チェコ好きの日記

もしかしたら木曜日の22時に更新されるかもしれないブログ

AMの連載でとり上げた本のまとめ(No.71〜80)おすすめ優先度付き

お久しぶりです。AMで連載している書評のまとめです。

以下は過去のぶん。
aniram-czech.hatenablog.com

AMの連載は隔週更新なので、つまり年間約24本の本を紹介していることになり、ということはこのまとめブログも年に2〜3回更新しないとペースが追いつかない計算になります。しかし私がめんどくさがりなので、今回まとめているのはだいたい2021年頃に公開したものです。さ、3年前かよ! ようやくコロナワクチンできたね〜みたいなあの頃の話です。連載100回を超えたら「祝!100回超え!」みたいな記念ブログを書きたかったのに、自分でも気づかないうちにぬるっと超えていたため何もできなかったという…。

第71回 人生に正しい選択は存在しない。「もしもあのとき」幻想に陥ったら読みたい一冊

おすすめ優先度 ★★★☆☆

「因果応報」的なものを、私はまったく信じていません。善き人に吉報が届くとは限らないし、悪しき人に凶事が降りかかるとも限らないのです。それどころか、善き人が不運に巻き込まれたり、悪しき人がその報いをぜんぜん受けなかったりなんてしょっちゅう。そうよ、この世は理不尽よ──という、地獄みたいな世界観で生きている私なのですが、逆に世の中というものにまったく期待していないからこそ、あんまりへこたれないのかもしれません。いいことをしてもいいことは起きないし、悪いことをしても悪いことが返ってくることはない。それなら、世の中の倫理や常識にとらわれず、ただ思うままに自分の好きに生きてみればいいじゃないの。と、『軽蔑』は別にそんな小説ではないのですが、3年前からこの考え方は変わっていないのだなと自分で再確認しました。

第72回 「声を出さずに上げるSOS」は日常のいたるところに存在する?そばにある不気味な穴

おすすめ優先度 ★★★☆☆

因果応報的なものはまったく信じていないけど、「人生は調子のいいときほど警戒しろ」みたいな警句はわりかし「そうかも」と思っている私です。レイモンド・カーヴァーのこの小説は、お金があって、仕事と地位があって、愛する妻と子供もいるミラクル強者男性が一瞬にして転落し、人生をわけわからん感じで棒に振る(ギリギリネタバレしてないつもりの言い方)というストーリーで、たぶんもう一回読んでもゾッとするんじゃないかな。たとえすべてを手に入れたとしても、天に召されるまで「アガリ」はやってこないのです。

第73回 「自分の人生、どうしてこうなった?」――何もかも捨てて、旅に出たくなったら

おすすめ優先度 ★★☆☆☆

「もう全部捨てて見知らぬ土地(ジョージアの田舎とか)で人生リセットしようかな」などという夢想を20代の頃は度々したものですが、そういえば30代以降はあまりこういうことは思わなくなったな。というか、この人生リセットの代替手段として私は長期海外旅行を定期的にやっていたわけですが、何十回も外国に行って帰ってくるのを繰り返しているとさすがに「旅を終えても人生がリセットされるわけではない」と脳が学ぶんですよね。現実的には「全部捨てて見知らぬ土地へ」なんてことができる人はかなり限られているので、だからこそ物語の中で擬似リセットをするんだ、という内容の記事です。

第74回 30代半ばで落ち込むのは「悪意なきほのぼの系の発信」だったりする。人間の多様性とは

おすすめ優先度 ★★★☆☆

これは今読み返すと我ながら「被害妄想が強すぎでは?」と率直に思いましたが、結婚や子育てをしないと一人前ではないという価値観はまだまだ強いです。先日も、「独身はマネジメントが下手くそなので管理職になるべきではない」みたいな投稿がXでバズっていて、「既婚者でも管理職になるべきではない人たくさんいますけどね!」と思いました。

どこで読んだのか忘れたけど(ごめんなさい)、これは「女性はマネジメントが下手くそなので管理職になるべきではない」と同じ思考の罠にハマっているんだろうと思います。女性の管理職や独身の管理職は数自体が少ないので、何か瑕疵があると、それを「女性だからだ!」「独身だからだ!」と属性のせいにしてしまう。一方、既婚男性の管理職は、数がものすごく多いので、何か瑕疵があってもそれは属性ではなく本人の特性のせいだとされるのです。

何においても、それは属性のせいではなく「その人自身がよかった/ダメだっただけ」と考えられるようになりたいね。

第75回 「いろんな価値観を認めることが多様性!」と言うけれど、価値観の問題だけじゃないかもしれない

おすすめ優先度 ★★★★☆

私が人生で初めて就職活動を行った大学生のときにはなかった「第二新卒」というカテゴリが、すっかり世の中に浸透したなあと思います。しかし年金の支給開始が遅れるのがほぼ確定している今の時代、私たちはたぶん70歳くらいまで働かなくてはいけません。とすると、大学卒業が22歳だとして、およそ48年間も労働者として過ごさなければいけないので、未経験職種への転職は20代までね! というのはなかなか酷ではないか。第三新卒、第四新卒くらいの枠まであっていいのではないか。40代後半くらいから新しいことに挑戦するのもアリな社会にしないか!?

ということをつらつらと考え、これがアリになったら世の中の専業主婦叩きもなくなるのではないかと思いました。子育てが終わってからでも仕事人間に復帰可能(もちろん復帰しなくてもOK)にしよう。

第76回 「夫婦やパートナーのあり方は人それぞれ」の、その一歩先を考える

おすすめ優先度 ★★★★☆

これを書いたとき、世の中にはまだ「生成AI」というものが登場していませんでした。しかしかのAIの登場によって、これまでロボットではできないとされていた「音楽を作る」「絵を描く」「小説を書く」などのクリエイティブな仕事のほうがAIにとられるかも……という事態になり、人間に最後に残されるのはむしろケア労働かもね、みたいな雰囲気にもなってきたと思います。「送迎」とか「オムツを換える」みたいなことができるロボットは、まだ登場しなさそうだもんなあ。テクノロジーの進化によって世の中の前提が変わるのって面白いし、私自身も損するのか得するのかわからないけど、揺蕩いながらそれらに巻き込まれていたいと思います。

第77回 耐えがたいのは自分が「平凡でぱっとしない人間」だと知ること――『パチンコ』が描く意味

おすすめ優先度 ★★★★☆

ここでおすすめしている『パチンコ』はまず、小説としてエンタメとして圧倒的に面白かったんですよね。一気に読んだ。そしてコラムにも書いたように、娘思いの、我慢強い、働き者の、優しい母親だったヤンジンが、死の間際に娘のソンジャに罵声を浴びせるのが本当に怖かった。

