2℃が限界?! 地球温暖化の最新情報

環境NGOのCASAが、「2℃」をキーワードに、地球温暖化に関する最新情報や役立つ情報を、随時アップしていきます。

国際交渉を学ぼう

2009-10-22 13:10:58 | 地球温暖化交渉の基礎知識
■ 地球温暖化問題の国際交渉を学ぼう

  「国連気候変動枠組条約 」(以後、「条約」といいます)は、地球温暖化を防止するために1992年に合意された多国間の国際条約です。世界各国はこの条約の内容に基づいて共に協力し合い、危険な温暖化を食い止めようとしています。この条約に関しては、条約の加盟国による締約国会議(COP)が毎年開催され、議論をしています。
 1997年には、京都で開催されたCOP3で、先進国の具体的な削減目標を決めた京都議定書が合意されました。京都議定書では2008~2012年(第1約束期間)の温室効果ガス削減に関する枠組みは決まっていますが、2013年以降の枠組みに関しては決まっていません。
 今年(2009年)12月にデンマークのコペンハーゲンで開催されるCOP15で、2013年以降の削減目標と制度枠組みに合意することになっています。そのため、COP15は極めて重要な会議になっています。COP15での合意内容が人類の未来を左右すると言っても過言ではありません。
 温暖化の国際交渉について関心をもち、地球市民として、市民の立場から活動することは、地球温暖化の影響をもっとも強く受ける次世代に対する、私たちの責務ではないでしょうか。
 この「地球温暖化交渉の基礎知識」は、地球温暖化問題の国際交渉に関心を持つ地球市民がさらに増えることを願って作成したものです。わかり易い言葉を使うように心がけ、温暖化問題の国際交渉の初心者にも理解できる内容にしたつもりです。多くの方々にご活用いただければ幸いです。

■地球温暖化問題の国際交渉とは?

 地球温暖化防止の国際的な協調行動については、様々なところで話し合いが行われています。しかしもっとも基本的な話し合いの場は、条約の締約国会議(COP)と京都議定書の締約国会合(CMP※1)です。COP とCMPとの大きな違いは、アメリカは条約には参加しているのでCOP のメンバーですが、京都議定書には参加していないためCMPの正式のメンバーではないことです。
条約の下にはCOPでの議論のために、「科学上及び技術上の助言に関する補助機関(SBSTA)」と、「実施に関する補助機関(SBI)」の2つの補助機関が置かれています。
 また時々の交渉テーマに応じて、交渉のための特別作業部会が設置されます。京都議定書の合意に向けては「ベルリンマンデート特別会合(AGBM)」が8回開催されました。
 現在は、2013年以降の削減目標と制度枠組みの議論が、条約と議定書の下に2つの特別作業部会(AWG)で行われています。
条約の下のAWGは「条約の下での長期的協力の行動のための特別作業部会(AWG-LCA)」と言われ、条約の長期にわたる効果的で持続的な協力行動の議論を行っています。ここでの最大の論点は、世界全体の長期目標(2050年)と主要な途上国の取り組みです。
 議定書の下のAWGは「附属書Ⅰ国の更なる約束に関する特別作業部会(AWG-KP)」 と言われ、2013年以降の先進国の削減目標の検討が主な論点です。


COP13の会場付近

☞ COPやCMP以外の国際交渉

 COPやCMP以外の国際交渉には、多国間や二国間で行うものがあります。そのうち先進国首脳会議(G8サミット)は、世界で最も影響力があると言われる先進国のトップ(首脳)が集まり、その時の地球上で最も重要とされている問題について話し合いをする場です。地球温暖化問題は、2005年にイギリスで行われた「グレンイーグルズサミット」から主要な議題として取り上げられ、2008年に日本で行われた洞爺湖サミットでは大きな注目を集めました。G8サミットで出される宣言は、COPでの合意を促進させる上で重要なものとなっています。また当然ながら国連自体も重要な場です。2009年9月22日には、潘基文事務総長のリーダーシップで、国連で気候変動サミットが開催され、この場で鳩山首相が25%削減の日本の中期目標を発表したことは記憶に新しいと思います。
 その他COPの合意を方向づけるものとして、クリーン開発と気候に関するアジア太平洋パートナーシップ(APP)があります。これは、合計すると世界の経済・人口・エネルギー使用の半分以上を占めるオーストラリア、カナダ、中国、インド、日本、韓国、米国のアジア太平洋主要7カ国が集い、地球温暖化に関する問題に一緒に取り組むための協働体です。
また、主要経済国フォーラム(MEF )やアジア太平洋経済協力機構(APEC)などの場でも地球温暖化が取り上げられ、その宣言や決定もCOPに影響を与えています。

