三日坊主日記

本を読んだり、映画を見たり、宗教を考えたり、死刑や厳罰化を危惧したり。

ポール・オフェット『反ワクチン運動の真実』(5)

2024年05月20日 | 問題のある考え
ポール・オフェット『反ワクチン運動の真実』によると、反ワクチン運動の源流は19世紀の種痘反対運動です。

種痘反対勢力にイングランド政府は妥協し、1898年に良心的拒否法を通過させた。
種痘を受けさせたくない親は受けさせなくてよくなった。
イングランドの種痘の接種率は急落し、天然痘感染と死亡の中心となった。
19世紀、イングランドの親たちは、種痘は純粋でも安全でもなく、自然や神に反する行為だと論じた。だが親の怒りは医師よりは政府の役人に向かった。役人は自分たちに指図する権利もないし、子どもに何を接種すべきか指図する権利などないと考えたからだ。抗議運動の参加者にとって、法定予防接種は許容しがたい自由権の侵害だった。

現代のアメリカも、行政はワクチン接種で妥協し、親の宗教、思想を理由として子供にワクチンを受けさせなくてもよくなっています。

1960年代末から1970年代にかけて、アメリカ疾病管理予防センターは小学校の入学条件として麻疹ワクチン接種を要件とし、1981年までに全ての州で入学に予防接種を義務づけた。
ところがワクチンの強制に反発する親が訴訟を起こした。

1966年、ニューヨーク州議会で入学にポリオワクチンの接種を必要とするという法案が議会を通過したが、親の宗教がワクチンを禁じている場合は免除した。
これはクリスチャン・サイエンスの陳情活動の結果だった。

アメリカではすべての州がワクチンの予防接種を受けないという宗教的免除を認めている。
さらには、2010年までに21の州が予防接種の思想的免除を許している。

クリスチャン・サイエンスはメアリー・ベイカー・エディが1879年に設立した。
信仰療法を説き、一切の医療を否定している。
神は完璧だから完璧な世界を作った、痛みなどは実際は存在しない。
病気は身体の症状ではなく精神によって起こるから、信仰によって病気は消える。
天然痘のような病気はワクチンではなく、祈りによって予防することができる。

メアリー・ベイカー・エディは著書に「我々が天然痘になるのは、他の人が天然痘になるからだが、それは物質ではなく精神が病気を取り込み運ぶのだ」と書いている。

クリスチャン・サイエンスの信者による医療ネグレクトによって死ぬ子供たちがいる。
糖尿病の子供にインスリンをやめさせて死亡させる。
定期検診のレントゲン撮影をしない。
高熱を出した子供に治療師が「神様は病気をお作りにならなかったので、病気は幻なのよ」と言う。
過失致死などで訴えても、不起訴、もしくは無罪判決になる。

信者の子どもたちに麻疹やポリオの流行が起きている。
1972年、クリスチャン・サイエンスの高校でポリオの流行が起き、11人の子どもが身体麻痺となった。
1985年、クリスチャン・サイエンスのプリンシピア大学で3人の学生が麻疹で死亡した。

ブルース・クック『トランボ』は、脚本家であり、赤狩りで刑務所に入ったドルトン・トランボの伝記です。
ドルトン・トランボの母親はクリスチャン・サイエンスの信者だったので、ドルトン・トランボたち子供は予防接種を受けなかった。
俺が言いたいのは、こうした信者たちは罪悪感を抱くことなく行動しているということなんだ。恐れをまったく感じることなく正義を追求している。宗教としてのクリスチャン・サイエンスに対する見解じゃないといわれるかもしれないが、メソジスト派やバプテスト派だけでなくて、どんな宗派についても同じようなことがいえるのだから。ただ、ひとつだけいえるのは、彼らは恐れを知らない心を持っているってことだ。

ウォーターゲート事件に関わったH・R・ハルデマン、ジョン・アーリックマンはクリスチャン・サイエンスの信者であり、ジョン・ディーン、エジル・クローはクリスチャン・サイエンスの大学であるプリンシピア大学の卒業生だった。
クリスチャン・サイエンスは信者数を公表していませんが、かなりの人数ではないかと思います。

クリスチャン・サイエンス・モニターという新聞は、クリスチャン・サイエンスの創始者メリー・ベーカー・エディによって創刊されています。
櫻井よしこさんは「ジャーナリズムの仕事に関心を持ったのは、アメリカの「クリス
チャン・サイエンス・モニター」という新聞の東京支局で助手の職を得てからのことでした」と語っています。
https://www.business-plus.net/special/1404/638001.shtml

ワクチンを否定する団体は他にもあります。
シュタイナー教育のルドルフ・シュタイナーは「予防接種はカルマの発達と輪廻転生のサイクルを妨げる」と考えた。
シュタイナーは神秘思想家、オカルティストでもあるので、やっぱりそうかと思いました。
シュタイナー教育を実践している学校もワクチンに反対しているのでしょうか。

カイロプラクティックはダニエル・D・パルマーが1895年に始めた。
背骨のずれが病気の原因だと考えるカイロプラクティックは細菌説を根拠がないと主張し、ワクチンの危険を説く。

創始者の息子バートレット・ジョシュア・パーマーはこんなことを言っている。
カイロプロクターは全ての伝染病と言われてきたものは背骨に原因があることを発見した。もし100人の天然痘患者がいたら、一人の患者のどこにサプトラクション(背骨のずれ)があるのかを見出し、他の99人の状態も同じであることを証明しよう。背骨を調整し、身体の機能が正常になる。伝染病などない。感染もないのだ。

日本カイロプラクターズ協会のHPを見ると、世界には約10万人のカイロプラクターがいて、日本には608人だそうです。
https://jac-chiro.org/aboutchiro/
会員数12000名規模のカイロプラクティック団体も日本にあります。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000027.000093169.html
背骨の矯正であらゆる病気が治るんだったら、病人はいなくなるはずですが。

新型コロナウイルス感染防止のためにマスクをすることになぜ反対するのかと不思議に思っていましたが、強制を嫌うだけでなく、宗教的信念があるのかもしれません。
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ポール・オフェット『反ワクチン運動の真実』(4)

2024年05月15日 | 問題のある考え
モーリス・ヒルマンはおたふくかぜ、麻疹、風疹、水疱瘡、B型肝炎。MMRワクチンなど多くのワクチンを作りました。
子供たちの命を救った研究者がいれば、ワクチンを否定する医師や研究者、弁護士たちもいます。

モーリス・ヒルマンの伝記『恐ろしい感染症からたくさんの命を救った現代ワクチンの父の物語』を書いたポール・オフェットは『反ワクチン運動の真実』で彼らを告発します。

新型コロナウイルス陰謀論を拡散し、ワクチン接種に反対した弁護士のロバート・ケネディ・ジュニアは以前から反ワクチンの活動家でした。
2005年にロバート・ケネディ・ジュニアは製薬会社と医師と公衆衛生当局が共謀してワクチンの危険性を隠していると非難した。
https://jphma.org/topics/topics_47_Kennedy_Report.html

さらに、麻疹ワクチンを開発したジョン・エンダース研究班の一人サム・カッツをワクチンで金儲けしたと非難した。
ジョン・エンダースはワクチンでの特許取得には反対していたので、麻疹ワクチンでも特許は取っていない。

