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統計コミュニティは統計不正にどう対応したか: 毎月勤労統計調査問題における政府・専門家・非専門家のはたらき (『東北大学文学研究科研究年報』73号)

毎月勤労統計調査における東京都での対象事業所の不正抽出問題が騒がれてから5年。当時はよくわからなかった問題点が、その後の研究を通じてわかってきました。政府や統計専門家のほか、日本の公的統計に興味を持つ人々がこの問題の解明にどのように貢献してきたのか(しなかったのか)をまとめた論文を、『東北大学文学研究科研究年報』(73号) に掲載しました。

田中重人 (2024)
統計コミュニティは統計不正にどう対応したか: 毎月勤労統計調査問題における政府・専門家・非専門家のはたらき
東北大学文学研究科研究年報 73:198-169.
http://hdl.handle.net/10097/0002000821
http://tsigeto.info/24a

【要約】
公的統計の不正が長い間隠されてきた事例が、この数年で複数みつかった。これらの問題の検証にあたり、日本の統計コミュニティ、すなわち統計に対する関心とそれをあつかう能力および相当の日本語能力を備える人々は、じゅうぶん貢献したようにはみえない。それはなぜか。本稿は、厚生労働省が「毎月勤労統計調査」(全国調査) の労働者数推計に2018年から誤った方法を持ち込んだ問題をあつかう。2018年以降の文献を検討した結果、政府内でこの統計を審査した各種委員会も、政府外の統計専門家も、厚生労働省が用意した資料と説明に依拠していたため、推計方法変更とそれによる偏りの徴候を見逃していたことがわかった。コミュニティ中心部を占める専門家たちは、政府内統計担当者の主張に非批判的であり、公開データで独自の検証をおこなうことなく追認してきたのだ。この問題に関して、日本の統計コミュニティは、周辺部にいる非専門家を別とすれば、データに基づく検証を軽視してきたといえる。

【目次】
1. 統計コミュニティとその役割
- 1.1. 「私物」としての公的統計
- 1.2. 公的統計はなぜ「私物」でありうるのか
- 1.3. 「統計コミュニティ」とは
2. 毎月勤労統計調査問題と本稿の課題
- 2.1. 母集団労働者数推計に関する層間移動事業所のウエイトの変更
- - 2.1.1. 毎月勤労統計調査の母集団労働者数推計の概要
- - 2.1.2. 層間移動事業所のあつかい
- - 2.1.3. 2018年のウエイト計算方法変更
- - 2.1.4. 誤った再集計による過去データへの波及
- 2.2. 本稿の課題
3. 非専門家による指摘
- 3.1. 山田正夫の指摘
- 3.2. TATの指摘
- 3.3. 明石順平の指摘
4. 統計専門家の対応
- 4.1. 松本健太郎の記事
- 4.2. 日本統計学会「公的統計に関する臨時委員会報告書」
- 4.3. その他のデータ分析例
- 4.4. 田中重人の指摘
5. 政府の活動
- 5.1. 厚生労働省
- 5.2. 毎月勤労統計調査等に関する特別監察委員会
- 5.3. 統計委員会
- - 5.3.1. ベンチマーク更新時のギャップの検討
- - 5.3.2. 抽出率逆数に関する資料
- - 5.3.3. 時系列比較のための推計値
- 5.4. 厚生労働省の有識者懇談会
- 5.5. 厚生労働省「毎月勤労統計調査の改善に関するワーキンググループ」
6. 議論
- 6.1. 結果のまとめ
- 6.2. 公的統計と統計コミュニティの未来

【補足】
(1) 計算に使ったデータとスクリプト、および図にプロットしたデータは http://doi.org/10.17605/OSF.IO/RS8T7 から入手できます。
(2) 解説を https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20240319/24a に書きました。

事典項目の執筆:「公的統計の利用」『家族社会学事典』丸善出版 (2023年12月)

日本家族社会学会 (2023)『家族社会学事典』(丸善出版) の項目「公的統計の利用」(146-147頁) を執筆しました:

田中重人 (2023)「公的統計の利用」日本家族社会学会『家族社会学事典』丸善出版 (pp. 146-147) http://tsigeto.info/23k
ISBN: 978-4-621-30834-9
出版社ページ: https://www.maruzen-publishing.co.jp/item/b305112.html

公的統計 (すなわち政府その他の公的機関が作成する統計) について、それを研究において利用するための原則と注意事項を、「公的統計の目的と目的外利用」「個人情報の管理と匿名化」「集計表」「メタデータ」の4項目をとりあげて説明しました。公開される集計表を利用する方法と、ミクロデータを利用する方法 (日本の統計法の規定では匿名データ、調査票情報、あるいはオーダーメード集計) の両方をふくみます。

日本のCOVID-19対応における多義語「クラスター」の用法: 2020年の記録 (『文化』86巻3/4号)

日本の新型コロナウイルス感染症 (COVID-19) 対応を特徴づける用語である「クラスター」について、この用語の初出である2020年2月からおよそ1年間の用法の変遷を記述した文章を『文化』(86巻3/4合併号) に掲載しました。

田中重人 (2023)
日本のCOVID-19対応における多義語「クラスター」の用法: 2020年の記録
文化 86(3/4): 239-219, 208
http://tsigeto.info/23a
http://tsigeto.info/Tanaka-2023-Bunka.pdf (印刷版PDFファイル)

東北大学の機関リポジトリ TOUR https://tohoku.repo.nii.ac.jp で公開されるはずですが、9月18日まで新規登録が停止 (https://www.library.tohoku.ac.jp/news/2023/20230609.html) しているため、しばらくかかる見込みです。その代わりに、印刷版PDFファイルを http://tsigeto.info/Tanaka-2023-Bunka.pdf で公開しています。

【要約】
「クラスター」は、2020年初頭以降の新型コロナウイルス感染症 (COVID-19) への日本の対応を特徴付ける用語である。この用語の2020年2月から2021年1月までの用法を、政府文書やマスメディアによる報道などの関連文献から収集した。

その結果、政府と専門家が2020年2月末から3月上旬にかけてこの用語を使い始めたときには、すでに、ひとりから大勢への感染 (A)、拡大する可能性のある感染連鎖 (B)、1か所で生じる大規模感染 (C)、という3つの意味が共存していたことがわかった。その後、Aは姿を消し、BとCが残った。保健所による積極的疫学調査では、「クラスター」は一貫してBの意味である。一方、自治体は、すくなくとも2020年6月以降は、5人以上が感染したという具体的な基準で、意味Cを使用している。日本政府は、いったんはそれとおなじ意味で「クラスター」を使用するようになったが、その後、意味Bを併用するようになり、さらにCの意味を拡張して、4人未満の小規模な感染をふくめて「クラスター」と呼ぶ (意味C') ようになった。

このような用法の変化は、政府とそれに関連する専門家がCOVID-19に対応するためにとってきた戦略に潜在的な変化が生じたことを反映している。彼らは、COVID-19流行の初期段階においては、少数のスーパースプレッダーによる大規模感染に焦点を当て、それを「クラスター」ということばであらわしていた。しかし、流行が長期化する中で、対策の焦点は、小規模な感染の連鎖に移っていった。2020年7月以降、彼らは、日常的な活動 (特に飲食) の感染リスクを判断するために、小規模な感染の事例を「クラスター」と呼び、その情報を収集するようになった。そこでは、「クラスター」はもはや対策の対象となる脅威そのものを指すのではなく、脅威につながる可能性のある行動の情報を現場から集めるために便宜的に使うことばとなっている。

【目次】
1. 疫学における「クラスター」
2. COVID-19第1波: 「クラスター」概念の創出と拡散
- 2.1. 「クラスター」の登場
- 2.2. 積極的疫学調査における「クラスター」
- 2.3. 「集団感染」と「クラスター」
- - 2.3.1. 厚労省による「集団感染」「クラスター」の解説 (2月29日)
- - 2.3.2. 専門家会議「見解」(3月2日、3月 9日)
- - 2.3.3. 日本公衆衛生学会「クラスター対応戦略の概要」(3月10日)
- - 2.3.4. 厚労省「全国クラスターマップ」問題 (3月15日)
- 2.4. 第1波後半の二重構造
- 2.5. 第1波における3種の「クラスター」
3. COVID-19第2波: 「クラスター」の小規模化
- 3.1. FETP「クラスター事例集」
- 3.2. 小規模感染事例をふくむ「クラスター等」
- 3.3. 第2波における「クラスター」定義の変容
4. COVID-19第3波: 質的把握の重視
- 4.1. 「クラスター」事例ヒアリング
- 4.2. 「集団感染」の小規模化と会食への警戒
- 4.3. 複数感染事例としての「クラスター」定義
- 4.4. 緊急事態宣言と「クラスター」集計基準の再変化
- 4.5. 第3波における「場面」の質的把握
5. まとめ