「あいつ性格悪いんだよな」と普段から思われているくらいの人のほうが、年取って認知能力が下がったときのギャップが少なくて済むのでむしろ健全ということありませんかね。露悪的に振る舞う必要はないし、なるべく「いい人」でありたいですが、あまり自分を抑圧しすぎず、適度に毒を吐いとくくらいでちょうどいいのかもしれません。

第78回 男性も(比喩ではなく)授乳できる!――『人間の性はなぜ奇妙に進化したのか』から見えてくること

おすすめ優先度 ★★★★☆

私は「早く人工子宮ができるといいなあ」と思っている生命冒涜野郎でございます。そうしたらベビーはすべて試験管から生まれてくるので女性が家庭とキャリアを天秤にかけて悩む必要がなくなるし、ゲイのカップルが子供を持ちたいと思ったときなども、代理母の議論をしなくて済むからです。どうしても生命を冒涜したくないというのなら、村田沙耶香の『消滅世界』みたいに、カップルの話し合い次第で男性が胎内に子宮を抱えて妊娠してもいい。あるいはアーシュラ・K・ル・グィンの『闇の左手』みたいに、どちらが妊娠するかランダムに決まる仕組みにしよう。そうすれば、レイプもナンパもなくなるかも…?

本書によると男性でも授乳が可能だということなので、早く実現してほしいですね。「何らかの環境変化が原因で女性による授乳が困難になったときのためのバックアップ」機能を使うそのタイミングは、近づいているように思えます。

第79回 人生に行き詰まると小説を書きだす私が『小説のように』から気付かされたこと

おすすめ優先度 ★★★★☆

このコラムは、ちょうどpixivに小説をアップし出した頃に書いたもの。小説は今も書いているので、私は2021年から今に至るまでずっと人生に行き詰まっているのでしょうか。いや、3年も続いているのでさすがに「ただの趣味」ということにしたい。このときは、まさかこんなに長く続けて、数は少ないけど界隈で友達もできることになるなんて思わなかったんです。

第80回 「書きたい、何か書きたい」というピュアな衝動から自分の性癖に気づけたりする

おすすめ優先度 ★★☆☆☆

二次創作の世界には、仕事と家庭と育児でキャパがパンパンになりながらも創作をやっている女性がけっこうな割合でいます。ただでさえ大変なのになんで創作なんかやるのかというと、好きな漫画を読んでいる時間が、好きなキャラを愛でている時間が、推しについて同好の者たちと語り合う時間が、彼女たちにとって自分が自分であるためのとても大切な時間だからです。いざこざやトラブルがないわけではないけれど、「こんなことしても何にもならない、でも自分にとって必要なんだ」とわけのわからない衝動に駆られて創作をやっている女たちの空間が、私はやっぱり好きなんですよね。

続く(近況)

文学フリマでの出展を目指して二次創作に関するエッセイを書いているんですが、当初考えていたよりも難しくて難航しています。コミケの歴史とか振り返り始めるとキリがないし、そもそも私は新参オタクであって古参文化には詳しくない。そんな私が歴史を振り返ったり考察をし始めるとたぶん普通に間違えるので、あくまでエッセイにして自分の体験を中心に書かないと破綻するぞ! とわかってはいるのですが、どうしても歴史とか考察系に首を突っ込みたくなってしまうんですよね。まあ、気長にやっています。

なお、二次創作は今も絶賛ハマリ中です。このブログももう少し更新したいと思っています。

11/11 文学フリマ東京37【す-14】で、「お金が欲しい!」アンソロジーを出します!

 こんばんは。またまた久しぶりのブログ更新になってしまいましたがお知らせです。11/11(土)、東京流通センターにて開催される「文学フリマ東京37」にて、何気に2018年より活動しているお馴染みのサークル「創作メルティングポッド」が出展します。今回のテーマは「お金が欲しい!」

表紙と裏表紙はこんな感じだよ。チェコ好きがcanvaで自作しました


 執筆陣3名のお金にまつわるエッセイのほか、私は「はじめに」と「おわりに」を担当し、なぜ今回の新刊のテーマを「お金が欲しい!」にしようと思ったのか、けっこう赤裸々に綴っています。目次はこんな感じ! お金にまつわるみんなのおすすめ書籍のコーナーもあります。

  • はじめに…チェコ好き                 
  • たった1時間の作業で400万円稼げちゃいます♪…あとーす
  • 卵子凍結をやめて海外留学を選んだ31歳の話をしよう…立花実咲
  • 夫婦間のお金の公平感って、どうやったら生まれるんだ?…小山内彩希
  • お金が欲しいみんなのおすすめ書籍 
  • おわりに 友達の貯金額を知ってしまった日…チェコ好き


 もっと詳しい内容を知りたいと思っていただける方はこちらもどうぞ。「電子書籍アフィリエイトで一撃400万円を稼いだ話」はきっとここでしか読めませんぞ!


blog.goo.ne.jp


 本当は、こちらのアンソロジーに加えて私の個人本も出そうと思っていたのですが、そちらは落としました! 無念!

 でも、冒頭部分を無料配布として希望の方に押し付ける予定なので、文フリ東京38か39に出るかもしれないものとしてお持ち帰りいただけたら幸いです。相変わらず2次創作がめちゃくちゃ楽しいので、1年前に書いたこのブログをボリューム10倍くらいにしたエッセイ集を出そうとしていたんです。


aniram-czech.hatenablog.com


 最近の私の執筆活動、ほぼAMの更新しかないけど、裏でめっっちゃ書いてるんで! 年間30万字くらい書いてるんで! 東京流通センターに年4〜5回行ってるんで! 東京流通センターにそんなに行く人いなくないか? 1次創作と2次創作を両方やるとこうなってしまうのです。もう間違って快速の羽田空港行きに乗ることもないし乗り換えもバッチリ。あ、東京ビッグサイトにも行っています。出展サークルが増え続け、文学フリマも次からはビッグサイトのようですね。

無料配布のサンプル

 ほか、楽しいくじ(無料)なども実施する予定。気軽に遊びに来てくださいね! 

 スペースは【す-14】です!










 

AMの連載でとり上げた本のまとめ(No.61〜70)おすすめ優先度付き

AMでの連載を2018年から始めて、気がつけばもう5年も経っていた。隔週連載でずっとやっているので、連載回数・紹介した本はそれぞれもう100回・100冊を超えている。まとめるのをだいぶサボっていたけど、いや〜我ながらよくやっているものですね!

本人は毎回全力で書いてはいるのだけど、それでも隔週×5年なので、毎回毎回大ヒット! 大バズり! 超おもしろ! というわけにはもちろんいかない。書き終わった直後に我ながら「お、おう」と思ってしまった回も、正直ある。だけど、久しぶりに1〜2年前に書いたものを読み返してみると……え、これけっこう面白くないですか???

