今日から、東京都及び近県で外出自粛要請が始まった。

国民生活にとっては、まさに緊急事態である。

 

厚労省を中心とした霞が関でも、緊急事態対応がずっと続いている。

厚労省の現場には、省内各部署や他省庁からも大量の職員が集められて、文字通り不眠不休の戦いが続いている。

 

感染が爆発的に増えるかどうか、まさに今正念場である。

 

国民も厚労省・政府も医療関係者も影響を受けているあらゆる事業者が、緊急事態の国難の中で、国民の命と健康を守るために限界まで働いたり、不自由を強いられたり、様々なことを我慢したりしている。

 

感染の拡大を防ぐために、今は緊急事態として対応しないといけない。

 

そういうことを一人ひとりが理解して、国民も含めて団結して、ことに当たっている。

 

 

しかし・・・。

 

 

 

  一つだけ、緊急事態対応をとらない場所がある。

 

  

  この国の方針を決める一番重要な機関である国会だ。

 

 

 

 

1.国会対応がコロナ対策の現場の動きを止めている

 

連日、大量の官僚が国会議員への「ご説明」に追われている。もちろん、厚労省でも重大な政策や不祥事などが起これば、これに近いことは起こるのだが、ここまで全方位に国会議員への「ご説明」が増えたことは、筆者の知る限りない。つまり、完全に一省庁のキャパシティを超えている。

 

 コロナ対策を行っている官僚達は、不眠不休で戦っているが、その労力をほとんど「ご説明」にとられてしまう。国民の代表である国会議員への説明は非常に大切なことではある。だからこそ後回しにできないのだが、いくら「ご説明」をしても、対策そのものは1ミリも進まないという状況に陥る。

 

 本来は、検査体制がどうか、ワクチンや治療薬の開発を促進できないか、医療体制の確保がしっかりできるか、マスク等の物資が必要なところに届けられるか、休校や外出自粛に伴う必要な対応は何か、集団感染(クラスター)がどこで起こっているのか、都道府県等との連携はどうか、各省にお願いすることはないか、民間企業にお願いすることはないか、国民には何を伝えればよいか、そういった国民生活そのものを守るために、やらなければならないことを彼らは山ほど抱えている。

 

 

2.いますぐ必要な国会改革:3つの緊急提言

 

3月18日に維新の会の藤田議員がブログでも取り上げていたが、1日だけで厚労省への質問通告をした国会議員が50名以上、合計200問以上の国会答弁作成を行ったとのこと。これは僕の経験でも極めて異常な数である。

 

今、国会が緊急事態対応をとらないことによって、何が起こっているのか、解決策はあるのか、以下詳しく解説したい。

 

(1)国会質問

                                                                                                                    

国会の質疑は、ぶっつけ本番でやっているのではない。裏では以下のような緻密な準備が行われて、初めて成り立つ。

 

① 前日夜まで:議員の質問通告

質問する国会議員が、事前に質問予定の内容を官僚に通告する。ぶっつけ本番で聞かれると、大臣も具体的なことを答えられないので、「状況をしっかり把握して、必要性を検討したい。」みたいな漠然とした答弁しかできず、全く議論が深まらないからだ。政策を動かすための議論に事前通告は必要だ。

     どの国の国会でも党首討論などの自由討議を除けば、事前の質問通告をするが、前日夜に通告するのは日本の国会だけ。日本の地方議会でも数日前の通告だ。

 

② 前日夜~深夜・明け方:担当部署確定・答弁作成

通告を受けると、質問内容に応じた担当部署を決めて、若手が答弁メモを作成し、関係する部署や他省庁とも調整をしながら幹部の決裁をとっていく。

 

③ 深夜・明け方:全ての答弁メモ+参考資料が完成したら、大量にコピーをして、大臣などが翌日使う答弁メモを一式用意する。

     答弁メモ+参考資料を電子データにしてタブレット等に入れれば、深夜の無駄なコピー作業は不要。OECD加盟国30カ国の全てでタブレット端末等を使用。日本の地方議会も約4割の都道府県・政令市で使用している。なぜか、日本の国会では使用されない。

