iPad Pro 12.9インチを購入して2年を丁度超えましたので今後購入する方のために感想などを書いてみたいと思います。

 

 

・2年目直前のAppleCareのバッテリー交換は出来なかった。

・GOODNOTEでの勉強は捗る。

・ネットとかを見るならとても便利。

・目が悪くなる。

 

 

■2年目直前のAppleCareのバッテリー―交換は出来なかった。

 

2年目直前あたりから電池の持ちがかなり悪くなりバッテリーを充電してもすぐに電池が減っていくという状態になったので購入前にAppleCareに入ってメーカー既定のバッテリー劣化具合のチェックを下回ればバッテリーの無料交換をAppleCareのサービス内でやってもらえるかも?とのことでしたのでそれを見込んでAppleCareに入っていました。

 

これが目当てで入っていたのですが結果は残念でした。

 

 

電池が全然持たなくなってきたので、AppleCareが切れる直前に近所のお店に持っていたのですが、「90%くらい残ってるからまだまだ大丈夫で交換出来ない」とのことだったのでAppleCareを2年後のバッテリー交換目当てで入るのはお勧めできません。

 

 

2年間ほぼ毎日長時間使っていたのでかなりのヘビーユーザーかと思いますが、特に故障することもなかったものの、電池はこんなに速く減っていくのに本当に劣化具合がたった10%なの?と思うくらいになりました。

 

100%からの減りも速く、またバッテリー残量が20~30%以下になるといきなり10%単位で動いてあまりアテにならなくなります。

 

 

 

正規の代理店でバッテリーの交換サービスを3.5万円くらい(物価によって変動)でやってもらえるとのことですが、バッテリーだけを交換するのではなく本体をまるごと新品に交換する形になるそうです(リバースエンジニアリング対策かと)。

 

 

こまめに充電すればまだまだ使えますが、ぼちぼち代理店にバッテリー交換サービスをお願いしようかと思っています。新品の本体になって戻ってくるので画面やカメラレンズの保護シールなども新しいものを購入することになります。

 

 

私は一度もAppleCareのサービスのお世話にはならなかったものの、バッテリー交換では使えないものの故障や使い方でどうしてもわからないときは使えるサービスかと思いますのでこれから購入する方はAppleCareの内容をよく吟味すると良いと思います。

 

 

AppleCareは2年分を一括で24,800円ですが、保険みたいなものです。入るか入らないかは個人の判断ですが、私は次に購入するときは入らない予定です。

 

 

 

■GOODNOTEでの勉強は捗る

iPad Pro のネットを見る以外での用途の90%は勉強で、もっとも活躍したのはGOODNOTEです。

 

 

 

 

紙のノートを使うような感じでアップルペンシルで書き込んでいけるのですが、手持ちの楽譜を写真を撮ってデータ化したり、IMSLPでDLした楽譜をGOODNOTEに読み込んでアナリーゼするのに非常に使い勝手が良いです。

 

 

データなので色ペンで間違えても簡単に修正出来るし、参考画像を挿入したり、紙の楽譜では出来ない黒い音符の上に色を塗るという(声部分け)ことも出来るのでとても便利です。

 

私にとってiPad Proは要するに紙の楽譜の代わりみたいなものなので自分の楽譜をちょいちょいと書く時や人の楽譜に書き込みをするときはとても重宝するアプリです。

 

紙の楽譜だとわかりずらくなりそうなデータ管理も簡単に出来る点も良いです。

 

 

■ネットとかを見るならとても便利 

ネットを見たり、アプリで色々な便利なツールを探したりするのは非常に重宝します。画面が大きく可搬性が高いのでちょっとしたネットで調べものをするときなどはかなり便利で、部屋の中の何処へでも持っていけるのは個人的には良いと思います。

 

 

■目が悪くなる

手で持つノート感覚で使うので近距離で画面を見ることになり、目がかなり疲れて視力が多少落ちたような気がします。ブルーライトカットアプリなどもありますが、どのみちかなり近い距離で見ることになるので目が疲れるのはしょうがないでしょう。

 

視力を落としたくない方は使い方を考える必要があります。

 

 

 

・まとめ

なんだかんだ言って買って良かったですし、バッテリー交換に出して限界まで使って駄目になったら新しいものをまた購入するつもりでいます。バッテリーさえなんとかなればまだまだ何年も使えるはずです。

 

どこかに出かけたときの暇つぶしには最適なツールですし、勉強もとても捗ります。個人的には目が疲れるのが難点なので、パソコンで出来ることはパソコンでやらないといけないなぁと最近思い始めました。今後購入を検討なさっているどなたかの参考になれば幸いです。

 

 

 

長調・短調問わず♭Ⅶ度の和音がⅤの前に用いられるのは後期ロマン期以降にはよくあり、特にフォーレやラヴェルなどの作曲家には幾らでも例を見出すことが出来ます。

 

 

フォーレ ヴァイオリンソナタ1番1楽章

 

フォーレはごく当たり前のように長調でも短調でもⅤの前のⅣやⅡmの代わりに♭Ⅶを用います。これはフォーレが長調と短調を混合したような和声法を用いるので納得がいきますし、弟子のラヴェルもよくやります。

 

ブラームスなどでも見かけますが、これは古典和声へのアンチテーゼと解釈することが出来ます。あまりにもコテコテのⅡーⅤーⅠを嫌って何か自分なりのオリジナルの響きを生み出そうという努力が音楽の進歩を生み出しているわけですが、この♭Ⅶの和音は短調においてベートーヴェンにも見出すことが出来ます。

 

 

 

ベートーヴェン ピアノソナタ17番3楽章 142小節目から

 

 

ベートーヴェン ピアノソナタ17番1楽章 112小節目から

 


ベートーヴェンの中期は半分くらい初期ロマン派で後期は完全にロマンと言って良いような作品が生まれますが、17番は丁度初期から中期への過渡期あたりの作品でⅤの前の♭Ⅶの和音をフォーレと同じ意図で使っていたかどうかは疑問が残ります。

 

 

Ⅱm→Ⅴ7→Ⅰという進行を♭Ⅶ→Ⅴ7→Ⅰとしているのではないか?と疑いたくなるようなケースを散見し、♭ⅦはほとんどⅡmの代理のように響きます。

 

 

短調の場合は♭Ⅶはダイアトニックコードなので使うこと自体は調的に何も問題ないのですが、使い方がⅡの代理のようなのでⅡmの第5音を上方変位しているのでは?とこの和音が登場するたびに思ってしまいます。

 

 

属7の和音(〇7)の上方変位、下方変位は古典和声で習いますし、長3和音・短3和音の上下同時変位という和音もロマン派では多数存在します。

 

 

短三和音(〇m)は短調ではⅡmがⅡm-5になるのでこれは下方変位と同じになり、となると残る可能性は短三和音の上方変位だけになるので、ベートーヴェンやそれに続くロマン派の作曲家はそのつもりで使っているのかもしれません。

 

 

単純な可能性の網羅という意味でこういったことはあり得ますが、これは何かの本に書いてあったとか、ネットで見たとかではなく完全に私一人の推測なので何の理論的根拠もありません。

 

 

上にずらすのがありなら、下もありでしょう。〇の和音でやっていいなら▲の和音でもやってもいいはずなどの拡大解釈がクラシック音楽の和声法や作曲技法や形式の発展の歴史でもありますので、可能性の網羅という意味では案外あり得ることかも?と思っています。

 

 

 


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ある時、某生徒さんから「ピカルディーの3度はなぜピカルディーと呼ぶのですか?」と質問されて、あれ?そういえばなんでだろう?と思い調べてみた面白かったので記事にしてみます。

 

日本語のwikiだと由来的なことは何も説明されていません。

 

 

 

紛らわしいのがフランスにピカルディーという地名があることです。ピカルディー地域圏というwikiがあるくらいでナポリの和音がイタリアのナポリ地方と関係があるので、何も大して調べもせずに地名関係と思っていましたが、どうも違うようです。

 

 

ピカルディー地域圏

 

 

丁度こういった音楽理論が出来上がる過渡期にもっとも活躍したルネサンス音楽の代表的作曲家であるジョスカンがピカルディー地方出身ですし、なんとなくそうなのかなぁ?くらいに思っていました。

 

 

残念ながら日本語のwikiの音楽関係はあまり充実しておらず、クラシック音楽はそもそも外国の文化なので仕方ないのですが、フランス語と英語のwikiが詳しいです。

 

 

 

 

 

 

語学が出来なくても簡単に翻訳を、しかも無料でしてくれるなんていい時代になりました。最近では外国のページを見ることも増えたのは翻訳機能がかなり充実してきたからでdeepLとかマジで凄いです。

 

 

明確な語源は不明なものフランスのピカルディー地方云々というのはジャン・ジャック・ルソー(1712-1778)の本が書いた本が初出ですが、音楽での使用例はもっと前からあり、どうもこれは現在では否定的にみられているようです。

 

 

現在ではフランスの北部の方言で「尖った」または「鋭い」を意味する古フランス語「ピカール」に由来し、短3度を鋭く(シャープ)する=長3度になるという仮説が有効のようです。

 

 

 

ではなぜ鋭く(シャープ)するのか?というと明確な根拠となる資料をネットで見つけることは出来ませんでしたが、私が知る限りではシェーンベルクが自著の和声法の中でそのように述べている点と、ルネサンスからバロック時代に隆盛した音楽修辞法において度数の少ない数ほど協和(神)に近いという考えに基づくものであると思われます。

 

 

 

音楽修辞法についてはバッハやヘンデルなどのバロック音楽を理解する上で極めて重要であるにも関わらず日本ではとても軽んじられているのがとても残念です。

 

軽んじられているがゆえに本もなく、現状では和書ではまともな本はありません。

英語で良ければ多分これが一番と思えるのが下記の本です。

 

 

 

 

https://www.amazon.co.jp/Musica-Poetica-Musical-Rhetorical-Figures-Baroque/dp/0803212763

MUSICA POETICA (英語です)

 

 

今回は音楽修辞法の記事ではなくピカルディーの3度の記事なので割愛し、ここからは私個人の意見としてそういう風に言う人がいるという風に受け取って欲しいのですが、重要な部分だけを抜粋すると当時全盛だった修辞法ではより単純な比率(協和する音程)が神に近い数字として重視され、教会音楽では協和音程こそが神の響きとして良いものとされ、不協和は制限付きで使える響きとされていました。

 

 

オクターブや完全5度などの協和がルネサンス音楽では極めて重視されているのはこの時代の音楽を勉強なさった方にとっては良くご存じのはずです。

 

 

ピカルディーの3度は曲の最後を短3和音で終わることを不満足としたので長3和音にしたわけですが、長3和音の比率は4:5:6であり、比較的小さい整数です。完全とまでは言えないまでも美しい協和した数字と言っても良いかもしれません。

 

 

 

対して短3和音は10:12:15とかなり大きい数字になります。

 

協和音程こそを絶対的な基準とした時代において10:12:15という協和からかけ離れた数字は不協和の解決や曲の終止として不適切とされたことは音楽修辞法が全盛の時代においては当然と言えます(これは私の推測ですが)。

 

 

3度が使われ始めたのはルネサンス期のフォーブルドンからですが、教会音楽において神から遠い3度よりも神に近い3度が選ばれたと考えるのはおそらく正しいと思われます。

 

 

 

バロック時代までは音楽修辞法が十分に生きていたのでバッハやヘンデルの音楽は音楽修辞法なしに語ることは出来ません。ですのでバロック時代の曲には短調の曲でも最後は長3和音で終止する曲がたくさんあります。これは音楽修辞法を重視しているからと言い換えることも出来ます。

 

 