【補足】
(1) 最初のページ (p. 239) 「10か月あ」と「まりを対象に」の間で改段落されていますが、これはまちがいで、本来はそのままつづいているはずところです。あとで何らかのかたちで訂正が出ると思います。
(2) 論文に盛り込めなかったことの補足を https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20230907/23a に書きました。

毎月勤労統計調査問題における政府と専門家:データに基づく批判の不在 (社会政策学会第144回大会, 2022-05-14)

Full paper and related information: http://tsigeto.info/22y [2022-05-06追記]

Paper title: 毎月勤労統計調査問題における政府と専門家:データに基づく批判の不在

Author: 田中 重人 (東北大学)

Abstract: 政策の合理性は、データと論理に基づく批判的コミュニケーションによって支えられる。そのようなコミュニケーションの担い手としては、政府、専門家、非専門家の3者がありうる。本研究では、2018年末に不正が発覚した厚生労働省「毎月勤労統計調査」について、2019年以降に独自のデータ分析による問題の告発があったケースを収集した。そうした告発は数としては少ないが、そのなかでは非専門家が無視できない役割を担ってきた。一方、専門家 (統計学者や経済学者等) の活動は不活発ないし非効果的であり、政府 (厚生労働省以外の部門) によるものは皆無であった。報告においては、これらのケースについて、どのようなデータに基づいてどのような問題が告発されたかを紹介するとともに、政府が政策立案に利用するデータについての効果的な批判的コミュニケーションを成立させる条件について考察する。

Conference: 社会政策学会 第144回大会 (2022-05-14..15, Online)

Session: 自由論題【A】労働政策 (2022-05-14 09:30-11:30)

クラスター対策とは何だったのか: 日本のCOVID-19対応にみる非合理的コミュニケーション (関西社会学会第72回大会, 2021-06)

報告資料スライド: http://tsigeto.info/21z-slide.pdf

Paper title: クラスター対策とは何だったのか: 日本のCOVID-19対応にみる非合理的コミュニケーション

Author: 田中 重人 (東北大学)

Abstract:

2020年2月25日に厚生労働省が「クラスター対策班」を設置して以来、「クラスター対策」は日本のCOVID-19対応を特徴づけるものとされてきた。これは感染症法15条に基づく「積極的疫学調査」の実施に関わる事柄である。

文献を収集して検討したところ、クラスター対策について3種類の説明が併存してきたことがわかった。それぞれ「理想」「公式」「現場」のクラスター対策と呼ぶことにする。

理想のクラスター対策: 国立感染症研究所 [1] によれば、クラスター対策とは、感染の連鎖をすべて同定し、感染者を隔離して感染拡大を防ぐものである。
公式のクラスター対策: 押谷 [2] によれば、感染の規模によって調査の方法を変え、大規模な感染を優先的に発見しようとするのがクラスター対策である。
現場のクラスター対策: 実際に各地の保健所が調査をおこなう際は、感染連鎖をたどる条件の設定をきびしくして、感染者の発見・隔離の範囲を絞り込んでいる [3] [4]。

すべての感染を調べようとする理想のクラスター対策に対し、公式のクラスター対策は、大規模感染の発見を優先して小規模感染を見逃すことを許容する。現場のクラスター対策も感染者の見逃しを許容するが、感染規模にかかわらず個別の接触の様態 (接触者との距離、接触時間、マスク着用の有無など) による一律の基準を適用する点が、公式のクラスター対策とのちがいである。

用語法の乱立の背景には、疫学の専門用語「クラスター」(cluster) が、日本政府やそれに協力する専門家の間で多義的に使われてきた事情がある。本報告では、COVID-19をめぐるコミュニケーションにおいてこのような用語不統一がどのような混乱をもたらしたかを論じる。(詳細は http://tsigeto.info/21z 参照)

References:
[1] 国立感染症研究所 (2021-01-14) 「新型コロナウイルス感染症患者に対する積極的疫学調査実施要領」(1月8日版 訂正版) https://www.niid.go.jp/niid/images/epi/corona/COVID19-02-210108.pdf
[2] 押谷仁 (2020)「感染症対策「森を見る」思考を」(インタビュー) 『外交』61: 6-11.
[3] 岩永直子 (2020-08-17) 「宴会2時間でも「大丈夫というわけではない」 新型コロナ第一波から学ぶべき教訓」(和田耕治インタビュー) BuzzFeed News https://www.buzzfeed.com/jp/naokoiwanaga/covid-19-wada-12
[4] 東京新聞 (2021-01-24)「<新型コロナ>静岡県内で新たに50人の陽性確認 出入り口の扉から感染拡大? 掛川市の事業所でクラスター」TOKYO Web. https://www.tokyo-np.co.jp/article/81742

Conference: 関西社会学会 第72回大会 (2021-06-05..06, Online)

History:
2021-03-10: Created
2021-03-19: Revision
2021-06-05: Slides

「3密」概念の誕生と変遷: 日本のCOVID-19対策とコミュニケーションの問題 (『東北大学文学研究科研究年報』70号)

「3密」ということばが使われはじめてからちょうど1年。このほど、このことばの来歴と変遷をたどった文章を『東北大学文学研究科研究年報』(70号) に掲載しました。

田中重人 (2021)
「3密」概念の誕生と変遷: 日本のCOVID-19対策とコミュニケーションの問題
東北大学文学研究科研究年報 70:140-116.
http://hdl.handle.net/10097/00130599
http://tsigeto.info/21a

【要約】
日本の新型コロナウイルス感染症 (COVID-19) 対応を特徴づける概念である「3密」「3つの密」について、その創出と変容の過程を調べた。政府・専門家による文書を探索した結果、つぎのことがわかった。(1) 換気が悪く、人が多く、近距離での接触があるという3条件すべてを満たす状況を回避すべきという提言が公表されたのが2020年2月29日。(2) これら3条件に「密閉」「密集」「密接」という名称があたえられ、まとめて「3つの密」ということばができたのが3月18日。(3) 3条件が同時に重なった場を「3つの密」と呼ぶ定義があたえられたのが4月1日。(4) 条件が1つでもあれば「3つの密」と呼ぶ定義に変更されたのが4月7日。(5) この定義変更について説明・広報はなく、変更後の定義にしたがうことが徹底されているわけでもない。(6) 3密回避の方針は従来と変わっていないとのメッセージが政府と専門家の文書にふくまれるため、定義変更があったことが一般的に認知されず、「3密」が何を指すかについての解釈に齟齬が生まれる結果になっている。

【目次】
1. 「3密」概念をめぐるコミュニケーション問題
2. 課題と方法
3. 資料からわかる時系列
- 3.1. 前史
- 3.2. 厚生労働省Q&A
- 3.3. 専門家会議3月2日「見解」
- 3.4. 「3つの条件が重なった場」
- - 3.4.1. 専門家会議3月9日「見解」
- - 3.4.2. 専門家会議3月19日「状況分析・提言」
- 3.5. 「3 (つの) 密」
- - 3.5.1. 首相官邸「3つの「密」を避けて外出しましょう」
- - 3.5.2. 「3つの密」から「3密」へ
- - 3.5.3. 専門家会議4月1日「状況分析・提言」
- 3.6. 緊急事態宣言と定義変更
- - 3.6.1. 対策本部3月28日「基本的対処方針」とその審議過程
- - 3.6.2. 諮問委員会4月7日会議
- - 3.6.3. 「基本的対処方針」4月7日改正
- 3.7. 「3密」と「ゼロ密」
- 3.8. 専門家の態度の変化
4. 議論
- 4.1. 「3密」の定義とその変遷
- 4.2. 政府は何を要請していたか
- 4.3. 科学的根拠
5. 結語

Politics of Double-Meaning Buzzwords: The High-Context Usage of the "Three Cs" Concept of Japan's COVID-19 Response (under review)