 

④ 朝6時~7時:大臣レク

大臣が出勤してくるので、当日の国会質問の勉強会を行う。どのような質問が出る予定で答弁のポイントは何か、官僚から大臣に説明した上で答弁の方針を決める。国会答弁は官僚が書いた紙をただ大臣が棒読みしているわけではない。官僚の説明を聞いた大臣が、もう少し踏み込んで答えるべきなど議論をして方針を事前に決めるのだ。大臣の指示で答弁を直すこともよくある。ここに、答弁の事前準備の意味がある。

 

⑤ 9時~夕方:委員会本番

大臣等が答弁する最中も、急な質問などの場合に対応できるように担当の官僚が同席する。場合によっては、正確に答弁するために、耳うちをしたり、慌ててメモを書いて大臣等に渡したりする。

 

官僚たちは、今こんなことを毎日やっている。

 

国会での審議は必要なことだし、一つの委員会ならまだ何とか対応できるが、今は委員会が開けばどの委員会でもコロナに関する質問が出る(委員会は概ね省庁ごとにある)。通常は、厚労省への質問なら厚生労働委員会が中心であり、政府全体の重大案件であれば何でも議論する予算委員会で対応する。

 

国会改革緊急提言①

コロナに関する質問は原則厚生労働委員会と予算委員会に集約すべき。

 

 

(2)与野党各党に乱立するコロナ対策会議

 

 国会での議論だけでなく、各政党はそれぞれ別々にコロナ対策について議論する会議を設けている。この議論は議員間で行うというよりも、毎回厚労省を中心としたコロナ対応に当たっている官僚を呼んで説明を求めたり指摘を繰り返している。

 

① 政党ごとの会議

② 政府・与野党協議会

③ 野党合同ヒアリング

 

これらの3つの会議(例えば、与党の会議1つと野党の会議2つ)が並行して頻繁に開催されている。(1)の国会での議論に加えて、概ね1日に3つくらい上記の会議が開催されている。多い日は、予算委員会、厚生労働委員会以外も含めた多数の委員会でコロナの質疑が行われる上に、政党の会議が5つも開催される。

 

 同じ日に、同じテーマで会議がいくつも開催されるので、あちこちに同じ説明をして回っている状況だ。しかも、これらの会議も本番の対応だけではなく、事前の説明を多くの議員から求められる。いわゆる議員レクが山ほど発生している。事前の説明を聞いた上で、政党の会議で質問や議論をするためだ。

 

国会改革緊急提言②

政党ごとの会議はまとめるべき。少なくとも、与党で1つ、野党は合同ヒアリングに集約するなど。

 

 

(3)個別議員の問合せ

 

国会や政党ごとの会議で連日質問や議論がなされているが、それだけはなく、個々の議員からの資料要求、問合せ・説明要求が毎日数十件届いている。

 

現状でも、完全にオーバーフローしていて、議員が設定する期限までに提出できない状況だが、期限までに資料を持って行けないことを官僚を怒鳴り散らす議員もいると聞く。

 

国会改革緊急提言③

個別議員の問合せは、衆議院・参議院の調査室などに一元的に議員の問合せに回答する窓口を作って、まずはそこで受けるべき。

     衆議院・参議院の事務局には各省ごとに調査室という各行政分野のエキスパートの方がいて、平時から国会議員の指示に応じて調査をしている。どうしても調査室が分からないことは調査室から厚労省にまとめて確認をとればよい。

 

 

3.コロナ対策現場の官僚の思い

 

 コロナ対策のような国難に立ち向かう仕事は、官僚たちに非常に複雑な心情を抱かせる。コロナ対策本部に招集されれば、体が何とか持つだろうか、元気で戻ってこられるだろうかといった不安も大いに感じる。実際に、体を壊して対策本部から既に離脱した人もいる。

