昔々、あるところにオシャベリがいた。

オシャベリは、口が軽く、話さなくていいことまで話しては人を不快にしていた。

オシャベリは言うことと、していることが違っていて、そこも人を不快にさせるポイントだった。

オシャベリがあまりに人を不快にさせるため、オシャベリのまわりに人がいなくなった。

ある日、オシャベリはムイシキと出会った。

ムイシキは言う。

……オシャベリ。口が軽いのは無意識が軽いんだ。無意識を深くするんだ。そうすれば、口は重くなる。

ワラにもすがりたい気持ちだったオシャベリは、無意識を深くした。

言葉を軽く出さない。

言葉の奥の奥をよく見る。

合気道で相手をかわしていくように。

オシャベリが言葉の奥の奥をたどっていくと、そこにムイシキがいた。

ムイシキは言う。

……やあ、また、出会ったね。君はもう大丈夫。君の言葉は、道になり、公共事業のようになるだろう。実現するからね。

ムイシキは不思議なことを言った。

オシャベリは無口になった。

たまに話すことは、とても力をもった。

下手なことを言うと、人を不快にさせる力が凄まじかった。

オシャベリは気をつけて、言葉の奥の奥をよく見た。

いつしか、オシャベリの言葉を楽しみにする人が増えた。

オシャベリの言葉は道になり、その道を歩いて、多くの人の生活が楽になった。

オシャベリの言葉は、すべて実現していくから。

みんなオシャベリの言葉を聞きたかった。

オシャベリの言葉はムイシキの言葉で、ムイシキは、みんなとつながっていた。

オシャベリは、ムイシキの受付窓口のようだった。

オシャベリは、人のために生きて、喜ばれた。
昔々、あるところにタベンとシゼンがいた。

タベンは、おしゃべりで、言葉で世界を支配できると思った。

シゼンは、無口で、本当に必要なときだけ少し話した。

タベンは、世界を制覇しつつあった。

誰もが洪水のような言葉に呑まれ、言葉と共に暮らした。

タベンは、いい気になっていた。

シゼンは、そんなタベンを静かに見ていた。

言葉が頂点に達したかに見えたとき、言葉が上手く回らなくなっていった。

タベンは、さらに言葉を使い、崩壊を抑えようとしたが、もうコントロール不能になった。

言葉は力を失い、誰も言葉を信用しなくなった。

シゼンはタベンに言った。

……言葉の生まれる以前に、力の根源はある。

タベンは、言葉に頼るのをやめた。

シゼンのように無口になり、心を感じるようにした。

心の奥の奥に、言葉にならない何かがあった。

それは、言葉にしてはいけないものだった。

それをつかんだとき、タベンは再び、力を取り戻した。

しかし、前より、おしゃべりでは無くなった。

言葉の力を失ってしまうから。

タベンは、シゼンに言った。

……言葉は、力の半分。もう半分は、言葉にならないもの。その両方で、本物の力になる。

シゼンは、静かにうなずいた。

世界に言葉があふれることは無くなった。

光と闇があるように

静と動があるように

有ると無いとは、2つそろってバランスがとれるものだから。
オンナは言った。

「わたしはあなたを愛してる。この手のひらでいっぱいに」

オトコは言った。

「手のひら? そんなに小さいの?」

オンナはお釈迦様のようになった。

オトコは孫悟空に。

オトコが筋斗雲でどこまで飛んでも、先が見えない。

ずっーと飛んだ先に柱があった。

そこに描いた。

オトコとオンナの相愛傘。

