ホトケの顔も三度まで

ノンフィクション作家、探検家角幡唯介のブログ

今回の旅のなが~い報告

2018年06月04日 04時27分40秒 | 探検・冒険
 シオラパルクの隣、カナックで天候不順でフライトが延期となり、毎年恒例の帰国前の足止めを食らっている。天候不順といっても他国なら全然飛べる気象なのだが、エアグリーンランドは独占企業で乗客は他に選択肢がないため、少し曇ったり風が吹いたりしただけで平気で延期する。今日は日曜。明日飛べばいいのに、なぜか水曜まで飛ばないという。ということで時間があまってしょうがないので、今回の旅の報告でもすることにする。

 ここ数年、極夜探検と並行して国内で漂泊登山や地図無し登山といった活動を続けてきたが、この一連の行動のなかで浮かび上がってきたのが土地あるいは地図と時間というテーマだった。極夜では闇の見えない世界を手探りで旅をしたが、その際に行動の判断の手助けになったのが過去に蓄積した土地や地形に関する知識だった。土地についての知識があったからこそ自分が今どこにいて、次にどこに行き何をすればいいのか判断することができた。また闇の世界は視覚が制限されることで未来に対しての確かな予測ができなくなる。つまり明日、明後日に自分がどこにいるのかわからなくなっているかもしれないという生存不安を常にかかえているため、将来に対する確かな存在基盤をもつことができない。現在という一点で時間が断ち切られており、未来が予測できないという状況に陥っているわけだ。

 地図無し登山でも同じような感覚を味わった。闇夜と同様、地図がないと現在位置が同定することができないため、山頂まであと何日かかるのか、そもそもどんな山頂が待ち受けているのかするわからない。山という自然の本源が露わとなり、将来に対する巨大な不安となって襲い掛かってくるのだ。

 これ以上書くと、次の作品の核心に触れてしまうことになるのでブログではこれぐらいにしておくが、こうした土地、地図、時間というテーマをもっと深く掘り下げれば、生きることの手応えはどこから得られるのかという実存の秘密、冒険の意味に迫れるんじゃないかという予感があったので、今回はそれをもっと深く掘り下げる旅にすることにしていた。具体的にどうしたかというと、食料をある程度制限して途中で狩りをすることを前提に出発したのである。

 とはいえ、去年の極夜探検とはちがって今年はもう太陽が昇っている時期で明るい。4月に入ればもうすぐに白夜になるので、はっきり言って緊張感は薄かった。極夜と白夜では旅の難度が全然ちがって、極夜が本格的な厳冬期剱岳登山だとすれば、白夜は夏の剱岳ハイキングである。わずか一カ月の間にそれぐらい難度は変わる。去年の極夜探検が予想以上に過酷なものとなったので、今年は兎でも獲りながら明るい白夜の氷原をのんびり旅しようと思っていた。狩りを前提にするといっても氷床を越えてツンドラ地帯に入れば兎がいくらでも獲れる。キツイことはまったくする気はなく、兎の肉をがんがん食べて太って帰るぐらいのつもりだった。

 ところが、今年のグリーンランド北部は積雪量が尋常ではなかった。3月にシオラパルクに到着した時点で連日雪がしんしんと降っており、30~40センチの雪が積もっている。3月は雪が降っても大体、大風で飛ばされるのでこれほど新雪が積もっていることはあまりない。なんか雪が多いなぁ、いやな予感がするなぁと思いつつも、でもまあ白夜だし大丈夫だろうと深く考えないまま出発したが、氷床を越えてツンドラ地帯に入ってからとんでもないことになった。ひどい積雪が橇が埋まってまともに引くことができない。橇のランナー材の高さは20センチほどだが、完全に埋まって横げたで雪をかき分けたブルドーザー状態である。途中から荷物を全部載せて引くことができなり、たまたま北部の乱氷対策として用意していたプラスチックの軽い予備橇に荷物を分散し、この予備橇でまずはラッセルして20分ほど進んで、木橇を取りに戻るという尺取虫方式を延々ととらざるをえなかった。尺取虫方式はシオラパルクの先の氷河登りではいつものことだが、その先の海やツンドラでやったのは初めてだ。当然のことながらラッセルして戻ってまた運ぶわけだから通常の三倍の距離を歩かなければならず、全然進まない。うんざりして荷物を全部載せると、しかし橇はびくともしない。ツンドラ地帯は100キロほどだったが、恐るべきことにこのわずかな距離の突破に16日間もの日数を要した。


横げたまで橇は沈みブルドーザー状態。荷物の量はこれで半分

 ただ、獲物という点ではかなりの収穫があった。雪が多いせいか兎のほうはさっぱり姿を見かけなかったが、途中で二度、麝香牛の一団と遭遇。出発前は麝香牛を獲るつもりはなかったのだが、兎が獲れない以上、背に腹は代えられず、というか麝香牛の姿を見た瞬間についつい欣喜雀躍してしまい、それぞれ一頭ずつありがたく頂戴した。これで出発前には40日分しかなかった私と犬の食料は二カ月以上となり、旅に許された時間が一気に延長され、これまで訪れたことない北の地域に進出することができることとなった。

 だが、海に下りてからも雪の多い状態は続いた。海氷は15~30センチの軟雪に覆われ、ずぶずぶと足が沈んで体力がむしり取られていく。ツンドラで見込みより大幅に時間がかかったこともあり、焦っていた私は必死に北を目指して歩き、さらに肉体が消耗していった。麝香牛の肉が手に入ったといってもぎりぎり二カ月強の食料しかなく、40日目を過ぎたあたりから急速に疲労と空腹に苦しむようになり、一日の割り当てよりも多くの肉を消費しはじめた。とてもではないが食わなきゃやってられないのだ。



アゴヒゲアザラシの巨大な穴

 イヌアフィシュアクから海氷を150キロほど北に進んで、ワシントンランドという大地にたどり着いた。地図を見る限りワシントンランドは沿岸ルートと内陸谷ルートが考えられたが、何かで胃袋を満たしたかった私は迷わず兎がとれる可能性の高い内陸谷ルートを選択した。このワシントンランドはそれまでの無風地帯とは異なり、冬は北風が荒れ狂う地のようで、北極というより砂埃舞う中央アジアの沙漠地帯のような景観が広がっている。景観だけではなく実際に砂埃が飛散しており、融雪で水を作ると鍋の底が砂だらけになるという、そんな地である。この谷には中流部と源頭部の二か所で滝のあるゴルジュが立ちはだかり、大きく迂回しなければならず、一筋縄ではいかなかったが、強風地帯なので雪面が固く、ひさしぶりに軽快に橇が引けるようにはなった。しかし期待していた兎の姿は皆無で、麝香牛もまったく見ない。狼のいなければ馴鹿もおらず、時々、狐の足跡が交錯するぐらいだ。ここで兎肉をある程度調達できればさらに旅の時間は延長され、北進の続行が可能となるので、出発前はカナダに渡ることも夢想していたのだが、現実はまったく獲物の姿を見ないままカナダとの海峡に到達、残りの食料と肉体の衰弱ぶりを考えるとそれ以上の北進は断念せざるをえなかった。


