夢か現か幻か

私の愛するhydeさんが、私たちが待つ部屋にキックボードで入ってきた





完全にビビった腸の住人が引きこもった事を確認した私は

お疲れ~っす

と言いながら入ってきたhydeさんに心の中で

お前や!とツッコミ、会話に耳を傾ける





なんでそんなのに乗ってるんですか(笑)

と聞いた英孝に、さすがの私もイラっとした

オイオイ英孝よ

お前にはそれがキックボードにみえているのか?

私は残念でならないぞ

私には白馬にしかみえない

hydeさん・・・いや・・・hyde様の乗り物は全て白馬なのだ

車に乗ってもそれは白馬だし、自転車だってそうだ

デパートのカゴを乗せて押すヤツだって例外ではない、またがりこそしないが、白馬を押しているようなものなのだ

hydeさんは白馬をドウドウと言わんばかりに停め、英孝の問いに答える






ここ広いんだよ~





そう笑いながら答えたhydeさんからは

お風呂上がりというかスイミング終わりというか

いい感じの脱力感や達成感が香る、しっとりとした空気が流れて来た





ずっと立ったままの我々に、hydeさんは

どうぞどうぞ座って

と声をかけてくれる





優しいな~

と思い、ソファーに腰掛けさせてもらうと

なんとここでハプニングが






みんな座らないではないか






今日のすばらしいライブを届けてくれた、その空間で一番疲れている、一番の主役を差し置いて座る事などできない

そういう発想からなのか、誰も座ろうとしない

マズイ

このままでは完全に

英孝よりも空気が読めないBoyのレッテルが貼られてしまう

バレないように立とうと思った瞬間






hydeさんは地べたに座り出した






なんて気を使ってくれる人なのだろう

誰も座らないから、みんなが座り易いように、自分がまず座ってくれたのだ

しかも

もうそんなんええやん、楽にいこうや

というスタンスである事を見せるためにわざわざ地べたに座ってくれたのだ

それによって当然みんな座り、先に座っていた私は事無きを得た






しかし神憑っている

神々しい

座りながら色んな話をしてくれるhydeさんは本当に気さくに話てくれるのに、雰囲気が神憑っているのだ

しばらく談笑にふけっていたのだが、そうもしていられない

我々には目標がある





そう





写真を撮ってもらうのだ

しかも、それは英孝との目標であって、私は他に二つ目標を用意していた

それは

hydeさんにツッコム事と

覚えてもらう事だ





現に

覚えてもらう為に、VAMPSライブの時と同じエヴァTシャツを着て来ている

そこで、チャンスがあったらVAMPSライブの時も打ち上げに呼んで頂きまして、それでですね、その時このTシャツからエヴァの話になりまして・・・と言おうと思っていたのだ

そう言っておいたら次はきっと覚えて下さるに違いない

まあエヴァの話といってもhydeさんが私のTシャツを見て

エヴァじゃん

と言って下さっただけなのだが、それはそれでエヴァの話である事に違いはない

ともあれ、私はチャンスを待った






どれだ






まずはツッコム所から入るのがベストだろう

いきなり実はこないだVAMPSのと言い出しても嫌われるだけだ

現に私はそういうヤツが好きではない






こい






ボケろ






ボケろhyde






いやhydeさん






するとチャンスは意外にあっさり訪れた

hydeさんが中島美嘉さんサイドと我々の距離感をいじってきたのである






なんかここすげえ壁あるね(笑)







きた!

チャンスだ!





いやスゴイ打ち解けたんですよ~

と中島さんのマネージャーさんも言っている






そうですよ~、ここにATフィールドないですよ~






完璧だ

ワード、間、セリフのスピード、全てが完全にハマった






hydeさんは僕の方を見て笑ってくれた

長年ツッコミをやってて良かった

お笑いを始めてからツッコミの人のツッコミは見ず、ボケの人がするツッコミを見てきてよかった






ソレデイイノカ?






ん?

誰だ?

お前は!!!






そこにいたのはもう一人の自分だった






ヨカッタナ~アコガレノhydeサンニツッコメテ

ナンノ毒モナイツッコミガ出来テ良カッタジャナイカ






なんやと!!!これでも勇気を振り絞って・・・






アハハ!ダカラ褒メテイルデハナイカ

アハハハハ!






