年末、美人弁護士から連絡があった。


「あのバカ男、控訴するようですよ。裁判所に確認しました。裁判所の事務官には

判決ででた金額を払わないとどうなるのかと聞いていたようですよ。少なからず

精神的に追い込めていると思えますが、とりあえず相手の反論待ちますか」


控訴とは一審の判決に不服があるため、さらに上の機関での審議をあおぐことである。

浮気男は先の判決を不服として、控訴したのだ。まあ、控訴して和解案を探ろうとする人

もいるらしいが、感情的に行動している浮気男なのでそれはないと思っている。


「ていうか、あいつ社会を舐めてますよね。差押する前に附帯控訴でもしてやりましょうか。

どうします?」美人弁護士は僕にそう聞いてきた。


「フタイコウソ?? すみません。恥ずかしながら、それ知らないです」


「控訴に対して、さらに反論することなんです。お金はかかりますけど攻撃的な行為です。

浮気男が控訴、僕さんが何もしないと控訴裁判での損害賠償は0円~150万円(判決金額)

間におさまります。


でも、附帯控訴で1000万円を請求すれば損害賠償は0円~1000万円になります。


つまり浮気男の控訴に対して何もしないと僕さんは負け(一審判決より小額の損害賠償)

か引き分け(一審と同額)にしかなりません。でも、附帯控訴すれば、完全勝利(一審よりも

多額の損害賠償)もありえるんですよ。


相手を叩きのめすには附帯控訴です。」


「へー、じゃあやりましょうよ。お金の問題じゃないですから」僕には迷いはなかった。

浮気男はひらきなおっている。そういう人間にはどこまでも攻撃的に接するしかないと僕は

思っていた。


「こうなったら、徹底的に潰しましょう。差押の準備といっしょに!!」

僕はそう美人弁護士にお願いをした。


師走の夕方。僕の周囲はまたしても騒がしくなっていた。

明けることのない夜はまだまだ続くのだろうか。

判決が出たものの浮気男からは何の反応もなかった。

これは想定の範囲だったので美人弁護士と相談しながら、回収の準備に入ることにした。


美人弁護士「バカ男は言っても無駄だからいきなり給料を差押でいいでしょう。」


僕「そのつもりで勤務先も調べましたからね。でも、一応連絡してみたらどうです?払ってくれるん

だったら、差押費用もかからないし」


美人弁護士「そうでした! 私、浮気男をいたぶってやることしか考えてなかった(笑)。なんか通知

でもしますよ。 弁護士つけてれば、こんな手間不要なんですけど。まじ、うざい。あのバカ男」


そんな会話を師走の喫茶店で美人弁護士と交わした。

払わないんなら、給料差押というサラリーマンとしては恐怖の行為にでる。僕はそう決めていた。


(マメ知識)

