(つづき)


仲良しの同級生7人での、おうち飲み会。
最後の一人がやってきたころには、T君、チャーハンもマーボーも食べつくして、満腹になっていました。


ようやくみんなで、
「かんぱ~~~い!!!!」
って、飲み始めたのですが。


T君は、Nちゃんが持ってきた焼酎を、
「これ、すっげうめえな!Wハート
って言いながら、飲んでいました。
最初水割りで飲んでいたのですが、
これはウマイからロックにしよ、と、2はい目はロックになりました。

「おい、俺が持ってきたポン酒もうまいんだぞ!きゃっ
(ポン酒=日本酒、です)

と、ふだんからT君と仲良しのサトルくんが、コップを差し出しました。


「おっ! ありがとうございます、せんせ~~」きゃー


医学部の高学年になって、
ポリクリと呼ばれる、病院実習が始まると、
学生といえども、白衣を着て、患者さんと接するようになります。
そうすると、まだ学生にも関わらず、医者は学生のことを、”先生”って呼んだりするんです。

医者同士は、”先生”と呼び合っているし、いずれこの学生たちも医者になるであろうから、
もう、先生、って呼んじゃってるんだろうけど、
学生なのに先生なんて呼ばれると、なんだか違和感でした。
学生実習とはいえ、きちんとした診療行為を「責任」を持って行えよ、
という意味もあって、”先生”と呼ばれていたのかもしれません。


そうすると、今度は、学生同士で、ふざけて、”先生”と呼び合うようになってました。



「T先生、きょうはとことん飲んでくださいよー、ワイが持ってきた酒やけん」

「おー、サトルセンセ、飲ませていただきますわー。センセも飲んで飲んで! 飲んで!」


満面の笑みを浮かべながら、
T君は、


「では、ここらで一発!」



と、着ていたTシャツをアタマからかぶりなおしました。
オデコと顎がかろうじて、Tシャツの首から出る状態になりました。
前髪は全部、Tシャツの中に入ってしまい、
ひょっとこみたいな人相になってます。



・・・・・・

終わりなき挑戦―100分の2秒が人生を変えた/堀井 学



↑こういう人相。


・・・ごめんなさい、ひょっとこじゃないな。
Tシャツ、ほっかむりして、
そう、スピードスケートの選手のよーなアタマです。


なに始める気だろう、と思っていたら、



T君。


右手に、日本酒ロックの入ったコップ。
左手に、焼酎ロックの入ったコップ。

両手にコップを持って、
スピードスケートの選手みたいに、
両手を交互に、前後に動かしながら、
左右交互に、コップの酒を飲み始めました。
!!!!!!!!



「セイコ ハシモト ハシモト セイコ!!!」

「マナブ ホリイ ホリイ マナブ」

「シーミーズっ ひーろやすっ」





・・・・・・・・ひよざえもん がーんひよざえもん がーんひよざえもん がーんひよざえもん がーんひよざえもん がーん





(スピードスケートの選手ふうの、酒飲み・・・)


神の肉体 清水宏保/吉井 妙子

終わりなき挑戦―100分の2秒が人生を変えた/堀井 学


(こんなクダランネタに、一流アスリートを使って、ごめんなさい・・・ひよざえもん がーん





そのあとT君は、浴びるように酒を一気飲み。
ひとりでひとビン、ほぼ空にしてしまい、
最後のほうなんて、コップに注がずにビンごと飲んでいました。
日本酒と焼酎と、合計2瓶。
それから、缶ビール2本とほかの焼酎もガブガブ飲み、



「あー、俺もうだめ・・・・・」ガクリ



なんと、彼は、飲み会開始後30分で、
すでにすっかりデキあがり、
気持ちわるい、・・・と、
床に寝そべりました。



だいじょうぶ?

とみんなが声をかけると、


やがて彼はムクリと起き上がり、
窓をガラリとあけ、
ベランダに出ました。
ベランダと言っても、うちは1階。
ベランダの柵の目の前には、お隣の一軒家がありました。



げぇぇぇぇぇ~~~~~~




といううめき声とともに、



彼は、・・・・・柵ごしに、


・・・・・・ゲロリンチョを見事に吐いてくれました。ドクロ





なんちゅう・・・・なんちゅう、迷惑な人でしょう!!!






すると、騒ぎに気づいたらしい、
お隣の一軒家のおっさんが、

「おまえ! 何やっとんのじゃ!!!!」怒り怒り

と、庭先までどなりこんできました。




「おまえ、人んちの庭になにを吐いとるんじゃ!」
怒り



ヤバイ!

私たちが、みんなで庭先へ出て、謝ろうとした矢先、
T君は、後ろ手に窓ガラスをそっとしめて、
手で、大丈夫、と私たちを制し、
おじさんのほうに向きなおりました。



窓のレースカーテンごしに、
T君が謝っている様子が見えました。
彼は、すべての責任を、自分一人で負うつもりらしく、
必死でおじさんに頭を下げていました。



やがて、青ざめた顔で戻ってきたT君。
なんとか許してもらえたようですが、
「あとで、きっちり掃除しとけ、って、めっちゃしつこく言われた・・・笑
と。
まあ、でも、全部自分が悪いんです、と、ひたすらおじさんに謝ったらしいです。




やってることは、ムチャクチャなのに、
・・・・・そういう、男気のあるところが、
たぶん、T君を、にくめない奴、って思わせちゃうんだろうなぁ・・・・。







そのあと、飲み会おひらきまで、
T君はソフトドリンクしか口にしませんでした。


懲りたから・・・・・・では、ありません。


これ、彼のいつもの飲み方です。
私たちのあいだで飲み会をするときは、
最初っからすごいハイペースでがんがん飲み食いし、
30分くらいで毎回、トイレなどにゲロリンチョを吐きにいき、
そのあとは、ちびちび少量飲むか、たばことお茶でダラダラ過ごすかするのです。

なんてタチの悪い酒飲みなんだろうムンクの叫び







そうかと思うと、
とある、別な飲み会の帰り、
私たち女の子が夜道で酔っ払ったチンピラ集団にからまれそうになったとき、
一番真っ先に、私たちの前に飛び出して、
「何しとるんじゃボケ!」
と、チンピラの胸ぐらをつかみにかかったのは、T君でした。

逆上してT君に殴りかかってきたチンピラのパンチを見事にかわし、
腹にいかつい一撃を見事にお見舞いしてました。


その、かっこいいことといったら。


一緒にいた男の子たちが、


「・・・・あいつには、かなわんなあ・・・・ひよざえもん びっくり


って、ポツリと言ってました。





その後もT君の酒癖の悪さは全くなおらず、
毎回、そういうヤな飲み方をしてくれ、
ときどき、酔った挙句、
大学に、飲み屋の看板なんか持って帰ってきてたこともありました。


ほんとに、サイアクの酒癖の男だと思います。
なのに、なぜか憎めません(笑)