☞ COP15(次期枠組みの構築)に向けた2009年の国際交渉スケジュール
  
 3月  AWG-LCA5、AWG-KP7(ドイツ)  
 4月  主要経済国フォーラム(MEF※2)(アメリカ) 
 6月  AWG-LCA6,AWG-KP8(ドイツ)  
 7月  ラクイラG8サミット/主要経済国フォーラム(MEF)(イタリア)
 8月   AWG-LCA6,AWG-KP8(ドイツ) 
 9月   主要経済国フォーラム(MEF)(アメリカ)/国連気候変動サミット(アメリカ) /AWG-LCA7前半会合,AWG-KP9前半会合(タイ)
 11月  AWG-LCA7後半会合,AWG-KP9後半会合(スペイン)/アジア太平洋経済協力 機構(APEC)(シンガポール)
 12月  COP15,CMP5, AWG-LCA8,AWG-KP10(デンマーク)  

 読者のみなさんもぜひ関心を持って、これらの会議のニュースに注目してみて下さい。そうすれば、COPやCMPでの交渉がどのように進展していくかが、少しずつ見えてくると思います。また、これらのニュースに単に目をとめるだけでなく、自分自身ならCOPでどのような主張をするだろうかと考えてみること、自分の知っている情報を周りの人に伝えることだけでも、温暖化を防止するうえで大切な行動になるのです。
 市民一人一人の意識と行動こそが、地球を温暖化の危機から救うために無くてはならないものだからです。




※1:議定書の締約国の会合としての役割を果たす締約国会議(The Conference of the Parties serving as the meeting of the Parties to this Protocol)

※2:オバマ米大統領が2009年3月に立ち上げたフォーラム。主要国(G8)と中国、インド、ブラジル、メキシコ、南アフリカ、韓国など温室効果ガス排出量の多い計16 カ国と欧州連合(EU)で構成される。

国際交渉までの経緯

2009-10-16 16:32:07 | 地球温暖化交渉の基礎知識
■政治に影響を与える科学の知見

 地球温暖化はまさしく、地球上のあらゆる国に共通する問題です。それゆえ、1つの国だけが対策に取り組んだからといって、地球全体の温暖化の進行を食い止めることはできません。このような性格を持つ地球温暖化問題については、世界の国々の話し合い、つまり政治的な国際交渉によってその解決を図ることが必要です。
 しかし地球温暖化の主要な原因である二酸化炭素(CO2)は、エネルギー源を化石燃料に頼っていることからエネルギー関係から多く排出されます。地球温暖化問題はエネルギー問題でもあり、各国の社会経済システムやエネルギー政策に密接に関連し、鋭く利害が対立する問題です。
 また、新たな環境問題であるだけに、どうやって解決したらよいのか、どれくらい努力したらよいのか、誰がよりいっそう頑張るべきなのかということを決めるのも手探りのところがあります。
 何の情報もなしにただ話し合っていても埒があきません。これらのことを決めるためには、地球温暖化の原因やメカニズム、その影響や有効な対策などについての科学的な知見が不可欠です。こうした研究や分析を行っているのがIPCC で、これまで4回の評価報告書を発表しています。国際交渉は、IPCCなどの科学的知見を共通認識とした上で話し合いが行われています。
 ここでは、科学と政治がどのように係わりあって地球温暖化の国際交渉を進めているのかを見ていくことにしましょう。


■国際交渉までの経緯

 地球温暖化は前述の通り世界の国々で協力し合う必要があるため、国際政治のレベルで交渉を行って、解決策を模索しています。
 しかし、初めからそうだったわけではありません。科学者たちが地球温暖化の警鐘を鳴らしてから、それが国際交渉上の問題として取り上げられるようになるまでにどのような経緯をたどって来たのでしょうか。以下にそれに至るまでの重要な会議をまとめてみました。

