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草をよく知り、草を生かしてよい土をつくる。

 

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2024.5.14(火)日本農業新聞にコラム書きました。

1000字のコラムでは書ききれない発見がたくさんあり、ここに記しておきます。

 

東広島市志和町、土づくりにこだわる安芸の山里農園「はなあふ」を訪ねました。

代表の森昭暢さん(44)は竹原市の出身。

東京で都市緑化の仕事をしていましたが、土壌劣化に危機感を抱き、自然農法を学んだ後、

2011年に新規就農しました。

特徴は、地面を草で覆う「草生栽培」です。

 

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手前はホトケノザ、奥のタマネギ畑の間に、たまねぎと草が交互に生えている。

 

果樹園では用いられることのある農法ですが、

森さんの畑では、「畝で野菜を育て、通路で雑草を育てて」います。

作物ゾーンと雑草ゾーンが交互に並んでおり、作付けごとに毎年、畝と通路を入れ替えれば、連作も可能です。草の根が土に深く入ることで土を耕し、微生物やミミズなどが増えて土を肥やすほか、

土壌の炭素貯留効果もあり、草生栽培は、温暖化対策の面からも注目され始めています。

 

森さんいわく、畑の雑草と土壌分析値を見ながら緑肥や有機質の肥料を施していくと、

だいたい3~4年でよい土壌に変わるそうです。

 

タマネギ畑では、畝間にホトケノザが生え、ソラマメ畑の間にはナズナがびっしりと生え、

草のマルチはいきいきとした生命力にあふれていました。

今では地域の信頼も得て、耕作面積2.7ヘクタールのうち、

1.2ヘクタールは近隣から集まってきた農地です。

 

土壌医でもある森さんによると、

借りたばかりの土地と草生栽培を続けている畑で、

微生物や生き物の調査をすると、

草生栽培の畑の方が、微生物は多く、多様性は1.5倍という結果が出たそうです。

おもしろいと思ったのは、

慣行だった畑と、草生栽培の畑とを比べると、

実は、野菜に病気をもたらす菌は、草生栽培の畑の方が何倍も多いということ!

ところが!!

同時に、それ以上に多様な菌が数倍も豊富なため、結果、病気になりにくいことがわかったのです。

 

病気の症状が出たとしても、壊滅的にはならないそう。

あらゆるパターンに対抗できる天敵がいるからです。

有機物を増やすことで微生物のエサが増えます。

(これが生態系サービスというやつか)

 

草の種類や生え方や土壌分析をして値を見ては、必要な有機物を投入したり、

場合によっては、草ではなく、緑肥をまくことでバランスをとる。

自然のサイクルを早めるように有機物を投入しているのです。

 

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「里山」の生態系を参考にしている。

人の手がほどよく入ることで、自然破壊でははなく、多様性が豊かになる農業をイメージ

耕すと微生物、土壌生物が減少するので、回数をできるだけ少なく、平畝にして

いずれは不耕起にできればいいと考えている。

やせた土は不耕起にはむかない。よって、

ある程度有機物含有量を高めてから、不耕起に合う作物を育てる。

そばにいた有機農業やアグロエコロジーを取材するジャーナリスト

「土が変わるとお腹も変わる」著者、吉田太郎さんが、

金子美登さんの言っておられたことを体現していると驚いていた。

 

Q, 在来種のタネの特徴について

タネも菌と一緒に育ってきた。

人の手によって育った(肥料を与えた)野菜の種は、栄養分を与えられるので、

だんだん菌に依存しないで育つようになる。

在来種や伝統野菜の特徴は、「根張り」がすごいこと。

細かい根をたくさん張るということは、たくさん微生物を取り込むことになる。

F1種はあまり根が張らない。

徒長しないようにするため、品種改良されていることがわかっている。

 

種取して3~4年すると環境に適してくるので、育てやすくなる。

味も風味もよく、お客さんの受けが良い。

地域の文化や料理に合う野菜なので、お客さんにも評判よい。

タネ採りしていけたらよい。

引き継がれてきたタネを途絶えさせてはいけない思いがある。

 

夏は種取りしやすいので、夏野菜は半分が種取りしてる。

(広島伝統野菜の一つ、青なす「下志和地在来」がある)

冬は2割が種取りしたもの。

毎年、お客さんにアンケートとって、F1も含めて人気の品種を作るようにしている。

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Q.草のコントロールのコツは?

大事なのは観察。

作物目線で見ていくと、日当りがどうか、下から見た方がよく見える。

草取りとか土づくりのときに、作物と同じ目線になって観察する。

 

土づくりも種採りも3,4年かかる。

土壌のバランスが整って、水はけがよいこと、場所にもよる。

 

すると、そばにいた、三原市の有機農業で知られる坂本農場の坂本さんが、

「気力、精神力がないと種取りは大変。どの農家でもできるわけではない」と話された。

 

森さんによると、

これまで研修生の受け入れをしてきて、10数名が独立しているが、みんな失敗してない。

難病になられた方がいたが、それ以外でリタイアした方はいない。

土づくりを伝えることで、コントロールできる。

それと、販路をしっかり持つこと。

 

 