トランプは自閉症のワクチン原因説を支持しています。
https://gendai.media/articles/-/57708?page=3
2024年の大統領選挙にワクチン反対派が2人も立候補するわけです。

「ワクチン・ルーレット」を見て、自分の子供がDTPワクチンによって障害を負ったと信じたバーバラ・ロー・フィッシャーたちは「納得できない親の集い」を立ち上げ、政治にも大きな影響力を持つようになった。
バーバラ・ロー・フィッシャーはあらゆるワクチンに反対する。

共著で出版した『闇の注射 なぜDTPワクチンのPがあなたの子どもの健康を脅かすかもしれないのか』でこう主張している。
アメリカの赤ちゃんたちが打たなくてはいけないワクチンが増えるにつれ、大きな子どもや若者が慢性の免疫病や神経障害になるという報告が増えてきている。喘息、慢性の中耳炎、自閉症、学習障害、注意欠陥障害、糖尿病、関節リウマチ、多発性硬化症、慢性疲労症候群、全身性エリテマトーデス、ガンなどもそうだ。

ワクチンで予防できる病気は実際にはそんなに深刻なものではないとも論じる。
私たちは病気がひどく恐ろしいと思い込んでしまっているのです。1950年代、誰もが麻疹とおたふく風邪にかかっていました。普通の何でもない出来事でした。
ワクチン開発以前は、アメリカでは麻疹で毎年10万人以上が入院し、500人が死亡していた。

インフルエンザについてブログに書いている。
インフルエンザを含む感染症を経験することは、人類の祖先が地球に登場して以来、人間の状態の一部でした。(略)
なぜワクチン学者は人間の免疫システムがその経験を乗り越えられない、益を受けないと考えるべきだと言い張るのでしょう。一度もインフルエンザにかからない方が良いというエビデンスはどこにあるのでしょう。
子供たちがインフルエンザの定期接種をする前は、毎年10万人が入院し、100人が死亡していた。

バーバラ・ロー・フィッシャーがワクチン接種で健康被害が起こると話すことで、子どもの病気の責任という重荷を親たちの肩の上に乗せた。

てんかんと知的障害の本当の原因を突き止めたサミュエル・ベルコビッチのコメント。
ほとんどの親はずっと罪の意識を感じていたので、もう感謝でいっぱいでした。親たちは医者や母子保健専門看護師のところへ行って、子どもを彼らに渡してワクチンを打ってもらっていました。自分たちのせいだと、近所の「ワクチンを打ったらダメよ」という女性の言うことを聞いていれば、子どもは健康だったのにと思っていたのです。そして、我々がそうじゃない、あなたのお子さんは妊娠中にナトリウムチャネルに異常が起きて、それを防ぐ手立てはなかった、こうなる運命だったのだというと、大きな大きな重荷を下ろしたように見えました。何十年も続いた罪悪感から解放されたのです。

反ワクチン活動家は自分たちは安全なワクチンを望んでいると主張する。
だが、反ワクチン運動家のいう安全は自閉症、学習障害、注意欠陥障害、多発性硬化症、糖尿病、脳卒中、心臓発作、血栓、麻痺などの副作用がないというものだ。

これらはワクチンが原因ではないので、彼らのいう安全なワクチンは実現不可能だ。
たとえば、自閉症スペクトラムだと、脳の神経細胞表面のタンパク質を分子と結びつけている遺伝子に異常がある。

ワクチン裁判で負けたのは原告側の研究者、医師や弁護士ではない。
医師は自閉症児の治療を続け、危険性のある療法を行い、サプリを売り続ける。
たとえば、自閉症はチメロサール入りのワクチンが原因だから、体内の水銀や鉛などの重金属を排出させるキレーション療法。

弁護士は訴訟をし続け、勝とうが負けようが報酬は受け取る。
ある法律事務所はワクチン法廷に216万1564ドル10セントの請求書を提出した。
1980年代の百日咳ワクチン恐怖のときには、数百万ドルが補償金や和解金として支払われた。その結果、反ワクチン組織は人身被害弁護士と結託して活動するようになった。弁護士の多くは顧問委員会の一員となってワクチンの危険性を訴え、どう補償金を勝ち取るかを説明する小冊子を作る手助けをしている。

裁判に負けたのは医師と弁護士によって誤った道へ導かれ、自閉症の子どもを育てる負担から解放されたいと思った親たちだ。
ワクチンについて親を脅えさせ、反ワクチン運動活動家と結んでいる人身被害弁護士に金づるを与え、多くの場合、直接自分の診療所で偽りの希望を売る医師の待ち構える腕の中に親を追い込むのだ。

小児科医ラフル・パリク。
強く感情を揺さぶるアピールをして、親たちに子どもに予防接種をすることについて迷い、躊躇させてしまう。論理的に考える人もそうでない人も、こうした感情的な手法は忘れない。一方、医療、科学専門家は正確な証拠と研究を引いて対抗するが、これは多くの親には響かない。感情的ではないメッセージは印象に残りにくいのだ。

國枝すみれ「日本でも陰謀論が再燃?」(毎日新聞2024年5月10日)によると、反ワクチンが陰謀論と結びつき、トランプ、親ロシア、さらには極右がそれらを取り入れて規模を拡大しているそうです。
陰謀論者と反ワクチン派は全く同じグループではないが、かなり重なっている。(略)
いま盛り上がっているのは世界保健機関のパンデミック条約だ。
4月13日に東京・東池袋で行われた反パンデミック条約デモには数千人が集まった。
主催者は「英霊の名誉を守り顕彰する会」の会長で、バリバリの右派。昨年は、反米親露の立場からウクライナに平和を求めるデモを、「米国の内政干渉が日本の伝統文化を壊す」という理由からLGBT法案反対デモを主催している。
https://mainichi.jp/articles/20240509/k00/00m/030/091000c

反ワクチン運動はワクチンだけの問題ではなく、陰謀論や極右とも関係しているとなると、何とも困った話になってしまいます。
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ポール・オフェット『反ワクチン運動の真実』(3)

2024年05月09日 | 問題のある考え
モーリス・ヒルマン(1919年~2005年)はおたふくかぜ、麻疹、風疹、水疱瘡、B型肝炎。MMRワクチンなど多くのワクチンを作りました。
子供たちの命を救った研究者がいれば、ワクチンを否定する医師や研究者、弁護士たちもいます。

モーリス・ヒルマンの伝記『恐ろしい感染症からたくさんの命を救った現代ワクチンの父の物語』を書いたポール・オフェットは『反ワクチン運動の真実』で彼らを実名で告発しています。

新型コロナウイルス陰謀論を拡散し、ワクチン接種に反対した弁護士のロバート・ケネディ・ジュニアは以前から反ワクチンの活動家でした。
2005年にロバート・ケネディ・ジュニアは製薬会社と医師と公衆衛生当局が共謀してワクチンの危険性を隠していると非難した。
https://jphma.org/topics/topics_47_Kennedy_Report.html

さらに、麻疹ワクチンを開発したジョン・エンダース研究班の一人サム・カッツをワクチンで金儲けしたと非難した。
ジョン・エンダースはワクチンでの特許取得には反対していたので、麻疹ワクチンでも特許は取っていない。

トランプは自閉症のワクチン原因説を支持しています。
https://gendai.media/articles/-/57708?page=3
2024年の大統領選挙にワクチン反対派が2人も立候補するわけです。