Title: Politics of Double-Meaning Buzzwords: The High-Context Usage of the "Three Cs" Concept of Japan's COVID-19 Response

Author: TANAKA Sigeto (Tohoku University)

Abstract:

The concept of "three Cs" frequently appears in Japanese discourse about COVID-19 in reference to addressing the three conditions of closed space with poor ventilation, crowding, and close contact. It has two meanings that differ in the logical relationship among the three conditions: whether they are combined by "and" (conjunction) or by "or" (disjunction). In March 2020, experts proposed the concept as a conjunction to issue an alert only about places that satisfy all three conditions. In April, however, the government reinterpreted the concept as a disjunction to request that people avoid any situation with at least one of the conditions. This study explores the implicit switching between these meanings. Its use with the conjunction meaning was to relax the request for social distancing and allow people to enjoy leisure activities if they take any countermeasure to prevent one of the conditions (e.g., ventilation), as found in discourse supporting the subsidization program for traveling and eating in the summer and autumn of 2020. By contrast, its use with the disjunction meaning was to persuade people to stay home during periods of severe outbreaks in April 2020 and January 2021. The definition of the concept is left ambiguous to allow for such high-context usage. The government and experts mobilize people either to stay home or go out by using the same phrase but switching between its implicit meanings according to their political intentions. (See http://tsigeto.info/3cs for details)

Conference: The Asian Conference on Arts and Humanities 2021 (ACAH2021) (May 24-26, 2021, Tokyo)

Status: Under review

Related: Tanaka Sigeto. 2021. The Emergence and Modification of the Concept of '(Overlapping) Three Cs': A Problem in Public Communication in Japan's Coronavirus Disease (COVID-19) Response. http://tsigeto.info/21a

History:
2021-03-10: Created
2021-03-19: Revision

Preprint 「「3密」概念の誕生と変遷: 日本のCOVID-19対策とコミュニケーションの問題」

「3つの密」「3密」という概念が生まれて変質してきた過程について、 https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20200921/3m で紹介した資料等を基にした論文を書きました。
OSF Preprints でとりあえず公開しています:

Tanaka Sigeto. 2020. 「3密」概念の誕生と変遷: 日本のCOVID-19対策とコミュニケーションの問題. OSF Preprints. October 3. http://doi.org/10.31219/osf.io/25ba6
(The Emergence and Modification of the Concept of “(Overlapping) Three Cs”: A Problem in Public Communication in Japan's Coronavirus Disease (COVID-19) Response)

目次


1. 「3密」概念をめぐるコミュニケーション問題
2. 課題と方法
3. 資料からわかる時系列
4. 議論
5. 結語

要約


日本の新型コロナウイルス感染症 (COVID-19) 対応を特徴づける概念である「3密」「3つの密」について、その創出と変容の過程を調べた。政府・専門家による文書を探索した結果、つぎのことがわかった。(1) 換気が悪く、人が多く、近距離での接触があるという3条件すべてを満たす状況を回避すべきという提言が公表されたのが2020年2月29日。(2) これら3条件に「密閉」「密集」「密接」という名称があたえられ、まとめて「3つの密」ということばができたのが3月18日。(3) 3条件が同時に重なった場を「3つの密」と呼ぶ定義があたえられたのが4月1日。(4) 条件が1つでもあれば「3つの密」と呼ぶ定義に変更されたのが4月7日。(5) この定義変更について説明・広報はなく、変更後の定義にしたがうことが徹底されているわけでもない。(6) 3密回避の方針は従来と変わっていないとのメッセージが政府と専門家の文書にふくまれるため、定義変更があったことが一般的に認知されず、「3密」が何を指すかについての解釈に齟齬が生まれる結果になっている。

The concept of “three Cs” (situations characterized by three conditions of closed space with poor ventilation, crowding, and close contact with a short distance) has played an important role in Japan's COVID-19 response. The government and experts have employed this concept to guide people in avoiding such situations in order to prevent outbreaks. To investigate the emergence and modification of this concept, the author traced government documents. The findings were as follows. (1) On February 29, 2020, the government, for the first time, appealed to the public to avoid places with the three overlapping conditions. (2) On March 18, a new Japanese phrase was coined that was later translated as “the (overlapping) three Cs.” (3) On April 1, experts defined the term as a place that satisfied all the three conditions. (4) On April 7, the government modified the definition to include places with at least one of the three conditions. (5) However, the government and experts have not explained the difference between the two definitions to the public. (6) Rather, they insist that their policy on the need for avoiding these three conditions has been consistent and unchanged. Their conduct has led to miscommunication and misunderstanding among the public.

感染症対策「日本モデル」を検証する: その隠された恣意性 (『世界』934号)

岩波書店発行の月刊誌『世界』2020年7月号 (=934号) の特集1「転換点としてのコロナ危機」に、つぎの小文を寄稿しました。

感染症対策「日本モデル」を検証する: その隠された恣意性
http://tsigeto.info/20b

本稿で「日本モデル」と呼んでいるのは、新型コロナウイルス感染症対策専門家会議の2020年4月1日「新型コロナウイルス感染症対策の状況分析・提言」(第2回) に出現した用語で、「市民の行動変容とクラスターの早期発見・早期対応に力点を置いた日本の取組」をあらわすものです。

本稿では、その前提となった、少数の感染者がいわゆる「3密」の状況で大量の2次感染を起こすという想定を検証します。根拠となった2020年2月26日までの感染状況の分析結果と、専門家が改変して説明に使用してきたグラフを検討し、恣意的な仮定に基づいた解釈がおこなわれていたこと、別の仮定を置けば日本モデルは支持できなくなることをあきらかにします。(https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20200408/making などとほぼおなじ内容です。)

さらに、新型コロナウイルス感染症に関して、本件以外にも疑わしいデータが政策判断に使われてきたことを指摘し、第三者による批判・検証が可能な情報を公開するように主張します。

2月2日(日)連続勉強会:「国難」のなかのわたしたちのからだ 第5回「STOP! 自治体の道徳PR事業」(渋谷アイリス)

愛媛県は昨年4月から、「まじめえひめ」プロジェクトを開始しました。同県の「県民性」を「まじめ」と規定し、積極的に発信していくものです。すでに統計の誤りと盗用問題、長時間介護の美徳化、セクハラ動画の配信などに批判が起きていますが、この事業は自治体PRの名を借りた県民への「道徳教育」プロジェクトともいえ、とても危ない動きです。その一環である「県民動画」では、頑張らないものは「淘汰」といった表現まで発信されています。

官公庁が特定の政策を進めるとき、それを正当化する根拠の一つが統計です。だからこそ統計が歪められ、悪用されることも。政策と統計の危うい関係や市民のリテラシーについて愛媛を事例に探ります。

STOP! 自治体の道徳PR事業: 愛媛県・まじめえひめプロジェクトへの抗議―緊急報告と、使用された「統計」の検証
日時: 2020年2月2日(日) 14:00 - 16:30
会場: 渋谷男女平等・ダイバーシティセンター<アイリス> (東京都渋谷区文化総合センター大和田8階・渋谷駅西口徒歩5分)
参加費: 500円(学生・非正規雇用の方などは300円)
申込み: 準備の都合上、なるべくお申込みをお願いします。当日参加も可。

プログラム
- 報告1.西山千恵子・田中重人:愛媛県への抗議文―経緯と問題、県の対応
- 報告2.高橋さきの:「県民性」をめぐって――「血液型」そして「淘汰」
- フロア討議

主催: 高校保健・副教材の使用中止・回収を求める会
共催: リプロダクティブ・ライツと健康法研究会、レインボー・アクション
協力: 女政のえん

勉強会案内 URL: https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20200131/seminar5

Political Vocabularies and Localized Discourses on Demographic Transition: The Emergence of the 'Syousika' Problem in 1980s Japan (RC06-VSA Conference, Oct 2019, Hanoi)

Paper title: Political vocabularies and localized discourses on demographic transition: the emergence of the 'syousika' problem in 1980s Japan

Author: TANAKA Sigeto (Tohoku University)

Absrtact:

Policies and political discourses depend on historical contexts and local languages. The vocabulary to define social problems represents and leads the focus of public opinion. This paper reports on the result of a literature survey on the Japanese word “syousika” (or “shôshika”), coined through discourses on demographic transition in Japan, which literally means a decreasing number of children. Today, this word occupies the central position in Japanese political discourses on low fertility and shrinking population.