古典以降になると例えばベートーヴェンは短調の曲をそのまま短3和音で終えている曲が多数あります。

 

これはヨーロッパで音楽修辞法が軽んじられてきたことを意味し、この流れは現代まで続きます。ましてや外国の日本ではそもそも音楽修辞法の名前すら知らない人もたくさんいます。現代であれば不協和のまま曲が終止しても誰も何も言わないでしょう。

 

 

 

10:12:15の短3和音を4:5:6にするために3度音を鋭い(シャープ=鋭い)という意味の古いフランス語のピカールをするからピカルディーの3度かと思いますが、修辞法を絡めた考えは完全に私の推測ですので何か根拠となる文献などのソースがあるわけではありません。理屈として通るのでは?というだけなのですが面白かったので記事にしてみました。

 

 

 


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今回はラヴェルのソナチネ分析とそれを通してこれから勉強なさる方へのアドバイスをしてみたいと思います。

 

 

細かいことは後述するとして音楽の勉強ではある先生に付いたらAと言われ、別の先生にはBと言われ、さらに別の先生にはCと言われる、時には真反対のことを言われて戸惑うことがあるかもしれません。

 

 

先生に師事しなくても書籍により解説が異なるということはよくあります。全然別のことを述べていることすらありますが、学習者の方には「その先生や著者にとっては」そうであるという意味で受け取って、絶対的な価値観として考えない方が良いということを覚えておくと良いでしょう。

 

 

音楽関係に限定していいならwikiなども間違って書かれているものが残念ながらありますし、ネットの情報は原則無責任です。

 

 

だから私の記事も「あなたにとってはそうなんでしょう」という風に受け取って柔軟な思考を持つことを忘れないで欲しいですし、先生や本ではなく自分自身で判断する力を身に付けることが大切です。

 

では本題に入りましょう。

 

 

 

 

ソナチネはラヴェル28歳~30歳頃にコンクールのために書かれた作品です。ラヴェルらしい和声とベートーヴェン的な古典の作風がミックスした小品でラヴェルの人気曲の1つです。

 

 

1楽章はソナタ形式で「75小節以内で作曲すること」というコンクールの規定のためにちょっとぎゅうぎゅう詰めの印象があり、構成的な工夫も小節数の都合とソナチネという縛りからかまさにソナチネ(単純なソナタ形式という意味)という感じに仕上がっています。

 

 

構成や展開技法はまさしくベートヴェン的で何かモデルがあるのではないかと疑いたくなるほどです(ラヴェルはよくハイドンなどの大家から構成を借用していたことを告白しています。)

 

 

以前書いた亡き王女のためのパヴァーヌのアナリーゼ本でも楽譜を出してシャブリエを下敷きに書かれていることを述べていますが、もしかしたらハイドンあたりにありそうな形式感を感じます。

 

第2主題以降は旋法が目立ちます。ラヴェルはドビュッシーよりも旋法的ですがここではその傾向が強いですが、古典和声とポピュラーの理論がわかれば普通にアナリーゼ出来ます(全楽章可能です)。

 

 

2楽章はメヌエットで如何にもベートーヴェン的な構成の土台の上にラヴェルやフォーレの和声語法が展開され、私は複合3部形式と解釈したいと思います。

 

 

ベートーヴェン ピアノソナタ18番3楽章のメヌエット

 

個人的にはベートーヴェンのピアノソナタ18番3楽章のメヌエットを下敷きにしているのでは?というくらい構成が似ていて(メヌエットの構成なんてどれも似たようなもののかもしれませんが)多くの類似点を見出すことが出来ます。

 

 

まず全体の小節構造、細かいことを言うと第1部での主題の提示が3回あること、TRIO相当の中間部の同じ和声を続ける部分、コーダの部分などの全体の流れが良く似ており、テクスチャーにも類似点があると言えば言い過ぎですが、似てるなぁと思います。

 

 

本当にこの曲が下敷きなのかはわかりません。ただこの曲の構成にラヴェル風の旋律と和声を乗せていると疑われてもしょうがいないくらい構成が類似しているというだけです。ラヴェルが過去の大家から構成を借用していると自白?しているのでそういう目線で見てしまうというのもあります

 

3つの楽章の中でも最も師匠であるフォーレの影響が大きい楽章です。

 

 

 

記事を書くにあたりネットを検索していたら、面白い動画を見つけましたので「学習者の方には「その先生や著者にとっては」そうであるという意味で受け取って、絶対的な価値観として考えない方が良い」という冒頭の実例だと思って下の動画を見て欲しいです。

 

 

 

 

 

この動画の先生はラヴェルのメヌエットのある部分を多調と説明しています。

 

具体的なことは動画を見て欲しいのですが、私も「え?多調?そんな箇所ないと思うけど………?」と思い気になってこの部分を見てみました。

 

 

 


 

2楽章最後から7小節目


 

 

動画ではこの部分を多調と説明しています(目次にもそう書いてあります)が、個人的には私はこれを多調とはみなしません(ちなみに私は調が2つの時は「復調」と呼び、3つ以上の時は「多調」と呼ぶのですが、ここでは動画と混同してややこしいので多調で統一します。私の本では2つのキーの場合は複調と書いています)

 

 

これはごく短い瞬間的な保続上の和声であり、上では増6の和音が鳴って下では主音と5音が鳴っています。

 

この和音は私が昔書いたアナリーゼのやり方(中巻)で解説していて、ラヴェルがたまに使う和音です。

 

 

ダフニスとクロエより抜粋(ラヴェルにぼちぼちある和音です)

 

 

具体的なことを言うとまずペダルが長さに関する理論はないので短いことは問題にならないですし、古典和声に登場する主音上のⅤはある意味で極短いペダルです。これも同じ理屈でペダルのように見なすことが出来ます。

 

 

多分この動画の先生が多調とみなすのはペダルが短いのと下で主音と5音が鳴っているから下を別個の和音と解釈しているのではないかと思います。

 

 

芸大和声でもペダルが主音だけではなく5音も一緒に使うことを教えていますが、それを多調とみなすかどうかがポイントになります。

 

 

 

2小節目はペダル上の増6の和音と解釈出来ます

 

 

上の譜例を見てこれを誰も多調とは言わないでしょう。単にトニックペダル上のⅠーⅡーⅤーⅠです。Ⅱが増6化されているからと言って多調にはなりません。これはただのⅤのⅤの和音の一種です。

 

 

 

ペダルを1音と5音の両方に

 

 

次にペダルを1音と5音の両方にしてみました。赤い部分が問題の音ですが、これを多調と呼ぶのか呼ばないのかと問われれば個人的には多調とは呼びません。ただの重音ペダル上の増6です。

 

 

ラヴェルのソナチネで出てくるのはこの2小節だけが出てきていますが、2小節目は多調になっていると言う人がいても、まぁさすがに上の譜例の場合は良くないと思いますが、単発で出てくるならそう言いたい気持ちもわからないでもありません。

 

 

 

しかし主和音と増6も、どちらも主調という1つの調の中の和音なのですから多調というのは違うような気がします(私はⅤのⅤの和音は転調とはとりません)。

 

 

例を変えて水の戯れのペトルーシュカ和音の部分もよく多調(復調)と説明されているのを見かけます。

 

 

水の戯れ 後半部分

 

左手でF#コード、右手でCコードという分担でピアニスティックに弾く部分ですが、多調ととっても良いのかもしれませんし、実際に2つの和音の異なる色彩を階層別に表現するという意識でストラヴィンスキーやラヴェルは使っているのでしょうが、F#7(♭9,#11)という普通のオルタードドミナントと解釈することが可能です。

 

 

これを多調とするならジャズやフュージョンに出てくるアッパーストラクチャーを全部多調としなければいけないですし(それは無理でしょう)、何のためのオルタードテンションだよという話になってしまいます(私の作曲基礎理論のChapter 17 アッパー・ストラクチャーについて解説しています)。

 

 

例えばG/C=上でソシレ、下でドミソならドミソシレなのでCM7となりますが、ピアノの右手でG、左手でCと鳴らすときに多調だ!となるかはとても疑問です。ただやりたいことは異なる和音を階層別に表現するということであり、それと多調を混同してはいけないと思います。階層別のレイヤーと多調は似て非なる概念です。

 

 

またオルタードテンションやアッパーストラクチャーを使っているという理由でビバップジャズが多調だらけだというのはちょっと苦しいと思います。

 

KEY-CのⅡ-Ⅴ-ⅠでⅤの部分にアッパーストラクチャー

 

この譜例はたしかにⅤの部分が上でA7、下でG7なのである意味で多調?と言えなくもない?かもしれません。しかしそう考える人はいないでしょう。ただのオルタードテンションじゃないかと考えるのが普通です。

 

 

 

私個人としては一般的な音楽理論やロマン派の面々が使う範疇のオルタードテンションは多調とは言わず、ラヴェルの曲を全部詳細に知っているわけではないのですがラヴェルが多調というのはあまり印象にありません(もしかしたらあるかもしれないけれど)。

 

 

ただラヴェルはアッパーストラクチャーをたまに使うのでアッパーストラクチャーを多調と言ってしまうなら多調でしょう。

 

私の言う多調はミヨーとかシマノフスキみたいなガチ多調で普通の調性音楽理論で説明できないタイプのものです。

 

シマノフスキの弦楽四重奏抜粋(調号がそもそも違う)

 

これはシマノフスキの弦楽四重奏からの抜粋ですが、4パートの調号がそもそも違い、前述のラヴェルやオルタードものと違い和声的にはもちろん1つの調性で説明することは不可能です。

 

 

多調は調号が違わないで書かれることのが多いのですが、私の場合は従来の音楽理論で説明できるかどうか?が多調かどうかの判断基準になります。

 

 

説明できる範疇でも多調という人がいてもいいと思いますが、学習者の方はなぜこの人はそんなことを言うのか?という理論的な根拠を理解して「あぁ、だからこの人はそう言ってるのか」と思えるようになって欲しいです。

 

 

その結果「いや、でも私はそうは思わない」とか「私も同じ意見」とか色々な考えが出てきても良いわけで大切なのは最初に述べた柔軟な思考を持つことを忘れないで欲しいということと、先生や本ではなく自分自身で判断する力を身に付けることが大切という話になるわけです。

この場合はどこまでダイアトニックとして許容するか?という話になります。

 

 

私が学生時代に先生に言われて印象的だったのが、あるときフーガの課題で私がハ長調の主題を作っていったときにロマン的なフランクのような半音階を多用したものを作っていったら「これをハ長調と言える君と私では根本的に感覚が違う」と言われたことがあります。

 

 

フランクの プレリュード、コラールとフーガのフーガ主題

これをロ短調と思えるか?がに個人差があります(Comesは転調のようにも見えます)。

 

 

和声感覚はそれぞれだということを言いたいのですが、その人のバックボーンが何処にあるか?を学習者は先生に習ったり、本を読んだりするときに考えなければいけません。例えばトリスタン和声は調で解釈出来ますが、もっと進むと受け取り方が違って色々な解釈が生まれます。

 

 

 

この動画の先生も思うところがあるのか、最後の方ボソっとで厳密には多調というべきではないかもしれないと後付けで主調を否定していますが、ともあれ学習者の方には自分で考える力と判断する力を身に付けて欲しいと思います。

 

 

実際は色々なケースがあるので別に多調ととる動画の先生も私の記事も「あなたにとってはそうなんでしょう」という風に受け取って、自分なりの和声感覚や音楽への考えを持てるようになることが勉強を進めること上でとても大切になります

 

 

音楽は芸術ですのでレベルが高くなればなるほど意見の相違というのはどうしても生まれてきます。

 

 

 

 