1979 「世界気候会議」@ジェノバ
 世界気象機関(WMO)によって開催された会議で、初めて地球温暖化問題が議題として取り上げられた国際会議です。この時点では、地球温暖化問題は主に科学者の間のみで話し合われていましたが、この会議ではまだ地球が温暖化しているという共通認識で合意することはできませんでした

1985 「気候変動とその関連問題における二酸化炭素(CO2)およびその他の温室効果ガスの役割評価に関する国際会議(フィラハ会議)」@フィラハ/オーストリア
 CO2の増加に研究者の関心が高まってきたことを機に、国連環境計画(UNEP)が開催した会議。「21世紀前半には、地球の平均気温の上昇が人類未曾有の規模で起こり得る」という認識とともに「政治家や官僚などの政策決定者は、地球温暖化を防止するための対策を協力して始めなければならない」という宣言が出されました。地球温暖化が国際政治の問題として認識されるようになるきっかけとなった会議です。

1988 「変化する地球大気に関する国際会議(トロント会議)」@トロント/カナダ
 地球温暖化について、政治家と研究者が共に集まり話し合った初めての国際会議。この会議で初めて、「2005年までに88年レベルから20%削減」というCO2排出量の削減目標が数値として提唱されました。

1992 「国連環境開発会議(地球サミット)」@リオ・デ・ジャネイロ/ブラジル
 1989年12月22日、第44回国連総会は、「環境はますます悪化し、地球の生命維持システムが極度に破壊されつつある。このままいけば、地球の生態学的なバランスが崩れ、その生命をささえる特質が失われて生態学的なカタストロフィー(破局)が到来するだろう。私たちは、この事態を深く憂慮し、地球のこのバランスを守るには、断固たる、そして緊急の全地球的な行動が不可欠である。」と決議し、1992年にブラジルで地球サミットを開催することを決めました。そして、この地球サミットに向けて、地球温暖化問題を防止するための国際条約をつくる交渉が始められました。地球サミット直前の1992年5月、「国連気候変動枠組条約」が合意され、地球サミットで条約文言の確認である条約への署名が開始されました。地球温暖化問題は、この地球サミット以降、国際政治の主要な課題になっていきます。






「福田ビジョン」に対するCASA声明

2008-06-09 19:52:12 | お知らせ
期待を裏切った「福田ビジョン」

特定非営利活動法人 地球環境と大気汚染を考える全国市民会議(CASA)

 本日、福田首相は「『低炭素社会・日本』をめざして」と題する、G8洞爺湖サミットに向けた気候変動問題についての日本政府の基本的なポジションである、所謂「福田ビジョン」を発表した。

 この「福田ビジョン」は、「化石エネルギーへの依存を断ち切り、『将来の世代』のための『低炭素社会』へと大きく舵を切らねばならない」とし、日本の中長期目標や技術革新、排出量取引や税制改革などに言及している。
 長期目標については「日本としても、2050 年までに現状から60~80%の削減」を掲げているが、中期目標については明確な目標を掲げず、「長期エネルギー需給見通し」の2020年までに現状から14%の削減が可能だとの見通しを示しているに過ぎない。排出量取引については、「今年秋から試行的実施」を開始し、「本格導入する場合に必要となる条件、制度設計上の課題などを明らかにしたい」と述べるにとどまり、導入するかどうか、導入する場合の時期などについてはまったく明確にされていない。環境税については、さらに曖昧で、「国際社会が連携した地球環境税のあり方についても研究していく必要がある」とし、「真摯に総合的な検討を進めていくべき課題」とした今年3月に閣議決定された京都議定書目標達成計画より後退している。
 
 今回の洞爺湖サミットは、バリでの合意を受け、2013年以降の削減目標と制度枠組みの国際交渉に前向きのメッセージを発信することが焦点なっており、とりわけ先進国であるG8諸国が2020年までに1990年比で25~40%削減の中期目標に合意できるかどうかが問われている。サミット議長である福田首相には、そのためのリーダーシップが期待されている。

 残念ながら、今回の「福田ビジョン」はその期待を大きく裏切るものとなっている。このままでは洞爺湖サミットは、世界の市民・環境NGOの期待を裏切り、失敗と評価されることになる。