It is believed that this word made its first appearance in the early 1990s. However, it was already in literature in the early 1980s, although its meaning was different. In those days, the word simply meant a decrease in the number of siblings. It had nothing to do with the country's fertility or population. The word was used in a conservative perspective to express the worry that a smaller family could restrict socialization of youths, making them too individualistic. Such usage was by government officials in the Ministry of Education as well as by researchers in educational sociology.

In the early 1990s, the country's record-hitting low fertility attracted public attention. Within a few years, the word “syousika” gained a new meaning to symbolize that phenomenon. Demography researchers borrowed the word and authorized its use as a technical term to indicate below-replacement fertility. Nonetheless, the word has varied connotations, not limited to low fertility, serving as a magic term to cover various problems related to population. This paper traces the transformation of the meaning of the word to explore how it has impacted political debates on population.

Keywords: language, discourse, policy, population, fertility

Conference: RC06-VSA International Conference "The Family in Modern and Global Societies: Persistence and Change" (October 17-19, 2019, Hanoi)
Status: Accepted for oral presentation [2019-06-11]

URL: http://tsigeto.info/19x

独自研究に基づく政策立案:EBPMは何をもたらすか (日本家族社会学会第29回大会, 2019-09 神戸) (報告申込済)

報告資料: https://researchmap.jp/mu1xbddcd-58901/

Paper title: 独自研究に基づく政策立案:EBPMは何をもたらすか

Author: 田中 重人 (東北大学)

Absrtact:

「独自研究」(original research) とは、Wikipedia 用語で「信頼できる媒体において未だ発表されたことがないもの」をいい、具体的には「未発表の事実、データ、概念、理論、主張、アイデア」などを指す [1]。Wikipediaは多数の匿名執筆者が編集することのできるオンライン事典であるため、記事の品質を維持するためにさまざまな規則を設けている。独自研究の利用禁止はそうした規則のひとつで、信頼できない情報源からの情報を排除することによって記事の信頼性を確保する役割を果たしている。

この基準に照らして日本政府の政策立案や評価のプロセスをみると、その多くが政府自身による独自研究に立脚していることがわかる。Wikipediaレベルの信頼性を確保する手段がとられていないので、政策を正当化するために持ち出されるデータの質が保証できない弊害が生まれている。たとえば今年1月の国会での首相施政方針演説のなかにあった、ひとり親家庭の大学進学率が上昇したという数値は、厚生労働省「全国ひとり親世帯等調査」に基づくものとされる [2]。だがこの「大学進学率」をどうやって計算したのかは、当時はよくわかっていなかった。その後の国会質疑 [3] で計算方法の概略はわかったものの、さまざまな疑問点が解消されずに残っている。

政府は、近年、「エビデンスに基づく政策立案」(evidence-based policy making: EBPM) をスローガンに政策の立案・評価過程の合理化を推進している。しかし上のような弊害に対して、EBPMが改善の役に立つかというと、そういう方向には進みそうにない。日本政府の唱えるEBPMは、むしろ独自研究を推進する内容であるからだ。たとえば2018年の総務省「EBPMに関する有識者との意見交換会」の報告 [4] は、ほぼ全編が独自のデータを分析する前提の内容である。「文献調査」は、「関係者からの聞き取り等」と同様のオプショナルな位置づけで、一言だけ言及されている。

一方、医療の分野では、この四半世紀の間に「エビデンスに基づく医療」(evidence-based medicine: EBM) が支配的な潮流となってきた [5]。EBMにおいては、意思決定の材料として使うエビデンスはまず医学文献の網羅的な検索によって得るものなので、独自研究は実質的に排除されている。EBMは「エビデンスに基づく」という冠をEBPMと共有してはいるものの、この点では正反対の方向を向いており、独自研究の弊害を免れている。ただ、EBMに関する議論では、なぜ独自研究を排除するかは示されてこなかった。EBMにとって、医師や病院が文献を渉猟せずに自らの経験だけにしたがって治療方針を決めることは克服すべき悪しき伝統であり、それは議論するまでもない前提だった。

本報告では、意思決定過程から独自研究を排除する意義について、(1) 捏造・改竄の抑止、 (2) 専門家からの批判を通じた信頼性の向上、 (3) 非専門家による反論機会の保障、の3側面から検討する。また、独自研究に基づく政策立案の弊害を防ぐため、独自研究排除原則またはそれと同等の機能を持つ制度を確立する方向性について論じる。

(本研究はJSPS科研費 JP17K02069 の助成を受けたものです。詳細は http://tsigeto.info/19y 参照)

References:
[1] Wikipedia (2018)「独自研究は載せない」. {https://ja.wikipedia.org/wiki/WP:NOR} (2018年8月10日 7:03)
[2] 佐藤 武嗣 (2019)「統計のウソを見破る方法とは あの数字、試しに取材した」『朝日新聞DIGITAL』2019年2月4日08時00分. {https://www.asahi.com/articles/ASM213HH4M21ULZU00G.html}
[3] 国立国会図書館 国会会議録 (2019)「第198回国会 衆議院予算委員会議録第7号」(2019年2月24日). {http://kokkai.ndl.go.jp/SENTAKU/syugiin/198/0018/19802140018007.pdf}
[4] 総務省 (2018)「EBPM (エビデンスに基づく政策立案) に関する有識者との意見交換会報告 (議論の整理と課題等)」(平成30年10月). {http://www.soumu.go.jp/main_sosiki/kenkyu/ebpm_opinions/}.
[5] David L. Sackett ほか; 監訳=久繁 哲徳 (1999)『根拠に基づく医療: EBMの実践と教育の方法』オーシーシー・ジャパン. ISBN:4840725349

Keywords: 根拠に基づく政策立案 (evidence-based policy making), 日本政府 (Government of Japan), Wikipedia

Conference: 日本家族社会学会 第29回大会 (2019-09-14..15, 神戸学院大学 ポートアイランドキャンパス)
Session: 自由報告 (1) 3 家族政策 (9月14日(土) 10:00-12:30 会場D217)


History:
2019-05-30 Submitted
2019-06-02 Revision
2019-09-14 Slides

7月21日(日)連続勉強会:「国難」のなかのわたしたちのからだ 第4回「人口政策に組み込まれた「不妊」」(東京麻布台セミナーハウス)

「少子化対策」という文脈で実施される不妊〝治療〟支援。「妊活」だけでなく、近年では「卵子の老化」キャンペーンに煽られた「卵活」も生じています。不妊への不安につけこむ医療とその関連産業やメディア、早期の妊娠・出産を促す政治勢力の動きは、私たちの意識、行動、選択に何をもたらしているでしょうか? 仕掛けられた世界一の不妊〝治療〟大国ニッポン、その現状を探ります。

日時: 2019年7月21日(日)14:00-16:30
会場: 東京麻布台セミナーハウス (大阪経済法科大学) 2階大研修室
参加費: 500円(学生・非正規雇用の方などは300円)
申込み: 準備の都合上、なるべくお申込みをお願いします。当日参加も可。

プログラム
- 報告1.鈴木りょうこ:科学・ビジネス・政治がつくり出す「生殖」市場
- 報告2.柘植あづみ:「卵子の老化」と卵子提供によって子どもをもつこと
- フロア討議

主催: 高校保健・副教材の使用中止・回収を求める会
共催: リプロダクティブ・ライツと健康法研究会

勉強会案内 URL: https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20190517/seminar4

5月11日(土)連続勉強会:「国難」のなかのわたしたちのからだ 第3回「優生保護法の負の遺産」(東京麻布台セミナーハウス)

「不良な子孫の出生を防止する」ことを目的とした優生保護法。合意のない強制的な不妊手術や中絶が、やっと可視化されてきました。

一方、優生保護法には母性の生命健康の保護というもう一つの目的がありました。堕胎罪がありながら中絶が条件付きで合法化され、その適用条件が拡大された背景にどんな社会状況や議論があったのかを探ります。

少子化時代の人口政策と優生思想について、過去と現在をつなぐ勉強会、ぜひご参加ください。

日時: 2019年5月11日(土)11:00-13:30
会場: 東京麻布台セミナーハウス (大阪経済法科大学) 2階大研修室
参加費: 500円(学生・非正規雇用の方などは300円)
申込み: 準備の都合上、なるべくお申込みをお願いします。当日参加も可。