3楽章は形式に異論がたくさんあり、昔購入したラヴェルピアノ作品選集(1)にはロンドソナタ形式と書かれており、ピティナのページでは自由なロンド形式と書かれています。

 

ラヴェルピアノ作品選集(1) 三善晃 (監修)金澤希伊子・海老彰子(解説)

 

 

個人的にはどうみてもソナタ形式だと思うのですが、なぜロンド?ロンドソナタ?と思ってしまいます。解説文は三善晃が書いているわけではなくおそらく名前を貸しているだけなんじゃないかと思われます。

 

 

ドラクエのBGMが好きで楽譜を幾つも持っているのですが、「すぎやまこういち監修」と銘打っていても中にはあり得ない記譜があり、とてもすぎやまこういちの和声をちゃんと理解して記譜しているとは思えない、もしすぎやまこういちが見ていたらおそらく修正させるだろうと思えるような記譜がいくつもあります。

 

 

これも多分出版社が「名前だけ貸して下さい。その方が売れますから~」的な感じで、すぎやまこういち監修と広告し楽譜に書いてあっても実際は詳細にチェックしているかどうかは甚だ疑問だったりします。というかしてないでしょう。

 

 

 

 

 

またこのソナチネのアナリーゼ付き動画では再現直前の引き延ばされるⅡ度の和音(Ⅴの代わりにロマン派以降のの作曲家はよく用いた)の後に02:33の部分で主題が再現しているのに、解説では第1主題の再現がないことになっています。

(ベートーヴェンが再現部の回帰前にⅤやⅡーⅤを引き延ばすのはお決まりの手法です)

 

 

おそらくですが、この動画で主題が再現されていないと述べているのは①主題提示ではF#ドリアンという旋法で提示されて、和音がF#マイナーなのに再現ではF#メジャーになっていること、②伴奏の形が違うことからそう判断しているのではないかと思われます。

 

 

例はいくつか出せますが、ほんの一例を挙げるとこれを再現とみなせないなら例えばブラームスのピアノソナタ1番もコピペみたいな再現ではないので第1主題は再現されていないことになります。

 

 

個人的にはロマン期以降では主題がコピペみたいに再現されずに工夫されて再現されることはごく普通にあり、このような工夫された再現はたくさんありますので、自由な芸術作品ではなくコンクールという縛りでこういう変則的な手法はあまり好まれないということも含めて普通に第1主題も再現されていると思います。

 

 

理由はいくつかありますが、①展開部においてそれまで散々転調的で回帰準備にⅡやⅤの和音を引き延ばして回帰を期待させるベートヴェン的な手法の後にF#という主音に回帰し、②また工夫の一環として1小節だけ分断しますが、すぐに完全な形での再現に戻り、③主題もすべての部分が再現されるのでこれは再現とみなして良いのではないか?と思います。

 

 

主題提示が旋法というのも問題ですが、再現では調的になっているのでF#という主音を共通項とラヴェルはみなしているのではないと私は考えます。これも先ほどの主音上の増6と同じで意見が分かれます。

 

 

さて私は同じF#の主音で主題もすべての部分が再現されるので再現とみなしますが、重要なのは学習者が自分の意見を持つことです。

 

直前にお決まりのⅡやⅤの引き延ばしがあって、その後に主音に回帰しても、主題の全部分が再現されても、「これは再現じゃない」と動画のように判断しても構いません。

 

大切なのはなぜそう思うのか?という明確な根拠を学習者が持つことです。可能なら私の意見を否定して欲しいくらいですし、他人にそれを説明できるレベルで自分の意見を持つことです。

 

 

最初のうちは仕方ないにしても先生や本に書いてあることを鵜呑みにせずに、自分で考える気持ちを持つことは勉強する上でとても大切です。特に高いレベルになればなるほど単なる暗記や鵜呑みが通用しなくなります。

 

 

絶対に自分は正しいという信念やこれで合ってると思える自信はそれなりに勉強が進まないと持てないかもしれませんが、心構えとしてそういうつもりで勉強することが大切です。

 

 

ネットでも本でも先生でも間違いはあるかもしれません。間違いというよりは意見の相違と言った方が良いケースもあります。こういう問題をどう処理していくかは上達にとても大きく関わってきますので私の記事も含めてそういうつもりでなんでも接すると良いと思います。

 

 

 

〇まとめ

ちょうどある生徒さんがこの曲を学んでおり、全曲の和声分析をレッスンしているところだったのでもっとソナチネの具体的な和声分析をするつもりだったのですが、いろんな意見がネットにあるので今回は私なりの意見を述べる記事になってしまいました。

 

せめてソナチネに見られるラヴェルの技法を箇条書きしてみたいと思います。

 

 

・古典的なドミナントモーションの隠蔽

・○7コードはほとんどの場合、ドミナントとしては用いられない。

・chord succcessionの多用

・旋法の多用、リディアン、ドリアン、エオリアンなど。

・ベートーヴェン的展開技法、ベートーベンのピアノソナタと同じアイディアが多数見受けられる

・フォーレの和声語法(同主、平行調の混合)

・遠隔調への転調

・フォーレ的な軸音を用いた転調

・旋律はヘキサトニックが多い

・女性的リズム

・平行和音

・保留される和声(調が確定が保留される)

・連続5度、8度は無視。ある意味でルネサンスへの先祖帰り

・隠された変拍子

 

 

要するにフォーレやラヴェルのようなフランスの語法で古典的なソナチネを書いているので、形式・構成はまんまベートーヴェンです。

 

ソナタ形式はベートーヴェンが8割くらいの開拓をしてしまったと言う人がいますが、ラヴェルのソナチネでも形式や構成の点からは新しい技法や問題提起は何も見いだせずベートーヴェンのソナタ形式に出てくる主題展開の手法や構成がまんま沢山出てきます。

 

見ていて例えば「これワルトシュタインの展開部と同じ技法じゃん~」みたいなベートーヴェンとの類似点を見出すことがいくつもあります。

 

 

ソナチネというのは要するに古典のカテゴリーであって、ロマンや近代にはすっかり不人気になり、ラヴェルのような近代フランスの作曲家の真骨頂とは言えません。

 

 

ですのでソナチネで平易に書いてあるということも含めて主題展開や構成そのものから学ぶべきものは何もないのですが、ラヴェルの和声法をベートーヴェンの作風にどう当てはめるか?という点や単純にラヴェルの和声に興味があれば十分に勉強の価値はあります。

 

 

 

 

最近はIPADに書いてます。とても便利です。

 

自分で勉強するときは上にコード、下にディグリーと調判定、あとは面白いと思ったことを楽譜に書き込んでいきます。IPADだとデータなので間違えても簡単に修正出来ますし、オリジナルの楽譜は綺麗なままなのも良いです。

 

ある生徒さんからIPADとGOODNOTEを勧めて頂いたのですが、これはマジで買って良かった勉強が捗るツールです。

 

既に全部のアナリーゼは終わっているので将来的に大作曲家のアナリーゼシリーズで書いてもいいかも?とも思っておりのですが、不法アップロードされたり、丸写しされて有料ブログの記事にされたりしたりするので、何か具体的なラヴェルの和声法?みたいな本が良いかも?とも思っています。そのまま1曲まるごと分析というのもありですし、抜粋でもいいですし、何もしないでもいいかもと悩んでいます。

 

 

〇おまけ・誤植を発見
 

2楽章68小節目の装飾音は誤植?

 

出版社情報    Paris: Éditions Durand, n.d. Plate DR 16168.
その他注記    Literal re-engraving of the original Durand edition, with only the 1905 copyright notice.

 

IMSLPには2種類のデュラン版のスコアがアップされていますが、「Éditions Durand, n.d. Plate DR 16168.」の方の2楽章に誤植を見つけました。

 

上はその楽譜ですが和声的にはどう考えても赤い四角の中はレもシも♮であるはずなのに、#が付いています。

 

 

F#mにドミナントモーションするC#7にオルタードとナチュラルの両方のテンションが同時に使われており、これは音楽理論に矛盾します(左手はレもシも♮なのに右手の装飾音がレもシも#している)。

 

 

ラヴェルがこんなことをするわけがないので絶対おかしいと思い、幸い直筆譜もIMSLPにあるため参照したところやはり誤植でした。

 

 

 

2楽章68小節目の直筆譜(見やすくするために調号部分が抜けてます)

 

直筆譜では右手の装飾音がレもシも♮です。デュラン版って個人的に結構信じられる出版社だったのに、ちょっとデュラン版の評価が下がってしまいました。

 

 

明らかにミストーンに聞こえる類の誤植はピアニストさんたちにとって致命的であると思います。

 

 

やっぱり原典版があるものは原典版が一番なのですが、必ずしもそうとは言えないのが難しいところです。昔はファックシミリ版の高額な直筆譜が販売されていましたが、今はIMSLPで無料で直筆譜を参照できるのは本当にいい時代になったと思います。

 

 

IMSLPに全部の直筆譜があるわけではありませんが、〇〇版などで疑義が生じた場合に作曲家の直筆譜が参照できるのは少なくともほとんどの場合において問題の解決を可能にするので私も「あれ?これおかしいぞ?」と思ったときはよくお世話になっています。

 

 


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令和6年能登半島地震により被災された皆様にお見舞い申し上げます。

東日本大震災もそうですが、被災された方にお見舞い申し上げるとともに、自分も万が一地震などでライフラインが断絶した時の備えをしておかなければと再び防災用品などを見直してみました。

 

防災用品を携帯出来るもの、万が一の時に持ち出せるもの、自宅に備蓄として保管しておけるものの3段階に分けて準備した(またはこれからする予定)のものを述べてみたいと思います。

 

 

 

■防災ボトル

 

 

地震や事故などで電車の中などに長時間閉じ込められるなどの短期の場合は防災ボトルがお勧めです。大きくなりますが女性ならバックでもいいかもしれません。

 

 

警視庁のX(旧twitter)より

 

作り方は簡単で100円ショップなどで売っているボトルに短期的な急場を凌げるものを入れるだけです。

 

人によって入れるものは色々で高カロリーのお菓子、トイレ用のエチケット袋、、圧縮タオル、笛、現金、傷薬、常備薬など色々ですが、ボトルに入れる理由は防水性に優れ衝撃にも強いからでしょう。

 

 

 

 

便利なのが圧縮タオルでカチカチに固めて圧縮したおしぼりやタオルなどを少しの水でで戻せるものです。

 

とても小さいのでボトルにも入りますし、旅行や自宅の防災品にも使えます。

 

 

ネットショッピングでセット売りになっているのもありますが、自分で好きにカスタマイズしたほうが個人的には良いと思うので、私は圧縮タオル、お菓子、ペンライト、エチケット袋などを入れています。

 

何もなしで何時間も電車の中などの密閉された空間に閉じ込めるときに当座の簡単な食糧やトイレやタオルなどがあるだけで全然違うと思われます。ペットボトルの水なども予備として一本あれば良いかもしれません。

 

 

 

■防災リュックその1

防災リュックは万が一の際に家を捨てて外に飛び出す際に当座を凌ぐための物資や大事なものを持ちだすためのリュックです。

 

東日本大震災を被災された方の防災リュックの記事が参考になりますが、入れたいものがたくさんあるので男女の違い、大人と子供の違いはあるもののおおよそ下記のものではないでしょうか?