書き終わった直後はまだ「私が書いた文章」なのだが、1年以上経つとすっかり「知らん誰かが書いた文章」になっていて(※忘れっぽいため)、それを読み直してみて「なかなかいいこと書いてるじゃん」と思えるのは、書き手として幸福なことなのだろう。まあ、「こいつ未熟だな〜」と過去の自分に対して思うこともあるけれど、それはそれ。

もうSNSでバズってPVを稼ぐ時代では完全になくなっていて、私が書いたものもTwitterなどではほとんど反響がない。それでもニュースアプリに転載されたりするとそこそこの閲覧数があるみたいなので、まあ、こういう穏やかな読まれ方で当分はいいのかなと思う。何か新しいことをやってみたい気もしなくはないけど、まだまだ二次創作が忙しいのと、あとは、まとまった文章を書いてインターネットよりは文学フリマで出したい気持ちが今は強い。そんな近況です。11月の文学フリマでまた出展する予定なので、詳細が決まったら改めてお知らせします。

第61回 「無知と傲慢の混ぜ合わせ」が広がっていた――ツイッターで失言が生まれる原因を考える

おすすめ優先度 ★★★☆☆

2020年、まだまだコロナ禍の真っ只中で先が見えなかった頃の記事。そうなんです、私は人を見る目がないので、ブログ経由で知り合った人とオフ会などで会ってみて「ネットでは尖ってるけど会ったらけっこういい人だったなァ」ってしょっちゅう思っていましたね。冒頭を読んで、あまりに正直なので自分で笑ってしまった。目の前の人に対してなら想像力も働くけど、遠く離れた人へ想像力を働かせるのは難しい。なるほどなと思いました(3年前の自分はもはや他人なので普通に感心している)。

第62回 安心安全の「女だけの街」はうまくいくか?いかないか?選ばれし者の“理想郷”が破綻するとき

おすすめ優先度 ★★★★☆

一時期インターネットで怒られまくった「女だけの街」。自分が問答無用で排除される場所があると聞くと心穏やかではない気持ちはけっこうわかるのだが、ギリシャのアトス島は宗教上の理由で「男だけの島」なので、男だけの島があるなら女だけの街があってもいいじゃんと私は思いました(え、論点そこじゃない!?)。力仕事どうすんねんみたいな論争があるみたいだけど、普通に女性がやればいいと思うね。

第63回 恋愛の大事故はないけどモヤッとする…30代の原因不明の満たされなさ

おすすめ優先度 ★★★★★

「あの頃のアレ、なんだったんだろな〜」とは今もずっと思っている。不治の病のようにみんなが言っていたアレ、全然治る病だったじゃん! 嘘つき! と思っている。まあ、渦中にいるときはこれがずっと続くもんだと思っちゃうもんだから、仕方ないのかもしれないが。ちなみに私は20代後半の頃から冷めまくりのスタンスが変わっていない。これはこれでどうなんだと思うが、平常運転です。

第64回 2020年、何もできなかったーーライフイベントがない日常の見つめ方『ひみつのしつもん』

おすすめ優先度 ★★★☆☆

頭に油を垂らせばすべて解決するのでは!? とか考えているあたりが私らしくアホで微笑ましい(自分で言う)。今は2023年で、海外旅行にも行けるようになって私の旅も復活したが、本質的にはここで書いたような「何も面白いこともイベントもない日々をどう過ごすか」が今後もずっと大切になってくるような気がします。そんな私は今日、南勝久の『ナニワトモアレ』が無料だったので読んでいたのですが、ヤンキーっていつくらいからカッコイイものじゃなくなったんだろう、というか昔はなぜこの世界がカッコよかったんだろう、みたいなことをずっと考えていました。

第65回 新たな発見か、または説教臭さを感じるか……15年越しに教科書の作品を読んでみたら

おすすめ優先度 ★★★☆☆

本編よりも、私の薄すぎる郷土愛の話が面白い(と思う)。そういえば、九州出身の男性と結婚した同級生が「九州怖い、家族というか親族との一体感みたいなものが強すぎて……」みたいなことをボヤいていたが、やっぱり神奈川県民て郷土愛薄いし家族とか親族に対してかなりクールですよね? 私や私の周囲だけがそうなのか?? まあ、私はその中でも特に冷ややかすぎるのだが。

第66回 なぜテロリストに?子あり/なしに関わらず考えたい「次の世代」との向き合い方

おすすめ優先度 ★★★☆☆

子供に愛情を注ぐのが無意味だとかはまったく思っていないのだが、人間はもっと深いところで親よりも濃く「世界」からの影響を受けるものであり、結局はコントロールしようと思っても無駄、みたいな価値観が私の中ではかなり強い。一方で、数年前に銀座にシリアルキラー展を見に行ったとき、残虐な事件を起こすシリアルキラーはたいてい子供時代がすごく悲惨だったことも覚えている。個人に何がどこまで影響を与えるのか、とかは今でもまあまあ興味があるトピックかも。

第67回 太宰治『待つ』を読んで、スピリチュアルグッズに使う年間予算は5万円までと決めた話

おすすめ優先度 ★★★★★

金と人間関係と健康を失ったらおしまいだと結論部分に書いているが、金と人間関係と健康ってほぼ人生のすべてでは。で、金と人間関係と健康に深刻なダメージを負わせない年間5万円くらいまでならちょっとくらい変なものにハマってもいいんじゃないかって話ですね。私はパワーストーンも水素水も買ったことはないけど、セージとパロサントなら買ったことがある。でもセージの匂いはちょっと苦手で、パロサントの匂いは嫌いじゃないけど同じ木ならヒバとかヒノキの香りのほうが好き。1回焚いたら気が済みました。

第68回 「子供に将来、どんな大人になってほしい?」――マイノリティを受け入れることが“できない”側の物語

おすすめ優先度 ★★★★☆

冒頭で書いたこのエッセイのお母さん、私いまだに苦手だわ〜と思いました。そういえば先日『怪物』を観て、安藤サクラ演じるお母さんが子供に「普通でいいんだよ」と優しく話しかけるシーンがあったけど、その普通が自分には叶えられないとわかっているから、子供は追い詰められていく。あの気持ち悪さに通じるものがある。世の中には悪意を持ってこちらを傷つけようとしてくる人ってそんなにいなくて、たいていはこういうただの無自覚が人を追い詰めていくよね。そして肝心の小説のほうは、「親子はわかり合えない」という結末で終わっているのが当時も今もやっぱり非常にいいなと思います。

第69回 マリファナはなぜ危険ドラッグとされたのか?をたどると意外な世界が見えてくる『真面目にマリファナの話をしよう』

おすすめ優先度 ★★★★☆

CBDオイル、いまだに塗るのは試したけれど飲んだことはない。なぜかというと高いからです。それならイブ飲んでればよくない? と思ってしまう。でも選択肢は多いほうがいいので、早く合法化するなりなんなりして、もっと安価に大麻の成分が流通するようになればいいなと思います。個人的には、自然派系の何かを使うことで体調が改善した経験が一切ないので、今でもばんばんケミカルなものを使っています。

第70回 「40歳を過ぎてもなお素敵な女性」と村上春樹は言う。どんな女性のこと?

