マーブル先生奮闘記

マーブル先生奮闘記

マーブル先生の独り言。2024年1月1日の能登半島地震後の復興をお祈り申し上げますとともに、被災された皆様に心よりお見舞い申し上げます。


産婦人科診療

更年期を女性らしく生き抜く(21)

皮膚のきめ細かさと弾力を維持するために

 

一次的な効果に迷わされてはいけない

 閉経に近づくと卵巣から分泌されるエストロゲンの低下から、更年期以降の女性の皮膚には、しわ、乾燥感、蟻走感、膣粘膜委縮症状など多くの老いの症状が出現します。

 日常行われるコスメティックなアプローチでは、主に皮膚の外側からの洗顔料、基礎化粧品、化粧下地、ファンデーションが使用され、一時的な対処をしています。

 しかし、皮膚表面からのアプローチには限界があり、しかも、皮膚の老化に対する根本的な解決方法ではなく、その場しのぎのもので、使用者に短時間の満足感を与えるコーティング方法にすぎません。この時実際の皮膚に吸収されるものは商品が含む水分がほとんどです。

 

ホルモン補充療法に使用される薬剤

 

皮膚はエストロゲンの非生殖器系最大の標的臓器

 皮膚はエストロゲンの非生殖器系最大の標的臓器です。エストロゲンはエストロゲン受容体を介して、皮膚の厚み、皮膚のコラーゲン量の保持、保水効果、創傷治癒過程に大きく関与しています。

 また、低下したエストロゲンを補充するホルモン補充療法は皮膚組織のコラーゲン量のみならず皮膚の厚みにも有効に働くことが研究で明らかになっています。さらに最近の研究では、ホルモン補充療法には皮膚の厚さやコラーゲン量のみならず、「皮膚の表層組織のきめ細やかさ」や「皮膚の結合組織の粘弾性」への改善効果があることがわかってきました。

 

遅れている日本のホルモン補充療法

 

 

いつからホルモン補充療法を開始するか

  これらのホルモン補充療法の効果は皮膚のしわや委縮が完成した後には効果がなく、やはり閉経以前の更年期から、もしくは40歳から必要なのかもしれません。

しかし、ホルモン補充療法には皮膚の外側からアプローチするコスメティックのようなすぐに効果がある感覚がない欠点があります。したがってホルモン補充療法の皮膚組織に対するすべての改善効果を実感する割合が低いのもこのためです。

 今後この分野にホルモン補充療法が大きな力を発揮するためには、経皮吸収型エストロゲン製剤や外用クリームエストロゲン製剤を使用することが必要なのかもしれません。

 

 

投与経路は色々存在する

 

もう少し研究が必要

 エストロゲン低下がもたらす皮膚組織へのさまざまな変化に対してホルモン補充療法により皮膚の状態の改善が見込まれることは確かなのですが、皮膚の根本的な改善を目標にしたホルモン補充療法が活躍するには、ホルモン補充療法の少し早めの開始時期の検討、皮膚の改善度の新しい評価法の開発、投与経路の確立、新しい皮膚から吸収される薬剤の検討などが必要なため、もう少し時間が必要なのかもしれません。

「おばあさん仮説」からみた更年期と更年期障害

 

 多くの動物は繁殖年齢を過ぎると、まもなく寿命も尽きて死亡します。繁殖年齢を過ぎて何年も生き続ける動物は人間の女性と一部の限られた動物*だけです。

 一方で、男性の精子生産能力は年齢とともに少しは低下しますが、生きているかぎり精子を作り続けることが可能で、妊孕能力(妊娠させるために必要な能力)が継続します。

 

 

女性が繁殖をやめて生き続ける理由は?

 女性が閉経後もかなり長い間の老齢期を生き続けるという特質は何か特別な進化的な利益があったからと考えられます。閉経後におばあさんとして自分の娘や血縁者の子育てを援助し、人類の繁殖の成功度を高めることになったという仮説が「おばあさん仮説」です。この考えは、現在も仮説の域を出ていませんが、いくつかの事実がこの仮説の正しさを証明しています。

 女性の卵巣の中に存在する卵母細胞(排卵可能な卵子を含む細胞)は、加齢により確率が上昇する遺伝子の突然変異を避けるために卵巣の老化である閉経期が設定され、排卵が抑制されます。卵母細胞は発生初期にその数が決まり、胎児期に700万個、出生時には200万個に減少すると言われています。閉経までに実際に使われるのは、そのうちわずか400個です。

 なぜ、人間の女性は自然選択のままに生活史調節し、他の霊長類と同様に、の間際までなぜ繁殖可能でなかったのでしょうか?

