傾き加減 | 【続】ネコ裁判  「隣のネコも訴えられました。」

傾き加減

2006-07-02 20:26:09


ヒデ      「確か最初は50数万の小額訴訟だったろ?」

タロウ     「ええ……。」

ヒデ      「まぁどのみち『傷を付けた瞬間』の決定的証拠は無いわけだが……

         それはちょっと置いといてだ。」


え?

それは随分大事な部分だと思うが……。


ヒデ      「幌部分の修理費のみで50数万……で、その幌の傷の原因・頻度・割合がどうので

         『ああだこうだ』と言い合いになってるだろ……。」

タロウ     「ええ……。」

ヒデ      「実に相手さんの手際が悪いというか……下手だというか……生真面目というか……

         正直それに救われてるよ。」

タロウ     「……………。」


???


理解してないワタシに対してヒデさんは……


ヒデ      「例えば最初に修理費云々と難癖つけてガーンと請求されてみ……

         まぁ簡裁でやるなら140万までだが。」

タロウ     「はぁ……。」

ヒデ      「ボディーにもガラスにも傷があるとか言ってさ……。」

タロウ     「……………。」

ヒデ      「で……おっちゃんの飼いネコが車に乗ってる。

         でもタバコの焦げ跡もある。

         他のネコも乗ってる。」


そう……そのとおりだ。


ヒデ      「コレを全部、原告が裁判所で全部ブチまけて……。」


なんとっ!!

川畑が必死に隠そうとしている「あの部分」を全部ブチまけるというのか……。


ヒデ      「お宅のネコ『も』被害の要因の一つなんです。だから140万のうちの5分の1……

         30万くらい負担して下さい。」

タロウ     「……………。」

ヒデ      「こう言われたら……判事(裁判官)としてはどう思うと思う?」

タロウ     「え?」


……………。


頭を真っ白にして、しばらく考えた。


「50数万ビタ一文負けません」「他の要因があっても全て加担していた一要因である被告の責任です」

「他の要因は軽微で、重大過失の被告に50数万の損害賠償を請求してます」


こう言い続けている川畑。


でも……


「ホントは140万の修理代です」「でも他にも要因があります。ボクにも一部責任があります」

「ですが他の加害者はわかりません」「なので被告は少しでいいので負担して下さい」


もしこんな殊勝な川畑だったら……。


タロウ     「『ちょっとくらい払ってやれば?』ってなるかも……。」

ヒデ      「だろ?」


確かに……。

そしてコチラはと言うと……「うちのネコの責任じゃありません」の一点張り頑固ジジイ。


法律に則って裁定をするはずの裁判所ではあるが……裁判官も所詮は人間なのだ。

下手に謙虚にする人と頑固者のガチンコだったら……間違いなく前者に肩入れしてしまうだろう。


ヒデ      「まぁもしそうだとして……判決まで出て、それがどうなるかは判らないけど……。」


判らないけど?


ヒデ      「間違いなく原告が譲歩した30万くらいで和解を勧めて来るだろうね……。

         『お宅にも責任の一端はあるんじゃないか?』って……。」


ふむ。


タロウ     「でもその和解を『飲む』かどうかは自由なんじゃ……。」


……聞きながらすぐに自ら回答が出た。

そうしたら更に「頑固ジジイ」が演出される事になる。


タロウ     「……………。」

ヒデ      「まぁ要するに最初から『1万くれっ!!1万じゃなきゃダメだ!』って言うヤツと……

         『10万戴けませんか?でもまぁ1万でも……後はなんとかします』って言うヤツと……。」

タロウ     「……………。」

ヒデ      「随分古典的だが……そもそもの損害金額が判事には不明確だからな……

         案外有効だったりするんだよ。」


譲り合い・妥協点……確かに刑事事件でも、検察側は重めの量刑を要求してくる。

それを弁護側の主張を考慮し……判決は出る。


「情状酌量」は確かにそうして模索されているようである。


ヒデ      「まぁ今回は『暴走原告君』に救われてるみたいだけどな……。

         大丈夫……気にする事無いよ……こんな陳述。」


そしてしばらく……ヒデさんとの電話は終わった。




そういえば誰かにこう言われた事を思い出した。


裁判所は法律に則って、法律のとおりに判断する場所ではなく……

裁判所は法律だけでは判断し難い双方の主張を、公序良俗や習慣を考慮し妥協点を模索する場所なんだ。


と……。




以下次号。