・・・・・






ヤッタル






そうだ

こんな知ってる単語をハメにいっただけの笑ないど私には似合わぬ

もっともっとだ







皆が談笑にふけっている間、私がこんな精神状態にあった等だれも気付いていなかっただろう

そうだ

これは自分との戦いなのだ







皆の笑い声が少し遠くに聞こえた













闇にいたのは確実に怪物ではなかった

無数のサイリウムが揺れ動き我々を挑発する

まるでジブリの世界だ

美しい





そしてその瞬間が訪れた

美しき光からの大歓声

現れたのはそう

我らがL'Arc-en-Cielだ






ライブのレポを詳しく書きたい所なのだが、ネタバレするといけないのでやめておく

ただ言えるのは、もの凄くかっこ良かったという事だけだ






ライブが終わり、興奮冷めやらぬまま部屋の灯りが点いた

その頃には自然と中島さんサイドの二人と話せるようになっていた

もう友達だ

二度と私の事を加勢なんて呼ばせない

ムラヤマさんと呼んでもらおう

そして私はミカと呼ぶのだ

ミカッペでもよい

ミカ黄門でもいい






暗闇を体験する事によって親近感が増した我々ミカ黄門の一行は楽しく話をした

しばらくしたらhyde様が訪ねてきて下さる

私のようなカビの生えたパンのような人間にだ

ああ、hyde様hyde様hyde様

さっきまであそこで歌っていらしたhyde様に会えるのだ

私は体調を整えようと思い、トイレに行く事にした






実はライブの途中から便意がもよおしていたのだ

前日酒を呑んでいたため、朝から腹を下していた私は、便所に行きたかったが、ライブの途中だった為我慢していたのだ

しかし、ライブも終わり、あとはhyde様が来るだけとなった今、もうこの苦しみから解放されてもいだろう

そう考えた私は、会話の切れ目でトイレに立とうとした



切れ目がない






仲良くなって調子に乗った英孝が、ガンガン話している

英孝独特の可愛げが、ちょうどあちらのマネージャーさんにハマり、ウケまくっているのだ






なんてこった






こんな所で絶好調もってくるなよ

もっと持ってくるなら舞台とかテレビで持ってくるべきじゃないか






私は腹を抱えて笑う三人の中で、一人腹を抱えていた

勿論ちゃんとツッコンだり、ボケたりしながらだ






やばい






『なんでやねん!』

長年言い慣れたセリフが重い

言った瞬間高級な部屋に花が咲きそうだ

いや

言ってしまうと、うんこがもれて鼻が裂きそうだ

そんなウマい事をいってる余裕もなく、いよいよヤバいと言う時だった

ついに会話が途切れた

チャンスだと思って席を立とうとしたその瞬間






ああ






中島さんがトイレに






なんという事だ

プライベートトイレの弊害だ





おトイレ迷子となった私は路頭に迷った





そうだ

何か違う事を考えよう






私の前世はおそらくロンドンの靴磨きの少年で、昼は靴を磨き、夜は泥棒をする小悪党だったと思う

そしてある日入った金持ちの家でとうとう捕まり、地下室に監禁される

地下室で私は毎日少量の水とパンを与えられ、洗脳されていく

『オマエは共産主義の為に戦うのだ』

洗脳された私は思わずこう言ってしまう

『うんこしてええええええええ』





そう

私はうんこがしたかった






腹の中を見ず知らずのオヤジが大暴れしている

そして私にこう訪ねるのだ

『へいボーイ、うんこしたいのかい?』

私はこう答える

『オフコース』





そう

私はうんこがしたかったのだ

そういった事を考えてるウチに、中島さんがトイレから出て来た

よかった、これでこの生き地獄から解放される

大暴れしていたオヤジが、奥さんに怒られてシュンとしている

怒られているオヤジを尻目に(尻をかけているわけではない)私はトイレに行く事にする






しかしまて

女性が出てすぐのトイレに行くなんて、少々デリカシーに欠けるのではないのか?

しかも有名人の後だ

良いニオイがしても悪いニオイがしても複雑だ

さすがに今は行きにくいと思っていた矢先

今度は中島さんのマネージャーさんが行った






ぐうう

苦しい

苦しいよお






私の腹の中で少年が嘆いている







『どうして?どうして早く僕を外に出してくれないの?』

ちょっと待て

出したいのは山々なのだが

私はデリカシーというものに負けたのだ



『でも早く出してくれないと、勝手にでちゃってもっとデリカシーの無い事になっちゃうよ』

待て待て早まるな

勝手に出るという行為だけは勘弁してくれ

オマエは外で元気に遊べるから良いかも知れん

でもな少年

今君が元気を見せたら私は全国民から『うんこの民』と呼ばれかねん、君もお兄さんが『うんこの民』と呼ばれるは嫌だろ?もう少し我慢しなさい



『え?うんこ?それは・・・僕の事かい?』

まちなさい、まちなさい少年

今君の事をうんこと言った事は謝ろう、悪かった

そうだな、なんて呼べばいい?ん?



