多く根菜類はやられました。

というわけで、砂糖が高騰しつつあります。

ということは... エタノールも上がるってことでしょうね。来年の前半は。

本ブログとして現時点で挙げる来年の注目点は、砂糖とイラン情勢ですね。

もう少し長い目で見るとメキシコですね。しばらくメキシコについて書こうと思います。