元にもどったオトコにオンナは自分の指を見せた。

そこに描いてある小さな相愛傘。

オンナは嬉しそうに微笑む。

オトコは目を丸くする。

オトコは、筋斗雲で飛んでいるとき、優しさと思いやりに包まれていた。

心地よい風が吹いて、お風呂のようにあたたかかった。

それはオンナの心。

オトコはオンナの手のひらに包まれて幸せだった。

でも、孫悟空じゃイヤだから

それだと、フェアじゃないから

オンナの手のひらで遊ばれるオトコじゃ、嫌だと思った。

オトコは悟りを開いた。

孫悟空から、スーパーサイヤ人になった。

お釈迦様のオンナに負けない人間。

お釈迦様とスーパーサイヤ人のスーパーカップルは、神界で有名になった。

……昔はお釈迦様の手のひらに収まっていたのに。

ヒソヒソ

……今では、お釈迦様がスーパーサイヤ人に包まれてる。

ふたりは末永く、幸せに暮らしたそうだ。
昔々、あるところにミオトシがいた。

ミオトシは、よく仕事で注意された。

見落としが多く、仕事の完成度が低い。

先輩から「よく確認するように」と何度も何度も注意された。

ミオトシは、仕事を終わらせる事ばかり考えていた。

ただ、やる。

考えるのは、叱られたくない事。

表面をなぞるように見るだけで、細かいところを凝視するような注意深さに欠けていた。

ある日、先輩から「指差し呼称しなさい」と言われた。

ミスが減るから、と。

ミオトシは、どんな仕事でも指差し呼称をして、魔法をかけるようにそのものに指を差した。

指差しとは、一点に集中すること。

意識が集まり、注意力が高まる。

ミオトシは、見るとは、ただ、見るのではなく、解像度高く見ることだとわかった。

例えば、テーブルを拭くとき、ただ、拭くのと、汚れを見ながら拭くのとでは違う。

細かなところまで見ることが、ミスを防ぎ、仕事の完成度を高める。

指差し呼称をはじめたミオトシは、見落としが劇的に減った。

先輩から褒められた。

「別人みたいになったな」

ミオトシは、指差しの魔法使いになった。
昔々、あるところにマチオがいた。

マチオは人見知りするタイプだった。

人に壁をつくり、簡単に打ち解けなかった。

いつも警戒し、距離を置いた。

自分を守るために。

傷つかないように。

そんなマチオの壁を崩すのはいつも相手からだった。

相手から積極的にアプローチされると、マチオはいつか防御を解いて打ち解ける。

心を開いたマチオは、相手と仲良くなれる。

マチオは、いつも待ちの姿勢だった。

そんなマチオが自分から積極的に動いたことがあった。

新入社員の佐々木リコ。

笑顔がかわいくて、マチオは一目惚れした。

リコのインスタ、フェイスブック、エックスを名前で検索した。

情報を集めた。

会社で、リコに話しかける。

その瞬間、バリバリと壁が破ける音がした。

「佐々木さんって、ほゃららら県の出身なの?」

わかりきっていたが、とぼけて聞いた。

「はい。ほゃららら県です」

「どの辺り?」

「ほにゃ市です」

「あー、下のほうの」

熟知していたが、あえて聞いた。

「はい。下のほう」

市の場所を下というマチオの言い方がおかしくてリコは笑った。

その時、マチオはリコと心がつながった気がした。

「K-POP好きなの?」

「はい。なんで知ってるんですか?」

「フェイスブックに書いてあったから」

「なんで、フェイスブックで検索したんですか?」

わたしのこと好きだから?