「ワクチン・ルーレット」を見て、自分の子供がDTPワクチンによって障害を負ったと信じたバーバラ・ロー・フィッシャーたちは「納得できない親の集い」(後に名称を「全米ワクチン情報センター」に変更)を立ち上げた。
百日咳ワクチンで自閉症になると最初に主張した一人であるバーバラ・ロー・フィッシャーはあらゆるワクチンに反対する。

共著で出版した『闇の注射 なぜDTPワクチンのPがあなたの子どもの健康を脅かすかもしれないのか』でこう主張している。
アメリカの赤ちゃんたちが打たなくてはいけないワクチンが増えるにつれ、大きな子どもや若者が慢性の免疫病や神経障害になるという報告が増えてきている。喘息、慢性の中耳炎、自閉症、学習障害、注意欠陥障害、糖尿病、関節リウマチ、多発性硬化症、慢性疲労症候群、全身性エリテマトーデス、ガンなどもそうだ。

ワクチンで予防できる病気は実際にはそんなに深刻なものではないとも論じる。
私たちは病気がひどく恐ろしいと思い込んでしまっているのです。1950年代、誰もが麻疹とおたふく風邪にかかっていました。普通の何でもない出来事でした。
ワクチン開発以前は、アメリカでは麻疹で毎年10万人以上が入院し、500人が死亡していた。

バーバラ・ロー・フィッシャーはブログに書いている。
インフルエンザを含む感染症を経験することは、人類の祖先が地球に登場して以来、人間の状態の一部でした。(略)
なぜワクチン学者は人間の免疫システムがその経験を乗り越えられない、益を受けないと考えるべきだと言い張るのでしょう。一度もインフルエンザにかからない方が良いというエビデンスはどこにあるのでしょう。
子供たちがインフルエンザの定期接種をする前は、毎年10万人が入院し、100人が死亡していた。

バーバラ・ロー・フィッシャーがワクチン接種で健康被害が起こると話すことで、子どもの病気の責任という重荷を親たちの肩の上に乗せた。
てんかんと知的障害の本当の原因を突き止めたサミュエル・ベルコビッチのコメント。
ほとんどの親はずっと罪の意識を感じていたので、もう感謝でいっぱいでした。親たちは医者や母子保健専門看護師のところへ行って、子どもを彼らに渡してワクチンを打ってもらっていました。自分たちのせいだと、近所の「ワクチンを打ったらダメよ」という女性の言うことを聞いていれば、子どもは健康だったのにと思っていたのです。そして、我々がそうじゃない、あなたのお子さんは妊娠中にナトリウムチャネルに異常が起きて、それを防ぐ手立てはなかった、こうなる運命だったのだというと、大きな大きな重荷を下ろしたように見えました。何十年も続いた罪悪感から解放されたのです。

反ワクチン活動家は自分たちは反ワクチンではない、安全なワクチンを望んでいると主張する。
だが、反ワクチン運動家のいう安全は自閉症、学習障害、注意欠陥障害、多発性硬化症、糖尿病、脳卒中、心臓発作、血栓、麻痺などの副作用がないというものだ。

これらはワクチンが原因ではないので、彼らのいう安全なワクチンは実現不可能だ。
たとえば、自閉症スペクトラムだと、脳の神経細胞表面のタンパク質を分子と結びつけている遺伝子に異常がある。

ワクチン裁判で負けたのは原告側の研究者、医師や弁護士ではない。
医師は自閉症児の治療を続け、危険性のある療法を行い、サプリを売り続ける。
たとえば、自閉症はチメロサール入りのワクチンが原因だから、体内の水銀や鉛などの重金属を排出させるキレーション療法。

弁護士は訴訟をし続け、勝とうが負けようが報酬は受け取る。
ある法律事務所は、ワクチン法廷に216万1564ドル10セントの請求書を提出した。
1980年代の百日咳ワクチン恐怖のときには、数百万ドルが補償金や和解金として支払われた。その結果、反ワクチン組織は人身被害弁護士と結託して活動するようになった。弁護士の多くは顧問委員会の一員となってワクチンの危険性を訴え、どう補償金を勝ち取るかを説明する小冊子を作る手助けをしている。

負けたのは医師と弁護士に誤った道へ導かれ、自閉症の子どもを育てる経済的な負担から解放されたいと思った親たちだ。
ワクチンについて親を脅えさせ、反ワクチン運動活動家と結んでいる人身被害弁護士に金づるを与え、多くの場合、直接自分の診療所で偽りの希望を売る医師の待ち構える腕の中に親を追い込むのだ。

小児科医のラフル・パリク
強く感情を揺さぶるアピールをして、親たちに子どもに予防接種をすることについて迷い、躊躇させてしまう。論理的に考える人もそうでない人も、こうした感情的な手法は忘れない。一方、医療、科学専門家は正確な証拠と研究を引いて対抗するが、これは多くの親には響かない。感情的ではないメッセージは印象に残りにくいのだ。

日本でも、ワクチンは効かないとか有害だなどいう主張を信じる人たちがいます。
人間は弱いものだと、あらためて教えられます。
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ポール・オフェット『反ワクチン運動の真実』(2)

2024年05月06日 | 問題のある考え
ワクチンによって子供の命が助かるようになったんから、親はワクチンを信用していいはずです。
ところが、ポール・オフェット『反ワクチン運動の真実』によると、子供にワクチンを打たないという選択をする親が増えており、防げるはずの感染症のアウトブレイクが起き始めています。

テレビの司会者、俳優、コメディアン、記者、議員、研究者、医師、弁護士たちが、ワクチンによって自閉症、糖尿病、多発性硬化症、注意欠陥障害、学習障害、知的障害、発達障害などになると脅し、それを信じた親がワクチンを拒む。
大卒か大学院卒の上層中産階級で、情報化社会で自分もインターネットを使えば専門家になれると思い、自分の健康については自分で決めると考える親たちだ。

1973年、イギリスで小児神経科医のジョン・ウィルソンはロンドン王立医学協会で、百日咳ワクチンは脳に損傷を与え、健康被害を引き起すと発表した。
その半年後、ジョン・ウィルソンはテレビに出演して、百日咳ワクチンが生涯にわたる健康被害を引き起こすと語った。

1972年にイギリスの子供の79%が百日咳ワクチンの予防接種を受けていたが、1977年には31%に減った。
ある調査では、47%の一般医が自分の患者に百日咳ワクチンを勧めないと答えた。
その結果、10万人以上の子供が百日咳にかかり、36人が死亡した。

日本でも1975年に厚生省が百日咳ワクチンの接種を一時停止したため、それ以前の3年間に400件の百日咳感染が起こり、10名が死亡したが、ワクチン中止後の3年間で百日咳の感染は1万3000件となり、113名が死亡した。

イギリス保健省は百日咳ワクチンのリスク調査をデイビッド・ミラーに依頼した。
調査チームは1976年から1979年にかけて調べ、DTPワクチン(ジフテリア・百日咳・破傷風の三種混合ワクチン)を3回接種した子どもの1万人に1人が永久的な脳損傷を起こしていると報告した。

1982年、アメリカで「DTP ワクチン・ルーレット」というテレビ番組が、百日咳のワクチンのために子供が自閉症、知的障害、てんかんなどになり、死亡する子供もいると主張した。