タリム盆地のように荒涼としたワシントンランド内陸部の谷


 断念というか、もうこれ以上北に行ったら冗談抜きで死ぬかもしれんからあり得んな、という感じである。何しろ今回はGPSはもとより衛星電話も携帯しておらず、テクノロジー的に脱システムしており、完全に守られていない状況での旅だった。妻子がどうなっているのかもわからない。娘が交通事故に遭っていないか毎日とても心配で、娘が死んだ夢に苛まされるなどしたのだが、客観的に見れば、娘よりお前のほうが心配だろという状況である。

 獲物のとれない内陸部など面白くもなんともないので、帰りは海豹や白熊と遭遇する可能性のある沿岸ルートをたどった。もうこのときになると麝香牛だろうが白熊だろうがアフリカ象だろうがブチハイエナだろうが、人間以外の動物が現れたら即刻射殺して食うつもりだった。途中の定着氷でついに兎を一匹見かけて獲ることができたが、獲物はそれだけである。しかもグリーンランド=カナダ間の海峡は北極海の多年氷が流れ込む北極有数の乱氷帯。とりわけ岬の周辺は巨大な氷がテトラポットのように積み重なり壁となっており、わずかな弱点を見つけては鉄棒で突き崩し、道をつくって突破することを繰り返す。全力で踏ん張って氷の凹凸を超えるので、当然さらに肉体は消耗していった。そして乱氷を超えてふたたび始まる軟雪地獄……。


ぎっしりつまった乱氷帯

 イヌアフィシュアクにもどったのは出発から二カ月近く経ったときだったが、この頃が肉体的には一番きつかった。私も犬も身体に脂肪はまったく残っておらず、身体が筋肉を食いだしている。血糖値が低いのか、歩いていると貧血少女みたいにふらふらして倒れそうになり、このままの状態が続けば餓死するんだろうなということが、極めてスムーズかつリアルに理解できる状態となっていた。毛皮靴底の補修用にもってきた海豹の皮を食べてみるとスルメみたいでとても美味しい。しかしこんなもん食ってたらフランクリンと同じだから、もう少し先だな、などと思ったりする。去年と同じで犬がいるので、最後は犬を食えばいいと分かっているが、あまりに衰弱しているため理屈じゃなくて本能的に餓死の不安が頭から離れないのだ。ここまでの飢餓感をおぼえたのはツアンポー以来だった。


400メートルの垂直の壁。ワシントンランドの屏風岩ことCape Constitution。誰か登りませんか~


 局面が変わったのは、アウンナットの小屋を越えたときだった。定着氷の上にいた狐がわれわれの姿を見て逃げていく。犬は狐に気づいた途端、目の色を変えて橇を引いたまま追いかけだしたが、逃げた狐を獲るのは不可能である。あ~狐食いたかったなぁと思って歩いていくと、その狐のいたところに、何と狼に襲われた麝香牛の死体が転がっているではないか。内臓は食い破られ、後脚の肉はなくなっていたが、前足から背肉にかけてはまるまる残っており、しかも雪の状態からこの二日以内に殺されたものであることが推察され、状態も悪くない。かなり新鮮だ。臭いをかぐと、腐臭はしないものの、この麝香牛は老体だったのか、死を間近に控えた老人みたいに、麝香牛特有のアンモニア臭さを強烈に発しており、思わず吐き気を催したが、十分に犬の餌にはなる。というか犬は歓喜のあまりすでに糞まみれの腸の断片を食いまくり、腹腔に顔を突っ込んで狂ったように顎を動かしている。この死肉を得ることで、私は犬に与える予定だった前半に獲った麝香牛の肉を食うことができるようになり、残りの行程は十分に食えるようになった。

 アウンナットからはイータという地にむかった。ここはアッパリアス(ウミスズメ)や兎、麝香牛、北極岩魚、鴨、狐、狼等々、獲物の豊かなまさに酒池肉林、西方浄土、極北の地に花咲く幻のシャンバラの現実態とも呼べる地で、私は出発前から、最後は食料がなくなるだろうからイータを経由してアッパリアスでも獲って、その肉を食いながら村に戻ろうと考えていた。そのためにアッパリアス捕獲用のたも網を持ち歩いていた。今年は例年に比べてアッパリアスが飛来する時期が遅かったのか、イータに到着したときにはアッパリアスの姿はなかったが、代わりに兎が無数にいたので、十羽ほど捕獲して、干し肉を作ってそれを行動食にし、朝、昼、晩と兎肉を食べながら5月30日に村に帰還した。

 村に戻ったのは75日目。40日の食料で90日間の旅をするのが目標だったので、二週間ほど足りなかったが、今回は疲れ切ってしまい、これが限界だった。正直、この最悪のコンディションでよくここまでやったと思う。距離はちゃんと測ってないが、極夜探検の倍の850キロか900キロほどだろうか。しかしグリーンランド北部の旅の価値を距離で表しても意味はない。カナダ北部や南極なんかとちがい、ここは地形の変化が激しく、アップダウンが連続する上、岩だらけの河原歩きやゴルジュの迂回、激しい乱氷、結氷の不安定な岬など悪場が連続するからだ。今回のルートも往路に氷床を越えて、ワシントンランドの谷を登って、イータに向かう途中にまた氷床に登り、最後にイータからまた氷床に登っているので、述べにして3300メートルほど上り下りしていることになる。うおお、そんな登ってたんか! 今、初めて知った。76キロの体重が村に戻ると62キロになっていたが、そりゃ14キロ痩せるわな。

 この旅にどんな意味をもたせ、そこから何を導き出し、今後にどのようにつなげていくかという旅の核心に触れるところについては、しっかりと作品に中で描いていきたいのでここでは書かない。今回の旅の最大の果実は、餓死の不安を感じるほど極限に近づいたとか、そんなところにあるわけではない。はっきり言ってそのこと自体は私にとってはどうでもいいことだ。どうでもいいことだからブログに書いた。それより大きかったのは旅の途中で、これまでの極夜探検に変わる旅の大きな道筋がはっきりと見渡せたことだ。

