マンガ・コースと重なる課題で
●人物二人の別の場所への行動を書いたら、次は短いエッセイを書いてもらいます。
「遅刻」というテーマで、自己の学校での体験を400字3~5枚で書く。
今度は、登校時の行動を書くと同時に、遅刻状況になっていく時の自分の心の内も
描写してみようということを指導します。人間心理の描写は小説には欠かせません。
物語を書くことにはまだ馴れていない生徒が大半ということを踏まえています。
これなら、まず誰にでも経験があるはず。あせる気持ち。堂々と遅れてくる学生も
多いが、しかし本当のところ自分は「遅刻」をどう考えたのか。
★マンガでは古くから<転校生物>という定番ジャンルがある。
エッセイが書けたら、次はフィクションをまじえ、遅刻の途中にトンでもない転校生や
美しい転校生に出合った~といったことで、さらに学校の教室でも二人が一緒になった
ら、どうなるか!?という<シュミレーション>することから、フィクションに馴れてもらう。
いささか古い設定の勉強ですが、マンガならば島本和彦の『燃える転校生』的なパロ
ディックなタッチで原作シナリオを書くのも、実質的なトレーニングになる。
●マンガ同人誌や小説同人誌の体験者だと,このようなものは書けると思う。
しかし、専門学校生徒にはそのような経験者はまれです。それで多少レベルを低めに
してトレーニングを始めています。その点ではイラスト・コースも同様。そこで、ここでは
「キャラクターの一日の行動を描く」といった課題で描いてもらう。
A・まず「自分」(学生・社会人など)の設定を決める。
B・自分の「家・住居」。そして「家族」(友人・一人暮らし・家族など)の状況を書く。
C・朝の行動(学校へ・会社へなど)
D・昼間・昼食(外出・出張・勤務など)
E・夜。帰宅して平服に戻る。(くつろいだ自分の時間・あるいは遊びに)
といったメリハリを中心に書いて(イラストなら、簡単なテキストと絵で描く)もらう。
★要は人間をどう描くかに尽きるのですが、「トレーニング」として、基礎的な描写力を
どう身に付けてもらうか、ということなのです。
それは文章でも絵でも、同じことなのではないでしょうか。
具体的に何を書くか?
●まず大衆文学のジャンルの確認を講義します。
ミステリー(本格・変格ーハードボイルドー捕物帳)
SF(ハード・サイエンスファンタジー・スペースオペラ・ナンセンス・幻想怪奇)
青春物(ラブストーリー・成長物語・学園物・スポーツ等)
社会派(サラリーマン・キャリアガール・企業物等)あるいは内幕物・芸能界物
歴史・時代劇。旅行紀行物・医学物などなど、ジャンルはきりが無い。
しかし、初心者にそれらがすぐ書けるはずもない。マンガの場合でもこれは
同じことだ。マンガ・コースでは、まず文字原稿で『遅刻』という課題で書いて
もらった。自己の体験である。そのうえで、フィクション・ストーリーの『遅刻』
をプロットで書く。さらにそれをシナリオのフォーマットに当てて書き直す。
こうすれば、物語を一度も書いたことが無い者でも、ある程度のレベルの
フィクションが書けてくるのです。
★小説コースでは<人物の「行動」を書く>という演習を試みた。
人物の内面描写に入る前に、登場人物を自由に動かす筆力がほしいと思った
からである。書きやすいように<例>として人物Aが東京から大阪へ行く~という
設定にした。
<推理>怪しい人物を刑事Aが(あるいは探偵A)が、大阪まで尾行する。
<SF>どのような新交通機関を利用するか。テレポートするのも可能だ。
<時代劇>江戸時代、徒歩・馬・駕籠など。
<紀行>鈍行各駅停車。長距離バス。ジェットとタクシー。
<恋愛>遠距離恋愛。恋人に会いに行く。
など、自分で設定をまず決めて、一人の人物でもいいから、その移動状況を
書いてみる。余裕があれば、人物Aの性格を加味して書く。
400字5枚内。初日には半分、書き方の講義をしたので、次週最終時間に
提出ということにした。
●この原稿を自宅で読むことになります。
採点等はせず、原稿書き・文字書きが出来ているかを見て、間違っている部分
について、コメントを付け、赤で校正して返却する。良く書けていた部分について