 

 この事実を説明する仮説には仮説(高齢の女性の繁殖コストは高額で、子供の生殖をサポートする側になった方がよい)や、おばあさん仮説などがあります。両仮説に共通する理念は、女性が死の間際まで繁殖し続けると、死産の増加や障害児の誕生・養育などの繁殖を継続するコストが高額になるので養育側に回ったと説明されています

 実際に高齢での出産ダウン症などの先天性疾患の確率を増加させる要因となり、進化論的には高齢の妊娠の確率を低下させ、養育に専念できる閉経期を存在させるというものです。

 もう一つは、加齢による卵母細胞の枯渇で、卵子の数は固定されており、より繁殖するためにはかなり大きな卵巣が必要となり、骨盤腔に存在できないという解剖学的な考え方です。この卵母細胞枯渇説は、女性の繁殖が途中で終わるかの説明にはなるものの、なぜ繁殖が終わった後にも非常に長い期間生きるのかの理由を説明できてはいません。

 

人間の女性は繁殖を捨てて子育てを選び、結果更年期と老年期を得た

 人間の女性だけが獲得した低卵巣ホルモン状態の閉経期以後の人生は、孫世代を育てる援助を可能にしましたが、それと引き換えに、更年期と更年期障害を背負わされたのかもしれません。

 

*先日流氷の間に閉じ込められた12頭のシャチもオスの寿命は50歳ぐらいですが、メスは90歳まで生きます。50歳からの約40年は繁殖活動をせず子育てや孫の育児をすることが知られています。一方クジラは死ぬまで繁殖することが知られています。

 

 おばあさんが子育てをするシャチ

更年期を女性らしく生き抜く(19-2)

良性発作性頭位めまい症:耳の骨粗鬆症とめまいとエストロゲン(2)

 

悪性頭位めまいが隠れているかも

 めまいの症状が似ている疾患に悪性頭位めまい症があります。悪性頭位めまい症は小脳の出血や梗塞、腫瘍などが原因によるめまいで、治療しないで放置すると生命にも危険が生じます。

 一見良性発作性頭位めまい症と似たような症状を呈しますが、良性発作性頭位めまい症では、めまいを起こしやすい頭の位置を繰り返し取ることで症状がむしろ軽くなることが特徴です。

 また、眼振といって、めまいが起きている時に眼が揺れる状態が観察されますが、その揺れ方で良性か悪性かある程度判断できます。悪性頭位めまい症では頭痛も伴うことが多く、眼振がしっかりでるわりには症状は弱い、などの特徴もいわれています。

 しかし、良性発作性頭位めまい症でも頭痛や吐き気が強くでる場合もありますので、その場合は画像診断が欠かせません。CTでは小脳の病変はわかりづらいことがあるため、MRIによる確認が必要です。

 

良性発作性頭位めまい症は自然に治ることが多い

 良性発作性頭位めまい症は特別治療をしなくても数日から2週間程度で軽快することが多いですが、中には難治性で1ヶ月以上症状が続く場合もあります。頭をわざとめまいのする方向へ動かすことがとても有効です。

 耳鼻咽喉科の診察で目の動きが確認できた場合には、理論的に邪魔にならない場所へ耳石を移動させるように頭を動かす処置を行うことがあります。手技を開発した医師の名前からエプリー法などと呼ばれていますが、エプリー法を行わなくても、めまいのする側に何度も寝返りをうったりすることで同様の効果を得られます。

 

 

エプリー法である程度は治る

 

 

良性発作性頭位めまい症は60〜70代の女性に多い

 良性発作性頭位めまい症は60〜70代の女性に多いという特徴があり、良性発作性頭位めまい症の原因は加齢と低下するエストロゲンとの関係が考えられています。閉経後のエストロゲン分泌低下がカルシウム代謝に影響し、脆くなった耳石がはがれやすくなるのではないかと言われています。