人身被害を専門にする弁護士たちは、ワクチンによって子どもが被害を受けたと信じている親に、正義の裁きと賠償を受けるように促した。
「ワクチン・ルーレット」が放映される1年前の1981年にワクチン製造会社を相手取った訴訟は3件だったが、1986年には255件となった。
原告が求める金額の総額は、1981年の2500万ドルから1985年には32億ドルに増えた。

製薬会社はワクチンの値段を上げ、そしてワクチン製造から撤退した。
1960年に7社がDTPワクチンを製造していたが、1986年には製造供給する会社がなくなった。
麻疹ワクチンを製造する会社も6社から1社に、ポリオワクチンは3社から1社になった。

1986年、アメリカで小児予防接種被害法が成立した。
ワクチン被害を訴える人が訴訟を経ることなく補償金を受け取ることができる、製薬会社を訴訟から守る、ワクチンの研究と製造を続けるよう助成することが目的だった。

1988年、DTPワクチンによって子供が知的障害になったとして損害賠償を請求した訴訟で、イギリスの法廷はジョン・ウィルソンの論文やデイビッド・ミラーの研究の誤りを指摘し、百日咳ワクチンが乳幼児に永続的な脳損傷を引き起こす可能性を否定した。

1989年にイギリス小児科学会とカナダ国立予防接種勧告委員会は、百日咳ワクチンが永続的障害を引き起こすという証拠はないという結論を出した。
1991年、アメリカ科学アカデミーの医学研究所が百日咳ワクチンと脳損傷の関係は証明されていないと結論を出した。

「ワクチン・ルーレット」が放映されてから現在までに、百日咳ワクチンで脳損傷も乳幼児突然死症候群も起こらないことがはっきりした。
つまり、百日咳ワクチンによって脳損傷を起こすという「ワクチン・ルーレット」の主張はでたらめだったわけです。

ところが、その後もワクチンによる健康被害が主張されています。
1998年、MMRワクチン(麻疹・風疹・おたふく風邪の混合ワクチン)を打つと自閉症などになるというアンドルー・ウェイクフィールドの論文が医学誌「ランセット」に掲載された。

アンドルー・ウェイクフィールドがMMRで自閉症になると仮設を提示した1年後の1999年、ワクチンに含まれるチメロサール(エチル水銀に由来する防腐剤)が原因で自閉症になると考える団体が現れた。

チメロサール入りワクチンを受けた子と受けなかった子の自閉症リスクを検証する大規模な疫学研究が行われ、結果はチメロサールでは自閉症にならないという結論だった。
ところが、自閉症児の親と弁護士が損害賠償の裁判を起こそうとした。

ワクチン健康被害補償制度(VICP)は数年にわたって5000件を超えるワクチンが子どもを自閉症にしたと主張する親たちの訴えを検討してきた。
5000人の子どもへの補償金のコストは45億ドルに達する。

総括的自閉症訴訟と命名された裁判では、2つの仮説が問題になった。
・MMRとワクチンの中のチメロサールの組み合わせが自閉症を引き起こすというもの。
・チメロサールだけが原因だというもの。

2009年、VICPの特別主事はMMRワクチン+チメロサールを含むワクチンが自閉症を起こすという主張を退けた。
2010年、特別主事はチメロサール自閉症原因説は科学的に認めがたいと裁定した。

アンドルー・ウェイクフィールドの論文に取り上げられた8人の子どものうち、5人の両親がMMRワクチンが自閉症を起こしたと製薬会社を訴えるところだった。
2010年、アンドルー・ウェイクフィールドは子どもたちを代表して薬害訴訟を計画する弁護士から44万ポンド(約80万ドル)をもらって論文を作成したこと、証拠の捏造や改竄などをしたため、イギリスでの医師免許を剥奪され、イギリスで医師としての診療活動は不可能になった。
しかし、アンドルー・ウェイクフィールドはその後も反ワクチンの人たちからは政府や製薬会社に立ち向かった英雄扱いされている。

HPV(ヒトパピローマウイルス)は子宮頸ガン、頭部、頸部、肛門、性器のガンの共通する唯一の原因であり、ワクチンはこうしたガンの85%を防ぐ。
反ワクチン運動家がHPVワクチンで、脳卒中、血栓、心臓発作、麻痺、痙攣発作、慢性疲労症候群を起こすと主張した。

2013年、厚労省は副作用を恐れ、HPVワクチンの定期接種勧奨を差し控えた。
しかし、HPVワクチンは認可後に百万人以上を対象にして調査が行われ、主張されているような病気は起こっていない。
毎年約1万人の女性が子宮頸ガンにかかり、約3000人が死亡している。

『反ワクチン運動の真実』の日本語版は2018年発行なので、新型コロナウイルスワクチンについては触れていませんが、反ワクチン信奉者の主張は同じものです。
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ポール・オフェット『反ワクチン運動の真実』(1)

2024年04月29日 | 問題のある考え
麻疹(はしか)の感染者が増えています。
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20240312/k10014388191000.html
ヨーロッパでは百日咳が流行しているそうです。
https://news.yahoo.co.jp/articles/41ade315148a70ca32da31dd76e859552ef68da6
ワクチンの接種率が低下しているからです。

代替医療の治療師は有害な治療法やサプリを勧める一方、ワクチンや抗がん剤といった効果が検証されている治療を否定し、それらを使う医師を非難さえします。

知人がフェイスブックでシェアしている記事に「日本のがん治療の総本山【国立がんセンター】が抗癌がん剤が効かないことを認めた」と書かれていました。
https://dailyrootsfinder.com/gan-center/

まさかと思って検索したら、産経新聞(2017年4月27日)の見出しは「抗がん剤、高齢患者への効果少なく 肺がん・大腸がん・乳がんの末期は治療の有無で生存率「同程度」」です。
記事を読むと、ガンの種類によっては「末期(ステージ4)の高齢患者」には「明確な効果を示さない可能性がある」のであって、抗ガン剤はあらゆるガンに「効かない」とは書かれていません。
https://www.sankei.com/article/20170427-D6AE3ZZEDZIKLKQ5VOLLDKCPBI/

また、「厚生労働省は毎年35万人癌でなくなっていると発表しているが、80%の28万人は癌ではなくて、抗癌剤の他の副作用によって亡くなっている」というのもウソ。
厚労省のHPには「化学療法を受けた患者さん784名のうち、18名、2.3%が抗がん剤による副作用により死亡したと考えられております」とあります。
https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000001vp67.html

このサイトに「遠隔浄化(ヒーリング)を通じて、本当の自分になる。自由になる。情熱的に生きる。思考が現実化する」とあります。
知人がこんなのを信じているのかと驚きました。

新型コロナウイルスのワクチンを打たないと言ってた知り合いがいます。
ワクチンを打てば5年以内に死ぬとか、不妊症になるといったデマを信じてたわけではないでしょうけど。

ポール・オフィット『反ワクチン運動の真実』によると、反ワクチン運動は1850年代に種痘とともに始まったそうです。
現代の反ワクチン運動のすべての特徴、スローガン、メッセージ、影響までも過去の運動にルーツを持っている。

1867年、法廷予防接種法がイングランド議会を通過した。
この法律が反ワクチン運動を発生させた。
1866年に反法廷予防接種連盟が設立された。

種痘で牛のようになる、白人の子どもが黒人になる、種痘が原因の死者は天然痘の死者より多い、種痘でジフテリアやポリオになるなど。
反種痘活動家は、種痘は反キリスト教的で、悪魔崇拝の一種で、子どもを反キリストに変えると説いた。
役人は自分たちに指図する権利もないし、子どもに何を接種すべきか指図する権利などないと考えた親の怒りは政府に向かった。