 

・貴重品、預金通帳などの大事なもの

・スマホなどの携帯バッテリー

・食料

・最低限の着替え

 

 

貴重品はそのまま持ち出しでも可能ですが、持ち出し可能で火事などを考える場合は耐火ケースのようなものもあります。

 

 

耐火ケース

 

災害・救助情報などを得るのに昔はラジオで今でもラジオはありますが、時代を考えるとスマホなどのデバイスです。普通のモバイルバッテリーも良いですし、太陽光で充電できるタイプ手回しで発電できるタイプもあります。電源が確保できないケースは十分あり得ますので太陽光充電や手回し式は多少嵩張りますが確実に電気を確保出来ますので安心感はあります。

 

 

 

手回しスマホ用発電機

 

普通のモバイルバッテリーは災害用ではなくキャンプや普段使いしている方も多いので、3000円くらいで今はたくさん出ていますので外出時にスマホやIpadの電池切れで悩んでいる人はお勧めです。

 

 

 

食料はそんなにたくさんは持ち出せませんが、おいしいものを被災された方は勧めています。たんぱく質が不足するのでツナ缶がいいとか、野菜が取れないので青汁などが良いとか色々ありますが、外に持ち出すことを想定している防災リュック用としては調理不要な乾パン、缶詰、お菓子などが良いはずです。

 

必ずしもお湯が手に入るとは限らないのでカップ麺系やお湯で温めるレトルト系は家の備蓄と考えた方が良く、この手のことは情報を簡単に得られますが、個人的に最近読んで面白かったのが賢者の非常食という本で日本人が古来何を食べてきたか、あるいは非常食にも役立ちそうな本でした。

 

 

賢者の非常食

 

 

興味があればぜひ読んでみて欲しいのですが、救荒食品として何を常備すれば良いか、また古来日本人が厳しい条件下で栄養価の高いものを得るためには非常に参考になるものがあります。

 

持ち出せる防止リュックにという意味ではかつおぶしやドライフルーツがお勧めで実際に関東大震災のときにかつおぶしと湯冷ましの入った鉄瓶を持ち出して、かつおぶしを舐めたり、水でふやかして救助が来るまでの急場を凌いだ話が載っています。

 

かつおぶしの栄養価の高さは昔から論じられており、薄く削ったけずりぶしは食卓に並ぶ一般的なものですが、緊急時にも保存性や携帯性に優れるので個人的には防災バックに入れています。

 

ドライフルーツは色々ですが、乾燥発酵させたものアミノ酸やビタミンを摂取できて軽量で携帯に優れ保存も効くのでお勧めです。

 

 

保存期間5年の羊羹なんてものもありますが、何もなければ定期的に自分で消費して入れ替えることになるのでやっぱり好きなものが一番です。特に極限状況では絶対に美味しい好きなものがあった方が良いに決まってますのでチョコでもなんでも好きなものを入れておくと良いと思います。またマルチビタミン系のサプリメントも栄養価という意味では価値があります。

 

 

■防災リュックその2

 

自宅に留まれないレベルの災害にあった場合は避難所生活ということになりますが、命を守れたなら次はどれだけ快適に過ごせるか?です。

 

 

朝起きて自分が何を使ったか?をメモしていけば避難所生活をしなければならなくなったときに必要なものを考えることが出来ます。

 

避難所生活がどれくらい続くのかは予測出来ませんが、学校の避難所で必ずしもマットや寝袋などが貸し出されるとは限りません。自分用の寝袋や下に敷くマットがあればある程度快適な睡眠をとることが出来ます。

 

寝袋は値段も性能もピンキリですが、真冬の災害を考えるとある程度防寒性の高いものが必要ですし、荷物になりますがマットもあれば硬い地面で寝なくて済むのであった方が良いかもしれません。

 

 

 

また男性なら髭剃り髭剃り、女性なら化粧水やクリームなどなくても生命には関わらないけれどあった方が絶対に快適なものに優先順位をつけて防災リュックに入れていきます。

 

 

お風呂やシャワーなども望めないかもしれないので体を拭けるウエットティッシュや無水シャンプーという水を使わないシャンプーなんてのものもあります。

 

 

無水シャンプー

 

 

細かいことを言えば爪切りとか髪用のブラシとか歯ブラシとか切りがありません。避難所用のスリッパ、圧縮タオル、軍手、耳栓、懐中電灯、電池など様々で人によってはコンタクトレンズ用品などの自分に必要なものがある場合もあります。

 

リスト化してなるべく小型で軽量のものを厳選してリュックに詰めていきますが、食料も入れる必要がありますし、入れれば入れるほど重くもなりますので災害時に持ち歩ける量を考えてリュックのサイズや重さを考える必要があります。

 

 

■備蓄

自宅が残った場合に考えるべきは電気・ガス・上下水道・食料・生活用品です。

 

電気はガソリン発電機が最強ですが、値段・ガソリンの保存・騒音などハードルが高いです。最近はソーラーパネルがある家も多いですが、持ち運べるサイズのソーラーパネルもあり、バッテリーなどに充電できるタイプもあります。

 

 

 

 

停電が長く続く状況でもソーラーパネルがあればド最低限の電気は得られます。スマホ、湯沸かし、炊飯器など家電製品はなくてはならないものですが、どれくらいの発電量があるかは製品によるものの、確実に電気を得られる方法としては有益ですし、普段から大きめのバッテリーに電気をためておくのも良いと思います。

 

 

ガスは最もお手軽のはカセットコンロでキャンプ用品としてマナスルストーブというのがあって灯油で強い火力を得られるものもあります。冬に灯油ストーブなどを使っている方は灯油燃料で動くことを考えるとありかもしれませんが、カセットコンロのほうが圧倒的にお手軽です。灯油ストーブはどちらかというとキャンプやサバイバル用品です。

 

 

 

そして最大の問題がトイレです。水はペットボトルの水を備蓄すれば良いですが、トイレは死活問題でもし下水管が破損した場合はトイレを使うことが出来ません。

 

 

自宅に庭があれば最悪穴を掘って布などで目隠しを作ってマンホールトイレなどが自治体によって設置されるまでの簡易トイレを自宅に作れるかもしれませんが、マンション・アパートではそうもいきません。

 

 

トイレが復旧までの期間を凌ぐために災害用トイレを自宅に保存しておけば少なくとも当座のところは安心です。

 

 

 

段ボールで100個入りなんてのもありますのでご家族の人数に合わせて最低でも1週間くらいは用意しておきたいところです。

 

 

食品に関しては特にここで述べる必要はないと思いますが、普段使いのものもなくなったら買い足すではなく常に余剰が1つか2つある状態にしておき、保存性の高いものを災害用兼普段用としてレトルトのカレーやカップ麺などの賞味期限が長いものを常備しておきます。前述の賢者の非常食という本も参考になります。

 

 

後は普段使いのトイレットペーパー、洗剤、シャンプーなども同様でたとえ一週間分でも良いので普段用の保存に+αしておけばそれがそのまま災害時の備蓄になります。シャンプーや洗剤系は余剰が1つか2つある状態にするのは簡単なのでおすすめです。

 

 

最低限かもしれませんが電気を確保して、カセットコンロなどでお湯も沸かせて、水や食料もあり、トイレも準備あるなら命を繋ぐことが出来ます。余裕があるならあとはどれだけ快適に過ごせるかが活力に繋がっていきます。

 

 

 

 

 

バッハの最高傑作は?と問われれば意見は色々でしょうが、教育的な作品、芸術的な作品、宮廷勤務時代の貴族の娯楽的作品、そして宗教的な作品などに分けて分類することができ、宗教的な作品としては何といってもマタイ受難曲がバッハの宗教的な作品群の中で規模も内容も特に優れています。

 

ルター以降の音楽修辞法に加えて、バッハ独自の様々な描写表現を駆使したマタイ受難曲は非常に興味がそそられる箇所が多く、現代人が作曲する上で伝統という意味と純粋な技法という意味で大いに価値のある作品であると言えます。

 

 

今回は最初の合唱「来たれ,娘たちよ。われと共に嘆け」の冒頭を少しだけアナリーゼしてみましょう。

 

 


〇前置き

マタイ受難曲で面倒なのは外国の宗教の内容なので歌詞がドイツ語なので何を言っているのかわからず、にもかかわらずドイツ語の歌詞の内容やキリスト教の話を理解していないと音楽の技法も理解できないという点です。

 

本格的に勉強するならドイツの単語1つ1つを調べて日本語や英語に翻訳する必要があります。

 

さて1曲目は言ってみればアニメや映画などの主題歌的なオープニング曲でバッハの中では長く、二重合唱で規模も大きい曲になります。

 

日本語訳の歌詞を見てみましょう。


来たれ、娘たちよ。われと共に嘆け。
見よ。誰を?

花婿を。
見よ。どのような?
子羊のような。
見よ。何を?
彼の忍耐を。
見よ。どこを?
私たちの罪を。
愛と慈しみのために木の十字架を自ら担ぐ彼を見よ。

 


おぉ。神の子羊、
罪がないのに十字架の上で殺されて、

いつでも耐えた。

あなたは全ての罪を負っているが、
そうでなければ私たちは絶望してしまう。
おぉ。イエスよ。我らを憐れんで下さい。

 

これはイエスがゴルダゴダの丘で十字架に架けられて殺される直前の場面の内容であることがわかります。

死刑に使う十字架を罪人自らに運ばせるわけです。

 

 

 

 

〇アナリーゼ

 

 

 

 

冒頭~

 

楽譜は曲の冒頭からです。場面としてはイエスがローマ人に拷問を受けてボロボロになり、フラフラな足取りで思い十字架を背負ってゴルゴダの丘を登っていくシーンですが、バッハをそれを巧みに描写しています。

 

 

色々な解釈がありますが、まず12/8拍子はイエスの重苦しい足取りを表現していると言われています。速めのテンポで演奏する指揮者もいますが、ゆっくり歩くくらいテンポの方が場面に合っていると個人的には思います。

4/4の三連符のようにも聞こえるのでゆっくり、のっそり歩く印象を受けます。

 

 

またトニックペダルの上で旋律や和声の調が非常に揺らいでいる点が興味深いです。KEY-Emでディグリーを付ければ上記の通りですが、最初のⅠmのあとすぐに下属調のKEY-Amへ転じ、さらに属調のKEY-Bmに転じてKEY-EmのⅤ7に戻ってきますが冒頭からとても転調的な動きと言えます。

 

 

メロディーもフルート1とオーボエ1のトップの音が1小節目はソが♮なのに2小節目でいきなりソ#になり、同じく2小節目ではVn1はド♮なのに、フルート1とオーボエ1ではドが#になっています。

 

 

1小節目のB7の箇所でソが#しているので、KEY-Eっぽく聞こえますが実際にド#(9th)とソ#(13th)がいるのでBミクソとなりKEY-Eの響きです。

開始からいきなり同主長調に揺れています。

 

 

2小節目のAmではドが♮ですが、すぐ後のEmではドが#しているのでこれは主調のKEY-Emのトニックではなく、後ろのKEY-Bmの下属和音であることがわかります。

 

 

さらに3小節目のF#7の箇所ではレ#(13t)とソ#(9th)が聞こえ、ソ#の方はクロマティックオルタレーションですぐにソ♮(KEY-Bm)が鳴りますが、最後のソ♮が出てくるまではミクソのように響き、つまりKEY-B出身のⅤにも聞こえます。

 

 

上の画像の一番下に出身キーが書いてありますが、最初の3小節はEm(KEY-Em)→B7(KEY-E)→E7(KEY-Ahm)→Am(KEY-Em)→Em(KEY-Bm)→F#7(KEY-B、KEY-Bm)→B7(KEY-Em)となって借用の連続で同じ出身キーの和音が連続して続くことはありません。

hm=ハーモニックマイナー

 

こういう短いのは転調と言わずに借用和音扱いになりますが、時間が短いか長いかだけの違いなのである意味で転調と言ってもよいかもしれません(実際部分転調と呼ぶ人もいます)。つまり1和音ごとに転調していて調は極めて不安定です。