 

将来はこの病気の新しい治療法が

 多くの機能調節を司るエストロゲンが更年期や老年期で低下し、耳石器の骨粗鬆症を発症させ、耳の機能にも関与している可能性があります。現時点では良性発作性頭位めまい症の治療にホルモン補充療法を使用することはありません。

 しかし、ホルモン補充療法を行い、耳石器の骨粗鬆症の発症を遅らせることや耳石器を鍛えることは良性発作性頭位めまい症の発症予防になることが予測することが出来ます。将来、ホルモン補充療法がこの病気の予防になる可能性があり、今後研究が進むことを期待しています。

 

更年期を女性らしく生き抜く(19-1)

良性発作性頭位めまい症:耳の骨粗鬆症とめまいとエストロゲン(1)

 

錠剤から貼付、ジェルまで揃っているホルモン補充療法の薬剤たち

 

良性発作性頭位めまいとは

 めまいを引き起こす耳の病気に良性発作性頭位めまい症*があります。病名の中の「頭位」はめまいを発症する時の頭の決まった位置のことで、「めまい頭位」といいます。

 

 良性発作性頭位めまいは、安静時にはめまいが起こらず、頭を動かし、決まった頭の位置でめまいが起こるのが特徴です(めまいが起こる頭の位置は、人によって異なります)。寝返り、起床時、上を向いた時、不意に下を向いた時にめまいが起こるため日常生活に支障をきたします。

 

*有名な「なでしこJapan」の澤穂希さんもこの病気でしばらく休養しました

 

良性発作性頭位めまい症の特徴

 良性発作性頭位めまい症の症状は目が回る激しい回転性のものが多く、平衡感覚が失われ、身体がよろめくこともあります。そのため、めまい時には吐き気や嘔吐を伴うこともありますが、メニエール病*にみられる耳鳴りや難聴などの症状を伴うことはありません。

 

 持続時間は数秒から2〜3分程度ですが、発作を何度も繰り返すのが特徴です。

 

*メニエール病:

 体の平衡感覚をつかさどる耳の奥の“内耳”にリンパ液がたまることによって生じる病気で、30~50歳代で発症することが多く、発症すると耳が詰まったような違和感や軽度の聴力低下が引き起こされます。

 

 体の平衡感覚に異常が起きて回るようなめまいが生じ、耳鳴りやさらなる聴力の低下が起こります。症状は通常片方の耳にのみ生じますが、もう片方の耳に発症することも多く、一度症状が治まっても再発を繰り返していく過程で聴力が徐々に低下することが特徴です。

 

良性発作性頭位めまい症は剥がれた耳石片で起こる

 良性発作性頭位めまい症の原因は、耳の三半規管の中に溜まり、浮遊する耳石(カルシウムの小粒子)です。内耳には、三半規管の根元に重力や体の方向を感知する「耳石器」という器官があります。この中には、耳石と呼ばれる石状のものがあり、これが剥がれて、三半規管に入り込むことでめまいが発症します。

 

 頭の位置の変更時に、剥がれた耳石が三半規管を満たしている内リンパ液の中で動きます。ゼラチン状のクプラという神経の一部がその動きを感じ取った結果、めまいが起きます。めまいは、剥がれた耳石が動いているときだけ起きるので、沈殿した状態になると、短時間で治まります。音を聞く蝸牛には障害がないため、難聴や耳鳴りといった聴覚のトラブルはありません。

 

良性発作性頭位めまい症の原因

 耳石が剥がれ落ちる原因は不明ですが、スポーツなどで頭を強く打った際に耳石が剥がれやすくなる、また、耳石はカルシウムの小さな粒であるため、カルシウムの代謝障害で剥がれやすくなります。そのため骨が脆くなる骨粗鬆症も良性発作性頭位めまい症の原因となります。

 

 

高脂血症という名称が消えた

 

脂質異常症の登場

 これまで「高脂血症」と呼ばれていた病名を2007年に日本動脈硬化学会は「脂質異常症」という名称に変更しました。この名称変更には理由があります。

 血液中の脂質には中性脂肪やコレステロールがあり、コレステロールにはLDLコレステロール(いわゆる悪玉コレステロール)とHDLコレステロール(いわゆる善玉コレステロール)があります。