 洞爺湖サミットまで1 カ月を切った。早急に日本の具体的な中期目標を決定し、洞爺湖サミットで高い中期目標が合意されるようリーダーシップを発揮すべきである。

シンポジウム「オール電化と環境問題」開催

2008-06-05 23:29:57 | お知らせ
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シンポジウム「オール電化と環境問題」を開催します

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 オール電化住宅が急速に増えています。2008年3月末でオール電化住宅の契約件数は、全国で271万軒を超え、オール電化率は5.2%に達しています。CASAでは、2006年10月に「環境面からみたオール電化問題に関する提言(中間報告)」を公表し、その後、検討を進めてきましたが、今般、最終報告をまとめました。
 
 そこで、下記のような内容で「オール電化と環境問題」と題するシンポジウムを開催します。このシンポジウムでは、CO2ヒートポンプ式給湯機の稼動実態についての研究をされている広島大学名誉教授の村川三郎先生と環境省に報告をお願いし、オール電化について意見交換をします。

 ぜひご参加ください。


■内容 

 ○報告1 CASAの「環境面からみたオール電化問題に関する提言」について
      鈴 木 靖 文 (CASA理事)

 ○報告2 住宅におけるCO2ヒートポンプ式給湯機の稼動実態について
      村 川 三 郎 さん (広島大学名誉教授)

 ○報告3 京都議定書目標達成計画と高効率給湯器
      環 境 省
      
 ○パネルディスカッション


■日 時 2008年6月21日(土)午後1時~4時

■場 所 大阪歴史博物館(大阪市中央区大手前4丁目1-32 NHK横)
    地下鉄谷町線・中央線「谷町4丁目」

■資 料 代■  一般:1000円  CASA会員:500円

■お申込み■

*フォームに必要事項をご記入の上
all-denka@casa.bnet.jp までお送りください。

* 電話、FAXでも結構です。

*資料準備の都合上、前もってお申し込みいただいておりますが当日参加も大歓迎です。

*ご記入いただいた個人情報は、このシンポジウムにかかる連絡のみに使用し、厳重に管理いたします。

■お問合わせ先

 CASA  電話:06-6910-6301 FAX:06-6910-6302
      メール:office@casa.bnet.jp   

CD-ROM版資料集「地球温暖化」発売

2008-06-04 22:50:59 | お知らせ
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CD-ROM版資料集「地球温暖化」 発売のお知らせ

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CD-ROM版資料集「地球温暖化」が完成しました!

☆温暖化のしくみ・影響・国際交渉・対策についてやさしく解説!
☆IPCC第4次報告書などの最新情報が満載!
☆プレゼンや授業に使えるパワーポイントファイルも収録!

盛りだくさんな上記の内容を、1枚のCDに収録しています。

6月15日発売予定です。(市販はしていません)
ぜひご利用ください。


下記アドレスからサンプルをご覧になれます。

http://www.bnet.jp/casa/CDindex.htm

■価格:会員 3,000円(税込)  一般 4,000円(税込)


*お申し込みは、申し込みフォームにご記入の上、下記アドレスまで
 お送りください。 送付先:cd@casa.bnet.jp
(上記サイトに申込書もアップしています)

2℃をこえると海面水位が著しく上昇する

2006-09-05 17:56:01 | 2℃
◆海面水位上昇の沿岸地域への影響

 地球温暖化が進むと、海水が膨張し、また山岳氷河、雪原、氷床などがとけることによって海面水位が上昇します。IPCCの第三次報告によれば、海面水位は20世紀の間にすでに10~20cm(年平均1~2mm)上昇しましたが、このままいけば気温の上昇が2℃をこえるとみられる2040年前後には同水位がさらに5~20cm程度高くなると予測されています。年平均では1.3~5mmの上昇になります。なお、この水位上昇の原因として海水の膨張が約60%、山岳氷河と雪原の融解が約30%、またグリーンランドの氷床の融解(消失)が約10%を占めると考えられています。
 さて、海面水位の上昇がのべ40cmにも達すると、沿岸地域では陸地の水没や浸食、地下水の塩水化などが著しくなり、住民の生活や農業に悪影響をおよぼします。バングラデシュ、中国、インドネシア、エジプトなどで顕著な被害が生ずるとみられます。わが国でも、水位が今後30cm上昇すると砂浜の57%が消失すると推算されています。