 

 ただ、一方でものすごく心が震える仕事でもある。そもそも、社会の役に立ちたいという気持ちが強いから、待遇のよい民間企業ではなく官僚という職業を選んでいる人が多い。最近の厚労省の労働環境がひどすぎて民間企業に転職が決まっていた若手が、コロナ対応が始まったので初心を思い出して民間企業の転職内定を辞退して踏みとどまったという話を聞いた。

 

官僚の仕事がいやになって辞める予定だった他省庁の人が、必死に対応している厚労省の人たちを見て、辞めるのではなく、もう一度改革する官僚として頑張ろうと決意したことをツイートして多くの方の励ましをもらっていた。(このツイートは実は印刷して厚労省の対策本部に掲示されている。)

 

 僕のところには、今でも現役の官僚達から悲痛な叫びが聞こえてくる。それは、仕事がきついとか睡眠時間がとれなくて死にそうとか、そういうことではない。

 

死ぬほど頑張っているけど、仕事が進んでいかない。国民の役に立っていると思えない。

 

 そういう叫びだ。全員が異口同音にそう言う。そして、その理由は国会対応だと。

 

 

4.なぜ国会は変わらないのか

 

 上記のように仕事の構造を見ていくと、完全に国会がコロナ対策を滞らせている状況だ。

 

 誰がどう見ても、今の国会の状況は国民にとってマイナスだ。この危機的な状況を変えないと本気で思っている国会議員も何人もいる。

 

 では、なぜ変わらないのか。

 

 国会議員は、悪い人なのか、自分のことしか考えないのか、パフォーマンスしたいだけなのか。それとも頭が悪いのか。

 

 答えはNOだ

 

 彼らは彼らで、国民が抱える不安に一生懸命応えようとしている。だから、厚生労働委員会以外の委員会でも質問の機会が与えられればコロナの質問をするし、自分の党でも議論をしようとする。

 

地元の支持者から問合せがあれば、官僚を呼んで内容を確認した情報を地元に届ける。地元の支持者からコロナ対策について苦情を受ければ、厚労省の官僚を呼んで怒鳴りつける。「俺が厚労省にしっかり言っておいたから。」と地元の支持者に報告する。これは政党を問わない。与党の議員も野党の議員も同じだ。

 

 これらは、この国の民主主義に必要なことだ。不祥事対応のように、官僚をいじめようとしているわけではないはずだ。

 

 ただ、今は緊急事態だ。この民主主義のプロセスを守りながらも、官僚たちに極力対策そのものに集中させるよう、平時とは違う徹底的に効率的なやり方をしなければ、結局困るのは国民だ。その効率的なやり方が、上の2.に書いた「国会改革3つの緊急提言」だ。

 

 それぞれが頑張ることが全体としてマイナスになることが時としてある。一人ひとりの国会議員だって、自分だけ役所への問合せをやめることはできないだろうし、何人かが気を遣っても意味がない。だから、誰かがリーダーシップをもって一斉に変えないといけない。

 

 

5.変えるために必要なこと

 

 私が経験した中で、一度だけ国難を乗り越えるために役所に対策に専念させようと、与野党のリーダーが話し合って全ての国会審議を止めたことがある。与野党合同会議に議論の場も集約したことがある。

 

東日本大震災の時だ

 

国会で質問すれば震災関連の話題一色になり、対策に当たっている官僚たちの手を止めてしまうことになるからだ。そのことは国会議員も本当は分かっている。でも、個々の議員には止められない。各党の指導的な立場にある国会議員の方には、ぜひとも全体最適のためにリーダーシップを発揮して緊急提言を実現すべく話し合いを始めていただきたい。感染がこれ以上拡大するなら、国会を一度止めてもよいくらいだ。本当にこの国が破壊されかねない。

 

