ラグカフェ編集部の取材メモ

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2024年4月5日(金)から7日(日)まで、香港スタジアムで「HSBC SVNS 2024 HongKong」が開催された。

 

 

HSBC SVNS Seriesは、およそ半年かけ世界8都市をめぐりサーキット形式で行われる7人制ラグビーの大会最高峰だ。今シーズンから男女ともに12チームが参戦、大会数も会場もすべて男女同様に開催されている。

日本からは女子セブンズ日本代表 サクラセブンズが、昨シーズンに続きコアチームとして参戦。“香港セブンズ”は、シリーズ第6ラウンドとして3日間にわたり行われた。

 

 

サクラセブンズは、大会初日の初戦に登場。

この日は、曇っているものの湿度は高めで、スタジアムまですこし歩くだけでやや汗ばむほどだった。

相手はプール同組のカナダ。カナダに先制され、後半キックオフ後にすぐ三枝がトライを決めるものの、得点はその5点のみ。5-24で第一試合を終える。

 

 

お昼を過ぎると、平日にも関わらずスタジアムの客席に人が増えはじめた。チームによっては大歓声がおこり、日本のファンの姿も。

 

 

サクラセブンズ第2試合の相手は、アメリカ。

前半終了間際に、原わか花が得意のランで抜け出しトライを決め、試合終了のホーン後に梶木真凜が追加点をあげるが、最終スコアは12-17。初日は2敗で終える。

 

 

香港スタジアムで開催される香港セブンズは、今シーズンで最後。初日は盛大なセレモニーが行われ、アーティストによるライブが行われたり、DJタイムがあったり、花火が上がったりと、香港セブンズの開催を華やかに彩った。

 

 

 

 

今大会のデザインテーマは「GREATEST HITS」。

大会プログラムなどのアイテムはもちろん、スタジアム全体がこれまでの香港セブンズの歩みをおさめたベストヒット集という趣で、ラジオかDJターンテーブルを模した装飾や派手なネオンサインが会場をより盛り上げていた。

香港スタジアムとの別れを惜しむように、新しいスタートを盛大に祝うように、これまでスタジアムとともに大会を作り上げてきたひとたちの想いが詰まっているようだった。

 

 

 

 

 

 

大会2日目。前日に増して雲が広く空を覆い、朝から霧雨が降り、風もやや冷たかった。

が、ゲートオープンを待っていたのか、第一試合の開始までまだ時間があるにも関わらず、香港セブンズ名物と言われるサウススタンドは、コスプレのファンでにぎわっていた。

 

 

2日目もサクラセブンズの試合でスタート。対戦相手はスペイン。初日に2敗している日本は、ここでどうしても勝ち星がほしいところだ。

 

先制したのはサクラセブンズ。前半3分に辻崎由希乃がトライ。コンバージョンは外れ、ホーン後にスペインが1トライ1ゴールを決め、逆点されてハーフタイム。

後半開始すぐにスペインが追加点をあげ5-12。もどかしい時間帯が続くものの、後半4分に平野優芽がトライ。コンバージョンも決まり、振り出しに戻す。

フルタイムのホーンが響いたあと、原がトライ。ガッツポーズと”ハラちゃんスマイル“を見せ、決勝点をあげた。コンバージョンも決まり、最終スコア19-12で今大会初勝利、プール戦を1勝2敗とし今シーズン初のベスト8入りとなった。

 

ピッチから引きあげてくる際、原と堤ほの花がはしゃぐ様子を見せ、一勝した喜びにあふれていた。

 

 

続く準々決勝の相手は、現在ランキングトップのオーストラリア。最終スコアは0-12だったものの、粘り強いディフェンスで後半は得点を許すことなく強豪相手に善戦した。

 

 

ここまでの試合を終えて、選手に話を聞いた。

 

まず、今大会でもトライを重ねた、原わか花選手。

2日間の手応えとして、「個人としてもパフォーマンスをいい状態に持ってこられているし、ジャパンとしても世界の強豪相手にやっと勝てるパターンが見えてきた。しっかりディフェンスを粘って、ボールを取り返す。簡単にボールを取られることなくいいラグビーができていて、やっと形になってきたかなと思います。

いまのオーストラリアとの試合でも、ディフェンスが粘れたのでロースコアに抑えられた。そのなかで、自分たちがスコアするところまで持っていければ、勝てた試合。いい試合はできたかもしれないけれど、こういう試合で勝てなければいけないから、すくないチャンスのなかでしっかり取りきることが、今後の課題だと思います。明日もしっかり勝てるようにいい準備をしたいです」

 

コアチームとして参戦して2シーズン目。トライゲッターとして活躍が光るが、

「昨シーズンはディフェンスに関してもアタックに関してもがむしゃらにやっていたけれど、今シーズンはどんな試合展開でも、そのときにチームに必要なプレーを考えながらプレーできるようになってきました。冷静に考えられるようになったところは、2シーズン目を迎えて自分が成長できている点かなと思います」

 

香港での試合については、

「香港スタジアムでプレーできるのは今年が最後。香港セブンズの熱気はすごく好きだし、日本のファンの方もたくさん駆けつけてくださって、そのなかで試合ができることをほんとうに幸せに思っています。たくさんの応援があっていまのわたしたちがあるし、日本からこんなに近いところでわたしたちのプレーを生で観てもらえる機会があるのも、とてもうれしいことです。

香港スタジアムはファンとの距離が近いのも魅力のひとつ。試合後のファンとの交流や、日本のラグビーを知ってもらうきっかけになるのではないかなと。それから、“ハラ”という名字が覚えやすいみたいで、外国の方からも“ハラ〜!”と呼んでもらえるのもうれしいです(笑)」