暗に聞かれた。

マチオは答えられなくて逃げた。

「あ、仕事だからまたね」

勇気を出したマチオとリコのファースト・セッション。

人見知りの壁を破ったのは、リコを知りたかったから。

知ることができたのは、マチオの新しい一面。

恋は、人を変える。
昔々、あるところにオクビョウがいた。

オクビョウは、いつも逃げていた。

注射から逃げ、試験から逃げ、人間から逃げてきた。

注射から逃げた時は、数人がかりで取り押さえられて、泣きながら注射された。

試験から逃げた時は、鹿児島までバイクで行って留年した。

人間から逃げた時は、ひとりぼっちになって精神障害になった。

オクビョウは怖がりだった。

ありもしないことを怖がっていた。

現実にそんなことないのに。

想像のお化けをつくり出して、逃げ足だけが速かった。

そんなオクビョウは、ある時、逃げるのをやめた。

オクビョウは恋をした。

不思議な助けがあり、オクビョウは結婚までできた。

妻とケンカし、離婚の危機。

今までのオクビョウなら逃げていた。

義務から、責任から、重荷から。

オクビョウは、逃げなかった。

つらいことにも耐えた。

恥ずかしいことにも耐えた。

怖いことにも耐えた。

想像のお化けは、オクビョウをおどかした。

……怖いだろう。逃げろ。逃げろ。

オクビョウは、負けなかった。

妻と子を守りたかったから。

自信がついた。

自分に負けなかったから。

信頼された。

責任を果たしたから。

信念ができた。

妻と子のために生きているから。

オクビョウは、今でも怖がり。

でも、昔より、怖がりじゃない。

帰る場所に妻と子が待っているから。
昔々、あるところにモテナイとファンがいた。

モテナイはSNSをしていた。

ファンはモテナイのSNSに毎日、コメントしていた。

モテナイはファンが自分のことを好きだと思った。

ファンと付き合えると思った。

モテナイは、SNSではキザなキャラ。

いつも甘い台詞を書いて、女性をうっとりさせている(と思っていた)

