●「クール・ジャパン」:ハッタリの支援に500億円!
「財務省は1月29日、2013年度の財政投融資計画を発表した。そのなかで注目を集めているのが、「クール・ジャパン」事業に対する出資だ。発表によると、「クール・ジャパン」推進を目的とした官民出資の新会社設立のために、国が500億円を出資するという。新会社では、「クール・ジャパン」を海外展開する日本企業の経営支援を行うとのことだ。」
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20130214-00000004-rnijugo-sci#
上記の情報のソースは信用できないので、自分で調べてみた。↓
これらの資料を見れば分かるように、具体性のない、あいまいな出資先に500億円も出資するのである。それも、この機関は自己資金が50億円、事業規模が550億円なので、ほとんど国営である。
こんなのが財務省を通過しているというのは、自民党のバラマキ体質がさっそく反映された結果なのだろう。(追記:後から調べたら、民主党政権時代の去年九月の段階で、すでに経産省内で400億円のバラマキ計画が出来ていたようである。エダノ最悪。)
この用途不明瞭な多額のバラマキによって、業界内格差が広がり、また、邦画製作バブルの第3波が発生して、作品の低品質化と供給過剰がさらに加速する可能性が高く、映画産業全体にとっては一利なしである。
経産省のホームページから拾ってきた、前年の映画政策関係の資料。↓
このように映画に詳しくもない経済人が、
映画産業を巻き込んで、変な政策を推進しているのである。こんなバカなことを国策でやって、日本の映画産業が良くなるわけがないのであり、本当に屈辱的で恥ずかしく腹立たしい。
映画助成というのは、市場原理の中では淘汰されてしまうような、新人監督のデビュー作や芸術性の高い映画に対して、適切な方法で適切な額を支給することである。それによって、産業内部の極端な歪みを抑え、映画産業の衰退・停滞を防ぐものなのである。
決して市場原理の中で、バブルを誘発させたり、多額のバラマキをしたりして、産業構造に悪影響を与えることではない。それも輸出で儲けることを前提とした文化政策など、言語道断である。アイドルやB級グルメが、世界で評価されるような日本の文化・芸術であるとは、正気の人間の発想ではなく、こんなのが世界に通用するわけがないのである。
●BD拡大会議で露呈した、パッケージ・メディアの衰退
http://news.mynavi.jp/articles/2013/02/15/bd_kaigi/index.html
前年に引き続き、突っ込みどころが満載のBD拡大会議である。 まず、記事のタイトルに「2014年のセルディスク市場でBD比率50%超えの見通し」と書いてあるが、これはDVDの売り上げが落ち込む中で相対的にBDの割合が高くなるという意味である。また、「セルディスク市場は2012年に底を打ち2013年は緩やかに成長」とあるが、これは6年連続のマイナス成長からは一時的に抜け出すはずだという希望である。一事が万事、見栄ばかりであり、現実逃避も甚だしい。
ただ、真っ当な部分の情報に関しては解説を付けていきたい。
・(2012年の日本の)「セルディスク市場のBD比率は31.6%。日本以外の各国のセルディスク市場におけるBD比率は、アメリカの26.7%を筆頭に、ドイツ25.6%、フランス20%、イギリス15.1%、オーストラリア14.5%と続く(いずれもDEG調べ)。」
日本はアニメ需要・コレクター需要が強いため、比較的パッケージが強く、高品質メディアであるブルーレイが他国よりもよく売れる。ただ、世界的に見ればブルーレイが全然売れていないということが、この数字からは分かると思う。では、これらの国ではDVDが売れているのかというと、実はそうでもなく、かなり落ち込んでいる。つまりこのことは、
パッケージ市場全体が世界的に崩壊しているのだと考えていいと思う。(それに比例して、世界的に映像コンテンツのライセンス料が下落している。つまり、映画の経済的価値が下落しているのである!)