 どのような旅をすれば土地と時間というテーマを深化させられるか、そこから何がわかってきそうか。この視点で今後も活動を続けるなら一年や二年では終わらない。たぶん50歳ぐらいまでは腰を据えて取り掛からなければならない解読困難なテーマであるはずだ。しかし、私が考えているようなやり方で旅をしている人間は現代では誰のいないし、もし本当に実現できれば誰もなしえなかった方法で深淵な事実に到達できるんじゃないか。そんなことを思うと私は興奮してきて、よ~し、俺は時代を突き抜けた人間になるぞ~、などと寝袋のなかで固く決意などするほどだったのだ。そのときの気分は「ジョジョ、俺は人間をやめるぞ!」と宣言して石仮面をつけたディオに近いものがあったと思う。
 
 おー、気づくと原稿用紙13枚分にもなっている。こんなの書く力があるんなら、「小説幻冬」の連載に穴開けなくて済んだなぁ。

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『極夜行』発売

2018年02月06日 22時47分12秒 | お知らせ
極夜行
角幡 唯介
文藝春秋


昨年冬の極夜探検をまとめた『極夜行』が発売となります。早いところでは7日から店頭に並ぶそうです。

冬の北極圏の四か月間にものぼる暗黒の極夜を越えて、ついに昇る太陽を見るまでの80日間にわたる探検の記録です。この十年間、現代における新しい探検のかたちをもとめて活動してきましたが、この作品はその総決算という位置づけです。これ以上、探検的な旅はもうできないと思います。それぐらいカオスな世界です。

それに可愛い顔の犬も登場します。



もちろん総決算的旅を記した本なので、外面的にはただ暗くて寒くて憂鬱なだけにすぎない極夜世界のカオス性をどのように表現したら読者に正確に伝わるか、かなり工夫して執筆しました。その試みは、もしかしたら客観的には失敗している可能性もありますが、自分ではかなり成功しているのではないかと評価してます。五日ほど前に見本が届きましたが、自分の作品にもかかわらず、ついつい「おもしれえー」と一気読みしてしまいました。こんなことは初めてのことです。いやいやあれには困った。この事実からも、本作品が自分以外の他者にとってもかなり駆動力のある内容になっているのではないかと推察されます。

『空白の五マイル』とは異なる、地理的探検の世界を突き抜けた異次元の脱システム的世界をご堪能ください。

イベント追加情報。

2月12日に大阪・枚方市の蔦屋書店で『極夜行』のトークイベントあります。詳細は以下です。

【イベント内容】
2月9日(金)に、文藝春秋より新刊『極夜行』を刊行される探検家・角幡唯介氏。
様々な未知の空間を追い求め、常に自身を極限状態に置きながら世界中を旅してきた氏が、冬になると目指した場所が北極でした。そこには、極夜という長い長い漆黒の夜が存在します。場所によっては4ヶ月間も太陽の昇らない、未知の探検。相棒となる一匹の犬を連れての過酷な時間、世界最北の小さな村に暮らす人々との交流、そして4ヶ月振りに目にした太陽に、氏は何を感じたのか―。
準備期間を含め足かけ4年間に渡るプロジェクトの全容を、貴重な極夜の映像も交え、著書に書ききれなかった事まで時にはユーモアたっぷりに語って頂きます。
終わりの見えない暗闇世界や太陽への渇望を、是非枚方 蔦屋書店でご体感ください。

2018年02月12日(月) 50名 
時間 17:30~

場所 蔦屋書店 4F カフェスペース

参加費 1,000円(税込)

申し込み方法 電話予約・web予約

問い合わせ先
枚方 蔦屋書店
http://real.tsite.jp/hirakata/event/2018/01/4-1.html


また以前お知らせした9日の文藝春秋、10日のデサント、13日の新潮社のイベントも空席いっぱいあるようです。あんまり人数が少ないと悲しくてやる気がなくなってトークも乗らず、つまらなくなってしまうので、ぜひご参加ください。

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極地キャンプ中止のお知らせ

2018年01月25日 09時07分16秒 | お知らせ
週末に予定されていた嬬恋での極地キャンプは、草津白根山の噴火により中止となりました。
大変残念なことですが、自然あってのイベントなので仕方がないかと思います。

https://www.muji.net/camp/tsunan/blog/2018/01/2018.html

参加を予定されていた皆様にはご迷惑をおかけします。来年以降、チャンスがあれば次はぜひやりましょう。

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『極夜行』関連イベント情報

2018年01月20日 16時29分30秒 | お知らせ
2月9日の新作『極夜行』に関連してトークイベントがいくつか開かれます。

①角幡唯介が語る「僕と愛犬ウヤミリックの極夜の探検」

あらゆるノンフィクション賞を受賞している探検家の角幡唯介さんの、4年にわたる壮大な旅が完結、単行本となって皆さんにお届けする日が来ました。
角幡さんの人生をかけた新しいテーマは、「極夜」でした。極夜とは、冬の極地における太陽の昇らない長い期間のことです。探検家にとって未知の空間を見つけることが困難となったいま、極夜を数カ月旅することは、まだ誰も成し遂げていない“未知”の部分だったのです。
 角幡さんは、そこに行って太陽を見ない数カ月を過ごした時、自分が何を思い、どのように変化するのを経験したかった。シオラパルクという世界最北の小さな村に暮らす人々に助けてもらいながら準備をし、ひとりで数十キロの橇を引いて探検に出ました。相棒となる犬、ウヤミリックを一匹連れて。
 今回のトークショーは、2014年1月に出会ったウヤミリックとの話がテーマです。しつけに苦労しながらも愛情が芽生え、毎年ウヤミリックと旅をしました。深い愛があっても、非常事態では予想もしなかった感情が角幡さんに芽生えました。本作のキーとなる部分です。ウヤミリックとの旅の映像を見ながら“楽しい”お話をしていただける予定です。

申し込み https://peatix.com/event/343034?lang=ja

日時:2月9日(金) 19時~21時 (18時30分会場)
場所:文藝春秋西館地下ホール
入場料:2000円

当日書籍の販売をいたします。

②探検家・角幡唯介さん『極夜行』刊行記念トークイベント 「80日間の暗黒世界で見たもの、感じたこと」

探検家、ノンフィクション作家・角幡唯介さんが2016年12月から80日間、冬の北極圏で一日中太陽が昇らない暗闇の世界「極夜」を旅した様子を克明に記した最新刊『極夜行』(2月9日発売)の刊行記念トークイベントです。
『空白の五マイル チベット、世界最大のツアンポー峡谷に挑む』ではチベットの前人未到の秘境を単独で調査し、『雪男は向こうからやってきた』ではヒマラヤで雪男を捜索。
『アグルーカの行方 129人全員死亡、フランクリン隊が見た北極』では自らの足で北極1600キロを踏破し、初めて海をテーマにした『漂流』ではマグロ漁船に乗船するなど、これまで常に未知の世界に挑んできた角幡さん。
今回の探検では、足掛け4年を準備に費やし、GPSを持たず、一匹の犬を相棒に雪と氷に閉ざされた暗黒世界へ踏み出しました。アクシデントが続き、命の危険も迫る80日間の極夜探検のなかで、角幡さんは何を見て、どんなことを感じていたのでしょうか。
本に書かれなかったエピソードに加えて、これまでの探検との違いとはなにか、探検を終えて1年が経ち自身はどう変容したのか、次の目的地はもう決まっているのかなどなどを伺います。角幡ファン必見の90分!