ワールドラグビーの実況も“ハラチャーン”と叫ぶほどの愛されキャラ。世界にファンを獲得しつつあるようだ。

 

原選手個人として、いまもっとも高く掲げている目標は、やはりオリンピックだ。

「パリオリンピックでメダルを獲ることが、チームとしてもわたし個人としても今シーズンの大きな目標。そこに向けて、もう3か月ほどしかないが、1日1日を大切に自分の課題と向きあって頑張っていきたいです」

試合終了直後だったが、時折ハラちゃんスマイルを見せながらインタビューに答えてくれた。

 

 

続いて、昨年からインタビューを続けている吉野舞祐選手。

初日の第1試合は後半6分半から、第2試合も後半4分から出場したものの、試合終了間際に負傷。2日目はベンチにも入らず、客席から試合を見守った。

 

「チームメイトが粘りのディフェンスと継続するアタック、チームがやろうとしていたことをすこしずつ体現しているのを見て、すごく刺激になったし、もっと頑張らないとって思いました。

自分に求められていることは、アタックのチャンスをつくること、横のラインで話してディフェンスは体を張ることで、昨日は出場時間は短かったけれど、すくないチャンスのなかで自分ができることを見せられるようになってきたかなと思います。

明日、試合に出られるチャンスがあったら、日本に残っているチームメイトのぶんまでしっかりやりたいです」

 

HSBC SVNS Series2024としては、残すところ2ラウンド。

「体調不良で欠場したパース大会のあと、バンクーバー、ロサンゼルスと、出場時間は多くなかったけど自分のパフォーマンスを戻せているので、ここからコンディションを上げていきたい。チームのなかでもメンバー争いがあるので、しっかりメンバーに入って、自分のやるべきことを全うして、世界のトップレベルの相手と戦えるようにがんばりたいです」。

そのうえで、パリオリンピックに向けては「メダルを獲ることはチームの目標だし、個人的にも試合に出場してメダル獲得に貢献したい」と語った。

 

最後に、「香港大会はワールドシリーズのなかでも特別で、観客も多いし、日本のファンも多くて、いつもあたたかい応援がうれしい。みんなで“香港の神さまが降りてきた”って話すのだけれど(笑)、それくらい力をもらえる大会なので、明日も上位めざしたいです」

 

 

ラグビーにかぎらず、スポーツに怪我はつきものだ。

セブンズ界のスーパースターであるアルゼンチン代表のマルコス モネタも、今大会1試合目の開始直後に負傷、その後の試合をすべて欠場した。ベンチに引きあげ、頭を抱えて動けずにいる後ろ姿から、その落胆ぶりが痛いほど伝わってきた(もちろん、わたしを含むファンのショックもとても大きく胸が痛んだが)。後日、骨折と診断され手術は成功、パリオリンピックに焦点を合わせリハビリ中とのこと。

アスリートであれば誰にでも起こりうることではあるが、直面したときにどう乗り越えるか、その経験をどう活かすか、そこには必ず心の成長もあると信じたい。

 

 

サクラセブンズは、大会3日目の最終日に7位/8位決定戦に臨み、アイルランドと対戦。格上相手に善戦し、12-5で勝利。今シーズン最高の7位で香港セブンズを終えた。

 

女子優勝は、3大会連続でニュージーランド。

一方、男子はここまで3大会で優勝しランキングトップを断トツで独走中だったアルゼンチンが、前回のロサンゼルス大会から引き続きプレーに精彩を欠き、さらにモネタ欠場で9位に沈み、ニュージランドが今シーズン初優勝。男女ダブル優勝となった。

 

男子は、オーストラリア元15人制代表で125キャップを誇るマイケル フーパーが満を持して登場し、存在感を見せつけた。フランスには、やはり15人制代表のスター選手、アントワーヌ デュポンが加わっている。今大会はノンメンバーだったが、たったひとり加わるだけでこんなにもチームが変わるのだ、ということを早くも証明している。それが、スターなのだ。

いずれもパリオリンピックを見据えた加入だが、混戦を極めるワールドシリーズ男子も、最後まで目が離せない。

 

HSBC SVNS Seriesは、5月3日(金)から5日(日)にシンガポールで第7ラウンド、5月31日(金)から6月2日(日)にマドリッドで最終ラウンドを迎える。尚、マドリッドでの開催は初。

 

 

 

今回は最終日にあたる日に日本国内での試合に帯同する必要があり、大会初日と2日目のみの取材となった。仕事とはいえ、その2日間が想像を超える楽しさだったため、後ろ髪ひかれる思いで香港をあとにした。個人的には2020年の香港セブンズに行く計画を立てていたのだが、COVID19パンデミックの影響で大会自体が中止に。今回は取材であり、当初の計画から目的は変わったものの、4年越しの実現となった。

 

 

 

今年の香港セブンズは、初日30,420人、2日目33,234人、最終日38,011人をそれぞれ動員。3日間合計では101,665人と10万人を超えた。各地で熱狂的に迎えられ、開催都市ごとに大会に特色があるのもHSBC SVNSの魅力だ。中でも香港セブンズは、エンタテイメント性が高く、試合はもちろんその空間にいるだけで楽しい、と根強い人気がある。地下鉄の広告やトラムのラッピングなど街のいたるところで情報を目にするのはもちろん、TVのニュース番組では一般のニュースとしてとりあげられる。ものすごく珍しいことではなく、けれどもみんながすごく楽しみにしていること。当たり前にあるスペシャル。ちょっと外に目を向けると、世の中にはこんなにも楽しいことがあるのだと、しかも、これがラグビーの世界のはなしなのだと、日本の多くの人たちにも知ってほしい。はじめはちょっと信じられないかもしれないけれど。

 

 

(夏)