 

コレステロールにはちょうど良いレベルがある

 中性脂肪やLDLコレステロール(いわゆる悪玉コレステロール)は基準値よりも高すぎると身体に障害をもたらしますが、HDLコレステロール(いわゆる善玉コレステロール)の高い値はいいのですが、低すぎても心疾患などの危険が高いということがわかってきました。

 そこで、単にコレステロールなどの脂質が高いから病気であるという意味の「高脂血症」という言葉は正確ではないという考え方を取り入れ、名称変更が行われたのです。

 

 

正常値の範囲内でコントロールする

 脂質異常症とは、血液中に溶けている脂質が正常値の範囲から逸脱した状態をいいます。脂質異常の状態では、これといった自覚症状もなく日常生活を送る上での不都合もあまりないためつい放置してしまいますが、そのままにしておくと脂質が血管壁に蓄積し、動脈硬化を引き起こします。動脈硬化になってもまだ自覚症状がなく、心筋梗塞や脳梗塞など深刻な事態になって、やっとその重大さに気づくことになります。

 

 

食生活と運動不足

 かつての日本人には脂質異常症はあまり多くみられませんでしたが、現在は年々ふえ続けています。その理由のひとつは食生活の変化です。魚類・穀類・野菜を中心とした食生活が、次第に高タンパク・高脂肪・高カロリーの欧米式食事へと変わってきたことによります。

 もうひとつの理由は、ライフスタイルの変化で、日常生活で身体を動かす機会が減り、運動不足になる人が増加したのです。余分なエネルギーの発生は皮下脂肪や内臓脂肪といった形で蓄えられることになります。

 

遺伝子の異常も原因に

 脂質異常症には生まれつきの体質的な要因が関係することもあり、他の病気と関係なく発症するものを原発性脂質異常症といいます。遺伝子の異常が原因で血液中にコレステロールや中性脂肪が異常に増えてしまう病気に家族性脂質異常症があります。

 

他の病気や薬の影響の影響もある

 他の病気や服用している薬の影響で、血液中の脂質のアンバランスで脂質異常症を発症することがあります。他の病気や服用している薬など、なんらかの原因があるものを二次性(続発性)脂質異常症といいます。

 脂質異常症と関係がある病気には、糖尿病やその他の内分泌疾患(クッシング症候群)、甲状腺機能低下症、肝胆道系疾患、腎臓病などがあります。原因となる薬剤にはステロイドホルモン、β遮断薬、経口避妊薬があります。

 

 

更年期を女性らしく生き抜く(18)

予防的なホルモン補充療法は骨粗鬆症を防止する

 

 更年期を経て老年期に入ると全身の骨の脆弱化、筋力の低下、姿勢の変化から通常の日常生活でも骨折することが多くなり、その治癒にも時間がかかることが知られています。今回は閉経後の女性の骨折についての話です。

 

骨折の種類と原因、症状

 老年期に多い骨折には、①脊椎圧迫骨折、②前腕骨遠位端骨折、③上腕骨頸部骨折、④大腿骨頸部骨折、と肋骨骨折があります。

 脊椎圧迫骨折とは、尻もちをつく、不用意に重い物を持った時に背骨の脊椎が圧迫骨折を生じる骨折のことで、ほとんどが腰の上部の腰椎の圧迫骨折です(第一腰椎が中心)。腰が抜けたと表現され、複数の腰椎の圧迫骨折は老年期の寝たきりの原因にもなります。

 前腕骨遠位端骨折は転んで手のひらをつくと、手をついた方の手首に激痛が走り、手首の関節がフオークの背状に変形する骨折です。

 上腕骨頸部骨折は転んで肘をつくと、肘の上方の肩に激痛が走り、腕が上がらなくなる骨折です。

 大腿骨頸部骨折は転倒して腰部を打撲した時に起こり、脚のつけ根が痛くて立てなくなり、この骨折も老年期の寝たきりの原因になります。

 肋骨骨折は骨折時に鈍痛がある程度で日常生活に支障が起こるほどの症状はないものの、しばしばみられる骨折ですが、臨床上はほとんど経過観察で、治療を行うことはありません。

 