 そして、変える力のある国会議員にリーダーシップを発揮してもらうには、国民の後押しが必要だ。国会議員は決して対策の邪魔をしようとしているわけではない。ほとんどの場合よかれと思って、国民の期待に応えようとしているのだ。だから、多くの国民が国会改革を実現してほしいと声をあげたら必ずそれに応えようとしてくれる

 

ぜひ、ご自身の選挙区の国会議員に国会改革を大至急進めるよう、声を届けてほしい。この状態を変えられるのは国民の声しかない。どうか、対策の現場にいる人間に対策に集中させてほしい。

報道によると、与野党の幹事長・書記局長は、17日、国会内で会談し、新型コロナウイルスの感染拡大を受け、政府と与野党が参加する協議会を設置することで合意したそうだ。

東日本大震災の例を踏襲した形で、党派を超えて経済対策や拡大防止策を話し合う予定で、近く初会合を開く方向で、構成メンバーなどを詰めるとのこと。

 

1.政治家と官僚の違い

政治の世界というのは、常に国会議員本人又は所属する政党の支持を拡大する競争である。

官僚の世界は、特定の支持者ではなく全国民を相手に公益を追求するという意識で仕事をしており、この点においてずいぶんと政治家と官僚は違うと感じる。

 

言ってみれば、役所はどこまでも役所だが、政治は民間に近い。

 

そうした競争による切磋琢磨があることが、政策をよりよくしたり、国民に選択肢を提示することにつながるし、政府が暴走することを止める機能もある。各党が独自性を出して自分たちの意見を通そうと働きかけることは、とても重要なことである。

 

一方で、このような意思決定システムの中でものを決めて、何かを実行していくというのは、とても手間暇と時間がかかる。おそらく、日本の中で最も効率の悪い仕事だろう。

 

いまだに紙文化から脱却できないなど、民主主義の本質と全く関係のない、単なる旧態依然としたやり方が残っていることによる非効率は、今すぐにでも改めなければならないが、意思決定を慎重に行う必要があるという意味での本質的な非効率性は、民主主義の必要コストだろう。

 

2.緊急事態の意思決定

今回の新型コロナウイルスの感染拡大は、国難といってもよい状況である。

国民の生命、健康、生活を守らなければならず、スピード感も極めて重要である。このため、政府のリソース投入について、意思決定を丁寧にするための「ご説明」から、対策そのものに極力集中させることが必要である。

 

これまで、政府の会議、国会での連日の審議に加えて、与党各党の会議、野党各党の会議と、政府が説明し、議論をする場所がものすごく細分化されていた。政党の会議以外にも国会議員1人ひとりの問合せも次から次へと来るので、議員会館に何度もかけつける。

 

その結果、対策を考える余裕がどんどんなくなっていく。対応に当たっている人間の立場で見える景色は、国会対応や政党の会議の対応で連日徹夜しても対策そのものは1ミリも進まないという苦しいものだ。

 

官僚にとって、一番苦しいのは長時間労働そのものももちろんあるのだが、死ぬほど働いているのに、国民のための対策が進んでいかないことだ。強い無力感にさいなまれる。

 

3.合成の誤謬と政治の英断

不祥事事案のように、野党が役人をいじめようとしているわけではない。対応に当たっている職員が過酷な状況で踏ん張っていることについて、野党の国会議員も含めてねぎらいの言葉をかけている。

 

むしろ、各党がそれぞれの立場で一生懸命仕事をしようとすればするほど官僚が国会議員への「ご説明」に時間がとられてしまい、した結果起こる合成の誤謬みたいなものと言えるだろう。

東日本大震災の時も、政府に説明を求め議論をしていることが、政府の対策の手を止めることになるので、与野党で話し合って国会審議もしばらく止めたし、検討の場も一元化した。国会にしろ各党の会議の場にせよ、常日頃から政策の中身を考えることよりも、説明や調整の手間が極めて大きいということは、官僚なら誰もが日々痛感していることである。当時私も「国会って、危機の時はちゃんと対策進めるために審議を止めるんだ。これで対策に専念できる。」と思った。 そうした実績もあるので、国会や党の会議が政府の対策の動きを止めかねないということは、永田町でも霞ヶ関でも皆が分かっていることである。