◆押しよせる高潮と加速する水位上昇

 しかし、海面水位の上昇によってもっとも大きな打撃を受けるのは、南太平洋のキリバス、ツバル、西サモア、インド洋のモルジブなどの小さな島国です。国の大部分が低地であり、それらの多くが水没するおそれがあるので危機は深刻です。たとえばツバルの海抜は平均1.6mですが、近年、水位の高まりと関連して1.5mにもおよぶ高潮がしばしば全土に押しよせて、いたるところで洪水をひきおこしていると報じられています(Nature 2006年4月6日号参照)。
 ところでIPCCの報告以後にも、フランスの国立宇宙研究センターが人工衛星による海面水位測定データを公表していますが、それによると水位は1993~98年の5年間に年平均3.2mm上昇しました(Science 2001年10月26日号参照)。またアメリカのマサチューセッツ工科大学のエマニュエル教授によれば、1995~2005年の10年間に海面水位は年平均3.6mm上昇したとのことです(Chem. Eng. News 2005年11月28日号参照)。これらのデータは、最近の水位上昇が急ピッチで進みつつあり、IPCCの高い方の予測値またはそれ以上の水位レベルが現実化する可能性も否定できないことを示しています。


◆グリーンランドの氷床がじりじりと減少

 海面水位の上昇がこのように加速されてきた原因として、グリーンランドの氷床が最近これまでの予測をこえるテンポで海へとけだしていることが指摘されています。グリーンランドは、全土(約218万km2)の70~80%が多くの氷河を含む氷床(厚さが平均1.6km)でおおわれています。夏期には表面(とくに周辺部)の氷が一部とけて海へ流れだすのが多くなり、氷床の面積がやや縮小します。また流水の影響を受けて、氷河の巨大な氷塊が沿岸部に移動し、氷山として海へ放出されるのも多くなります。
 しかし冬期には降雪が増加して氷の消失分を補充するので、氷床の面積もほぼ元に戻ります。こうして古くから氷床全体としての増減はあまり見られない状態がずっと続いていました。ただし、温暖化がこのまま進むと今世紀の前半には氷の消失分が降雪量をうわまわるようになり、前述のように海面水位への影響がスタートすると考えられていました。
 ところがカリフォルニア工科大学などの最新の研究報告によれば、この変化はわずかながらすでに20世紀の末頃から始まっており、今世紀に入るとその傾向がますます目立ってきたようです。まず夏期の氷床面積の縮小が最近顕著になり、2002年には記録を更新しました。図にこの様子を1992年と比較して示します。

またおもな氷河の流速(氷塊の移動速度)が過去5年の間にほぼ2倍になり、氷山の放出による氷床の年間消失量も過去9年の間におよそ3倍に増大しました(Science 2006年2月17日号参照)。このようなグリーンランドの氷河の流速増大は、これまでの水位予測モデルではまだ考慮されていなかったものですが、この氷河からの氷床の消失が表面からの融解による分よりもはるかに多いので、気温上昇が2℃をこえたときの海面水位がどこまで高まるかはまったく予断を許さない状況です。

日本のCO2排出構造をさぐる-石炭火発(2/4)

2006-08-10 18:19:05 | 温室効果ガス
◆シグマパワーの石炭火力発電中止に

 東芝とオリックスが出資する「シグマパワー」が山口県に計画していた石炭火力発電所が中止になりました。この石炭火力発電所「シグマパワー山口」は設備容量100万kWの大型石炭火力発電所で、仮に運転されていたとしたら年間582万トンのCO2排出と予想されていました。582万トンは、日本全体のCO2排出量の0.5%ですが、京都議定書目標達成計画で電力部門が削減すべき分とされている量の26%に相当する排出量です。

 シグマパワーは、環境省の警告や世論の反対もあって中止されましたが、石炭を燃料とする火力発電所は次々を建設され、また建設が計画されています。電力以外でも、電力自由化に伴い、神戸製鋼のように石炭火力発電所を稼動させ、その電力を販売しているところもあります。