就農して4、5年目、虫害に遭ったけど、作物が全滅するわけではない。

生き残った作物を「観察」すると、答えはある。

 

森さんは土壌医の資格を持っている。

①一番大事なのが「土」。

土の見方には、物理性、生物性、化学性の3つがある。

 

②そしてタネ。「根張り」が大切。

根がしっかり張ってると(多様な有機物をとりこみ、微生物が働くので)

虫にも負けない、暑さ寒さにも負けない。

つまり、気候変動に対応していける。(レジリエンス)

 

③土とタネがそろうと強い。

無肥料であってもよい土であれば、植物が根を張ろうとする。

肥料ある土は、根を張ろうとしない。(リスクにもろい)

 

 

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草生栽培とは(安芸の山里農園 はなあふHPより)

草生栽培

持続可能な農業のためには、自然の仕組みと地域資源を活かすことだと考えて着目したのが「雑草」です。

太陽光エネルギー、植物、農地の生態系において物質循環を介してそのエネルギー利用して取り組んでいます。

 

栽培では、作物を優先させる「畝」と、雑草(緑肥作物)を優先させる「通路」を1mずつ交互に作付けしています。

次作は、「畝」と「通路」を入れ替えることで、雑草による土づくりが可能となっています。

このとき、通路部分では、雑草ではなく緑肥(作物)を育てることで輪作や対抗作物としての効果を生み出すことも可能となっています。

 

有機質肥料

先ず、前の作物および雑草(緑肥作物)の生育状態を「観察」して、土壌環境を推察しています。

植物のサイズや色などから土壌の養分量、排水性・保水性、土の力(地力)を診断しています。

さらに、土壌分析値を参考にしながら、投入する資材の種類と量を決めていきます。

植物の生育、および土壌分析値をみながら必要最小限の有機質肥料を施しています。

 

 

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Q.資材費が高くついても紙マルチなどを使う理由は?

 

環境負荷減らしたい。

東広島市でもカーボンニュートラルを目指している。

農業はカーボンマイナスができると思っている。

土壌中に炭素を蓄積し、できるところはマイナスにしたい。

自然素材だと、作業している自分自身が気持ちいい。

土の中で紙素材は分解していく。

ゴミが出ない。

 

畑を借りた当初は、スギナが優勢だったが、じゃがいもはその中でも強く、育つ。

一作ごとに畝と通路を交替させる。

 

雑草の中でも、マメ科とイネ科を育てる

畑は年に1回転、ジャガイモの次は、カブとホウレンソウなど。

 

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自分の農地、 1町5反

借りてる農地 1町2反

地目は水田9割だけど、栽培は野菜が9割

やめる農家が増えているので、隣接する農地を引き受けている。

生える草が変わり、草がコントロールできていることが目に見えてわかると、

草を生やしていても周囲の理解が変わってきている。

写真を撮りに来る人もいる。

 

草生栽培を始めてからの、おおよその草の種類の変化はこちら

 

 

 

 

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畑にまくいろんな有機質の肥料は、

黒ごま、白ごま、ゴマが多いのが印象に残った

ミネラルが多いのだとか。

 

 

 

 

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東広島市志和町、安芸の山里農園「はなあふ」

森昭暢さんの話でもうひとつ印象的だったのは、

「60%で良しとする」という言葉。

 

この世の中、地球上に、ゼロリスクは存在しない。つまり100%もない。

ましてや自然界は多様性にあふれている。

特に自然環境や気候は大きな変動を続けている。

広島では2020年に大きな西日本豪雨災害があった。2018にもあった。

常に何割かは持っていかれるという心の準備と、

それで回していける暮らしのサイズということか。

 

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これまでの農業では一般的に、「草は厄介者」でした。

しかし、地域資源の活用、循環型の社会を考えると、

除草に労力やエネルギーを使うより、草の特性を知り、草を生かして使う方が合理的です。

コストパフォーマンスもよく、

自然の摂理に則しています。

 

草生栽培の方が、実は病原菌が多いという話には、はじめ驚きましたが、

考えれば考えるほど、うまくできています。世の理を表しています。

にんげんの身体と同じです。

風邪を引いたり、病気を治療するために「薬」は時に有効ですが、根本的な改善ではなく、

その場しのぎの対症療法に過ぎません。

目先の収量を多くしたり、一つの病気をやっつけるための資材多投型は、

いつまでたっても依存から抜けることができないだけでなく、やがて土台が疲弊し劣化していきます。

(いまの地球上の危機、あるいは日本の各産地で起きている農産物の病気の多発、「土壌劣化」がそうです)

 

畑全体に多様な生き物が活躍する草生栽培を、

森さんは、「理想は里山です」と話してくれました。

はなあふのパンフレットには、

「人と生態系の調和するアグロエコロジー的有機農業を通じて、みなさまの健やかな暮らしのお手伝いをさせていただきます」と書かれています。

 

言い換えれば、農業とは、人々に健やかな暮らしを提供する営みであり、農産物はその名の通り、

農の生み出した産物に過ぎません。

 

本当に持続可能な食料生産は、人も草も虫も、地域や環境までもよくする働きを持っていることを、

畑に咲くホトケノザがそっと教えてくれました。

 

 

ベジアナあゆみ