各党にも色々な思惑や意見があったと思うが、与野党の利害を超えて、議論の場を一つにまとめたことは英断で、日本の政治も捨てたものではないと感じる。

 

調整に当たった方々、決断を下した方々に心から敬意を表したい。

4.充実した議論と見える化 会議が一つに集約されたことは英断であるが、そのことで批判が許されないような雰囲気になっては非常に危険である。 自由闊達な議論は常に歓迎されるべきだし、その過程が国民から見えるということも重要である。 政府の情報公開や各党の主張が分かるような形での報道も期待したい。

1. 官僚のことを知らない人にとっての「官僚の働き方改革」

今週は、講演の機会をいただきました。

テーマは「官僚の実態」です。

 

それなりに、このテーマで発信をしてきた気もしますが、ちゃんとコンテンツをまとめて講演で話したのは始めてです。

しかも、参加者は官僚が身近でない人ばかりです。

 

まだ、プレゼンに改善の余地がありますが、とても楽しかったです。

 

フィードバックもいただけて、本当に勉強になりました。

ご本人の許可をいただきましたので、嬉しかったフィードバックをシェアします

 

【以下、引用】

お恥ずかしながら、官僚について全く予備知識がない状態でしたので、お話しいただくこと全てが興味深く、こんなに大切なことを自分は今まで知らないでいたのか…と思いました。「堅くて忙しいエリート・・・?」くらいのイメージしかなかった官僚が、「国の課題解決の戦略から実行までを担うプロフェッショナル」であるということにイメージが変わりました。

 

官僚の人材不足を生むスパイラルについてもご説明いただきましたが、以前勤めていた大企業の構造と、規模や深刻ささえ違えど、とてもよく似ていて驚きました。まさに日本社会を映す鑑なのでしょうか。官僚の働き方改革が実現できれば、日本全体がもっと良くなるのだろうなと思いました

【引用終わり】

 

 

.2.「官僚の働き方改革」は誰に伝えるべきなのか

これまで官僚の働き方の話を国会議員や記者の方に何度も話して来ましたが、皆さん官僚のことをよく知っている方々でした。

 

実は本当に僕が伝えたいのは、「官僚が身近でない人たち」に対してなんです。

 

なぜなら、官僚の働き方それ自体が民主主義の在り方やこの国にいる人の生活と密接に関係するからです。

 

官僚が大変だからという理由で、

○国会のチェック機能を弱くする

○困っている人がいたとしても、政策を変えるスピードをゆっくりにする

みたいなことは望ましくないと思います。

 

官僚からしてもお客さんを選ぶことはできませんが、

実は、国民の人からしても、一人ひとりが、政府の株主であり、究極的な雇い主であり、強制的にお金を払って行政サービスを購入させられる立場から逃れることができません。

 

 

3.「官僚の働き方改革」は官僚だけのものか

官僚が身近でないこの国のほとんどの人たちは、有権者であり、官僚のお客さんです。お客さんとの対話なくして、官僚の働き方改革は進められないのです。

 

おそらく民間企業でも、社内の効率化の努力でできることはもちろんたくさんあると思いますが、お客さんや取引先の理解を得ながらでないと本当の働き方改革はできないのではないでしょうか。

 

例えば、地方も含めてコンビニは全国一律に24時間空けないといけないでしょうか。お客さんが夜中にあまり来ない場所もあるでしょう。深夜のアルバイトを確保できない地域もあるでしょう。でも、コンビニチェーンの大企業の了解がないと、コンビニの店長の一存では夜中の営業をやめることができません。

 

そうです。本当の働き方改革は1つの会社でやるのは限界があるのです。だから、社会全体で変えていかなければ、仕事は減らないのに早く帰れと言われて理不尽な働き方を強いられてしまうかもしれません。

