女子1500mで8位入賞を果たした田中希実さん―。

 その快挙とともに、レース後、大きな声で「ありがとうございました!」と言ってからトラックを去ることが話題にもなりました。

 

 田中さんに限らず、ちょくちょく見かける光景ではあり、実践している市民ランナーの方もおられることでしょう。

 

 で、この「ありがとうございました!」に対し、実はスタート前に「お願いします!」というのがありました。ありました―というのは、今は禁止されているのです。

 スターターの「位置について」(今は、on your mark)の合図とともに、ほぼ全員の選手が「お願いします!」と大きな声を出して一礼する~昔は全国どこでも当たり前にみられたことです。

 ところがある頃から、これが正式に禁止!になります。その理由が凄い!

 

「日本独特の風習であり、国際大会でやると注意され、萎縮してしまい実力を発揮できなくなることがあるから」

 

 え、ええええ~!?と当時は思ったものです。国際大会に出られるようになる人なんかほんの一握りなのに、全国のアスリート(特に中高生)に禁止令を出すとは…。今となっては、さもありなんというところもありますが。

 

 お願いします~で始まり、ありがとうございました~で終わるというのは、日本のスポーツ・部活動的にはアリな話ですね。本当に日本だけなんですけど。

 ただ、「お願いします!」がほぼ全国共通で99%以上のアスリートが実施していたのに対し、「ありがとうございました!」の方は実は必須ではありませんでした。僅かにはいましたけど。

 

 そして「お願いします!」が禁止された今、残った「ありがとうございました!」の方がなんか妙に注目されることが出てきたわけです。

 

 さて、この「ありがとうございました!」は、誰に・何に対してお礼を言っているのでしょうね。それには諸説ありますが~

 

 (1)グランド・コースに対して

 (2)審判さんに対して

 (3)レースを走らせていただいたこと自体に対して

 

 (1)に関しては、レースとは別に、通常練習でも最後に全員でグランドに向かって礼をしてから帰る~みたいな中高のチームがけっこうありますね。

 

 コースに対しての場合、フィニッシュ後、くるりと後ろを振り向いて走ってきたコースの方に頭を下げることが多いようです。

 グランドに対しての場合は、退場時、いちばん外側のレースから出たところでくるりと向きを変えて礼をします。田中さんもこのタイプです。

 

 (2)の場合、昔は計時係の審判さんがフィニッシュ地点の審判台にずらりと並んでいたので、そちらに向かって一礼するというのがありましたが、今はほとんど電気計時なので、ちょっと勝手が違っていますね。

 

 (3)は(1)(2)も含みますので、総括的に―。

 

 

 

 学生時代、全国定時・通信制高校の全国大会の補助員をした時のこと~すれ違う審判・役員・それにわれわれ補助員にまで全員に「お疲れ様です」「ありがとうございます」と言って回っている女子選手がいました。

 厳しい環境に身を置き、大会に出場できることに対する感謝の気持ちを忘れないというのは大切なことですね。

 

 

 男子マラソン

 

 キプチョゲは強かった…。強過ぎた!

 分かってはいたことですが、本当に別格ですね。。。

 

 女子同様、ケニア勢主導というか、皆、キプチョゲ選手を見ながらの展開。序盤、コロンビアのスアレス選手が前に出て、あわよくば逃げようとします。五輪や世界陸上では、この大逃げが奏功することがけっこうあるのですが、さすがにケニア勢がそうはさせず、集団のペースが上がります。

 

 気温はそれほどではないものの、湿度が高いようで、けっこう暑そうですね。小さな揺さ振りもあったのでしょう。徐々に徐々に振り落とされていく選手が出て、集団がだんだん小さくなっていきます。

 けっこう有力選手、強豪国の選手が早めに落ちていくので、あれ?あれ?あれ?みたいな感じもありましたが、そういうサバイバルレースに突入したということなのでしょう。

 

 キプチョゲ選手が飛び出したあとはもう、横綱レースです。後続はすぐに銀メダル争いに気持ちを切り替えたような感じでしたね。結局、4人で銀・銅メダルを争うバトルは、ラストのスパート合戦まで続くという、五輪のマラソン的には珍しい展開となりました。

 

 オランダのナゲーエ選手が銀、ベルギーのアブティ選手が銅メダルを獲得。この2人はもともと仲良しですが、実はともにソマリア出身。五輪のために国籍変更したわけではなく、いわゆる難民です。ラストスパートで、先行するナゲーエが、来い、来い!とアブティを手招きする姿が印象的でした。

 政情が安定しないソマリアは、今回の五輪に全競技を通じて2名の選手しか派遣していません。とてもスポーツどころではないのでしょう。しかし、もしかしたらとんでもなく恐ろしい潜在能力があるのかも…。

 

 この集団からいちばん逃げたがっていたケニアのチェロノ選手はスパート合戦に敗れ、2秒差でメダルに届かず…。すんげえがっかりしていましたね。

 