1810年から1820年の間に種痘のおかげで天然痘の死者は半減したにもかかわらず、1900年までにはイギリスでは200の反種痘連盟が作られた。
なぜ種痘に反対したのでしょうか。

ワクチンのおかげで多くの病気は完全に、あるいはほとんど消え去った。
予防接種が始まる前、ヒブ感染症で毎年2万人の子供が髄膜炎、血流感染、肺炎になり、1000人が死亡し、生き残った子供たちには深刻な脳障害が残った。

百日咳は1940年代にワクチンが使われる以前は、アメリカで毎年30万人が感染発症し、7000人が死亡していた。
近年はワクチンのおかげで死亡する子供は30人以下。

麻疹ワクチンが1963年に使われる以前は、アメリカの子供は毎年400万人が麻疹にかかり、500人が死亡していた。

ジフテリアで1万2000人が死亡。
2万人の赤ちゃんが風疹のために障害を持って生まれた。
ポリオで1万5000人が身体マヒになり、1000人が死亡していた。
B型肝炎ワクチンが認可されるまで、アメリカでは毎年20万人が感染し、そのほとんどが10代、20代だった。

「unicef news」vol.281(2024年春)に「子どもの命と未来を守るため ユニセフの予防接種活動」という記事があります。

天然痘は1950年代に2千万人が罹患し、400万人が死亡したが、1980年に絶滅が宣言された。
1990年に年間1250万人だった世界の5歳児未満の死亡数は、2021年には500万人に減少したことに、ワクチンの開発と普及が大きく貢献した。

ところが、新型コロナウイルスの世界的大流行により、多くの国と地域で子どもの定期予防接種が中断し、2019年から2021年にかけて、6700万人の子どもが予防接種を完全に、または部分的に受けられなかったと推定される。

ポリオは2019年から2021年までの3年間をその直前の3年間と比較すると、ポリオによって麻痺を生じた子供の数は8倍に増加。
10年以上感染者が出ていなかった国々で症例が相次いでいる。

はしかも過去2年間で発生件数が2倍以上に増えた。
2023年には30か国以上で流行した。
https://unicefnews.jp/feature/immunization2024/

それなのに、『反ワクチン運動の真実』によると、反ワクチン運動は今も活発です。

数年前、パキスタンで、ポリオの予防接種を受けた子どもたちが病気になったという偽の動画がソーシャルメディアで広がり、数百万人の子どもたちに予防接種をおこなう全国規模の長年の取り組みが頓挫したと、「unicef news」vol.281にありました。
反ワクチン運動は殺人や傷害と変わらないと思います。
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代替医療(3)

2024年04月20日 | 問題のある考え
 ⑧ 代替医療の3つの中心原理
・自然
代替医療の信奉者は、通常医療では許容できない副作用がある人工的な薬を出すが、代替医療は自然の薬を出すと説く。
代替療法の薬(レメディなど)は自然のもので作られているから副作用もなく安全だ思っている人がいる。

自然だからいいとは限らないし、自然ではないから悪いともいえない。
自然界にはヒ素、コブラの毒、放射性元素、地震、エボラ・ウイルスなど有害なものが存在する。
ワクチン、眼鏡、人工股関節などは人間が作ったものだが有用である。

ジョー・シュワルツ「物質の性質は分子構造によって決まります。由来ではありません。効果と安全性を評価する場合、物質が人工的に合成されたか、天然かは全く関係ありません」

私たちは人工の中で生きているのに、人工だからと否定するのはどういうものでしょう。

・伝統的
通常医療は常に変化するが、代替医療は何百年、何千年も変わらずにいるから信頼できると信じ込んでいる人がいる。

2世紀の古代ローマの医学者ガレノスは医学の集大成をし、その説はルネサンスまでヨーロッパとイスラムの医学で支配的になっています。
ガレノスの言葉です。
この治療薬を飲めば、誰でもたちどころに治ってしまう。これが効かず、どのみち亡くなる者以外は。それゆえにこの薬が効かないのは不治の病人だけであるのは明らかだ。
古代の治療師は物事に対してより明解で、より賢い見解を持っていたわけではないようです。

中世のヨーロッパでは20歳まで生きて成人できたのは約半数。
18世紀までの西洋医学の治療は主に瀉血で、モーツァルト、ジョージ・ワシントンのように瀉血で死んだ人のほうが治った人より多い。

伝統的な治療法だからといって、すべてがいいわけではない。
漢方も数千年の伝統があり、自然のものだから副作用がないと思われています。

・全体論的(ホーリスティック)
ホーリスティックとは、心身の健康を全体としてみていくという医療へのアプローチ。
近代医学は全体を細分化して部分しか見ないし、精神性を欠いて技術的だが、代替医療はスピリチュアルで深い意味を持つと考える人がいる。

しかし、通常医療の医者も、患者の生活習慣、年齢、家族の病歴、遺伝的要因などを頭に入れて、ホーリスティックな治療を行なっている。
医療に標準とか代替とか、補完とか統合とかホリスティックといった区別があるわけではない。
効く医療と効かない医療があるだけだ。

 ⑨ 代替医療からの科学に対する非難
・科学は代替医療を検証することができない
科学はさまざまな治療法が及ぼす影響の測定方法を開発してきた。
追試をして結果を再現することで、その治療法が安全で効果があることが証明される。

しかし、代替医療の場合、一度きりの臨床試験や、データを公開しないなどで、効果があるかを示すことができない。
だから、科学は代替医療の主張に懐疑的なのである。

・科学は代替医療がわかっていない
ある治療法のメカニズムがわからないからといって、効くかどうかわからないわけではない。

17世紀にレモンが壊血病の予防できると知られるようになったが、なぜかはわからなかった。
ビタミンC不足が壊血病の原因であることがわかったのは20世紀になってから。

・科学は代替医療に偏見を持っている
現代科学はガリレオたち反主流派によって築かれている。
科学は反主流派すべてを否定するわけではない。
だからといって、反主流派がすべて偉大な科学者とは限らない。

 ⑩ 代替医療による科学の利用
代替医療は科学を批判するのに、主張に信憑性を与えるため科学を利用する。
エネルギー、波動、共鳴、あるいは患者の電磁回路や体をデフラグするといった科学的と思わせるが意味のなさない言葉を使う。

科学的にみえる装置を使用する。
電磁放射から守ってくれる銅のブレスレット。
ヒーリング力があるクリスタル。
体から毒を排出するフットバス。
体から毒素を排出させる(デトックス)電気式の装置など。

 ⑪ 代替医療による金儲け
代替医療を支持する人には政府、製薬会社、医師は薬を売るために結託していると考える人がいます。
しかし、代替医療こそ高い治療費を要求し、健康食品や健康器具を売りつけて金儲けをしているのです。

代替医療や反ワクチンの本が定価2千円として、印税が10%なら、1万部売れると200万円、10万部なら2千万円です。
講演会の参加費千円で聴衆が千人来たら100万円。