プログラム
- 報告1.柘植あづみ:引揚者の「不法妊娠」中絶問題と優生保護法の成立前夜
- 報告2.大橋由香子:優生的な不妊化措置と、堕胎罪―中絶許可が意味するもの
- フロア討議

主催: 高校保健・副教材の使用中止・回収を求める会
共催: リプロダクティブ・ライツと健康法研究会

勉強会案内URL: https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20190413/seminar3

研究報告「「少子化」観の形成とその変化:1974年から現在まで」(2019-03-24 東京 <連続勉強会:「国難」のなかのわたしたちのからだ> 第2回)

報告資料: https://researchmap.jp/mukftmohn-58901

Date: 2019-03-24 (Sunday) 14:00-16:30
Location: 東京麻布台セミナーハウス (大阪経済法科大学) 2階大研修室
(http://www.keiho-u.ac.jp/research/asia-pacific/access.html)

Title: 「少子化」観の形成とその変化:1974年から現在まで

Author: 田中 重人 (東北大学)

※ 報告内容は、昨年12月8日の科学技術社会論学会報告 http://tsigeto.info/18v とあまり変わらないものになる予定です。

連続勉強会:「国難」のなかのわたしたちのからだ> 第2回 「少子化」論を問う: その変遷と科学言説の検証
https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20190303/seminar2

Preprint: Monthly Labour Survey Misconduct since at Least the 1990s (Tanaka S. 2019-03-05)

オンラインメディア『wezzy』記事 (2019-02-07)「「毎月勤労統計調査」は90年代以前から改ざんされていた? データ改ざんに甘い社会」をベースにした英語論文を公表しました。2001-2003にかけての誤差率の変動を分析したブログ記事 (2019-01-25)「捨てられていたサンプル: 毎月勤労統計調査2001-2003データの検証」の内容も付録としてつけてあります。

TANAKA Sigeto (2019-03-05) Monthly Labour Survey Misconduct since at Least the 1990s: Falsified Statistics in Japan. http://tsigeto.info/19m

This paper is based on a Japanese article published on an online media site wezzy. Its Appendix is based on a Japanese blog article by the author.

Abstract: The Monthly Labour Survey, which is one of the major economic statistics published by the Government of Japan, has been under criticism since January 2019 due to its negligent survey conduct and misinformation regarding its results. This paper approaches this scandal from a viewpoint of how the indicators of the quality of the survey were falsified and misreported. Based on published information regarding sample size and sampling errors, the author outlines three problems. (1) Since at least the 1990s, the survey’s sample size has been reported as larger than it actually was. (2) Since 2002, a significant portion of the sample has been secretly discarded. (3) Since 2004, the sampling error has been underreported by ignoring errors occurring in the strata of large establishments. These problems have escaped public attention as the government and academics are not critical of the falsification of basic information that determines the quality of the survey.

DOI: 10.31235/osf.io/2bf3z (on SocArXiv)

「毎月勤労統計調査」は90年代以前から改ざんされていた?: データ改ざんに甘い社会 (wezzy 2019-02-07)

厚生労働省「毎月勤労統計調査」をめぐる問題について、オンラインメディア『wezzy』に記事を書きました:

田中 重人 "「毎月勤労統計調査」は90年代以前から改ざんされていた? データ改ざんに甘い社会" https://wezz-y.com/archives/63479 (wezzy 2019.02.07)
・1990年代以前からの調査対象削減
・2002年以降の抽出率データ改ざん
・2004年以降の誤差率データ改ざん
・データ改ざんに甘い社会

記事で使ったデータは http://tsigeto.info/maikin/ に載せてあります。

この記事の抜粋と解説:
"データ改ざんに甘い社会で統計の信頼性を云々することの無意味さについて" (2019-02-08) https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20190208/wezzy

記事中の2番目の話題について、データと計算方法:
"捨てられていたサンプル: 毎月勤労統計調査2001-2003データの検証" (2019-01-25) https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20190125/maikin2003

「少子化」論の変遷:日本社会は何から目を背けてきたのか (科学技術社会論学会 第17回年次研究大会 2018-12-08 東京)

報告資料: https://researchmap.jp/muqp0311a-58901/
Date: 2018-12-08 (Saturday)
Location: 成城大学 (東京)
Title: 「少子化」論の変遷:日本社会は何から目を背けてきたのか
Author: 田中重人 (東北大学)

○ Abstract

日本の人口統計において継続的な出生力低下が観測されはじめてから40年以上が経過した。社会問題としての「少子化」の発見 (1990年代初頭) から数えても四半世紀になる。今日、「少子化」に関する言論は数多く、現代日本の主要な社会問題とみなされている。

「少子化」をめぐる議論は、当時の状況を反映した問題関心からはじまった。その初期設定は、現在にいたる言説のありかたを大きく規定している。この報告では、出生力の低下が問題となった当時の社会状況や関心のありかを紹介するとともに、「少子化」をめぐる言説がどのように変遷してきたのか、またそのなかで何が重視され、何が軽視されてきたのかを論じる。

【出生力の低下と「少子化」問題の構築】

日本政府が公表する「合計特殊出生率」(total fertility rate: TFR) の値は1974年に低下をはじめる。当時すでに出生力は人口置換水準と拮抗するところまで落ちており、それ以上の低下は人口の長期的な減少を意味する。しかし当時の人口学者の主流の見立てとしては、これは結婚のタイミングの遅れによる一時的なものであり、すぐに人口置換水準まで回復するだろうというものだった。

この出生力低下が長期的かつ深刻な問題として政治的に認知されたのが、1990年代初頭である。1992年版『国民生活白書』[1] が「少子化」ということばをとりあげたときには正確な定義は示されておらず、出生率低下や子供数減少を広く指した用法であった。ただし、『国民生活白書』に少子化をめぐる議論が載ったのは、TFRが継続的に低下し、日本の統計史上最低記録を下回ったこと (いわゆる1.57ショック)、その値が人口置換水準を大きく下回っていたことが主な理由である。当初から、人口統計に基づく出生力指標をターゲットにした政策議論が熱心におこなわれてきた。

その後、育児休業制度や保育所の整備などの「少子化対策」が打たれるものの、出生力は低下をつづけていく。TFRの値は2005年の1.26を底値として上昇傾向に転じた。しかし、これは出生のタイミングが後方にずれて30代での出産が増えたことが遅れて反映しているので、長期的な出生力の上昇ではない可能性が高い。

【社会状況と言説の変遷】

出生力低下をめぐる1970-1990年代の言説には、現代とのさまざまなちがいがある。当時は、出生力低下の原因は晩婚化だとみられていた。人口の男女比の不均衡による一時的な結婚の遅れという論点から、高学歴化やライフスタイルの変化による結婚年齢の上昇、生涯を通じての未婚化へと焦点が移っていくことになる。晩婚化・未婚化は好景気の時期にも進行しため、経済的苦境によって若者が結婚できなくなっているという解釈はほとんど存在しなかった。むしろこの時期には、未婚者は経済的強者とみられていた [2]。

また「女性の社会進出」がもてはやされており、M字型就業構造は解消に向かっている、というイメージが流布していた [3]。こうした通念が大規模職業経歴データの研究成果によって打破されていくのは、1990年代末の話である [4]。また当時は男女雇用機会均等法 (1985年) 成立直後であり、結婚退職制が広く存在していた。労働政策的には、(妊娠・出産・育児ではなく) 結婚と仕事との両立がまず課題だったが、それは均等法に基づく差別禁止や企業による「女性活用」の進展によって実現可能なものと感じられていた。

今日では、「少子化」を論じるのに経済的不況の影響に触れないわけにはいかない。経済的苦境ゆえに若者が結婚できなくなっている、というイメージで語られることが多い。それと同時に、日本は強固な「M字型就業構造」を保持している社会であり、育児と仕事の両立が困難な政治課題であるというジェンダー問題の現状もよく知られている。しかし初期の「少子化」論は、それとは大きくちがう認識から出発したのである。

【戦前への視線と21世紀の「少子化対策」】

日本には、半世紀以上前にも、出生力低下に政策的に対応しようとした前例がある。1940年代の出生促進政策は、個人の生活に立ちいって生殖をコントロールしようとした悪しき前例として意識されてきた。このことは初期の「少子化」政策を大きく制約する前提条件であり、「結婚したい、子供を持ちたいと思っている人を支援する」という建前が保持されてきた。