 

 

もっともバッハはバロック時代の人なので後期ロマン派に見られるような広い転調領域など望むべくもなくいわゆる近親調やその周辺のみだけですが、バッハの時代なりの和声法できわめて不安定な響きを作り出しています。全部の和音の出身キーが違うと言うのは時代を考えればかなり前衛的な手法と言えるかもしれません。

 

私にはこれがイエスのフラフラ歩く状況を表現しているように感じます。

 

 

続きを見てみましょう。

 

 

 

4小節目~

 

次も似たような手法で書かれています。やはりレとレ#、ファとファ#などが入り混じって不安定な響きになっています。6小節目のE mコード到達するまではすべてのコードの出身キーが毎回変わるっているのがわかります。

 

面白いのは5小節目の①と②の部分で①のレ#はKEY-Emの導音として取れますが、普通に考えると②のソ#はM7となります。

 

5小節目のAmはKEY-EmのⅣであり、またKEY-AmのⅠとも考えれば②のソはKEY-Amの導音とも取れますが、不思議な響きです。①も②も次の音へのクロマティックオルタレーションと解釈もできますが、いずれにしてもバッハがイエスのフラフラの不安定な足取りを調や旋律の不安定さで表現しようとしていると考えるとなぜこんな不安定な響きにしているのか?に納得がいきます。

 

 

 

6小節目の音階上行はイエスがゴルゴダの丘への坂道へ上る描写で、最後はC音はChrist(キリスト)のCであると言う人がいます。

 

本当のところはバッハに聞いてみないとわかりませんが、God=G(ソ)やDeus=D(レ)のような音楽修辞法的な用法はバロック時代の曲によく見られる表現なのであながち間違っているとも言えません。

 

 

こんな感じで合唱が入ってくる前の序奏は不安定なハーモニーを響かせながら、12/8拍子ののっそりと歩みで進んでいきます。イエスがフラフラ苦しそうに歩きながら坂道を上っていく描写を上手に表現しています。

 

 

〇6声対位法

僅か7小節しかまだ見ていませんが、合唱が入ってくる16小節目までは6声対位法で書かれています。

 

和声書法に慣れきっている人にとっては6声対位法は新鮮に響くかもしれませんし、マタイ全体を通しての対位法的な各種の書法は現代の我々にとっても参考になる用法が非常にたくさんあります。

 

 

〇まとめ

楽器はフルート2本、オーボエ2本、ヴァイオリンⅠ、ヴァイオリンⅡ、ヴィオラ、通奏低音としてオルガンというオーケストラと呼ぶには小さい編成ですが(バロック時代にはまだ古典期以降のオーケストラ編成はありません)、こういうった6声対位法の書法は現代人にとっても示唆に富んだものであり、近代の管弦楽法でアレンジすればもっと豊かな表現が可能なはずです。

 

 

またこれはバッハに限ったことではなくベートーヴェンやモーツァルトの作品にもよくあるのですが当時の楽器が未発達だったために出せなかった音や鳴らせなかったフレーズを「もし楽器が現代と同じなら大作曲家たちはこうしたはずだ」という現代人なりの解釈で楽器を増やしたり、フレーズを書き換えているものは非常にたくさんあります。

 

これについては賛否両論で私個人としては当時の音をそのまま鳴らす方がいいんじゃないかと思いますが、ロマン期から現代に架けてはよく行われてきたことでした。

 

バッハのマタイ受難曲もYouTubeなどの動画で見ると、普通にバッハの楽譜のには存在しない楽器が登場していることがあります。この辺は割り引いて聞くしかありません。

 

 

また表現したい情景描写を音楽で如何に表現するか?という技法についてもマタイ受難曲は目を見張るものがあります。

 

特に面白いのは修辞法と不協和と歌詞との関係性でしょうか。ここでは音楽修辞法的な話がまだ全然登場していませんが、もちろん先を見ていくとそういった表現はたくさん登場し、加えて今回のアナリーゼで見てきたような調の揺らぎや旋律の不安定のように修辞法以外のバッハ独自のいわゆるBGM的な表現の手法は非常にたくさんあり語るべき内容には枚挙に暇がありません。

 

 

 

マタイ受難曲に関してはいくらでもネタがありますので、また機会があれば続きを書いてみたいと思っています。

 

 


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FETコンプレッサーの王様とも呼ぶべきUNIVERSAL AUDIOの1176実際のアタックタイムが気になったので、本当のところは何秒なのか調べてみました。

 

一応メーカーからは800μs~20μsとマニュアルにあります。1000μsは1msなので=800μsは0.8ms、20μs=0.02msになり、最短で1/50000秒という超高速アタックタイムを持っています。

 

最遅の800μsでも1/1250秒で1msを切っており、この極端に速いアタックタイムがパンチのあるカッコ良いサウンドを生み出すためにボーカルを始め色々なトラックで愛用されています。これは光学式や真空管式と比べると極端に機敏な動作でFETならではの個性とも言えます。

 

しかし、本当にこの通りであればサウンドにパンチを出す効果としてはアタックタイムが速すぎるので実際はもう少し遅いのではないか?と思いました。

 

 

1176は「1~7」で右側の数字が大きいほど速くなる

 

 

1176は普通のコンプと逆になっているのでわかりにくいですが、アタックもリリースも右側が速くなります。つまみの7が最速(20μs)で1が最遅800μsになります。

 

 

〇実際に最速と最遅を調べてみました。

WAVESのCLA-76

 

 

測定にはWAVESのCLA-76を用いました。

 

最も遅い「1」約8ms(公称800μs=0.8ms)

 

公称800μs=0.8msですが、実際にはその10倍で8msです。これでも十分速く耳ではっきりアタック感を残せる20msあたりのアタックには出来ませんが、個人的には速い設定の中の遅い設定という感じです。

 

 

 

最も速い「7」(公称20μs=0.02ms)

 

公称20μs=0.02msの設定は実際には0.4msでした。1msを切っており、十分すぎるスピードを持っています。

 

 

色々なメーカーから1176はモデリングされているのでほかのメーカーの1176プラグインは違った結果が出るかもしれません。

ともあれ実際のアタックタイムは0.4ms~8msであることがわかりました。ほとんどのコンプに言えることですが、額面上の数値よりも実際の動作は遅くなることがほとんどです。

 

 

〇それ以外の中間的な数値。

 

1176は1~7のダイヤル式で整数の中間の値の設定も可能なのですが、小数点の数値は飛ばして整数だけの残りの値も調べてみました。

 

 

「2の目盛り」=6ms

 

 

「3の目盛り」=3ms

 

 

「4の目盛り」=2.5ms

 

 

 

「5の目盛り」=2ms

 

 

「6の目盛り」=0.75ms

 

 

〇有名なドクターペッパー設定は?

 

1176の有名なセッティングのドクターペッパー設定では「アタック」を10時方向、「リリース」を2時方向、「レシオ」は4になっています。

 

アタック10時なら3の目盛りあたり

 

3の目盛りあたりなら3msのアタックタイムというになります。速い部類に入りますが、ほんの少しだけ音の頭が抜けてパンチ感が出る値であり、なるほどロック系のボーカルなどではカッコ良い感じになる美味しい位置と言えます。

 

 

ちなみにリリースののドクターペッパー設定である2時は目盛りでいうと5の辺りであり、測ってみたところ大体80msくらいでした。速くもなく遅くもなく無難な値です。

 

 

 

 

実際にボーカルで1176が使われている例は枚挙に暇がないくらい多く、1176が好きでよく使うという方も多いのではないかと思いますが、ドクターペッパー設定だと上のような波形イメージになります。

 

3ms程度のアタックによるほどよいパンチと当たり障りのない80msくらいのリリースでいい感じのセッティングであり、別に1176でなくても使えるセッティングで似たような設定を使う方は多いのではないかと思われます。

 

 

〇まとめ

 

前回の記事で適切な処理を出来るかどうかということについて述べましたが、ミックスでは求める効果は千差万別です。もっと遅い20msのアタックや1msの極端に短いリリースが必要なら1176では不可能なので「なんとなくカッコ良いから、ネットで評判が良いから」などの理由で1176を使うのは不適切ということになります。

 

 

WAVES C1

 

仮にドクターペッパー設定ががっちり自作のボーカルコンプにハマったならデジタル系のコンプで似たような設定にしてみる実験を行うと良いかもしれません。

(これもプラグイン上の数値と実際の数値の違いを測る必要があります)

 

 

仮にWAVES C1でドクターペッパー設定にすれば当然1176でのドクターペッパー設定と似たような音になります。Bulestripeのようなヴィンテージ的な歪みは入りませんが、逆にこれ以上歪ませたくないクリーンな処理がしたいケースもありますのでそういう場合はむしろデジタルコンプの方が良いとも言えます。

 

 

ミックスでは「なんとなく」ではなく、ちゃんと目的やコンセプトを明確にして適切な処理を行うことが重要であり、それが果たせるならデジタルコンプでもミックスでの調整は可能ですし、果たせないなら1176やLA-2Aや670などのプラグインを買っても十分な性能を発揮することは出来なかったりします。

 

 

初学者の方であれば「じゃあEDMやメタル系の激しい系の音楽にはどういうコンセプトがあって、それぞれはどういうEQやコンプの処理でそれを実現できるの?」という疑問が起こるかもしれません。

 

それに関してはある程度ミックスが上手な方は方法論とか定石をお持ちでしょうが、ジャンルごとの方向性や個人の趣味嗜好、あるいは曲ごとのケースバイケースなど色々で一概に〇〇〇と言えなかったりします。

 

 

ミックスでは高いコンプやEQを買うことよりもむしろそちらの方が重要だと個人的には感じていますが(高いものを買うのを否定しているわけではありません。むしろお金に余裕があるならある程度揃えた方が良いと思います)この部分がミックスの難しいところでもあり、また面白いところでもありますが、それについては機会があれば別の記事でまた述べてみたいと思います。

 

 

 


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今回はミックス初学者の方へのアドバイスです。

音楽制作においてエフェクトに何を求めるかは個人の趣味嗜好や方法論などによって千差万別ですが、ここでは大雑把に

⓵ミックスにおいて馴染ませたり全体のバランスを取るためのエフェクト

②掛け録りまたは音色作りのためのエフェクト

の2タイプに大別してエフェクトの意義を考えて使い分けることについて述べています。

 

生徒さんなどで両者をごっちゃにしてしまってミックスのクオリティーが上がってこない方をよく見かけますのでまとめてみました。

 

 

■前置き

 

⓵レコーディング用とミックス用の違い?

 

・レコーディング用はざっくりとした音作り

・ミックス用は細かい調整

 

 

ヴィンテージ系コンプやEQはミックス用?録り用?