 日本勢は、有終の美を飾る大迫傑選手が6位入賞!とにかく前半は温存し、余計な揺さ振りには対応しない。勝負どころの切り替えには対応する。対応仕切れずに離されても粘る―。本当に良いレース展開で、まさに集大成という感じでした。メダルがちょこっと見えた局面もありましたが、6位は立派な成果です。

 

 中村匠吾選手、服部勇馬選手は残念でした。中村選手は故障の影響があったのでしょう。服部選手は最後、脚を引きずっていたので、なにかトラブルがあったようですね。

 女子の鈴木亜由子選手、前田穂南選手もそうですが、必ずしも良い状態でスタートラインに立ち、思ったようなレースができた選手ばかりではなかったようです。

 

 これは日本勢に限ったことではなく、けっこう各国のビックネームや有力選手が脱落したり途中棄権したりしていますね。

 

 これには、以下のようなことが考えられます。

 

 (1)とにかく暑さが効いた。

 当初から想定されたことですが、対応仕切れない選手が出てくるのは当然のことです。日本の湿度をきちんと認識してなかったチームもあったことでしょう。

 

 (2)勝負を捨てる

  暑さの影響も含みますが、メダルや入賞の可能性がなくなった・今日は闘えそうにない…と判断した段階で戦意を喪失し、リタイアするか大幅にペースダウンする選手もいます。

 特にアフリカ勢がそうで、エチオピアは今回もまたまた3人とも途中棄権。ケニアのキプルト選手も大迫選手に抜かれ、入賞圏外となった後、棄権しました。

 序盤で早々にやめた有力選手が何人もいましたが、トラブルが起きたというよりも、今日は、ダメそうなので、切り上げた…という感じの選手もいましたね。「完走」に対する価値観の違いがあります。

 

 (3)コンディション不良

 日本もそうですが、各国の代表の多くはもう2年近くも前に決まっており、延期に伴い、あらたに選考をやり直したという国は少ないかと思います。

 この間、年齢的な衰え、故障、延期に伴う計画変更の失敗、それにコロナ禍に伴う練習不足・遠征や合宿の中止・レース勘の鈍り・メンタルの不調等々、あまりにマイナス要因満載で、思ったようにコンディションが整わずにスタートラインに立つことになった選手がたくさんいたことは容易に想像がつきます。逆に、ほぼ万全の状態に仕上げることができた選手は凄いですね。

 

 

 まあ、今回はこういうオリンピックだったということです。

 こんな大変な状況の中、マラソンという大変な競技に挑んだわけですから、なにからなにまで大変だったわけですね。

 

 

 

 女子10000m決勝

 

 広中璃梨佳選手、見事な7位入賞でした。しかも、またまた自己ベスト!

 

 5000mが9位なら、10000mは入賞もあるか!?という期待はしつつも、やはり出場メンバーを見ると、ちょっとビビリます。。。

 

 序盤はスローペースになることを嫌い、積極的に前に出て―と、ここまでは想定内ですが、今回はそれ以上にイケイケ!気味になってた感じですね。こういうのは失敗することもあるのですが、今回はそのまま本当に行ってしまいました。

 

 決してコンディションが良いわけではないので、それで自滅した有力選手がいたのも確かです。一方で廣中選手は、後半、粘りに粘り、その悪コンディションの中でハイレベルのPB更新はやはり凄いですね。秋冬になったらどんなタイムを出せるのか!?

 

 注目の新谷仁美選手は体調不良だったとかで残念な結果でした。「結果がすべて」というのが信条ですから、さぞかし悔しい想いをしたことでしょう。

 

 安藤友香選手は正直、あのスピードレベルのレースになると厳しいのですが、行けるところまで行く・潰れても粘る~で、内容的にはタイム以上の評価ができるかと思います。この経験というか、ここまでスピード強化できたことを本職のマラソンにいかしてもらいたいですね。

 

 男子1500m決勝

 

 5年前のリオ五輪とは打って変わってのハイペースな展開となりました。

 準決勝で五輪新記録をマークしたキプサング選手がラストで競り負け、メダルにも手が届かないという大波乱!…てか、これが1500mの醍醐味です。ガツガツに競って、最後まで分からないのです。

 

 結局、ノルウェーのインゲブリクトセン選手が、更に五輪記録を更新して金メダル!4着まで3分30秒切り!