給料差押は裁判の判決に従わない相手(サラリーマン)に効果があります。

判決なんて無視してしまえと思っている方がいたら危険です。判決に基づいて財産を差し押さえられる

からです。


土地や貯金がなくとも会社から給料(金銭)を受取る権利を差し押さえることが可能です。

これは裁判所から勤務先宛に通知されるので、サラリーマンとしては恥ずかしいし、企業人としての

社会的評価に大きく影響します。だからこそ、浮気男のようなバカ男には効果がある手段なのです。




読者の皆様、


前回の判決で勝訴した記事に対して沢山の方々からメッセージを頂きました。


この場をかりて御礼申し上げます。


受信箱に数十件のメッセージがあったので驚きましたが、どなたさまも心温まる優しい

言葉をありがとうございました。たくさんの勇気と力を頂きました。


まだまだ道半ばですが頑張りたいと思います。

12月の上旬、街はクリスマスムードに包まれていました。

キレイなイリュミネーションに彩られ、街全体がキラキラしている。

幸せそうに腕を組みながら歩くカップルにかつての僕たち夫婦の姿を重ねながらぼんやり

していたのを覚えている。


その日、判決がでた。美人弁護士から少し興奮気味に電話で報告があった。

・損害賠償は150万円

・僕の権利(婚姻契約)を浮気男は侵害した

・浮気男のストーカー行為は資料の範囲では断定できない

・上記賠償額を払うに資する言動があった事実は否定できない


といった内容だった。


「1000万円請求で150万円かと思うかもしれませんが、この手の事件でここまで出るのは

凄いことなんですよ。裁判官が支払いを命じたということは被告(浮気男)に非があると法的

に認めたということなんですから!お疲れ様でした。あとはしっかり回収してやりましょう!!」

美人弁護士が嬉しそうに電話で話してくれた。


やっと終わったんだ。


それが僕の感想だった。この2年間、ずっと悶々として生活をし、浮気男の非礼な行為に悩まされて

きた。裁判のことが頭から離れた日なんて一日もなかった。

判決が出たからといって僕の心に安らぎが戻るわけじゃないけど、少しホッとした。


「おつかれさま。よく頑張ったじゃん」2007年12月某日の僕の手帳に、そう記した。

浮気男の勤務先調査のために僕はネットで見つけた探偵事務所を訪れた。

HPを見る限り2万5千円~調査をしてもらえるとか。 勤務先さえわかれば浮気男の給料を

差押できるので、費用の大小はなるべく考えないようにした。


都心の汚い雑居ビルに、その探偵事務所はあった。薄暗い長い廊下を抜けて、僕は事務所

に入った。事前にアポをいれていたので、すぐに応接間に案内されたが、そこは外の汚い空間

とは異なる小奇麗な部屋だった。以前、使った調査会社もそうだが、この種の商売も客商売だから

応接間のイメージを重要視するのかもしれない。


僕が部屋に通されると、部屋には二人の男性が席に座っていたが、僕をみるなりおじぎだけして退室

された。「あの、二人は業界でも有名な探偵さんなんですよ」スタッフの女性がそう説明してくれた。

一人はヤクザのような風貌の中年男性。もう一人はマイク真木のような、自由人っぽい初老の男性だった。


そうこうしてる間に調査カウンセラーなる方が入ってきて、要件を説明することになった。浮気男の勤務先

調査を依頼することをポイントに大まかな経緯を話した。

「住所も本籍も携帯番号もわかってるんだから簡単ですよ。これは尾行ですかね。

まあ、時間制でチャージするから所要時間×2万5千円と考えて下さい。」


「以前、別の事務所で本籍がわかれば勤務先はデータベースからわかると聞いたんですけど、

尾行ですか?」と僕は素朴な疑問をたずねた。


「データベース??それは、社会●険庁の人に、その事務所の方がお金を払って聞いていたんでしょうね。

よくあるんですよ。社会●険庁に知合いつくって、金の見返りに個人情報を引き出す手口。でも昨今の問題

で、その手口が使えなくなっちゃったんですよね。それで小遣い稼ぎしていた事務所にとっては痛いですね」


「へー、そうだったんですか。ところで尾行だと、指定した時間に会社に行かなければ調査できなくなりますよね

その場合はどうなるんでしょう?」


「お客様の自己責任なので、そういうことがないよう日時を指定して下さい」カウンセラーはそう言った。

非常にニコニコしている方だが目は鋭く、笑ってないのが印象的だった。


「じゃあ、早いとこで明後日の朝3時間ほどお願いします」僕はその場で手続きを済ませた。

後日談になるが、僕はその場でカードで代金を決済した。カードの引き落とし明細をみたら、引き落とし先は