 

 

・ミックス的な視点から

ミックス用は細かい調整はトラックを磨いたり、相互関係における調整を行うための行程です。

例えばイコライザーであれば普通はミックスにおいて全トラック間の相互関係を考えてスペースを生み出したり、安定した力強い低音やパンチのあるサウンド、抜けてくるボーカルなどを作り出すためにいろいろな周波数を調整します。コンプレッサーやほかのプラグインでも同じです。


 

DMG AUDIO EQUILIBRIUM

 

一例を挙げるならボーカルは2.5kHzを広めのQ幅でブーストして抜けてくるようなサウンドにし、対してギターはボーカルの基音や低次倍音がいる500Hzあたりと2.5kHzあたりは軽くカットしてボーカルにスペースを提供し、代わりに1.5kHzや4kHzをブーストし、ドラムの金物系は5kHzあたりで攻撃的なニュアンスを強調する…などのそれぞれのトラック同士の相互関係からEQのブーストorカットを考える場合です。言葉にすると細かいかもしれませんが、どなたもやっていらっしゃるであろう処理です。

 

 

こういうのは一般的なミックス行程の範疇で小回りが利くパラメトリックEQが用いられます。

 

 

Fabfilter Pro-Q3

 

私の好きなDMGのEQUILIBRIUMやFabfilterのPro-Q3などのデジタルEQ、あるいはBRAINWORXのbx_hybridやWAVESのRenaissance EQ、DAWに付属しているようなパラメトリックEQなどは完全にミックスで使用するためのもので、サージカル(手術)的な処理から自然な音作りまで色々可能です。

 

ヴィンテージ的な音色はないかもしれませんが、ミックスに必要とされる様々な細かい調整・補正に適しています。

 


 

・録りや音色作り的な視点から

NEVE 1073

 

次に有名なNEVE1073を見てみましょう。こういったタイプはパラメトリックEQに比べて細かい処理に難があります。

 

 

例えばミックスでのキック処理でベースのとの競合を避けるために150Hz付近をピークディップの細いQ幅でカットしたいとします。このときNEVE1073は低音は110Hzと220Hzのスイッチ式なので150Hzをそもそも指定することが出来ませんし、何よりもシェルビングタイプオンリーなので目的の処理(細いQ幅でのピークディップ)を行うことは不可能です。

 

 

また低音をブーストするにしてもピークディップにも出来ず、Q幅も変更できませんし、キックで80Hzをブーストしたいとしても50Hzと100Hzのスイッチ式なので80Hzを指定すること自体が不可能です。

 

HPFも6dB/octや12dB/octのようにカットカーブをコントロールすることも出来ません。

 

 

API 550A
 

API550Aもヴィンテージ系では人気のある有名機種ですが同じくキックの処理でベースのとの競合を避けるために150Hz付近を細いQ幅でカットしたいとします。このときAPI550Aは低音は100Hzと200Hzのスイッチ式なので150Hzをそもそも指定することが出来ませんし、Q幅も変更できません。

 

ほかに例を上げることはできますが、ミックスにおける細かい処理をするのに向いてないわけです。

 

 

この手のタイプはギターアンプやシンセなどのざっくりとした「BASS」「MID」「TREBLE」のようなトーンコントローラー的なものと考えても良いかもしれません。

 

 

 

ギターアンプの簡易EQ(トーンコントローラー)

 

NI社 MASSIVEのEQ(トーンコントローラー)

 

ミックスで行うようなイコライジングではなくてアレンジやレコーディングの段階の楽器の音作りなどで例えばギターアンプについている簡易的なEQ(トーンコントローラー)をギタリストが最初にアンプで音作りをするときにミックスのことを考えて先ほどの「今回の曲はロックだからボーカルでは2.5kHzあたりを強調するだろうから自分のギターをそのあたりを少し控えめにして逆に4kHzを強調しよう」なんてことを最初から考えたりする人はあまりいないはずです。

 

 

そもそもアンプ付属の「BASS」「MID」「TREBLE」みたいな簡易トーンコントローラーでは細かい調整は不可能ですし、別途ストンプやマルチエフェクターでEQを入れる場合でも全トラック出揃った上でそれぞれの役割を考えた上で決めることなので最初のギターの音作りから緻密に考えることはあまりありません。

 

NEVE1073やAPIなどのヴィンテージタイプのイコライザーは、さすがに3バンドの簡易EQよりも細かい処理は可能ですがざっくりとした音作りしかできません。

 

 

いろいろな考えがあると思いますが、ミックスで行う予定の処理と矛盾するような音作りは推奨出来ませんし、レコーディングの経験を積めばエンジニアとのやりとりや実際に自分のギターがどう仕上がるのか?という結果によってライブとは違ってレコーディング特有の音作りみたいなアプローチも生まれてくるのかもしれませんが、ミックスを言葉通り曲全体の各トラックを馴染ませたり、バランスを取ったりするという意味において「2.7kHzを3dBブーストして~」「15kHzにLPFを入れて~」などのような緻密なイコライジングを最初のギターアンプでの音作りで行うのはナンセンスと言えます。ほとんどのギタリストは自身の感性に従ってカッコいい音、曲の雰囲気に合った音を作るのが普通です。つまり純粋に音色作りの側面からEQを使うわけです。

 

 

 

ギター用コンプはミックスでのコンプと使う目的が異なります。

 

コンプでもギターのエフェクターとしてコンプはピッキングによる音の粒を揃えたり、音をパキパキした感じにしたり、長いサスティーンを得たりなどのミックスで使うのとは違う目的(演奏の表現・効果)でコンプをギタリストたちは使っていて、ミキシングエンジニアが行うようなほかのトラックと比べて、あるいは平歌とサビに差をつけるためにパンチのあるサウンドにするためにコンプを使ったり、全体のダイナミクス管理をしたり、全トラック間での奥行きをコントロールするためにコンプを選択し、また設定を決めているわけではありません。純粋に音色作りの面からカッコ良いギターの音にするというコンセプトで使う人がほとんどのはずです。

 

全く同じことがシンセなどのほかの楽器にも言えます。

 

 

 

 

TELETRONIX LA-2A

 

 

ボーカル録音で愛用されるLA-2Aも同じで、この機種は最も有名な光学式コンプですがレシオ、アタック、リリース、ニーなどすべてが固定で自分で変更することが出来ません。

 

 

しかし実際のミックスではアタックをもっと遅くした方が良いとか、レシオをもっと下げてコンプ感を減らす、逆に上げて音圧を出すなどのアレンジの方向性全体に即した処理やほかのトラックとの相互関係で変えていくことがほとんどです。

 

 

録りの段階でのざっくりとした音作りには向いていますがミックスにおける調整という意味では不適切と言えます。

 

 

UNIVERSAL AUDIO 1176

 

 

またキックの音をカッコよくしたい、パンチのあるキックの音を作りたいと言う目的でネットや雑誌などでよく見かける1176を使っている生徒さんをたまに見かけます。

 

この機種はFETなのでアタックタイムが非常に速くキックのパンチのあるサウンドを作るのに適したアタックタイムである20msくらいの値を作ることが出来ません。

(公称20μsec~0.8msです)

 

 

ネットでよく見るヴィンテージのカッコいい機種だからなんとなく使うみたいな感じだとキックのアタックは逆にベチャっと潰れてしまいパンチのあるサウンドにするという目的からは真逆になってしまいます。むしろそのべチャッっとした感じが目的とした音なのであれば話は変わってきます。

 

 

LA-2Aや1176は非常に優れたコンプレッサーですが、細かい調整がし難かったり特性がピーキーだったりするのでミックスでの音作りを細かく追い込んでいくためのものというよりは録りの段階でのざっくりとした音作りで使うのに適しています。

 

 

 

それがギターでもボーカルでもベースでもドラムでもシンセでもそれぞれの奏者やトラックの音をまずはカッコ良い・曲の雰囲気に沿ったものにするべきであって、全トラックが揃った時点での細かい調整はミキシングの領分です。この音色作りとミックスでの調整が自宅DTMでの作業ではごっちゃになってしまい、結果としていまいちミックスのクオリティーが上がってこない原因の1つになっているケースがあります。

 

 

 

WAVES C1

 

細かい調整を行うならデジタルのWAVES C1みたいなコンプの方がよほど小回りが利くので調整には適しています。1176やLA-2Aのほうがなんとなくカッコ良いと思う人がいるかもしれませんが、ミックスでは何よりもその曲やトラックに適切な処理が出来るかどうかです。

 

 

いくら高級で人気があるハサミでも、カッターの方が適切な場面であればカッターを使ったほうが良い結果が得られる場合があるということです。

 

 

初学者の方でミックスでの細かい調整が必要なトラックに対して細かい調整が出来ないヴィンテージ系を(多分ヴィンテージでカッコ良いとかネットで音が良いなどの記事を見たからなどの理由で)使うことで逆に意図から離れてしまっているのを見かけますが、本来するべき適切な処理をせずに1176やLA-2Aなどを使うよりも、しっかりと音色作りを行って、WAVESのC1のようなデジタルコンプできっちり適切な処理を行った方が結果として良いミックスになる例はいくらでもあります。

 

 

少なくともミックスではコンプやEQの種類よりも適切な設定やコンセプトが重要であると言えます。もちろんそれらを踏まえた上でヴィンテージでも高級機でも任意のものを選択するのは良いことです。

 

不適切な処理ではあるけれど有名な、あるいはヴィンテージのコンプレッサーやイコライザーを使う場合とDAWに最初から付属しているレベルの簡易的なコンプやEQではあるけれど、その曲のコンセプトにがっちりはまった適切な周波数処理やコンプのセッティングをするなら明らかに後者の方が良いに決まっています。

 

 

 

・おすすめのアプローチ

 

DTMで作業を行うときに個人的にお勧めなのが「音作り」と「ミックス」を分けて考えることです。

 

 

 

 

例えばNEVE1073を使ってレコーディングされたボーカルがセッションに並んだときにEQ処理が不要か?というとそんなことはありません。全体の中でちゃんとボーカルが抜けるように、またトラック全体に馴染むように処理を行うのが普通です。ドラムでもギターでもベースでも同じはずです。

 

 

では1073はEQを全く触らないのか?というとそういうケースもあるかもしれませんが、最終的な完成像を見据えてEQの設定を行うのが普通かと思います。

ここで行うEQはあくまでざっくりとした音色作りでギターアンプの簡易トーンコントローラーみたいなニュアンスであるということです。

 

 

つまりざっくりとした音色作りの領分とミックスの調整の領分に分かれているということであり、音色作りという面では1176、LA-2A、1073などのヴィンテージタイプにアドバンテージがあり、逆にミックスでの調整という意味ではデジタルのパライコやWAVESのC1などのようなデジタルコンプにアドバンテージがあります。

 

 

 

両者をごっちゃにすることも可能ですし、自宅DTMでの作業は全部の行程を一人で行うので区別して考えにくいという側面があるのも事実です。ソフト音源から書き出された音をそのままミックスするときに調整が必要なトラックにヴィンテージ系のコンプやEQをインサートするという人も多いのではないでしょうか。
 

 

エンジニアが(調整が必要という意味の)ミックスでLA-2Aや1176を使っているのをyoutubeなどの動画で見たことがある方もいらっしゃると思います。

 

それ自体は決して悪いことはなく、問題は必要なミックスにおける調整が出来ているか?目的のサウンドに近づいているか?です。

それが合致するなら問題はありませんし、実際そういう使い方をする方もいらっしゃいます。

 

エンジニアの方たちはそれぞれのプラグインの個性・特性などを熟知しているので必要な処理に合ったプラグインを選んでいくことができますが、初学者の方が同じことをするのは難しいかもしれません。

 

 

細かい調整が必要という意味でのミキシングにおいて細かい調整が不可能なタイプのヴィンテージ系のプラグインを使うのはアレンジ、録音、ミックスは一連の繋がった行程とすればそれも決して間違いではないのですが、個人的にはやはり実際のレコーディング現場で使い分けられているように自宅DTMでも分けて考えた方が良い結果になるのではないかと思います。

 

 

 

音作りはそれぞれのトラックでとりあえず曲の方向性に沿って自分が良いと思う音を作っていけばいいわけで、細かいことはミックスで行います。アレンジの中で高域や中域など特定の音域が薄い場合にある特定の楽器のハイやミッドをブーストしたりすることもありますが、あくまでざっくりとした考えで行うのが普通です。

 

 

つまり音作りのコンプやEQというのはミックスで行うような相互関係や聴きやすいサウンドにするための調整・微調整ではなく、純粋にカッコいい音や曲の雰囲気に合った音を目指していけばいいわけです。