エストロゲンの役割

 エストロゲンの受容体は皮膚、筋肉、関節、骨などに広く分布してそれぞれの組織の機能を調節していますが、更年期を迎えたころからエストロゲンが低下するとエストロゲンに支えられていた多くの組織で機能低下が生じます。

 筋力の低下は体力の低下をもたらし、関節の機能障害が合わさると、結果的に姿勢が悪くなります。また、エストロゲンの低下は骨粗鬆症を発症し、姿勢バランスの悪い日常生活は転倒の可能性と骨折の頻度を増加させます。

 

予防的なホルモン補充療法の役割

 老年期の骨折の危険因子は骨粗鬆症と転倒であることを考えると、ホルモン補充療法は骨粗鬆症や筋力の低下を予防する治療になります。更年期や老年期のエストロゲン投与はその投与経路や投与量を問わず、すべての薬剤で骨量を増加させ、骨折を予防する効果が知られています。

 また、エストロゲンには関節保護作用、運動機能改善作用、筋肉量低下抑制作用、姿勢バランスをよくする効果があることが知られており、骨折が起こり得る状況からの回避と骨折の予防になります。

 骨粗鬆症とそれに伴う骨折は誰もが経験する可能性がある閉経期から老年期の女性の病気です。ホルモン補充療法はこの時期の生活の水準と質、生命の質そのものを向上させるための予防的な武器になるかもしれません。

 

 

 

更年期を女性らしく生き抜く(17)

手の指の関節のしびれ・痛み・腫れ・変形

 

ヘパーデン結節とプシャール結節ニヤリ

 50歳代の女性の手の指の関節のしびれ・痛み・腫れ・変形が手の指の第一関節に起こることを「ヘバーデン結節」、第二関節に起こることを「ブシャール結節」といいます。

 関節の結節とは指の骨にできるあまり難くない、小さいコブのことで、手指の関節が腫れて、手の指の運動制限を伴い、関節痛だけでなく、粘液嚢腫(ミューカスシスト)と呼ばれる水ぶくれが関節を取り囲むように関節の側方に現れることもあります。

 発症した関節の結節の症状は個人差がありますが、関節軟骨の摩耗や関節の隙間が狭くなり徐々に骨が変形していきます。

粘液嚢腫は数日間のしびれが続き、その後一晩で腫れて出来上がることが多く、痛みをこの時から伴うようです。また、複数の箇所に出来ることも多く、症状が増すと、手の指の動きが悪くなったり、物を強く握ることが困難になったりして、通常の日常生活を行うことに支障が出ます。

 よく知られた自己免疫疾患である「関節リウマチ」と症状が似ているため診断に戸惑うことがある時は、専門医に診断してもらうことが必要です。

 

女性で。しかも更年期に発症しやすい

 の粘液嚢腫の原因は不明ですが、発症が更年期の女性に多く、またよく利用する利き手以外の手指にも症状が現れることが多く、全身を支配する女性ホルモン(減少)が関与している可能性が考えられています。

 ヘバーデン結節、ブシャール結節以外にも更年期に起こりやすい手指の疾患には、ばね指・ドケルバン病などの腱鞘炎、手根管症候群、母指CM関節症がよく知られています。

 

女性ホルモンが減少する産後や授乳期にも発症する

 この病気は、更年期の女性だけではなく、女性ホルモンの大きな変動(減少)が起こる産後・授乳期にも、同様に手指にしびれや痛み、こわばりが起こることが報告されており、更年期の女性と同様にエストロゲンの分泌低下がこの病態に深く関与しているものと思われます。

 

治療には対症療法、そしてホルモン補充療法も

 対処療法には腫れ・痛み・しびれのある部位の安静と固定(テーピング)や服薬(鎮痛剤、漢方薬、ステロイド剤の関節内注射など)があります。また、年齢や閉経後からの年数、手の関節以外の更年期症状の有無を調べ、有効なホルモン補充療法を開始すると関節症状の緩和に役立つという報告もあり、期待されています。

 手指が大きく変形し、日常生活に困るような場合には、手術を行うこともありますが、早めの受診と治療開始が大切です。

更年期を女性らしく生き抜く(16)

ホルモン補充療法の実際 

 