海外でのショッピング扱いになっていた。探偵事務所はどんなところにも足跡を残さないが、ここまで徹底

しているのは流石だと思った。


さて、2日後の朝。例のカウンセラーから電話があった。

「浮気男の勤務先見つけました。会社概要と住所はこんな感じで詳細はメールします。」得意そうに報告して

くれた。

「ここで間違いないんですか?本当に??」僕は本音を聞いてみた。


「はい。うちの探偵はオフィスの中までついっていったので。あと会社に電話してみたらしく浮気男の名前を

伝えたら繋いでくれたらしいです。100%間違いねいですよ」


世の中ってお金を払うと割りと何でもわかるんだ。朝から感心してしまった。


いよいよ、給料差押という強行手段に僕は出ることになった。








裁判が終わり、判決を待つことになったが、判決どおりに浮気男が損害賠償を払う

ことはないだろうというのが僕と美人弁護士の共通認識。そこで、僕が準備しないといけないのが

「強制執行」の準備である。これは、裁判の判決に基づいて、支払いを行わない相手の財産を差し

押さえることである。


浮気男には財産などない。しかし、サラリーマンとして毎月給与が支払われる。この、浮気男に支払

われる給与を差し押さえることが、僕の次の準備だった。給与を差し押さえるには浮気男の勤務先

の会社謄本が必要となる。そのために、僕は浮気男の勤務先を調査しなければいけなかった。

浮気男は僕との訴訟前に転職していることを、当時の彼の代理人を勤めていた弁護士からきかされて

いたからだ。


仕事のつてや、学生時代の友人に調べてもらうことも可能と思ったが、個人情報保護が厳しいこのご時勢、

やっぱりどこも難しいようだった。結局、僕は探偵事務所を使うことにした。前にも浮気男の素行を調査する

ために興信所を使ったが、今回は単純な勤務先情報を調べるだけなので、ネットで見つけた比較的安く調査

してくれる探偵事務所にお願いすることにしてみた。



時間が少し前後しますが、昨年末、大学時代のクラブの同期で集まった。

毎年恒例の行事。僕が一年で最も大事にしているイベントの一つである。

場所は例年通り、僕らが学生時代に通いつめた学生街のバー。料理が美味しいわけでもなく、場所が

便利なわけでもない。ただ、学生時代からの僕らの時間がたっぷり染み込んだ空気が皆をそこに集め

るんだと思う。


一年、一年、みんな確実に年を重ねている。卒業して10年の歩みがそれぞれの表情によく出ている気

がする。太ったり、ハゲたり。結婚したり、子供ができたり。それぞれの10年がそれぞれの顔を作ってい

るように思えた。20歳過ぎたら、その人の顔は親からの遺伝ではなく、自分自身の生き様で作られるん

だとよく耳にするが本当だと思う。


みんな素敵な大人になっていた。だから毎年、離れていもこの場所に笑顔で集まれるんだと思う。


僕はどうだろうか。素敵な仲間に、僕が彼ら彼女らから受けるだけの刺激やオーラを発しているだろうか。

きっとできていないんだろうなと思う。自分が今の自分に満足していなんだから。


今年こそは飛躍の年にしたい。

そして年末の同期との集まりで、皆に僕の前進した姿を感じてもらえればと思っている。


前進あるのみ。

美人弁護士が浮気男に質問を開始した。


美人弁護士「あなたは僕さん妻とどういう関係でしたか?」

浮気男   「顔見知り」


美人弁護士「僕さんの妻と不貞した事実は認めますか?」

浮気男   「してないけど」


美人弁護士「ボイスレコーダーで不貞を認めているけど何故?」

浮気男   「原告の僕に密室で脅迫されたからだよ」


美人弁護士「この念書はあなが書いたものなんですよね?」(浮気男が書いた念書を見せながら)

浮気男   「あ~ん?? 全然覚えてねーんだけど」


美人弁護士「僕さんの携帯の脅迫メールを連日送ったのはあなたですか?」

浮気男   「さあー、わかんないなー」


美人弁護士「当時、あなたの代理人だった弁護士が僕さんの代理人をしていた代理人にあなたが

        送ったことを認めるFAXを文書で送ってますけど」

浮気男   「俺、知らないし。かってに、送られたんかもしんねーな」


美人弁護士の質問に対する浮気男の回答は知らない、覚えてないの一点張りで、話にならないまま

終わった。しかし、このようないい加減な対応に対して裁判官の心証は悪くなっているのは素人の僕から

みても明らかだった。


続いて、裁判官からの質問だった。

裁判官  「僕さんに脅迫されて、念書を書かされたと言ってますが何故、逃げなかったのですか?