<日時>
2018年2月10日(土)17:00~18:30(16時30分開場)
<入場料>
1,000円(前売券)
1,200円(当日券)
※当日券は会場にて販売いたします。前売券が完売の場合は、立見席でのご案内が可能です。ただし、立見席も数に限りがございますので事前にご確認ください。

<会場>
DESCENTE SHOP TOKYO BOOKS
※会場にお手洗いはございませんので、ご了承ください。

申し込み http://www.descente.jp/shoptokyo/event96/

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極地キャンプ

2018年01月20日 09時52分26秒 | お知らせ
急な話ですが、次の週末にこのようなイベントがあります。もし興味のある方がいれば。今のところの参加者は8人しかいないようで、密着型のイベントになりそうです。
ちなみにイグルーはこの五年ぐらい作ってないので、上手に作れる自信はありません。

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標高1,300mに位置する真冬のカンパーニャ嬬恋キャンプ場(群馬県嬬恋村)は、関東でも限りなく北極の環境に近い場所でもある。2018年1月下旬の真っ白で切り裂くほどの寒気の中、北極圏を疑似体験するキャンプイベントを今年も開催します。

最低気温が、-20℃になる日もある冬のカンパーニャ嬬恋キャンプ場。
ここはまるで北極圏にいるかのような空気も凍る寒さと深雪の白銀の世界があります。
つまり、北極圏の疑似体験ができるキャンプ場で体感したことがないほどの寒さをいかに楽しむかをテーマにした「極地冒険キャンプ」。
今年は、以前このイベントにお招きした荻田氏とともに2011年、北極史最大の謎と呼ばれる英国フランクリン隊の足跡をたどる冒険に挑んだ、ノンフィクショ作家で探検家の角幡唯介(かくはた ゆうすけ)氏をお迎えします。

角幡氏は、2016年冬から2017年春に掛け、北極圏グリーンランドにある、シオラパルク(北緯77度47分)という、住民が暮らす集落として、世界最北の小さな猟師村から出発した、たった一人、相棒(犬)ウヤミリックとともに、80日間にも及ぶ「一人極夜の旅」(日中でも太陽が沈んだ状態が続く現象)に挑んでいます。

何を求め、この最果ての地から旅を始めたのか?
「私が北の最果てに来たのは、この約200年前のイヌイットの男が見ていたような本物の太陽や本物の月を見たかったからだった。」
引用:文春オンライン「私は太陽を見た」http://bunshun.jp/category/into-the-polar-night

さまざまな冒険に挑む角幡氏は、何を思い、何を感じているのか?
角幡氏が直近に挑んだ「一人極夜の旅」のお話しを中心に、凍てつく厳冬期のカンパーニャ嬬恋キャンプ場で北極圏を体験します。

日中は、バラギ湖にビッシリと張った氷を切り出し、イグルーつくりにチャレンジします。
夜はもちろんギンギンの氷上にテント泊です。イグルーの出来次第では、イグルー泊も可能!

「極地冒険キャンプ 2018」概要
開催日:
2018年1月27日(土)-1月28日(日)
開催時間:
13時~開場(テント設営可能) 14時イベント開催
場所:
無印良品カンパーニャ嬬恋キャンプ場 群馬県吾妻郡嬬恋村バラギ高原(キャンプ場までの所要時間)
参加費:
15,000円(消費税込)
※現地にてお支払ください。
参加資格:
どなたでも(極寒氷上でのテント泊になりますので、装備・経験されている方)
参加方法:
インターネット、お電話にてご予約承ります。
※ご予約には事前にユーザー登録が必要です。
インターネット https://www.muji.net/camp/user/
電話(MUJIアウトドアネットワーク)03-5950-3660
(月~金10時-17時、祝祭日除く)
予約開始:
2018年1月5日(金) 10時~
持ち物:
しっかりとした防寒着、極寒雪中キャンプ可能な装備
募集人数:
35名程度
ゲスト:
ノンフィクション作家・探検家 角幡 唯介(かくはた ゆうすけ)氏
1月27日(土)

10時:
イグルーつくり準備(有志募集)
※昼食まかない付
13時:
キャンプ場集合 各自テント設営(バラギ湖氷上に設営)
14時:
角幡氏の北極冒険の話しを聞きながら、イグルーつくり
17時:
各自風呂(近隣の温泉施設を利用)
※ココからは、センターハウス
18時:
夕食 北極メシ&鍋
19時:
角幡氏の映像&トーク
22時:
氷上で「極夜体験」&「天体望遠鏡で心ゆくまで星空観察」
24時:
各自テントにて就寝
1月28日(日)
5時:
朝焼け確認(全員で、寒い~って言う)
※2度寝
7時:
朝食 北極モーニング
8時:
イグルーつくりの続き、氷上アイスフィッシング
※自由に遊びます
12時:
各自撤収して終了

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極夜探検の映像

2017年12月16日 12時53分45秒 | 探検・冒険
極夜探検の映像。
出発地点の村シオラパルクまで同行した亀川ディレクターから送られきました。
単行本『極夜行』は2月9日発売です。

極夜の探検

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極夜脱稿

2017年11月24日 22時46分09秒 | 雑記
極夜原稿をついに脱稿した。長かった。4月ぐらいから断続的に執筆して半年ほどかかったことになる。本当は9月ぐらいに書き終わる予定だったのに、引っ越しもあったし、冒険論の新書原稿もあったし、9、10、11月とまったく山にいけなかった。

極夜の探検は私にとっては4年間の準備期間をかけた一生に一度の旅で、旅の間も星や闇や月や太陽にかんするさまざまな考察や発見が目まぐるしく展開されて、もうこんな旅、一生無理でしょというぐらい内容の濃いものだった。難しかったのは、この話をいかに説得力あるかたちでまとめるかということ。闇の世界をぬけて最後に太陽を見るという旅だから、基本的にはヒエロファニーの話なんだが、ヒエロファニーをあまり真面目に描くと崇高になってしまい、ノンフィクションとしては説得力がなくなるので、けっこうふざけた表現とか、描写などをまじえて崇高じゃない話になるよう努力した。そのため昔の恥ずかしいエピソードなでも交えて闇の世界の事実を伝えようとした。