おすすめ優先度 ★★★★☆

読み直してみたところ、私が考える「40歳を過ぎてもなお素敵な女性」は、「世の中に対して疑問を持ち続ける女性」「屈折したユーモアを駆使して相手が勝手にボロを出すのを待つことができる女性」のことらしいです。真正面から闘う人も素敵ですが、私自身はそういうのは向いていないので、確かにここにあるような「皮肉を言いまくって相手をイライラさせ、向こうが勝手にボロを出すのを待つ」という戦法が向いていそう。せこいですか!? いいんだよ、せこく卑怯に生きよう!

続く

以上、2021年3月までのまとめでした。連載が溜まっているので、ブログはまたそのうち更新されるでしょう。(天気予報風)

非オタクだったけどアラフォーでまさかの二次創作デビューしたので……

長らくブログを放置していたのですが、久しぶりに本の紹介まとめでも告知でもない、ブログらしいブログを書こうと思いまーす。ちなみに告知などを除くと1年以上放置していたこのブログ、突然更新された本記事はなんとボリューム1万字を超えているので、皆さま心して読んでください。

さて、ライターのチェコ好きとして書くこのブログやnoteを放っぽり出して(AMの連載はずっと続いているけど)最近の私はいったい何をしているのかといえば、pixivに二次創作小説を投稿して遊んでいるのですね!


このことは、書き手としてはいかがなものかと首を傾げる人が大半かもしれません。

世の中の風潮のせいなのか私の体力の衰えのせいなのかあるいはその両方か、最近はとにかく、ブログを書く気にならなかったんですよねー。というか、書くネタが浮かんだら、それは商用原稿のために大切にとっておこうって思ってしまうようになって。ひと昔前は書くネタなんて無尽蔵にあったけど、今それは「大切にとっておくもの」になってしまったのです。

そうやって、私は書くことへの情熱を少しずつ失っていくかに見えた……見えたのだが!

二次創作、めっちゃ楽しい!!!!!

実は、AMのほうではすでに小出しにしているんですが、私は昨年の夏頃、唐突に某作品において空前絶後の推しカプができてしまったのです。いてもたってもいられなくなり、この情熱をどこにぶつければいいんだ!? そうか、pixivか!!! となり、もちろん「ライター:チェコ好き」とはまったく関連のない別名で、pixivにアカウントを作りました。Twitterで、その推しカプが好きな人たちと交流する専用の別垢も作りました。今まではアニメもほとんど見ないしコミケも行ったことないし、なんだかんだオタクとは無縁の人生を歩んできたのですが、30代半ばにして突如、二次創作ガチ勢のオタクになってしまったのです。

最近ライター人格のほうはブログのほうもTwitterのほうもご無沙汰ですが、なんてことはない。pixivには毎月2万字くらいのペースで小説を投稿しています。さらに言うと、ついに同人誌即売会にも馳せ参じて約10万字の書き下ろし小説を頒布してしまいました。書きたいことが、言いたいことが、無尽蔵に浮かんでくる! これはちょうど26〜27歳くらいのときの、私がいちばん熱心にブログを書いていた頃と同じです。


繰り返しますが、pixivで、二次創作です。このことは、書き手としていかがなものかと首を傾げる人が大半かもしれません。でも、私は自分で自分が嬉しかった。私にはまだ、情熱があった。書くことへの執着を失ってはいなかった。場所と題材を変えればまだまだまだまだ文章を書ける人間だった。それが二次創作だって全然かまわない。情熱と執着が自分の中でもう一度燃え上がったことが、本当に嬉しかったのです。

そういうわけで以下は、近況報告を兼ねた「ここがヘンだよ二次創作」を書き連ねます。

動機が「楽しい」しかない世界、最高

さて、私が二次創作で取り戻したものは情熱と執着と、もうひとつあります。それは「自信」。

今までずっと、自分は所詮2015年前後のブロガーブームに上手く乗っかっただけの人間で、それで運良く商業出版までできたけど、根本的なところではそれほど文章力なんてないんじゃないかって疑念が拭えなかったんですよね。だから、pixivでフォロワーゼロの状態から真新しいアカウントを作って、小説を投稿して、それをどこまで受け入れてもらえるのかって、最初は本当に未知数だったんです。

もちろんブクマ(pixivでいう「いいね」みたいなもの)の数がすべてではないことは、ブロガーとして文章を書いていた頃と同じです。しかし結論から言うと、自分でも驚くほど、私の文章は二次創作の世界で受け入れてもらうことができました。つまり、わかりやすくいうと、界隈でバズった!


場所を変えて、ブロガーブームで下駄を履いてしまった(と自分では思っていた)「チェコ好き」の看板も下ろして、文章の形態ももちろん「エッセイ」から「小説」に変えて、それでも私の文章はたくさんの人に読んでもらえるものなんだ! ってわかったことで、けっこう素直に自信を取り戻してしまえたわけです。もちろん二次創作ではあるんだけど、二次創作の中にも「読まれる二次創作」と「読まれない二次創作」はあるので、私はどうやら前者に属せるくらいの小説を書ける文章力はあるらしい。まあ、ブロガーブームで下駄を履かせてもらった部分は決してゼロではないんだろうけど、自分の文章力はそんなに卑下するほど低いものではないらしいと、今は自分で普通に思えています。


そして、ここからが本題なんですが、たとえ二次創作でも「小説」の面白さを受け入れてもらえる喜びって、独特のものがあるんだなと知りました。

私は2015年前後のブロガーブームの生き残りなのでこういうことを言いますが、「小説」を面白いって言ってもらえることって、当たり前だけどその内容の有用性とはまったく関係ありません。

ただの推しカプ小説なので、こんなのを読んでもキャリアアップできないし、転職に成功しないし、アフィリエイト収入で儲けられないし、副業でも成功できません。モテないし、ナンパに成功しないし、彼氏彼女もできないし、結婚もできません。痩せないし、健康にもなれません。これからの時代を生き抜く新しい視点も得られません! 読む側にとって、現実的なメリットはゼロのはずなんです。でも、読んでもらえる。忙しい生活の中で手を止めてもらえる。なぜなら、それが「(メリットなどなくても、純粋に)面白い」から。これがねー、なんかすっごく嬉しかったんですよね。たくさん反応がもらえる理由がシンプルに「小説が面白いから」っていうのが。2015年前後のブロガーブームで魂が汚れきってしまっている人間には新鮮だったのです。

