岩瀬昇のエネルギーブログ

岩瀬昇のエネルギーブログ

エネルギー関連のトピックス等の解説を通じ、エネルギー問題の理解に役立つ情報を提供します。

(カバー写真は文中引用している「ロイター」記事の、日本語版(*1 )に使用されているものです)

 

 今朝「ロイター」が『米政府高官は、米国は現在、如何なる供給不足懸念にも対応できる備蓄を保持していると語った』とする英文記事を掲載していた(*2)。

 

 添付するEIA(Energy Information Agency=エネルギー情報局)のグラフを見ると、2022年2月のロシアによるウクライナ侵略により引き起こされたエネルギー危機への対応として同年180mb(million barrels=百万バレル)のSPR(Strategic Petroleum Reserve=石油戦略備蓄)を放出してから、昨年秋から買埋めに入っているがまだまだ低い水準にあることが分かる。

 

 米政府は当面、買い戻し価格を79ドル/バレルに設定していて、昨今の油価高騰を見て先月、300万バレルの購入計画を中止しているとのことだ。

 

 

 もっとも妥当な戦略備蓄の水準については大いに議論があるところだろう。

 

 IEA(International Energy Agency=国際エネルギー機関)が加盟国に求めている備蓄水準は「前年純輸入量の90日分相当」となっている。米国は2019年9月より純輸入国となっているため、備蓄が「ゼロ」でもIEAの規定には反しない構造となっている。ゆえに判断に難しいところだろう。

 

 IEAが想定している各国の石油戦略備蓄とは、本来緊急事態時に協調して供給することを目的とするものだ。だが2022年バイデン政権は、油価を下げることを目的として大量のSPRを放出した。そして油価引き下げに成功した。

 かくて米政府は、備蓄は需給調整に使える、ということを学んだのである。

 

 おさらいをしておくと、アメリカの石油需要は約2,000万BD。

 国内原油生産は1,300万BD。

 だが、天然ガス付随のNGL(天然ガス液=性状は軽質原油)が700万BD生産されている。

 さらにバイオ燃料やプロセスゲインが200万BD近くあり、国産石油生産合計が2,200万BD程度あるので、国産>消費=純輸出国なのである。

 

 したがってアメリカにとって石油戦略備蓄の妥当な水準というのは、まさに政治的判断に基づくものなのだ。

 

 と、ここまで書いたところで「Nikkei マーケット・トレンドDX」のMCを務めている大橋ひろこさんが「マーケット・エッジ代表」小菅務氏に聞く『〔地政学リスクはピークアウト〕その先の原油投資戦略』(2024年5月7日)というYoutubeを「X」に投稿していたので覗いてみた(*3)。

 

 「マーケット・リスク・アドバイザリー共同代表」の新村直弘氏の「X」投稿は読ませていただいているが「投資助言はしていない」という同氏の分析に驚くことはほとんどなかった。なるほど、と思う指摘がたくさんあるので楽しみにしている次第だ。

 

 では現実に投資をしている人たちに対して、その道の専門家はどのようなアドバイスをしているのだろうか。そんな興味から大橋ひろこさんの投稿Youtubeを見させていただいたのだ。

 

 驚き満載だった。

 

 ひとつひとつ指摘する煩は避けるが、「SPRをばらまいた」とか、アメリカがロシアに製油所(原油から石油を創る場所、と表していた!)の「操業停止を止めるように要請している」とか。このように言わないと伝わらないのだろうか、という驚きである。

 特に、現在の油価動向を分析するにあたり、サウジやロシアの国家予算における歳出と歳入がバランスする油価水準について言及していないのは如何なものだろうか?

 

 弊ブログをお読みいただいている読者の皆さんはどう思われますか?

 

*1 米戦略石油備蓄は十分、供給不安に対応可能=大統領顧問 | ロイター (reuters.com)

*2  US has sufficient oil supply reserve to address any supply concerns, Biden adviser says | Reuters

*3 【地政学リスクはピークアウト】その先の原油投資戦略(商品アナリスト/マーケットエッジ代表 小菅努さん)-ファッションを探せ! (youtube.com)