1990年代末以降になると、条件が大きく変わる。政権の保守化に伴って、戦前回帰への忌避感がうすくなったことに加え、従来の政策のもとでTFRが低下を続けたこと、人数の多い1970年代前半出生コーホートが30代を迎えるにあたってその出生力回復が将来の人口構造を大きく規定すると考えられたことなどから、より直接的に結婚や出産を増加させるための手段が模索されるようになる。

【何が注目され、何が無視されてきたのか】

人口の変動は社会システムの諸側面に関わる複雑な現象である。その解釈にも政策的な介入にも複数の可能性がある。しかし実際には、特定の「原因」に議論が集中し、そこで出来上がった認識に沿って言論が展開する。1990年代以降の「少子化」論においても、法律婚と生殖との結びつきが当然視されていること、子供の養育は親の責任であることが前提となっていること、出生に関する人口動態の統計自体が「ある国家が実効支配する地域にその国籍を持って居住する人口」の再生産を測る枠組になっていることなど、さまざまな限界がある。

医学的言説の侵入 [5] は、そうした文脈に位置付けて理解する必要がある。21世紀に入っての「卵子の老化」言説 [6] は、早婚奨励を正当化する役割を果たしてきた。それは一方では若者の知識不足を少子化の「原因」として焦点化するものであるが、他方では伝統的な「少子化」論の枠組の内部で問題が解決できる (したがって家族や国籍の制度の根本的変革は必要ない) とするメッセージでもあった。

【文献】

  1. 経済企画庁 (1992) 『国民生活白書』 (平成4年版) 大蔵省印刷局. {ISBN:4171904676}
  2. 山田 昌弘 (1999) 『パラサイト・シングルの時代』筑摩書房. {ISBN:4480058184}
  3. 雇用職業総合研究所 (1987) 『女子労働の新時代』東京大学出版会. {ISBN:4130510266}
  4. 田中 重人 (1996) 「戦後日本における性別分業の動態」『家族社会学研究』8: 151-161. {DOI:10.4234/jjoffamilysociology.8.151}
  5. 日本医療政策機構 (2005) 『少子化と女性の健康』(政策提言 Vol. 1). {http://hgpi.org/research/90.html}
  6. 田中 重人 (2018) 『2010年代日本における「卵子の老化」キャンペーンと非科学的視覚表象』 (科研費プロジェクト「非科学的知識の生産・流通と「卵子の老化」パニック」報告書). {ISBN:9784991031618}
Keywords: 少子化, 人口学, 人口統計, 歴史, 言説, 日本

(本報告はJSPS科研費基盤C #17K02069 研究成果の一部である。詳細は http://tsigeto.info/egg/ 参照)

Conference: 科学技術社会論学会 第17回年次研究大会 {http://jssts.jp/content/view/293/33/}
Session: 「少子化」をめぐる科学言説 (オーガナイズドセッション)
URL: http://tsigeto.info/18v


Fake Information for the 'Egg Aging' Propaganda: The Role of Experts and Journalists in Its Emergence, Authorization, and Radicalization (XIX ISA World Congress of Sociology, July 2018, Toronto)

Slides: https://researchmap.jp/mu0uqg026-58901/

Date: 2018-07-17 (Tuesday) 17:30-19:20
Location: 709 (MTCC South Building), Metro Toronto Convention Center

Title: Fake information for the 'egg aging' propaganda: the role of experts and journalists in its emergence, authorization, and radicalization

Speaker: Tanaka Sigeto (Tohoku University)

Abstract:

The belief that women rapidly lose their fertility as they age has been popularized using biological findings about "aging" of eggs (or oocytes) in the ovaries. Recently, Japan has experienced national propaganda based on such a belief. In the past decade, doctors and medical organizations have broadcasted information about age-related fertility decline for women in their 20s and 30s. Their theory has spread on mass media without any scrutiny, creating a social pressure on women to bear children as early as possible. Such information has also served as evidence for the government's pronatalist policy of getting young people married.

This paper traces the history of the belief and explores how it emerged, progressed, and spread as authorized "scientific" knowledge by focusing on the graphs frequently used to support the "egg aging" discourse.

A literature survey revealed the following facts that exemplify the role of traditional experts and journalists in creating the "post-fact" phenomena. The graphs, seemingly quoted from the scientific literature, were actually fabricated, falsified, trimmed, or misinterpreted. Doctors manipulated graphs, supported it with unreachable citations, and provided insufficient or distorted explanations about the data and methods. These techniques are being used in the field of obstetrics and gynecology since the 1980s. Journalists have recently contributed to the propaganda, using sensational language to polish the message. During the development and radicalization of the discourse, no social mechanism was performing the fact-checking function. The "egg aging" propaganda, endorsed by medical authorities, aroused people's feeling about the alarming prospect of the country's low birthrate and shrinking population. It eventually achieved hegemony in public debates in 2010s Japan. (See http://tsigeto.info/misconduct/ for details.)

Keywords: pseudoscience, medicine, gender, reproductive rights, fertility

Conference: XIX ISA World Congress of Sociology (July 2018, Toronto)
Session Selection: Scientific Knowledge and Expertise in a 'Post-Fact' Era (RC23: Sociology of Science and Technology)
Status: Accepted for oral presentation

URL: http://tsigeto.info/18w

Created: 2017-09-20.
Revised: 2017-09-23.
Revised: 2017-11-30 on paper acceptance.
Revised: 2018-02-02 Date and location added.
Revised: 2018-07-16 Link for the slide file.

Hijacking the Policy-Making Process: Political Effects of the International Fertility Decision-Making Study for 2010s' Japan (XIX ISA World Congress of Sociology, July 2018, Toronto)

Hijacking the Policy-Making Process: Political Effects of the International Fertility Decision-Making Study for 2010s' Japan (XIX ISA World Congress of Sociology, July 2018, Toronto)

Full Paper: https://researchmap.jp/mugn3y18m-58901/

Date: 2018-07-16 (Monday) 15:30-17:20
Location: 202D (MTCC North Building), Metro Toronto Convention Center

Title: Hijacking the policy-making process: political effects of the International Fertility Decision-Making Study for 2010s' Japan
Author: Tanaka Sigeto (Tohoku University)

Abstract:

Studies that compare social conditions in a certain country with those of other nations can result in national feelings of inferiority or superiority. Comparative studies thus often serve as political devices. Owing to the development of the Internet and translation technology, large-scale, cross-national surveys have become a low-cost means to manipulate public opinion.

In this paper, I introduce the case of the political use of the International Fertility Decision-Making Study (IFDMS) in Japan. IFDMS was conducted in 2009-2010 by researchers from Cardiff University and Merck Serono, a global pharmaceutical company. IFDMS prepared a questionnaire in 13 languages for 18 countries, targeted at both men and women who were trying to conceive. It featured questions regarding medical knowledge about pregnancy. According to the published results, the respondents who lived in Japan exhibited a lower level of knowledge about conception than those in other countries. Based on this result, medical authorities in Japan insisted that, because of the lack of knowledge, the Japanese people had thoughtlessly postponed childbirth, resulting in fertility decline. The government accordingly created a new outline of population policy in 2015, in which it referred the results from IFDMS to advocate sex education for youth in order to encourage early marriage.

However, IFDMS is unreliable. It has many defects including mistranslations in the questionnaire. Nevertheless, results from IFDMS were accepted as reliable scientific findings in conferences and journals in the field of natural sciences in Europe, bypassing scrutiny by social science researchers in the targeted countries. Language differences also prevented the accurate understanding of the research results. The case of the political effect of IFDMS thus teaches us that social impacts of comparative studies may be deceptive and nullify social scientific efforts to accurately perceive the society in which we live. (See http://tsigeto.info/misconduct/#ifdms for details.)

Keywords: cross-national survey, translation, science communication

Conference: XIX ISA World Congress of Sociology (July 2018, Toronto)
Session Selection: Current Research in Comparative Sociology, Part 1 (RC20: Comparative Sociology)
Information on the conference site: https://isaconf.confex.com/isaconf/wc2018/webprogram/Paper101040.html
Status: Accepted as a distributed paper [2017-11-30]

URL: http://tsigeto.info/18x

Created: 2017-09-19.
Revised: 2017-11-30 on paper acceptance.
Revised: 2018-07-16 Link for the full paper.