女性の卵巣エストロゲンの活躍は40年続いていた

 更年期障害の病態は加齢による卵巣機能の低下、特に卵巣のエストロゲンの分泌低下が引き起こす全身のエストロゲンに活性を依存する器官の機能障害と考えることが出来ます。性成熟期にエストロゲンは女性の生殖器の発達や機能に関与し、妊娠の成立・維持に重要な役割を果たしてきました。

 また、エストロゲンは産婦人科領域以外でも骨、血管、筋肉、消化器、皮膚などの多くの臓器や組織の維持や機能発現に主体的な役割を果たし、糖や脂質代謝の調節にまで関与していることも知られています。したがって更年期障害を治療するためには失われた卵巣エストロゲンを補充することは理にかなった方法です。

 

治療に使用されるホルモン剤は多彩

 更年期障害の治療のためのホルモン補充療法に使用されるホルモン剤には、エストロゲン製剤(卵胞ホルモン製剤)6種類、8品目とプロゲステロン製剤(黄体ホルモン製剤)2種類、両者を合剤にした2種類の配合錠があります。

 医療者は訴えや症状に応じてこれらのホルモン薬剤を使い分けます。更年期障害の治療は本来低下したエストロゲンを補充すればいいのですが、エストロゲン単独では子宮内膜がんの発症の可能性があるため、子宮内膜を保護する目的でプロゲステロン製剤を併用して使用します(子宮を摘出した女性にプロゲステロン製剤は必要ありません)。

 また、プロゲステロン製剤の単独使用は低下したエストロゲン分泌をさらに抑制するためエストロゲンを上昇させるという更年期障害の治療には不向きです(性成熟期の過多月経や月経困難症にはプロゲステロン単独使用が存在します)。

 

中でもエストロゲン製剤は多い

 エストロゲン製剤の種類が多い理由は経口剤、経皮剤などの投与経路の違う薬剤があるためです。また、経腟的に投与するエストロゲン製剤もあり、それぞれ長所・短所があるため更年期障害の症状に応じて使い分けることが大切です。

 更年期障害の症状は長い間継続することが多く、エストロゲン剤を長期間使用することがあり、ホルモン剤は身体に安全なものであることが大切です。また、更年期障害が発症する年齢は多くの臓器のがんの発症年齢であり、生活習慣病や動脈硬化・冠動脈疾患も発症する可能性があります。

 更年期障害の治療時には訴えから症状をよく見極め、女性の背景に潜む疾患の発症の有無を慎重に観察する必要があり、可能な限り少ない薬剤、少量の投与量が必要です。

以上のことから、更年期障害を取り扱う医療者は更年期の女性のホームドクターであり、老年期への道案内人なのかもしれません。

 

更年期を女性らしく生き抜く(15)

プレマリンという不思議な薬

 

プレマリンの歴史

 プレマリンは今から80年ほど前に発売が開始された古くからある結合型エストロゲン製剤で(天然のエストロゲン製剤ではない)、ホルモン補充療法の領域では代表格の薬剤でした。妊娠した馬の尿から抽出・精製されたプレマリンは純粋なエストロゲンではなく、9種類のエストロゲン様物質を含んでいます。また、プレマリンは薬剤としての歴史が古いため研究が多く、その作用はかなり詳細に調べられています。

 

プレマリンに潜む副作用

 プレマリンは、血管運動神経症状、抑うつ症状、骨密度増加、委縮性膣炎、認知機能改善などに効果があり、中性脂肪や悪玉コレステロールの低下、血管拡張に作用することも知られています。しかし一方では、悪玉コレステロールを小型化し、血管内の血栓形成を促進する作用もあり、深部静脈血栓塞栓症や脳卒中の心配が少しある薬剤です。

 

プレマリンの用量を変える

 このプレマリンの副作用をなるべく軽減するためには、プレマリン以外のエストロゲン剤を使用するか、プレマリンの用量を少なくすればよいのですが、日本でのプレマリンは0.625㎎の1種類のみの薬価掲載と販売です(米国では半分量のプレマリンも採用されています)。

 プレマリンを半量にして投与し、その効果や作用を検討した研究では、通常量(0.625㎎)の使用と効果や作用は同等であり、不正出血の頻度も低下します。また、半量の投与では血栓炎症マーカーの上昇もなく、血栓塞栓症や脳卒中も減少することから早急に低用量のプレマリン(0.3㎎)の薬価掲載が求められています。薬剤の中には半量に割るラインが入ったものもありますが残念ながらプレマリンにはなく、半量にするのは至難の業です。

