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 4月28日、衆議院の3つの補欠選挙が行われた。島根1区、東京15区、長崎3区である。昨年秋に、自民党派閥のパーティ券問題が明るみに出て以来、初の国政選挙である。

 

 補欠選挙とは、議会における議員の欠員を補充するための選挙である。9月16日から翌年の3月15日までに欠員が生じた場合には、4月の第四日曜日に補欠選挙を行う。3月16日から9月15日までに欠員が生じた場合は、10月の第四日曜日が補欠選挙日となる。当選者は、前任者の残任期間を在任する。

 島根1区は、細田博之前衆議院議長の死去に伴うものである。東京15区は、柿沢未途前法務副大臣が公職選挙法違反の罪に問われ、衆議院議員を辞職したことが理由である。長崎3区は、自民党派閥のパーティ券問題で谷川弥一代議士が辞職したことによる。

 島根1区は、自公の推薦候補である錦織功政と立憲民主党元衆議院議員の亀井亜紀子の与野党対決で、野党が勝った。しかし、自民党は東京15区と長崎3区には候補者を立てず、不戦敗である。東京15区は、各党派9人が乱立したが、立憲民主党の候補が当選した。長崎3区は、立憲民主党の山田勝彦と日本維新の会の井上翔一朗の野党対決で、前者が勝利した。

 

 補欠選挙の結果は首相の政権運営に影響する。私が厚生労働大臣として仕えた福田政権下で、2008年4月27日に初の国政選挙である衆議院山口2区補選が行われたが、自民党候補が民主党候補に敗北した。その結果も一つの要因として、福田康夫首相は9月に退陣を表明した。

 

 菅義偉内閣下で、2021年4月に、衆議院北海道2区と参議院長野選挙区で補欠選挙、参議院広島選挙区で再選挙が行われた。北海道2区では自民党は不戦敗、長野では立憲民主党の候補が自由民主党候補に勝った。広島では、野党統一候補が自民党候補に勝利した。

 この3敗、そして8月の横浜市長選での自民党候補が野党候補に敗北するという結果を受けて、秋の自民党総裁選に立候補せず、退陣した。

 

 以上のような過去の例を見れば、今回の3つの補欠選挙が岸田首相の命運を決すると言っても過言ではない。

 3敗したので、岸田首相の下では自民党は選挙を戦えないという声が高まり、解散総選挙どころではなくなるかもしれない。今の国会で焦点となっている政治資金規正法の改正ができるかどうかも、解散のタイミングを決める大きな要因となろう。

 

 支持率が低迷する岸田首相が平気で政権にとどまることができているのは、野党が非力だからである。野党が一つにまとまれば、自公政権にとっては大きな脅威となる。私が閣僚を務めていた麻生内閣で、2009年夏の総選挙で自民党は民主党に惨敗し、野に下った。大きな塊の民主党は、「非自民、非共産」を標榜して「政権交代」の4文字をスローガンに選挙を戦ったのである。

 今のように、野党が小党分立を続けているのでは、政権交代などできるはずがない。その意味で、今回の3つの補選の結果は野党の存在意義をも問うているのである。

 

 アメリカでは、建国以来、政権交代があると、主要官庁の幹部のみならず、下級役人や町の郵便局長まで交代させられた。これを猟官制度(spoils system)と呼ぶ。こうなると、官僚が政治に翻弄されることにもなり、近代官僚制が損なわれる危険性がある。

 アメリカ大統領選挙の結果がどうなるかは予測できないが、トランプ勝利の可能性は十分にある。日本をはじめ諸外国も、「もしトラ」に備えて、トランプ・シフトをとりつつある。

 トランプは、「腐敗したワシントンに民主主義を取り戻すために、質の悪い官僚たちを排除する」と述べている。トランプは大統領任期が終わる直前の2020年に大統領令を発令し、仕事ぶりの悪い連邦政府の役人を解雇できる道を開いた。しかし、次期大統領に当選したバイデンは、この大統領令を失効させている。

 もし、11月にトランプが当選すれば、4年前の大統領令を復活させる予定である。そうなると、かつての猟官制度の復活ということになり、官僚の任用は、能力ではなく、トランプへの忠誠度が基準になってしまう。

 従来は、政権交代に際して閣僚などトップ行政官約4千人が交代する慣わしであったが、これに加えて、約5万人が政治任用されるという。官僚機構の能力低下が懸念される。

 2009年9月から2012年12月まで民主党政権となったが、外交防衛政策をはじめ多くの政策分野で大きな転換はなかった。

 2012年12月の総選挙で政権復帰した自民党は、民主党政権に協力的であった幹部官僚たちを左遷した。選挙で選ばれた政権に官僚が協力するのは当然の義務であるが、この自民党の安倍政権の対応は問題であった。この結果、優秀な役人が抜けた省庁では政策の効果的な遂行ができなくなった。厚生労働省の新型コロナウイルス対策がその典型例である。