大製薬会社も積極的に代替医療ビジネスに参入している。
代替医療は全世界で数兆円規模の市場に成長しているといわれる。
2018年度の世界のビタミンや栄養補助食品マーケットの売上は約1140億ドルで、アメリカが291億ドル、中国が231億ドル、日本が110億ドル。
https://boueki.standage.co.jp/supplement-overseas-market/
2007年、481万人のアメリカ人がホメオパシーを使用し、レメディーの売り上げは29億ドル。

サイモン・シン、エツァート・エルンスト『代替医療解剖』とポール・オフィット『代替医療の光と闇 魔法を信じるかい?』を読み、代替医療の手口はインチキ宗教や悪徳商法と似ているように思いました。
ムチ(脅し)で不安にさせ、とアメ(解決法)を与えて金をむしり取るのが基本です。

中には、治療が効くという信念を持つ人、人々を救う大発見をしたと信じる研究者、だまされて代替医療の広告塔になる科学者や著名人もいます。
これもインチキ宗教や悪徳商法と同じ。
しかし、悪意はなくても、人を惑わすという点では罪作りです。
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代替医療(2)

2024年04月14日 | 問題のある考え
 ⑥ 通常医療と代替医療の比較
通常治療は検査や実験の再現などで有効性や安全性が証明されている。
もし医師が無責任なことを言い、効果が証明されていないどころか危険な薬を患者に投与すれば、医師免許を剥奪されるか、裁判の被告席に座ることになる。

また、薬は厳しく規制され、承認されるまで時間も費用もかけている。
ロタウイルスワクチンは、11か国に関わり、7万人の子どもを対象に、3億5千万ドルをかけ、4年を費やした認可前研究をした。
しかし、代替医療は効果があるかはっきりしないし、安全性にも問題がある。

代替医療の診断法にはこんなものがあります。
・バイオレゾナンス 患者の身体から出る電磁放射と電流を電子的に記録することにより、アレルギーからホルモンの乱れまで、あらゆることを診断する。

・虹彩診断法 眼球の虹彩の点はすべて、どれかの器官に対応しており、虹彩の不規則性は、その位置に対応する器官に問題があることを示している。

・キネシオロジー 手で触れて筋肉の強さを調べると内臓の健康状態がわかる。

・ベガ診断 電子的な診断装置でアレルギーからガンまでさまざまな病状を検出できる。

サプリメントは安全性や効果を証明する必要がない。
日本でもアメリカにならってサプリは食品だという前提で、薬事法の規制を受けない。
さらに、政府が規制緩和をすすめて機能性表示食品が認められた。

代替医療やサプリメントがノーチェックでいいわけがない。
どんな療法でも厳しい立証基準が課せられなくてはならない。

代替医療は健康を害するだけでなく、食い物にされて金を失う恐れがある。
なぜなら、保険が適用されないので一回の治療費が高額で、しかも何回も治療を受けなければならない。
しかも、高いサプリを大量に長期間飲み続け、効果のない健康器具を買わされる。
安くて安全、効果がある通常医療のほうが代替医療よりすぐれている。

 ⑦ なぜ代替医療にはまるのか
アメリカ人の50%は何らかの形で代替医療を利用し、ビタミンやサプリメントを摂り、10%は子供にも使わせている。

・現代医療や医師への不信
代替医療を使うきっかけの一つは通常医療への失望である。
患者は理解と共感を示してくれることを求めている。

ところが、通常医療の医者は患者のために時間を割いてくれず、冷淡で尊大で、思いやりや共感を感じない。
患者は自分が人間ではなく数字として扱われているような気分になる。

代替医療の治療師は一人の人間として患者を気づかい、時間をかけて親切に話を聞き、心を安らがせてくれる。
人からの指示や規制を不快に思う患者は、自分の健康は自分で管理できるし、医者にいちいち指示される必要はないと考える。
その一方、代替医療の治療師が、いつ何を食べ、どういう運動をし、シャンプーや洗剤は何を利用するか、料理の作り方、病気の対処の仕方まで具体的に正しいやり方をはっきり教えてくれることを喜ぶ。

代替医療の治療師は高額の料金を請求するので、一人の患者に時間をかけることができるが、通常医療の場合は一人の患者に長時間を費やすことが難しいことは考慮しない。

・有名人が代替医療を勧めるから
研究者(ノーベル賞受賞者もいる)、医師、俳優、歌手、政治家、スポーツ選手などが代替医療を持ち上げている。
チャールズ国王もその一人。

どこの国でもテレビや雑誌などのメディアは代替医療に肯定的で、好意的に取り上げる。
代替医療が新聞や雑誌に取り上げられると、科学的根拠とは真っ向から対立する内容になっていることが多い。
オプラ・ウィンフリーたち人気司会者が自分の番組で代替医療の宣伝をしている。
代替医療の治療者をテレビに登場させ、デタラメを言わせる。
その場合、通常医療の専門家を立ち会わせない。

積極的に代替医療を勧める研究者、医師もいます。
メフメット・オズはコロンビア大学医療センター心臓血管外科学の正教授で、年間250の手術を執刀し、400以上の論文と専門書の項目を書いた。
『タイム』の最も影響力のある100人、世界経済フォーラムの次世代グローバルリーダーなどに選ばれている。
メフメット・オズは自分の番組で、自然療法、ホメオパシー、鍼治療、手当療法、信仰療法、カイロプラクティックから死者との対話まで、多岐にわたる代替医療を勧めている。

ノーベル化学賞と平和賞を受賞したライナス・ポーリングは、インチキ科学者の助言によってビタミンで風邪を予防すると信じ、さらには大量のビタミンとサプリの摂取でどんな病気も治せると説くようになった。

代替医療に対して何もしない研究者が多い。
なぜなら代替医療の検証は手間暇かかるわりに評価されないから。

アメリカの6000の病院に対して行われた調査では、42%が何らかの代替医療を提供していた。
一般医の半数が患者を代替医療のセラピストに差し向ける。
患者が健康食品や代替療法コーナーで売られている薬を試したいと患者に言われたら、多くの医師は肯定的な反応をする。

イギリスには代替医療で学位を授与する大学が16校ある。

・人間の弱い心につけ込む
本人や家族が病気になって心が弱り、治るなら何だってお金を払おうと思った人は、科学的に検証されていない話に騙されてしまいがち。

1990年代後半、自閉症にセクレチンが効果があると言い出す人がいてブームになった。
ところが、検証の結果、セクレチンは自閉症にプラセボ以上の効果がないことが明らかになった。
セクレチンを処方された子供の親も、生理食塩水を処方された子供の親も、ほとんどが子供は進歩を見せたと評価した。
つまり、親たちは結果が出てほしいと願うあまり、生理的食塩水でもセクレチンでも子供が進歩を見せたと確信したわけだ。
親たちはセクレチンと生理食塩水の結果は変わらなかったことを告げられたが、69%が引き続き薬を使いたいと答えた。

効果がないとわかった薬のために何百マイルも旅して何千ドルも払いたいと希望した。親はそのくらい切実なのだ。(略)親たちは自宅を担保に入れてローンをして、老後資金を解約して、偽りであっても希望を約束してくれる人を探す。
親の愛を利用してその生涯の蓄えをむしり取る開業医療者ほど下劣なものはない。

患者や家族の弱い心につけ込んでだますことは犯罪だと思います。
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代替医療(1)

2024年04月09日 | 問題のある考え
小林製薬の機能性表示食品で腎疾患などの健康被害が発生し、死亡された方もいます。
機能性表示食品は企業が届け出すれば、国の審査がないので効果や安全性が保証されていません。
しかも、企業が健康被害を行政に報告する直接的な法令はないそうです。