『魚、魚ってよんでよ』

魚!?なんでだ?なんで魚なんだ?

まあいい

そう呼ぼう、君の事を魚と呼ばせて貰おう

だからだな、今君が無邪気に飛び出したら私は全国民から『魚民』と・・・む、少年計ったな



『てへ、おじさん簡単に僕の作戦にハマっちゃうんだもん』

こら、大人をからかうんじゃない

等と、お腹の坊やと話をしていたら、トイレからマネージャーさんが出て来た







これでようやくトイレに行けると思った瞬間だった






ガタッとドアが開き

キックボードで気さくに現れた人物がいた






それが僕らのヒーロー







hyde様だった












そこには恐怖と興奮が混在していた







係の人の手によって、一気にアマテラスオオミカミもびっくりの暗さにされてしまった我々四人の部屋には、二つのタバコの火と、闇に溶ける何かがうごめいていた

人は何かわからないものに遭遇すると、恐怖を感じるというが、まさにそれである







暗闇の中

軽く興奮気味に会話をする中島美嘉さんサイドの二人

こういう時女は度胸がある

じっとそれをみていると、タバコの火が火の玉のように見え、会話をしているようで怖い

黄泉の国からやってきた火の玉にしては少々テンションが高い気はしたが、それでもあたかもその火の玉が話しているようだった

ドラクエの祠でよくみるアレである







その光景に恐れおののいた私は、隣にいるロン毛の正義の味方に助けを求める事にした

『すげえ真っ暗やな~』とロン毛マンに、その一言を言おうと英孝の方をみたら、彼は携帯をいじっていた為に暗闇に顔が浮いている状態だった

見慣れた人の顔が宙に浮いているのだ

目の前の火の玉等比では無い恐ろしさである






火の玉二つと顔一つが浮いた空間で

身内に足下を救われる格好となった私はその闇に溶ける決意をした

出来るだけ息を殺し、ひっそりと、存在を消し、今だけは生まれてこなかった事にする

初恋が私だったという人がいたら、初恋の年齢が少し遅れてしまうが、それもこの数十分の事なので許してほしい

いや、初恋の人がこんなに大ピンチに陥っているのだ、許してくれて当然と言える

それどころか助けに来て欲しい

今助けに来てくれたら君の初恋は成就した事にしてやってもよい

二人でオセロをした思い出なんかも追加してやってもよい

ザリガニを釣った事にしてもいいだろう

そんな事を思いながら、もう一度三人を見る






何を話しているのだろうか

狩野英孝はわかる、でもコイツ誰やねん

それが妥当かもしれない

ムラヤマと名乗ってはいるが、加勢大周じゃ・・・

そう思われているかもしれない

そう思われても仕方がない顔面をしているからだ

生まれるのが後五年早かったらモテモテだっただろう






しかしよくよく考えてみると

二人が話ているのが、悪口ではないかもしれない

中島美嘉さんが

『狩野さんと加勢さんどっちがタイプ?』

とマネージャーに聞いているかもしれないのだ

暗闇だからわからないだけで両手の人差し指で、私の乳首を指差しているかもしれない





そうだ

ここはポジティブに行ったっていい

さっき弱腰Tシャツを着て、弱腰カナブンを付けた少女に弱腰王国の王子として招き入れられたばっかりではないか

今こそ弱腰王国から亡命するチャンスである

弱腰王国の少女がそんなに積極的に他人の手をとってひっぱるかいささか疑問ではあるが、私はこれをチャンスとみて、積極的に話かける事にしてみた






『中島さんは~』

ん?

おかしい

やたらすんなり言えるぞ





そう

ネクラな私からすると暗闇はホームだったのだ

休日は電気もつけずにテレビの灯りだけで過ごすので、他人がみえていない方が話し易い






私がした質問にマネージャーさんものっかって来てくれる

『美嘉ちゃんは~』






英孝だって負けてない

『埼京線混んでました?』






俺だってそうさ

『乗るか!中島さんがsuicaチャージするか!!』






ありがとうマネージャーさん

『あははははははは』






中島さんも参戦だ

『私の車です』






このような会話で終始盛り上がった






よかった






ありがとう暗闇






今日全てが無事におわり、家についたら褒めてあげよう






ありがとう暗闇

君はなんて色黒なんだ








しばらく盛り上がっていた私たちは

そろそろ始まるという事で、プライベートビーチのような客席に出る事にした







暗闇から暗闇へ







でもそこは暗闇ではない







ファンの方達の熱で光輝く埼玉スーパーアリーナがそこにはあった










【ムラヤマ・J・サーシのHP】

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