親友が結婚した。
彼女は中学のとき、私の靴箱に遺書をしのばせて、自殺をはかった。
私は文字通り腰をぬかした。腰をぬかしたのはこれまでの人生であのときだけだ。
彼女は長い間入院した。
帰ってきてほしくて、彼女に手紙をかいた。
刺激が強いから、何も今は伝えられない、としばらくのあいだ手紙は届けてもらえなかった。
でも書き続けた。手紙は誰かが預かっていた。
いてもたってもいられなくて、千羽鶴をつくった。
みんなから鶴を集めたら多くなってしまって、二千羽鶴になった。
私は鶴に糸を通して、二連の千羽鶴をつくった。病室は面会謝絶だったから、彼女に届けてもらった。
彼女がいない間、自分の鈍さと愚かさと、彼女の繊細さと、大切な人を失うことの悲しみ、そして遺書に私への感謝の言葉を綴っていた彼女の最後までの優しさをずっとひとりで考えていた。
彼女が何を考えていたのか、知りたかった。そして謝りたかった。
数箇月後、彼女は帰ってきた。私たちは何事もなかったように普通に迎え、同じ中学と高校を卒業した。
私たちの間でその話題が会話に出たことは、けっきょく一度もなかった。何も聞けなかったし話せなかった。
でも、私はずっとそのことを考え、私の人生観は大きく変わったし、人への寄り添いかたも大きく変わった。
今年2月、彼女は私に会いに来て、結婚すると教えてくれた。「結婚するって直接報告したくて」と言ってくれてとても嬉しかった。彼女はとつぜん「あのときのこと、本当に感謝してる。ありがとう。」と言った。
不意打ちで、私は涙目で「そんなことないよ」としか言えなかった。
本当は私もありがとうと言いたかった。いろんな大切なことを私に教えてくれてありがとう。
でも言えなかった。
3月に地震があった。彼女と旦那さんは東北に住んでいた。連絡がとれなくて、わたしは、「彼女がつかんだ幸せが・・・」と泣きながら思った。こんなところで途絶えないで。
無事だった。改めて、誰よりも幸せになってほしいと思った。
そして、結婚式。
ウェディングドレス姿でご両親と現れたのを見て、ご両親の気持ちも想像して、胸がいっぱいになった。
会場から出るとき、彼女に色々伝えたかったけど、「本当におめでとう」以上のことは、言葉がつまって、言えなかった。
並んだご両親に「あなたがいなければ、今の娘はなかったと思ってるんです。ありがとう。」と言われて、涙でうまく答えられなかった。本当は、「娘さんがいなければ、今の私もないです。」と伝えたかった。
10年たった今になっても、あのとき二人が別々に過ごして考えていたことは、いまだにお互い知らないままだ。
そして私はいちども感謝の気持ちを伝えられていないままだ。
こんな、彼女が見もしないところでつぶやいているだけ。
いつか、言わないと、きっと後悔する、と思う。
私の結婚式で、伝えられるだろうか。