以前に書きましたが、絵門ゆう子さんは乳がんの告知を受けたのに、手術や抗ガン剤治療を拒否し、大金を払って代替医療を受け続けました。
病状が悪化しても、なかなか病院を訪れることをしていません。
https://blog.goo.ne.jp/a1214/e/6920d93d7a8de481d63ae6632980d614

代替医療のどこが魅力なのか不思議で、サイモン・シン、エツァート・エルンスト『代替医療解剖』とポール・オフィット『代替医療の光と闇 魔法を信じるかい?』を読んでみました。

代替医療の問題点は3つあると思います。
・効果のない治療をする
・安全性のない治療をする
・効果が検証されている治療を否定する

 ① 代替医療とは何か
代替医療とは、現代の科学によっては理解できないメカニズムで効果があると主張する治療法で、多くの科学者や医師が受け入れていないもの。

 ② 代替医療にはどんなものがあるか
カイロプラクティック、ホメオパシー、気功、ハーブ治療、アーユルヴェーダ、アロマセラピー、催眠療法、スピリチュアル・ヒーリング、デトックス、風水、レイキなどなど。
漢方、鍼灸、指圧も代替医療だそうです。

 ③ 代替医療の効果や安全性は
臨床試験でその治療が安全で有効だと証明されれば、それは代替医療ではなく通常医療になる。
効かないという結果が出れば医療ではない。

つまり、代替医療とは、
・検証を受けてない
・効果が証明されていない
・効果のないことが証明されている
・微々たる効果しかない
のどれかだということになります。

ノコギリヤシは前立腺を小さくしない。
コンドロイチンとグルコサミンは関節痛の治療にならない。
ニンニクとコレステロール、イチョウと認知症とは無関係。
指圧は通常のマッサージと同等の効果しかない、などなど。

 ④ 代替医療はどんな害があるか
有害なものを摂取して健康を損ねたり、有効な治療を受けずに命にかかわることがある。

カイロプラクティックスの施術で動脈が裂けたり、マヒを起こすことがある。
鍼でウイルス感染が起きたり、肺や肝臓や心臓に刺さることがある。
メガビタミン(ビタミンを大量に摂取する)でガンや心臓病のリスクが高まる。
ビタミンは人間に必要だが、普通の食事で十分。
栄養サプリで出血、精神障害、心臓の不整脈、脳腫脹が引き起こされることがある。

 ⑤ なぜ効いたと思うのか
病気はよくなるか悪くなるかのどちらかで、時間が経てば自然に治ることもある。
なんらかの症状が出ている時に代替医療で具合がよくなれば、効果があったと思う。
百万人の1%、すなわち1万人がたまたま調子がよくなってもおかしくはない。
通常医療の薬の服用、食事や生活習慣の改善、リラックスする時間を持つなどの効果かもしれない。
医者が患者に何か言ったり、患者が何を信じるかによって、たとえウソであっても患者の状態がよくなることがある。

ハリエット・ホール「多くの病気はそのうち治り、そうでない病気もよくなったり悪くなったりを繰り返す。病気がたまたまよくなる時期にあたっていたとしても、よくなったのはそのとき使った薬のおかげだと、患者は思ってしまうだろう」

代替医療で治ったと思いこんだ人は確証バイアス(何が起こっても先入観を強めるよう解釈する傾向)を持ちやすいから、科学的根拠は重みを持たない。

私は鍼で腰痛が治ったことがあります。
しかし、原因のはっきりしない腰痛の場合、約90%は6週間ほどで大幅に改善するそうです。
腰痛の治療で何回か通ったので、自然に治ったのかもしれません。

代替医療が効果があるとしたら、その多くはプラセボ効果によるものです。
プラセボ効果とは偽薬効果ともいい、小麦粉を「薬だ」と偽って飲ませたら病気が治ったということです。

プラセボ効果の逆がノセボ効果で、偽の治療を受けた被験者の約4分の1に頭痛、吐き気、不眠、疲労感が見られる。
プラセボはラテン語の「私は喜ばせるであろう」という意味で、ノセボは「私は害をなすであろう」という意味。
通常医療の薬もプラセボ効果があるので、医療そのものの効果にプラスされる。

ホメオパシーの薬(レメディ)は原材料から抽出した母液をアルコールと水の混合液で原材料の分子が存在しないようになるまで薄める。
つまりは単なる水だから、効果はプラセボ効果以上はない。

また、平均への回帰といって、病気はよい状態の時と悪い状態があり、平均な状態になる。
だから、少しでもよくなれば、最悪の時に試したのが効いたと考える。

状態が悪くなれば好転反応(毒が排出されるなどの理由で、患者の状態がいったん悪くなってから改善するということ)だと言えばいい。
ホメオパス(レメディーを処方する人)は「適切なレメディを摂取すると、体内の毒素が排出されて、症状が一時的に悪化することがある」と説明する。
デトックス(体内から毒素や老廃物を取り除くこと)を勧める人は「毒素が出ているあいだはかえって気分が悪くなるかもしれない」と答える。
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「死刑囚表現展」のアンケートと平野啓一郎『死刑について』(13)

2024年04月01日 | 死刑
⑮ 死刑と裁判員裁判
裁判員裁判が行われるようになってから厳罰化しているそうです。
裁判員が被害者に同情し、応報感情や正義感情を持つからではないかと言われています。

しかし、被害者が処罰感情を持っているとしても、裁判員が被害者感情に同調して判決を決めるべきではありません。
自分の子供が殺されたらと考えることと、殺人事件の裁判員になることは違います。
裁判員にとってそれは難しいことだそうです。

宮下洋一『死刑のある国で生きる』で、精神鑑定医である村松太郎慶応大学医学部准教授が裁判員裁判について語っています。
精神障害の症状が影響した複雑な事件の判断を、裁判員に委ねるには無理があります。無理を通すために事件が単純化されている。法廷に出てくる前に、複雑な部分が削ぎ落とされてしまう。裁判員裁判が素人判断だからよくないのではなく、裁判員に提出されるデータが限られることが深刻な問題です。限られたデータによって事件が単純化された時点で、もはや真実は分からなくなっていると思います。
鑑定が増えている大きな理由のひとつとしては、裁判員には判断が難しい責任能力のことは、公判前に済ませたいという裁判所の狙いが見え隠れしています。
村松太郎さんは「裁判員裁判にはまったく反対」と明言し、「廃止すべきか、適用を見直すべき」と明言しています。

残酷な殺し方をするのは脳の機能のひとつ。
前頭葉が脳腫瘍、または、血管障害や外傷などで損傷を受けた人は、後天性サイコパスになり得る。
前頭側頭型認知症などの認知症の変性疾患もそのひとつとされ、倫理機能の低下をもたらすことがある。
そういった症状があって犯罪を犯した時、それが本人の責任だとどこまで言えるのか。突き詰めると、先天的にそういう脳を持って生まれた人の責任をどう考えるのかという話になりますが、追及していくと誰の責任でもなくなるのです。
自分は絶対にそんなことをしないと思っていても、脳の損傷などでそんなことをすることがあるかもしれないわけです。