 

プレマリンの投与方法を変化させる

 また、プレマリンを隔日投与(二日に一度)する方法でも効果や作用は、毎日1錠を飲む方法と同等で副作用も軽減されることが知られていますが、何故かあまり日本の医療機関で採用されてはいません。

 

もっと副作用に敏感に

 日本の更年期の女性がホルモン補充療法を受ける割合は少なく、約2%と言われていますが、米国では40%もの人が更年期治療を受けています。肥満・高脂血症の多い米国女性は薬剤の効果・作用・副作用に敏感なのです。しかし、更年期障害治療の長い歴史を有する米国は更年期障害治療の先進国です。先進国アメリカのプレマリンは勿論0.3㎎です。

 更年期治療の歴史が浅い日本の医療者と、更年期女性の我慢強い性格からか日本の更年期障害の治療はガラパゴス化しているように思えてなりません。薬剤の幅広い服用方法と容量の工夫を素直に取り入れることが今の日本の更年期治療に求められています。

産婦人科の一工夫

-LEPやピルの飲む方法について-

 

 月経困難症、過多月経、子宮内膜症の治療、避妊のために処方される薬剤には経口のステロイドホルモン剤が使用されます。使用する薬剤はLEP(Low dose estrogen and progesteroneの略語です。低用量の合成されたエストロゲンとプロゲステロンを含有する薬剤のことで、ピルも同様の薬剤を使用しています)と呼ばれ、ピルもほぼ同様のホルモン製剤が使用されています。両者の服用のコツは、服用方法を正しく守ることが大切で、服用方法を守ると薬剤の効果を最大限に発揮されます。

 LEPやピルは合成のステロイドを含有した薬剤ですが、服用すると胃で溶解し、十二指腸や小腸で吸収されます。胃の中や腸内の環境を一定の状態にすることや、服用時間を一定にすると、血中内のステロイドホルモン濃度を一定にすることが可能になります(血中薬剤濃度の安定化)。

 LEPやピルのホルモン含量は、LEPやピルを服用していないときの卵巣ホルモン濃度の3割程度です。この低濃度でLEPやピルは女性の月経周期を支配することが出来るのです。以上のことから、服用開始は月経開始3~5日目がいいと思われます(月経周期が進むと卵胞ホルモン濃度が上昇し、低用量のLEPやピルではその後の月経周期のコントロールは不可能になります)。

 月経周期が不規則な女性は産婦人科外来を受診して、子宮内膜の厚み(5㎜以下)、もしくは卵胞発育(主席卵胞の直径が7㎜以下)を測定すれば、何時からLEPやピルを開始するかが判明します。

 

以下のことを守ってLEPやピルを服用しましょう

①     一日一錠を決まった時間に服用すること

②     食後の時間も一定にして服用すること

③     空腹では服用しない

④     アラームを使用し、一定の時間に服用することを習慣づけること

⑤     水分摂取を怠らないこと

⑥     持ち歩くような薬剤ではないので、夕食後に服用することが望ましい

⑦     長時間の激しい運動は行わない(この時も水分摂取を)

⑧     少量の出血があっても服用を続けること

⑨     薬剤シートには日付を入れ、休薬期間は折り曲げて対処する

⑩     月経量はかなり減少し、月経痛も大幅に少なくなります

⑪     一定の間隔で決められた採血を行うこと

 

 激しい頭痛、胸痛、腹痛、めまい、ろれつが回らない、ふくらはぎがむくむ、痛いなどの症状が出現したら服薬を中止し、医療機関に電話をして指示を仰ぐことが大切です(稀な症状ですが、これらの症状は深部静脈血栓塞栓症の初期症状のことがあります)。

 どんな時でも落ち着いて行動することが大切です。また、LEPやピルはステロイドホルモン剤です。人に譲ったりすることをせず医師の管理下で服用することが大切です。気軽に飲む薬ではないことを自覚してほしいものです。

 なお、周術期(外科的手術を行う場合)は手術の4週間前、術後2週間はLEPやピルの服用は禁忌です。