 陸の格闘技のいちばん面白いところを見ることができました。

 

 

 

 女子マラソン

 

 午前6時スタート。聞いてない…。

 

 ケニア勢主導のレースになった感じですね。

  ケニア勢主導=主力選手が皆、ケニア勢の動向を見て、それに合わせるレースをするということで、誰もがハイペースになることも、スローペースになることも、どちらも想定していたのでしょう。

 結局、超スローペースで始まり、気温が上昇していくにつれペースもまた上がるという厳しい展開。おそらくは小さな上げ下げによる揺さ振りが何度もあったのでしょうが、それはテレビ画面で見ている限りでは良く分かりません。(この点は、「クリール」の方で解説しています)

 

 この展開に徐々に集団が崩れ、1人1人落ちていくという、ある意味オーソドックスなサバイバルレースとなりました。主導するケニア勢も1人落ちてしまいましたが、残りの2人が強いので他の選手は後半のハイペースには着いていくのがやっとという感じになりましたね。

 

 ケニア勢はかなり頻繁に水と氷を取って体を冷やしており、暑さを相当気にしているようでした。アフリカ選手だから暑さに強いというわけではないですね。エチオピア勢はむしろ暑さに弱く、五輪や世界陸上のマラソンでは途中棄権の例が少なくありません。

 

 じわじわペースを上げ、切り崩しを図った上で最後はケニア2人のマッチレース。普通だったら世界記録保持者のコスゲイ選手の方が強いのでしょうが、ラスト勝負のスパート合戦になると、スピード的に勝るジェプチルチル選手の方に利があったという感じです。

 

 日本勢は、一山麻緒選手が4大会ぶりとなる8位入賞!かつての栄光から、常にメダルが期待されてしまうのですが、昨今の情勢と今回のメンバーから考えると、かなり立派な入賞です。とにかくずっと入賞出来なかったのですから。

 サバイバルレースですから、30㎞あたりから切り崩されてしまった形でだいぶ失速もしましたが、それでも大崩れすることなく粘りましたね。

 

 この8位入賞もいろいろな絡みがありました。3位争いをしていたイスラエルのサルピーター選手が突然立ち止まり、脱落。後ろの選手は順位が1つずつ繰り上がった形となりました。

 サルビーター選手はケニア出身ですが、アフリカ系の選手は往々にして、「メダルを取れない…」と判断すると戦意喪失し、こういうことをします。(これも「クリール」で解説しています)

 リザルトを見ると、アフリカ勢やアフリカ出身選手がけっこうDNFになっていますね。これは暑さのダメージの影響ばかりではないでしょう。

 

 男女ともにマラソン界を席巻するケニア勢ですが、かつてはどんなに層が厚くても、五輪や世界陸上の代表は3人だけ!エチオピア勢を含めても6人しかいないし、全員が好調ということもないのでチャンスはある!というのがありました。けっこう自滅もしてくれますので。ロンドン五輪で中本健太郎選手が6位に入賞した時もそういう感じでしたね。

 

 ところが近年は国籍変更をしたケニアやエチオピア出身の選手が多数、違う国の所属で世界ランキングの上位に顔を出すようになっています。卓球の中国出身選手と同じ構図ですね。今日の先頭集団を見ても、ユニフォームの違うケニア人選手が何人走ってんだ!?という感じでした。アジア大会ですら、そうですから…。

 

 こういう状況においては、以前よりも8位入賞のラインがかなり厳しくなってきます。男子のように、今後はウガンダ勢もマラソンで台頭してくることも十分に予想されますのでなおさらですね。

 

 そんな中、非アフリカ系では、アメリカのセイデル選手が銅メダルを獲得したのは驚きでした。とにかく最後まで崩れなかった…。サルビーター選手もこの人には勝てないと思ったのでしょうね。

 まだ実績のない新鋭のようですが、今後、いろいろな意味で注目を集めそうです。(選手村の部屋のエアコンの、英語訳版リモコン取説をインスタにあげて話題になった人です)

 

 

 

 オリンピックや世界陸上のマラソンの展開を予想するほど無駄なことはありません。何が起こるか、分からな過ぎるのです。

 

 予想通り、期待通りになったのは、シドニーでの高橋Qちゃんとシモン選手の一騎打ちくらい。アテネで野口みずき選手が絶対女王ラドクリフ選手を中間スパートで粉砕するとはいったい誰が予想したのか―。

 

 なぜ波乱が起こるのか―。

 そもそも近年のマラソンは、気候やコースといった条件を整え、ペースメーカーを付け、高速モードでのタイム争いを演出してきました。

 それはそれで良いのですが、それと五輪や世界陸上のマラソンはけっこう違います。少なくても野球選手がソフトボールの試合に出るくらいのー。場合によってはテニス選手がバドミントンの試合に出るくらいの違いが生じていることでしょう。いずれも、ソコソコはこなすかも知れませんが、優劣の序列が違ってくるのです。

 

 高温下、ペースメーカーなしの条件下では、スローペースの展開になるか、あるいはイチかバチかで先行して逃げを打って出る選手が出るような可能性があります。

 実際、五輪・世界陸上で、ダークホースが先行して逃げ切った事例は男女ともに1回や2回ではありません。だから分からないのです。

 

 予想をしようと思えば、これまでの実績、ベストタイムを基準にあれこれ語るのでしょうが、それが通用しないのです。なんでもありですね。