重大事件を起こした人が精神疾患患者だったとしても、極刑が避けられないと思うことがあるかという質問に、このように答えています。
精神鑑定の作業を進めて被告人の病気がよく分かるようになるにつれ、病気がなければこの人は絶対こんなことはやらなかったはずで、それなのに死刑にしていいのか、と思うこともあります。しかしそうすると、次の瞬間に、病気じゃない人は死刑にしていのかという問いが出てきて、私はこれに応えられない状態です。

心神喪失(精神の障害によって自己の行為の善悪を判断できないか、判断したように行動する能力がない者)は無罪とされます。
あるいは、アルコールや薬物の依存症者が事件を起こし、事件のことを覚えていないと主張することがあります。
そうした場合、情状酌量すべきかどうか判断を裁判員はできないと思います。

⑯ 暴力と話しあい
世界各地で争いが絶えません。
スーダン内戦は1983年から。
ソマリア内戦は1988年から。
シリア内戦は2011年から。
イエメン内戦は2015年から。
ミャンマーのクーデターは2021年。
ロシアのウクライナ侵攻は2022年。
イスラエルのガザ攻撃は2023年。

毎田周一「暴力は言葉の放棄だ」という言葉があります。
紛争が起きたら、暴力(武力)ではなく言葉(外交)で問題解決を図るべきです。
しかし、現実は力の強い者の勝ちという状況です。

平野啓一郎『死刑について』にこうあります。
本来、人間の社会の中では、自分の意思を実現させたい時、相手と話し合いをしなければなりません。自分がこうしたいと思っても、そうしたくないと思う人もいる。その時には、相手の意見を聞いて、相手を説得したり、あるいは、自分が譲歩したりという様々なプロセスを経て、たとえ少しであっても、自分の意思が実現できる方向に動いていくわけです。民主主義的な社会の最も基本的な仕組みとも言えます。
ところが、暴力というのは、そうした複雑なプロセスを経ることのない、非常に単純な方法です。相手を力でねじ伏せて自分の言うことを通してしまう。非常に単純であるが故に、無理の大きい方法です。到底受け入れられないと感じている人を従わせるわけですから、これでは、正しいことも、通らなくなるし、そもそも何が正しいのかという議論も失われてしまいます。

犯罪を犯した人に対して、口で言ってもわからないなら、体に教え込むしかないというやり方は間違いです。
力で抑えつけることで犯罪が減り、犯罪者が更生するとは思えません。

入江杏さんはこのように言っています。
最後に私が到達したのは、殺人には殺人で、暴力には暴力で報いたなら、凶悪犯罪が引き起こした暴力の連鎖を断ちきることはできない、という想いだ。人間同士の許しあいは、犯罪の事実をうやむやにすることでも、正しい裁判を行わずに犯罪者を野放しにすることでもない。「ゆるし」とは一つの長い「あゆみ」だ。
https://www.crimeinfo.jp/wp-content/uploads/2018/09/07.pdf

人を殺さない、傷つけないという原則を守っていきたいです。
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「死刑囚表現展」のアンケートと平野啓一郎『死刑について』(12)

2024年03月27日 | 死刑
⑭ 死刑は誰のためにあるのか
「死刑囚表現展」のアンートに「死刑は誰のためにあるのか」と問題提起するものがありました。
被害者や遺族のためというより、復讐が善だと考える第三者のためにあるように思います。

宮下洋一さんの死刑についての考えが『死刑のある国で生きる』に書かれています。
欧米人が死刑を廃止できたのは、人権という理想が、「赦し」という宗教的価値観に支えられているからではないのか。日本人の大半は、凶悪殺人犯を「赦す」ための信仰心は、備えていないように思える。
加害者をゆるすキリスト教文化圏の欧米とは日本は文化が違うということでしょうか。

バド・ウェルチさんとジョニー・カーターさんが加害者をゆるし、死刑に反対するのはキリスト教の影響が大きいと思います。
だからといって、恨みや憎しみを忘れずに敵討ちをすることが日本の文化ではありません。
菊池寛『恩讐の彼方に』に感動するわけですから。

イスラム教国の多くは死刑制度があります。
しかし、マレーシア(イスラム教が64%、キリスト教が9%)では2018年以来、死刑を執行されていません。
しかも2023年には、マレーシアの下院は殺人やテロを含む11の犯罪に必ず死刑を適用してきた強制死刑制度を撤廃する法案を可決しました。
死刑の存廃は文化、宗教で決まるわけではありません。

また、加害者に怒りや憎しみを持つことと、死刑を望まないことは矛盾しません。
平野啓一郎『死刑について』にこうあります。
もし僕の家族が犯罪によって殺されるようなことがあったら、僕は犯人を一生ゆるさないかもしれない。でも、僕は死刑を求めません。これらは両立可能なのです。

犯罪被害者が死刑を求めないからといって、犯人をゆるしたと考えるのは短絡的。
逆に、犯人をゆるせないなら、死刑を求めて当然だと考えるのも同じ。
どちらも被害者に勝手な思い込みを押し付けている。
怒りや恨みという感情と、死刑制度の是非は分けて考えるべきだと思います。

ところが、被害者が怒り、恨み、憎しみを持つのは当然だと考える人がいます。
平野啓一郎さんもこう語っています。
私たちは、被害者の感情を、ただ犯人への憎しみという一点だけに単純化して、憎しみを通じてだけ、被害者と連帯しようとしているのではないでしょうか?。

社会は、被害者は加害者を憎んで当然であり、憎まなければならないと思い込んでいる。
だから、被害者遺族が死刑を望んでいないと話すと、「身内が殺されたのに相手が憎くないのか」「愛する人が殺されたのに、死刑を望まないなんておかしい」「あなたは亡くなった人に対する思いが薄いんじゃないか」などと非難する人がいる。
そのため、ゆるすという形で苦しみを終わらせたいと思っている人が、苦しみを終わらせることができなくなってしまう。

犯人をゆるすなんて信じられないという人は、憎しみは理解できるから共感するが、ゆるしはわからないと突き放すのか。
偽善であり、本心じゃないはずだと批判するのか。

死刑に反対する被害者遺族の原田正治さんは非難されたことがあるそうです。
「良い被害者」と「悪い被害者」とがあるんです。仏壇に手を合わせ、冥福を祈り、黙って悲しみに耐えていく犯罪被害者が「良い被害者」なんです。「悪い被害者」というのは、表に出て、声を出し、国に文句を言い、自分の主張していく人です。さしずめ僕なんか悪い被害者なんでしょうね。僕みたいに声を出す被害者は異常なんです。直接面と向かって言われたこともありました。

平野啓一郎さんはこう問います。
もし、皆さんが殺されて、あの世から残された家族を見守っているとします。その時、家族の周りにただ、犯人への憎しみにだけ共感する人たちが集まり寄っている様が見えたとして、それは本当に喜ばしいことでしょうか?

「被害者の気持ちを考えたことがあるのか」と言う人は、「憎しみ」の部分にしか興味がなく、それ以外の部分で被害者の悲しみをどう癒やすかにはコミットしようとしない。

社会が被害者の抱えている憎しみ以外の複雑で繊細な思いを無視して被害者とかかわろうとするのなら、被害者と社会との接点は憎しみの一点だけになってしまう。
被害者は憎しみだけに拘束されるとしたら、それはあまりに残酷なことではないか。
手助けをしてくれる人たちが気づかってくれるなら、それは憎しみの連帯よりも望ましい。
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