◆CO2増加の主因、石炭火力発電所

 火力発電所で発電をするのに、燃料が違えばCO2排出量も全く異なります。効率にもよりますが、CO2排出量の比は石炭と石油と天然ガスとではおよそ9:7:5になり、石炭を燃料として使うのと、天然ガスを使うのでは、石炭では約2倍のCO2を排出します。

 同じ発電量でCO2が半分なら、天然ガスを選べばいいのですが、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の第1次評価報告書が発表され、気候変動枠組条約の交渉が開始された1990年以降も、日本の電力会社はCO2排出量の多い石炭火力発電所の建設を進めてきました。現在、2400万kWという大型原発24基分の石炭火力発電所が建設されています。一部の石炭発電所は、石油発電所や天然ガス発電所であったものを、2000年以降わざわざ燃料を石炭に転換してCO2の排出を大幅に増やしてしまいました。

また、発電所の稼働率をみても、CO2の排出の少ない天然ガス火力発電は40~50%であるのに対して、石炭火力発電の多くは70~80%とほぼフル稼働状態になっています。これらのことから電力会社は明らかに火力発電の中でも、特に石炭重視の運用をしていることがわかります。

 この結果、石炭火力発電所からのCO2排出量は、1990年以降に建設されたり転換されたものだけで1億3千万トンに上り、これは1990年の日本全体のCO2排出量のおよそ12%にあたります。これはちょうど、日本が1990年以降に増加させてしまったCO2量排出量に当たります。


◆なぜこんなに石炭火力発電所増加したのか?

  温暖化防止に逆行するような石炭火力発電所の建設が進められたのは、石炭が他の燃料より安く、税制の面でも国がそれを優遇してきたからです。石炭はもともと国際価格も石油や天然ガスの半分以下の値段でした。加えてわが国では、長年石油や天然ガスにはかけてきた石油税を、石炭にはかけず、もともと安い輸入石炭の価格を石油・天然ガスより大幅に安いままで放置し、事実上優遇していました。図2のように、石炭にかかる税金は今でも石油や天然ガスより安くなっています。
さらに発電所を建てた自治体に対して国が交付金を出すという政策も、石炭火力の増加を後押しをしたといえます。

 排出割合から見ても発電部門は、日本のCO2排出量の4分の1を占める大排出源であり、地球温暖化防止のためには発電部門の排出削減が極めて重要です。しかし政府は、産業界の削減については、産業界の自主計画まかせで、排出量の最も少ない技術や燃料の選択を法制度で規定するような政策は行いませんでした。電力部門もどのような削減対策をとるかは電力会社に任されています。こうしたことから、コストの安い石炭火力発電所の建設が進められ、高い稼働率で運転されるようになり、残念ながら今もその状態が続いています。

日本のCO2排出構造をさぐる(1/4)

2006-07-30 21:45:26 | 温室効果ガス
◆日本のCO2はどこから

 温暖化対策について考える場合、CO2の大きな排出源がどこであるかを知ることが大切です。
 図1は、環境省の発表している、部門別のCO2排出割合を示す円グラフです。二重になっている円の内側の円は実際に化石燃料をもやして、直接CO2を出している各部門のCO2排出割合を表しています。図から発電所と工場、運輸が大きいことがわかります。外側の円は発電所で作った電気を各分野ごとに使っている量に応じて振り分けたものです。これは日本独自の統計です。内側の円の統計の方が、どこが大口排出源かがはっきりします。
 気候変動枠組条約や京都議定書の統計、EUなどはこの内側の円の統計の取り方でなされています。外側の円は「電気を使う人に責任がある」と発想で作られたもので、一見もっともらしいですが、この計算方法だと、例えば発電所が発電に天然ガスを使っていたのを、よりCO2排出量の多い石炭に替えた場合、使用している電気量としては削減していても、工場やオフィスや家庭の増加としてカウントされてしまう矛盾も生じてしまいます。こうなると明らかに削減義務の所在が不明確になってしまいます。