さらにいうと、「二次創作小説を読む」ことで得られる現実的なメリットは当然ゼロなんですが、「二次創作小説を書く」ほうだってこちらも当然、現実的なメリットはゼロです。

2015年前後のブロガーブームを思い出してみると、大なり小なり、みんなどこかで下心があったと思うんです。たとえば、いちばんシンプルなものとして「PVをいっぱい稼いでお金を儲けたい」がありました。次点で、「バズって有名になってライターになりたい」とか「本を出したい」とか「仕事に繋げたい」とか。みんな大なり小なり何かメリットを求めて文章を書いていた気がするし、私自身も例外だったとは言えないでしょう。下心は必ずしも悪いものではないですが、動機がピュアか? と言われるとそんなことはなかった。

でも、二次創作小説を書いて得られるメリットってそれに比べると見事にゼロです。ご存知の人も多いと思いますが、そもそもの話、二次創作は法的にはグレー。あくまで「出版社様・原作者様にお目こぼしをいただいて、公式様の迷惑にならない範囲で、個人の趣味として楽しむ」が鉄則であり、ここを破ったら同人文化全体が危うくなるので、「利益を出したらダメ」なのです。

そもそもダメなので、当たり前だけど二次創作でお金儲けを考える人はほぼいません。同人誌即売会でお金とってるのは、あれは「印刷代」であって、10万円かけて100冊の本を刷り、それを1冊1000円で頒布しているのです。売れ残ったらそのまま赤字*1。pixivに小説をあげる金銭的メリットはゼロだし、同人誌即売会で本を出すのは、金銭的メリットがゼロどころかむしろマイナスになる可能性を抱えています。

ただ、私はここにこそ二次創作の文化の最大の面白さがあると思っているんですけど、つまり、「金儲けはできないが、市場はある」という奇妙な状態がここに形成されているんですよね。いや、市場って言葉は適切じゃないかもしれないけど、他になんて言ったらいいのかわからない。旅行とかワインとかテニスとか、金銭的メリットが得られない趣味は他にもいっぱいあるけど、どれも「市場」はないじゃないですか。でも二次創作の文化は、「金儲けはできないが、市場はある」という状態なんです。市場、うーん、発表の場?

もちろんそこで承認欲求に駆られて、たとえ金銭的なメリットが得られなくてもより多くの人に注目されたいが故に「大衆ウケ」を狙った作品を作る人はいます。でも「大衆ウケ」は、たぶん書いてる本人が楽しくないからあとが続かないんですよね。そこでお金が儲けられれば、本人が楽しくなくてもお金のためならと「大衆ウケ」を書き続けられてしまうんだろうけど(というかそれができる人は商業に行ける)、二次創作は金儲けができないので、基本的には「書いている本人が好きなもの・楽しいもの」しか市場に出てこないんです。作家がマイナスを引っ被ってもいいから出したいと思ったものだけが出る。つまり、いい意味で読者や世間をガン無視しており、究極の自己満足を追求したものしか即売会の机に並ばないんです。

作家自身の究極の自己満足を追求したものだけが並ぶ市場、これはねー、足を運ぶとちょっと感動しますよ。ここにあるものほとんどすべて、金儲けを無視しているんだって。「好き」「楽しい」「愛」だけを集めた市場。同人誌即売会にいる人の顔があんなにキラキラして見えるのって、きっとこれが理由なんじゃないかな。金儲けにもならない、キャリアアップも望めない、モテないし健康増進にもならない、それどころかむしろ金銭的なマイナスを被る可能性のあるものが、「自分の中の衝動を抑えきれなくて出してしまった」ものだけが集まる同人誌即売会。昔からオタク文化にどっぷり浸かっている人にとっては「何を今さら」と思うかもしれないけど、私はこれまで非オタクだったので、これは現代においてなかなか貴重な場なのではないかと思いました。


(※ 健康増進にならないどころか、〆切ギリギリまで徹夜などをして同人活動で体調を崩す人は多い)

今、二次創作は誰がやっているのか

 
ところで、もしかしたらこんなふうに思った人がいるのではないでしょうか。というか、少なくとももともと非オタクだった私はTwitterに別垢を作るとき思いましたね。「30代半ばの女が二次創作なんかやって大丈夫なのか」と。若い子ばっかりで、もしかしたら自分、最年長とかでドン引きされてしまうんじゃないかと。


結果的にいうと、これは完全に杞憂でした。うちのジャンル*2の年齢層が若干高めってのはあると思うのですが、30代半ばの私、最年長どころかむしろちょっと若手でした! 私が活動しているジャンルは、若い子だと18歳くらいの人もいるけど、上はアラフィフの人だって珍しくはありません。40歳前後はむしろボリュームゾーン*3。私くらいだと、ど真ん中か、ちょっと若いくらいです。「40代で同人誌即売会なんて大丈夫かしら」と怖気づく人はけっこういるみたいですが、結論からいうと、まったく問題ないケースがほとんどだと思います。カレー沢薫先生もそう言っております。

www.pixivision.net

もはや「同人イベントは若者しかいない」という認識こそが中高年丸出しなのではないかという気さえします。

はい、その中高年丸出しの認識だったのが私でございます。

もちろん私もすべての二次創作界隈を見たわけではないのであくまで「うちのジャンル」に限った話にはなりますが、うちのジャンルはとにかく「子育て復帰組」が多い。就職・結婚・妊娠などを機に一度は脱オタした女性が、育児を経て、子供が小学生か中学生くらいになって、ちょっと自分の時間ができて久々にアニメに触れたら特定のキャラにどハマりしてしまい、ウン十年ぶりにオタク界に復帰してしまったというパターン。こういう人がたぶんいちばん多いですね。もちろん大学生とかもいるし、私のような独身もいるし、0歳の子供がいるのにイベントで必ず新刊を出す強者なお母さんもいますが。




逆に理解している人からすれば「年を取ろうが家庭を持とうが活動を続けていいのだ」という励みになると思います。


自分では自覚がないかと思いますが、就職を機に離れた世界に子育てを経て返り咲き、さらに齢40を過ぎて、二次創作やイベント参加という新しいことにも挑戦というのは「子育てを経て大学に入り直して海外留学」に匹敵するぐらい人生これからやで感のある良い話なので、堂々と参加してください。


オタクに復帰というか、むしろ若い頃はROM専だったのに、推しのことが好きすぎて40歳になって初めて絵や漫画や小説を描き/書き始めた……って人もけっこういる印象です。そういう人が、作品数を重ねてメキメキ上達していくのを見るのって、純粋に明るい気持ちになります。自分の手で何かを生み出すのって、創作って、楽しいよねー。特に長く育児に従事してきたお母さんたちは、誰のためでもなく自分のために作品を作るのがアイデンティティの確立と癒しになるのか、むしろ私のような独身よりも同人活動にのめり込みやすいような気さえします。みんな衣装ケースの底とかに薄いブックを隠して頑張っている。

