今年はたいへんな年になる予感 | こんな本があるんです、いま

今年はたいへんな年になる予感

新年くらい楽しい話しがいいに決まっているのに、出版業界はあまりいい話がない。昨年はGoogle・ショックにはじまり、グーグルに暮れた1年だった。今年もますます危機は進行し、混迷の度を深めるだろう。

まず、流通面での予測しがたい変化の可能性がある。その渦の中心にいるのが大日本印刷(DNP)である。最近のニュースにTRCが帳合をトーハンから日販に切り替えたというのがある。DNPは、TRC、丸善、ジュンク堂、文教堂、ブックオフを子会社化ないし系列に組み込んでいる。このDNPグループの売り上げは丸善(2位、969億=09年)、ジュンク堂(5位、422億=09年1月)、ブックオフ(5位、406億)、TRC(324億=09年3月)、これに文教堂(4位、463億=09年8月)を加えると2584億円に達する。新古書のブックオフを外して計算しても出版物売り上げの10%以上となる。

このグループの対取次、対図書館などを含めた営業政策が、流通に強いインパクトを与えていくことは必至である。トーハン、紀伊國屋書店、凸版などがこれにどう対応していくのか。業界地図がドラスチックに変化する可能性がある。ICタグ問題の行方もここの動向に影響されよう。気がついたら他業界の影響下に入っていたなどとならないように望みたい。

Googleブック検索和解問題は、和解対象が英語圏4カ国に絞られ、日本も対象外になったことで、出版社はほっとしているようだ。しかし、これは和解案が決まりやすくなったということで、今年前半には和解案は承認されよう。米国内でも孤児作品の扱いに依然反発があるし、スニペット表示もそのままで、問題は振り出しに戻っただけだ。和解案が成立すると、これをモデルとして、日本での運用を迫る動きが強まろう。Googleはじめアマゾンその他による電子書籍ビジネスの対日攻勢が本格化するわけだ。

アマゾンのなか見検索やGoogleのパートナーズプログラムに参加している出版社は、出版コンテンツをすでにほとんどかれらにコピーされ抜き取られている。しかも無料でだ。電子書籍配信を迫られた拒否しにくい環境がすでに出来ている。そこでどのような価格設定がされるのか。はたして出版社の販売価格と卸価格の支配力を貫徹できるのか。これはきわめて危うい。全文検索は読者のために必要だ、電子書籍ビジネスの時代だ、などと舞い上がっていると、気がつけばしっかり絡めとられている。もうこれは、大阪城攻防戦でいえば内堀を埋め立てられたようなものだが、面白いのは当の出版社がそうした自覚もないということだ。落城は必至とみた方がいい。

Googleブック検索和解問題では、無断スキャニングによるデジタルデータの削除要請と無断スキャニングに対する損害賠償などの問題が依然残っている。流対協はGoogleに削除要請を行っているが、対応次第では損害賠償などを請求することになろう。先日、フランスで、出版社団体と著作権者団体がGoogleを訴えていた裁判で、原告が勝訴した。裁判も脅しも戦争もビジネスの内と考えるアメリカ企業と付き合うには、それなりの対応が必要なのだろう。

そして、Googleに対抗してということで構想されたらしい、国立国会図書館の長尾館長による電子図書館構想。これを実現するための日本書籍検索制度(ジャパン・ブック・サーチ)提言協議会が、松田正行弁護士を座長に文藝家協会と書協とでスタートした。4月頃に結論をだすという。流対協にも声をかけるといいながら、結局、4者だけで協議していくという閉鎖性も問題だ。入れてくれなければ問題点をはっきりさせておこう。

構想では、第三者機関の「電子出版物流通センター」(仮称)が国立国会図書館で電子化した書籍を無償でもらい、図書館への往復運賃数百円程度の利用料で利用者に配信し、著作権者や出版社に利益を分配していくものらしい。ここにはもう取次店も書店もない。しかも納本制度で安く入手した本を、著作権法の改正で著作権者の許諾なく電子化できることになった国会図書館が税金で電子化し、「電子出版物流通センター」はそれをタダで仕入れ、本の原価とは関係ない根付けで売るという話だ。これでは紙の本は大打撃だし、他のデジタル書籍も対抗できまい。出版社も立ち行かなくなる危険がある。官による民業圧迫の典型だ。Googleよりひどいのではないか。

もともと電子図書館構想の本来の目的である本のデジタル・アーカイブは、出版社や書店の商売を阻害しないように、調整しながら進められるべきである。それは、後世への文書の保存と利用という公共目的で行われるもので、とくにその利用は現存する出版活動を阻害したりすべきではない。出版社が絶版書や著作権保護期間が消滅している書籍を、復刊した場合は、アーカイブ利用は自粛されるべきである。

フランス前国立図書館長ジャン・ノエル・ジャンヌネー氏は、著作権保護期間中の書籍については、アーカイブの対象とすべきではなく、オンラインで提供するか伝統的な形で販売するかは「出版社が唯一の判断者」であり、デジタル化の中で「文化的な役割を担う伝統的な書店を守り後押しすることも、重要な要素となる」と指摘している(『Googleとの闘い』岩波書店)。

また、そもそもデジタル・アーカイブは、長期的な保存に有効かという議論もある。デジタル媒体の寿命は数十年と短いという。出版界は、紙を酸性紙から中性紙にかえることで、数百年の保存に耐えられるようにした。国会図書館は、分館をもっと建てて1点1冊ではなく10冊くらい新刊を購入したらどうなのか。年間10億もかかるまい。

ともあれ否が応でもデジタル化の波は急速に広がる。紙なのか電子化するのかは、出版社側で価格を含め判断していくべきだ。流対協としても出版社主導のデジタル化を今年は進めるつもりだ。それにしても、Google対応といい、ジャパン・ブック・サーチといい最近の書協さんは何をお考えなのだろうか?

高須次郎緑風出版 /流対協会長 )


『FAX新刊選』 2010年1月・191号より