◆超大口を探る

 さて、大口排出源がどうなっているかを、気候ネットワークが、発電所や工場などが省エネ法に基づき国に届け出ている燃料消費量などを情報開示請求して推定しました。
 発電所や製油所などの「エネルギー転換部門」と、製鉄所や化学工場などの工場がメインの「産業部門」で日本のCO2の3分の2を占めており、なかには1事業所で1000万トン(家庭300万世帯分に相当)も出すような超大口排出工場・発電所もあります。何と、約180の工場と発電所だけで、日本のCO2排出量の半分を占めています。しかも、このなかにはCO2排出の多い石炭を燃料とする発電所や、効率が悪くより多くCO2を排出している工場も多く含まれています。
 こうした発電所や工場をもつ、企業にしたら数十の会社が、発電所の燃料源をCO2排出の少ない天然ガスに変えたり、工場の効率を改善することで、日本の6%削減は達成可能なのです。


◆残りの3分の1は・・・

 日本のCO2排出量の3分の1は、運輸、業務(オフィス、商店など)、家庭から排出されています。この中では運輸部門が多くなっています。運輸部門の9割はクルマです。交通機関の中でも、クルマや飛行機は、人や荷物を同じ距離運ぶのに、鉄道や船舶よりはるかに多くのCO2を排出します。例えば、1トンの荷物を1キロ運ぶのに、飛行機は鉄道輸送の70倍、営業用トラックの8倍のCO2を排出するとのデータもあります。このクルマと飛行機の割合が増え、しかもクルマの効率が悪化しているのが問題です。

2℃をこえると健康障害のリスクが激増する

2006-07-20 18:11:36 | 2℃
◆温暖化によるさまざまな健康破壊

 地球温暖化は私たちの健康と生命に対してどのような影響をおよぼすでしょうか。これには直接的なものと間接的なものの2つが考えられます。直接影響としてもっとも分かりやすいのが気温の上昇による熱射病(熱中症)の増加です。夏がますます暑くなるのでこれは当然のことでしょう。また洪水、暴風雨、干ばつなどの多発が死傷者を直接増加させるのも無視できません。
 つぎに、間接影響の中でもっとも心配されているのが疫病(感染症)のまんえんです。これは、気温が上昇するとマラリア、デング熱などを媒介する生物(蚊など)の繁殖が活発になり、その地域分布も広がることに由来します。また農業生産が低下して食糧が不足し、栄養不良の人が増加します。さらに気温の上昇で光化学スモッグが多発すると共に、水不足が衛生状態を悪化させるので、それらの被害を受ける人も多くなります。図に、このような健康破壊の全体像をまとめて示します。


◆温暖化によって毎年 16万人以上が死亡

 世界保健機関(WHO)は、最近温暖化に由来するいくつかの原因(酷暑、洪水、マラリア、食糧不足など)によって生じた健康障害のデータを調査し、世界の 14地域ごとに 2000年の時点の年間推定死亡者数および傷病者数(患者数)を公表しました(Nature 2005年11月17日号参照)。それらの総計は死亡者数が 16万6000人、また患者数が 552万人に達しています。地域的にはアジアとアフリカの発展途上国の被害が目立ちます。またWHOは、温暖化がこのまま進んだ場合の 2030年における同健康障害のリスクをも算出し、これが全体として現在の2倍以上に増大すると予測しました。


◆洪水の死傷者は 2030年に2~6倍に

 これらの公表値のうち、酷暑による影響については、心血管系の障害で死亡した事例のみが年間 12000人と推算されています。これに他の障害による死亡事例や病気になった人の数を加えると、かなりの被害がすでに生じているとみられます。2003年の夏に酷暑のフランスで約15000人が熱中症などで死亡した経緯がそのことを端的に示しています。また洪水による年間の死亡者と傷病者はそれぞれ 2000人および 19万3000人と推算され、これらが 2030年には2~6倍に増加すると予測されています。これに暴風雨や干ばつの影響を加えると被害の現実と予測はさらに大きくなるでしょう。


◆3億人にマラリア感染の危険が広がる

 一方、温暖化に由来するマラリアの広がりが 2000年に生みだした死亡者は 27000人、また感染患者は 102万人と推算され、これらが 2030年には最高 1.5倍に増加すると予測されています。1990年代に入って従来の流行地域(熱帯と亜熱帯)よりも緯度が高い地方(カナダ、南ヨーロッパなど)やアフリカの高地で感染する事例が増えてきたことがこれらのデータを裏づけています。現在、マラリア流行地域に居住する人口は約24億人ですが、気候行動ネットワーク(CAN)の報告によれば、2~3℃の気温上昇で3億人があらたに感染の危険にさらされます。