綾城さん、本当にいる

と、ここまでは二次創作文化のポジティブな面について語ってきましたが、ネガティブな面にも触れておかないとフェアではないので、私個人としてはあんまりないけど一応その話もします。数年前に流行った『私のジャンルに「神」がいます』*4というマンガを記憶している人は少なくないかもしれません。こちらのマンガは、とあるジャンルで「神」と崇められるほどの実力を持つ字書き(=二次創作小説を書く人)綾城さんを巡る、女オタクの悲喜交々を描いた作品です。


さて、うちのジャンルにも「綾城さん」がいます。ちょっと他の人とはレベルが違う字書き。圧倒的に文章が美しく、圧倒的に構成が上手い。そして圧倒的に「推し」がかっこいい。うちのジャンルは二次創作界隈にしては珍しく、マンガと同じくらい小説が存在感を持っているんですけど*5、綾城さんの突き抜け方はちょっと他の人の追随を許さないところがあります。ちなみに、パッと思いつく限り、うちのジャンルに綾城さんはいるけどおけけパワー中島はいません。うちのジャンルの綾城さんは、マジの孤高の人なので……。


www.pixiv.net
(※一部は pixivでも読めます)

二次創作の世界では、基本的にお金儲けはできません。でも、金銭的には得られるものが1円もなくても、人間には承認欲求ってのがあるわけで。自分の創作物をより多くの人に見てもらいたい、より多くの人から(ポジティブな)反応が欲しいと思ってしまうのは、まあ普通の感覚ではないでしょうか。そのため、神字書き「綾城さん」に嫉妬してしまうこと、または「綾城さん」となんとかお近づきになりたいと思ってしまうこと、それに関連する人間関係のトラブルなどなどが、うちのジャンルでもゼロとは言いません。とはいえ、ジャンルにいる女性の年齢が高めなせいか、匿名ダイアリーを漁るとあるようなドロドロはそこまでない気がしますが。しかし、毒マロ来ちゃった! みたいな話はたまに聞く。

anond.hatelabo.jp

ちなみに私自身はうちのジャンルの綾城さんをどう思っているかというと、普通に大ファンです! 過去の既刊も手に入るものはすべて揃えたし、ブログも全記事読んでいるし、即売会ではお手紙(※後述)を渡しています。嫉妬とかはあんまりないかなー。綾城さんがブログで勧めていた小説技法の本を自分でも読んでみたりしています。

同人誌即売会でいちばん喜ばれる「差し入れ」とは

ところで私は昨年初めて自ジャンル自カプの「オンリーイベント」というやつに足を運んだのですが、即売会で作家さんから新刊を買うとき、必須ではないけど差し入れを持っていくといいよ〜と聞いて……つい、BAKEのプレスバターサンドとか持っていかなきゃいけないのかと思ってビビったんですよね。新刊を買いたい人何十人といるから、1人1人にそんなことしてたら金がかかってしょうがない。大人ってこえ〜! と。


しかし、結論から言うとこれはまったくの勘違いでありました。同人誌即売会は、もちろん差し入れなんか持たずに新刊を買うお金だけを持って行っても何も問題ないですが、確かに差し入れを持っていくと喜ばれるし、何よりそれをきっかけに挨拶したり交流したりがやりやすくなります。ただしその差し入れとは、BAKEのプレスバターサンドなんかである必要はないようです。「同人誌 イベント 差し入れ」などで調べた結果、私はカルディで買った100円の煎餅を配った。そして私も100円〜500円のお茶だのクッキーだの入浴剤だのを大量にもらって帰ってくるので、イベントは行きも帰りも大荷物です。


大の大人が数百円のお菓子を交換するというこのちまちましたやりとり、何か意味あるのか? と最初は思っていたんですが、体験したあとならわかる。意味はありますね。前述したように、何のためにそんなちまちましたことをやるのかというと挨拶や交流のためです。カルディで買った100円の煎餅20枚に1つ1つマスキングテープで自分のTwitterのアカウント名を書いて貼り、「新刊楽しみにしてました!」とか「いつも支部(pixiv)見てます!」とか言いながら渡すわけです。はっきり言って準備はめちゃめちゃめんどくさいが、何も書いてないBAKEのプレスバターサンドより「○○さんの小説が大好きです!」とひとことメッセージが書いてある100円の煎餅のほうがもらったほうは嬉しいと、自分も新刊を出す側の人間になってみてわかりました。もとより金儲けとかの場ではないですしね。


あと、初めて知ったときは斬新に思えてビビったのですが、女性向け同人誌即売会でいちばん喜ばれる作家への贈り物は、BAKEのプレスバターサンドでもなく100円の煎餅でもなく「手書きの手紙」だと言われております。手紙を、便箋に、ペンで書いたことなんてもう20年以上前なんだが!? 初対面の人間に手書きの手紙って重くない?? しかし郷に入っては郷に従えの精神で私は生きているので、先ほど登場したうちのジャンルの綾城さんには、「大ファンです!!!!!」みたいなことを便箋3枚分書き、封筒に入れて、初めてお会いしたときお渡ししました。自分の人生で初対面の人間に震えながら*6手書きの手紙を渡す日が来るとは思わなかったが、生きているとこんなこともあるようです。そして一度「そういうもんだ」と思うとあとはもうそれが普通になるので、私はイベントのたびにいろんな人にお手紙を書き、また自分ももらったりしています。今ではこの感覚に慣れてしまったので、即売会以外の場所でもついうっかり「大好きです!」と書いた手紙をいきなり人に渡してしまいそうで怖い。気を付けます。

たとえ毛蟹に生まれ変わっても不倫はしない──現パロの功罪

さて、ここまでは二次創作界隈をうろついている人間の属性や人間関係、そして即売会の様子などについて書き連ねてきましたが、以下は二次創作の「内容」についてです。もちろん数行で簡単に言い表せるようなものではないのだが、女オタクはpixivでいったい何を書いて/描いているのかという話です。


まず王道として「原作になかった場面を埋める」というのがあります。原作だと戦闘シーンのあとすぐに場面が変わっているが、その場面が切り替わる前の夜の描写を、妄想で埋めるみたいなやつ。私がメインでやっているのはこれです。「どういうの書いてるの?」と二次創作のことを何も知らない人に聞かれるとめちゃめちゃ困るんですが、ストレートに答えると「86話と87話の間に一晩挟まっていると思うので、今はそこの会話を書いている」とか言うことになります。ただ、二次創作のことをちょっとでもわかっている人には「原作軸」と言うとだいたい通じます。