まあ、自分の恥部をさらけ出すことは大好きなので、このへんは非常に楽しんで書けたが。

個人的には自分が経験した暗黒世界をかなり忠実に文章化できた手ごたえはある。この本を読めば極夜探検をかなりリアルに追体験できると思う。

タイトルは『極夜行』に決定。東野圭吾の『白夜行』が有名なので、これはやめようかなと思っていたが、やはりシンプルなほうが人口に膾炙しやすいし、旅の内容にも合っているので決めた。発売は文芸春秋から2月9日予定。

ちなみに、早くもパブリシティが一件決まっており、2月に新潮のラカグで写真家中村征夫さんと対談の予定がある。これはどっちかといえば私の本ではなく、中村さんのほうのパブリシティ。というのも、なんと中村さん、40年前に冬のシオラパルクに滞在し、そのときの作品をまとめた『極夜』という写真集を刊行するのだという(アマゾンを見ると12月26日発売予定)。

極夜の本なんて、たぶん何十年に一冊しか出ないと思うが、それが二冊も同時に刊行される。恐ろしい偶然である。こんなこと、普通あるだろうか? 奇跡といってさしつかえないだろう。

それにしても40年前のシオラパルクの話を聞けるとは、今から非常に楽しみだ。

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特にないんですが、なんとなく

2017年10月20日 21時59分31秒 | 雑記
珍しくブログ経由で三発もメッセージが届いた。ツイッターをはじめたら、便所の落書きみたいな感覚でどうでもいい短文をがんがん書けるので、そっちで気晴らしになってしまい、ブログの存在をすっかり忘れてしまっていた。しかし、久しぶりにブログを見たら、何となく股間をいじる感覚でツイッターを始めたみたいな内容の記事がトップで、こんな記事がずっと頭を飾っていたのかと思うと、急に恥ずかしくなってしまい、特にかくことは無いんですが、トップの記事を変えるために適当になんか書きはじめた次第です。

エッセイっぽいの書けるネタはあるのだが、ビーパルの連載で書かなきゃいけないし、集英社の惑星巡礼というフォトエッセイの連載もあるし、なかなかブログで書けなくなってしまっています。

うーん、そうですな。近況報告としては、今は一月に発行予定の『冒険論(仮称)』という新書の原稿を書いています。内容は脱システムという私のここ数年の冒険についての思想を全面展開したもの。はじめにとおわりに以外の本章は、概ね書き終えたが、自分的には現段階で書きたいことは書けたかなという手応えはある。冒険に関してこれほど深く本質的な議論はこれまでなかったし、今後もないだろうから、興味のある人は読んでください。まだだいぶ先の話ですが。

あと極夜関係ですが、10月末から文春オンラインで連載はじまります。タイトルは「私は太陽を見た」。ただ、単行本との差異化をはかるため、ネットの原稿は単行本の半分程度です。内容的にも、行動の経緯がほとんどで、探検中の感慨や考察や発見等々の、私が面白いかな~と思っている部分はすべて省いてます。だから、最初から完成形を読みたい人は二月発刊予定の単行本を待ったほうがいいかもしれません。

ただ、文春オンラインのほうは探検中の動画や写真などが充実しているので、そっちを見るというのもありかもしれません。個人的にはネット原稿は完成版から面白い部分を全部削っているものなので、なんかなぁ~という感じです。それでも300枚もあるんですが。300枚の原稿をネット上で読む人がいるのかは、不明ですな。

ちなみにツイッターはやってる。面白い記事とか、自分の本を褒めてくれている人のツイートとか、がんがんリツイートしてもりあがっている雰囲気にしようと思っていたけど、全然できてないです。ただ、なんとなく思いついた便所の落書きレベルのくだらないことをひたすらつぶやいているだけですが、面白いですって言ってくれる人も二人ぐらいいました。

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ツイッター

2017年09月01日 17時13分15秒 | 雑記
最近、ツイッターをはじめようか悩んでいた。他の作家のツイッターを見ていると、他人がつぶやいた本の感想をリツイートしまくることで、その本が何となくもりあがっているように見えて羨ましかったからである。もしかしたら盛り上がりというのは、自分から仕掛けるものなのかもしれない。でも、こういうのは一度始めると時間をとられそうで、それが面倒くさい。ただでさえ子供ができて本を読む時間がないのに、さらに読めなくなりそうだ。というわけで中々、踏み出せないでいた。

さっき原稿執筆の集中力が途絶えたので、ツイッターのサイトを開き、何となくアカウント作製の画面をいじりはじめた。別に、はじめるぞ、という気はなかったのだが、本当に何となく、ユーザー名とか書きはじめた。何となくポコチンをいじりはじめるときがあるが、それと同じような中動態的な感覚である。ところが一度いじりはじめると、あれよあれよという間に簡単にアカウントは作成されてしまった。でも、まだアカウントを閉じてしまえば簡単にやめることができる。始める決心がつかず、どうしようかな~と迷っていると、いきなりフォロワーが一人ついた。なんなんだ、この人は……。 

と、このブログの記事を書いている間にも、二人目、三人目とどんどん増えていく。どうしよう……。

私はこの人たちのためにもツイッターを始めるべきなのだろうか。

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日高山脈地図無し登山

2017年08月31日 06時26分03秒 | クライミング
今年夏の最大の企画だった日高山脈地図無し登山を8月13日から23日におこなった。11日間の山旅はそれなりにきつかった。肉体的に、というより精神的に。

私は昔から地図無しで山に登ったらどんな世界が開けるのか興味があった。地図はメディアの代表的なものであり、われわれは地図を見て空間を想像し、その事前情報をもとに山に登る。しかし、地図を持つことによって、山の概要は事前に把握され、それが山そのものがもつ迫力を失わせているのではないかという疑問があった。地図がなければ山は、情報に置かされていない、そこにある山そのものとして、たぶん私の前に姿を現す。その無垢な、侵されていない山を見たとき、私はどう感じるのだろう、という感じだ。

たぶん地図をもたないと、目の前に開ける風景に驚き、感動したりするだろう。そして特徴的な地形の場所に名前をつけたりするはずだ。土地に名前をつけると、その土地には聖性が宿り、ホーリープレイスに変わる、たぶん。地図をもたずに山に登ることで、私はアニミズム発生の原初の記憶を追体験できるのではないかという期待があった。そのためにうってつけの場所は日高しかない。なぜなら日高は山が奥深く、原始的環境をのこしている(と思われるうえ)、私は日高山脈についての概念をまったくもっておらず、山の名前すらまったく知らないからだ。完全に事前情報なしである。