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研究報告「ライフプラン冊子には何が書いてあるのか」(2018-04-01 東京 <連続勉強会:「国難」のなかのわたしたちのからだ> 第1回)

報告資料: https://researchmap.jp/muxz4r802-58901/
参考資料 (都道府県ライフプラン冊子の情報): http://d.hatena.ne.jp/remcat/20180331

Date: 2018-04-01 (Sunday) 14:00-16:30
Location: 渋谷男女平等・ダイバーシティセンター・アイリス第1・第2会議室 (渋谷駅西口徒歩5分 渋谷区文化総合センター大和田8F http://www.shibu-cul.jp/)

Title: ライフプラン冊子には何が書いてあるのか

Author: 田中重人 (東北大学)


連続勉強会:「国難」のなかのわたしたちのからだ> 第1回:書き換えられる女のからだ――またも改ざん? 「女性の年齢と卵子の数の変化」グラフとその言説の検証
http://d.hatena.ne.jp/remcat/20180321/seminar

Gender Inequality and Family-Related Risks: From the Perspective of Law and Ideology (Contemporary Japan Speaker Series, King's College London) 2018-01-25

Slides: https://researchmap.jp/mu58j1jwd-58901/

Date: 2018-01-25 19:00-20:30

Location: Paul Webley Wing, SOAS Alumni Lecture Theatre, London

Title: Gender inequality and family-related risks: from the perspective of law and ideology

Speaker: TANAKA Sigeto (Tohoku University)

Abstract:
Family laws and familial ideologies are crucial factors for gender equality that are often overlooked in gender-equality discourses. This lecture explores how marriage and childbirth are disadvantageous for women in Japan, and the institutionalization of this disadvantage in family laws and in hegemonic family ideology. The focus is on the adverse economic consequences that women experience for career interruptions and child rearing responsibilities, which become more visible after divorce. Results from the National Family Research of Japan (NFRJ) surveys from 1999 to 2009 highlight a great gender gap in post-divorce economic living standards. This is attributable to women’s interrupted careers and their responsibility to take care of children. Analyses of public discourses reveal that the disadvantages encountered by wives and mothers are deeply rooted in the history of law. The disadvantages have also been justified in ideological debates on social problems regarding family, work, welfare, and population issues. Although laws and policies have made some progress in reducing risks, the advancement has been so slow and limited that the underlying mechanism of gender inequality remains untouched.

URL: http://tsigeto.info/18z

Event page: https://www.kcl.ac.uk/sspp/schools/global-affairs/lapc/events/eventrecords/Gender-inequality-and-family-related-risks-from-the-perspective-of-law-and-ideology.aspx

(Contemporary Japan Speaker Series, King's College London)

「10歳の壁」の虚妄:箕面市「子ども成長見守りシステム」データから読みとるべきこと

昨年12月25日、 読売新聞社サイト YOMIURI ONLINE 「深読みチャンネル」に「「10歳の壁」から貧困家庭の子どもを救え」と題する記事が載りました: http://www.yomiuri.co.jp/fukayomi/ichiran/20171222-OYT8T50029.html
「Yahoo! ニュース」でも、年明けの1月7日に、おなじ記事が配信されました: https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20180107-00010000-yomonline-life
毎日新聞も、2017年12月30日大阪朝刊に「学力格差:「貧困」小4から 「学習・生活習慣、身につかず」 日本財団が箕面で調査」という記事を載せています: https://mainichi.jp/articles/20171230/ddn/041/040/019000c

これらの記事のもとになっている、箕面市の「子ども成長見守りシステム」データを使った日本財団の研究について、資料を集めて検討した結果、トンデモであるとの結論に達したので、解説します。

http://d.hatena.ne.jp/remcat/20180111/minoo

要点はつぎのとおり:
- データをみるかぎり、貧困世帯の子供の「学力」は全国平均にくらべてやや低い程度であり、大きな格差はない
- 貧困世帯の子供の「学力」が成長にしたがって低下するという解釈をデータから導くことはできない。むしろ、全国の児童生徒の平均的な傾向と同様に、貧困世帯の子供も順調に学力を伸ばしていることが、データからは示唆される
- 「小学校4年(10歳ごろ)時に、家庭の貧富の差による「学力格差」が急拡大する」というのは根拠のないデマ
- 経済状態による格差よりも地域間の格差のほうが大きそうである。このことを考慮せずに、特定の地域のデータの分析結果を一般化するのは非常に危険
- 「学力」を測定しているとされる調査やそれを使って算出したスコアの測定・算出方法が不明であり、またその妥当性・信頼性・代表性が吟味されていない

「「10歳の壁」の虚妄:箕面市「子ども成長見守りシステム」データから読みとるべきこと」本文

『学術の動向』22巻8号 (2017年8月) 記事「非科学的知識の広がりと専門家の責任: 高校副教材「妊娠のしやすさ」グラフをめぐり可視化されたこと」

日本学術協力財団の雑誌『学術の動向』22巻8号(=通巻257号) (2017年8月) に書いた記事「非科学的知識の広がりと専門家の責任: 高校副教材「妊娠のしやすさ」グラフをめぐり可視化されたこと」が J-STAGE (科学技術情報発信・流通総合システム) で公開されました。

http://doi.org/10.5363/tits.22.8_18

「「卵子の老化」が問題になる社会を考える―少子化社会対策と医療・ジェンダー」という特集の一部です。

この記事と特集、その元になった2016年6月18日の日本学術会議シンポジウム、そしてそもそも医学批判に私が首を突っ込むきっかけになった文部科学省作成の保健科目用副教材『健康な生活を送るために』(2015年度版)における「妊娠のしやすさ」改竄グラフ問題についてはすでに何度か書いているので、そちらもお読みください。

- http://tsigeto.info/17c
- http://d.hatena.ne.jp/remcat/20171007
- http://d.hatena.ne.jp/remcat/20160406
- http://d.hatena.ne.jp/remcat/20170426
- http://d.hatena.ne.jp/remcat/20170315
- http://d.hatena.ne.jp/remcat/20160820
- http://d.hatena.ne.jp/remcat/20160711
- http://d.hatena.ne.jp/remcat/20160528
- http://d.hatena.ne.jp/remcat/20160331
- http://d.hatena.ne.jp/remcat/20160309
- http://d.hatena.ne.jp/remcat/20150915
- http://d.hatena.ne.jp/remcat/20150823
- http://tsigeto.info/misconduct/j.html

J-STAGEからこの記事の 全文PDFファイルがダウンロード できます。それほど長い文章でもないので、お読みいただければ内容はわかると思います。今回は、たぶんあまり一般には理解されていないであろうポイントについて、重点的に解説します。

目次は以下のとおり:
(1) 「妊娠のしやすさ」グラフの大元の研究自体が、都合のよいデータだけを抜き出したものである
(2) ダメ論文は被引用状況からわかる
(3) 非公表の調査結果が政策・世論操作に使われてきた

つづきはこちらから → http://d.hatena.ne.jp/remcat/20171217

Locating Family in the Gender Equality Politics: A Focus on Economic Situation after Divorce in Japan (Symposium "The Impact of the Humanities and Social Sciences: Discussing Germany and Japan" in Tokyo) 2017-11-14

Date: 2017-11-14 (Tuesday) 15:15-17:00
Place: German Cultural Center

Abstract: http://tsigeto.info/17y
Slides: https://researchmap.jp/muftnwm0u-58901/ [2017-11-13]
Handout: https://researchmap.jp/muv0dlq26-58901/ [2017-11-13]

Author: TANAKA Sigeto (Tohoku University)
Title: Locating Family in the Gender Equality Politics: A Focus on Economic Situation after Divorce in Japan

Science as a Vital Point of Democracy: Lessons from the 'Egg Aging' Panic in 2010s Japan

Title: Science as a vital point of democracy: lessons from the 'egg aging' panic in 2010s Japan

Author: Tanaka Sigeto (Tohoku University)

Abstract:

Scientific research uses highly complex theory and technical methodology, which can be difficult for non-professionals to understand. Thus, if professionals make an unscientific policy recommendation using fake evidence, it will be difficult for the public to screen such an inauthentic proposal.