 

僕たち、1人ひとりの消費者である時の意識から変えていかないといけないんです。

 

 

4.官僚の仕事と生活者の関係

僕の講演に対していただいたフィードバックを見て、その人たちにとっては、官僚の働き方の前に、そもそも官僚っていうのが、何をしている人たちなのか、イメージを持っていないということがよくわかりました。

 

コンビニのように身近でないんですね。もしかしたら、このブログを読んでいる方も道で官僚にすれ違っているかもしれません。でも、誰が官僚だか分かりません。たまたま、知り合いに官僚がいなければ話を聞く機会もないでしょう。そして、たまたま知り合いに官僚がいる人なんてごくわずかです。

 

改めて、人の生活と政策がどんなに密接に関係するか、そこから必死に伝えていかないといけないと思いました。

 

【千正が生活者として経験した政策の意味】

僕にも、44年の人生の中で何度かピンチがありました。

腰の怪我で歩けなくなった母を父が実家で1人で世話をしていた時期がありました。そんな時期に、心身ともに無理がたたったのでしょう。父が重い病気で倒れて救急車で病院に運ばれました。

 

兄と僕は、急いで仕事を休んで実家に集まりました。父のことは心配でしたが、集中治療室に入っているので、とりあえず病院にお任せするしかありません。実家にいる母は、1人ではトイレも行けない状況でした。まず、父がいなくても母が自宅で生活できる環境を作らないといけません。急いで介護保険の申請をして、ヘルパーさんを呼んだり、家の中を移動できるように車椅子を借りたり、母が歩けるようにするためにリハビリにも通うことになりました。

 

これは、すべて介護保険があったからできたことです。これだけのサービスが本来の値段の1割の負担で受けられるのです。介護保険がなければ、全額自己負担になるので毎月数十万円の費用がかかります。仕事をリタイアした親がずっとその費用を払えるでしょうか。兄か僕かどちらかが仕事を辞めて親の面倒を見なければならなかったかもしれません。

 

介護保険のおかげで、兄と僕は仕事に、日常に戻ることができました。母も父が病院から戻るまで自宅で1人で過ごせるようになりました。リハビリに通って、気持ちも前向きになり、家の中で歩いて移動することができるようになりました。

 

父も、幸運にも一命を取り留めて、自宅に戻ってきました。この時の医療費も医療保険からほとんどの費用が出ています。父が支払える金額で医療を受けることができ生還しました。

 

僕は、この出来事を経験したときに、「ああ、俺たちの仕事ってこういう仕事なんだな。」と心底、実感しました。

 

介護保険も医療保険も厚労省の先輩達が、それこそ命を削る思いで作ってきたものです。バトンを受け取った僕の同僚達が、将来も安心して介護や医療が受けられるように、どうやって制度をメンテナンスしていくか、今も毎日必死に働いています。

 

彼らが、今の異常な働き方を続けて健康や家庭を壊して働けなくなったり、若手がどんどん辞めていったら、どうなってしまうでしょうか。今、本当にそういうケースが増えています。

 

僕が、官僚の働き方改革の活動をしているのは、官僚の生活環境をよくしたいというよりも、このままではこの国の人の生活にとって大事な政策を作る機能が壊れて、すごく迷惑がかかってしまうからです。

 

今回の講演は、官僚の仕事と人の生活の密接な関係をもっと多くの人に伝えていかないといけないと、改めて感じさせてくれる本当に貴重な機会でした。

 

 

5.変えなければいけないこと、変えられること

官僚の仕事のやり方を変えても、生活者であるお客さんに迷惑がかからない形にする必要があります。実際に、政策の質や生活者の利益と全く関係のない無駄な仕事が山ほどあります。

 

例をあげます。

 

(1)無駄な大量コピー

国会の審議の前日、真夜中の会議室で若手が大量に答弁メモをコピーして、問いごとにインデクスをつけて、資料を組んでダブルクリップで留める、それを午前3時、4時に自転車で国会などに届けています

 

この作業は本当に国民の役に立っているでしょうか?あるいは役立つ政策を作るための若手のトレーニングになっているでしょうか?深夜残業の職員の残業代やタクシー代を税金から支出する価値があるでしょうか?