この計画を実現するのにかなり苦労させられた。なにしろ事前に情報を得て、概念が頭のなかに入ってしまうとすべては無駄になる。地図を見るときも日高周辺には目がいかないように注意し、登山記録が視界に入るのも意識的に避けてきた。

しかし、実際にやってみたら、そこまではいかなかったなぁ。正直、今は徒労感というか、企画倒れ感が強い。想像していたような驚きや発見より、次々と現れる発電ダムや林道にかなりうんざりした。途中でピラミッド状の山が三つならぶ河原に出たときは、おお、すごい、ここはまるで王家の谷だと感動したが、登山中は雨ばかりで天気が悪く、また谷自体が険しくて、先の見えないずぶ濡れ藪漕ぎを散々させられて疲れてしまったということもあったと思う。

いやー皆さん、山はね、地図を持ったほうがいいですよ。

それでも八日後に主稜線に出て、こういうかっこいい山に登れた。まだ地図を見てないので、私のなかでこの山はまだメンカウラー岳という、私だけの名前で呼ばれている。



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書評とかホサナとかメコン&地平線会議で極夜報告会

2017年07月13日 20時34分28秒 | 雑記
探検家の日々本本 (幻冬舎文庫)
角幡 唯介
幻冬舎


『探検家の日々本本』の文庫本が出たので、たまにブックレビューのサイトなどをのぞいたりすると、概ね好評なので嬉しい。ただちょっと気になることがあった。この本を褒めてくれる人はだいたい、「読みたい本が増えた」という感想を書いてくれる人が多い。たとえばブックメーターに書いてあった次のような感想。「文章がうまいので、紹介されている本をほとんど読みたくなってしまう」。これって、うれしいのだが、よく考えるとちょっと変じゃないだろうか。文章がうまいのなら、紹介した本ではなく、私の本を読みたくなるのが普通だと思うのだが……。この本の感想はだいたいこんな感じで、面白かったので角幡さんの他の本を読んでみようというのは見たことがない。なぜだろう。

最近、単発の書評や文庫本のオビの宣伝文句の依頼が立て続けにはいったが、書評というのはそういう意味で難しい。書評を書くときは、正直あまり面白くなかった本でも、いかに面白く書くかが腕の見せどころなのでつい面白く書いてしまう。しかしあまり面白く書いてしまうと、今度はその本を読んだ人から、書評が面白かったから読んだけど本自体はあまり面白くなかったなどと言われる。

ということで書評を読む人には次のことに気をつけてもらいたい。書評を読んで面白いと思ったときは、紹介されている本より、紹介している人の本のほうが面白い確率が高いので、評者の本を買いましょう。

ということで、『探検家の日々本本』&それ以外の私の著作。よろしく。

ホサナ
町田 康
講談社


書評のことで思い出したが、町田康『ホサナ』がとんでもなく面白かった。ものすごく字の小さな700Pだが、立て続けに二回読破した。『告白』とならぶ傑作、かつ、ここ数年で読んだ小説では断トツのナンバー1。

中央公論から単発書評の依頼があり紹介したが、あんな短い原稿では到底この本の魅力は語れないので、先日この作品に登場する重要なキャラクターであるひょっとこを切り口にブログで作品を詳細に論評してみようかと思い書きはじめたが、このまま書き進めると原稿用紙30枚以上になりそうで、そんな時間は到底なく断念した。

紹介したいのに紹介できないという、この不条理。まったく町田康の小説と同じだ。とにかくこんな小説を読んでしまうと、ほかの小説を読む気がしない。何作か手に取って読みはじめたが、物足りなくてすぐに放り出してしまった。

アマゾンでは酷評されているが、この本を評価できないなんてどういうことだろう。アマゾンのレビューなんて全然気にしなくていいことが分かり、そういう意味でも励みになる作品だ。



あと私が畏敬する東京農大探検部OBである北村昌之さんの『メコンを下る』。これも面白かった。94年から足掛け11年にわたり、メコンの源頭から河口まで下った一大探検記だ。メコン川の源頭を突き止めるという19世紀の英国の探検家がやっていたのと同じようなレベルの地理的探検を1994年にやったというから、びっくり仰天である。いったいこの人たちは何を考えているのだろう。

北村さんとは学生時代からの知り合いで、メコンの話はちょくちょく聞いていたが、この本を読んで詳細を初めて知った。実直で丁寧、正確でありながらユーモアたっぷりの文体も素晴らしい。酒席での豪放な人柄から、もっと乱暴な本かと思っていたが、全然ちがった。チベット域内の冒険的激流下りのパートもはらはらするが、個人的に一番面白かったのはラオスの竹筏漂流の話だろうか。情景描写や流域の人々とのふれあいもリアリティーがあり、一緒にメコンを下っている気分になれる。なんだか無人の北極を離れて人間くさいアジアに行きたくなった。

唯一の欠点は5500円という価格だろうか。ハナから売るつもりがないとしか思えない価格設定である。

ちなみに私が2002~03年にツアンポー探検をしたときの食料は、じつは北村さんらのメコン遠征で余ったものをもらったものだった。本当は『空白の五マイル』で謝辞を書くべきだったが、うっかりしていた。今更ながら、どうもありがとうございます。

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さて7月28日に地平線会議で極夜の探検の報告会を開きます。
内容は文春と名古屋の報告会と同じ、動画を見せながら旅の模様を話すというものになります。見逃した方はぜひご参加を。

場所は新宿区スポーツセンター。予約不要。500円。地平線会議のHPに後日詳細が出ると思います。
http://www.chiheisen.net/


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吉田勝次さんとのトークイベント「『地球探検』大放談!」

2017年06月14日 21時31分02秒 | お知らせ
『洞窟ばか』の著者で、クレイジージャーニーの出演などでおなじみの探検家吉田勝次さんとのトークイベントが新潮社ラカグであります。

このブログでもすこし紹介しましたが、吉田さんとは旧知の仲。その昔、新聞記者時代に富山支局在任中、吉田さんが黒部峡谷の洞窟探査にやってきて、その同行取材をさせてもらったことがあります。これまでに私は人生で何人か、決して忘れることのできない強烈なキャラクターの人物にあってきました。たとえば大学卒業後に参加したニューギニア遠征隊の藤原さん、あるいはシオラパルクの大島さん。吉田さんもその一人で、たった一度の邂逅ではありましたが、そのときの映像がガンコな油汚れみたいに今も頭の端っこのほうにこびりついて離れません。