       テープを聴く限りでは僕さんは何度も書く気がないなら帰れと言っているのに」

浮気男  「・・・帰れないくらい追い詰められたんです」

裁判官  「密室に監禁された言いますが、その場にいた人全員が関与したのですか?」

浮気男  「昔のことなので覚えていません」


裁判官  「わかりました。私からは以上です。これで終了しますが、判決は一ヵ月後に出ますので、

       よろしくお願いします」


一同、敬礼をして法廷は幕を閉じた。力が抜けた。

浮気男は僕のほうを見ることなく、けだるそうに法廷を後にした。僕は何か一言でもぶつけてやりたい思い

だったので、浮気男を追いかけようとしたが、美人弁護士に止められた。

「エレベーターで顔を合わせたら気分悪いし、少し間を空けましょっか」美人弁護士は笑顔でそういった。


僕と美人弁護士が裁判所を出たときには朝の雨も止んでおり、雲の間から陽がさしていた。


「お疲れ様でした。さすがですね。すごい堂々としていたし、裁判官への対応も完璧でしたよ!

負けることはないと思うので、あとは損害賠償がいくらかってとこですね」美人弁護士は歩きながらそう言った。


「なんか、あっという間に終わっちゃいましたね。これで裁判が終わるのかという実感とか全くないですよ」

僕は徹夜明けで朦朧とする意識のなかでそうこたえた。


美人弁護士は僕の背中をバンと叩いてくれた「僕さん!、もう終わったんです。あとは判決だけですよ。

本当におつかれさまでした。とにかく、判決を待って、それから次のことを考えましょうよ!」


美人弁護士に会ってから約1年。彼女はこうやって、いつも僕を精神的に支えたくれていた。

法的なサポートだけでなく、こういった心のサポートが何よりも嬉しかった。


とりあえず。終わった。浮気男と妻の不倫に直面してから2年。


僕の訴訟はもうすぐ判決のときを迎えようとしている。

判決が出たことで心が楽になるわけでもない。何か新しいことが始まるわけでもない。

失ったものを取り戻すことなんてできやしない。


何もないのはわかっている。でも、これで未来に向かって新しい一歩をようやく踏み出せる気がする。



法廷に入り、裁判官が着席したのをみて僕らも座った。いよいよ、開廷だ。


「原告 僕、前にお願いします」僕は名前を呼ばれて、法廷中央にある台の前に立った。


「宣誓書を読み上げて下さい」という裁判官の指示と同時に、事前に署名した宣誓書を読み上げた。

内容としては、ここで話すことに嘘や偽りはないという短いものだった。僕は法廷全体に響き渡るよう

に大きな声で読み上げた。極度の緊張のせいもあったが、自分自身に対して再度、活をいれるため

でもあった。もう一人の自分が法廷に立っている自分に対して、自分の正義をぶつけてこい!そう叱咤

激励するようなイメージだった。ゆっくり、大きな声で僕は宣誓書を読み上げた。読み上げたころには

気持ちもかなり落ち着いていた。


「被告人、お願いします」。続いては浮気男の番だった。席から、けだるそうに頭をかきながら前に出てきた。

ボソボソと小さい声で読み始めた。

「聞こえません。大きな声で読み上げて下さい」裁判官からの指示に対して、舌打ちをしてから、再度、やる気

のない声で読み始めた。


宣誓が終わり、いよいよ証人尋問に入った。まずは僕からだった。弁護人からの質問、次に裁判官からの質問

という流れだ。通常であれば、僕の弁護人(美人弁護士)からの質問の後には相手側の代理人からの質問が

あるが、浮気男は弁護士をつけていないので、被告側からはないようだった。


美人弁護士からの質問に対して準備したとおりに答えた。特に美人弁護士が用意してくれたものを暗記して

いたわけではないが、まあ、無難に応えられた。


続いて裁判官からの質問だった。顔色の悪い薄気味悪い方だった。

「ボイスレコーダーの訳を読みました。あなたの言葉遣いや表現には相手を脅迫する意図がありましたか?」

「全くありません」僕は即答した。

「しかし、テメーだとかザケンナと室内で罵倒されたら多くのかたが恐怖心を抱くのではないでしょうか」