そしてもう一つの王道として、「現パロ(現代パロディ)」がある。これは、たとえば原作の舞台が江戸時代だったりした場合、その舞台を現代日本に変えてしまうやつです。原作では兵隊だったり魔法使いだったりするキャラを、現代に持ってきて高校生とか会社員とかにしてしまうわけです。私が活動しているジャンルではこの「現パロ」がめちゃめちゃ多く、むしろ原作軸よりも王道になりつつあると言っても過言ではない。もっと詳しく知りたい人はカレー沢薫先生のコラムを読んでください。

www.pixivision.net

現パロというのは割と好みの別れるジャンルである。


二次創作というのはどれも妄想なのだが、中には「原作に近い妄想がしたい」というストイックなタイプもいる。

そういうタイプからすると現パロというのは原作からの飛躍が激しすぎて、ついていけないらしい。

そう、コラムにあるように、私はどちらかというと「原作に近い妄想がしたい」というストイックなタイプ。すべての現パロがつまらないとは思ってないのですが、やっぱり現パロは「原作からの飛躍が激しくてもはや原作キャラと人格が変わっている」「攻めも受けもキャラ崩壊しているのでこの話をこのカプで書く必要性がわからない」という作品が、正直、少なからずあります*7。もちろん、そもそも素人が利益も出さず趣味でやっているんだから各々好きにすればいいし、「必要性とかなくてもこのキャラに制服を着せてこのセリフを言わせたいんだもん!」みたいな欲求もまったくわからないわけではないので「現パロを書くな!」とか言うつもりはないのですが、もうちょっとでいいから原作軸の作品も増えないかな〜っと、願う日がないではないです。そして、この「原作軸」「現パロ」から派生して、「転生パロ」があったり「年齢操作」があったり「逆行」があったり「◯◯if」があったり「オメガバース」があったりと、無限に種類が増えていくイメージ。カプもの二次創作はとにかく「攻め」と「受け」さえいれば舞台はなんでもいいという世界であったりします。

しかし、ごくまれに「もうキャラ崩壊とかはどうでもいい。その方向で突き抜けてほしい!」と思う奇跡のような作品に出会うこともある。あまり詳しく言うと私のいるジャンルを特定されてしまうのでぼかしますが、私が感動したのは「動物転生パロ」であります。

これは何かというと、つまり、「攻め」と「受け」現代日本の人間どころかむしろ毛蟹に転生させてしまうわけです。毛蟹に転生させるとどういうことが可能になるかというと、原作ではどう考えても「受け」を束縛などしない穏やかな性格の「攻め」を、交尾のあとに生殖孔にフタをしてしまうような束縛系ヤンデレに生まれ変わらせることができるわけです。人間の姿のまま束縛系ヤンデレにしてしまうこともできるが、それだと穏やかなはずの「攻め」の性格を変えなければならず、キャラ崩壊になってしまう。そこで、もともとそういう本能を持つ毛蟹に生まれ変わらせたらむしろキャラ崩壊を防げるのではないかという、逆転の発想が生まれるんですね。私個人はストイックな原作軸のほうが好きだけど、現パロを否定したくないのは、こういう自由な発想の二次創作が生まれる土壌を枯らしてしまうのは非常にもったいないと思うからです。

そういうわけで、「攻め」と「受け」さえいればなんでもいいというのは、本当になんでもいいんです。高校生でも会社員でも、蟹でもウニでも、好きに生まれ変わらせたらいいのです。ただちょっと面白いのは、うちのジャンル、毛蟹転生パロはあるのに不倫ものはないんですよね。私が見逃している可能性はあるけど、「そういえば見ないな」と思ってけっこう頑張って探してるんですが1つも見当たらない*8。毛蟹に束縛されるのはOKだけど不倫はNGなのか……と思うと、良くも悪くも女性が多いジャンルなんだなと思います。

素人の作品見てそんなに面白い?

ところで、たまにこんな質問をされます。「決して完成度が高いとは言えない素人の小説や漫画を読んで、本当にそんなに面白いのか」と。答えは、私の場合「本当にマジで面白い」です。

「面白い」には二通りの意味があって、一つは、ストレートに面白い場合。これは、そもそも二次創作=素人がやっている、という認識がちょっと間違ってるというのもあります。二次創作は基本的に利益が出ない趣味活動ではあるが、いわゆる「神絵師」は、イラストレーターだったり漫画家だったりアニメーターだったり、本業ではプロであることもけっこう多い。pixivで「なんかこの絵見たことあるんだよな〜」と思った数日後、その人の商業漫画をTwitterで発見するみたいなことはたまにあります。私も、プロと呼べるかは疑問だが底辺ライターではあるので、まっさらの素人かと言うとちょっと違う気がします。そんな感じで、二次創作は素人がやっているからクオリティが低いとは必ずしも言えず、二次創作だけどプロがやっていて公式かと思うほど絵も話も上手い、みたいなケースは別に全然珍しくありません。


もう一つは、通常とはちょっと違う面白さを見出している場合。私の場合はpixiv探索が最近ちょっとフィールドワークじみてきているので、先ほどのように「毛蟹転生はあるけど不倫はないんだな〜」とかを発見するのが、まあ面白いです。推しカプの創作とはつまり現代女性の欲望の塊なので、「この表現はOKだけどこの表現はNGなんだ」みたいなのを数百〜数千単位の小説を読みながら分析していくのが楽しい。2014年までは無理やり系がけっこうあるけど2020年以降は全然見ないな! とか、もちろんジャンルによって差はあるんだろうけど、やっぱり何かしらの傾向はあるものです。MeTooは二次創作界隈にも大きな影響を及ぼしている。


さらに、これも通常とはちょっと違う面白さになるのかもしれないけど、「楽しんでいる人を見るのが楽しい」みたいなのもすごくあります。たとえば、お世辞にも絵が上手いとは言えない人がいたとしても、その人が自分の中の「好き」を表現し続けて、数ヶ月、半年と時間をかけて確実に上達していく過程を見るのが楽しい──楽しいというか、人間の前向きなパワーを吸って養分にできるんですよね。お金儲けもできないしキャリアアップにもならないけど、私も絵を描いてみたい、小説を書いてみたいっていう人から、「陽」のエネルギーを吸えるんですよ。中高年の同世代から「陽」のエネルギーを吸うとマジで元気になります。特に、その「陽」のエネルギーを持つ生身の人間が集結する同人誌即売会は、私は本が欲しいというより「場のパワー」を吸いたいから行っている気がします。本が欲しいだけなら通販でも買えるのでね……。だから、上手い人の作品もいいけど、技術的にはそんなに上手くなくても、心を込めて作られたのがわかる創作物なら私は余裕で大好きです。なんというか、「物」よりも、その創作物に宿る「気」を買っている感じ。