 

 

 

・まとめ

 

DTMの世界ではいわゆる往年の名器と呼ばれるヴィンテージ機材のプラグイン化が進んでおり、有名どころはほぼコンプリートで1176,LA-2A、1073などをモデリングしているメーカーは大手から中小のメーカーまでたくさんあります。

 

 

こういったヴィンテージ機器はカッコよいイメージもあり、また宣伝も巧みで購買意欲を唆るものも多く、特に初学者の方にこういうのを買えば良いミックスが出来るんだ~みたいなイメージを漠然と与えたりします。

 

 

既に述べたように切なのはイメージや明確なコンセプトであり、それに沿った各種の(処理)技術行程です。良い道具も使うべき場所とタイミングで適した使い方をしなければ自分の目的から離れてしまい、時には逆効果になることすらあり得ます。

 

 

宣伝やネットの記事で持ち上げられている1176やLA-2Aを自分の曲のミックスに挿したのにいまいち曲のクオリティーが上がってこない。せっかい高い金出して良さそうなプラグインを買ったのに…というケースは少なからず初学者の方にはあり得ます。

 

 

本当に必要とされる適切な処置が出来るならミックスにおいて実際はそんなにたくさんのコンプやEQが必要なわけではありません。

 

 

 

逆に音色作りやキャラクター作りの側面から見ると、特にヴィンテージ系はそれぞれが特有の強い個性を持っているのでいくつも欲しくなったりします。だからこそ1176やLA-2Aや1073などの機種は長年愛されてきたわけですし、多分これからもそれぞれの個性的な音は多くのエンジニアやクリエイターに愛され続けると思います。

 

 

両者の行程をごっちゃにせずに、住み分けで考えることでミックスのクオリティーが上がることは十分にあり得ますので、心当たりがある方は是非試してみてください。

 

 

 

 

 


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よくドビュッシーやラヴェルは旋法的と言われますが個人的にはラヴェルの方が旋法色が強いと感じています。

 

一般的に旋法と言っても長いスパンで使われることはあまりなく、どちらかというと一時的に調性感をあやふやにしたりして和声的な多彩感を得るために用いるケースが目立ちますが、ここではその使い方を少し述べてみます。

 

 

■ドビュッシーの例

 

 

ドビュッシー 牧神 50小節目

 

 

ドビュッシーの牧神の50小節目を見てみましょう。E♭7-5(=A7-5)はKEY-A♭のドミナントでコードでトニックであるA♭M7にドミナントモーションしています。

 

ここだけ見れば普通にⅤーⅠなのですが、旋律がソミ♭ドソミ♭と下がってきて最後にレが♮になります。

 

 

KEY-A♭は♭4つの調ですが、レが♮になるとKEY-E♭になりA♭M7コードはKEY-E♭の4番目、つまりリディアン化されます。これは古典和声でいうところの借用転位音ですが、瞬間的にリディアンを混ぜて古典的なわかりやすい調性感から脱しています。

 

 

その後A♭M7はA♭7にドミナント化されてKEY-D♭のⅤになり再び転調していきます。

 

 

ドビュッシー 牧神 107小節目

 

 

上の譜例は牧神のラストです。無調的な平行和音っぽいフレーズのあとにドビュッシーお得意のE6の付加6の和音が続きますが、ラが#している点がポイントです。

 

 

KEY-Eは#4つのキーなのでファドソレまでが#しますが、ここではラまでが#しているのでKEY-Bの#5個になりコードがE6なのでやはりEリディアン化しています。

 

 

その直前の107小節目も無調っぽく、最後はリディアンなのですが全体として牧神は調性での分析が可能であり、調を彩るために旋法やモードやホールトーンが用いられているという表現が適切であると言えます。レッスンでも理論の理解度の確認や近代フランス和声の勉強をしたい方に対してよく課題に出しています。


 

2つ例を上げましたが、1つ目の例は一瞬、2つ目の例は最後の3小節だけで長い時間使い続けるというよりは大前提として調的な作られ方をしているけれどもところどころスパイス的に旋法が短く用いられているという感じです。

 

 

使い方としては短く感じるかもしれませんがスパイスとしてはこのくらいでも十分な効果があります。トウガラシや胡椒は少しかけるだけで良いのと似ているかもしれません。

 

 

 

■ラヴェルの例

 

次にラヴェルの例を見てみましょう。まずは前述のドビュッシーと同じような使い方をしている例を見てみましょう。

 

ラヴェル クープランの墓より前奏曲 冒頭

 

最後のBmはKEY-Emなのでドがナチュラルのはずですが、ラヴェルはこれをフリジアンからエオリアン(またはドリアン)化しています。ドが#するのでちょっと違った雰囲気が一瞬混ざりこみます。

 

こういった例は枚挙に暇がなく先輩のフォーレにも多数見られます。また古くはベートーヴェンやモーツァルトにも見つけることが出来るのですが、近代フランスではこれを意図的に強調して使っているように感じます。

 

 

次に旋法の用法を別の角度から見てみましょう。ラヴェルはドビュッシーと比較すると旋法色が幾分強いように思えますが、色々なケースがあるので一概には言えないもののそう感じる理由の一つに長いスパンで旋法を使うことが多いというのがあります(ドビュッシーも1つの旋法を長く使うことはあります)。

 

 

 

例えばDmG7Cという進行があったとしましょう。これは普通に考えればKEY-CのⅡ→Ⅴ→Ⅰと誰もが答えるはずで当然旋法ではありません。しかし最初のDmが10分間続けば少なくとも最初の10分間はDドリアンモードなわけで、これをドリアンモードの曲と判断しても最初の10分間だけを切り取って考えるなら間違いではありません。

 

 

トニックコードを出さないこと、ドミナントモーションを避けること、Ⅰ以外のいずれかの和音を中心和音のように扱うこと、ある程度長いスパンで用いること、これらを守ると結果的に旋法のような響きになります。

 

 

 

ラヴェル 弦楽四重奏 展開部に入って間もない部分

 

 

上の譜例ではチェロのミとシを2重ペダルと考えれば偶成でBmDが入っていますがE7が長く続く箇所です。KEY-Dの部分なので古典和声でいうところのⅤのⅤの和音なのですが、トニックコードが鳴らずにそれ以外の和音の持続時間が長いので旋法感が強くなります。

 

ラヴェルの弦楽四重奏にはロクリアン#2スケールやコンディミを長時間用いることで調性感を埋没されている箇所がいくつも見られます。

 

 

トニックコードが登場しない、あるいはⅤ-Ⅰなどのドミナントモーションが存在しないと調の確定度は下がります。調号から判断するという意味で#や♭が1つもなかったらKEY-Cという判断もありなのかもしれませんがDm7FM7の反復しかなくこれが30秒続くなら、少なくともバッハやモーツァルトのような古典的な意味での長調とは言えません。

 

ラヴェルの曲では使い方は色々ですが、トニックコードを出さずにドミナントモーションも避け、代わりにⅡ度やⅣ度やⅤ度のコードを中心和音のように扱うことで結果として旋法的な響きになっている例が多数あります。

 

 

 

■ホールトーンやコンディミも似ている

 

古典的な意味での調性ではないという意味では旋法もホールトーンもコンディミも同じです。調性から離れて新しい響きを出すための選択肢はいくつもありますが、いずれにしても【調から離れる】という点では共通しています。

 

 

ラヴェル 水の戯れ 5小節目

 

ラヴェルの水の戯れはもちろん調性ですが6小節目でホールトーンが出てきます。これをやると一時的に調性がぶっ飛んでしまいますが、すぐにまた調に戻ってきます。

 

 

 

 

ドビュッシー 牧神 91小節目

 

 

ドビュッシーもラヴェルの例と似ていてG#m→G#7とドミナント化した後でG#7の間に偶成和音としてホールトーンの刺繍和音が入ります。

 

ホールトーンは古典的な意味での調性ではないのでコードネームは便宜的なものですが、調性の中にホールトーンやコンディミを混ぜて一瞬だけ調がぶっ飛ぶという点では同じであり、コンディミでも同じ例が多数あります。

 

 

しかし旋法と同じである程度長いスパンで用いる例もあります。興味があればラヴェルの弦楽四重奏の展開部4群や5群を見てみましょう。それなりに長いスパンでコンディミが用いられているのがわかるはずです(しかし調的な分析は可能です)。

 

 

ホールトーンをかなり長いスパンで用いている例としてはドビュッシーの前奏曲集の「帆」が挙げられます。この曲は珍しく長いスパンでホールトーンを用いているので調性の中でのアクセントというよりは無調的なニュアンスの強い曲になります。

 

 

 

 

 


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今回はネットでイラストや音楽などのお仕事をなさる方向けに制作物の持ち逃げなどをされないためのアドバイスを書いてみたいと思います。

お仕事である以上は様々なトラブルが付き物ですが、残念ながらは同人サークル界隈ではよくありますし、商業の世界でも様々な事情であったりします。


既にお仕事をなさっておられるクリエイターの方の中には「うちもやられたことある」という方も多いのではないかと思います。私もやられたことがあります。

 


お店での万引きや食い逃げみたいなもので完全に防ぐことは難しく音楽やイラストだけでなくその他全般のビジネスでよく聞く話ですし、ネットの普及によって個人事業で少額の制作を行う方も近年では多数おられますので被害もちょくちょくネット上で散見します。


ここではそういったネット経由で制作物の依頼→納品を行う方のために作品を騙し取られないためのあくまで私なりのやり方や考え方ですが紹介していきます。



またクリエイター視点で書いてありますが、クライアント視点から見ても仕事をする上で両者の信頼関係を築くという点では同じように役に立ちます。




①相手のことを調べる
最近はネットでちょっと検索すれば相手の企業名、サークル名、ハンドルネームなどすぐに出てきます。過去の作品などが既にあり、名前が世に出ているならクライアント側にも不義理をすれば当然リスクがありますから、制作物の持ち逃げされるリスクは減ります。


減るというだけでゼロになるわけではありません。クライアント側にも企画が倒れたとか、会社が倒産したとか、病気や事故などの止む無き事情で結果として制作物の持ち逃げというケースはありえます。

全く名前が出てこない場合は完全な新人か偽名かのどちらかになるので慎重になる必要があります。

 



②-1覚書(契約書)を交わす
仕事として制作物を作る上で明確にしなければならないのは【具体的な内容】【納期】【報酬】そして万が一【それらが守られなかった場合の処置】です。

参考になるかわかりませんが、私が普段使っているものを掲載します。

具体的な内容は毎回変わってくるので使用する際は随時改変・追加・削除して文言を変えてください。

まず見積もりを出します。ご依頼の内容に対してこれくらいの金額になりますというものを書面にします。

 

次に覚書(契約書)です。先ほどの【具体的な内容】【納期】【報酬】【それらが守られなかった場合の処置】細かい内容を具体的にします。

 




具体的な内容を決めておくメリットは例えばBGMの依頼が1曲あった場合、
通常はWAVEやOGG形式で納品して完了ですが、
・納品後にサントラを出したいからDDPにして欲しい。
・ループ用と完全に終わる用で2バージョン作って欲しい。
・曲中の〇〇秒の部分から区切って別バージョンを用意して欲しい。
・付属の特典として楽譜を作って欲しい。
・MP3の色々なkbpsのバージョンを一通り作って欲しい。
etc…

時にはある仕事に付属して別の内容がくっついてくることがあります。無料でやっても良い簡単なものもあれば、別料金でやる必要がある大変な内容もあります。


クライアント側としては「頼むついでに一緒に無料でやって欲しい」と思っているかもしれません。大切なのは何をどこまでやるのかという明確な線引きをすることです。
ラーメン屋で醤油ラーメンを一杯注文したからついでに「煮卵」と「チャーシュー」と「味付け海苔」のトッピングを無料で付けて欲しいと言えば別料金と言われるでしょう。自分の仕事にメニューのようなを作るとわかりやすくてお互いのためにもなります。



