《歓びの島》――それは、西の海に浮かぶ、不死の神々のいまする処。ひとの身が辿り着くことの許されぬ絶海の孤島。季節を問わず花咲き乱れ鳥が鳴く、麗しき「伝説の島」。 しかしながらトトがたんに妄想を抱いているとも思えなかった。何故なら月の君が長の年月、巨費を注ぎこみ、その「島」を探していたことを知っているからだ。 むろん、帝都では月の君の手配した航海は、新たな交易地を求めての果敢なる冒険ととらえられていた。この海のはるか彼方に、この大陸と同じくらい広い大地があり、そこに大勢の人間たちが住んでいないとは言い切れない。 「未知の大陸に船が到達したというのか?」 酷い有様だ、とトトの指がおれの縮れた髪に触れたが、おれはそれをそのままにして、問いを重ねた。 「《歓びの島》とは、何処にある?」 「この髪も、そこへ行けば綺麗に戻ります」 指にからめとった黒髪にトトが唇を落としたが、おれは頭をのけぞらせるよう