「字面だけ読めばおっしゃるとおりかもしれません。しかし、私も妻の浮気と被告人の非礼な態度で興奮状態

にあったので止むを得ないと思料します」

「わかりました。私からは以上です」裁判官からの質問が終わろうとしたその時、


「おい、てめー。脅迫目的で呼びつけておいて、テキトウなこと言ってんじゃねーぞ。こら」浮気男が大きな声で

怒鳴りはじめた。別に驚きも焦りもしなかったので視線を正面に向けたまま、裁判官の目を見ていた。


「静かにしなさい!!今はあなたの時間でありません!!」裁判官が浮気男を一喝すると、浮気男は大きな

舌打ちをして、机に上で居眠りをするそぶりをはじめた・・・


僕はそんなふざけた浮気男を横目に席に戻った。いよいよ。浮気男の番だった。


法廷中央の台に出てイスに腰をかけた。浅く座って、足をめい一杯伸ばし、背もたれの先端に後頭部をのせる

ような格好で美人弁護士からの質問に答える様子だった。


どこまでもふざけた野郎だった。






小雨が降る朝だった。僕は結局、一睡もしないまま法廷に向かうことになった。

美人弁護士とは開廷30分前に打ち合わせを兼ねて裁判所のロビーで待ち合わせをすることに

なっていたが、初めて訪れる裁判所ということもあり、僕は1時間30前には裁判所近くのファミレス

で気持ちを落ち着けていた。


美人弁護士が事前に作成してくれた証人尋問ようの回答用紙(美人弁護士が僕に聞く質問に対する

回答集)に目を通しながらコーヒーを飲んだが、頭に全く入らなかった。睡眠不足と興奮状態で僕は

今、自分がいる世界が夢なのか現実なのかよくわからない感覚になっていた。


美人弁護士との約束の時間が近づいたので僕は裁判所に向かった。薄暗い天候や僕の気分もあるが

裁判所のロビーは薄暗かった。朝早い時間帯だが、結構大勢の人がソファーに座って待ち合わせを

していた。サラリーマン風の人、ホームレスっぽい男性、年配の女性、ヤクザっぽい人・・・

それぞれここにいる人は、自分達の法的主張を誰かにぶつけるために、ここに来ているんだろうな。

そう思いながら、美人弁士を探した。


「僕さ~ん」元気な声が後ろから聞こえた。美人弁護士だった。

「いよいよですね。何も心配ないですよ。これまで話してきたことを裁判官にぶつけちゃってください。

誰だって僕さんの正義感と誠実さを理解できますから!さあ、いきましょう!!」

一通りの打ち合わせを終えて、階段を上り、僕らは法廷に入った。開廷までは法廷後ろの傍聴席で

待つらしく、そこに腰をかけて全体を見回した。

こじんまりとした空間だったが、司法の現場にふさわしい厳格な空気が流れていた。映画やテレビで

みる世界とほぼ同じような光景だった。傍聴席をみると8人ほど座っている人がいた。

美人弁護士曰く、この手の不倫に絡む裁判は傍聴者が多いそうだ。それにしても今回は多いそうだ。。


「あのバカ男、今日の証人尋問も来ないって裁判所に前回電話したらしいから、来ないんでしょうね。

ほんっと、どこまでも頭悪くて非常識ですよね。ま、こちらの主張を伝えて、とっとと帰りましょう。」


バタン、法廷後ろの戸が大きい音で開けられた。ドカドカ足音が聞こえてきた。ドスンと僕の席から

3つ離れた席に、だらしない格好をした茶髪の男が座った。浮気男だった。


「あいつ、キモイくせに・・・」美人弁護士は浮気男に気付かないま喋り続けているので、僕は肩をたた

いて自分の親指を隣の方向立てて、浮気男がいることを伝えた。

「逃げないで今日は来たようだから安心しましたね僕は浮気男に聞こえるように大きい声で美人弁護士

に話しかけた。「来ても来なくても結果は一緒なんですけどねー」美人弁護士も同じくらいの声でこたえた。


久しぶりにみる浮気男は以前にも増して人相が悪くなっていた。イスに浅く座り、大きく足を広げて座って

いた。時折、クチャクチャ、ガムを噛む汚い音が聞こえた。


ガチャ。法廷正面横の扉から裁判官と書記官が出てきた。


「さあ、入りましょう」美人弁護士に誘導されながら、僕は法廷の中に入った。

ついに僕は法廷に立った。