は、乾燥を書く。
この作業によって、生徒各人の実力がほぼ分かる。あとは、教室での会話を
通して、個性や性格的な特長を知るようにつとめる。だから、少人数だと大変に
やり易いし、適切な指導も行える。これが30人となったら、週一回の演習では
到底無理になるのです。
マンガ・コースで行ったものも<登校から遅刻>という課題エッセイとして書かせ
てみた。フィクションではないかたちである。3回目の課題については次回に~。
小説シナリオ・コースも兼務
●宇都宮の専門学校では昨年度から「小説シナリオ・コース」がスタート。
ぼくも<大衆文芸演習>を3時間担当することになったのです。
そのきっかけは、最初「現代詩」という科目を設けることを知ったからで
ある。ぼくは18歳の頃から「現代詩手帳」に投稿したり、長いこと同人誌
活動を行ってきた。現在は詩作からは離れていますが、<詩>の重要性
については、マンガ・コースの時間内でも、ことあるごとに触れている。
2年ほど前までは季刊「詩の雑誌・ミッドナイトプレス」に『ポエトリー・
コミック』なる2ページの連載を描いてもいた。
★そんなことから「現代詩」を、若い人に教えてみたいと思ったわけだ。
しかし、詩について教える先生が見つかったということで、無理強いは
しないことにしていたのだが、ポピュラー文学の方で演習を担当して
ほしいと依頼されたのである。
大学の文学部が、学生が現代小説を読まないので、マンガの方からも
物語の面白さを伝えていってほしい~と言われてマンガ論を担当して
きたのだが、小説創作の手助けをマンガ家の方から「演習」を通してやって
いくのも興味があることだった。
●それは、最近の若者が<ライトノベル>の読み手として増加するなかで
書き手としても登場していることにも関係がある。
すでにマンガ・コースの学生の中にも、マンガより小説書きに熱心!という
青年がおり、ぼくのところへ250枚作品を2本も読んでくれと依頼してきたり
もしていたのだ。彼はいまOBだが、今年もやはり250枚作品をぼくのところ
へ持ち込んできた。最近、流行している<魔術師世界>の戦いを描いたも
のだ。『空の境界』で有名な奈須きのこのファンらしい。
★コース初年度は生徒がたった男子3名!後から2名の女子が加わった。
学校側としては、これでは利益が出そうにないが、今年度は3月現在で
7名とすこし増員。2学年となったので、非常勤の新任が2名ふえて5名。
担当教員が2名です。
教える方としては、少数の方がきめ細かく、個性に合わせて指導できる
のでそれなりにやりがいがあった。
●最初の演習課題は「自己紹介を書く」でした。
マンガ・コースでも自画像を描かせ、それにメッセージなどを添え、教室内に
貼りだして、クラス内の融和をはかったりしている。それに準じたものといって
いい。まず400字原稿用紙の書き方を教える。
現在の中高校では、こんな基本的なことさえ教えていないからだ。教育の
堕落ぶりを強く感じるが、そんな批判はしているひまは有りません。ただ、
日本の書籍の殆どが400字用紙で書かれてきた~この事実を体感しておく
べきだとぼくは考えています。マンガ・コースのプロットや原作シナリオでも
400字で書くことを実施している。
文字はいまやPCで良い~という考え方もあるのは承知の上である。
★投稿マンガのセリフは、エンピツ文字の状態です。きちんと文字を手書きで
明確に、リズミックに改行し、編集者に読みやすくして送付せねばならない。
小説コースの方は、前期中間段階からPCで書いてもらうことになるが、まず
400字原稿を知る~ということになる。
自己紹介では、この学校入学の目的。読み書きの体験度。愛読書について。
今後書いてみたいもの。などなど、自由に3~4枚書いてもらいます。
その後は「純文学」と「大衆文学」の違いについてしゃべることになる。<作品
は誰のために書くのか>自分のため?読者のため?恋人や友人のため?
こうした講義のなかで「大衆文学」の意味を考えてもらうわけです。マンガ創作
との共通性は非常に高いことが、ぼくにも確認できることだった。
演習の他の課題については、後述してみたい。