フィールドは異なりますが、同じ探検家同士、地球の未知の魅力を語り合いたいと思います。一応、吉田さんの本の刊行記念なので、私のほうが聞き役的な感じかな~と想像してます。

7月5日午後7時~8時半。2000円。サインもあります。

イベント詳細とチケット販売はこちら。https://passmarket.yahoo.co.jp/event/show/detail/01ra1xyxakbn.html

以下、上記サイトからコピペしたイベント詳細です。

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2017/7/5(水) 19:00~2017/7/5(水) 20:30
イベント受付開始時間 2017/7/5(水) 18:30~
la kagu(ラカグ)2F レクチャースペースsoko


国内外で1000を越える洞窟に挑んできた洞窟探検家の吉田勝次さん。初めて洞窟に入ったのは28歳のとき。完全な暗闇と洞窟が持つ強烈なパワーに圧倒され、「自分がやりたかったのはこれだ!!」と、洞窟の魅力にとりつかれてしまったといいます。
 その後、未踏の洞窟を発見しては挑む「洞窟病」は重症化の一途をたどり、A4サイズの隙間があれば体を押し込み、ロープ1本で400メートルの縦穴を下る……。何度も死にそうな目に遭いながらも奮闘する姿は、TBSテレビ「クレイジージャーニー」などでも取り上げられ、観る者を驚かせています。

 そんな吉田さんと対するのは、探検家かつノンフィクション作家の角幡唯介さん。チベットのツァンポー峡谷の奥地で何度も死にかけ、雪男を探すためヒマラヤ山中に60日間潜み、あるいは凍傷にかかりながら北極圏を走破するといった壮絶な体験を綴った数々の作品で、大宅賞をはじめ、数々の文学賞を受賞されています。

 常人には理解できない境地へと向かっていく吉田さんと角幡さん。いったい何が、二人を駆り立てるのでしょうか。モチベーションから探検テーマの決め方、絶対絶命のピンチから生還できた理由、はたまた大きな声では明かせない話まで、大いに語っていただきます。



※トーク終了後に吉田勝次さんの『洞窟ばか』、角幡唯介さんの著書へのサイン会を開催いたします。書籍は会場でも販売いたします。なお時間の都合上、書籍は1著者につき1冊とさせていただきます。

※ご購入いただいたチケットは理由の如何を問わず、取替・変更・キャンセルはできません。ご了承ください。

※開場は開演の30分前です。



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プロフィール
吉田勝次(よしだ・かつじ)
1966年、大阪府生まれ。洞窟探検家。(有)勝建代表取締役、(社)日本ケイビング連盟会長。洞窟のプロガイドとして、テレビ番組での洞窟撮影、学術調査、研究機関からのサンプリング依頼、洞窟ガイド育成など、洞窟に関わるすべてを請け負う。洞窟をガイドする事業「地球探検社」、洞窟探検チーム「JET」、洞窟探検プロガイドチーム「CiaO!」主宰。

角幡唯介(かくはた・ゆうすけ)
1976年、北海道生まれ。ノンフィクション作家、探検家。早稲田大学探検部OB、元朝日新聞記者。著書に『空白の五マイル』『雪男は向こうからやって来た』『アグルーカの行方』『探検家、36歳の憂鬱』『探検家の日々本本』『旅人の表現術』など。近著『漂流』は自身の体験ではなく沖縄の猟師の人生を追い、新たな境地を開く。






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官房長官会見に期待すること

2017年06月12日 02時53分14秒 | 安倍批判
加計学園問題で文部科学省が文書の再調査をすることを発表した。最近のテレビ報道なんかでは、菅の官房長官会見で鋭い質問をする記者が現れて答弁に矛盾やほころび、動揺がみられる様子を何度かみた。「その指摘はあたらない」みたいな、いわゆる〈菅話法〉といわれる木で鼻を括ったような態度で議論をシャットアウトして、まったく質問にまともに答えてこようとしなかった官房長官菅だが、最近のこういう鋭い質問にたじろぐ姿をみていると、やはり官房長官会見という公の場での記者の質問は重要であり、公の場で権力者を追及してその欺瞞を明らかにすることが記者の責任なんだということを改めて実感する。

個人的に安倍政権の一番怖いところは、自分たちの都合のいいように言葉を勝手に解釈して、議論を封じ込めてしまう点だと思う。社会は言葉からなっている。法律だって言葉の羅列だし、政治家だって公の場で言葉を発して、その言葉を守ることではじめて、民衆との間に信頼関係を構築することができる。失言した政治家が追及をうけるのは、このような信頼できない言葉を発する政治家に国民の代表者たる資格があるのか、その正統性が疑われるためだ。

しかし安倍政権はこの言葉をことのほか軽視している。安保法制しかり、共謀罪法案しかり。「そもそも」という言葉に「基本的な」という意味があると国会の場で答弁して、そのような意味はないといろいろ追及されて、こまった挙句、「そもそも」の言葉の意味を閣議決定して、なかった言葉の意味を勝手にあることにしてしまうような態度を見ていると、お前らは神かと突っ込みたくなる。言葉は社会や人間関係を構築しているベースであるわけで、その言葉そのものを勝手に解釈できたり意味を変更できたりするなら、それまでわれわれの社会で普通に使われてきた言葉の意味が通用しなくなるということであり、逆にいえば、これまでの意味や慣習を無視して自分の都合のいい世界を構築できるということだ。安倍政権が独裁的なのは、このように言葉を軽々しく扱うからである。

政治家は信頼に値する言葉を発して国民と約束することで、はじめて職務を遂行できるわけだが、このようにひたする言葉を軽視する態度に出てしまうと、もう何を言っても信用できない。共謀罪で一般人は対象とならないと言われても、どうせ適当に解釈変更するんだろと思うし、今村復興大臣が失言で辞任したときに安倍が「任命責任は私にあります」と、いかにもカッコいい感じで言っておきながら、具体的に何の行動も起こさなかったときなんかのことを思い起こしても、お前の言葉には何の内実もないと思ってしまう。だからこういう人たちがどんな主張をしても全然信用することができないし、このように信頼できない人たちが政権を担っているのは国民の不幸以外の何物でもない。

で、話は加計問題にもどるわけだが、文部省が再調査したら文書は見つかるだろうとみられている。これまでの経緯をみていると、まあ出てくるんだろうなと誰もが思うし、そのうえで出てきた文書の中身は信頼に値しないみたいな結論を出すんだろうな、出来レースで行く気なんだなと思う。

