ワタミは、米ネバダ州ラスベガスで、すし事業を展開するサニー・スシ・カンパニーを子会社化した。創業40周年の節目の年に、念願の米国本土進出となる。

私は学生時代に、ニューヨークのライブレストランに感動し、外食産業での起業を決意した。それ以降も、毎年ように米国に市場調査に出かけ、いつかあの舞台で互角に戦いたいと意識し続けてきた。アメリカンカジュアルレストラン「TGIフライデーズ」を国内で展開しているのも、そうした背景がある。

今年2月の米国出張は、M&Aの最終交渉だった。オーナーはミャンマーから移民として渡米し、ネバダ州で20年間事業を続けてきた誠実な方だ。

決め手は、ビジネスモデルと、さらなる発展の余地だった。同社は地元のスーパーマーケットと密着した信頼関係を築き、売り場面積や販売員を増やし、売り上げを伸ばしてきた。ラスベガスの複数の大型ホテルとも取引し、パーティーなどでも、すしを提供している。このノウハウは他の州でも生かせる。自社工場もあり、注文を受け即出荷する「カンバン方式」で、とても効率的だ。

すし自体は、約20年近く商品が変わっていないという。そこは、ワタミの仕入れ力、商品力を生かした「新しいすし」を広めることで、米国は絶対反応してくれると思っている。ちなみに現地で一番の売れ筋は、カニかまぼこだ。カニの隣で売られ、日本とはステータスが違う。早速、カニかまぼこを生産している日本の水産会社のトップと提携戦略を練りはじめた。

このすし事業のビジネスモデルは、米国の各州に広げられ、フランチャイズのパッケージにもなりうる。今はネバタ州だけで事業を展開しており、これを全米50州に広げていけると思うと夢が膨らむ。円安時代に米国子会社が成長戦略を描けることは魅力だ。

米国法人には、立候補した40代の執行役員を送り込む人事を決めた。長年、居酒屋を担当していたが、その後、焼肉業態の立ち上げを主導し、新事業に対する柔軟性がある。その役員は、米カリフォルニア州のニューポート・ビーチで家を持つことが夢だと、本気でずっと語っていた。その意気込みに期待している。人事とは「理由」を説明できることが重要だ。

政治の方では、裏金問題をめぐり、自民党が党紀委員会を開き、安倍派と二階派の国会議員ら39人の処分を決めたが、処分の基準や理由が、あいまいだと多くの人が感じている。

岸田文雄首相が、領袖(りょうしゅう)を務めていた宏池会も会計責任者が立件されたが、岸田首相本人の責任は問われていない。民間企業のように、第三者委員会を立ち上げ調査するのが、ガバナンスの基本だろう。米国で国賓待遇を受けたからといって、岸田首相の支持率があがるほど、国民は甘くない。もとより政治もビジネスも、米国と互角に向き合うには、相当の信念と覚悟が必要だ。



【夕刊フジ】「渡邉美樹経営者目線」(毎週火曜日連載)より