リアルでは、女性と話したことがほとんど無い。

SNSでのフェイクのようなキャラ。

ファンはそのキャラに興味があるのに、モテナイは本人のことを好きだと思い込んでしまった。

モテナイはファンに言う。

「今度、会いませんか? お話したいです」

ファンは、モテナイからキラキラした言葉を聞けると胸踊らせて会いに行った。

モテナイと待ち合わせしたファン。

一目見て、違和感。

……ぶ、ぶさいく。

モテナイはニコッと笑いかける。

……キモいんだけど。

モテナイは、女性との会話がわからなかった。

ファンへ一方的に話しかける。

ファンの心は凍りついた。

……なんだ、こいつ。SNSと全然、違う。

キラキラしたイメージは崩れ去り、ファンは一刻も早くその場から逃げたかった。

フェードアウトされたモテナイ。

モテナイは、なぜ、去られたのかわからない。

SNSとリアルのギャップ。

モテナイは、こりずにSNSでキザキャラを演出する。

SNSではキラキラしていて

美男子のようであった。
昔々、あるところにハラスとウケミがいた。

ハラスは厳しい上司で、ウケミはいつも叱られていた。

ハラスは言う。

「なんでも人任せにするな。仕事なんだから、責任をもってやりなさい」

ウケミは「はい」と返事はするものの叱られたくない一心でおびえるばかり。

ハラスは、いつまでも仕事ができるようにならないウケミにほとほと困っていた。

ハラスに説教されていたある日、ウケミはハッと気づいた。

……ハラスに叱られたくないとばかり思っていた。でも、ハラスの気持ちを考えたことはなかった。ハラスは、どんな気持ちで、わたしに教えているのだろう。

ハラスの言葉を耳を研ぎ澄ませて聞いた。

繰り返されるのは、責任という言葉。

ウケミは、甘えていたことに気づいた。

叱られたくない。

自分にはできない。

そんなこと、仕事には、関係ない。

ハラスが教えたいのは、責任をもって仕事をすること。

ハラスはいじめたいわけじゃない、ちゃんと仕事をして欲しいだけなんだ。

ウケミは変わった。

サナギから蝶になるように。

人が変わったように見違えた。

自分から率先して仕事にとりかかった。

苦手なことも、初めてのことも、挑戦した。

ハラスの気持ちに応えるように。

失敗することもある。

ハラスは叱る。

「どうして、わからないなら、聞かないんだ」

でも、その叱り方は以前とは違う。

ウケミは、挑戦していたから。

その勇気をハラスは、ちゃんとわかっていた。

ウケミは、わからないことはハラスに聞いた。

ハラスは、なんでも面倒見よく教えた。

ハラスとウケミの様子を見て、まわりは驚いた。

……ハラスメントされてると思っていたのに、仕事熱心な2人なんだ。

ウケミは、メキメキ実力をつけた。

もう受け身な人間ではなかった。

ハラスは、初めてウケミを褒めた。

「少しは、仕事ができるようになった
な」

ウケミは、泣きそうになった。

鬼のように厳しいハラスから褒められた。

2人は、かけがえのないパートナーとして、会社の重要な戦力になった。
昔々、あるところにシッパイとセイコウがいた。

シッパイは、みんなから嫌われていた。

失敗すると暗くなるし、落ち込むし、寂しくなる。

セイコウは、みんなから好かれていた。

成功すると明るくなるし、気持ちが高まるし、喜びにあふれる。

シッパイはセイコウに言った。

……でもさ、失敗しないと反省しないじゃん。なぜ、失敗はそんなに嫌われるんだろう。

セイコウはシッパイに優しく言った。

……みんな傷つきたくないんだよ。生きてるだけで、けっこう大変なんだから。

ある日、シッパイはどこかへ行ってしまった。

セイコウがひとり残された。

みんな上手くいくことばかり。

世界は喜びと明るさに満ちあふれた。

この世の楽園が成就されたように見えた。

しかし、それは夜の来ない世界のようだった。

誰も深く身をかえりみることが無い。

能力が伸びていかない。

このままでは、無駄に年老いるだけだと考えたセイコウは、シッパイを探して、戻るように説得した。

……シッパイ。戻ってきて。みんな成長しなくなった。シッパイが必要なんだ。

シッパイは、しょげている。

……俺なんかいないほうがいいんだろう。どうせ嫌われ者だよ。

セイコウは、シッパイの頬を叩いた。

……シッパイは、なんのために生まれてきたの! みんなの成長のために、失敗が必要なんだ。たしかに、落ち込むし、暗くなる。でも、夜が来なければ、寝ないだろう? 夜が来るから、休もうと思って、寝てる間に脳のデフラグツールが働くんだ。シッパイは、どうしても必要なの。

セイコウは泣いていた。

シッパイは、しょうがないな、という顔をした。

……嫌われ者が戻りますよっと。

セイコウは笑顔になって言った。

……私はシッパイのこと大好きだよ。それでは足りない?

セイコウとシッパイは、肩を組んで、長い間、語り合った。

宮崎駿監督「君たちはどう生きるか」の個人的な感想です。


以下、ネタバレあります



↓ 



主人公の父は再婚した。


再婚相手は、亡くなった母の妹。


新しい母のお腹には、赤ちゃんがいる。


うとましく思われているのを感じる主人公。


新しい母は優しく、そんなことは言わないけれど…


父は社長で家は裕福。


田舎に転校して、目立つ存在の主人公はイジメられる。


格差。


嫉妬。


争い。


血と金の世界。


それが生。


アオサギと共に行った世界は、死の世界。


そこには、亡くなった母が若い姿でいた。


この世に生まれる卵を鳥たちから守っている。


鳥たちは、おかしな存在。


人を食べようとする。


死の世界の支配者は、狂人と言われた父の兄弟。


積み木をつみあげ、世界のバランスを保っていた。


そのバランスが崩れようとしている。


死の世界は、夢のよう。


おかしな鳥たちがいて、おばあちゃんも若返り、変な世界。


力の無いものは、食べられる。


力あるものが、力の無いものを助けていく。


虚栄に満ちた生の世界。


力が支配する死の世界。


主人公は、積み木をつみあげ、世界のバランスをとる者に成ることを拒否した。


世界は崩壊していく。


主人公は、生の世界へ戻る。


金と欲が渦まく、偽りの命。


そこで友を探し、生きていくと。


君たちはどう生きるか?


あなたなら、なんと答えるだろうか?


生の世界も、死の世界も、おそらく、ゴールではない。


生と死を繰り返すのは輪廻。


その先にあるものは、涅槃寂静。


カオスの中で、友と共に生きていく。


そこに、答えがあるから。