ある方から、あるお題が出された。
”自分の意表を突く行動をとってみよ、そしてそれをレポートにまとめよ“
その方との関係性上、その指示に従わないという選択肢は無いのだ。
そしてやってきた12月10日、土曜日。
そのお題を片付けようと考えていた日がやってきた。
極力、その日が来るまでは「何をしよう」「何処へいこう」を想定してはならなかった。
予めそれらを想定してしまっては、自分の意表を突くことにはならないからだ。
しかし、一度も行ったことがない場所というだけではなく、「行こうと思ったことも無い場所」
そして、「絶対に行きたくない場所」である必要があることだけは想定していた。
当日目を覚ました後、録り貯めしているTV番組の中から『チコちゃんに叱られる』を観ながら身支度を整える。そして閃いた。
「パチンコだ。」
とっても自分の意表を突いた閃きだった。生きてきた中で一度も“行きたい”と考えたこともない、そして何より、本当に行きたくない場所。
これはいい、これはいい題材であると確信した。しかし、本当に行きたくない。そこへ行くと決めた途端に憂鬱になってきた。
他の選択肢は無いか?もっと自分の身の丈に合った、憂鬱にならなくて済む他の選択肢は、本当に他に無いのか?
見当たらなかった。
仕方ない、パチンコに行くしかない。しかし、本当に行きたくない。憂鬱である。
その行きたくなさを少しでも解消するため、最低限、店内に入ってからの一連の基本動作を
スムーズにこなせるよう、≪【初心者の為のパチンコ講座】入店~帰るまでの流れ≫という今の
自分にうってつけの動画を観た。そして一連の流れを頭に叩き込んだのであった。
私の自宅は、東急目黒線の不動前駅~武蔵小山駅の丁度真ん中あたりに位置している。
そして武蔵小山駅は、駅前の半径500m以内に3、4店のパチンコ店がひしめくパチンコ天国なのである。そう、皮肉なことに。
パチプロが住むべき土地であると言えるのかもしれない。(言えないのかもしれない。よくわからない)
家を出て歩くこと8分程度、パチンコ店の点在エリアにやってきた。
近い。なんとパチンコ天国であることか、ということを初めて認識する。
数店ある中で、ぱっと見で人の出入りが少なそうなパチンコ店《DAS小山店》に決めた。
混んだ店に入れば、初心者丸出しの私の行動はすぐさま常連たちの目に留まるはずである。
40才を超えてまで人から白い目で見られる事態は、絶対に避けなくてはいけないのである。
店前に到着した私は、思った。
やだ、入りたくない。今すぐ帰りたい。憂鬱だ。
しかしもう一生行くことはない、これで数倍の経験値が上がるはずである。
そうモチベーションを取り繕い、意を決して店内に入っていった。
ジャンジャンバリバリ、ジャラジャラバンバン ごちゃごちゃバンバン
店内は想定通りに嫌な騒音で溢れかえっていた。
パチンコ店の何が嫌かというと、まずはこの騒音である。
卑しい俗世間を象徴する擬音かの様なこの騒音。
ほんとうであれば1分と聞き続けたくはない音である。
「帰りには絶対iPod で坂本龍一のピアノを聴きながら帰ろう」
そう思ったのは言うまでもない。
そうして出鼻をヤラれながらも今一度モチベーションを取り繕い、
店内へ歩みを進めて行った。
先程見た動画ではお勧めの台も紹介していたが、とにかく人のいないエリアを探し求めて店内を進んだ。覚悟はしているものの、極力自分の醜態は人には見られたくない。
よし、ここは人が少ない。このエリアの中から台を選ぼう。
「確か、1円パチンコの台と4円パチンコの台があって、1000円単位で球を買っていくから、
1円パチンコの方が1000玉買えるから初心者向きだって言ってた!」
という先程得た記憶をたどり、4円のパチンコ台を選ぶ。
1000円で250玉。早く終わって帰れそうだと思ったからである。
台の前に座り、玉を買う機械にお金を入れる。球が出てくる。
そして台の右下のレバー的なものに手を掛ける。
いざスタート、と思った矢先
「あれ?」
「一体、自分は何を目掛けて何をすればいいんだ??!!」
そう、私はそもそものパチンコのゴール地点を知らないことに気づいた。
先程の動画では、玉の準備から先は、最後に出玉をどう処理するかという点に話は飛んでしまっていたのである。
急にやって来たこの焦りと緊張を一切周りに気づかれまいと神経を集中させた。
額が脂っぽくなってきた。
一つ一つ解明していこう、
まず今右手に持っているレバー的なものを回して玉を飛ばすことだけはわかる。
よく見ると、台の真ん中あたりだけ周りの部分よりも豪華な装飾になっている。
絶妙な力加減でレバー的なものを回し、玉をその豪華装飾部分に入れるというのがゴールであるに違いない。
そうであってくれ、いや、間違っていてもいい、なんでもいいからこのレバー的なものを回す動機が欲しかった。
落ち着け、そう、落ち着いてください、自分。
そしてようやくレバー的なものを回し、初打をキメるに至った。
人生初のパチンコがようやくスタートしたのである。
たまに豪華装飾部分に玉が入り、賑やかな音が流れた。
やめてくれ、恐らくそこに入って「当たり」的なことになると、ドッと出玉が出てくるのであろう。
一刻も早くこの場を立ち去りたい自分にとっては、避けなければならない事態であった。
その賑やかな音はなんとも苦々しく耳に響いてくるのであった。
賑やかな音、流れてくれるな。
当たるな、絶対当たるな。
ビギナーズラック、今じゃない時に来てください。
パチンコ本来の目的と真逆のことを願いながら事を進めていたが、
しかし玉を打つごとにドンドンと感覚が馴染んできていた。
ほうほう、なるほどなるほど
レバー的なものを回すたびに力加減がわかってきた。
あ、そういうことね
力加減がわかって来るたびに玉の導線が見えてきた。
うわ!惜しっ!!
玉の導線が見えてくるたびに、真ん中のゴール的なものに入っていく確率が上がってきた。
いつしかパチンコに対するネガティブな感情が無くなり、むしろポジティブに捉えだしていることに気が付いた。
そして発想は全く逆転したのだった。
「どうせなら確変的なことが起きて玉がわんさか溢れ出して、
大当たりしました!的なオチが付けられれば、最高のレポートが完成させられる!」
これはイイ、
この筋書きは何が何でも描かでおくべきか、
せっかく来たんだからいい思い出を残して帰りたいじゃないか、
どうせ人生最初で最後なんだもの。
やっぱりビギナーズラック、今来てほしいです。
間もなく玉は無くなった。
1000円はほんの数分の内に溶けていった。
あんなにポジティブな気持ちになった自分からは想像できないくらい、これ以上の課金には一切お応えできなかった。
そして立つ鳥跡を濁さず、店内を後にした。
「こんなん何がおもろいねん!! 二度と来んわ!!」
一生分のさようならを上記の言葉に代えさせていただいた。
ほんの一瞬の私のパチンコ人生へ。
※パチンコ好きの方々にとっては大変失礼極まりない発言が多々あったかと思われます。
大変申し訳ございませんでした。