先日の千葉地裁で行われた裁判の報告です。

 被告は石田雅裕氏。問題となった「しのだの森ホスピタル」には平成23年4月から平成27年11月まで勤務していました。(現在も現役の精神科医として他の医療機関に勤務しています)。

 原告はみゆきさん(水中毒にて他病院にてすでに死亡)のご両親。

 主治医であった石田医師の「治療」への疑問からの損害賠償訴訟です。具体的には、「違法の隔離拘束」「暴行」「薬の大量投与に関する過失」です。

 被告原告の代理人と裁判官による質問が1時間以上にわたって続きましたが、その中で、思わず笑ってしまうような返答や首を大きく傾げたくなるような返答が多々ありました。

 みゆきさんは石田医師にかかる前の医師によって「軽度知的障害」と「気分変調症」「パーソナリティ障害」という3つの診断がつけられ、紹介状にもその3つが明記されていました。石田医師も

「私も同様」と言い(その理由を石田氏は、紹介状を書いた前医の〇〇先生は有名な方なので、その方の診断なら間違いないだろうと思って、と言っています)、にもかかわらず、カルテにはパーソナリティ障害の診断名の記載がなく、裁判長はそこに大きな疑問を抱いているようでした。

それに対する石田医師の回答。

「パーソナリティ障害という診断は16パーセントしか告知しないという現実があります」と答えていますが、それはカルテに記載がないことの返事にはなっていません。

「ではなぜパーソナリティ障害と考えたのか? 診断基準に当てはめて診断したのか?」

「もちろんです!」

「どのような診断基準なのですか。DSMとかあると思うのですが、みゆきさんのどこがそれに当てはまったのかお答えください」

そういわれると、石田医師は薄く笑い「もちろん、DSMですね、今は5ですが、当時は4でしたけど(と知っていることをあえて強調し)、あんな膨大な診断基準を今ここで言えと言われても、言えるわけないじゃないですか」

そうしたやり取りの中で、被告弁護側が慌てて調べて、DSMではなくICDの診断基準を引っ張り出してきて、それを証言席で石田医師が読み上げるという一幕もありました。

その後石田医師は「私は20数年の精神科医の経験から、診断しました」と胸をはったのです。(診断は要するに医師の匙加減)。

また、処方に関しても(私はご両親から石田医師の処方内容を見せてもらっていますが、抗精神病薬をとっかえひっかえ、一気に変薬したり、一気に減らしたり、ベンゾ系も複数処方と、かなり乱暴な処方です)、石田医師は抗精神病薬に関して、みゆきさんに副作用の症状が出たかという質問に、

「ありません!」と断言しました。

 しかし、CP換算で見ると、なんとCP換算値3100㎎の時期があります。(CP300~CP600くらいが適正と言われています(これでも多いと思います))。

 それに対する石田医師の答え。

「CP換算はあくまでも内服量の目安でしかありません!」(石田医師の言葉に「!」をつけるのは、実際このようになんでも断言するのです。)

 目安でしかありませんて……だから、CP3000は目安として多いということを示しているという話のはずですが、それに関して彼はまったく触れませんでした。それにCP3000も抗精神病薬を出しておいて、副作用はなかったって、本当でしょうか。

 暴行に関する質問はこうです。

 暴行があったのは平成27年10月14日。(石田医師はこの数週間後の11月にこの病院を去っています)。

 原告側の主張は「顔面を素手で数回殴打し、腹部をこぶしで殴打し、足で蹴った」。

しかし、被告側の言い分は「医師である石田氏がスタッフ等のいる状況で、そのような暴行行為をするはずがなく、行う動機もない」と当然のことながら全否定です。

 しかし、石田医師とみゆきさんがこのとき「つかみ合い」になったのは事実であり(経過記録に書かれている)、石田医師より口から出血があるため確認するよう指示があったことも明記されています。が、これも石田医師としては、「単純な歯間出血」(歯槽膿漏の可能性も)という主張です。

 このあたりの事実はお互いの主張のみで証拠がないためはっきりしませんが、このことが起きた数日後の両親と石田医師とのやり取り(その場面は録音されており、それによると)石田医師はこう得意げに語っています。

「あなた方(ご両親)の代わりに二十数発殴ってきたのは私ですからねえ」

 裁判において、それに対する石田医師の弁明は、

「これは言葉のアヤですよ。ご両親がみゆきさんをあまりにも甘やかしすぎていると思って、これが問題だと思って、こういう言い方をしてしまっただけです」 

 さらに再び処方に関して。

「適応外処方をしたことは?」

「ありません!」

 とまたもや断言。しかし、抗精神病薬をCP換算3000㎎も処方していい診断名はみゆきさんにはついていません。知的障害にも気分変調症にもパーソナリティ障害にも、そもそも抗精神病薬は適応外です。それに、統合失調症に対してもCP換算3000は決して胸をはれる処方ではないはずですが……。

 石田医師はこう言いました。

「抗精神病薬は人間を穏やかにさせる薬です。落ち着かせたり、不眠を治したり。どんな病気にも使いますよ。うつ病にも。癌にでも使いますよ」

 また、石田医師は「支持的精神療法」を行っていたと言っています(裁判長によるとカルテには書かれていないそうです)、裁判長からそれはどういう精神療法か問われたときには、