追加で言われたことに対しては追加で対応するのも良いですが、最初に仕事の量や内容と報酬を具体的に明確にしておいた方がトラブルは回避しやすいはずです。【納期】【報酬】に関してはケースバイケースで、【それらが守られなかった場合の処置】も両者協議の上で相談程度で良いでしょう。もちろん相手が何かペナルティーを望む場合は交渉が必要です。




②-2覚書(契約書)を交わすメリット
契約書を交わすメリットは上記の件もそうですが、お互いの氏名や住所などの個人情報を交換出来る点も大きいです。氏名や住所がお互いに知られていれば代金や制作物の持ち逃げもしにくいです。


ちなみに最初からだまし取ってやろう、詐欺に嵌めてやろうとして画策してくる人はこの個人情報の交換をとても嫌います。
氏名や住所が相手にバレるのは犯罪が露見した時の大きなリスクですし、契約書ももし警察のやっかいになった際に重要な証拠になります。


現実問題として少額の仕事であれば制作物を持ち逃げされても代金の回収は面倒で難しいのが現実ですが、仕事を始める前のフィルターにはなります。


企業の場合はむしろ向こうから契約書の取り交わしを求めてくることが多く、
同人サークルの場合は口約束が多いのでトラブルが発生することが多いです。


中には(氏名や住所知られるのが嫌で)契約書を嫌がる同人サークルもいるでしょう。
そういった場合は初めての方には全員お願いしている旨を説明し、それでも相手が自分の個人情報を知られるのを嫌がる場合は何かあると考えるのが妥当です。


スマホの契約なんかでも住所や氏名を書かされますが、それを頑なに嫌がるのは最初からこちらを詐欺に嵌めるつもりか、過去に脛に傷があるかという場合はほとんどでしょう。



②-3覚書(契約書)の交わし方

少額の同人の仕事であればそこまでしなくても良さそうですが、その辺は随時自己判断になります。

前金で全額もらえるなら制作物が持ち逃げされるリスクはないわけでこちらとしては偽名以外何も知らないという状態でもありかな?と思います。少なくとも相手が詐欺である可能性はゼロです。


少額なので住所と氏名と業務内容の確認さえできれば良いというのであればネット経由でPDFなどで十分ですが、この場合は住所と氏名が偽情報かもしれません。
確実なのは割印をして書面を交換することです。

 

 

やり方は以下の通りです。

まず②で説明した覚書(契約書)を作ります。契約内容と自分の住所や氏名などを書き込んだ契約書は2通用意しますが当然2つの内容は同じものです。



1.契約書を2通用意する

相手にも住所や氏名は手書きでお願いするのでこちらもその部分だけは私は手書きにしています。原本と写しと2枚ともに書き込みます。

ここでのポイントは割印が押してある両者が同意した全く同じ2通の契約書を双方が保管していることです。

 

 

2.割印する

 

 

甲は自分で乙は相手です。紙を2枚少しずらして重ねて印鑑が2枚の紙の両方に半分ずつ押されるようにします。上の画像では甲乙両方に印鑑が押してありますが、相手に送る際はまず自分の甲の部分だけ先に印鑑を押しておきます。

 

 

3.相手先に郵送して氏名住所と乙印を押してもらう

 

契約書、自分の住所氏名、割印が出来たら相手の住所に郵送して、同じく2通の契約書に両方に住所氏名を書いてもらい、同じように割印をしてもらいます。この時点で相手の住所が偽称でないことが確定します。

 

割印は知らない方のために鉛筆や付箋でマークを付けて割印を押して欲しい場所をわかりやすくしておくと親切でしょう。

 

 

2枚とも送らないと相手が割印できませんし、2通の内容が同じであることを確認してもらえませんので必ず2通とも送ります。

 

 

 

相手も割印をしてもらうと最終的には上の画像のようになります。2枚セットでないと印鑑がちゃんと見れないのでお互いが納得した契約書ですという意味になります。

 

 

 

4.原本の方を返送してもらう

乙印の箇所に印鑑を押しもらったもののうち原本を返送してもらいます。間違って2枚とも送り返してくるケースがありますが、最初に述べたようにお互いが納得し割印がある同じ契約書を1枚ずつ両者が持っていることに意味があります。写しの方は相手側で大切に保管してもらいましょう。

 

 

これらの行程のメリットは相手が誠実な人間かどうかというのがわかりますし、双方にとって制作物の持ち逃げ、お金の持ち逃げをされないための縛りにもなります。

 

 

印鑑や氏名はともかく住所まで偽って依頼を出すのは相手側も面倒でしょうし、別の特殊詐欺ならともかく音楽やイラストなどの依頼でそこまでする人はいないはずです。

 

 

お互いに個人情報を交換し、契約書を交わせば安心して仕事をすることが出来ますし、万が一何かトラブルがあっても円満解決でき努力をしやすくするための土台にもなります。

 

 

必ずしも契約書は交わさなくても仕事はできますが、少なくとも制作物を持ち逃げされたときに相手の偽名しかわからないというケースを避けることは出来ます。

 

 

またこういった行程は煩雑なので額が少なく、後述の④の前金でもらえるなら契約書はなくても良いという判断もあり得ます。主に金額や規模の大きい仕事でのやりとりになります。

 



④一番良いのは前金

クリエイター側にとって未払いのまま作品を持ち逃げされるリスクを避けるための最も良い方法は前金で全額もらうことです。
 

予め制作内容と金額を綿密に決めて(出来れば契約書を交わす)前金で全額もらえば少なくとも作品の持ち逃げされるリスクはなくなりますが、そうすると逆にクライアント側がこちらがお金を持ち逃げる可能性を憂慮するかもしれません。


契約書があってもそれは完全な仕事を履行するかどうかの保証にはなりませんし、実際郵送で契約書を交わすのは面倒なのも事実です。

 

 

相手が大手であればあるほど持ち逃げリスクは減りますが、そこは会社の方針や個人のこだわりなどがあるので必ずしも前金で全額もらえるとは限りません。

 

 

無名でネットで検索しても何も名前が出てこず、偽名かどうかも疑わしい相手なら全額前金でもらわないと着手しないとか、既に過去に何度も取引があって信頼できる相手なら後金でも良いとか、中間的な感じなら着手前半金に、納品後に半金とか、あるいは分割とか色々なケースが考えられます。

 

 

相手側から見てもこちらが信用できるかどうかは過去の職歴が豊富なのか?身元がしっかりしているか?実務経験ゼロの完全な新人なのか?などによって変わってくるでしょう。過去に○○の作品を担当したなどの職歴があると信用度は高まります。こちらが完全な新人の場合はクライアントから見て信用して貰うのは難しいのが現実です。

 

 

そのあたりは交渉が必要になります。中には同人サークルの場合は契約書を嫌がり、ハンドルネームだけしか教えずに自分の名前や住所は絶対に教えないし、代金は納品後の後払いしか認めないという相手もいるかもしれません。

 

 

交渉の出来ない相手に対してどういう対処をするかはケースバイケースですが、クリエイター側にも自分の身を守る権利は当然ありますから、無茶な要求や不審な対応をされた場合は早い段階で身を引くということも考える必要があります。

 

 

 

④-2アドバイス

「郵送での割印ありの契約書を嫌がる」「住所や本名を教えたがらない」という相手は注意が必要であり、また相手の信頼度が測りきれない場合は出来れば「前金」をお願いしましょう。

 

数千円程度の規模の小さい仕事なら契約書というほどはありませんし、前金か後金かはケースバイケースでしょう。しかし仕事の規模が大きければ10の仕事を2か3つに割ってその都度清算というのもありでしょうし、月締めでその月末までに納品した分を月ごとに支払ってもらうという手法もあります。

 

 

例えばBGMの依頼が20曲だった場合に20曲全部と後払い報酬という風にせずに、例えば3曲~5曲を1セットに分けて納品完了分から4~7回に分けて振り込んでもらうとか、その月に納品完了した分だけ翌月に払ってもらうとか(規模が大きい場合はこれが一番おすすめ)、色々なやり方があり得ます。

 

 

契約書も交わさずに相手のハンドルネーム以外何もわからず、全部納品した後に相手がそれを持ち逃げ出来る環境を作り出すのはある程度のリスクがあるということを覚えておきましょう。

 

 

 

先に食券を買うスタイルか、食後にレジで精算するスタイルかというイメージですが、制作は食堂やレストランではないので、規模の大きい仕事はクライアントさんの負担にならないレベルで分割清算、規模の小さい仕事では前金が望ましいけれど嫌がられる場合もあるので要交渉といった感じが現実的かと思われます。

 

 

 

⑤早い段階で説明しておく

額面の大きい仕事の場合は早い段階でお互いに住所や氏名や印鑑(割印)が必要になる契約書を郵送を用いて交わすことを説明しておくと良いでしょう。

 

具体的な仕事の詳細を詰めるために何度もメールなどでやり取りしてもいざ住所や氏名や契約書という段階になってそれなら結構ですという風になってしまうとそれまでの労力が無駄になります。

 

 

数千円の仕事なら契約書は不要でしょうが最初に依頼の規模や金額を聞いてそれが小さいか大きいかで判断しましょう。

 

 

お互いの信頼のために住所や氏名を交換することが失礼になるということはありませんし、持ち逃げされたり、住所や氏名が嘘だった場合でも数千円の仕事なら持ち逃げされてもそこまで大きなダメージではないはずなので(やられたらくやしいでしょうけれど)そこは割り切るしかありません。食い逃げや万引きを完全にゼロにするのは難しいのです。

 

 

現実問題として警察に被害届を出すかどうかはケースバイケースですし、相手のハンドルネームしかわからなければ代金の回収は非現実的です。住所や氏名がわかっても裁判までやるのはこちらにも膨大な負担が掛かります。

 

 

詐欺師側もそれを狙ってくるわけですが、前述のようにしておくことである程度までクリエイター側は自分の身を守ることが出来るようになりますので是非とも検討してみ欲しく思います。

 

 

 

⑤クラウドソーシングのサイトを利用する

ここで述べているのはあくまでクライアントとクリエイターの直接的なやり取りに対するアドバイスですが、ココナラなどのクラウドソーシング系のサービスを利用すれば色々な面で安心です。

 

もしトラブルが発生しても間に入ってくれますし、代金のとりっぱぐれもないでしょう。各クラウドソーシングのサイトを利用できるので自分でサイトを作ったりして宣伝する手間も省けます。手数料(中間マージン)が取られてしまいますが、小さな仕事を請け負うなら個人で負う制作以外の契約書などの手間やリスクを幾分かの手数料で避けることが出来るのでこういったサービスの利用も十分メリットがあると思います。

 

 

 

色々書きましたが残念ながら万引きや食い逃げならともかく、クリエイターを食い物にして騙し取った制作物でゲームや動画を作る倫理観の欠落した人間がいるのは事実です。同業者からも被害をたまに聞きますし、ネットで検索してもそういった話はちらほら出てきます。

 

 

 

クリエイター側としては前払いなら持ち逃げリスクがありませんが、相手側からすれば逆にクリエイター側がお金を持ち逃げするリスクもあるわけで一概にどのような形式が良いのかは判断が難しく、ケースバイケースで適宜判断となります。

 

 

しかし全く何も対策をしないのと、ある程度まではちゃんと準備をしておくのでは全く違ってきます。

 

 

この記事がクリエイターさんのお役に立てば幸いです。