・「DVDも含めたセルディスク市場全体でのジャンル別成長率では、日本アニメが前年比5.4%のマイナス、洋画が19%のマイナス、邦画が24.6%のマイナスと、シェアの高い3ジャンルの成長率がマイナスに転じていることが紹介された(日本アニメのシェアが23.2%、洋画が12.3%、邦画が5.1%)。一方で、音楽ビデオは前年比13.7%のプラス成長となっており、ジャンル別シェアでも今や33.4%という巨大市場となっている。」
去年も書いたが、音楽ビデオの躍進は某アイドル・グループのソフトが大量に売れたからである。それらに比べて、はるかに安定的な基盤をもつ映画がマイナス成長しているだけでなく、頼みのアニメまでマイナス成長ということで、日本でパッケージ市場の根幹が本格的に壊れてきていることが分かる。
・「単価下落でやや縮小するレンタル市場、急速に成長するダウンロード販売などのデジタル配信市場」
レンタル市場でおきていることは前に書いた通りであり、多くの人が実感として薄利多売を意識していると思う。ネット配信については、最近、YouTubeが東京都内に撮影スタジオ(YouTube Space Tokyo)をオープンしたというニュースがあったように、本格的な時代を迎えつつあるようである・・・。
●映画のデジタル化について思うこと
一年前まで、私は映画のデジタル化に抵抗感があったのだが、最近はそれほどでもなく、素直にそれを受け入れている。私が問題視しているのは、映画や映画館のデジタル化ではなく、家庭におけるデジタル製品の発展スピードの速さであり、それが映画館を抜いてしまうのではという点にある。『スター・ウォーズ エピソード1』などは2K撮影らしいが、今では家庭で4Kの時代である。映画は技術に依存した文化であるが、デジタルのように変化の早いものの上に依存したため、映画作品や映画館の方が技術発展に取り残されてしまっている。私はそこに「映画」の終焉の時期が来ていることを感じる。(もちろん、プロの手による映画の質を重視する文化的風土があれば話は別だが・・・。)
また、上記で書いたように、映像ソフト市場がここまで衰退してしまうと、やはり(抵抗感はあるものの)ネット配信に期待せざるを得ないと感じるようになっている。実際にアメリカのように、アマゾンやグーグルといった高いカリスマ性とイノベーション能力を持つ企業がいるところでは、すでにネット配信がビジネスとしてかなりの程度成功している(すでに50億ドル市場!)。勿論彼らは小売業としての儲けをしっかりと採ってから、残りをハリウッドに渡しているので、ハリウッドの儲けは映像ソフトほどではない。しかしながら、それらのネット企業はインディペンデントやクラシック、外国映画の配信もおこなっており、文化的に委縮し続けるシネコンよりも、はるかに価値があることをやっている。映画と観客をつなぐ媒体としては優れた点があるのである。
ネットで深刻な海賊版対策も、今は、国家やハリウッドがやかましく言っているだけだが、ネット企業(シリコンバレー)側にビジネスとしてのうま味が出てくれば、連中も徐々に「工夫を凝らす」というやり方で、ビジネスを発展させようとするだろうから、そのやり方には少し期待してもいいのではないかと思っている。
●メディアに対する世代による価値観の違い
以前、たまたま見たNHKの番組のなかで、テレビに対する意識の変化というものを紹介していた。それによれば、今の30~50代はビデオ録画再生機の登場でテレビ番組を録画したりしていた世代であり、それをすることに慣れている人たちなのだという。一方、10代~20代はケータイやPCの登場でテレビに対して関心がなく、録画することもない世代で、見たい番組があった場合は(合法・違法を問わず)ネットのアーカイブで気軽に見るのだという。
個人的に、このような俯瞰の仕方はあまりしないので、なるほどと思った。これを映画業界的に言い換えると、前者は映像ソフト世代、後者はスマホで、“共有された”ネット動画を見る世代といえるだろう。そう考えると、映画関係でも、ジェネレーション・ギャップが顕著化しているのではないかと思う。若い世代でレンタル店離れが起きているのも、このような根本の部分の価値観が影響している可能性がある。また、BDレコーダーが全然売れないというのも、価値観の変化に全く対応したものではないからだといえる。オタクの人たちのほとんどが年齢で30代以上という“高齢化”がおきているのも、同様である。
ところで、「メディア芸術」推進派のオジサンたちが、何かの記事で、今の若者は子供の頃からコンテンツの消費を大量におこなっている世代なので、これからこの分野は(経済的に)大きく成長するだろうと楽観的に語っていたことがあった。
しかしながら、実際は多メディア・多チャンネル化で供給過剰をおこしているコンテンツに対して、
湯水のように大量消費をしているだけであり、あまり“ありがたみ”を感じていないところはあると思う。それはビジネスにも若手創作家の登場にもあまり将来性が期待できない状況なのではないかと感じる。私自身、80円レンタルだとか、あまりにも容易に入手できるようになったカルト映画に対して、ドライな感情を抱いているし、ネットに氾濫する違法動画にもうんざりである。映画の文化的基盤の方はすでに壊れてしまっているのではないかと感じる。