◆デング熱やコレラのリスクも増大

 マラリア以外の感染症としては、デング熱、黄熱病、住血吸虫病などがやはり温暖化によって流行地域を広げます。デング熱はすでに中南米で多発する傾向を示しています。また 2002年にアメリカで大流行した西ナイル熱や最近世界各地で頻発しているコレラも今後の動向が気がかりな感染症です。WHOのデータでは、コレラなどによる下痢で死亡した人と同患者が年間それぞれ 47000人および 146万人と推算されており、栄養不良にもとづく 77000人の死亡者および 285万人の患者と共に、この調査の中では大きなウエイトを占めています。
 以上のように、温暖化による健康障害は 2000年の段階ですでに無視できないレベルに達しており、しかもこれが早くも 2030年までに倍増すると見込まれています。したがって、2℃をこえる 2040年前後のリスクはきわめて高く、たえがたいものとなることはまちがいないでしょう。

2℃をこえると水不足が大幅に広がる

2006-06-26 18:46:56 | 2℃
◆淡水資源はきわめて大切

 地球上には大量(約14億立方キロメートル)の水が存在しますが、このうち淡水は2.5%であり、さらにその中で私たちが生活用水、農業用水および工業用水として容易に利用可能な水(極地の氷や大部分の地下水を除いたもの)は250分の1(全体の0.01%)にすぎません。
 このように淡水資源はきわめて大切なものですが、それが地球上にかならずしも均等に分布していないので、現在、世界人口の約1割の人びとが水不足の生活を余儀なくされています。水不足とは、1人あたりの年間供給可能水量が1700立方メートル以下の状態を意味します。

◆氷雪に依存する地域は温暖化の影響が深刻

 さて、地球温暖化が進み、地表の気温が上昇すると、水の循環が活発になって淡水資源の分布が大幅に変化します。
 たとえば、水の蒸発量のみが増えて降水量が増加しない地域では乾燥が進み、水不足や干ばつが生じます。これは大陸内部で多く見られるでしょう。とくに山岳部の雪や氷が春から夏にかけてすこしずつ融けて流水になるのをもっぱら利用している地域では、温暖化による影響が深刻です。すなわち、気温が上昇して雪原が縮小し、氷河が後退すると、利用できる水の総量が減少し、水不足を招きます。またこれまでよりも暖かくなった早春に多くの氷雪が一挙に融けて流出するので、需要が高まる夏から秋にかけて利用できる水の量が激減します。

◆2℃の上昇で10億人に水不足が広がる

 最近アメリカのワシントン大学などの研究者が、中緯度と高緯度に分布するそのような地域について、温暖化が今のままのテンポで進んだ場合の変化をシミュレートし、2℃の気温上昇が見込まれる数十年後に、10億人をこえる人びとが居住する中国西部、インド北西部、ヨーロッパ中央部、アメリカ西部などで、あらたに深刻な水不足が生ずると予測しました。
 一方、アメリカ海洋大気局(NOAA)も類似の研究によって、アフリカ南部、中東、ヨーロッパ南部、北米西部の中緯度地域などで、利用可能な淡水資源が2050年までに10~30%減少すると予測しています(両予測共に Nature 2005年11月17日号参照)。

◆氷河の急速な後退と水問題の深刻化

 これらの予測は、世界中の氷河が急ピッチで後退しつつある現実を見ても理解しやすいでしょう。たとえばアラスカの氷河は、その後退速度が過去10年の間に3倍に増加し、とくにベーリング氷河は、すでに10数キロメートル後退しました(Scientific American 2003年10月号参照)。またWWFの報告によれば、アルプスの氷河の体積が1850年とくらべてすでに半分に減少しているそうです。
 なお水問題については、このまま温暖化が進めば早くも2021~30年にアフリカの北部と南部、西アジア、アラビア半島、オーストラリア北東部、北米南西部および南米中央部で水不足が悪化するとの予測も公表されています(Ambio 32巻4号(2003年)参照)。また人口の増加や水汚染の広がりによる影響も含めて、水不足が2025年に世界人口の4割近くの人びとにまで広がる可能性も指摘されており(Nature 2003年3月20日号参照)、今後の推移がきわめて憂慮されます。