 

答弁する大臣のためのメモや資料をデータ化してタブレットで持ち込むようにすれば、この作業はすべて不要になります。

 

だったら、すぐ変えればいいじゃないかと思う方が多いかもしれません。

僕もそう思います。

 

でも、これは国会のルールのことなので、役所では変えられないのです。各政党の国会議員の方が話し合って、現在認めていないタブレットの持ち込みについて「委員会室に答弁者である大臣が持ち込んでもよい」という合意をしていただかないと実現できません。

 

民間企業でも、例えば重要な取引先のフォーマットに合わせないといけないとか、役所が提出を求める書類がめんどくさいとか、自社だけで変えられないことがあるかもしれません。

 

中央官庁にとっては、年間の3分の2開いている国会との関係で発生する仕事が非常に多くて、この仕事のやり方は細かいことでも役所が勝手に変えられないのです。

 

(2)前日夜の質問通告

しかも、この質問に対する事前準備は、質問者である国会議員が前日の夕方から夜になって初めて役所に知らせてくることが多いのです(質問通告と言います。早めに通告してくれる議員もいます)。

 

前日の夕方に質問通告を受けると、そこから答弁内容の作成や資料の準備などをするので、質問の数が多ければ、どうしたって夜中までかかります。これを早めるためには、色々と乗り越えないといけない課題がありますが、僕はまず通告時刻の公表をして、原因は何か、何を変えれば早くなるのか、実態を把握するところから始めるべきと考えています。これも通告を受けた役所が勝手にやるよりも国会のルールとしてやった方がよいと思うので、やはり政党間の合意が必要です。

 

そして、この答弁のメモや資料をベースに、翌朝、つまり国会審議当日の朝6時とか7時とかに大臣が出勤してから、9時の本番までの間に、1問、1問と官僚と大臣の間で議論をして実際にどのように答弁するかを決めているのです。(官僚の作ったメモを大臣がただ読んでいるわけではなく、本番直前まで答弁は大臣の指示で修正します)

 

事前の質問通告など不要だろうというご意見もよく聞きますが、僕は政策を進めるための充実した国会審議のためには、このプロセスはとても大事だと思っています。

 

このプロセスなく、ぶっつけ本番でやると、いい加減な答弁をしたり、間違った答弁をする可能性もありますし、そもそも質問者の問題意識を踏まえた具体的な答弁ができない可能性が高いのです。20年近く厚労省にいた僕でも、詳しい分野とそうでもない分野もあります。準備をせずに、すべてについて瞬時に正しく具体的な答弁をすることはできません。

どうしても、「議員の問題意識は分かりましたので、よく調べて検討してみたいと思います。」みたいな答弁になってしまいます。それでは、議論が進まず限られた国会の審議時間が無駄になり、政策も動きません。

 

このように、役所の中で大きなウェイトを占める国会関係の仕事のやり方を変えるには、国会議員の方々の議論・合意が必要なのです。

 

国会議員は有権者から選ばれて活動しています。国会議員の方々も同じ問題意識をもってくれている、変えたいという方がたくさんいますが、長年続いてきたものを変えるのは、彼らにとっても本当に大変なことです。

 

多くの国会議員の方がハードルを乗り越えて改革を進めてくれるかどうかは、官僚が身近でないこの国の多くの有権者の声にかかっています。

 

 

だから、きっと変えられる。僕はそう信じています。

 

 

そして、多くの有権者の声で本当に国会や霞が関が変わるのであれば、

同じように、多くの消費者の意識が変わって、この国で働く人たちの職場も大きく変わっていくと信じています。