それに対抗するには、やはり彼らの言葉の正統性を突っこむ以外、方法はないのではないか。菅はたぶんまた「菅語法」を炸裂させて、議論を封じ込めようとする。しかし、この人は最初、文書を「怪文書」「出所不明」とまで断言していた。今では戦略が失敗したと反省したのか、文部省の問題に矮小化しようとしているが、しかし彼が言った言葉は変えられない。もし彼が怪文書とまで断言していた文書が実際に見つかり、前川次官が正しかったことが証明されれば、当然、国民は菅の発言というのは信頼に値するものではないのではないかという印象をもつ。なぜ官房長官ともあろう立場の人が、怪文書とまで断言できたのか。それはあることをなかったことにしようとする、まさにそういうことではなかったか。そうした彼の言葉の正統性を官房長官会見という超公の場で汽車がガンガン突っこめば、菅だってたじろぎ、気色ばみ、言葉につまる場面も出てくるだろう。取材なんて警察の取り調べと似たようなもので、細かいところをついて矛盾点を明らかにするのが基本だから、彼の言葉の矛盾点をつけば、どこかで化けの皮がはがれてボロがでる。それがテレビで放映されて、彼らの正体が国民の前にさらされる。さすがに、お前らいい加減にしろよと皆思いはじめて支持率がさがって、支持率頼みだった安倍があのときみたいにまた顔面蒼白になって退陣する。

私も記者をやっていたのでよくわかるが、日本の記者は当局に食いこんで情報とることばかり考えているので、公の記者会見を軽視する傾向がある。公の場では大人しくしていて、会見が終わった後にこそこそっ裏から近づいて、自分が本当に聞きたい質問をする。しかし権力監視という点ではこんなことやっても全然意味がない。やはり国民が注視している公の会見の場で、厳しい質問をくりだし、追及して、彼らの言葉に矛盾点がないか監視するのが記者の重要な責務だ。「その指摘はあたらない」みたいなこと言われて、自分がバカにされていることにも気づかず、大人しく、それが大人の態度だ、みたいにシーンと静まり返る記者に存在価値などない。

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『探検家の日々本本』文庫本発売

2017年06月06日 21時12分53秒 | お知らせ
探検家の日々本本 (幻冬舎文庫)
角幡 唯介
幻冬舎



あの毎日出版文化賞書評賞受賞、一気読み必至の読書エッセイ『探検家の日々本本』の文庫本が6月9日より発売となります。カバーデザインが一新。2012年正月、集英社が朝日新聞の元旦紙面にうつ宣伝広告のために撮影した写真を、今回、幻冬舎の文庫本の表紙に使いました。現場は極夜のカナダ・ケンブリッジベイで、毎日、氷点下三十度前後の寒さだったため、セルフで二、三枚とるとすぐにバッテリーがあがってしまい、非常に苦労して撮った写真です。

私のほかの本は読んでいるけど、この本は読んでいないという方も多いでしょう。そういう方はおそらくこの本のことを、私が本を読み、その本について論評した本だと誤解されているのでしょう。しかしこの本はじつは書評本ではありません。私が読んだ本をネタに、自分のことや頭のなかのこと、あるいは冒険や探検の真髄等々を語った、要するにエッセイなのです。その意味では毎日出版文化賞書評賞の選考委員の方々は、なにか大きな勘違いをされたのかもしれません。

実際、毎日出版文化賞書評賞を受賞したと連絡を受けたときは、自分自身、え、なぜ? と思いました。自分としては結構いい出来だと思っていたので、もしかしたら賞をもらえるかもとは思っていましたが、想定していたのは講談社エッセイ賞でした。それが書評賞。でもラッキーとも思いました。

今回の極夜探検でシオラパルクまで同行したフリーのTVディレクター亀川氏は、私の本のなかで一番奥が深いのがこの本だとまで言ってました。私としては、自分の本のなかで一番深いのは『漂流』だと思っていたので、亀川氏の寸評を聞き「この人は本当にわかってないな」とちょっとムカッときましたが、しかし、まあ、それもアリでしょう。

いずれにしても面白いこと請け合いです。ちなみにごく一部の加筆修正をのぞき、単行本から中身はほぼ変わってません。

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講演等のお知らせ

2017年05月26日 18時19分29秒 | お知らせ
6月、7月の講演会のお知らせです。めちゃくちゃあります。ヤバイです。忙しいです。原稿書けないです。山には行きます。

●6月10日に金沢市で中日新聞の夏山の集いで、山登りについて講演します。40分と短い講演なので、探検の話ではなく、国内登山の魅力について話そうと思います。

白馬連峰夏山相談会と2017中日夏山のつどい
開催日 2017年6月10日(土)
場所 石川県文教会館(金沢市尾山町10-5)

白馬連峰夏山相談会 13:00~18:00
 北アルプスの白馬への登山の楽しみ方、装備、注意点、各山小屋の紹介、登山ルートの案内について、現地の山小屋スタッフや観光局の局員が対面にてご相談に応じます。

2017中日夏山のつどい 18:00~(17:30開場、20:45終了予定)
 今年は講師に冒険家にして作家、角幡唯介さんを迎え、山登りの魅力について語って頂きます。また、豪華景品が当たるお楽しみ抽選会や白馬岳の魅力を伝える映画も放映予定。

 問い合わせ 北陸中日新聞広告部=(電)076(233)4640
 http://www.chunichi.co.jp/hokuriku/article/event/ZZ2017051901008989.html

●6月11日 東京・代々木で国立登山研修所の創立50周年イベントで「極夜の探検と冒険の可能性」と題して講演します。ヤマテンの猪熊さんも山の天気について講演されるようです。予約不要。

国立国立オリンピック記念青少年センター417号室 入場無料 250名様
開場12:30 開演13:00 終了16:30
http://www.tozanken-tomonokai.com/pg30.html

●6月13日 名古屋で極夜の探検についての報告会を開催します。先日、文春で開いた報告会とほぼ同じ内容です。

角幡唯介イベント
日時:2017年6月13日(火)19 :00 〜20:30(開場18:30)
会場:ウインクあいち 愛知産業労働センター9階 907号室(名古屋駅より徒歩5分)
定員:40名(要予約)
参加費:2,000円

予約方法
氏名、電話番号、参加人数を、noboruhito.peoplewhoclimb@gmail.com にメールでお送りください。
http://www.a-kimama.com/culture/2017/05/68491/

ちなみに極夜探検については7月か8月に地平線会議でも報告することになりそうです。

あと7月5日に、あの『洞窟ばか』の吉田勝次さんと新潮社ラカグでトークショーやります。名付けて「地球探検大放談」。何話すか不明です。詳しくはまた後日。











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