「早くよくなって幸せになろうねって言っていました」

 思わず、噴き出してしまいました(裁判中なので小さな声で)。ふーん、こういうのを支持的精神療法というんだ。

 

 また、みゆきさんが太りすぎであることから(これは抗精神病薬の副作用の可能性大ですが、この医師にはそういう考え方は一切ありません)、トレーニングをさせていたそうですが、カルテに「闘魂注入」と書かれています。

 これはアントニオ猪木の言葉らしいですが、石田医師いわく

「インチキしながらトレーニングやっているから、もうちょっと一生懸命やってほしかったから、書きました。ふざけてですけど」

「ふざけて?」と裁判長がすぐさま反応。

 あなたはふざけてカルテを書いているのですか?と言いたかったのでしょう。

 裁判長は石田医師のカルテに不信感を抱いている様子でもありました。「闘魂注入」の話題以前に、こういう質問もしています。

「先生はカルテをどういう目的で書かれていますか?」

「どういうって。後で見て思い出せるように、書いています」

「他のスタッフが見てもわかるように書いていますか」

「うーん、そういうことより、自分で後でみて思い出せるように」

「では、備忘録みたいなものですか?」

「そうですね」

「先生はカルテにはあまり詳細を記載しないタイプ?」

「若干、そういうところがあるかもしれませんね」

 

 被告側の意見書は、山田和夫という医師が書いています。その医師が意見書の中で、みゆきさんの状態を「情緒不安定パーソナリティ障害(境界性パーソナリティ障害)で、しかも最重症」とし(診察したこともないにもかかわらず。エビデンスを示すでもなく)、それに沿って石田医師の「治療」を肯定していくのです。

「最重症な情緒不安定性パーソナリティ障害(境界性パーソナリティ障害)」であれば、精神科病院入院にも適応せず断られ……。石田医師がこれだけの量の処方をせざるを得なかったのは、それだけ当時のみゆきさんの症状が重かったということです」と記しています。

 確かにみゆきさんにはスタッフの胸に指したペンをとりあげ自分の首に刺そうとしたり、壁を叩いたり、壁紙をはがしたりという行為がありました。

 そこで山田和夫氏の意見書ではこうなります。

「情緒不安定性パーソナリティ障害等の患者について、その激しい衝動性を抑え危機介入できる唯一の方法は、隔離(症状がさらに激しい場合は拘束)と薬物療法であり、この二つ以外に衝動性を抑制することは不可能である。」

 つまり、不穏で自傷他害の恐れがあり、衝動的な患者には、隔離しても縛っても、CP換算3000㎎の抗精神病薬を処方してもOKよ、といっているのです。だって、それしか方法がないのだからと。

 しかし、境界性パーソナリティ障害(ボーダー)(DSMの診断名)・情緒不安定性パーソナリティ障害、と診断された方で、ベンゾ(ソラナックス)をしこたま処方されていた人がいます。脱抑制を起こした結果のボーダーという診断です。

 みゆきさんにも抗精神病薬に限らず、ベンゾ系の薬が大量に処方されており、その結果としての情緒不安定性パーソナリティ障害の可能性もあるはずですが、「精神医療」ではそういう観点から症状を見ることは一切ありません。

 つまり薬の調整を上手に行えば、不穏等の症状は消失した可能性もあるはずですが、隔離・拘束、薬物治療以外ないと断定する医療である限り、精神医療で救われる人はいないように思います。

 山田医師の意見書では「情緒不安定性パーソナリティ障害」が強調されていますが、最初にも書いた通り、被告病院では一度も「情緒不安定性パーソナリティ障害」とは診断しておらず、したがって、その対応もしていないのです。(スタッフのペンをとる行為が続くのだとしたら、ペンを持ち込まなければいいわけですが、そういう対応を一切とっていません。)

 その点が大きな矛盾点で、裁判長もこの診断名がカルテのどこにも書かれていないことに疑問を感じている様子でした。

 そもそも石田医師の主張は、山田医師の意見書に沿ってなされたものです。

「パーソナリティ障害と告知するのは16パーセント」という数字も山田医師の意見書に書かれていたから述べたまでのこと。

 原告側の意見書を書いた越智医師(詳細は書面の資料しか手元になく現段階で不明ですが)も意見書の冒頭にこう記しています。

「先ず、構造的な問題として、本件の当事者である石田医師も被告病院も弁護士も、斯界の重鎮である山田医師の、本件にあまり直接関係はしない肩書や著作が長く羅列され権威性が強調された意見書に、全面的に従い、その通りでございますと演繹的に祖述する構造となっている。」

 要するに、自分の治療の説明ができない石田医師は、山田医師が説明してくれた論旨をそのまま頂戴して、それを裁判で証言しているだけのことです。

 

 何とも無茶苦茶な印象の医師で、裁判では、そのお人柄がしのばれましたが、そのことと判決は直結しません。

 裁判はまだ続きます。