 霞ヶ関の省庁の縄張り争いについて、かねてから「省あって国なし、局あって省なし」と言われるような状況であった。そこで、この縦割り行政を改革し、一省庁のためではなく、国家全体のために働く官僚を養成するという名目で、2014年5月30日に創設されたのが内閣人事局である。この組織は内閣官房の下に置かれ、内閣が各省庁の幹部職員の人事を一元的に扱うことに決まった。

ところが、実際に運用してみると、プラスよりもマイナスのほうが大きくなった。制度自体に問題があるのではなく、運用に歪みがあったのである。

 人事権が官邸に移るということは、皆出世したいので、幹部官僚は官邸のご機嫌を伺うようになる。それが、森友、加計、「桜を見る会」に見られるような忖度行政につながったのである。

 しかも、各官庁から派遣される首相の秘書官の在任期間が長すぎた。首相であれ、大臣であれ、秘書官は2年くらいで後退させるのが普通であり、首相や大臣の好き嫌いや好みが考慮されるわけではない。

 ところが、安倍政権の下では、それとは逆のことが行われた。その結果、選挙で選ばれたわけでもない官僚が異常な権力を持ち、世間の常識も通じなくなってしまった。アベノマスク、アベノコラボ、GoToTravelキャンペーンなど、失敗が山積した。結局、この人事がコロナ対策の失敗を生み、安倍退陣を早めたのだから皮肉のものである。

 官僚と政治家の関係をどうするのか、民主主義の大きな課題である。

 3月31日に行われたトルコの統一地方選は、レジエップ・タイイップ・エルドアン大統領(70)の与党が惨敗した。イスタンブールやアンカラでは、野党候補が勝った。エルドアン政権にとっては、大きな打撃である。

 イスタンブール市長選では、最大野党の共和人民党(CHP)の現職のエクレム・イマモールが51.1%を得票し、与党、公正発展党(AKP)のムラト・クルム候補の39.6 %を大きく引き離した。また、首都アンカラでもCHPの現職のマンスール・ヤワシュが60.4%を得票し、与党候補(31.7%)に勝っている。この2都市で与党が市長職を奪還できなかったことは、エルドアン政権にとっては大きな失敗である。

 その他、大半の主要都市でCHPが圧勝した。主要30都市のうち、イズミル、アンタルヤなど14都市で勝っている。AKPが勝ったのは12都市のみである。伝統的なAKPの地盤である中部でもCHPが勢力を拡大した。全国81市長選のうち35でCHPが勝利した。AKPは24市で勝っている。

 全体の得票率は、CHPが37.76%、AKPは35.48%であった。前回の2019年の地方選と比べると、AKPは9%の得票減である。

 エルドアンは、1991年の総選挙に立候補するも落選したが、1994年3月にはイスタンブール市長選に立候補し、当選した。2001年8月にはAKPを結成し、党首に就任した。2003年3月には国会議員に選出され、首相に就任した。2007年7月には国会議員に再選され、8月には第2次エルドアン内閣を発足させた。2011年6月には国会議員に3選され、7月に第3次内閣を組閣した。

2014年8月に、トルコ初の直接選挙による大統領選挙で当選した。それ以前は議会が大統領を選んでいた。

 2017年には大統領権限の拡大を目的とした憲法改正を実現させ、2018年の大統領選挙で再選された。しかし、2023年の大統領選挙では野党統一候補に追い上げられ、決選投票で何とか当選するという状態となった。

 首相時代から通算すると、エルドアンは、20年以上にわたって権力の座にいることになる。政権初期には経済運営に成功し、インフラの整備も進めて高い支持率を誇った。しかし、政権が長期化するに従って、言論弾圧など権威主義的傾向を強めていった。2016年7月には軍事クーデターが失敗すると、エルドアンはさらに規制を強化。まさに、「長期政権は腐敗する」という事態となっていったのである。

 地方選でのAKP敗北の最大の原因は、長引くインフレである。70%近いインフレ率が庶民の生活を直撃している。この庶民の不満が反エルドアンへの流れを加速化させたのである。

 エルドアンは、「今回の結果を真摯に受け入れて、大いに反省する」と敗北宣言をした。これから経済政策を練り直して、インフレを抑えることに全力をあげる決意である。

 今のトルコ憲法は、大統領の任期を2期までに制限している。しかし、エルドアンはさらに長期政権を続けることができるように、憲法を改正して2028年の次期大統領選に出馬する意向である。プーチン大統領が憲法改正によって、超長期政権を維持してきている手法を真似ようというわけである。

 しかし、今回の地方選の敗北で、その目論見は潰え去ってしまった。プーチンの手法は使えなくなったと言ってよい。

イマモール市長が強力なライバルとして躍り出てきた。エルドアンとしては、自分の後継者を選んでAKP党内で影響力を保つしか手はなさそうである。