さて、冒頭でも書きましたがそろそろ1万字を優に超えているので話をまとめます。


二次創作は楽しいです。コストもそれほどかからないし、30代だろうが40代だろうが50代だろうが誰も気にしないし、前向きになれるので、ぜひ始めてみてください──本当はこのブログを読んでいる全員にそう言えたらいいのですが、そうは言えないのが非常に惜しいな、と思っています。


なぜなら二次創作とは、やってみよう! と思い立って「始める」のではなく、ある日唐突に推しに出会ってしまい、止むに止まれず「始めてしまう」ものだからです。「やってみたいから推しカプとやらを見つけてみようかな」ではたぶん全然ハマらない。「やるつもりなんかなかったのに推しが好きすぎて手を出してしまった」みたいな感じじゃないとたぶんそんなに楽しくないと思います。意図せず推しカプに出会ってしまった私は、おそらくめちゃくちゃラッキーだったのでしょう。

なので、このブログをここまで読んでくれた人に私から言えそうなことは、「ボーッと生きてるだけの中高年でも突然ものすごいパッションが燃え上がることがあるので、そんなに落ち込むな」みたいなことですかね? いや、私も今はものすごいパッションが燃え上がっているが、来年は、再来年はどうかわかりません。もう燃え尽きて灰になっているかも。でもたぶん、「燃え上がった」事実自体がこの先も私を励ましてくれる気がするので、たとえ冷めちゃう日が来ても、「あの30代半ばの日々は青春だったな……」と、今を懐かしく思い出せる気がします。そのためにわざわざ紙の本を印刷して頒布したのだし、ブログにこの記事を書いているのです。


まあそんなごちゃごちゃ言わずとも、「オタクって(いろんな意味で)すごいな」という話として読んでもらえればオッケーです! 二次創作、めちゃくちゃ楽しいよー! みんなやってみて! とは言えないのが本当に惜しい。

でも、ライター:チェコ好きの活動もまだ全然執着はあるので、このブログももうちょい更新したいですね!

*1:コミックマーケットとは何か?」によると、参加しているサークルのうちだいたい7割は赤字だそうです。15%はトントン。

*2:作品のことをなぜか二次創作界隈ではこう言う。『鬼滅の刃』『呪術廻戦』『Fate/Grand Order』などのジャンルがある、ということです。

*3:ところで、私が活動しているのはいわゆる「女性向け」と言われているジャンルですが、実はよく目を凝らしてみると男性の書き手もいます。割合でいうとたぶん3%くらい。ちょっと男性にとっては居づらい場所かな〜と感じたりもするので、もしかしたら性別を偽っている人もいるかも。でも男女間のトラブルなどは私の知る限りだと0件で、男性も女性もみんな黙々と自分の推しを書いて/描いております。

*4:ところで、こちらの作品に対して「女オタクから各ジャンルの原作へのリスペクトが感じられない」という批判を見たんですけど、私はそんなに気になりませんでした。というか、女オタクの間では原作へのリスペクトは自明のことすぎるので、わざわざ言及する必要がなかったのでは。原画展に行く話とかもあるし、あの作品に出てくる女性たちはみんな原作リスペクトは普通にあるんじゃないかなー? と私は思いました。

*5:これも本当にジャンルによりますが、「字書きに人権なし」と言われるくらい小説の人気がないジャンルもあるらしいです。

*6:本当に大ファンなので好きすぎて緊張のあまり手が震えてしまった。こんなに大好きな人にはもう生涯出会えないかもしれない

*7:原作軸でもそういう作品はあるし、私が書いているものがそうではないという確証もないが……

*8:と、書いたあとに1つだけ発見しました。でもまあ1つ。

週休3日で働く/文化系トークラジオLifeに出演しました

だいぶ事後報告ですが、6月の「文化系トークラジオLife」に出演していました。以下のリンクから聴くことができます。テーマは「3日目の休日、何をしようか?」。

open.spotify.com

ちょくちょく申し上げているように、私は2016年からずっと週休3日制の働き方をしております。会社で週4働き、1日を文筆業の仕事のために使っているので、実質週5で働いているってことでは? って気もするのですが、6年続けているだけあって、この働き方は私自身にとても合っているようです。


学生時代、私は「働きたくなかったから」を動機に文系大学院に進学(入院)するという世の中をナメきったアホだったわけですが、なぜ働きたくなかったのかというと、当時の私は「働く=週5で会社に行く」ことだと思っていたからだな、と今ならわかります。


まさか世界がコロナウィルスによって一変するなんて思わなかったし、「週5で会社に行く」以外の選択肢を与えてくれる企業と出会えるとも思っていなかった。でも、もしも週4や週3でいいなら、あるいは電車に乗って会社に出勤しなくてもいいなら、私はむしろ「企業(組織)に所属して一定の収入を確保しつつ働く」のが性に合ってる人間なのだと、35歳になった現在ではわかるようになりました。なぜならコミュ障だからです。フリーランスとして、自分で人脈を開拓しつつ、毎月新しい人と顔を合わせるような生活は私には無理。さらに言えば、毎月収入に大きな変動があるとか、いつ収入が断たれるともわからない状況で働くのも無理。でもコラムやブログの文章を書く仕事は好きだし、会社以外の場での(広義の)仕事仲間もちょっとは欲しい。ということで、わりとわがまま放題を言っているなと思うのですが、地頭が悪い上にたいした才覚はなくとも、地道に探っていればこんな世界線にたどり着けるという一例だと考えてもらえればいいなと思ったりしています。


というか、週4〜3でいいなら、私はむしろどこかの組織に所属していたい(=適度に距離が保たれた人間関係を継続的に持っていたい)人間なので、今の働き方をあと20年くらい続けて、50代後半くらいからは週2で会社勤務とかにして、書き物の仕事も細々とずっと続けて、そのまま75歳くらいまでずっと働きたい、とか思っています。もちろん何が起きるかわからないのが人生なので今はあくまでそう「思っている」だけですが、こうして考えると私はけっこう「会社組織で働く」のが好きなようです。学生時代の自分が聞いたらびっくりするだろうな。でも付き合い方の濃度を変えるだけで「絶対やだ、大嫌い」と思っていたものが「むしろけっこう好き」になるのだから、本当に、選択肢は多様であるべきだと思います。すべての人にとって。


「働く=週5で会社に行く」だと思っていて、それを苦痛に感じている人も、「働く=週4決まった時間に自宅PCの前に座る」だったりとか、「働く=週32時間好きなように時間を使って作業する」になったら、それほど苦痛ではなくなったりするかもしれない。むしろ、働くことが楽しくなったり、人生が充実し始めるかもしれない。私はたいしたことはしゃべっていませんが、このラジオを聴いてくださった方が、そんなことを考えてくれたらいいなと思います。