This happened in 2010s Japan. Obstetricians and gynecologists created data to show how rapidly women's fecundity decreases along with their increasing age by fabricating, falsifying, and cherry-picking results from studies of biology, medicine, demography, and psychology. Based on those questionable data, they and their organizations carried on a campaign for early marriage and childbearing. The campaign aroused public attention and influenced the government to introduce a new pronatalist policy in March 2015 that aimed at early marriage. Although there are many defects in the data that served as evidence for the policy, these defects had not been properly scrutinized at that time. In August 2015, a newspaper first reported faulty data on women's fecundity, which was being used in a high school textbook to encourage early pregnancy. Criticism subsequently grew, leading to the discovery of many questionable data used during the campaign. However, it was too late to challenge the hegemony of the discourse already established.

This scandal yields lessons in the importance of protecting democracy against fake science. This paper addresses two topics. First, we need a system that allows non-professionals to review scientific literature to conduct fact-checks of the evidence presented by professionals. Second, our review system should be ready for real-time checking of newly emerging discourses. My observation of the scandal carries suggestions about a concrete case of fake science and how we can rebuff it. (See http://tsigeto.info/misconduct/ for details.)

Keywords: Fertility; State, family and population; Gender

Conference: International Sociological Association (ISA), RC06/RC41 Joint Conference: Changing Demography / Changing Families (May 2018, Singapore)

Status: Rejected [2017-12-22]

ウィメンズヘルスリテラシー協会

「ウィメンズヘルスリテラシー協会」は、女性の健康についてのリテラシー向上を掲げて2017年7月に発足した一般社団法人です。9月28日に「ウィメンズヘルスリテラシーサミット」なるものを開くという告知が流れてきていますが、団体のウェブサイト等には、関係者や活動内容についての情報がほとんどありません。BuzzFeed がこの団体をとりあげた記事などを元に、この団体の正体を探りました。
http://d.hatena.ne.jp/remcat/20170920/whla

濫用される国際比較調査と日本の世論形成: International Fertility Decision-making Survey と少子化社会対策大綱 (第61回数理社会学会大会 2016-03-17)

濫用される国際比較調査と日本の世論形成: International Fertility Decision-making Survey と少子化社会対策大綱

田中 重人 (東北大学)

第61回数理社会学会大会 (2016年3月17-18日) 1日目 自由報告 第4部会「社会問題と公共性」11:25-12:40 第3報告

日本人の妊娠・出産の知識レベルが低いことの根拠資料とされ、2015年「少子化社会対策大綱」における「妊娠・出産に関する医学的・科学的に正しい知識についての教育」の数値目標設定にも使われた International Fertility Decision-making Study (Cardiff University, 2009-2010) について、対象者構成の問題のほかに、調査設計と質問文翻訳に焦点を当て、問題点を明らかにする。また、なぜこの調査結果が日本の政策を決定するほどの大きな影響力を持つに至ったかを考察する。資料として、公表されている各種文献のほか、独自に入手した日本語版調査票を利用する。

報告要旨 → http://tsigeto.info/16z

【論文】「妊娠・出産に関する正しい知識」が意味するもの:プロパガンダのための科学?

下記の論文を出版しました。

2015年8月、妊娠・出産に関する「医学的・科学的に正しい知識」をはじめて盛り込んだ保健副教材改訂版が高校に配布されました。 その第20節「健やかな妊娠・出産のために」に載っていたのが、女性の妊娠のしやすさは22歳で頂点を迎え、そのあと急激に低下していく、という、加齢による減少を誇張したグラフでした。 この論文では、このグラフ改竄事件の経過と、このグラフの元となった研究について、解説と評価を加えます。 また、科学的研究への信頼と男女平等 (男女共同参画基本計画) に関して、この事件からえられる教訓を引き出します。

私たちが専門家を信頼できるのは、彼らは相互に厳しい批判を繰り返してダメな研究成果をふるい落としているはずであり、そのような淘汰の過程をくぐり抜けた確実性の高い知識について、誠実に解説してくれるものという前提があるからだ。今回の「妊娠のしやすさ」グラフ改竄事件から得るところがあるとすれば、このような信頼をおくことのできない専門家集団が実在するという事実を明るみに出したことであろう。
(p. 16)

目次:

  • 「妊娠のしやすさ」改ざんグラフ問題
  • グラフの来歴
  • 「医学的・科学的に正しい知識」の危うさ
  • 性差に基づく男女共同参画?

論文に関する情報:



11月30日(月)シンポジウム「高校保健・副教材にみる専門家の倫理と責任―データ改ざんと出産誘導」(東京ウィメンズプラザ)

シンポジウム「高校保健・副教材にみる専門家の倫理と責任―データ改ざんと出産誘導」を11月30日(月)夜に東京ウィメンズプラザで開催します。(主催・共催:「高校保健・副教材の使用中止・回収を求める会」/レインボー・アクション)

今年8月、文部科学省編集の高校生用保健副教材『健康な生活を送るために (平成27年度版)』に、「女性の妊娠のしやすさの年齢による変化」という改ざんグラフ (22歳のところにピークがあり、それ以降は直線的に低下するよう加工されたもの) が掲載される という事件がありました。この事件は、それ自体が、専門家が「科学」の名のもとに間違ったデータを流布させようとした事例といえます。また、この副教材がつくられるに至った過程には、政府による世論誘導の意図のほか、政策決定における社会調査データの不適切な利用、専門家集団の行動に対するチェック機構の不在など、科学と学術倫理に関する種々の問題点がふくまれています。

今回のシンポジウムは、この事件をきっかけに浮かび上がってきた、現代日本社会における「少子化対策」への専門家の関与とその学術倫理上の問題を中心にとりあげるものです。みなさまのご参加をお待ち申し上げます。



―――――以下、転送・拡散歓迎――――

高校生にウソを教えるな! 保健・副教材問題緊急集会 第2弾

【シンポジウム】高校保健・副教材にみる専門家の倫理と責任―データ改ざんと出産誘導


日時: 11月30日(月)18時30分~20時45分(開場18時)
会場: 東京ウィメンズプラザ 2F 第1会議室 http://www.tokyo-womens-plaza.metro.tokyo.jp (交通案内)
参加費: 無料(資料代等500円程度のカンパをお願いします)
申込み: 不要(先着80名)

「22歳が妊娠しやすさのピーク」という改ざんグラフ、「訂正」が出されましたが、まだ間違っています。その他にも間違いや不適切な箇所がたくさんあります。
私たちは文科省・内閣府にこの副教材の「使用中止・回収」を要請しましたが、両府省は使用中止どころか、再訂正さえ行わない方針です。
来年度も配布されるこの副教材、せめて、間違いや不適切な箇所をきちんと直して配布するように要求していかなければなりません。

そもそもなぜ、データの改ざんや妊娠・出産誘導が「科学」の名のもとに堂々とまかり通ったのでしょう。
「少子化対策」を後押しする科学者・専門家の倫理や責任を問う必要があります。

文科省・内閣府に提出した私たちの会の質問(※)に対する回答も報告します。
さらに、全国自治体の出産「啓発冊子」の頒布、「婚活」関連施策の問題についても考えます。
菅官房長官の「たくさん産んで 国家に貢献」発言、「一億総活躍社会」や「希望出生率」など、安倍政権の新政策についても議論しませんか。

ぜひご参加ください。

【発言予定・順不同】


◆ 柘植あづみ(明治学院大学教員/生殖医療問題)
「副教材、これからどうする―文科省と内閣府の回答」

◆ 高橋さきの(お茶の水女子大学非常勤講師/科学技術論)
「妊娠に関する知識の国際比較―ほんとに日本がダントツに低いのか」

◆ 田中重人(東北大学教員/家族社会学)
「改ざんグラフを持ち込んだ吉村泰典内閣官房参与と関連専門9団体への質問状」

◆ 大橋由香子(フリーライター、SOSHIREN女(わたし)のからだから)
「『産む・産まない選択』はどこへいったのか」

◆ 大塚健祐(レインボー・アクション)
「同性愛・両性愛の不可視化と性的自己決定権の侵害に抗議する」

主催・共催:「高校保健・副教材の使用中止・回収を求める会」/レインボー・アクション
問合せ先:「高校保健・副教材の使用中止・回収を求める会」 http://fukukyozai.jimdo.com

シンポジウム案内: http://d.hatena.ne.jp/remcat/20151118



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